説明

多相コンバータ、ハイブリッド燃料電池システム、及び電源制御方法

【課題】システムの状態に応じて可能な限り通過電流量を大きくすることのできる多相コンバータを提供する。
【解決手段】電圧を変換する多相コンバータ(2)であって、独立して制御対象量(IL)を変更可能な複数の相(P1〜P3)と、各相の状態を検出する検出装置(Si)と、各相に対する制御対象量を規定する制御信号を供給する制御部(200)と、を備える。検出装置(Si)によって検出された各相の状態に基づいて、相ごとに制御対象量を補正する制御信号(MUP,MUN,GUN,GUP)が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド燃料電池システムに係り、特にコンバータ(電圧変換器)の効率を高めることが可能な燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド燃料電池システムでは、出力電圧の異なる燃料電池とバッテリとの間に高圧コンバータを介挿させ、電圧を変換させることにより、電力源を相互に接続している。従来の高圧コンバータとして、分割された複数の相でそれぞれ電圧変換することにより変換効率を上げた多相コンバータがあった。
【0003】
例えば、特開2004−357388号公報には、低圧側電圧をn倍にして昇圧して高圧側出力を得る機能と、高圧電圧を1/n倍に降圧して低圧側出力を得る機能とを備えたチョッパ式昇降圧コンバータにおいて、nに最も近い整数N’の整数倍を相数として、並列接続されたN個の昇降圧チョッパを組み合わせてN相N重とし、各相に流れる電流を2π/Nずつ位相をずらして流すように制御する昇降圧コンバータが記載されている(特許文献1)。
【0004】
コンバータの制御方法としては、例えば、特開平5−284737号公報には、単相コンバータにおいて、内部素子温度を温度スイッチで検出し、内部素子温度の上昇時には負荷電流を一時的に強制低下させて内部素子の自己発熱と共に温度上昇を確実に抑えるようにしたDC−DCコンバータが記載されている(特許文献2)。
【0005】
特開平6−141535号公報にも同様の技術が記載されている。この技術は、多出力を有するDC/DCコンバータの各出力に個別に制御可能な出力停止部を設け、温度センサの過熱信号によって個別の出力停止機能に対して優先順位をつけた出力停止制御を行う出力制御回路を備えることにより、発熱部品の温度上昇による破壊を防止すると同時に、出力を保持したい出力電圧については、優先順位の設定によって継続して出力の保持ができるようにしたものである(特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−357388号公報
【特許文献2】特開平5−284737号公報
【特許文献3】特開平6−141535号公報(段落0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、複数の相から構成されるコンバータにといて、素子温度が上昇した場合に発電能力を低下させずに対応する方法が提示されていなかった。例えば、特許文献2の方法では、一つの温度スイッチにおいて内部素子温度の上昇が検出された場合、総てのシステムで負荷電流が制限されてしまうため、パワー不足になる可能性があった。特に、自動車のシステムにこのコンバータを搭載した場合には、高負荷が長時間に亘って要求されることが多く、このような高負荷時に一つの内部素子温度の上昇のみで負荷電流を制限してしまうと、パワー不足に陥るため好ましくない。
【0007】
また、特許文献3に記載の方法は、多数の独立した出力を備えるコンバータに適用されるものであり、内部回路は複数相で構成されながらも、全体としては一つの入力端子と一つの出力端子を備える多相コンバータに適用することができない。
【0008】
そこで本発明は、システムの状態に応じて可能な限り通過電流量を大きくすることのできる多相コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の多相コンバータは、複数相を備え相ごとに制御対象量が制御可能に構成された多相コンバータであって、各相の状態に基づいて相ごとに制御対象量が補正されること、を特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明の多相コンバータは、電圧を変換する多相コンバータであって、独立して制御対象量を変更可能な複数の相と、各相の状態を検出する検出装置と、各相に対する制御対象量を規定する制御信号を供給する制御部と、を備え、検出装置によって検出された各相の状態に基づいて、相ごとに制御対象量を補正する制御信号が供給されること、を特徴とする。
【0011】
また、本発明の多相コンバータの電源制御方法は、複数相を備え、相ごとに制御対象量が制御可能に構成された多相コンバータの電源制御方法であって、各相の状態を検出するステップと、検出された各相の状態に基づいて、各相における制御対象量の総計が維持されるように相ごとに制御対象量を分配して補正するステップと、を備えたことを特徴とする。
【0012】
多相コンバータのいずれかの相の状態が好ましくないと判断される場合に、コンバータ全体の出力を停止したのでは、正常に動作している相の運転も同時に停止させることになるため、一定以上の出力が要求されている場合には好ましくない事態が生じうる。この点、本願発明によれば、各相の状態に基づき、制御対象量が変化するのみであるため、いずれかの相にのみ異常が発生した場合でも制御対象量の補正で対応することができ、出力低下を最小限にすることができる。
【0013】
ここで、「制御対象量」は、制御されることになる出力、つまり被制御量であって、例えば、各相を通過する電流量である。電流量の他に、電力量、または、それに相当する物理量として把握することも可能である。
【0014】
