説明

多発性骨髄腫を処置するためのリポソーム

新たに診断された、または以前に処置された患者の多発性骨髄腫の処置法が記載される。この方法は、好ましくはリポソームに封入されたアントラサイクリン系抗生物質、デキサメタゾン、およびサリドマイド、および任意に減少した用量のビンクリスチンの化学療法剤の組み合わせからなる組成物を投与することを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本明細書に記載する主題は、リポソームに封入されたアントラサイクリン、デキサメタゾン、サリドマイド、および任意に減少した用量のビンクリスチンの化学療法剤の組み合わせを投与することによる多発性骨髄腫の処置法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
多発性骨髄腫は、プラスマ細胞の悪性増殖を表す。この疾患は単一クローンに由来するプラスマ細胞の制御されていない増殖から生じる。腫瘍、その生成物、およびそれに対する宿主の応答は、多くの臓器不全および骨痛(bone pain)または骨折、腎不全、感染に対する感受性、貧血の症状、ならびに他の症状を生じる。
【0003】
2005年には推定15,270の新たな多発性骨髄腫の症例が診断され、そして11,070名の患者がその疾患により死亡すると予想される(非特許文献1)。
【0004】
メルファランにプレドニゾンを加えた多発性骨髄腫の処置は、50%〜60%の応答率を生じるが、典型的な第一線の治療であった。ビンクリスチンとドキソルビシン(Adriamycin(商標))との組み合わせ(両方とも中心線を介する連続的な96時間の注入として投与される)、それに加えて断続的な高用量のデキサメタゾン(VAD処方)は、新たに多発性骨髄腫と診断されたか、または難治性の多発性骨髄腫の患者のための別の通常の処置法である(非特許文献2)。55%〜84%の応答率がVAD処方で処置された新たに診断された患者で報告され、約18カ月の寛解期間中央値であった(非特許文献2)。
【0005】
さらに最近では、リポソームのドキソルビシンがVAD処方に使用され、これでは長期間循環するリポソームに封入されたドキソルビシン(Doxil(商標))がVADの組み合わせ中で遊離形態の薬剤と置き換わる(非特許文献3:非特許文献4)。リポソームのドキソルビシンは遊離形態の薬剤よりも長い血中半減期を有し、これにより骨髄腫細胞の薬剤への長期暴露が可能となる。
【0006】
また通例のVAD処方は、遊離形態またリポソームに封入された形態のドキソルビシン、ビンクリスチンおよびデキサメタゾン(DVD−TまたはT−VAD)の組み合わせで処置された患者にサリドマイドを加えることにより修飾された(非特許文献2:非特許文献5:非特許文献6)。
【0007】
これらの様々な処置の取り組みにもかかわらず、当該技術分野には新たに診断された多発性骨髄腫患者における応答の質、および再発/難治性の多発性骨髄腫患者における応答率および質を改善する処置計画(treatment regimen)の必要性が存在する。
【0008】
関連技術の前述の例、およびそれに関連する限界は、具体的説明であり、排他的ではなないことを意図する。関連分野の他の限界は、当業者が本明細書および図面の実験を読めば明白となる。
【0009】
【非特許文献1】Jemal,A.et al.,CA Cancer J.Clin.,54(1):8−29,2004
【非特許文献2】Hussein,M.A.,Oncologist,8 Suppl 3:39−45,2003
【非特許文献3】Hussein,M.A.et al.Seminars in Oncology,31(Suppl 13):147−160,2004
【非特許文献4】Hussein,M.A.Let al.Cancer,95(10):2160−2168,2002
【非特許文献5】Zervas,K.et al.,Annals of Oncology,15:134−138,2004
【非特許文献6】Ahmad,I.et al.,Bone Marrow Transplantation,29:577−580,2002
【発明の開示】
【0010】
簡単な要約
これから記載し、そして具体的に説明する以下の観点およびその態様は、例および具体的説明であり、範囲を限定することを意味しない。
【0011】
1つの観点では、多発性骨髄腫の処置法が提供される。この方法はリポソームに封入された形態のアントラサイクリン、デキサメタゾン、サリドマイド、および多発性骨髄腫の処置に薦められている用量未満の用量のビンクリスチンから本質的になる化学療法剤の組み合わせを投与することを含んでなる。
【0012】
この方法の一つの態様では、デキサメタゾンが多発性骨髄腫の処置に製品のラベルで薦められている頻度より、あるいは多発性骨髄腫の処置に文献で薦められている頻度より低い投与頻度で経口的に投与される。
