説明

多糖類の溶解に用いられる溶媒ならびに該溶媒を用いた成形体および多糖類誘導体の製造方法

【課題】本発明の目的は、多糖類の結晶形態に依存することなく、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解することが可能な溶媒、該溶媒を用いた成形体の製造方法および多糖類誘導体の製造方法を提供することである。
【解決手段】下記式で表わされるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有割合が35重量%以上である溶媒を用いる。
【化1】


式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類の溶解に用いられる溶媒、ならびに、該溶媒を用いた成形体および多糖類誘導体の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、多糖類の結晶形態に依存せず、特別な前処理を必要とせず、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解する溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源の枯渇や地球温暖化問題などの資源環境問題は、21世紀における重大な問題の1つである。これらの問題を解決するため、環境にやさしく、かつ、豊富で永続可能な代替資源技術の確立が求められている。多糖類等のバイオマスは、地球上に最も大量に存在し、しかも再生可能な有機資源である。なかでも、セルロースは、地球上で年間約4000億トン産出されており、最も豊富なバイオマスである。セルロースの主要な用途は、繊維、紙およびフィルムなどである。しかしながら、セルロースは、溶融性および溶解性が極めて乏しいため、成形加工性に課題があり、その用途が著しく制限されている。そのため、より簡便なセルロースの溶解方法が求められている。
【0003】
化学変化に依らずセルロースを直接溶解する方法として、N−メチルモルホリン−N−オキシド/水系混合溶媒法(例えば、特許文献1)および塩化リチウムとN,N−ジメチルアセトアミドの混合物溶解方法が知られている(例えば、非特許文献1)。N−メチルモルホリン−N−オキシド/水系混合溶媒は、工業的に実用化されている唯一のセルロース直接溶解性溶媒である。該溶媒は、セルロースを溶解するためには130℃付近まで加熱する必要がある。該溶媒は約150℃で爆発するおそれがあるため、作業には危険が伴う。また、このような高温域では、溶解したセルロースが急速に分解されるため、それを防止するための添加剤が必要不可欠である。
【0004】
塩化リチウムとN,N’−ジメチルアセトアミドとの混合物は、溶解させるセルロースの種類によっては、セルロースを分散させたセルロース懸濁液を100℃以上で長時間加熱する、または、予め水やアルコールに長時間浸しセルロースを膨潤させるなどの前処理が必要となる。そのため、簡便にセルロースを溶解させることが困難である。また、該加熱工程においてセルロースの分子鎖が切断され、溶解前のセルロースに比べ、強度が低下するおそれがある。これらの問題から、塩化リチウムとN,N’−ジメチルアセトアミドとの混合物は、実験室規模での使用に限定されており、工業化には至っていない。
【0005】
他の方法として、高濃度のチオシアン酸ナトリウム水溶液を用いてセルロースを溶解する方法が知られている(例えば、特許文献2)。しかしながら、該溶媒系は、水酸化ナトリウム水溶液で処理したII型と呼ばれるセルロース、または、結晶状態ではない無定型セルロースは溶解できるが、天然型のセルロースに適用することができない。また、当該方法においても100℃以上の加熱工程が必要であるため、得られたセルロースの強度が低下するおそれがある。
【0006】
近年、イミダゾリウム系イオン液体を用いたセルロースの溶解方法が提案されている。当該方法は、セルロースの溶解力が高く、環境への負荷が少ないことから注目されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、イオン液体を用いたセルロース溶液は、高粘度でありゲル化しやすいため、得られたセルロース溶液は成形加工性に問題がある。また、イオン液体にアミノ塩基を添加することにより、セルロース溶解性を発現または向上させる方法が知られている(例えば、特許文献4)。しかしながら、当該方法でも、セルロースの溶解度は限定的であり、より向上させる必要がある。また、アミノ塩基の添加により、セルロースが分解するおそれがある。アミンをテトラアルキルアンモニウム塩とジメチルスルホキシド(DMSO)の混合液に添加し、セルロースを溶解する方法が知られている(例えば、特許文献5)。しかしながら、当該方法においてもセルロースの溶解度は改善の余地がある。また、当該方法においても、セルロースがアミンにより分解するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,447,939号
【特許文献2】特開平8−158148号公報
【特許文献3】米国特許第6,824,599号
【特許文献4】特表2008−535992号公報
