説明

多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法および多焦点レンズの製造方法

【課題】近用部を明確に判別可能な多焦点レンズを製造するための手段を提供すること。
【解決手段】対向する2つの面の少なくとも一方の面に、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法。ガラスモールド母材の一方の面(被研磨面)と研磨治具先端面との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら被研磨面と研磨治具先端面とを相対的に移動させることにより上記被研磨面を研磨し、該被研磨面上に前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成することを含み、かつ、前記研磨治具として、その先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ上記先端面に上記繊維糸の断面が露出している研磨治具を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法に関するものであり、詳しくは、近用部の確認が容易な多焦点レンズを製造可能な多焦点レンズ用ガラスモールドの製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記方法により製造されたガラスモールドを使用し、注型重合により多焦点レンズを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一枚のレンズを遠用部(遠方視部)と近用部(近方視部)とに分け、2つの異なる度数を持たせたものを二重焦点レンズという。更に、遠用、近用、それらの中間の3種類の異なる度数を持たせたものを三重焦点レンズという。これらレンズは、多焦点レンズと呼ばれ、製造方法により、融着型、ワンピース型の二種類に大別されている(例えば特許文献1参照)。融着型多焦点レンズは、台玉ガラスレンズと、その一部に埋め込まれた台玉ガラスレンズとは屈折率の異なる小玉ガラスレンズとを熱軟化により融着させることにより作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−301065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、ワンピース型多焦点レンズは通常、少なくとも一方の面の一部に突出部(近用部)を設けることにより、遠用部(台玉とも呼ばれる)と近用部(小玉とも呼ばれる)とを持たせた多焦点レンズである。ワンピース型二重焦点レンズの上面図の一例を、図1に示す。図1には、ラウンドタイプの小玉を示したが、多焦点レンズの小玉は、図2に示すように、(a)ラウンドタイプ、(b)カーブドトップタイプ、(c)ストレートトップタイプなど、種々の形状を取ることができる。
【0005】
このように一方の面に突出部を有するレンズを作製するためには注型重合法を採用することができる。注型重合法によりラウンドタイプの小玉を有する多焦点レンズを成形するためには、小玉形状に対応する凹部を有するガラスモールドを使用する。このようなガラスモールドは、図3(a)、(b)に示すようにガラスモールド母材の一方の面を研磨することにより作製することができる。カーブドトップタイプ、ストレートトップタイプの小玉を有する多焦点レンズ用のガラスモールドは、図3(c)に示すように、研磨により形成した凹部の一部にガラス片を熱軟化等により融着させ凹部の一部を埋めることにより作製することができる。
【0006】
従来、上記凹部を形成するためには、例えば、不織布またはスエードからなる研磨パットが使用されていた。しかし、上記研磨パットを使用した研磨処理により凹部を形成したモールドを使用して多焦点レンズを製造すると、得られた多焦点レンズにおいて、近用部と遠用部との境界が不鮮明になる現象が見られる。近用部の境界は、装用状態で、どこからが加入屈折力部分であるかを識別する上で重要な役割を果たす。また、多焦点レンズのユーザーは、目視により近用部を明確に識別可能であるという点を、累進屈折力レンズにはない多焦点レンズの利点として捉え、多焦点レンズを選択する傾向がある。したがって、近用部と遠用部との境界が明確ではないことは、ユーザーが多焦点レンズを選択する主たる理由を喪失しかねない状況となる。
【0007】
そこで本発明の目的は、近用部を明確に判別可能な多焦点レンズを製造するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、ガラスモールド母材の研磨ツールとして、先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ先端面に繊維糸の断面が露出している研磨治具を使用することにより、遠用部と近用部との境界が明確な多焦点レンズを製造可能なガラスモールドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]対向する2つの面の少なくとも一方の面に、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法であって、
