説明

多重チャネル検出器全体にわたる不均等なイオン分布を補正するシステムおよび方法

イオンフラックスを計算するシステムおよび方法。一実施形態において、質量分析計は、試料からイオンのビームを発生させるイオン源と該イオン源の下流に置かれる少なくとも1つの検出器とを含む。該少なくとも1つの検出器は、複数の検出器チャネルを備えている。質量分析計はまた、複数の検出器チャネルに動作可能に連結されたコントローラを含む。該コントローラは、各検出器チャネルに関連づけられたイオン存在度データを決定することと、各検出器チャネルに関連づけられた補正されたイオン存在度データを決定することと、検出器チャネルの各々に対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定することと、イオン存在度データおよび信頼度データの両方に関連づけられたイオンフラックスの信頼度で重みづけされた存在度推定を決定することとを行なうように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して質量分析法の分野に関し、特に飛行時間(TOF)質量分析計への適用に関するが、決してその適用に限定されない。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
質量分析計は、試料の質量スペクトルを生成し、該試料の組成を見つけるために用いられる。これは通常、試料をイオン化し、異なる質量のイオンを分離し、そしてイオンフラックスの強度を測定することによる質量の相対存在度を記録することによって達成される。例えば、飛行時間質量分析計を用いて、イオンは、パルス化され、所定の飛行経路を進む。イオンは次いで後に、検出器によって記録される。イオンが検出器に到達するのに要する時間量すなわち「飛行時間」は、イオンの質量と電荷数との比すなわちm/zを計算するために用いられる。検出器は、複数のチャネルを有し得、各チャネルはそれぞれイオン衝撃を記録する。
【0003】
しかしながら、現在まで、TDCの一般的に用いられる質量分析計は、特定の区分の時間中に単一のチャネルまたはアノードによって記録される1つ以上のイオンの衝突を見分けることが可能ではない。その結果、検出器の特定のチャネルは、ビン期間中に1つを超えるイオンが検出器に衝突したかどうかを決定することが不可能である。情報が失われると、分析計のダイナミックレンジの減少となる。
【0004】
その上現在まで、検出器の様々なチャネル全体にわたりイオンを均等に分布させることを試みるために、光学素子が一般的に用いられる。これらの努力にも関わらず、イオン分布は、概してチャネル全体にわたり均等ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本出願人らは、質量分析法におけるイオンフラックスを計算する新しいシステムおよび方法に対する必要性を認識した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
一局面において、本発明は、複数の検出器チャネルを有する質量分析計を用いてイオンフラックスを計算する方法に関する。該方法は、
(a)各検出器チャネルに関連づけられたイオン存在度データを決定するステップと、
(b)各検出器チャネルに関連づけられた、補正されたイオン存在度データを決定するステップと、
(c)各検出器チャネルに対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定するステップと、
(d)各検出器チャネルに対するイオン存在度データおよび信頼度データの両方に関連づけられたすべての検出器チャネルに対するイオンフラックスの信頼度で重みづけされたイオン存在度推定を決定するステップと
を含む。
【0007】
別の局面において、本発明は、試料に対してイオンフラックスを計算する方法に関する。該方法は、
(a)複数のパルス中に試料からイオンを発生させるステップと、
(b)複数の検出器チャネルを介してイオンの衝突を検出するステップと、
(c)複数の検出器チャネルの各々に関連づけられたイオン存在度データを決定するステップと、
(d)複数の検出器チャネルの各々に対応する補正されたイオン存在度データを決定するステップと、
(e)選択された複数の検出器チャネルの各々に対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定するステップと、
(f)イオン存在度データおよび信頼度データの両方に関連づけられたイオンフラックスの信頼度で重みづけされた存在度推定を決定するステップと
を含む。
【0008】
なおもさらなる局面において、本発明は質量分析計に関する。該質量分析計は、試料からイオンのビームを発生させるイオン源と該イオン源の下流に置かれる少なくとも1つの検出器とを含む。該少なくとも1つの検出器は、複数の検出器チャネルを備えている。質量分析計はまた、複数の検出器チャネルに動作可能に連結されたコントローラを含む。該コントローラは、
(a)各検出器チャネルに関連づけられたイオン存在度データを決定することと、
(b)各検出器チャネルに関連づけられた補正されたイオン存在度データを決定することと、