また、「各相の状態」とは、運転が正常に行われているか否かを示す物理量や推定値であって、例えば、相ごとの温度である。各相の状態を温度とする場合、この温度に対応して設定された通過電流許容値に応じて、対応する相を通過する電流値を制限させることが好ましい。素子の過熱状態を防止するために相ごとにその温度を把握することは好ましく、温度に対応して通過させることが可能な電流許容値が設定することができるからである。この構成によれば、この通過電流許容に応じて電流量が制限されるので、素子に流れる電流が過熱状態となることを防止することが可能である。
【0015】
ここで、いずれかの相の状態が異常であることを示している場合には、その相の運転を停止させることは好ましい。この構成においても、運転を停止させるのは状態が異常である相のみであるため、コンバータ全体における出力の低下を最小限にさせることができるからである。
【0016】
ここで、いずれかの相の制御対象量が制限されている場合には、負荷量を、制御対象量に対応させて制限することが可能である。事情が許す場合には、本発明によって、相の制御対象量が変化し、制限されている場合に、負荷量をそれに対応して制限することによって、出力不足となることを解消可能だからある。
【0017】
具体的に、本発明は、電圧を変換する多相コンバータであって、スイッチング素子で構成され、独立して通過電流量を変更可能な複数の相と、各相における該スイッチング素子の温度を検出する検出装置と、各相の該スイッチング素子に独立して制御信号を供給する制御部と、を備える。そして、検出装置によって検出された各相の温度と、温度に対応して設定された通過電流許容値とに基づいて、スイッチング素子に対する制御信号を変化させて、相ごとの通過電流量が変更されること、を特徴とする。この構成によれば、スイッチング素子の温度に基づいて通過電流許容値内に収まるようにスイッチング素子が制御されるので、温度上昇に伴う出力制限を最小限にすることができる。
【0018】
本発明は、本発明の多相コンバータが燃料電池とバッテリとの間に設けられているハイブリッド燃料電池システムでもある。例えば、自動車、船舶、航空機等に搭載される燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多相コンバータを構成する各相の状態に基づき、制御対象量が補正されるのみであるため、いずれかの相にのみ異常が発生した場合でも制御対象量の補正で対応することができ、出力低下を最小限にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明を実施するための好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態は、電気自動車に搭載するハイブリッド燃料電池システムに本発明の多相コンバータを適用したものである。
(実施形態1)
この実施形態1は、多相コンバータにおいて、各相の温度に基づいて相ごとに電流量が補正されるようにした構成に関する。
図1に、本ハイブリッド燃料電池システム100のシステム全体図を示す。
図1に示すように、ハイブリッド燃料電池システム100は、電源制御部1、本発明の多相コンバータに係るコンバータ2、コンバータ2の一次側10に設けられる、バッテリ12、バッテリコンピュータ14及び平滑用コンデンサ18、並びにコンバータ2の二次側20に設けられる、平滑用コンデンサ22、燃料電池26、逆流防止ダイオード28、インバータ30、及びインバータ42を備えて構成される。インバータ30は、さらにトラクションモータ32に電気的に接続され、トラクションモータ32は機械的にディファレンシャル34に連結され、トルクがシャフト36を介して車輪40r及び40lに伝達されるようになっている。シャフト36には、車輪速センサ36が設けられている。インバータ42は、補機類44に電気的に接続されている。なお、補機類44は、燃料電池26の燃料ガス制御を行うため等に用いられる、コンプレッサ、冷却液モータ、水素ポンプ、エアーコンディショナー等の総称である。
【0021】
コンバータ2の一次側10の構成から説明する。
バッテリ12は、補助電源であり、充放電可能な二次電池である。一例としては、ニッケルー水素電池等、様々な種類の二次電池を用いることができる。二次電池の代わりに、充放電が可能な蓄電装置、例えばキャパシタを用いることが可能である。バッテリ12は、一定電圧で発電するバッテリーユニットを複数積層し直列接続することによって高電圧を出力可能とすることができる。
【0022】
バッテリコンピュータ14は、バッテリ12の出力端子に設けられており、電源制御部1と通信可能になっている。バッテリコンピュータ14は、バッテリ12の充電状態を監視し、バッテリが過充電や過放電に至らない適正な充電範囲内に維持するとともに、万が一バッテリに異常が生じた場合に安全を保つように保護動作をするようになっている。
【0023】
平滑用コンデンサ18は、コンバータ2の一次側回路構成である一次アームから発生するスイッチングノイズ等のリップル成分を除去する大容量キャパシタである。この平滑用コンデンサは、コンバータ2の性能に応じて不要にすることも可能である。
【0024】
なお、コンバータ2の一次側10には、一次側電圧を測定する電圧センサ16及び一次側電流を測定する電流センサ15が設けられている。
【0025】
次にコンバータ2の二次側20の構成を説明する。
平滑用コンデンサ22は、コンバータ2の二次側回路構成である二次アームから発生するスイッチングノイズ等のリップル成分を除去する大容量キャパシタである。この平滑用コンデンサは、コンバータ2の性能に応じて不要にすることも可能である。
【0026】
また、コンバータ2の二次側20には、二次側電圧を測定する電圧センサ23及び二次側電流を測定する電流センサ24が設けられている。
【0027】
燃料電池26は、主動力源であり、水素と酸素との電気化学反応を利用して発電するための構造を備えている。高電圧出力を得るために、燃料電池26は、各々が所定の電圧で発電する単位セルを、複数積層させたスタック構造とする。単位セルは、発電方式に応じて種々に構成することが可能である。高分子電解質型を用いる場合には、単位セルは、高分子電解質膜等をアノード極及びカソード極の二つの電極で狭み込んだMEAという発電体と、当該発電体を狭持し、燃料ガスと酸化ガスとを供給するための流路構造を備える一対のセパレータとで構成される。アノード極はアノード極用触媒層を多孔質支持層上に設けてあり、カソード極はカソード極用触媒層を多孔質支持層上に設けてある。その他、燃料電池の形態として、リン酸型、溶融炭酸塩型等を用いることが可能である。