【特許文献5】特開平1−193337号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.L.McCormick and D.K.Lichatowich, J. Polym. Sci. :Polym. Lett. Ed., 17, 479−484 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とするものであり、多糖類の結晶形態に依存することなく、さらに特別な前処理を必要とすることなく、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解することが可能な溶媒、ならびに、該溶媒を用いた成形体および多糖類誘導体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶媒は、多糖類の溶解に用いられる溶媒であって、下記式で表わされるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含有し、該非プロトン性極性溶媒の含有量が35重量%以上である。
【化1】

式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。
好ましい実施形態においては、上記テトラアルキルアンモニウムアセテートはテトラブチルアンモニウムアセテートである。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒のドナー数は20〜50である。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒がアミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である。
好ましい実施形態においては、上記非プロトン性極性溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン、4−メチルピリジンおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。
好ましい実施形態においては、上記多糖類は、セルロース、ヘミセルロース、澱粉およびキチンである。
本発明の別の局面によれば、成形体の製造方法が提供される。該成形体の製造方法は、上記溶媒および多糖類を含む溶液を調製する工程、および、該溶液を用いて成形体を形成する工程を含む。
本発明の別の局面によれば、多糖類誘導体の製造方法が提供される。該多糖類誘導体の製造方法は、上記溶媒および多糖類を含む溶液を調製する工程、および、該溶液を用いて多糖類を誘導体化する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多糖類の結晶形態に依存することなく、さらに特別な前処理を必要とすることなく、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解することができる溶媒が提供される。また、本発明の溶媒は、陰イオンとしてハロゲンを含むアンモニウム塩を用いないため、環境への負荷が小さい。さらに、本発明の溶媒を用いて多糖類を溶解した溶液は、室温でも流動性を有するものであり、優れた成形加工性を有する。また、本発明の溶媒は多糖類の反応溶液としても用いることができ、本発明の溶媒を用いて多糖類を溶解した溶液を用いることにより、簡便に多糖類誘導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例で得られたセルロース溶液の写真である。
【図2】比較例で得られたセルロース溶液の写真である。
【図3】別の比較例で得られたセルロース溶液の写真である。
【図4】本発明の別の実施例で得られたセルロース繊維の写真である。
【図5】実施例20で得られたセルロースフィルムの写真である。
【図6】実施例21で得られたセルロースアセテートと市販のセルロースアセテートのIRスペクトルである。
【図7】実施例22で得られたセルロースブチレートと市販のセルロースブチレートのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A.多糖類溶解に用いられる溶媒>
本発明の溶媒は、多糖類の溶解に用いられる溶媒である。本発明の溶媒を用いることにより、多糖類の結晶形態に依存することなく、多糖類の前処理工程を経ることなく、多糖類を短時間で、かつ、均一に溶解することができる。該溶媒は、下記式で表わされるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む。本発明の溶媒は、陰イオンとして、ハロゲンを含まない。したがって、環境への負荷を低減することができる。
【化2】

【0014】
上記式中R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。R、R、RおよびRが炭素数2以下のアルキル基または炭素数7以上のアルキル基である場合、溶媒の多糖類の溶解性が低下する、または、多糖類を溶解できないおそれがある。R、R、RおよびRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。テトラアルキルアンモニウムアセテートは、好ましくはテトラブチルアンモニウムアセテート、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラペンチルアンモニウムアセテート、テトラへキシルアンモニウムアセテートであり、より好ましくはテトラブチルアンモニウムアセテートである。該テトラアルキルアンモニウムアセテートは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明の溶媒における上記テトラアルキルアンモニウムアセテートの含有割合は、好ましくは0.1重量%〜65重量%であり、より好ましくは1重量%〜55重量%であり、さらに好ましくは3重量%〜45重量%であり、特に好ましくは5重量%〜35重量%である。テトラアルキルアンモニウムアセテートの含有割合が0.1重量%未満の場合には、多糖類を十分に溶解できないおそれがある。テトラアルキルアンモニウムアセテートの含有割合が65重量%を超える場合には、多糖類の溶解性および溶解速度が低下するおそれがある。本発明の溶媒は、多糖類の高い溶解性を有し、かつ、溶解された多糖類の分解等の弊害を抑えることができるため、成形体の製造用途等に好適に用いることができる。