【0013】
別の態様では、薬剤が自己幹細胞移植の前に投与される。
【0014】
さらに別の態様では、薬剤は幹細胞生産を動員するための導入療法計画(induction therapy regimen)の前またはそれと同時に投与される。
【0015】
一つの態様では、リポソームに封入されたアントラサイクリンがリポソームに封入されたダウノルビシンである。別の態様では、リポソームに封入されたアントラサイクリンがリポソームに封入されたドキソルビシンである。
【0016】
さらに別の態様では、リポソームに封入されたドキソルビシンが親水性ポリマーの外部コーティングを有するリポソームから構成されている。一つの態様では、親水性ポリマーの例はポリ(エチレングリコール)である。
【0017】
別の態様では、リポソームはリポソームをB細胞またはT細胞に標的化するためのリガンドを含んでなる。リガンドの例には、限定するわけではないが抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD4抗体および抗CD8抗体がある。
【0018】
別の態様では、サリドマイドが少なくとも約50mg/日の用量で投与される。
【0019】
別の態様では、デキサメタゾンが経口的に投与される。さらに別の態様では、デキサメタゾンが少なくとも約40mgの用量で投与される。
【0020】
別の態様では、薬剤の組み合わせが、少なくとも約3カ月間、4週間毎に1回投与される。代替的態様では、薬剤の組み合わせが、少なくとも約6カ月間、4週間毎に1回投与される。さらに別の態様では、処置の完了時、例えば組み合わせが4週間毎に1回投与さ
れる3カ月または6カ月の処置期間の完了時に、この方法はさらにプレドニゾンを投与することを含んでなる。
【0021】
別の観点では、リポソームに封入されたドキソルビシン、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびサリドマイドでの処置による多発性骨髄腫の処置法における改善が提供され、ここで改善はビンクリスチンの不存在下で、リポソームに封入された形態のドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイドから本質的になる化学療法剤の組み合わせを投与することを含んでなる。
【0022】
さらに別の観点では、ビンクリスチンの不存在下で、リポソームに封入された形態のドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイドを投与する多発性骨髄腫の処置法が提供される。
【0023】
さらに別の観点では、リポソームに封入されたドキソルビシン(ドキソルビシンは少なくとも約40mg/mの用量で静脈内投与される);少なくとも約40mgの用量で経口的に投与されるデキサメタゾン;少なくとも約50mgの用量で経口的に投与されるサリドマイドから本質的になる化学療法剤の組み合わせを投与することを含んでなる多発性骨髄腫の処置法が提供される。
【0024】
別の観点では、(a)処置サイクルの1日目に少なくとも約40mg/mの用量で静脈内投与されるリポソームに封入されたドキソルビシン;(b)処置サイクルの1〜4、9〜12および17〜20日目に、少なくとも約40mgの用量で経口的に投与されるデキサメタゾン;および(c)少なくとも1日約50mgの用量で経口的に投与されるサリドマイド、から本質的になる化学療法剤の組み合わせを28日の処置サイクルにわたり投与し、そしてこの投与を4〜12回の間、繰り返すことを含んでなる多発性骨髄腫の処置法が提供される。
【0025】
上記の例示的観点および態様に加えて、さらなる観点および態様は、図面を参照とし、そして以下の記載を熟考することにより明白となる。
【0026】
詳細な説明
I.処置法
多発性骨髄腫の処置法は、従来のドキソルビシン(遊離形態またはリポソーム封入型)、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびサリドマイドからなる「DVd−T」処置計画からビンクリスチンを除くか、またはビンクリスチンの用量を減らすことが副作用の低減に改善された治療的応答を提供するという知見に基づいている。より一般的には、この方法はビンクリスチンの不存在下または低減した用量のビンクリスチンの存在下で、遊離形態またはリポソームに封入された形態のアントラサイクリン抗生物質、デキサメタゾンおよびサリドマイドから本質的になる処置計画に関する。
【0027】
本明細書で使用するように、「低減した用量の」ビンクリスチンとは、多発性骨髄腫の処置のために推薦されている用量より少なくとも約25%低い、より好ましくは少なくとも約35%低い、そしてさらにより好ましくは少なくとも約50%低い用量を指す。ビンクリスチンはこれまで多くの多発性骨髄腫に基づく処方に含まれ、そしてDVd−T処方では、1〜3時間にわたり注入として約2mgで与えられる。