ガラスモールド母材の一方の面(以下、「被研磨面」という)と研磨治具先端面との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら被研磨面と研磨治具先端面とを相対的に移動させることにより上記被研磨面を研磨し、該被研磨面上に前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成することを含み、かつ、
前記研磨治具として、その先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ上記先端面に上記繊維糸の断面が露出している研磨治具を使用することを特徴とする、前記製造方法。
[2]前記繊維糸は、前記先端面に対して略垂直に配置されている[1]に記載の製造方法。
[3]前記樹脂は、繊維束を含むフェノール樹脂である[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記先端面は、形成される凹部と略同一の曲率半径を有する曲面を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記繊維糸の直径は、0.2〜2mmの範囲である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記繊維は、天然繊維である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記先端面は、中心線平均粗さRaが0.1〜5μmの範囲である[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の方法によりガラスモールドを作製すること、
作製したガラスモールドを含む一対のガラスモールドを所定の間隔をもって対向するように配置し、かつ上記間隔を閉塞することによりキャビティを形成すること、ここで前記一対のガラスモールドの配置を、前記凹部がキャビティ内部に位置するように行い、
前記キャビティ内に硬化性成分を含むレンズ原料液を注入し、該キャビティ内で前記硬化性成分の硬化反応を行うことにより、対向する2つの面の少なくとも一方の面に、前記凹部を含むガラスモールドの面形状が転写されたレンズ形状の成形体を得ること、
を含む、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、近用部を明確に判別可能な多焦点レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ワンピース型二重焦点レンズの上面図の一例を示す。
【図2】小玉形状の具体例を示す。
【図3】注型重合法により多焦点レンズを成形するために使用されるガラスモールド作製方法の説明図である。
【図4】注型重合法で使用可能なレンズ鋳型の概略図である。
【図5】近用部形成用凹部を有する凹面型の一例(断面図)を示す。
【図6】研磨治具の概略図を示す。
【図7】研磨治具の作製方法の一例を示す説明図である。
【図8】研磨治具先端面の加工方法の一例を示す。
【図9】凹部形成方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ガラスモールドの製造方法]
本発明は、対向する2つの面の少なくとも一方の面に、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法(以下、「本発明のモールド製造方法」ともいう)に関する。本発明のモールド製造方法は、ガラスモールド母材の一方の面(被研磨面)と研磨治具先端面との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら被研磨面と研磨治具先端面とを相対的に移動させることにより上記被研磨面を研磨し、該被研磨面上に前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成する(以下、上記工程を「研磨工程」という)。本発明のモールド製造方法では、この研磨工程において使用する研磨治具として、その先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ上記先端面に上記繊維糸の断面が露出している研磨治具を使用する。
【0013】
図4に、注型重合法で使用可能なレンズ鋳型の概略図を示す。図4中、レンズ鋳型10は、レンズの前面(凸面)を形成すべく凹面側に成形面を有する凹面型である第一モールド11、レンズの後面(凹面)を形成すべく凸面側に成形面を有する凸面側に成形面を有する第二モールド12、および円筒状のガスケット13が両モールドの端面を取り囲むことによって内部にキャビティ14が形成されている。キャビティ14には、注入部15からレンズ原料液が注入される。第一モールドおよび第二モールドは、製造治具にて取り扱い可能な非転写面(非使用面17)とレンズの光学表面を転写させるための転写面(使用面16)を有する。使用面16はレンズの光学面形状および表面状態を転写する面である。第一モールド11、第2モールド12の少なくとも一方の使用面16上が凹部を有すると、このキャビティ内へレンズ原料液を注入し硬化させることにより、上記凹部に対応する部分が突出部(近用部)となった多焦点レンズを得ることができる。多焦点レンズでは、通常近用部は凸面側に設けられるため、凹面型(図4中の第一モールド11)の使用面に凹部が形成されることが多い。したがって本発明により製造されるモールドも、使用面に凹部が形成された凹面型であることができる。