【0016】
本発明では、非プロトン性極性溶媒を用いる。上記テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒とを用いることにより、多糖類の結晶形態に依存せず、多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解できる溶媒が得られる。非プロトン性極性溶媒に代えて、プロトン性溶媒を用いた場合、該プロトン性溶媒がプロトンを供与することにより、テトラアルキルアンモニウムアセテートの陰イオンであるカルボン酸基と優先的に水素結合を形成する。そのため、多糖類の溶解性を失う、または、多糖類の溶解性が顕著に低下するおそれがある。
【0017】
非プロトン性極性溶媒としては、任意の適切な溶媒を用いることができ、好ましくはアミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、ピリジン、4−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、および、これらの誘導体等が挙げられる。なかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジン、4−メチルピリジン、および、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0018】
上記非プロトン性極性溶媒は、ドナー数が好ましくは20〜50であり、より好ましくは25〜40であり、さらに好ましくは25〜35である。非プロトン性極性溶媒は、強い水素結合アクセプター性とテトラアルキルアンモニウムアセテートと類似の溶解度パラメーターを有することが好ましい。すなわち、ドナー数が50を超える場合、非プロトン性極性溶媒とテトラアルキルアンモニウムアセテートとの相溶性が低下するおそれがある。また、ドナー数が20未満の場合、非プロトン性極性溶媒の水素結合アクセプター性が低下し、多糖類の溶解性が低下するおそれがある。なお、ドナー数とは、溶媒分子がルイス塩基として作用する際の電子対供与性を示す尺度の一つであり、1,2−ジクロロエタン中で3〜10mol/LのSbClと溶媒分子とが反応する際のエンタルピーをkcal/mol単位で表した時の絶対値をいう。
【0019】
例えば、上記で例示した非プロトン性極性溶媒のドナー数は、N,N−ジメチルホルムアミドは26.6、N,N−ジエチルホルムアミドは30.9、N,N−ジメチルアセトアミドは27.8、N,N−ジエチルアセトアミドは32.2、ジメチルスルホキシドは29.8、N−メチル−2−ピロリドンは27.3、N,N’−ジメチルプロピレン尿素は29.3、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)は27.8、テトラメチル尿素は31.0、テトラエチル尿素は28.0、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素は29.6、ピリジンは33.1、4−メチルピリジンは31.5、2,6−ジメチルピリジンは33.0、2,4,6−トリメチルピリジンは32.7である。本明細書においては、各非プロトン性極性溶媒のドナー数はGutmann法により測定した値である。
【0020】
上記非プロトン性極性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、ドナー数が20〜50の範囲にある非プロトン性極性溶媒とドナー数がこの範囲外である非プロトン性極性溶媒とを組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明の溶媒において、上記非プロトン性極性溶媒の含有割合は35重量%以上である。非プロトン性極性溶媒の含有割合を35重量%以上とすることにより、多糖類の結晶形態に依存せず、多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解できる溶媒が得られる。上記非プロトン性極性溶媒の含有割合は、好ましくは35重量%〜99.9重量%であり、より好ましくは45重量%〜99重量%であり、さらに好ましくは55重量%〜97重量%である。上記の通り、本発明は、テトラアルキルアンモニウムアセテートの含有割合を低減することができるため、従来の多糖類の溶解に用いられる溶媒に比べて、非プロトン性極性溶媒の含有割合が多い。そのため、多糖類を溶解した溶液は高い流動性を有しており、成形品の加工に好適に用いることができる。
【0022】
本発明の溶媒の効果は、上記の通り、多糖類の溶解性および溶解速度が向上し、さらに多糖類を溶解後の溶液の粘度の上昇が抑えられることである。これらの効果は、上記非プロトン性極性溶媒およびテトラアルキルアンモニウムアセテートの種類を適宜組み合わせることにより、調整することができる。
【0023】