【0028】
多発性骨髄腫および他のガンの処置計画において、増悪までの期間の項目(time−to−event endpoint)が通常、主要項目(major endpoint)として臨床試験で使用されている。そのような項目には、全生存期間(OS)、無進行期間(TTP)(無進行生存期間、PFSとも呼ばれる)、無病生存期間(DFS)(
無再発生存期間、RFSとも呼ばれる)、治療成功期間(TTF)などがある。PFSは一般にガンが成長しなかった処置中およびその後の期間の長さを指す。無進行生存期間には、患者が完全な応答または部分的応答を体験した期間の量、ならびに患者が安定した疾患を体験した期間の量を含む。寛解、完全寛解または完全応答は、少なくとも約6カ月間、処置後にガン細胞が無いことを指す。部分的寛解または部分応答は、処置後に腫瘍サイズまたは身体のガンの程度に減少があったことを示す。「部分」の定義はガン毎に異なる。全生存期間とは、処置後に患者が生存する期間の量を指し、全期間は通常、診断または処置からの期間から報告される。以下の実施例1では、本明細書で支持する実験に使用するこれらの項目に関する特性を具体的に説明する。
【0029】
処置法を支持する実験では、新たに診断されたか、または以前に処置された再発性の難治性多発性骨髄腫患者を、実施例1で説明するようにペグ化(pegylated)リポソームに封入されたドキソルビシン(Doxil(商標)、“D”)、ビンクリスチン(“V”)、デキサメタゾン(“d”)およびサリドマイド(”T”)の組み合わせ(“DVd−T”)で処置した。102名の適格患者の中で、この処置計画は新たに診断された患者群の49%および以前に処置された患者群の45%に質的応答(完全応答および大変良好な部分応答)を提供した。
【0030】
この実験において、何名かの患者はサリドマイドが処置計画から除かれた。実施例1でさらに詳述するように、図1、2A、2B、3Aおよび3Bは、DVdまたはDVd−Tで処置された患者の応答と比較する。
【0031】
この試験で等級3または4の副作用を現した患者は、修飾された処置計画を受け、この計画ではビンクリスチンの用量を初期の開始用量の約50%まで減らすか、またはビンクリスチンを処置計画から排除した。図4は、減少した用量のビンクリスチン(1mg)を受けた患者に対して、完全な2mg用量のビンクリスチンで処置した患者に関する無進行生存期間の関数として生存の見込みを月で比較する。ビンクリスチン用量の減少は、完全な用量を受けた群と比較した時、無進行生存期間に患者に持続した有意な改善を与え続ける。類似の結果がアントラサイクリン系抗生物質、デキサメタゾンおよびサリドマイドの処方で処置された患者に期待される。
【0032】
この驚くべき結果は、多発性骨髄腫患者の処置における有益な効果が、DVd−T処方からビンクリスチンを減らすか、または排除することにより見いだされたことを具体的に説明している。ビンクリスチンを減らすか、または排除することからの正の影響が、サリドマイドの用量と無関係であることを見いだしたことは驚くべきことであり、すなわち低用量のビンクリスチンまたはビンクリスチン無しの処方の患者は、より高用量サリドマイドでの、または長期のサリドマイドでの治療を受けなかった。
【0033】
実施例1での実験は、アントラサイクリン系抗生物質であるドキソルビシンを使用するが、処置計画はダウノルビシン、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン(idarubicin)およびミトザントロンのような他のアントラサイクリン系薬剤も意図している。また薬剤は遊離形態またはリポソームに封入された形態で投与され得るとも考えられる。
【0034】
封入された薬剤を含有するリポソームの調製は、文献に十分に記載されている。さらにリポソームは、限定するわけではないがポリ(エチレングリコール)に例示される親水性ポリマーの表面コーティングを含むことができる。他の親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリメチルオキサゾリン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、および米国特許第5,631,018号明細書に記載されている他のポリマーを含む。この特許に引用された親水性ポリマーは、参照により本明細書に編入する。
【0035】