【0014】
図5に、近用部形成用凹部を有する凹面型の一例(断面図)を示す。図5中の点線で囲んだ凹部のエッジ部分が丸くなるほど、成形されるレンズ表面上での近用部(突出部)の立ち上がりがなだらかになるので近用部と遠用部との境界が不明確になり、目視や投影検査において近用部の位置や大きさを確認することが困難になる。本願発明者が検討したところ、研磨パットを使用する研磨処理において、研磨パットが軟らかいほどエッジ部分が丸くなる現象が見られた。これは研磨パットが軟らかいためエッジ部分の一部が研磨パット中に埋没してしまうことに起因すると考えられる。
そこでシャープなエッジ部分を形成するために研磨パットとして硬い素材のものを使用したところ、所望の形状の凹部を形成することができなかった。これは、形成しようとする凹部に対応する曲面(凸面)に加工された先端面を有する研磨棒に研磨パットを貼り付けようとしたが研磨パットが硬いため曲面に貼り付けることができなかったからである。
【0015】
以上の知見に基づき本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、その先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ先端面に上記繊維糸の断面が露出している治具を研磨治具として使用することにより、ガラスモールド上にシャープなエッジ部を有する凹部を形成することができ、これにより近用部を明確に識別可能な多焦点レンズが得られることを新たに見出した。これは、以下の理由によると推察される。
前記したように研磨パッドは高硬度であると曲面に貼り付けることが困難になるが、先端が樹脂製の研磨治具であれば強度が高く、しかも射出成形等の公知の成形方法または研磨等の公知の加工法により所望の曲率を有する曲面に加工することができる。ただし単なる樹脂は一般に平滑性が高いため、研磨時に被研磨面と研磨治具先端面との間に供給されるスラリー中の研磨砥粒が研磨治具先端面上に十分保持されず、研磨を良好に行うことは困難である。そこで砥粒の保持性を高めるために研磨治具の先端面を適度に粗くすることが考えられる。しかし樹脂は一般に脆いため、先端面に粗面化処理を施し砥粒を保持し得る微小な凹凸を形成したとしても、研磨時の砥粒との接触によって凹凸が削られ平坦化されてしまう。これに対し、上記のように繊維糸を含む樹脂からなる先端を有する研磨治具は、先端面に露出した繊維糸断面に砥粒が絡まることにより先端面上に砥粒を保持することができる。また、線維糸による凹凸であれば砥粒によって大きく削られることもない。このことが、上記のように繊維糸を含む樹脂からなる先端を有する研磨治具により、ガラスモールドの被研磨面上にシャープなエッジ部を有する凹部を形成することができる理由と考えられる。
以下、本発明のモールド製造方法について、更に詳細に説明する。
【0016】
研磨治具
本発明のモールド製造方法において使用される研磨治具は、ガラスモールド母材面上に凹部を形成し、凹部を有するガラスモールドを得るための研磨工程に使用されるものである。上記凹部の形状は成形すべきレンズの設計値に応じて決定されるものである。所望の凹部を形成するためには、研磨治具先端面は凸面を含むことが好ましく、形成される凹部と略同一の曲率半径を有する曲面を凸面として含むことがより好ましい。ここで略同一とは、曲率半径が±15%程度異なることを含むものとする。
また、研磨治具先端面の曲率半径が形成される凹部の曲率半径と同一でない場合には、形成される凹部の曲率半径よりも大きいこと、すなわち研磨治具先端面のカーブが形成される凹部のカーブより浅いことが好ましい。これは、深いカーブの凸面で浅いカーブの凹面を形成しようとすると凹部の中央部の研磨量が多くなりシャープなエッジ部分を形成することが難しい場合があるからである。
なお、多焦点レンズの種類にもよるが、一般的な多焦点レンズの近用部を形成するための凹部の外径は30〜50mm程度であり、このような凹部を形成するための研磨治具先端の外径は20〜40mm程度であることが好ましい。
【0017】
図6に、研磨治具の概略図を示す。図6上図は研磨治具先端面の上面図であり、図6下図は研磨治具の断面図である。図6に示す研磨治具は、先端部が複数本の繊維糸(繊維束)を含む樹脂製であり、支持部によって支持されている。例えば図7に示すように支持部側にねじ部、先端部下面にねじ穴を設け、支持部および/または先端部を回転させながらねじ部をねじ穴に挿入し連結させることにより、先端部と支持部から構成される研磨治具を作製することができる。先端部を支持する支持部の材質は特に限定されるものではなく、各種の樹脂や金属製であることができる。ただし本発明で使用する研磨治具は上記態様のものに限定されず、繊維糸を含む樹脂製の棒状部材をそのまま研磨治具として使用することももちろん可能である。
【0018】