【0028】
なお、燃料電池26を運転させるためには、燃料電池に燃料ガス(水素ガス)を供給し、排出された燃料オフガスを処理するための燃料ガス系、燃料電池に酸化ガス(空気)を供給し、排出された酸化オフガスで燃料オフガスを希釈するための酸化ガス系、燃料電池を冷却するための冷却系等、配管、各種弁、強制流通手段で構成される構造が必要であるが、ここでは説明を省略する。補機類44は、この強制流通手段の一部に相当している。
【0029】
インバータ30は、直流―交流変換器であり、コンバータ2の二次側20の直流電流を互いの位相差が120度の三相交流に変換するようになっている。インバータ30は、電源制御部1からのインバータ制御信号Ciによって電流制御がされるようになっている。同じく、インバータ42は、直流―交流変換器であり、コンバータ2の二次側20の直流電流を互いの位相差が120度の三相交流に変換し、補機類44に供給するようになっている。
【0030】
トラクションモータ32は、本電気自動車の主動力となるものであり、駆動時にはインバータ30から供給された三相交流によりトルクを発生し、減速時には回生電力を発生するように構成されている。ディファレンシャル34は機械的な減速装置であり、トラクションモータ32のトルクを所定の回転数に減速して伝達し、タイヤ40r及び40lが取り付けられたシャフト36を回転させる。シャフト36には車輪速センサ38が設けてあり、車輪速パルスSrを電源制御部1に出力可能になっている。
【0031】
電源制御部1は、電源制御用のコンピュータシステムであり、例えば中央処理装置(CPU)101、RAM102、ROM103等を備えている。電源制御部1は、アクセル位置信号Saやシフト位置信号Ss、車輪速センサ38からの車輪速信号Srその他の各種センサからの信号を入力している。そして、運転状態に応じた燃料電池26に対する要求発電量及びトラクションモータ32におけるトルクを求めて、燃料電池26、トラクションモータ32、及びバッテリ12の電力収支を計算し、コンバータ2やインバータ30における損失を加算した電源の全体制御を行うようにプログラムされている。
【0032】
電源制御部1は、コンバータ2の二次側20の電圧、すなわち燃料電池26の端子間電圧を規定する電圧指令値Vfcrを出力し、また多相構造を備えるコンバータ2における運転相数を規定する制御信号Cphを出力するようになっている。
【0033】
次に、本発明の多相コンバータに相当するコンバータ2の構造について説明する。
コンバータ2は、一次側(バッテリ側)10に入力された電力を、一次側10と異なる電圧値に変換して二次側(燃料電池側)20出力し、または、二次側20に入力された電力を二次側20とは異なる電圧値に変換して一次側10に出力するよう構成された双方向電圧変換器である。
【0034】
図1に示すように、本実施形態のコンバータ2は、三相構造の多相コンバータとしての構成を備えており、三相の相回路部P1、P2、及びP3を備える。この他、コンバータ2は、各相回路部P1〜P3の運転を制御するコンバータ制御部200を備えている。各相回路部P1〜P3は、コンバータ制御部200から供給される制御信号のタイミングが互いにπ/3ずつずれているのみであり、互いに同一の回路構成をしている。このため、特に必要のある場合を除き、一つの相回路部Pを代表して説明することとする。
【0035】
相回路部Pは、一次側10のアームであって、バッテリ12間に接続される第1のアームと、二次側20のアームであって、燃料電池26のアノード極―カソード極間に接続される第2のアームと、第1及び第2のアームを連結するリアクトルLとを備える。
【0036】
第1のアームは、バッテリ12の正極と負極との間に直列接続される二つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子Tr1及びTr2と、IGBT素子Tr1と並列接続されるダイオードD1と、IGBT素子Tr2と並列接続されるダイオードD2とを備える。IGBT素子Tr1のコレクタはバッテリ12の正極に、エミッタはノードN1に、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr1のベースには、コンバータ制御部200からの制御信号MUPが供給されている。ダイオードD1は、アノードがノードN1に、カソードがIGBT素子Tr1のコレクタに、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr2のコレクタはノードN1に、エミッタはバッテリ12の負極に、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr2のベースには、コンバータ制御部200からの制御信号MUNが供給されている。ダイオードD2は、アノードがIGBT素子Tr2のエミッタに、カソードがノードN1にそれぞれ接続されている。
【0037】
第2のアームは、燃料電池26のアノード極とカソード極との間に直列接続される二つのIGBT素子Tr3及びTr4と、IGBT素子Tr3と並列接続されるダイオードD3と、IGBT素子Tr4と並列接続されるダイオードD4とを備える。IGBT素子Tr3のコレクタは燃料電池26のアノード極に、エミッタはノードN2に、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr3のベースには、コンバータ制御部200からの制御信号GUPが供給されている。ダイオードD3は、アノードがノードN2に、カソードがIGBT素子Tr3のコレクタに、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr4のコレクタはノードN2に、エミッタはダイオード28を介して燃料電池26のカソード極に、それぞれ接続されている。IGBT素子Tr4のベースには、コンバータ制御部200からの制御信号GUNが供給されている。ダイオードD4は、アノードがIGBT素子Tr4のエミッタに、カソードがノードN2にそれぞれ接続されている。