本発明の溶媒中での多糖類の溶解メカニズムは、塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド混合溶媒におけるメカニズムと類似すると推測される。以下、多糖類としてセルロースを、非プロトン性極性溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を用いた場合を例として、溶解メカニズムを説明する。1)溶媒中でテトラアルキルアンモニウムアセテートはDMAc分子により陰イオン(CHCOO)と陽イオン(TAA)とに分かれる。2)TAAはDMAcの酸素と相互作用し、マクロカチオン([DMAc+TAA])を形成する。3)CHCOOはセルロースの水酸基間の水素結合を破り、自らセルロースの酸素と水素結合を形成する。4)該マクロカチオンがセルロースの酸素と弱い相互作用を形成する。つまり、溶媒中で、本発明の溶媒とセルロースとが下記のような形態をとっていると推測される。本発明の溶媒では、多糖類の前処理工程を経ることなく、本発明の溶媒と多糖類とが下記のような形態をとることにより、多糖類の結晶形態に依存せず、多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解できると考えられる。
【化3】

【0024】
本発明の溶媒は、多糖類の反応溶媒としても好適に用いることができる。本発明の溶媒は多糖類の任意の適切な反応の反応溶媒として用いることができ、該反応としては、例えば、エステル化反応、エーテル化反応、ハロゲン化反応等の誘導体化反応、および、加水分解反応(糖化反応)、加溶媒分解、酸化反応、グラフト化反応、架橋反応、ウレタン化反応、多糖類に含まれる炭素の置換反応等が挙げられる。多糖類を誘導体化することにより、例えば、多糖類に耐水性、耐熱性、対紫外線性、溶媒溶解性、熱可塑性、加工性等の性能を付与することができる。また、多糖類を加水分解することにより、グルコースやオリゴ糖を得ることもできる。本発明の溶媒は、多糖類の結晶形態に依存せず、多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解できるものであり、多糖類の溶解性にも優れる。したがって、一度の反応過程において、より多量の多糖類を反応させることが可能となる。また、本発明の溶媒は均一反応系であるため、マイルドな条件で、かつ、短時間で多糖類を反応させることができ、多糖類の修飾率の制御、または、水酸基の選択修飾反応も可能であるという点から、多糖類の反応溶媒として好適に用いることができる。
【0025】
本発明の溶媒を用いて溶解することができる多糖類としては、制限はなく、天然の多糖類であってもよく、再生多糖類であってもよい。具体的には、セルロース、ヘミセルロース、澱粉、キチン等が挙げられる。また、該多糖類は、リグニン、タンニンおよびタンパク質等の他の高分子を含む多糖類であってもよい。これらの多糖類の形態は、制限はなく、繊維状であってもよく、粒子状であってもよく、綿状であってもよい。また、多糖類は結晶状態であってもよく、結晶状態でない(例えば、無定型セルロース)ものであってもよい。また、本発明の溶媒は、上記多糖類を含む材料の溶解にも用いることができる。該多糖類を含む材料は、多糖類のみで構成された材料であってもよく、該多糖類と他の成分とで構成された材料であってもよい。該多糖類と他の成分とで構成された材料を本発明の溶媒に溶解することにより、所望の多糖類を取り出すことも可能となる。該材料としては、特に制限はなく、紙、繊維、織物、フィルム等が挙げられる。本発明の溶媒によれば、多糖類の種類等に制限されることなく、短時間で、かつ、均一に溶解させることができる。本発明の溶媒を用いることにより、多糖類を溶解した溶液の粘度が抑えられ、良好な流動性を有しており、優れた成形加工性を有する。
【0026】
本発明の溶媒を用いて多糖類を溶解する場合、上記多糖類の含有割合は、用いる多糖類の重合度および結晶度に応じて適宜設定され得る。好ましくは、上記多糖類の含有割合は0.1重量%〜50重量%である。多糖類の含有割合が上記範囲内であれば、本発明の溶媒の優れた溶解性を維持し、かつ、多糖類を溶解後の溶液の粘性が抑えられ、良好な流動性および優れた成形加工性を有する溶液が得られる。
【0027】
<B.成形体の製造方法>
本発明の成形体の製造方法は、上記溶媒および多糖類を含む溶液(以下、多糖類含有溶液ともいう)を調製する工程、および、該多糖類含有溶液を用いて成形体を形成する工程を含む。
【0028】
<B−1.多糖類含有溶液の調製工程>
本発明の溶媒および多糖類を含む溶液の調製工程は、任意の適切な手段により行うことができる。例えば、本発明の溶媒に多糖類、および、必要に応じて任意の添加剤を加え、任意の撹拌手段および必要に応じて加熱しながら溶解することにより、調製され得る。
【0029】
上記添加剤は、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、抗酸化剤、可塑剤、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、他の高分子材料等が挙げられる。該添加剤の配合量は、添加剤の種類や使用目的に応じて、適宜設定すればよい。
【0030】
上記多糖類含有溶液中の多糖類の含有割合は、特に制限はなく、多糖類の重合度および/または成形体の種類に応じて、適宜設定すればよい。好ましくは、多糖類の含有割合は0.1重量%〜50重量%である。多糖類の含有割合をこの範囲に設定することにより、多糖類含有溶液の粘性を抑えることができるため、良好な流動性を有し、それにより優れた成形加工性を発揮し得る。
【0031】
