説明

多結晶シリコン系太陽電池およびその製造方法

【課題】結晶粒界によるキャリアの消滅を抑制することで高電流・高電圧を発現できる多結晶シリコン系太陽電池を提供する。
【解決手段】一導電性多結晶シリコン基板を用い、多結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、多結晶シリコン基板とp型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、多結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、多結晶シリコン基板とn型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に透明電極層、集電極、さらにその上に保護層が順に形成された多結晶シリコン系太陽電池において、多結晶シリコン基板のキャリア濃度が1×1010〜5×1017cm-3の範囲であり、上記パッシベーション層が実質真正な非晶質シリコン系化合物及び/又は非晶質酸化アルミニウムから構成される層である多結晶シリコン系太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン基板表面にヘテロ接合を有する結晶シリコン系太陽電池に関し、結晶粒界によるキャリアの散乱が抑制された、高電流・高電圧を同時に達成可能な太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン太陽電池は、光電変換効率が高く、既に太陽光発電システムとして広く一般に実用化されている。中でも単結晶シリコンとはバンドギャップの異なる非晶質シリコン系薄膜を単結晶表面へ製膜し、拡散電位を形成した結晶シリコン太陽電池はヘテロ接合太陽電池と呼ばれている。
【0003】
さらに、中でも拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン表面の間に薄い真性の非晶質シリコン層を介在させる太陽電池は、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られている(例えば特許文献1参照)。結晶シリコン表面と導電型非晶質シリコン系薄膜の間に、薄い真性な非晶質シリコン層を製膜することで、製膜による新たな欠陥準位の生成を低減しつつ結晶シリコンの表面に存在する欠陥(主にシリコンの未結合手)を水素で終端化処理することができる。また、導電型非晶質シリコン系薄膜を製膜する際の、キャリア導入不純物の結晶シリコン表面への拡散を防止することもできる。
【0004】
一方、多結晶シリコン太陽電池は、現在最も広く実用化が達成されている光電変換方式の一つである(例えば特許文献2参照)。これは結晶シリコン太陽電池を、より低コストで作製するために多結晶構造で作製するものであるが、単結晶シリコン太陽電池と比較して結晶粒界の存在のために特性が劣る点が課題である。その他薄膜多結晶型と呼ばれる方式もあり、これらは気相堆積法により数ミクロンの膜厚の光電変換層を形成するものである(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
これらの多結晶・薄膜多結晶シリコン太陽電池の最大の課題は「結晶粒界」であり、結晶粒界でのキャリア散乱と再結合を抑制することができれば、低コストで高性能の太陽電池を作製可能であることが期待される。その他にPN接合基板上に水素化アモルファスシリコン層を形成し、熱処理により固相成長を促し結晶化させる方法が、例えば特許文献3に記載されているが、工程が煩雑になるため、生産性において課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3625565号公報
【特許文献2】特開2005−251928号公報
【特許文献3】特開2008−251726号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】濱川圭弘、太陽電池、コロナ社出版、80〜84ページ(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、結晶粒界によるキャリアの消滅を抑制することで高電流・高電圧を発現できる多結晶シリコン系太陽電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、一導電性多結晶シリコン基板を用い、前記多結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記多結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に透明電極層、集電極、さらにその上に保護層が順に形成された多結晶シリコン系太陽電池において、多結晶シリコン基板のキャリア濃度が1×1010〜5×1017cm-3の範囲であり、上記パッシベーション層が実質真正な非晶質シリコン系化合物及び/又は非晶質酸化アルミニウムから構成される層であることを特徴とする多結晶シリコン系太陽電池に関する。
【0011】
好ましい実施態様は、多結晶シリコン系太陽電池が、(100)優先配向となっている多結晶シリコン基板を用いていることを特徴とする、前記の多結晶シリコン系太陽電池に関する。
【0012】