【0038】
リアクトルLは、ノードN1とノードN2との間に接続されている。リアクトルLを流れる電流は、電流センサSiにより、検出信号ILとして検出可能になっている。さらに、各相回路Pは、四つのIGBT素子Tr1〜Tr4が共通の放熱板(図示しない)に接続され、その放熱板には温度センサStが設けられており、各相回路Pにおける素子温度の相対値を検出信号Tとして出力可能になっている。この温度センサは、各IGBT素子に設けられていてもよい。
【0039】
コンバータ制御部200は、図示しないがCPU部、バッファ、反転バッファ、デッドタイム生成部等により構成される専用コンピュータ装置となっている。CPU部は、フィードバック演算、フィードフォワード演算、PID制御演算を行って、IGBT素子スイッチングの基準パルスを出力するように構成されている。また、バッファ、反転バッファは、タイミング調整のための遅延素子であり、相補的な制御信号MUPとMUN、GUPとGUNがそれぞれ出力されるようになっている。
【0040】
ここで、フィードバック演算用のパラメータとしては、電源制御部1からの電圧指令値Vfcr及び電圧センサ23で検出されるインバータ電圧値VINVを入力している。フィードフォワード演算用のパラメータとしては、電圧指令値Vfcr及び電圧センサ16で検出されるバッテリ電圧値VBを入力している。デッドタイム補正演算用に電流センサSiで検出されたリアクトル電流値IL_P1〜IL_P3を各相別に入力している。
【0041】
コンバータ制御部200は、フィードバック処理として、電圧指令値Vfcrとインバータ電圧値VINVの偏差ΔVfcを演算し、この偏差ΔVfcに対し、比例項を乗算するためのP動作演算と、微分処理をするD動作演算と、積分処理をするI動作演算とを並行して実行し、それらの和信号Vfcを出力する。また、フィードフォワード処理として、電圧指令値Vfcrとバッテリ電圧値VBにより、Vfcr/(Vfcr+VB)を演算してこれを電圧値Vfcreqとして出力する。また、デッドタイム補正処理として、リアクトル電流値ILに基づいて、充電状態であるか放電状態であるか均衡状態であるかを反転し、それぞれの状態に応じて必要されるデューティー比の補正値を選択付加する。そしてコンバータ制御部200は、フィードバック処理による出力信号Vfc、フィードフォワード処理による電圧値Vfcreqとデッドタイム補正値とを加算して、基準パルスを生成するのである。コンバータ制御部200は、以上の構成により、各相回路部P1〜P3のIGBT素子Tr1〜Tr4のそれぞれに基準パルスに基づいて各IGBT素子をスイッチングする、個別の制御信号MUP_P1〜MUP_P3、MUN_P1〜MUN_P3、GUP_P1〜GUP_P3、GUN_P1〜GUN_P3を出力するようになっている。すなわち、IGBT素子Tr1〜Tr4に対するPWM制御を行い、エネルギの充放電を制御するようになっている。
【0042】
さらに、コンバータ制御部200は、本発明に係る各相の状態に応じた制御処理のため、各相回路部P1〜P3の温度センサStからの検出信号T_P1〜T_P3を入力している。コンバータ制御部200は、各相回路部の温度に基づき、各相の運転を制御するようになっている。
【0043】
上記構成において、コンバータ2の一次側10には、バッテリ12から、例えば200〜300Vの電圧範囲の直流電圧が供給され、二次側20には、燃料電池26から、例えば240〜500Vの電圧範囲の直流電圧が供給され、それぞれの電力需要に応じ、一次側10から二次側20への昇圧、または二次側20から一次側10への降圧が可能になっている。昇圧するか降圧するかは、その時の一次側電圧と二次側電圧によって定まる。一次側10から二次側20への放電、すなわち電流(電力)の供給か、二次側20から一次側10への充電、すなわち電流(電力)の供給かは、リアクトルLを流れる電流の向きによって定まる。リアクトルLを流れる電流(電力)の積分値が正であれば、一次側10から二次側20への放電であり、リアクトルLを流れる電流(電力)の積分値が負であれば、二次側20から一次側10への充電であり、電流の流れが反転し続け積分値がほぼゼロであれば、充放電が無くほぼ電力が拮抗した状態となる。
【0044】
図3は、IGBT素子のスイッチング基準信号である基準パルスのデューティー比Dが50%より小さい場合(D<50%)のリアクトル電流値ILの変化を示している。図4は、IGBT素子の基準パルスのデューティー比Dが50%より大きい場合(D>50%)のリアクトル電流値ILの変化を示している。このように、基準パルスのデューティー比Dを変更することで、リアクトル電流値ILを徐々に増やしたり減らしたりしていくことが可能である。基準パルスのデューティー比を一定値(例えば50%)に維持させれば、放電(充電)電流を一定に維持することが可能である。放電と充電とを切り替えは、コンバータ制御部200における基準パルスのデューティー比を変更することで実施される。例えば、充電状態である場合、デューティー比Dを上げて50%より多くし、リアクトル電流値ILを増加させ、積分値を負から正にすることで、充電から放電に切り替えることができる。逆に、放電状態である場合、デューティー比Dを下げて50%より小さくし、リアクトル電流値ILを減少させ、積分値を正から負にすることで、放電から充電に切り替えることができる。コンバータ制御部200は、上下アームが共にオン状態となって短絡される危険性を回避するために、IGBT素子に対するオン制御信号の供給タイミングを遅らせるデッドタイム処理、すなわちスイッチング前に総てのIGBT素子を一旦オフ状態とする処理を行っている。
【0045】
なお、基準パルスのデューティー比とリアクトル電流との関係は、誘導電圧Vが電流の変化率(=LdI/dt)に相関するため、コンバータの入出力電圧が変化しても大きく変わらない。図3及び図4は、コンバータの入力電圧と出力電圧が同じ程度の場合に成立する関係である。
【0046】
コンバータ2における具体的な動作を説明する。