一つの態様では、ポリマーでコーティングされたリポソームは、薬剤を装填した粒子を特異的部位に標的化させるために、さらに抗体または抗体フラグメントのような標的化リガンドを含む。リポソームに結合したポリエチレングリコール鎖の遠位末端に結合した標的化リガンドを有するリポソームの調製は、例えば米国特許第6,316,024号;同第6,326,353号;同第6,056,973号明細書に記載されている。標的化リガンドは、多発性骨髄腫またはプラスマ細胞新生物に係わりがあるB細胞またはT細胞系統のような細胞受容体に対する結合を有するものであることができる。例示的な抗体には限定するわけではないが、B細胞抗原に対する特異的結合には抗CD19、抗CD20または抗CD22;T細胞抗原に対する結合には抗CD4または抗CD8がある。
【0036】
処置計画は、多発性骨髄腫と診断された患者に、ビンクリスチンの不存在下または低減した用量のビンクリスチンで、アントラサイクリン系抗生物質、デキサメタゾンおよびサリドマイドから本質的になる組み合わせを投与することを含んでなる。この組み合わせは予防的な抑制的抗生物質、抗ウイルス剤、低ベースライン白血球数のための増殖因子、ならびに低用量のアスピリンの添加のような補助療法の方法(supportive care measure)、あるいは処置計画に関連する症状を改善するために医師を補助することにより必要と決定された他の方法を含むことができると考えられる。
【0037】
別の態様では、処置法は幹細胞生産を動員するために自己幹細胞移植の前、あるいは導入療法計画の前またはそれと同時に患者に提供される。多発性骨髄腫患者は、ビンクリスチンの不存在下または低減した用量のビンクリスチンを用いて、アントラサイクリン抗生物質、デキサメタゾン、サリドマイドからなる処置計画で処置される。次いで完全応答、大変良好な部分応答または部分応答を達成した患者は、幹細胞生産を動員するため自己末梢血幹細胞移植または導入療法を受ける。
【実施例】
【0038】
II.実施例
以下の実施例は現存の例を具体的に説明するものであり、限定を意図するものではない。
【0039】
実施例1
多発性骨髄腫患者の処置
この試験は新たに診断された患者および再発/難治性の多発性骨髄腫患者を対象として開始した。102名の患者が、以下に記載する処置計画に従いペグ化リポソームドキソルビシン(Doxil(商標))、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびサリドマイド(Dvd−T)での処置に登録された。53名の患者が新たに多発性骨髄腫と診断され(A群)そして、49名は再発/難治性疾患を有した(B群)。
【0040】
個体群統計学およびベースライン変数に関する統計の説明は、表1に示す。全体の年齢中央値は62.9歳であり、A群の患者はB群の患者よりも有意に低い年齢中央値であった。性別および人種に関しては、2つの群で類似した。有意ではないが、B群の患者はA群の患者よりも疾患の段階が進行している傾向があった(SWOG基準による)。β−ミクログロブリンの中央値はB群の患者で高かったが、好中球絶対数(ANS)および血小板の中央値は、A群患者のほうが高かった。細胞遺伝学的分析は両群の88名について行うことができ、16名の患者が異常な結果を示した。この異常率は、両群で同様であった(表1)。
【0041】
【表1】

【0042】
処置計画
A群およびB群の患者を以下のように処置した。1日目に、Doxil(商標)(“D”)を40mg/mで静脈内短期注入として1〜3時間にわたり与えた;ビンクリスチン(“V”)を2mgで静脈内短期注入として1〜3時間にわたり与えた;そしてデキサメタゾン(d)を毎日40mgで経口的に4日間与えた。サリドマイドは1日あたり50mgで経口的に与えた。サリドマイドの用量は、耐容されれば毎週50mg/dずつ上げたが、1日に400mgを越えなかった。DVd処方は4週間毎に最少6サイクル、そして最高の応答から2サイクル繰り返した。最高の応答に達した後、患者は1日おきに50mgプレドニゾンおよび最大の耐容用量のサリドマイドで疾患が進むか、または不耐容になるまで維持された。
【0043】
別の群の患者は、サリドマイド無しのDVd処方で処置された。
【0044】
補助療法
認められている標準的な療法として、ビスホスホネートおよび骨髄性および赤血球生成因子の使用が利用できた。このプロトコールは、毎日81mgの低用量のアスピリン、1日2回、250mgのアモキシリン、および1日2回、400mgのアシクロビルの使用が許された。顆粒球および顆粒球単球増殖因子は、全白血球細胞数が5×10/L以上でなければ治療1日目に与えられた。l−グルタミンは、上肢または下肢にいかなる重篤度の痙攣を起こした患者に与えられた。
【0045】
ベースラインおよび結果の評価