本発明は、前記の多結晶シリコン系太陽電池の製造方法であって、前記一導電性多結晶シリコン基板が融液成長により形成されることを特徴とする、多結晶シリコン系太陽電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、多結晶シリコン太陽電池において、結晶粒界でのキャリア消滅を抑え、高電流・高電圧のシリコン太陽電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施例1の多結晶シリコン系太陽電池の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、「一導電性多結晶シリコン基板を用い、前記多結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記多結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に透明電極層、集電極、さらにその上に保護層が順に形成された多結晶シリコン系太陽電池において、多結晶シリコン基板のキャリア濃度が1×1010〜5×1017cm-3の範囲であり、上記パッシベーション層が実質真正な非晶質シリコン系化合物及び/又は非晶質酸化アルミニウムであることを特徴とする多結晶シリコン系太陽電池」に関するものである。
【0016】
まず、本発明の多結晶シリコン系太陽電池における、一導電型多結晶シリコン光電変換層について説明する。一般的に結晶シリコン系太陽電池では、導電性を持たせるためにシリコンに対して電荷を供給する不純物を含有させる。不純物としては、例えばSi原子に対して電子を導入するリン原子を供給したn型と、ホール(正孔ともいう)を導入するボロン原子を供給したp型がある。太陽電池に用いる場合、シリコン光電変換層へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子正孔対を効率的に分離回収することができる。よって入射側のヘテロ接合は逆接合とすることが好ましい。一方で、正孔と電子を比較した場合、有効質量及び散乱断面積の小さい電子の方が一般的に移動度は大きくなる。以上の観点から、本発明において使用する多結晶シリコン光電変換層は、n型導電性であることが好ましい。この場合の本発明の好適な構成としては、例えば、保護層/集電極/透明電極層/p型非晶質シリコン系薄膜層/i型非晶質シリコン系薄膜層/n型多結晶シリコン基板/i型非晶質シリコン系薄膜層/n型非晶質シリコン系薄膜層/透明電極層/集電極/保護層となる。
【0017】
また、裏面をn層とする場合においては、光閉じ込めの観点から、透明電極上に反射層を形成すると更に好ましい。反射層とは光を反射する機能を太陽電池に付加する層を意味し、例えばAgやAlといった金属層でも良く、MgOやAl23、白色亜鉛といった金属酸化物の微粒子からなる白色高反射材料を用いて形成しても良い。また、屈折率と膜厚の異なる二種類以上の誘電体層を積層して多層膜を製膜し、多層膜内の界面における反射光を干渉させることで、一定範囲の波長の光に対して反射率を有するフォトニック構造を形成しても良い。
【0018】
また、前記一導電型シリコン光電変換層をp型導電性とする場合の本発明の好適な構成としては、保護層/集電極/透明電極層/n型非晶質シリコン系薄膜層/i型非晶質シリコン系薄膜層/p型多結晶シリコン基板/i型非晶質シリコン系薄膜層/p型非晶質シリコン系薄膜層/透明電極層/集電極/保護層となる。
【0019】
本発明の多結晶シリコン基板の作製方法は制限されるものではないが、最も好ましい方法として溶融シリコンを用いた融液成長が挙げられる。この方法はフッ酸で表面の酸化物を除いた超純粋なシリコンを1417℃以上の高温で溶融し、型に入れて一定の温度低下勾配を持たせながら冷却することで結晶粒径の大きな多結晶シリコン基板を作製することができる。このような方法は、例えばActa MATERIALIA、Vol.54、3191−3197ページ(2006年)に記載されているが、冷却時の温度勾配によって結晶粒径が異なり、温度勾配が50K/min.では1K/min.よりも大きな粒径の多結晶体を形成可能である。このような現象は、詳細な原理は明確になっていないが、融液成長時の、溶融シリコンと多結晶シリコンの固液界面において、ファセット面が現われている結晶粒界付近から成長が進行する際、平面方向への結晶成長によって結晶粒界が徐々に小さくなり、最終的に結晶粒界が消滅していくことに起因するものと推定される。
【0020】
このような多結晶シリコン基板に真正なシリコンを用いて、その後にドーピングする際には、多結晶シリコン基板を形成した後に実施してもよい。このようなドーピングはイオン注入などにより可能である。
【0021】
多結晶シリコン基板の製造方法としては、例えば、上記の他に種結晶として単結晶シリコンを、配向性をそろえて配置したものに融液成長させたものなども良好な多結晶シリコン基板を作製することができる。
【0022】
上記の方法で製造された多結晶シリコン基板は、その成長速度が150μm/s〜400μ/sで作製することができ、単結晶シリコンの製造方法の一つであるCZ法による一般的な成長速度である30μm/sと比較しても生産性の優れる製造法となる。
【0023】