バッテリ12からインバータ30への放電時には、まずIGBT素子Tr1及びTr4がオン状態に制御され、リアクトルLに一次側10からエネルギが蓄積される。次に、IGBT素子Tr1及びTr4が共にオフ状態に制御されると、リアクトルLに蓄積されていたエネルギがダイオードD2―リアクトルL―ダイオードD3という経路で放出され、コンバータ2の二次側20に電流が供給される。
【0047】
インバータ30からの回生電力のバッテリ12への充電時には、まずIGBT素子Tr2及びTr3がオン状態に制御され、リアクトルLに二次側20からエネルギが蓄積される。次いで、IGBT素子Tr2及びTr3が共にオフ状態に制御されると、リアクトルLに蓄積されていたエネルギがダイオードD4―リアクトルL―ダイオードD1という経路で放出され、コンバータ2の一次側10に電流が供給されるのである。
【0048】
次に、本発明の該当部分について説明する。
IGBT素子等のスイッチングトランジスタには、コレクタ−エミッタ間に流れる電流に対し、素子温度に応じて、通過電流許容値が設定されている。これ以上の電流が流れると、素子の破壊または寿命の低下、出力の低下をもたらすという安全上の臨界値である。これを表1に示す。
【表1】

【0049】
本実施形態1のコンバータ2では、各相回路Pの状態、すなわち相ごとの温度に基づいて制御対象量である電流量が補正、すなわち表1に示されるような通過電流許容値以下となるように電力分配されるようになっている。コンバータ制御部200は、表1に示すようなIGBT素子の通過電流許容値をデータテーブルの形式で内部のROMに格納し、または、通過電流許容値を所定の関数により求めることができるようになっている。
【0050】
図2のフローチャートに基づいて、コンバータ制御部200で実施される処理を説明する。
まず、各相回路部Pの温度センサStから供給された検出信号Stを参照して各相のIGBT素子が取り付けられている放熱板の温度、すなわち素子温度Tが計測される(S1)。各相の四つのIGBT素子それぞれに温度センサを設ける場合には、四つのIGBT素子それぞれについて計測された温度の平均値が算出され、または、最高温度が抽出される。
【0051】
次いで表1に示すような通過電流許容値のデータテーブルが参照され、計測された素子温度における通過電流許容値Imaxが取得される(S2)。関数により通過電流許容値を求める場合には、その関数に、計測された素子温度Tを代入して答えを演算する。
【0052】
同時に、電流センサSiから供給されている検出信号Siを参照して、現在その相回路部Pを流れているリアクトル電流ILを取得する(S3)。リアクトル電流ILは、IGBT素子のスイッチングタイミングに応じて、図3または図4のように変動するものであるため、スイッチングパルスの一周期等の一定期間中に絶対値が最大になったリアクトル電流ILを記録することが考えられる。
【0053】
そして、その相のリアクトル電流ILが通過電流許容値Imax以上に達しているか否かが計算される(S4)。もしもその相のリアクトル電流ILが通過電流許容値Imax以上となっていたら(S4:YES)、通過電流許容値Imax以上の電流がその相のIGBT素子を破損させるおそれがある。そこで、その相の電流削減が必要と判断して、現在のリアクトル電流ILが通過電流許容値Imaxから超越している差分を電流削減必要量ΔIとして計算する(S5)。リアクトル電流ILが通過電流許容値Imaxより少ない場合には(S4:NO)、動作上問題が無いため、特に何もしない。
【0054】
計測すべき相が残っている限り(S6:NO)、相毎に以上の処理(S1〜S5)を行い、総ての相についての計測が終了したら(S6:YES)、通過電流量を再配分する処理を行う(S8)。総ての相回路部P1〜P3について通過電流許容値Imax以内で運転されているなら再配分の必要はない。いずれかの相回路部Pについて通過電流許容値Imax以上となっているのなら、その相回路部については、通過電流許容値Imax以内となるように電流削減必要量ΔIだけリアクトル電流ILが削減されるように制御する。そして通過電流許容値Imax以内で運転されている他の相回路部Pに、この削減された電流削減必要量ΔIを補うように、リアクトル電流ILが増加されるように制御される。
【0055】
以上の制御により各相回路部Pの目標充放電電流量及びシステムの電力収支が定まるので、この新たな電流量に基づいて各相回路部P及び全体の制御が実施される(S9)。
【0056】
通過電流許容値Imax以内で運転されている相回路部Pが複数ある場合には、増加分となる電流量ΔIを均等に分配する。もしいずれかの相回路部Pにおいて、通過電流許容値Imaxまでの余裕度が少ない場合には、通過電流許容値Imaxを超えない程度にリアクトル電流ILが増加され、通過電流許容値Imaxまでの余裕の大きい相回路部に電流増加分が余計に振り分けられる。いずれの相回路部Pの余裕一杯にリアクトル電流ILを増加させても電流削減必要量ΔIを補いきれない場合には、コンバータ2を通過させ充電または放電させることのできる限界が決まるので、その限度量の範囲でシステムの電力収支が再計算される。コンバータ2は、電源制御部1に対してこの通過可能電流の限度量を告知する。電源制御部1は、コンバータ2の通過可能電流量に限度があることを把握して、コンバータ2に供給する電圧指令値Vfcr、またはインバータ30に供給する制御信号Ciを変更して、電力収支を均衡させる。
【0057】
例えば、相回路部P1においてΔIだけ電流削減が必要とされた場合、相回路部P2とP3とでΔI/2ずつリアクトル電流が増加される。相回路部P2の余裕度がΔI/4しか無かったとしたら、相回路部P2の増分がΔI/4に変更する代わりに、相回路部P3の増分がΔI3/4とされる。相回路部P2とP3の余裕度がΔI/4しか無かったとしたら、相回路部P2及びP3ともΔI/4ずつリアクトル電流ILが増加され、電力収支がΔI/2だけ不足することが電源制御部1に告知される。電源制御部1は、コンバータ2の放電が不足する場合には、バッテリ12からのインバータ30への供給電力が不足することが予測されるので、燃料電池26の発電量を上昇させる制御をしたり、インバータ30の通過電流を減少させ消費電力を抑えたりさせる。コンバータ2の充電が不足する場合には、インバータ30からバッテリ12への回生電力が減少するので、補機類44を動作させたりインバータ30の通過電流量を抑えたりさせる。