(c)検出器チャネルの各々に対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定することと、
(d)イオン存在度データおよび信頼度データの両方に関連づけられたイオンフラックスの信頼度で重みづけされた存在度推定を決定することと
を行なうように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は以下の図面を参照して例示としてのみここで説明され、図面において同様な参照番号は同様な部品を表す。
【図1】図1は、本発明に従って作られる質量分析計の概略図である。
【図2A】図2Aは、図1の質量分析計の4つの検出器チャネルにわたる不均等なイオンの分布を例示する概略図である。
【図2B】図2Bは、図1および図2Aの第3チャネルからのTOF質量スペクトルの概略図である。
【図3】図3は、本発明に従って用いられ得るイオン存在度データおよび信頼度水準を測定し計算する方法のステップを例示するフロー図である。
【図4】図4は、本発明に従って、補正された存在度データを計算する方法のステップを例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
本出願において用いられるように、
「検出器」は、検出器によって測定されたイオン数に対応するアナログ信号またはデジタル信号のいずれかを出力するイオン検出器を意味し、
「分析期間」は、検出器からの信号が分析のために用いられる継続時間を意味し、
「ビン」は、分析期間の1つ以上の時間の区分を意味し、その結果、分析期間は、1つのビンまたは繰返し可能な連続のビンから成り得る。各ビンは、特定のm/z値または複数のm/z値の範囲に対応し得、
「ビン期間」は、単一のビンの継続時間を意味し、
「イオンのビーム」は、概して、イオンの個別の群、イオンの連続流、またはイオンの偽連続流を意味し、
「パルス」は、概して質量分析法による分析ためにイオンを発生させるために用いられる任意の波形を意味する。パルスの立上りなどのパルスの一部は、一連のビンの開始をトリガするために用いられ得る。同様に、イオンのビームは、パルス化されたイオンのビームを生成するようにパルス化され得るか、またはさらに、パルスは、イオンのビームの分析期間をトリガするために用いられ得る。
【0011】
図1を参照すると、そこに例示されるのは、本発明に従って作られ、全体的に10として表されるTOF質量分析計である。分析計10は、適切にプログラムされたイオンフラックス計算エンジン14を有するプロセッサすなわち中央処理装置(CPU)12を備えている。入力/出力(I/O)装置16(一般的には、キーボードまたは制御ボタンなどの入力構成要素16、およびディスプレイ16などの出力構成要素を含む)はまた、CPU12に動作可能に連結される。データストレージ17もまた、好ましくは備えられる。CPU12はまた、より詳細に以下に論議されるように繰返し可能な連続のビンを決定するように構成されるクロックモジュール18(これは計算エンジン14の一部を形成し得る)を含む。
【0012】
分析計10はまた、分析される試料から生成されるイオンのビームを発生するように構成されるイオン源20を含む。理解されるように、イオン源20からのイオンのビームはイオンの連続した流れの形態であり得るか、または流れはパルス化されたイオンのビームを生成するようにパルス化され得るか、またはイオン源20はパルス化されたイオンのビームが発生される一連のパルスを生成するように構成され得る。一般的には、パルスの数は分析期間中、約10,000個であり得るが、この数は用途によって増加させられ得るかまたは減少させられ得る。
【0013】
従って、理解されるように、イオン源20は、例えば、電子衝撃イオン源、化学イオン化イオン源、もしくは電界イオン化イオン源(これらは気体クロマトグラフィー源と結合して用いられ得る)などの連続イオン源、またはエレクトロスプレイイオン源もしくは気圧化学イオン化イオン源(これらは液体クロマトグラフィー源として用いられ得る)、または脱離エレクトロスプレイイオン化(DESI)イオン化源、またはレーザ脱離イオン化源から成り得る。マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)などのレーザ脱離イオン化源は、一般的にはパルス化されたイオンのビームが発生する一連のパルスを生成し得る。イオン源20はまた、多重極イオンガイド、リングガイド、もしくは四重極マスフィルタなどのイオンマスフィルタなどのイオン透過イオンガイド、または当該分野において公知のイオン捕獲装置(図示されていない)が備えられ得る。簡潔さのために、イオン源20という用語は、化合物からイオンを生成する構成要素を説明するために、そして検出の対象となる検体イオンを使用可能にするために用いられる。タンデムマスフィルタおよびイオントラップから成るシステムなどの、イオン源20の他のタイプもまた用いられ得る。
【0014】
検出器22(複数のアノードまたはチャネル23を有する)もまた備えられ、検出器22は、発生するイオンの経路においてイオン源20の下流に置かれ得る。イオンを検出器22に集束させるために、光学素子24または静電レンズなどの他の集束要素もまた、発生するイオンの経路においてイオン源20と検出器22との間に配置され得る。