上記多糖類を溶解する温度は、任意の適切な値に設定すればよく、例えば、0℃〜100℃の範囲に設定され、好ましくは0℃〜95℃の範囲、より好ましくは10℃〜80℃の範囲、さらに好ましくは20℃〜70℃の範囲である。多糖類を溶解する温度が低すぎる場合(例えば、0℃未満の場合)には、多糖類の溶解速度が低下し、また、得られる多糖類含有溶液の粘度が高くなるおそれがある。また、溶解する温度が高すぎる場合(例えば、120℃を超える場合)には、テトラアルキルアンモニウムアセテート、非プロトン性極性溶媒、または、多糖類の分解が起こるおそれがある。従来の多糖類の溶解に用いられる溶媒は、高い温度に加熱して多糖類を溶解する必要があり、作業の安全性および溶解後に得られる多糖類の品質に問題がある。本発明の溶媒によれば、例えば、60℃以下という従来の溶媒では多糖類の溶解が困難な温度あっても、多糖類の結晶形態に依存せず、多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解できる。
【0032】
上記溶解温度に設定する際の加熱方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、多糖類を溶解する際に通常用いられる加熱方法(例えば、加熱スターラー)、および、マイクロ波加熱法等が挙げられる。
【0033】
多糖類の溶解方法は、任意の適切な手段を用いて行うことができる。例えば、溶媒の含有量が多く、流動性の高い多糖類含有溶液を調製する場合には、機械撹拌および超音波振動を好適に用いることができ、多糖類の含有量が多く、ある程度の粘性を有する多糖類含有溶液を調製する場合には、二軸押出混練機およびニーダーを好適に用いることができる。これらの手段によれば、多糖類の溶解速度を促進することができ、かつ、得られた多糖類含有溶液の均一性をより向上させることができる。
【0034】
また、上記多糖類の溶解は、不活性ガス中で行ってもよい。不活性ガス中で多糖類を溶解させることにより、多糖類の重合度の低下を防止することができる。
【0035】
<B−2.成形体の形成工程>
上記多糖類含有溶液は、粘度が抑えられ、良好な流動性を有しており、優れた成形加工性を有する。したがって、所望の成形体をより効率よく製造することができる。該成形体としては、制限はなく、例えば、繊維、フィルム、粒子、多孔体、カプセル等が挙げられる。
【0036】
上記成形体の形成工程は、制限はなく、所望の成形体に応じて、適宜選択することができる。例えば、多糖類を用いた繊維を形成する場合には、乾式紡糸法および湿式紡糸法等により、成形体を形成することができる。具体的には、湿式紡糸法を用いて繊維を形成する場合、テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を抽出し得る溶媒(以下、凝固剤ともいう)を含む凝固浴中に多糖類含有溶液を吐出し、非プロトン性極性溶媒等を除去し多糖類を固化させ、該固化した多糖類を延伸し、乾燥することにより得られ得る。
【0037】
また、多糖類を用いたフィルムを形成する方法としては、任意の適切な方法を用いることができ、例えば、ソルベントキャスティング法等を用いることができる。具体的には、任意の支持体上に多糖類含有溶液を流延した後、多糖類含有溶液を流延させた該支持体を上記凝固剤を含む凝固浴に浸漬させ、テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒等を除去し多糖類を固化させ、乾燥させることにより得られ得る。
【0038】
上記凝固剤としては、テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を抽出し得る溶剤であればよく、無機系溶剤であってもよく、有機系溶剤であってもよい。具体的には、水;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;等が挙げられる。なかでも、水、アセトン、メタノール、エタノールが、安価であり、沸点が低く、凝固性が良いという点から好適に用いられる。
【0039】
上記凝固浴の温度は、該多糖類含有溶液に含まれる非プロトン性極性溶媒等が除去可能な温度であればよく、例えば、0℃〜100℃、または、凝固剤の沸点以下の温度に設定され得る。
【0040】
上記乾燥温度は、成形体の形成工程で用いた溶媒および多糖類含有溶液に含まれる非プロトン性極性溶媒等を除去可能な温度であればよく、例えば、40℃〜120℃である。乾燥手段としては、任意の適切な手段を用いることができ、例えば、加熱ロール、温風による乾燥等が挙げられる。
【0041】
<C.多糖類誘導体の製造方法>
本発明の多糖類誘導体の製造方法は、上記溶媒および多糖類を含む溶液(以下、多糖類含有溶液ともいう)を調製する工程、および、該多糖類含有溶液を用いて該多糖類を誘導体化する工程を含む。
【0042】
<C−1.多糖類含有溶液を調製する工程>
本発明の溶媒および多糖類を含む溶液の調製工程は、任意の適切な手段により行うことができる。具体的には、上記B−1項と同様の工程により、多糖類含有溶液を調製することができる。
【0043】
<C−2.多糖類を誘導体化する工程>
本発明の溶媒は、多糖類の反応溶媒としても好適に用いることができるものである。そのため、上記多糖類含有溶液を用いることにより、より簡便に多糖類を誘導体化することができる。さらに、上記多糖類含有溶液を用いることにより、多糖類の修飾率の制御、または、水酸基の選択修飾反応も容易に行うことができる。
【0044】