図6下図に点線で模式的に示すように、研磨治具の先端部を構成する樹脂には繊維糸が含まれており、これら繊維糸は、図6上図に上面図の一例を示すように、研磨治具の先端面に断面が露出している。このような状態で線維糸を含むことにより、先に説明したように研磨砥粒の保持力を高めることが可能になる。これら繊維糸は、先端面に対して略垂直に配置されていてもよく平行に配置されていてもよいが、研磨時に研磨治具先端に加わる力に耐え得る高い強度を得る観点からは、先端面に対して略垂直に配置されている繊維糸が含まれる樹脂を用いることが好ましい。ここで「先端面に対して略垂直に配置されている」とは、先端面に向かう方向(長手方向)に配置され、先端面とは平行ではないことをいう。ただし上記樹脂は、先端面に対して略垂直に配置された状態以外の線維糸を含むことも、もちろん可能である。例えば三次元的に網目状に線維糸が配置されており、それらの中に先端面に対して略垂直に配置された状態で配置された線維糸が含まれた樹脂を使用することもできる。
【0019】
上記繊維糸は、単糸であってもよく、複数本の単糸を撚り合わせた撚糸であってもよい。研磨治具先端面での砥粒の保持力の点からは、砥粒が絡まりやすいため撚糸が好ましい。また、繊維糸としては、綿、麻、毛、絹、テンセル等のセルロース繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、トリアセテート、プロミックス、アクリル、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリウレタン等の各種合成繊維糸および天然繊維糸を用いることができる。天然繊維は、一般に断面および側面に適度な粗さを有し、砥粒の保持力に優れる。したがって研磨治具先端面での砥粒の保持力の点からは天然繊維が好ましく、綿および麻がより好ましい。
【0020】
図6上図に示す例では、繊維糸は先端面にランダムに配置されているが、線維糸の配置の態様は特に限定されるものではなく、格子状に配置してもよく同心円状に配置してもよい。繊維糸の断面は、先端面の一部、例えば中心部または周辺部のみに配置されていてもよいが、砥粒を保持力の点からは全面に配置されていることが好ましい。繊維糸が多いほど砥粒の保持の点では好ましいが樹脂部分が少なくなり研磨治具の耐久性は低下する。砥粒の保持力と耐久性を両立する観点からは、繊維糸の断面が平均1〜2mm程度の間隔をもって先端面に配置されていることが好ましい。
【0021】
繊維糸の断面形状は、図6上図に示す円形に限定されるものではなく、楕円形、多角形等の各種形状であることができる。繊維糸の断面形状は砥粒の粒径より大きいことが好ましい。これにより砥粒を繊維糸の断面で保持することができる。砥粒の大きさにもよるが、繊維糸の断面が円形の場合、その直径は0.2〜2mm程度が好ましい。楕円形の場合の長径、多角形の場合の一辺の長さも同様に0.2〜2mm程度が好ましい。樹脂に含まれる線維糸の本数は特に限定されるものではないが、上記好ましいサイズを有する繊維糸を、上記好ましい間隔で配置できる本数であることが好ましい。また、繊維糸は、少なくともその断面が先端面に露出していれば砥粒を保持する効果を発揮することができるが、繊維糸の先端が研磨治具先端面から突出していてもよい。これにより繊維糸の断面のみならず突出した先端の側面も砥粒の保持に寄与し得る。ただし突出量が多すぎると研磨中に突出した繊維糸が研磨治具先端面上から砥粒を掃きだしてしまい研磨効率が低下する場合がある。したがって繊維糸の突出量は過度に多くないことが好ましい。この観点から研磨治具先端面からの繊維糸の突出長さは0〜2mm程度であることが好ましく、0〜0.5mm程度であることが特に好ましい。
【0022】
研磨治具の先端を構成する樹脂は、樹脂と繊維糸が一体化した、いわゆる繊維補強樹脂(布入り樹脂とも呼ばれる)であることができる。ただし繊維補強樹脂であることは必須ではなく、繊維糸の外周部と樹脂とが密着せず、樹脂に設けられた縦穴内に縦穴の内周と離間した状態で繊維糸が配置されていてもよい。
【0023】
上記繊維糸を含む樹脂の樹脂部分としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂;UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン (PS)、ポリ酢酸ビニル (PVAc)、テフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂 (PMMA)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール (POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート (GF-PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等の各種熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂等の公知の樹脂を用いることができる。また上記樹脂の複合材料なども好適である。上記樹脂としては、研磨治具の耐久性および研磨効率の点から、砥粒よりも高硬度であって研磨工程において砥粒との接触により容易に削れないものを使用することが好ましい。この点から好ましい樹脂としては、ベークライト等のフェノール樹脂およびデルリン(登録商標)等のポリアセタール樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。
【0024】