【0015】
ここで図2Aを参照すると、図2Aに例示されるのは、検出器22の第1のチャネル23、第2のチャネル23、第3のチャネル23および第4のチャネル23に衝突するイオンのビーム25の概略図である。示される例示において、ビーム25は、チャネル23、23、23、23のすべてにわたって均等に分配されるわけではない。より詳細に以下に論議されるように、1つのチャネルが実質的により多くの数のイオン−好ましくは2倍の数のイオンを「受信する」場合、好ましく、そしてさらに好ましくは、差は桁が増える(an order of magnitude)場合である。図2Bは、図1および図2Aの第3のチャネルからのTOF質量スペクトルを例示する。
【0016】
図3は、全体的に100として表される、分析期間中に分析計システム10によって実行される方法のステップを示す。(一般的にはI/O装置によって)ユーザによる分析期間を開始するコマンドを受信次第、計算エンジン14は、分析期間を開始するようにプログラムされる(ブロック102)。分析期間が開始されると、イオンのビームがイオン源20から発生される(ブロック104)。前述のように、これらのイオンは、一連のパルスかまたは連続流として発生され得る。イオンの連続流が発生される場合、理解されるように、イオン源は、イオンのパルスを生成(かつ飛行の開始時間を制御)するために用いられるパルサモジュールを含む。
【0017】
一般的には、分析期間が開始される前に、エンジン14は、クロック18が繰返し可能な連続のビンを決定するようにし、連続のビンは分析期間中に繰り返され得る(ブロック106)。繰返し可能な連続のビンにおける各ビンのビン期間が全ての他のビンと同じ長さであることは必要ない。理解されるように、TOF質量分析計において、例えば、イオンのビームがパルスの形態(上記に定義されたイオンのパルス化されたビーム)で発生させられたとき、あらゆるパルスに対してクロック18は、繰返し可能な連続のビンにおいて各ビンに対して、対応するパルス時間区分を作成または追跡する。その結果「飛行時間」分析は、分析期間中の対応するパルス時間区分に対して集められたデータに基づいて行われ得る。一般的に、ビン期間は、通常、アノード23の「完全停止(dead)」時間、すなわちアノード23がイオン衝撃を検出することとその後のイオン衝撃を検出することを可能にするためにリセットすることとの間の期間(これは例示として、わずか約14nsであり得る)に関連づけるように決定される。
【0018】
あらゆるパルス中に、1つ以上のイオンがアノード23に衝突するごとに、衝撃信号がアノード23から送信され、該衝撃信号はエンジン14によって受信され、エンジン14はまた、そのアノード23に対して、衝撃信号が送信されるパルス時間区分に対応するビンデータを追跡し、データストレージ17に格納する(ブロック108)。計算エンジン14はまた、分析期間においてパルスの数をカウントするかまたは決定するようにプログラムされる(ブロック110)。一般的に、パルスの数は、分析期間の開始前に、ユーザによってその適用のために事前に決定され、CPU12に入力される。連続のビンにおける少なくとも1つのビンに関して、各アノード23に対して計算エンジン14は、アノード23からどの衝撃信号も受信されなかった分析期間中における対応するパルス時間区分の数を決定するようにさらにプログラムされる(ブロック112)。
【0019】
精度を向上させるために、ブロック112において、計算エンジン14が、アノード23からどの衝撃信号も受信されなくかつアノード23が活動状態にあり従ってイオン衝撃を検出する能力がある対応するパルス時間区分の数を計算するように構成される場合には、概して好ましい。前述のように、一旦イオンが検出器22上のアノード23に衝突すると、その後の短期間(一般的には約14nsであり得る)、そのアノード23(またはチャネル)は「完全停止」であり、イオンの衝突を検出する能力がない。従って精度を向上させるため、計算エンジン14が、検出器22のアノード23に対して「完全停止時間」内にイオンが検出された対応するパルス時間区分を排除する場合、好ましい。
一旦分析期間が終了すると(ブロック114)、エンジン14は、各アノード23に対して別々に、試料からのイオンのビームに対して1つ以上のイオンフラックスを計算するように構成される(ブロック116)。これは、繰返し可能な連続のビンにおける1つのビン(または複数のビンの範囲)に対応するイオン衝撃データを分析することによって実行される。一般的に、各アノード23に対して、イオンフラックスは、繰返し可能な連続のビンにおけるビンによってカバーされる全質量範囲にわたり各個別のm/zのビンまたは間隔に対して計算される。
理解されるように、「イオンフラックスを計算すること」に言及されたとき、これは、実イオンフラックスの推定を計算することを意味することが意図される。イオンフラックスは、パルス時間区分中にイオンを検出しない確率に関連づけられる。好ましくは、イオンフラックスは、次の式に従って計算される。
【0020】
【数1】