このようにして製造された多結晶シリコンは、通常(100)の優先配向を示している。これは、融液成長により各結晶粒界が融合していくために、結晶配向が統一されていくためと考えられる。このような多結晶シリコンは、特性としては単結晶シリコンに近くなり、且つ単結晶シリコンよりも生産性の優れたものとなる。これらの結晶配向は、例えば電子線回折や電子線後方散乱回折法などでも確認することができるが、もっとも簡便にはX線回折で調べることができる。
【0024】
さらに、これらの方法で製造された多結晶シリコン基板は、従来の方法で作製された多結晶シリコン基板と比較して結晶粒界が少ない点が特徴である。これは上記のように各結晶粒界が融合していくためであり、これにより欠陥濃度の少ない多結晶シリコン基板を製造することができる。これは、多結晶シリコンの欠陥濃度の多くが結晶粒界によるものであるためである。欠陥濃度が減少するため、例えばn型半導体とする場合にキャリア濃度を過剰に多くすることなくドーピングが可能となる。過剰なドーピングとは、キャリア濃度(ドーピング濃度と欠陥濃度の和)が1018cm-3以上であることが目安となる。このようなキャリア濃度では、n型半導体では電子の移動度が低下する。電子の移動度の低下は、太陽電池の場合には、キャリア拡散長の短縮につながり、キャリアの再結合を誘起する原因となり、太陽電池特性のうち特に開放電圧と短絡電流の低下につながる。
【0025】
この範囲のキャリア濃度の測定は通常カソードルミネッセンス(CL)法が簡便に用いられる。その他、電気容量−電圧(C−V)特性や走査型容量顕微鏡(SCM)、広がり抵抗などでも求めることができるが、どれも同じ程度の値を精度良く求めることができる。
【0026】
これらの多結晶シリコン光電変換層には光閉じ込めの観点からテクスチャ構造を形成することができる。このようなテクスチャ構造は融液成長時に自然に形成される形状を利用することもできるが、表面をエッチングすることにより形成することもできる。多結晶のシリコンが持っている配向性を利用して異方性エッチングすることでテクスチャ構造を形成することができる。さらに、本発明の多結晶シリコンは結晶配向が(100)に優先的に配向しているため、単結晶のエッチングと同様のプロセスで良好なテクスチャ構造を形成することができる。
【0027】
本発明における多結晶シリコン基板のキャリア濃度は、1×1010〜5×1017cm-3の範囲であることに特徴を有する。さらには1×1012〜3×1017cm-3の範囲であることがより好ましい。一般的な一導電性多結晶シリコンでは、キャリア濃度が、導電性不純物の少ないフェルミ準位付近で1018cm-3前後であることがJournal of Applied Physics,Vol.46,No.12,5247(1975)に記載されている。キャリア濃度は導電性不純物に由来する「不純物密度」と結晶中の構造欠陥に由来する「構造欠陥密度」があり、単結晶シリコンでは実質後者の構造欠陥密度はゼロに近くなる。本発明の多結晶シリコンでは結晶粒界でのキャリア散乱とトラップを抑制可能なため、キャリア移動度が高くなり、従来の多結晶シリコン基板よりも小さいキャリア濃度で導電性を同等にすることが可能となり、結果として光によって誘起された導電性キャリアが散乱されることなく多結晶シリコン基板表面に到達することができる。表面に到達した導電性キャリアは、以下に述べるパッシベーション処理により再結合が抑制されて、効率よく電力として取り出すことができる。
【0028】
このようにして作製した多結晶シリコン光電変換層へのシリコン系薄膜の製膜方法としては、特にプラズマCVD法を用いることが好ましい。プラズマCVD法を用いた場合のシリコン系薄膜の形成条件としては、例えば、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.003〜0.5W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用する原料ガスとしては、SiH4、Si26等のシリコン含有ガス、またはそれらのガスとH2を混合したものが好適に用いられる。光電変換ユニットにおけるシリコン系薄膜のp型またはn型層を形成するためのドーパントガスとしては、例えば、B26またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2などで希釈された混合ガスを用いることもできる。また、CH4、CO2、NH3、GeH4等といった異種元素を含むガスを上記ガスに添加することで、合金化しエネルギーギャップを変更することもできる。
【0029】
本発明の多結晶シリコン系太陽電池においては、前記多結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板とp型シリコン系薄膜層の間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備えており、また、前記多結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板とn型シリコン系薄膜層の間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備えている。
【0030】