本発明において研磨治具先端を構成する樹脂としては、市販の布入り樹脂および繊維強化樹脂を使用することができる。好適な繊維強化樹脂としては、布入りベークライト、布ベーク等の商品名で市販されている繊維強化ベークライトを挙げることができる。また、公知の方法で繊維糸を内包させた樹脂を作製し、これを使用することもできる。
【0025】
研磨治具は、射出成形等の公知の成形法により所望形状の先端面を有する樹脂製の棒状部材としたものをそのまま使用することができる。または、樹脂製の棒状部材の先端に研磨処理等の機械加工を施し所望形状の先端面を形成することもできる。
【0026】
図8に、研磨治具の先端面加工方法の一例を示す。本発明では、図8に示すように、研磨皿の底面に研磨スラリーを塗布した後に金属皿底面と樹脂製の棒状部材(樹脂棒)の先端とを前後左右に、適宜回転させながらすり合わせることにより樹脂棒の先端を曲面に加工したものを研磨治具として使用することができる。具体的には、例えば、研磨皿底面上にクレンザーを適量載せ、その上に水を数滴加えてスラリー状にした後に、研磨皿底面と樹脂棒先端とをすり合わせることにより、研磨治具先端を加工することができる。研磨皿としては、通常研磨ツールのドレッシングに使用される金属皿の底面をガラスモールド上に形成すべき凹面と略同一の曲率に加工したものを使用することができる。このように加工した底面と樹脂棒先端とを研磨スラリーを介してすり合わせることにより、樹脂棒先端をガラスモールド上に形成すべき凹面と略同一の曲率の凸面に加工することができる。
上記加工後、先端面に水洗またはタワシ、スポンジ等による擦り洗い等を施し、先端面に付着した研磨スラリーや研磨屑を除去することが好ましい。先端面に研磨スラリーや研磨屑が付着したままでは、研磨工程でキズ発生の原因となる場合があるからである。先端面の表面粗さは、形成する凹部表面を鏡面に加工するためには、中心面平均粗さRaとして、0.1〜5μmの範囲であることが好ましい。
【0027】
凹部の形成
次に、前記研磨治具を使用しガラスモールド母材面上に、近用部の表面形状に対応する形状の凹部を形成する研磨工程の詳細を説明する。
【0028】
ガラスモールド母材としては、例えば図3上図に示すように一方が凹面、他方が凸面のメニスカス形状にガラスを加工したものを使用することができる。ガラスモールド母材は、例えば熱垂下成形法等の公知のガラス成形法により作製することができる。または、ガラス素材に対し、ガラス加工に通常用いられる研削、研磨および/または切削装置による面形状加工を施すことにより得ることができる。ガラスモールド母材の加工形状は、所望の多焦点レンズの形状および光学特性に応じて決定することができる。ガラスモールド母材を構成するガラス素材としては、例えば、クラウン系、フリント系、バリウム系、リン酸塩系、フッ素含有系、フツリン酸系等のガラスを挙げることができる。ただしこれらに限定されるものではない。またガラス素材の他の特徴としては、以下に限定されるものではないが、例えば熱的性質は、歪点450〜480℃、除冷点480〜621℃、軟化点610〜770℃、ガラス転移温度(Tg)が450〜620℃、屈伏点(Ts)が535〜575℃、比重は2.47〜3.65(g/cm3)、屈折率は、Nd1.52300〜1.8061、熱拡散比率は0.3〜0.4cm2*min、ポアソン比0.17〜0.26、光弾性定数2.82×10E−12、ヤング率6420〜9000kgf/mm2、線膨張係数8〜10×10E−6/℃を挙げることができる。
【0029】
本発明のモールド製造方法では、ガラスモールド母材に対し、注型重合において使用面(転写面)となる面上に凹部を形成するために研磨工程を行う。研磨工程では、前記研磨治具による研磨に先立ち、被研磨面上の凹部を形成する位置に、バリおよびキズの発生を防ぐためにワックスを塗ることが好ましい。ワックスとしては、通常研磨加工に使用されるものを何ら制限なく使用することができる。
【0030】
一般に研磨処理は、荒研磨を行い形状加工を施した後、面加工のために仕上げ研磨が行われる。本発明のモールド製造方法は、上記荒研磨、仕上げ研磨とも前記研磨治具を用いて行うこともできるが、研磨コストおよび研磨効率の点からは、荒研磨を市販のカーブジェネレータ(CG)で行い、仕上げ研磨に前記研磨治具を用いることが好ましい。荒研磨では、例えばブロンズ等をバインダーとしたCGツール(例えば#325〜#400程度)にて、任意の曲率の凹部を形成する。荒研磨で形成する凹部の外径は、最終的に形成すべき凹部の外径より2〜4mm程度小さくすることが好ましい。
【0031】
前記研磨治具による研磨は、被研磨面と研磨治具先端面との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら、被研磨面と研磨治具先端面とを相対的に移動させることにより、好ましくは相対的に摺動させることにより行われる。上記スラリーは、研磨処理に通常使用される市販のスラリーを使用することができる。または、研磨砥粒を水または水系溶媒に分散させることにより調製したスラリーを使用することもできる。スラリー中の研磨砥粒濃度は、例えば5〜30質量%程度とすることができる。スラリーに含まれる研磨砥粒としては、シリカ、アルミナ、酸化セリウム等を挙げることができ、ガラスの研磨性の点から酸化セリウムが好ましい。研磨砥粒の粒径は、先に説明したように研磨治具先端面に露出した繊維糸の断面よりも小さいことが好ましく、10nm〜0.1mm程度が好適である。研磨時のスラリー供給量は、例えば1000〜1500ml/分程度である。