ここでψは推定されたイオンフラックスを表し(実イオンフラックスを表すψと対照されるように)、p(x=0)は、繰返し可能な連続のビンにおける特定のビン(またはビンの間隔)に対応するパルス時間区分中にイオンを検出しない確率(ブロック112において計算エンジン14によって決定される)を表す。
【0021】
エンジン14はまた、式1に従って計算されるイオンフラックスに対する信頼度間隔を計算するように構成される(ブロック118)。信頼度は最初に次の式に従って計算され得る。
【0022】
【数2】

ここで、
cは、ユーザによって決定される小さな数字であり、
nは、検出器22が完全停止ではないパルスの数であり、
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

との差よりψとψとの差を定義することがより便利である。フラックス許容差tが式
【0025】
【数3】

に従って定義され得る場合、cすなわち信頼度間隔は、次の式
【0026】
【数4】

に従って計算され得る。ここで、cは信頼度間隔を表し、ψは式1において計算された推定されたイオンフラックスを表し、tは推定されたイオンフラックスに対する許容差または所望の相対誤差を表す(I/O装置16を経由してユーザによって入力される)。
【0027】
背景説明として、初期イオン速度、ビーム集束(およびその他の影響)における差の理由で、同じm/z(質量/電荷数)のイオンは、TOF計器における同じ時点(すなわち、繰返し可能な連続のビンにおける同じビンに対応する同じ時間ビンまたはパルス時間区分内)において検出器22と衝突しない。イオンの測定されたm/zと実際のm/zとの差(記録されたm/z−真のm/z)が、確率変数であり、平均値=0および標準偏差σを有する正規分布を有することが仮定され、ここでσの値は、システム10の特性に依存するが、そのモデルとは無関係であり、σが分析中同じままであり有効な仮定であることが重要であるにすぎない。イオンが任意のパルスに対してその分布に似ていること、およびフラックスが繰返し可能な連続のビンにおける各ビンに対するパルス座標全体にわたり一定であることも仮定される。
【0028】
各ビンに対するイオン検出は、対応するビンにおけるイオンフラックスに等しいパラメータλを用いてポアッソン過程としてモデル化され得る。
【0029】
【数5】

イオンフラックスは、次の式に従って計算され得る。
【0030】
【数6】

ここでψは、実イオンフラックスψの推定である。検出器22が発生させられたイオンと同数のイオンを検出し得る場合、ψの信頼度は、母集団の大きさ(すなわち、検出器22(またはアノード23)が完全停止ではないパルスの数)のみに依存する。
【0031】
実際は、測定されたイオンフラックスは、上記に説明されるように、検出器22の制約の理由で常にψに等しいかまたはそれより小さい。例えば、2つのイオンが4つの等しい大きさのアノード23を有する検出器22に到着する場合、4つのすべてのアノード23が活動状態であると仮定すると、両方のイオンを検出する確率は、0.75である。検出器22に衝突するすべてのイオン(最大4)を検出しカウントする確率は、イオンの数が大きくなると、さらに減少する。この例示は、上記の式6によるフラックス推定がどの程度信頼度がないかを示す。
【0032】
あるいは、0個のイオンがアノード23に到着する場合、0がカウントされるか、または、
【0033】
【数7】