患者は試験に登録される前28日以内に評価された。監視される骨髄腫パラメーターには、β2−ミクログロブリン、血清アルブミン、乳酸デヒドロゲナーゼ、血清タンパク質電気泳動、全タンパク質に関する24時間の尿採取および尿タンパク質電気泳動、および血清および尿の骨髄腫タイピングを含んだ。研究室のパラメーターは、各治療サイクルの前、および維持処方の開始後4週間で評価した。骨髄腫の病期分類にはサウスウエスト オンコロジー グループ(Southwest Oncology Group:SWOG)の病期分類系を使用した。血清ビタミンB12、赤血球葉酸、メチルマロン酸、および血清ホモシステインレベルをベースラインで測定した。骨髄吸引、生検、細胞遺伝学的分析および完全な骨の調査は、すべての患者についてベースラインで行った。ベースラインの心エコー図または多関門集積スキャンはすべての患者について行った。
【0046】
応答および毒性の評価には、月間の病歴、身体検査、および完全な血液細胞数、完全な代謝プロファイル、血清タンパク質電気泳動のβ−ミクログロブリン、および尿中にモノクローナルタンパク質が検出された場合には尿タンパク質の電気泳動を用いたタンパク質定量のために24時間の尿の形式の研究室試験を含んだ。血清および尿中のモノクローナルタンパク質分析は、血清および尿タンパク質電気泳動が標準化される場合に行った。骨髄吸引、生検および細胞遺伝学分析は、完全な寛解を文書で証明するために、6サイクルが完了した時、およびモノクローナル成分が免疫固定により検出することができない場合には化学療法の完了時に行った。本明細書で概略を述べたような試験の化学療法部分を完遂した患者には維持療法が与えられ、そして1カ月内そして、その後3カ月毎に評価された。最初および最高応答の日は、それぞれモノクローナルタンパク質のパラメーターが合った日、および骨髄の結果が利用できた日であった。骨の調査は6カ月毎に行うか、または臨床的に示された場合は直ちに行った。心エコー図または多関門集積スキャンは、300mg/mのペグ化リポソームのドキソルビシンの全用量に到達した後、2サイクル毎に行った。すべての患者を生存について追跡した。毒性は、国立癌研究所の共通毒性基準(National Cancer Institute Common Toxicity Criteria)、バージョン2.0を使用して評価した。
【0047】
結果の評価
患者は、疾患の進行の増悪、許容できない毒性効果、患者の希望または調査者の判断で実験から排除された。
【0048】
完全応答(CR)は、骨髄評価で5%未満のプラスマ細胞に加えて、免疫固定により血清および尿中の副タンパク質の全消失により定めた。
【0049】
非完全応答(NCR)とも呼ぶ大変良好な部分応答(VGPR)は、血清副タンパク質レベルの90%以上の減少により定めた。
【0050】
部分応答(PR)は、血清副タンパク質レベルにおける50%以上の減少、および尿レベルでモノクローナル成分の90%以上の減少、または200mg/24時間未満への低下と定めた。
【0051】
最小応答は血清または尿の副タンパク質レベルにおける50%未満の減少と定めた。
【0052】
疾患の進行は、2つの悪化パラメーターの進行により定めた。
【0053】
無進行生存期間(PFS)および全生存期間(OS)は、試験登録の日から進行または死亡までの日を計算した。PFSおよびOSは両方とも最高応答の日の後にコンピュータ
ー計算し、そしてコックス比例ハザードモデルを用いて分析して、関連するベースライン変数について調整した。
【0054】
すべての応答基準は、4週間毎に検証した。
【0055】
結果
28カ月の中央値の追跡調査の後、全体的な応答率は新たに診断された(A群)および以前に処置された(B群)多発性骨髄腫の患者についてそれぞれ97%および90%であった。完全応答(CR)または大変良好な部分応答(VGPR)を現した患者の和として取った質的応答率は、A群に関しては49%であり、そしてB群に関しては45%であった。新たに診断された疾患の53患者(A群)の19名(36%)がCRに達し、一方、前に処置された49患者の10名(20%)がCRに達した。最初および最高の応答までの時間の中央値は両群で類似し、それぞれ1.2と4カ月の合わせた中央値であった。
【0056】
新たに診断された群の無進行生存期間(PFS)の中央値は28.2カ月であり、そして前に処置された群については15.5カ月であった(p=0.01)。全生存期間の中央値は、新たに診断された患者群については50カ月の追跡調査で達成せず、一方、前に処置された患者群のそれは39.9カ月であった。
【0057】
部分応答またはより良好(CR、NCR、PR)は、A群の新たに診断された患者およびB群の前に処置された患者についてそれぞれ86%および87%を記録した。両群について完全応答または非完全応答の患者の和として取った(CR+NCR)最高の応答率は比較することができた。しかし、A群のCR率はB群の患者よりも36%対21%と高かった。
【0058】