【0032】
上記研磨では、ガラスモールド母材、研磨治具のいずれか一方を固定し他方を移動させてもよく、両方を移動させてもよい。研磨効率の点からは両方を移動させることが好ましい。より好ましくは、ガラスモールドを偏心揺動回転させ、研磨治具を回転軸を中心に回転させる。
上記態様について、図9に基づき更に詳細に説明する。
【0033】
図9に示すように、ガラスモールド母材は、回転軸(以下、「上軸」という)を球芯方向に傾けた支持部材に取り付け、1〜2mm程度偏心揺動回転させることが好ましい。一方、研磨治具は回転軸(以下、「下軸」という)を中心に軸対称に回転させることが好ましい。研磨レートは、研磨効率の点から4〜10μm/分、研磨除去量として20〜30μmとすることが好ましい。例えば、上軸の荷重を0.5〜2kg、偏心回転速度を100〜300rpm、下軸の回転速度を300〜600rpmとすることにより、上記研磨レートを実現することができる。研磨時間は、例えば3〜5分程度である。
【0034】
上記研磨後、被研磨面上のワックス、研磨屑等の異物を除去するためにガラスモールドを洗浄することが好ましい。なお、前記研磨治具を繰り返し使用する場合には、1回または2回以上使用した後、先端面をドレッシングすることが好ましい。ドレッシングにより研磨治具先端を研磨に適した面に再生することができる。ドレッシングは、先に説明した先端面の加工方法と同様に行うことができる。
【0035】
以上の工程により、多焦点レンズの近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部が形成されたガラスモールドを得ることができる。形成された凹部は、多焦点レンズの近用部の曲率と略同一の曲率半径を有し得る。したがって、得られたガラスモールドは、そのままラウンドタイプの小玉を有する多焦点レンズの成形のために使用することができる。または、凹部の一部にガラス片を配置し、該ガラス片を熱軟化等により融着させることにより凹部の一部を埋めてカーブドトップタイプまたはストレートトップタイプの小玉を有する多焦点レンズ成形用のガラスモールドとすることもできる。凹部の表面粗さは、該凹部を転写することにより形成される近用部表面を光学機能面とするためには、中心線平均粗さRaとして、0.03μm以下であることが好ましい。凹部の表面粗さは、荷重、研磨砥粒サイズ等の研磨条件によって制御することができる。ただし、多焦点レンズには通常、レンズ基材上にハードコート等の各種機能性膜が設けられ、これら機能性膜によりレンズ基材表面の粗さをマスキングすることができる。したがって凹部の表面粗さは上記範囲に限定されるものではない。
【0036】
多焦点レンズにおいては通常、遠用部と近用部の曲率半径差が小さいほど近用部の識別は困難となる。即ち、多焦点レンズ用ガラスモールドの表面上に研磨処理により近用部形成用凹部を形成する場合、被研磨面の曲率半径と形成される凹部の曲率半径の差が小さいほど、凹部のエッジ部分をシャープに形成することは困難である。これに対し本発明の方法によれば、例えば被研磨面と凹部とのベースカーブの差が0.6D以内であってもシャープなエッジ部分を有する凹部を形成することができ、これにより近用部の識別が容易な多焦点レンズを得ることができる。
なお、上記ベースカーブとは、モールドを構成するガラス素材の屈折率をn、曲率半径をR(mm)としたとき、(n−1)*1000/Rにて定義される表面屈折力(ディオプター)のことである。例えば後述する実施例では、屈折率n=1.5のガラスからなるモールド母材において、被研磨面(polished surface)である凹面の平均曲率Rp=100、近用部形成部となる凹部(concave)の曲率半径Rcc=112であるため、被研磨面のベースカーブDp=(1.5−1)*1000/100=5.000D、凹部のベースカーブDcc=(1.5−1)*1000/112≒4.464Dとなり、ベースカーブ差は0.6D以内(0.536D)となる。本発明によれば、このように曲率半径差が12mmと小さくベースカーブ差が0.6D以内であってもシャープなエッジ部を有する凹部を形成することができ
【0037】
[多焦点レンズの製造方法]
本発明の多焦点レンズの製造方法は、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズの製造方法であり、以下の工程を含む。本発明の多焦点レンズの製造方法は、本発明のモールド製造方法により得られたガラスモールドを使用するため、近用部を識別容易な多焦点レンズを製造することができる。
(工程1)本発明のモールド製造方法によりガラスモールドを作製する。
(工程2)作製したガラスモールドを含む一対のガラスモールドを所定の間隔をもって対向するように配置し、かつ上記間隔を閉塞することによりキャビティを形成する。ここで前記一対のガラスモールドの配置を、前記凹部がキャビティ内部に位置するように行う。
(工程3)前記キャビティ内に硬化性成分を含むレンズ原料液を注入し、該キャビティ内で前記硬化性成分の硬化反応を行うことにより、対向する2つの面の少なくとも一方の面に、前記凹部を含むガラスモールドの面形状が転写されたレンズ形状の成形体を得る。