上記の少なくとも1層からなるパッシベーション層は、多結晶シリコン表面に存在する欠陥準位を不活性にする機能を有する層であり、これにより多結晶シリコン表面でのキャリア再結合を抑制することができる。当該パッシベーション層としては、半導体としての電気特性と多結晶シリコン基板に入射する光を吸収しないようなバンドギャップを有する必要があるという観点から、実質真正な非晶質シリコン系化合物及び/又は非晶質酸化アルミニウムから構成される層であることが好ましい。
【0031】
上記の実質的に真正な非晶質シリコン系化合物は、シリコンと水素で構成されるi型水素化非晶質シリコンであることが好ましい。この場合、i型水素化非晶質シリコン層のCVD製膜時に、多結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ、多結晶シリコン表面のパッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
【0032】
上記の非晶質酸化アルミニウムは、Al23-x:H(0<x<3)の化学式で表わされるような一部が水素化された酸化アルミニウムが好ましい。これによりパッシベーション層として必要な導電性を示すことが可能となる。このような非晶質酸化アルミニウムはCVD法で作製することが最も一般的であるが、作製時に水素の導入量を水素ガスまたは水により制御することにより水素化される水素の量を制御することができ、これにより導電性、すなわち太陽電池セルを形成した場合の直列抵抗を制御することができる。
【0033】
前記p型シリコン系薄膜層は、p型水素化非晶質シリコン層か、p型酸化非晶質シリコン層であることが好ましい。不純物拡散や直列抵抗の観点から、p型シリコン系薄膜層はp型水素化非晶質シリコン層を用いることが好ましい。一方で、ワイドギャップの低屈折率層として光学的なロスを低減できる観点から、p型酸化非晶質シリコン層を用いることもできる。
【0034】
また、前記のn型シリコン系薄膜層としては、例えば、n型水素化非晶質シリコン層、n型非晶質シリコンナイトライド層、n型微結晶シリコン層が好ましい。本発明の構成においては、n型微結晶シリコン系薄膜の下地層として、結晶化阻害元素を含まないn型水素化非晶質シリコンを用いることが特に好ましい。n型微結晶シリコン系薄膜層に関しては、n型微結晶シリコン層、n型微結晶シリコンカーバイド層、n型微結晶シリコンオキサイド層等が挙げられるが、欠陥の生成を抑制する観点からドーパント以外の不純物を積極的に添加しないn型微結晶シリコン層が好ましい。上記の場合、n型微結晶シリコン層は、その上に製膜する透明電極層の結晶性を、n型非晶質シリコン層上に製膜する場合に比べて向上させることができるため、設けることが好ましい。
【0035】
本発明において、n側薄膜層の製膜に関しては、パッシベーション層への不純物拡散及び製膜ダメージを低減させることが好ましい。一方、n型微結晶シリコン層を製膜するためには、水素プラズマを高密度で発生させるため高パワーでプラズマを発生させる必要がある。しかしながら、予めn型水素化非晶質シリコンを薄く製膜しておき、これを下地としてn型微結晶シリコン層を製膜することで製膜に要するパワーを低減することができる。このため、本発明のn型シリコン系薄膜層としては、パッシベーション層側から、n型水素化非晶質シリコン薄膜層とn型微結晶シリコン薄膜層で構成されることが好ましい。
【0036】
一方で、シリコンに酸素や炭素を添加することで実効的な光学ギャップを広げることができ、屈折率も低下するので、光学的なメリットが得られる場合がある。上記観点から、結晶化を妨げない流量比範囲、例えばCO2/SiH4<10、CH4/SiH4<3にて添加することが好ましい。
【0037】
本発明では、p型およびn型シリコン系薄膜層上に透明電極層を備えることにより構成される。透明電極層には導電性酸化物が含まれる。導電性酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫を単独または混合して用いることができる。さらにこれらには導電性ドーピング剤を添加することができる。例えば、酸化亜鉛にはアルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素などが挙げられる。酸化インジウムには亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデン、ケイ素などが挙げられる。酸化錫にはフッ素などが挙げられる。これらの導電性酸化物は単膜で用いても良いし、積層構造でもよい。
【0038】
本発明の透明電極層の膜厚は、透明性と導電性の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。透明電極層の役割は、集電極へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよい。一方で透明性の観点から、厚すぎる透明電極層は、それ自身の吸収ロスのために透過率が減少し、その結果、光電変換効率を低下させる原因となりうる場合がある。
【0039】