【0058】
次に、電力制御部1におけるシステム制御を簡単に説明する。
電力収支を計算する際、アクセル位置信号Saが参照され、アクセル開度の単位時間当たりの変化率(dSa/dt)が求められる。また車輪速センサ38からの車輪速信号Srが参照され、アクセル開度の変化率と車輪速に基づいて、直近で生じる出力増加量ΔPが推定される。
【0059】
図5に、アクセル開度変化率に対し、直近で必要な出力増加量ΔPがどのような傾向で変化するかを示す。このようにアクセル開度の変化率が大きいほど、出力増加量ΔPが大きくなる。
【0060】
また、ハイブリッド燃料電池システム100における負荷量を求めるため、車輪速信号Sr、アクセル位置信号Sa及びシフト位置信号Ssが参照され、これらかトラクションモータ32に必要とされるトルクが計算される。このトルク量はインバータ30が出力すべき三相交流電力の実効電力となる。このとき、図6に示すような、モータのトルクTと回転数Nとの関係テーブルが参照され、トルクが決定される。
【0061】
そして、燃料電池システムを動作させるために必要なポンプ、コンプレッサなどの補機類44の補機電力Psに、インバータ30やコンバータ2で生ずる電力損失も加算され、システム全体に要求される要求出力電力Prefが決定される。要求出力電力Prefが、バッテリ12及び燃料電池26により供給すべき電力となる。
【0062】
電力制御部1では、燃料電池26における出力を増加させる制御信号Cfcを出力して、燃料電池26の発電量が増加されるように制御する。しかし、燃料電池26の発電能力では要求出力電力Prefを補いきれない場合や、燃料電池26の出力増加まで時間を要する場合には、バッテリ12から一時的に放電させて電力収支の不足分を補い。すなわち、制御信号Cfcの出力から燃料電池26の出力が変化するまでには若干の時間がかかる。このような期間中、一時的にバッテリ12から、燃料電池スタック22からの電力供給が追いつかない電力収支の不足分を補完する。この不足分の電力がコンバータ2の通過電流になるのである。
【0063】
なお、上記実施形態では、通過電流許容値を超える電流量を他の相において補完していたが、単純に通過電流許容値を超える電流量ΔIをその相から減少させ、電力収支が全体でΔIの電流量に相当する量だけ減少することを告知するようにしてもよい。
【0064】
また、通過電流許容値を超えたことが発見されたら、その相回路部のみの運転を終了させてもよい。コンバータ制御部200が、その相に関する制御信号MUP,MUN,GUP、GUNを出力しないように、すなわち総てのIGBT素子でオフ状態が継続するように制御すればよい。その相の運転が停止することによる電流不足分については、他の相回路部Pの電流増加で補ってもよいし、電力収支が不足になることを告知しシステム全体の運転を再調整するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、実際の電流としてリアクトル電流ILを計測していたが、電流センサ15で計測されるコンバータ2の入力電流や電流センサ24で計測されるコンバータ2の出力電流を参照するようにしてもよい。
【0066】
以上説明したように、本実施形態1によれば、各相の素子温度に対応して通過電流許容値が取得され、その許容値内になるよう電流量が制限されるので、IGBT素子に流れる電流が過熱状態となることを防止することが可能である。
【0067】
また本実施形態1によれば、いずれかの相において電流が削減された場合には他の相においてその減少量を補うように電力の再配分がされるので、いずれかの相において通過電流許容値まで余裕がある限り、コンバータ2の通過電流が減少することが無い。
【0068】
すなわち、従来は、運転状態が好ましくないと判断される場合に、コンバータ全体の出力を停止していたが、これでは正常に動作している相の運転も同時に停止させることになるため、一定以上の出力が要求されている場合には好ましくない事態が生じうる。この点、本実施形態によれば、各相の温度に基づき、通過電流量が変化するのみであるため、出力低下を最小限にすることができる。
【0069】
また本実施形態1によれば、いずれの相においても電流削減量を補えない場合には、システム全体の電力収支が調整されるので、状況に応じた適切な運転が可能である。
【0070】
ここで、いずれかの相の状態が異常であることを示している場合には、その相の運転を停止させることは好ましい。この構成においても、運転を停止させるのは状態が異常である相のみであるため、コンバータ全体における出力の低下を最小限にさせることができるからである。
【0071】
(実施形態2)
本発明の実施形態2は、各相の通過電流許容値を超えた場合にその相の運転を停止させたり運転を再開させたりするコンバータに関する。
本実施形態2におけるハイブリッド燃料電池システムは、図1に示す実施形態1のものと同じであり、その説明を省略する。
【0072】
図7のフローチャートに基づいて、本実施形態2の処理を説明する。
各相回路部Pの温度センサStから供給された検出信号Stを参照して各相のIGBT素子が取り付けられている放熱板の温度、すなわち素子温度Tが計測される(S20)。各相の四つのIGBT素子それぞれに温度センサを設ける場合には、四つのIGBT素子それぞれについて計測された温度の平均値が算出され、または、最高温度が抽出される。
【0073】
次いで、実施形態1と同様に、通過電流許容値のデータテーブルが参照され、計測された素子温度における通過電流許容値Imaxが取得される(S21)。関数により通過電流許容値を求める場合には、その関数に、計測された素子温度Tを代入して答えを演算する。
【0074】
次いで、このコンバータ2において、既にいずれかの相回路部Pの運転が停止されているか否かが判定される(S22)。いずれの相回路部Pの運転も停止していない場合(NO)、その相の温度における通過電流許容値Imaxが、所定のしきい値Ith以下か否かが計算される(S26)。