【0038】
工程1の詳細は前述の通りである。以下、工程2および工程3について説明する。
【0039】
(工程2)
工程2では、一対のガラスモールドを所定の間隔をもって対向するように配置し、かつ上記間隔を閉塞することによりキャビティを形成する。ここで、工程1においてガラスモールド上に形成した凹部がキャビティ内部に位置するように行う一対のガラスモールドを配置する。これにより、キャビティ内でレンズ原料液を硬化させることにより形成される成形体の面上に、上記凹部が転写された凸部(近用部)を形成することができる。
【0040】
ガラスモールドの間隔は、図4に示すように円筒状のガスケットによって閉塞してもよく、ガスケットの代わりに粘着テープを2つのモールドの側面に巻きつけることによって閉塞してもよい。上記ガラスモールドの間隔は、成形されるレンズの厚さに相当する。成形されるレンズの厚さは、例えば1〜30mm程度であるが、上記範囲に限定されるものではない。前記ガスケットとしては、通常注型重合に使用されるものをそのまま使用することができる。一対のモールドの一方は、工程1で作製されたモールドである。他方のモールドは、所望の多焦点モールドの面形状等に応じて選択すればよい。
【0041】
(工程3)
工程3において、前記キャビティへ注入されるレンズ原料液は、硬化性成分を含むものであり、通常プラスチックレンズ基材、好ましくは眼鏡レンズ用プラスチックレンズ基材を構成する各種ポリマーの原料モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマーを含むことができ、共重合体を形成するために2種以上のモノマーの混合物を含むこともできる。上記硬化性成分は、熱硬化性成分であっても光硬化性成分であってもよいが、注型重合では通常、熱硬化性成分が使用される。レンズ原料液には、必要があればモノマーの種類に応じて選択した触媒を添加することもできる。また、レンズ原料液には、通常使用される各種添加剤を含むこともできる。
【0042】
前記レンズ原料液の具体例としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等を重合可能な原料液が挙げられる。上記中、硬化性成分としてはウレタン系が好適であるが、これに限定されるものではない。キャビティへのレンズ原料液の注入は、通常の注型重合と同様に行うことができる。
【0043】
次いで、キャビティ内へ注入されたレンズ原料液に加熱、光照射等を施すことにより、レンズ原料液に含まれる硬化性成分の硬化反応を行いレンズ形状の成形体を得ることができる。硬化反応条件(例えば加熱昇温プログラム)は、特に限定されるものではなく、使用するレンズ原料液の種類に応じて決定すればよい。硬化処理終了後、レンズと密着している2つのモールドを分離(離型)することにより、モールド成形面の面形状が転写されたレンズ形状の成形体、即ち、少なくとも一方の面に遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズ、を得ることができる。
【0044】
その後、成形された多焦点レンズに、必要に応じて各種機能性膜を公知の成膜方法によって積層することもできる。機能性膜としては、ハードコート膜、反射防止膜を挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
ガラスモールドの作製
凸面上に、直径30mm、曲率半径112mmの近用部を有する二重焦点メガネレンズを成形するためのガラスモールドを、以下の方法によって作製した。
(1)ガラスモールド母材の荒研磨
熱垂下成形法により、両面非球面の凹凸メニスカス形状のクラウン系ガラス製モールド母材(屈折率n=1.5)を成形した。このガラスモールド母材の凹面(平均曲率半径100mm)の近用部形成部に相当する位置にワックスを塗布した。その後、ブロンズをバインダーとしたCGツール(#400)により、ワックスを塗布した箇所に直径28mmの凹部を形成した。
(2)研磨治具先端面加工
長手方向に綿線維の撚糸束(撚糸の直径:1mm、撚糸の間隔:1mm))を内包した直径30mmのベークライト棒の先端を、底面を上記近用部と同一の曲率半径に加工した金属皿上で研磨することにより、先端面に上記近用部の曲率半径と同一の曲率半径を有する凸面を形成した。研磨後にベークライト棒先端を、流水をかけながらスポンジで擦り洗いし研磨材(クレンザー粉)および研磨屑を除去した。加工後のベークライト棒の先端面の表面粗さRaは1μmであった。
(3)凹部形成
上記(2)で加工したベークライト棒を図7に示すように支持部に取り付けることにより研磨治具を作製した。
作製した研磨治具および上記(1)で加工したガラスモールド母材を、図9に示すように配置し、ガラスモールド母材を1〜2mm程度偏心揺動回転させるとともに、研磨治具を下軸を中心に軸対称に回転させた。上軸の荷重は1kg、偏心回転速度は200rpm、下軸の回転速度は500rpm、研磨時間は5分とした。研磨スラリーとして、酸化セリウムスラリー(酸化セリウム粒子の平均粒径3μm、酸化セリウム濃度30質量%、分散媒:水)を1000ml/分で供給した。上記研磨における研磨レートは、研磨除去量として25μmであった。