前記の透明電極層の製膜方法としては、スパッタリング法などの物理気相堆積法や有機金属化合物と酸素または水との反応を利用した化学気相堆積(MOCVD)などが好ましい。いずれの製膜方法でも熱やプラズマ放電によるエネルギーを利用することもできる。例えばMOCVDにより透明電極を製膜する場合には、酸化亜鉛などの場合には、ジエチル亜鉛と水または酸素との反応で形成することができる。これらの材料を真空雰囲気下で反応させることで、安全且つ良好に透明電極の形成が可能となる。さらに雰囲気内の温度を安定化させるために、水素ガスなどを流してもよい。これらの透明電極に導電性ドーピングを施す場合には、上記材料と同時にドーピングガスを流すことでドーピングが可能である。例えば、酸化亜鉛透明導電性酸化物の場合には、ジボランを流すことでドーピングが可能である。この時のホウ素のドーピング量は0.1〜5.0atom%程度が導電性と透明性の観点から好ましい。
【0040】
透明電極層作製時の基板温度は適宜設定すればよいが、150℃以下が好ましい。それ以上の高温となると、非晶質シリコン層から水素が脱離し、ケイ素原子にダングリングボンドが発生し、キャリアの再結合中心となりうる場合がある。
【0041】
透明電極層上には集電極が形成されうる。集電極は、インクジェット、スクリーン印刷、導線接着、スプレー等の公知技術によって作製できるが、生産性の観点からスクリーン印刷がより好ましい。スクリーン印刷は金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷し、集電極を形成する工程が好ましく用いられる。
【0042】
集電極に用いられる導電ペーストの固化も兼ねてセルのアニールが行われうる。アニールによって、透明電極層の透過率/抵抗率比の向上、接触抵抗や界面準位の低減といった各界面特性の向上なども得られる。アニール温度としてはシリコン系薄膜の製膜温度から100℃前後の高温度領域に留めることが好ましい。アニール温度が高すぎると、導電型シリコン系薄膜層からパッシベーション層へのドーパントの拡散、透明電極層からシリコン領域への異種元素の拡散による不純物準位の形成、非晶質シリコン中での欠陥準位の形成などによって、特性が悪化してしまう場合がある。
【0043】
これらの層の上に、例えばエチレン・ビニル・アセテート(EVA)樹脂のようなフィルムを保護層としてコーティングすることで、物理的な強度を向上することが可能である。さらに、酸素や水分によるシリコン層や電極層の劣化を防ぐ役割を果たすこともできる。また、このEVAフィルムにヘイズを有するようなブラスト処理等を施すことで、光学特性の損失を抑えることも可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
図1は、本発明に従う実施例1の多結晶シリコン太陽電池を示す模式的断面図である。本実施例の多結晶シリコン系太陽電池はヘテロ接合太陽電池であり、n型多結晶シリコン光電変換層1の光入射側にテクスチャ構造が形成されている。n型多結晶シリコン光電変換層1の入射面にはi型非晶質シリコン層2/p型非晶質シリコン層3/透明電極層6が製膜されている。その上に集電極7が形成されている。
【0046】
図1に示す実施例1の多結晶シリコン系太陽電池を以下のようにして製造した。
【0047】
n型シリコンの板をフッ酸水溶液(2.5重量%)溶液に浸漬し、表面の自然酸化物を除去した。このシリコンを超高純度アルゴンガス雰囲気下でアルミナの坩堝に入れ、1450℃に加熱した。この坩堝を3K/min.の速さで冷却した。得られた多結晶シリコンブロックを(100)が最優先配向となるようにワイヤーソーでカットすることで、厚さ200μmの多結晶シリコン基板を得た。
【0048】
この多結晶シリコン基板のX線回折測定をした結果、どの位置においても(100)配向であることが確認された。さらに、キャリア濃度を測定した結果、5×1014cm-3であった。
【0049】
この多結晶シリコン基板をアセトン中で洗浄した後、2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜を除去し、超純水によるリンスを2回行った。次に70℃に保持した5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、基板表面をエッチングすることでテクスチャを形成した。その後に超純水によるリンスを2回行った。原子間力顕微鏡(以下、AFM パシフィックナノテクノロジー社製)による多結晶シリコン基板1の表面観察を行ったところ、基板表面はエッチングが最も進行しており、最優先配向として(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
【0050】
この多結晶シリコン層1の上にパッシベーション層となるi型非晶質シリコン層2を3nm製膜した。i型非晶質シリコン層2の製膜条件は基板温度が150℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm2であった。この上にp型非晶質シリコン層3を4nm製膜した。p型非晶質シリコン層3の製膜条件は基板温度が150℃、圧力60Pa、SiH4/B26流量比が1/3、投入パワー密度が0.01W/cm2であった。なお、本件でいうB26ガスは、B26濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。
【0051】