図1Aは、DVd(サリドマイド不存在)で処置した患者に比べてDVd+T処方で処置した患者の応答の質を表すグラフである。新たに診断された、および再発/難治性患者におけるDVd処方と比較した時、処方にサリドマイドを加えると応答の質が有意に改善し、DVd−Tを受けた患者の50%が最高応答に達したが(CR+NCR)、DVdのみで処置した患者は約17%が最高応答に達しただけであった(CR+NCR)(p<0.0001)。
【0059】
患者群はDVd−T群がプラスマ細胞が骨髄に、より高い割合で含まれることを除いて、補助療法、個体群統計学、病期分類および骨髄の特性について合っていた。図2A〜2Bで分かるように、無進行生存期間の中央値および全生存期間の中央値は、処方にサリドマイドを加えることにより有意に改善された(28対13カ月;p=0.0003)および(中央値に達せず 対 27.9カ月;p=0.01)。応答の質の効果は、図3A〜3Bで分かるように無進行生存期間の中央値および全生存期間の中央値に影響を有した。
【0060】
図3Aから分かるように、部分応答または安定な疾患に達した患者に関する17.9カ月に比べて(PRまたはSD;P=0.005)、完全応答または非完全応答(CRまたはNCR)に達した患者は、27.4カ月の無進行生存期間(PFS)を体験した。図3BはCR+NCRおよびPR+ SDの同じ2つの患者組について、CR+NCR患者組は中央値に達しなかったが、PR+ SD患者組は、全生存期間が38.3カ月であった(p=0.007)。
【0061】
ビンクリスチン用量の減少による処置計画の修飾
治療の開始に、3名の患者が好中球減少性であった;しかし彼らの多発性骨髄腫が応答したので、その数は標準化された。表2は、すべての試験患者について等級による副作用を与える(105名登録、102名が処置を受けた)。簡単に説明すると、血小板減少が
19名の患者に記録され(18%)、そのうちの5名が50×10/L未満の血小板数を有した。これらの患者は治療によく耐容し、そして誰も血小板輸血の補助を必要としなかった。患者の20%以上に生じた最も多い等級1および2の毒性効果は、手掌足蹠の紅斑異感覚(41%)、末梢ニューロパシー(84%)、便秘(78%)、疲労(60%)および四肢の痙攣および震え(20%)であった。
【0062】
【表2】

【0063】
患者の5%以上に生じた最も多い等級3および4の副作用には、末梢ニューロパシー(22%)、好中球減少(14%)、手掌足蹠の紅斑異感覚(8%)、および血小板減少(5%)であった。等級3および4の副作用を改善するために、ビンクリスチンを犠牲にする用量修飾スキームが作られた。等級2のニューロパシーについて、ビンクリスチンの用量を50%まで、1mgに減少させた。等級3または4のニューロパシーについて、ビンクリスチンは処置計画で抑えられ、そして毒性が解決したら、治療は初期薬剤用量の50%で再出発した。
【0064】
全部で、464の化学療法の処置が投与され、225の処置で完全用量のビンクリスチンを与えられ、そして242の処置が減少した用量のビンクリスチンまたはビンクリスチンを排除して投与された。22名の患者が等級3/4のニューロパシーを発症した。これら22名の患者は30の増悪を体験し、ここでビンクリスチンおよびまたはサリドマイドの用量修飾が、等級3/4から等級1への解決を生じたか、または重篤度が1等級下がっただけの5名の患者を除いて完全に解決した。ビンクリスチンを減らすか、または排除することは、単変量分析で無進行生存期間および全生存期間に有意な正の効果をそれぞれ有した(p<0.0001および=0.005)。
【0065】
試験の開始時の年齢、血小板数、病期分類、応答の質(CRまたはCRに近い 対 SDまたはPR)およびまたはサリドマイド用量について調整がなされる多変量分析について、ビンクリスチン用量の減少またはビンクリスチンの全排除は、患者に利益を与え続け、完全なビンクリスチン用量を受けた群に比べて無進行生存期間において持続する有意な改善があった。この効果は図4で説明され、ここで生存の見込みは、ビンクリスチンの不存在下で、または減少した用量のビンクリスチンを用いてDoxil(商標)、デキサメタゾンおよびサリドマイドで処理した患者について無進行生存期間の関数として月で示される(p=0.0121)。
【0066】
実施例2
ドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイドを用いた多発性骨髄腫患者の処置
男性患者は疲労および胸痛(rib pain)を訴えた。骨髄生検では、84.5%のプラスマ細胞、拡散した溶解病変が有り、そして血清クレアチンは1.8mg/dLに上昇した(標準0.8〜1.5mg/dL)。多発性骨髄腫の診断で、個体は4サイクルの以下の処方で処置:1〜28日は食物無しで毎晩、サリドマイドを経口摂取、用量はサイクル1中に以下のように次第に上げる:1〜7日、50mg:8〜14日、100mg:15〜21日、150mg:そして22〜28日、200mg、200mgはその後、すべてのサイクルについて毎日与えられる;デキサメタゾンは経口で1〜4日、9〜12日および17〜20日に40mgで与えられ;Doxil(商標)は1日目に40mg/mの静脈内注入を介して60分間にわたり投与される。このサイクルを28日毎に全部で4サイクル繰り返す。