研磨後、ガラスモールド母材を支持部材から外しワックスを除去するために水洗することにより、凹面上にラウンドタイプの小玉形状に対応する凹部を有するガラスモールドを得た。
【0047】
[比較例1]
ガラスモールドの作製
研磨治具として、上記近用部と同一の曲率半径に加工した研磨棒先端に貼り付けた不織布製研磨パット(株式会社FILWEL製ベラトリックス)を使用した点以外は実施例1と同様の方法で、凹面上に凹部を有するガラスモールドを得た。
【0048】
[実施例2、比較例2]
注型重合による二重焦点メガネレンズの成形
以下の方法により凸面上にラウンドタイプの小玉を有する二重焦点レンズ(凹凸レンズ)を作製した。
(1)実施例1、2で作製したガラスモールド(第一モールド)をレンズ凸面側となるよう筒状のガスケットに押し込み、レンズ凹面側となる面に別途準備したガラスモールド(第二モールド)を所定量押し込み組み付けをしてキャビティを形成した。このとき、キャビティ内部に第一モールド凹面上の凹部が配置されるように組み付けを行った。これにより、図4に示す構成のレンズ鋳型を得た。
(2)次に、(1)にて形成されたキャビティ内に熱硬化性ウレタン系モノマーを含むレンズ原料を注入し所定の重合プログラムにて加熱重合しモノマーを硬化させた。
(3)重合が終了し硬化したレンズからモールドを離型した。これにより第一モールドの凹部の面形状がレンズ表面に転写され、レンズ表面に凸部が形成された。
(4)離型したレンズは外周部を切削後洗浄し、所定のプログラムでアニール処理をした。
【0049】
近用部の投影観察
実施例2、比較例2で作製した多焦点レンズを蛍光灯下で投影観察したところ、実施例2で作製したレンズでは近用部と遠用部との境界が明確に観察され、近用部の直径が30mmであることを確認することができた。これに対し、比較例2で作製したレンズは、近用部と遠用部との境界がぼやけて不鮮明であったため、近用部の大きさを測定することは困難であった。
以上の結果から、本発明によれば近用部の位置および大きさの確認が容易な多焦点レンズが得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、二重焦点レンズ等の多焦点レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの面の少なくとも一方の面に、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズを注型重合により成形するために使用されるガラスモールドの製造方法であって、
ガラスモールド母材の一方の面(以下、「被研磨面」という)と研磨治具先端面との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら被研磨面と研磨治具先端面とを相対的に移動させることにより上記被研磨面を研磨し、該被研磨面上に前記近用部の表面形状に対応する形状を有する凹部を形成することを含み、かつ、
前記研磨治具として、その先端が繊維糸を含む樹脂からなり、かつ上記先端面に上記繊維糸の断面が露出している研磨治具を使用することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記繊維糸は、前記先端面に対して略垂直に配置されている請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂は、繊維束を含むフェノール樹脂である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記先端面は、形成される凹部と略同一の曲率半径を有する曲面を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記繊維糸の直径は、0.2〜2mmの範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記繊維は、天然繊維である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記先端面は、中心線平均粗さRaが0.1〜5μmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法によりガラスモールドを作製すること、
作製したガラスモールドを含む一対のガラスモールドを所定の間隔をもって対向するように配置し、かつ上記間隔を閉塞することによりキャビティを形成すること、ここで前記一対のガラスモールドの配置を、前記凹部がキャビティ内部に位置するように行い、
前記キャビティ内に硬化性成分を含むレンズ原料液を注入し、該キャビティ内で前記硬化性成分の硬化反応を行うことにより、対向する2つの面の少なくとも一方の面に、前記凹部を含むガラスモールドの面形状が転写されたレンズ形状の成形体を得ること、
を含む、遠用部と該遠用部より突出した近用部とを有する多焦点レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−51082(P2011−51082A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204602(P2009−204602)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】