【0075】
このしきい値Ithとは、通過電流許容値が極端に少なくないことを示す基準電流値である。例えば、表1において、素子温度が105℃以上になると通過電流許容値は0[A]である。その相に電流を流すことができないことを示している。このような温度である場合には温度が高すぎることを示しており、温度が再び低下するまではその相の運転を停止すべきである。したがって、しきい値Ithとしては、このような運転不可能な温度を識別するような電流許容値であればよい。例えば表1の例では、Ithを10[A]程度とすることができる。
【0076】
そこで、通過電流許容値Imaxがこのしきい値Ithより低くなっていたら(S26:YES)、その相は運転に不適な程度に温度が上昇していることを意味しているので、その相の運転を停止させる(S27)。その相についての制御信号MUP,MUN、GUP,GUNの供給を停止することで、総てのIGBT素子をオフ状態、すなわち運転停止状態とすることができる。本実施形態では、他の相による電流不足分の補完処理を実施しないので、運転停止とすることで供給できなくなる電流不足分を電源制御部1に告知し、負荷量の制限をする等の措置により、電力収支の再調整をさせる(S28)。
【0077】
一方、通過電流許容値Imaxがしきい値Ith以上である場合には(S26:NO)、動作上問題が無い程度の素子温度であると判断できるため、通常運転を継続させる(S29)。
【0078】
一方、ステップ22において、既にいずれかの相回路部Pの運転が停止されていた場合(YES)、その相についての素子温度がどの程度に変化したかすなわち通過電流許容値Imaxがどのようになったかが判定される(S23)。その相の素子温度Tから計測される通過電流許容値Imaxが相変わらずしきい値Ith以下である場合(S23:NO)、依然としてその相の素子温度は高く運転再開に適さないことを示している。そのまま運転停止を続行させる(S27)。
【0079】
ところがその相の素子温度Tから計測される通過電流許容値Imaxがしきい値Ith以上になっていたら(S23:YES)、その相が運転停止している間に冷却され運転再開可能になったことを示している。そこで、その相の運転を再開させる(S24)。その相についての制御信号MUP,MUN、GUP,GUNの供給を開始させることで、その相のスイッチング制御が開始し、運転を再開させることができる。そしてその相の運転が始まることで増える電流供給量の増加分を勘案したシステム制御が実施される(S25)。
【0080】
運転停止・再開を判断すべき相が残っている限り(S30:NO)、上記処理が実施され(S20〜S29)、総ての相についての計測が終了したら(S30:YES)、処理を終了させる。
【0081】
なお、上記実施形態では、ある相の運転を停止させた場合には、その相の運転停止に伴う電流量の不足を単純にシステム全体の電力収支の再配分で解消していたが、実施形態1と同様に、不足する電流量を他の相において補完するように構成してもよい。
【0082】
また、本実施形態では、実際のリアクトル電流ILやコンバータ2の入力または出力電流を計測することなく、素子温度のみを参照して相の運転を制御していたが、これら電流を測定し、測定された電流値が通過電流許容値を超えているか否かに基づいて各相回路部の運転停止の有無を制御してもよい。
【0083】
また、本実施形態では、相回路部Pの運転状態から運転停止状態に切り替えるためのしきい値Ith(ステップS26)と運転停止状態から運転状態に切り替えるためのしきい値Ith(ステップS23)とは同一の値を用いていたが、異ならせてもよい。温度変化は緩慢であるため、運転の停止・開始の臨界点において、温度センサにより検出される温度に含まれる誤差により、頻繁に相回路部Pの運転開始や停止が繰り返されるリンギングを生じる場合がある。また、運転させる相数を切り換えた直後、位相等が変動するため、一時的に出力が不安定になり、出力電圧が低下する場合がある。このような出力電圧の低下や変動は、出力電力の不安定化に繋がり、好ましくない。このような事態を防止するために、例えばステップS23で運転を再開させるためのしきい値Ith1を、ステップS26で運転停止させるためのしきい値Ith2より高く設定しておくことは好ましい(Ith1>Ith2)。
【0084】
図8に、このようにしきい値Ithを異ならせた場合の運転状況を示している。運転を再開させるためのしきい値Ith1と運転を停止させるためのしきい値Ith2を異ならせることで、運転に係る総相数変化に、図8のようなヒステリシスを持たせることができ、安定した運転切替が可能となる。
【0085】
以上、本実施形態2によれば、IGBT素子の温度に対応する通過電流許容値が所定のしきい値Ith以上でない場合にその相のみの運転を停止するように構成したので、通過電流許容値の相対的に大きい他の相の運転を停止させることがなく、温度上昇に伴う出力制限を最小限にすることができる。
【0086】
また本実施形態2によれば、運転停止・再開のしきい値を異ならせることで、運転特性にヒステリシス特性を持たせ、安定した運転制御が可能となる。
【0087】
(その他の実施形態)
本発明は上記実施形態以外にも種々に変更して適用することが可能である。
1)上記実施形態において、通過電流許容量を超える過電流により各相の運転が停止した場合、制御部は当該相の通過電流量または通過パワーが正常範囲であることを確認し、正常であることを確認できた場合に、運転が停止されている相の駆動を開始させて通常の運転に移行させるように構成することができる。
【0088】
2)また上記実施形態において、制御部は、各相の通過電流量または通過パワーを検出できない場合においても、スイッチング素子に過電流が流れるような過大な通過パワーは瞬間的なものであると考えられる。したがって、このような過電流により運転を停止した場合には、制御部は、一定時間経過するのを待って、運転を停止した相の駆動を再開するように制御してもよい。
【0089】