確率p(0)は、発生させられたイオンの数に対する信頼できる統計量である。
【0034】
検出器22に衝突し(かつカウントしない)イオンが、パラメータλ=ψ(ここでψは実イオンフラックスである)であるポアッソン過程であると仮定すると、式1は式5および7から導かれ得る。
【0035】
「ゼロカウント」の確率を測定することによって、実イオンフラックスは、式6からよりも式1からより高い信頼度で推定され得る。
【0036】
一旦、イオンフラックスまたはイオン存在度データが、ブロック116に従って各検出器チャネル23、23、23、23に対して計算され、イオンフラックス計算エンジン14もまた、ブロック118に従って各チャネルの23、23、23、23のイオン存在度データに対する信頼度間隔を決定すると、エンジン14は、以下に論議されるようにイオンフラックスを計算する際に、これらのデータポイントの各々を利用するようにさらにプログラムされる。
【0037】
理解されるように、チャネル23、23、23、23によって登録されるイオンの存在度が高ければ高いほど、チャネル23、23、23、23が完全停止しイオン衝撃を検出することが不可能である時間量が大きくなる。チャネルの23、23、23、23の完全停止時間が100%に近づくと、そのチャネル23、23、23、23に対する存在度データの精度が実質的に減少する。
【0038】
しかしながら、イオンビームがチャネル23、23、23、23のすべてにわたり均等に分配されない場合、他のチャネル23、23、23、23はより精度のあるイオン存在度データを有し得る。例えば、図2Aを参照すると、図において分かり得るように、第3のチャネル23は、第1のチャネル23よりはるかに多い量のイオンを受ける。従って、第3のチャネル23に対する存在度データの精度がイオン飽和のために低い場合、第1のチャネル23に対する存在度データが信頼し得ることは理解される。
【0039】
ここで図2Bおよび図4を見ると、上記のように、イオンまたはイオンフラックスの合計数を推定する方法400を開始する際に、各チャネルの23、23、23、23のイオン存在度データに対する信頼度間隔は、(ブロック118に従って)計算されるかまたは計算されてきた(ブロック402)。次に、各チャネル23、23、23、23に対するイオンの合計数のパーセンテージ分布が次いで推定される(ブロック404)。一般的に、パーセンテージ分布は、同じスペクトルの同じ範囲全体にわたる各チャネル23、23、23、23に対するカウントを合計することによって計算される。任意のチャネル23、23、23、23に対して飽和閾値を超えるスペクトル50の任意の部分は、すべてのチャネルに対してカウントから除外される。例えば、第3のチャネル23上の部分50は、飽和させられ得、従って信頼性がない場合がある。スペクトルの対応する部分は、異なるチャネル23、23、23、23に対するイオンカウント合計において考慮されない。
【0040】
下記の表1を参照すると、4つのチャネル23、23、23、23に対する例示のカウントが提供される。表1に示されるように、カウントは次いで、各チャネル23、23、23、23に対するパーセンテージ分布を推定するために用いられ得、それぞれの値10%、25%、40%および15%という結果となる。理解されるように、このパーセンテージ分布推定プロセスは、各スペクトルに対して動的にかまたは試料取得の初めに1回だけ実行され得る。
【0041】
【表1】

これらのパーセンテージから、例示において、最大数のイオン(または信号)を受信するチャネル、すなわち40%である第3のチャネル23は、最小の信号、すなわちこの例では10%である第1の信号の4倍の信号を受信することが分かり得る。好ましくは、最大の信号と最小の信号との比率は約10倍であり、さらにより大きい場合もあるが、約2倍以下を含む、より小さい比率は、許容され得る。
【0042】
各チャネル23、23、23、23に対する強度は、次いで正規化され、その結果、各値は同じ尺度に比例する(ブロック406)。表1に例示されるように、各チャネル23、23、23、23に対する存在度の値は、ブロック404において計算されるパーセンテージ分布値によって割られ、正規化された強度値(表1の「補正された存在度推定」と呼ばれる)に到達する。
【0043】
母集団の最終の推定は、各チャネル23、23、23、23からの推定の信頼度で重みづけされた平均として計算され得る(ブロック408)。理解されるように、この計算は、各補正された存在度推定に対応する信頼度間隔によって掛けられた各補正された存在度推定の合計を総計し、その総計を信頼度値の合計で割ることによって実行され得る。従って、表1に示される例示のデータに関して、最終のイオン母集団またはイオンフラックス推定は、
【0044】
【数10】