【0067】
実施例3
ドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイド、ならびに自己幹細胞移植を用いた多発性骨髄腫患者の処置
女性患者は疲労および他の貧血症状を訴えた。最初の骨髄生検では、50%のプラスマ細胞を示す。個体を以下の処方で処置する:1〜28日は食物無しで毎晩、サリドマイドを経口摂取、用量は300mgまで毎日、次第に上げる;デキサメタゾンは経口で1〜4日、9〜12日および17〜20日に40mgで与えられ;Doxil(商標)は1日目に40mg/mで静脈内注入を介して60分間にわたり投与される。このサイクルを28日毎に全部で6サイクル繰り返す。
【0068】
6サイクルが完了した時、患者は大変良好な部分応答を示し、そして幹細胞の動員および自己移植を受ける。幹細胞動員は、末梢血幹細胞移植用に最少2×10のCD34+細胞を集めるために、シクロホスファミド(4.5g/m)およびGM−CSFからなる。導入中、患者はサリドマイドを摂取し続け、そしてメルファラン(140〜200mg/m)がコンディショニングとして与えられる。患者は移植術から12〜16日後以内に移植される。
【0069】
実施例4
ドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイド、ならびに自己幹細胞移植を用いた多発性骨髄腫患者の処置
女性患者は疲労および他の貧血症状を訴えた。最初の骨髄生検では、50%のプラスマ細胞を示す。個体を以下の処方で処置する:1〜28日は食物無しで毎晩、サリドマイドを経口摂取、用量は300mgまで毎日、次第に上げる;デキサメタゾンは経口で1〜4日、9〜12日および17〜20日に40mgで与えられ;ポリ(エチレングリコール)の外部表面コーティングを有し、ポリマー鎖の遠位末端に結合した抗CD19抗体を含むリポソームに封入されたダウノルビシンは、1日目に40mg/mで静脈内注入を介して60分間にわたり投与される。このサイクルを28日毎に全部で3サイクル繰り返す。
【0070】
多くの例示的観点および態様を上に記載してきたが、当業者はその特定の修飾、置換、付加および副次的組み合わせを認識する。したがって添付する特許請求の範囲および今後、導入される特許請求の範囲は、すべてのそのような修飾、置換、付加および副次的組み合わせがそれらの真の精神および範囲内にあると解釈されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】サリドマイドを含むか、または含まずに(それぞれDVd−TおよびDVd)、Doxil、ビンクリスチン、デキサメタゾンを用いて多発性骨髄腫患者を処置した後の応答の質を表す棒グラフである。完全応答または非完全応答の患者に対応する最高応答、ならびに部分応答または安定な疾患の患者に対応する良好な応答の患者の部分。
【図2】図2A〜2Bは、DVd−TおよびDVdで処置した多発性骨髄腫患者を対象とした、無進行生存期間(図2A)または全生存期間(図2B)の関数としての生存の見込みを示すグラフである。
【図3】図3A〜3Bは、DVd−TおよびDVdで処置し、そして最高の応答(完全応答または非完全応答の患者)または良好な応答(部分応答または安定な疾患の患者)を現す多発性骨髄腫患者を対象とした、無進行生存期間(図3A)または全生存期間(図3B)の関数としての生存の見込みを示すグラフである。
【図4】図4は、2mgの用量のビンクリスチン(「ビンクリスチンの減少無し」)、またはビンクリスチン用量が50%減少したDVd−Tで処置した多発性骨髄腫患者を対象とした、無進行生存期間の関数としての生存の見込みを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性骨髄腫の処置法であって:
リポソームに封入された形態のアントラサイクリン、デキサメタゾン、サリドマイド、および多発性骨髄腫の処置に薦められている用量未満の用量のビンクリスチンから本質的になる化学療法剤の組み合わせを投与することを含んでなる上記方法。
【請求項2】