3)また上記実施形態において、各相に同じデューティー比の基準パルスを与えていても、各相の素子温度に差が出てしまう場合がある。このような場合、制御部は、各相のスイッチング素子の温度を検出し、素子温度に差が生じていた場合には、素子温度の差に対応させて各相に供給する基準パルスのデューティー比の補正をするように構成してもよい。この制御は、素子温度が相対的に高くなっている相への電流供給を減らし、素子温度がより低い相へ電流が集中していくように、基準パルスのデューティー比を補正するものである。各相へ供給される基準パルスのデューティー比が互いに異なるようになる。このような制御により、各相の温度がばらつくことによる不要な各相の通過電流または通過パワーの制限が実施されることを防止可能である。例えば、相間の素子温度に差が生じており、いずれか一相のみが高温となってしまった場合に通過電流または通過パワー制限制御が全相に及ぼされてしまう、といった事態を回避可能となる。
【0090】
4)さらに、上記実施形態では三相構造の多相コンバータであったが、二相コンバータや四相以上の多相コンバータにも本発明を適用可能である。
【0091】
5)また上記実施形態では、IGBT素子を用いる三相ブリッジ形コンバータを例示したが、当該回路構成に限定されるわけではなく、複数相を備え、各相が独立して運転制御可能に構成されている多相コンバータであれば、本発明を適用可能である。
【0092】
6)また上記実施形態では、移動体である車両上に搭載されるハイブリッド燃料電池システムを例示したが、本発明の多相コンバータが適用されるハイブリッド燃料電池システムは、自動車のみならず、他の移動体、例えば、船舶、航空機等に搭載されるものであってもよい。また、定置型のハイブリッド燃料電池システムにおいて本発明を適用しても無論よい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本実施形態に係るハイブリッド燃料電池システムのブロック図
【図2】実施形態1の多相コンバータの制御方法を示すフローチャート
【図3】デューティー比<50%のリアクトル電流ILの制御電流波形図
【図4】デューティー比>50%のリアクトル電流ILの制御電流波形図
【図5】アクセル開度変化率及び車輪速に対する出力増加量推定値の関係図。
【図6】回転数Nに対するトルクTの特性図。
【図7】実施形態1の多相コンバータの制御方法を示すフローチャート
【図8】多相コンバータにおける相数切換制御ヒステリシス図
【符号の説明】
【0094】
Sa…アクセル位置信号、Ss…シフト位置信号、Sr…車輪速信号、Ci…インバータ制御信号、Cph…相数切換制御信号、VINV…インバータ電圧(二次側電圧)、VB…バッテリ電圧(一次側電圧)、100…ハイブリッド燃料電池システム、1…電源制御部、2…コンバータ(多相コンバータ)、10…一次側、12…バッテリ、14…バッテリコンピュータ、15、24、Si…電流センサ、16、23…電圧センサ、18、22…平滑用コンデンサ、20…二次側、26…燃料電池、28…逆流防止用ダイオード、30、42…インバータ、32…トラクションモータ、34…減速機、36…シャフト、38…車輪速センサ、40r、40l…車輪、44…補機類、101…CPU、102…RAM、103…ROM、110…モータ制御部、200…コンバータ制御部、Tr1〜Tr4…IGBT素子、D1〜D4…ダイオード、L…リアクトル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を変換する多相コンバータであって、
独立して制御対象量を変更可能な複数の相と、
該各相の状態を検出する検出装置と、
該各相に対する制御対象量を規定する制御信号を供給する制御部と、を備え、
該検出装置によって検出された該各相の状態に基づいて、該相ごとに制御対象量を補正する制御信号が供給されること、を特徴とする多相コンバータ。
【請求項2】
前記制御対象量は、前記各相を通過する電流量である、請求項1に記載の多相コンバータ。
【請求項3】
前記各相の状態とは、前記相ごとの温度であり、前記温度に対応して設定された通過電流許容値に応じて、対応する相を通過する電流値を制限させる、請求項2に記載の多相コンバータ。
【請求項4】
いずれかの相の前記状態が異常であることを示している場合には、その相の運転を停止させる、請求項1に記載の多相コンバータ。
【請求項5】
いずれかの相の制御対象量が制限されている場合には、負荷量を、該制御対象量に対応させて制限する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多相コンバータ。
【請求項6】
電圧を変換する多相コンバータであって、
スイッチング素子で構成され、独立して通過電流量を変更可能な複数の相と、
該各相における該スイッチング素子の温度を検出する検出装置と、
該各相の該スイッチング素子に独立して制御信号を供給する制御部と、を備え、
該検出装置によって検出された該各相の温度と、該温度に対応して設定された通過電流許容値とに基づいて、該スイッチング素子に対する制御信号を変化させて、相ごとの通過電流量が補正されること、を特徴とする多相コンバータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の多相コンバータが燃料電池とバッテリとの間に設けられていることを特徴とするハイブリッド燃料電池システム。
【請求項8】
複数相を備え、該相ごとに制御対象量が制御可能に構成された多相コンバータの電源制御方法であって、
該各相の状態を検出するステップと、
検出された該各相の該状態に基づいて、該各相における制御対象量の総計が維持されるように該相ごとに制御対象量を分配して補正するステップと、
を備えたことを特徴とする多相コンバータの電源制御方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−159315(P2007−159315A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353652(P2005−353652)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】