として計算される。
【0045】
上記の計算から分かり得るように、この例示において、第1の23チャネルおよび第4の23チャネルからのデータが最も多くの重みづけが与えられる。
【0046】
従って、本明細書において示されかつ説明されたことは、本発明の好ましい実施形態を構成するが、本発明から逸脱することなく様々な変更がなされ得、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲において定義されることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検出器チャネルを有する質量分析計を用いてイオンフラックスを計算する方法であって、該方法は、
(a)各検出器チャネルに関連づけられたイオン存在度データを決定するステップと、
(b)各検出器チャネルに関連づけられた、補正されたイオン存在度データを決定するステップと、
(c)各検出器チャネルに対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定するステップと、
(d)各検出器チャネルに対する該イオン存在度データおよび該信頼度データの両方に関連づけられたすべての該検出器チャネルに対するイオンフラックスの信頼度で重みづけされたイオン存在度推定を決定するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記分析計は、前記選択された複数の検出器チャネルから第1の検出器チャネルに関連づけられた前記イオン存在度データが、該選択された複数の検出器チャネルから第2の検出器チャネルに関連づけられた前記イオン存在度データより実質的に大きいように、構成される、請求項1に記載のイオンフラックスを計算する方法。
【請求項3】
前記第1の検出器チャネルに関連づけられた前記イオン存在度データは、前記第2の検出器チャネルに関連づけられた前記イオン存在度データの少なくとも2倍である、請求項2に記載のイオンフラックスを計算する方法。
【請求項4】
(a)複数のパルスを生成するステップであって、各パルス中にイオンのビームは分析される試料から発生される、ステップと、
(b)繰返し可能な連続のビンを決定するステップであって、該繰返し可能な連続のビンにおける各ビンは、あらゆるパルスにおける対応パルス時間区分に対応する、ステップと、
(c)各パルス中に検出器に対するイオンの衝突を検出するステップと、
(d)分析期間中にパルスの総数を決定するステップと、
(e)該繰返し可能な連続のビンにおける少なくとも1つのビンに関して、イオン衝撃が検出されなかった対応パルス時間区分の数を決定するステップと、
(f)イオンフラックスを計算するステップであって、該イオンフラックスは、該繰返し可能な連続のビンにおける少なくとも1つのビンに対応するパルス時間区分中にイオン衝撃を検出しない確率に関連づけられる、ステップと
をさらに包含する、請求項1に記載のイオンフラックスを計算する方法。
【請求項5】
前記イオンフラックスは、実質的に次の式:ψ=ln(p(x=0))に従って計算され、
(a)ここで、ψは、該イオンフラックスを表し、
(b)ここで、p(x=0)は、前記繰返し可能な連続のビンにおける前記少なくとも1つのビンに対応する前記パルス時間区分中にイオン衝撃を検出しない確率を表す、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
試料に対してイオンフラックスを計算する方法であって、該方法は、
(a)複数のパルス中に該試料からイオンを発生させるステップと、
(b)複数の検出器チャネルを介して前記イオンの衝突を検出するステップと、
(c)該複数の検出器チャネルの各々に関連づけられたイオン存在度データを決定するステップと、
(d)該複数の検出器チャネルの各々に対応する補正されたイオン存在度データを決定するステップと、
(e)選択された複数の検出器チャネルの各々に対するイオン存在度データに対応する信頼度データを決定するステップと、
(f)該イオン存在度データおよび該信頼度データの両方に関連づけられたイオンフラックスの信頼度で重みづけされた存在度推定を決定するステップと
を包含する、方法。
【請求項7】
(a)試料からイオンのビームを発生させるイオン源と、
(b)該イオン源の下流に置かれる少なくとも1つの検出器であって、
(c)該少なくとも1つの検出器は、複数の検出器チャネルを備えている、検出器と、
(d)該複数の検出器チャネルに動作可能に連結されたコントローラであって、該コントローラは、
(i)各検出器チャネルに関連づけられたイオン存在度データを決定することと、
(ii)各検出器チャネルに関連づけられた補正されたイオン存在度データを決定することと、
(iii)該検出器チャネルの各々に対する該イオン存在度データに対応する信頼度データを決定することと、
(iv)該イオン存在度データおよび該信頼度データの両方に関連づけられたイオンフラックスの信頼度で重みづけされた存在度推定を決定することと
を行なうように構成されるコントローラと
を備えている、質量分析計。
【請求項8】
前記複数の検出器チャネルは、第1の検出器チャネルによって検出されたイオン数が第2の検出器チャネルによって検出されたイオン数より実質的に大きいように構成される、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記複数の検出器チャネルは、前記第1の検出器チャネルによって検出されたイオン数が前記第2の検出器チャネルによって検出されたイオン数の少なくとも2倍であるように構成される、請求項8に記載の質量分析計。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−501864(P2010−501864A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525872(P2009−525872)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001511
【国際公開番号】WO2008/025144
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(508298514)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】