p型非晶質シリコン層3上に透明電極層6として亜鉛−ホウ素複合酸化物(BZO:酸化アルミニウム2重量%含有)をMOCVD法により1200nm製膜した製膜条件は、基板温度を150℃とし、圧力が10Paとなるように材料ガスを導入した。材料ガスとしては、ジエチル亜鉛、水、H2、B26を流量比1/2/20/10となるように導入した。なお、本件でいうB26ガスは、B26濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。製膜後、真空中で200℃・10分間のアニール処理を施した。
【0052】
次に裏面側にパッシベーション層となるi型非晶質シリコン層4を6nm製膜した。i型非晶質シリコン層4の製膜条件は基板温度が170℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm2であった。i型非晶質シリコン層4上にn型非晶質シリコン層5を4nm製膜した。n型非晶質シリコン層5の製膜条件は基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/PH3流量比が1/2、投入パワー密度が0.01W/cm2であった。本件でいうPH3ガスはPH3濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。
【0053】
次に裏面のn型非晶質シリコン層6上に、酸化インジウム層をスパッタリング法によって100nm製膜した。スパッタリングターゲットはIn23へSnを10%添加したものを用いた。
【0054】
最後に、透明電極層6上に銀ペーストをスクリーン印刷し、櫛形電極を形成し、集電極7とした。集電極の間隔は5mmとした。
【0055】
こうして作製した太陽電池セルについて、両面をエチレンビニルアセテート(EVA)フィルムで挟み、さらに無アルカリガラス(商品名OA−10、厚み0.7mm)で挟んだ。これを150℃に加熱した真空ラミネータを用いて封止することで、多結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0056】
(実施例2)
実施例1の多結晶シリコン基板の冷却速度を50K/min.とした以外は実施例1と同様にして多結晶シリコン太陽電池を作製した。この多結晶シリコン基板のX線回折測定をした結果、どの位置においても(100)配向であることが確認された。さらに、キャリア濃度を測定した結果、3×1012cm-3であった。
【0057】
(比較例1)
キャリア濃度が6×1018cm-3であるn型多結晶シリコン基板を用いて、実施例1と同様にして多結晶シリコン太陽電池を作製した。
【0058】
上記実施例及び比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した。上記太陽電池セルの短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、出力(Eff)を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
以上の結果から、シリコン光電変換層を多結晶シリコン構造とすることで良好な特性を示す太陽電池を作製可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
1.n型多結晶シリコン基板
2.i型非晶質シリコン層
3.p型非晶質シリコン層
4.i型非晶質シリコン層
5.n型非晶質シリコン層
6.透明電極層
7.集電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電性多結晶シリコン基板を用い、前記多結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記多結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記多結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層との間に少なくとも1層からなるパッシベーション層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に透明電極層、集電極、さらにその上に保護層が順に形成された多結晶シリコン系太陽電池において、多結晶シリコン基板のキャリア濃度が1×1010〜5×1017cm-3の範囲であり、上記パッシベーション層が実質真正な非晶質シリコン系化合物及び/又は非晶質酸化アルミニウムから構成される層であることを特徴とする多結晶シリコン系太陽電池。
【請求項2】
多結晶シリコン系太陽電池が、(100)優先配向となっている多結晶シリコン基板を用いていることを特徴とする、請求項1に記載の多結晶シリコン系太陽電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多結晶シリコン系太陽電池の製造方法であって、前記一導電性多結晶シリコン基板が融液成長により形成されることを特徴とする、多結晶シリコン系太陽電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−146528(P2011−146528A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6064(P2010−6064)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】