上記投与が自己幹細胞移植の前である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記投与が、幹細胞生産を動員するための導入療法計画の前またはそれと同時である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記のリポソームに封入されたアントラサイクリンがリポソームに封入されたダウノルビシンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記のリポソームに封入されたアントラサイクリンがリポソームに封入されたドキソルビシンである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記のリポソームに封入されたドキソルビシンが親水性ポリマーの外部コーティングを有するリポソームから構成されている請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記親水性ポリマーがポリ(エチレングリコール)である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記リポソームがリポソームをB細胞またはT細胞に標的化するためのリガンドを含んでなる請求項6に記載の方法。
【請求項9】
上記リガンドが、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD4抗体および抗CD8抗体からなる群から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記サリドマイドが少なくとも約50mg/日の用量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記デキサメタゾンが経口的に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記デキサメタゾンが少なくとも約40mgの用量である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記投与が、該組み合わせを少なくとも約3カ月間、4週間毎に1回投与することをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項14】
上記投与が、該組み合わせを少なくとも約6カ月間、4週間毎に1回投与することをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
上記の少なくとも約3カ月間、4週間毎に1回の投与に続いてプレドニゾンを投与する工程をさらに含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
上記の少なくとも約6カ月間、4週間毎に1回の投与に続いてプレドニゾンを投与する工程をさらに含んでなる請求項14に記載の方法。
【請求項17】
リポソームに封入されたドキソルビシン、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびサリドマイドでの処置による多発性骨髄腫の処置法における改善であって:
ビンクリスチンの不存在下で、リポソームに封入された形態のドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイドを投与することを含んでなる上記改善。
【請求項18】
多発性骨髄腫の処置法であって:
ビンクリスチンの不存在下で、リポソームに封入された形態のドキソルビシン、デキサメタゾンおよびサリドマイドを投与することを含んでなる上記方法。
【請求項19】
多発性骨髄腫の処置法であって:
(a)リポソームに封入されたドキソルビシン、ドキソルビシンは少なくとも約40mg/mの用量で静脈内投与される;
(b)少なくとも約40mgの用量で経口的に投与されるデキサメタゾン;
(c)少なくとも約50mgの用量で経口的に投与されるサリドマイド;
から本質的になる化学療法剤の組み合わせを投与することを含んでなる上記方法。
【請求項20】
多発性骨髄腫の処置法であって:
(a)処置サイクルの1日目に少なくとも約40mg/mの用量で静脈内投与されるリポソームに封入されたドキソルビシン;(b)処置サイクルの1〜4、9〜12および17〜20日目に、少なくとも約40mgの用量で経口的に投与されるデキサメタゾン;および(c)少なくとも1日約50mgの用量で経口的に投与されるサリドマイド、から本質的になる化学療法剤の組み合わせを28日の処置サイクルにわたり投与し、そして該投与を4〜12回の間、繰り返すことを含んでなる上記方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507919(P2009−507919A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531229(P2008−531229)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/035372
【国際公開番号】WO2007/033110
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】