上記多糖類を誘導体化する工程は、任意の適切な方法により行うことができる。例えば、上記多糖類含有溶液に所望の官能基を有する化合物を加え、必要に応じて、30℃から90℃の範囲で加熱しながら、該溶液を撹拌することにより所望の多糖類誘導体が得られる。
【0045】
前記多糖類を誘導体化する反応は、好ましくはエステル化反応および/またはエーテル化反応であり、より好ましくはエステル化反応である。エステル化反応およびエーテル化反応を施す場合、これらの反応を単独で順次行ってもよく、同時に行ってもよい。
【0046】
<C−2−1.エステル化反応>
上記エステル化反応は、多糖類の水酸基の一部又は全てをエステル結合によって修飾し、多糖類のエステルへ変換させる反応を含む。上記エステルは、適宜選択することができ、例えば、アセテート、アセテートプロピオネート、アセテートブチレート、フタレートが挙げられる。上記エステルは、1種のみ含まれていてもよく、2種以上のエステルを含む混合エステルであってもよい。
【0047】
エステル化剤としては、任意の適切なエステル化剤を用いることができ、好ましくは酸塩化物または酸無水物である。上記酸塩化物としては、任意の適切な酸塩化物を用いることができ、例えば、塩化プロピオニル、塩化ブチリル、塩化オクタノイル、塩化ステアロイル、塩化ベンゾイル、塩化パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。また、酸塩化物の反応においては、触媒として働くと同時に、副生物である酸性物質を中和する目的でアルカリ性化合物を添加してもよい。アルカリ性物質としては、任意の適切なアルカリ性物質を用いることができ、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物やピリジン、ジメチルアミノピリジン等の有機アルカリ性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリ性物質が挙げられる。
【0048】
上記酸無水物としては、任意の適切な酸無水物を用いることができ、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族の酸無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸等の二塩基酸無水物が挙げられる。また、酸無水物の反応においては触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性触媒、または、トリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を添加してもよい。
【0049】
<C−2−2.エーテル化反応>
上記エーテル化反応は、多糖類の一部または全ての水酸基をエーテル結合させる反応を含む。上記エーテルは、1種のみであってもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0050】
エーテル化剤としては、任意の適切なエーテル化剤を用いることができ、例えば、炭素数1〜10のクロライドまたはブロマイド、具体的にはメチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、エチルブロマイド、プロピルクロライド、プロピルブロマイドが挙げられる。また、上記エーテル化反応において、さらに触媒を添加してもよい。触媒としては、任意の適切な触媒を用いることができる。例えば、上記エステル化反応に使用される触媒を用いることができ、有機アルカリ性物質または無機アルカリ性物質が挙げられる。具体的には、トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の有機アルカリ性物質、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリ性物質が挙げられる。
【実施例】
【0051】
本発明について、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
10mlのバイアル瓶にN,N−ジメチルアセトアミド(特級、ドナー数:27.8)1gとテトラブチルアンモニウムアセテート(東京化成社製)0.4gを加え、60℃で磁性攪拌子で攪拌しながらテトブチルアンモニウムを溶解した(テトラアルキルアンモニウムアセテート:N,N−ジメチルアセトアミド=28:72(重量比))。該溶液を加熱スターラーで60℃に加熱し、撹拌しながら、微結晶セルロース(メルク社製、商品名Cellulose microcrystalline)0.14gを溶解させた。得られたセルロース溶液を偏光顕微鏡を用いて観察し、複屈折を示す物質が確認されなくなった時点をセルロースが完全に溶解した時点とし、セルロースの溶解時間を測定した。結果を表1に示す。得られたセルロース溶液の外観を撮影した写真を図1に示す。
【0053】
[実施例2〜14]
N,N−ジメチルアセトアミドに代えて、表1に記載した非プロトン性極性溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、セルロースの溶解時間を測定した。5時間連続撹拌後も複屈折を示す物質が確認された場合は、その時点で撹拌を止め、セルロース溶液の状態を目視で確認した。
5時間連続撹拌後も複屈折を示す物質が確認された非プロトン性極性溶媒については、微結晶セルロースを0.07gとした以外は実施例1と同様にして、再度セルロースの溶解時間を測定した。各実施例の結果を表1に示す。実施例2〜5のセルロース溶液の外観を撮影した写真を図1に示す。
【0054】
(比較例1)
N,N−ジメチルアセトアミドに代えてメタノール(特級、ドナー数:19)を用いた以外は実施例1と同様にして、セルロースの溶解時間を測定した。結果を表2に示す。この溶液は、5時間連続攪拌後も複屈折を示す物質が確認された。
再度、N,N−ジメチルアセトアミドに代えてメタノールを用いた以外は実施例1と同様にして、該溶液を加熱スターラーで60℃に加熱しながら3時間撹拌した。次いで、該溶液を室温で放置し、溶液の状態を目視で観察した。得られた溶液の外観の写真を図2に示す。撹拌後の溶液は白い分散液であった。この分散液を室温で放置したところ、一定時間を経過後、上の無色透明層と下の白い多糖類析出層に分離した。
【0055】
(比較例2)
メタノールに代えて水(ドナー数:18)を用いた以外は比較例1と同様にして、セルロースを溶解させた。結果を表2に示す。この溶液は、5時間連続攪拌後も複屈折を示す物質が確認された。次いで、比較例1と同様にして再度溶解させ、加熱した状態、および、室温で放置後の溶液の状態を目視で確認した。得られた溶液の室温で放置後の外観の写真を図2に示す。いずれの状態においても撹拌後の溶液は白濁した分散液であった。この分散液は、時間が経っても層分離が発生しなかった。
【0056】
(比較例3)
メタノールに代えてホルムアミド(特級、ドナー数:24)を用いた以外は比較例1と同様にセルロースを溶解させた。結果を表2に示す。この溶液は5時間撹拌後も複屈折を示す物質が確認された。次いで、比較例1と同様にして再度溶解させ、加熱した状態、および、室温で放置後の溶液の状態を目視で確認した。得られた溶液の室温で放置後の外観の写真を図3に示す。いずれの状態においても、撹拌後の溶液は白濁した分散液であった。
【0057】
(比較例4)
メタノールに代えてピペリジン(特級、ドナー数:51)を用いた以外は比較例1と同様にセルロースを溶解させた。結果を表2に示す。この溶液は5時間撹拌後も複屈折を示す物質が確認された。次いで、比較例1と同様にして再度溶解させ、加熱した状態、および、室温で放置後の溶液の状態を目視で確認した。得られた溶液の室温で放置後の外観の写真を図3に示す。いずれの状態においても、撹拌後の溶液は白濁した分散液であった。
【0058】
(比較例5)
N,N−ジメチルアセトアミドを用いないこと、および、テトラブチルアンモニウムアセテートを1.4g用いたこと、加熱スターラーで100℃に加熱したこと以外は実施例1と同様にセルロースを溶解させた。得られた溶液は、5時間連続攪拌後も複屈折を示す物質が確認された。次いで、比較例1と同様にして再度溶解させ、加熱した状態、および、室温で放置後の溶液の状態を目視で確認した。得られた溶液の室温で放置後の外観の写真を図3に示す。いずれの状態においても、撹拌後の溶液は白濁した分散液であった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1に示すとおり、テトラアルキルアンモニウムアセテートと非プロトン性極性溶媒とを用いた実施例1〜14の溶媒は、結晶状態の多糖類を多糖類に前処理を施すことなく、短時間で、かつ、均一に多糖類を溶解することができた。一方、プロトン系溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートとを用いた比較例1〜4およびテトラブチルアンモニウムアセテートを単独で用いた比較例5では、多糖類を溶解することができなかった。
【0062】
[実施例15]
微結晶セルロースを0.24g用いた以外は実施例1と同様にして、セルロースの溶解時間を測定した。セルロースの溶解時間は50分であった。得られた溶液を目視で確認したところ透明であり、室温で流動性を有していた。テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む本発明の溶媒は、微結晶セルロース15重量%を溶解することができた。
【0063】
[実施例16]
微結晶セルロースを0.8g用いた以外は実施例1と同様にして、セルロースを溶解させた。得られた溶液を目視で確認したところ透明であり、室温で流動性を有していた。テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む本発明の溶媒は、微結晶セルロース36重量%を溶解することができた。
【0064】
[実施例17]
微結晶セルロースに代えて市販のリンターパルプ0.14gを用いた以外は実施例1と同様にして、セルロースの溶解時間を測定した。セルロースの溶解時間は450分であった。得られた溶液を目視で確認したところ透明であり、室温で流動性を有していた。テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む本発明の溶媒は、リンターパルプであっても良好に溶解することができた。
【0065】
[実施例18]
微結晶セルロースに代えて市販の脱脂綿0.3gを用いた以外は実施例1と同様にして、脱脂綿を溶解させた。脱脂綿の溶解時間は、360分であった。得られた溶液を目視で確認したところ透明であり、室温で流動性を有していた。テトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含む本発明の溶媒は、脱脂綿であっても良好に溶解することができた。
【0066】
[実施例19]
(繊維の成形)
実施例1で得られたセルロース溶液を室温まで冷却した。次いで、該溶液をシリンジに入れ、押出機能を持つ紡糸機に固定し、孔径0.30mmφを有するノズルから常温のメタノール浴中に吐出し、テトラブチルアンモニウムアセテートおよびN,N−ジメチルアセトアミドを除去した。次いで、吐出した繊維状のセルロースを1.2倍に延伸した後、60℃の水で洗浄し、100℃の乾熱ロールで乾燥し、巻き取った。得られたセルロース繊維の写真を図4に示す。
【0067】
[実施例20]
(フィルムの成形)
実施例1で得られた溶液を室温まで冷却した。次いで、該溶液をガラス基板上にキャストし、該基板をメタノール浴に浸漬し、テトラブチルアンモニウムアセテートおよびN,N−ジメチルアセトアミドを除去した。次いで、該ガラス基板を室温で乾燥させ、ガラス基板からフィルムを剥離し、セルロースフィルムを得た。得られたセルロースフィルムの写真を図5に示す。
得られたフィルムは透明性に優れたものであった。また、得られたフィルムは、引張強度が98MPa、弾性率が4627MPa、歪みが9.7%であり、十分な強度を有していた。
【0068】
[実施例21]
(多糖類の誘導体化1)
実施例1で得られた溶液に無水酢酸1.1gを加え、加熱スターラーで70℃に加熱しながら、40分間撹拌し、反応溶液を得た。得られた反応溶液を蒸留水に撹拌しながら滴下し、テトラブチルアンモニウムアセテート、N,N−ジメチルアセトアミド、無水酢酸および酢酸が完全に除去されるまで洗浄し、セルロース誘導体1を得た。IR分析により、得られたセルロース誘導体1が完全に洗浄されていることを確認した。
得られたセルロース誘導体1と市販のセルローストリアセテートをIR分析し、得られたIRスペクトルを比較した。これらのIRスペクトルを図6に示す。IRスペクトルから、得られたセルロース誘導体1がセルロースアセテートであることを確認した。得られたセルロースアセテートでは水酸基吸収バンド(3600cm−1)がほとんどなくなっていたため、置換度(DS)は約3であると推定された。
【0069】
[実施例22]
(多糖類の誘導体化2)
無水酢酸に代えて、ブチルクロリド0.35gを用いた以外は実施例21と同様にして、セルロース誘導体2を得た。
得られたセルロース誘導体2と市販のセルロースブチレートをIR分析し、得られたIRスペクトルを比較した。これらのIRスペクトルを図7に示す。IRスペクトルから、得られたセルロース誘導体2がセルロースブチレートであることを確認した。得られたセルロースブチレートと市販のブチルセルロースのIRスペクトルの比較から、置換度(DS)は約2であると推定された。
得られたセルロースブチレートは、アセトン、メタノール、N,N−ジメチルアセトアミドに可溶であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
上述のように、本発明の溶媒によれば、多糖類の結晶形態に依存することなく、短時間で、かつ均一に多糖類を溶解することができる。また、上記溶媒によれば、従来のような多糖類への前処理が不要である。また、本発明の多糖類含有溶液は優れた流動性と成形性加工を有する。したがって、本発明は、多糖類含有溶液および多糖類成形体を製造する技術分野に広く適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の溶解に用いられる溶媒であって、
該溶媒が下記式で表わされるテトラアルキルアンモニウムアセテートおよび非プロトン性極性溶媒を含有し、
該非プロトン性極性溶媒の含有割合が35重量%以上である、溶媒:
【化1】

式中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を表す。
【請求項2】
前記テトラアルキルアンモニウムアセテートがテトラブチルアンモニウムアセテートである、請求項1に記載の溶媒。
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒のドナー数が20〜50である、請求項1または2に記載の溶媒。
【請求項4】
前記非プロトン性極性溶媒がアミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、および、ピリジン系溶媒から選択される少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかに記載の溶媒。
【請求項5】
前記非プロトン性極性溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、ピリジンおよび4−メチルピリジン、およびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から4のいずれかに記載の溶媒。
【請求項6】
前記多糖類がセルロース、ヘミセルロース、澱粉およびキチンである、請求項1から5のいずれかに記載の溶媒。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の溶媒および多糖類を含む溶液を調製する工程、および、
該溶液を用いて成形体を形成する工程を含む、成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の溶媒および多糖類を含む溶液を調製する工程、および、
該溶液を用いて多糖類を誘導体化する工程を含む、多糖類誘導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−211302(P2012−211302A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234659(P2011−234659)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】