説明

多重通信用ジョイントコネクタ

【課題】必要とされるインピーダンス特性を汎用品のフェライトコアを用いて実現することができる多重通信用ジョイントコネクタを提供する。
【解決手段】本発明の多重通信用ジョイントコネクタは、コネクタハウジング21内には、インピーダンス特性が異なる複数のフェライトプレート22〜24が配置され、複数のフェライトプレート22〜24のインピーダンス特性を加算したものは、フィルタとして必要とされる所定のインピーダンス特性を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の相手方コネクタと嵌合可能な多重通信用ジョイントコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などにおいては、CAN(Control Area Network)通信によって複数の電装品を制御するため、多重通信用ジョイントコネクタを用いた接続が行われている。このような信号伝達用のコネクタには、ノイズの輻射やノイズの信号伝送に及ぼす悪影響を軽減するため、信号に重畳されるノイズを除去する機能が要求される。従来、ノイズ除去機能を有するコネクタとしては、フェライト磁心とチップコンデンサによって構成されるローパスフィルタ回路をコネクタに内蔵させたローパスフィルタ内蔵コネクタが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、コネクタハウジングと、金属板によって一体成形されたジョイント回路としての連鎖バスバーと、第1および第2の抵抗およびコンデンサを有する終端抵抗回路と、から構成された多重通信用ジョイントコネクタも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
図3に示す従来の多重通信用ジョイントコネクタ10は、複数のコネクタ嵌合部2を有する合成樹脂製のコネクタハウジング1と、複数の貫通孔4が設けられて長方形板状に形成されたフェライトプレート3と、バスバー6とピン状の端子7とが金属板によって一体成形された接続部5と、を備える。ローパスフィルタとして機能するフェライトプレート3は、コネクタハウジング1と一体にインサート成形されており、このフェライトプレート3の貫通孔4に接続部5の端子7が挿通されてコネクタ嵌合部2に配置されている。この構成により、上下左右に隣り合う端子7の間にはフェライトプレート3の一部が位置することになる。
【0005】
このように、コネクタハウジング1内に設置されたフェライトプレート3は端子7付近に発生する磁界、つまり上下方向に隣接する端子7間を伝播する高周波磁界を吸収して熱に変え、この端子間におけるインピーダンスの不整合を回避できる。従って、このインピーダンスの不整合に基づく高周波ノイズの発生を抑制または除去する。一方、低周波域の伝送信号は損失なく通過可能にする。このため、その端子接続部を通過する所定の(必要な)周波数帯域の伝送信号波形の歪を抑えることができる。
【0006】
ところで、フェライトプレート3の材料であるフェライトコアによるノイズ損失、つまり前記磁界によりフェライトコア自体に発生する渦電流損(鉄損)の周波数特性は、このフェライトコアのインピーダンス特性(インピーダンス/周波数特性)により決まる。このフェライトコアのインピーダンスは、次式(1)により算出可能である。なお、式(1)において、Zはインピーダンス、Nはコイルの巻数(N=1)、μは真空における透磁率(μ=4π・10−7)、ωは2πf、fは周波数、Kは形状係数(形状により決定)、jは虚数単位である。
【0007】
【数1】

【0008】
この式(1)によれば、このフェライトコアのインピーダンス(絶対値)は、式(1)から、フェライトコア(材料)の複素透磁率(μ”、μ’)およびフェライトコア形状による形状係数Kに依存する。ここで複素透磁率μ’は透磁率の実数項であり、μ”は透磁率の虚数項であって、いずれも周波数に依存し、実数項μ’はある周波数以上になると磁気共鳴によって低下し、一方、虚数項μ”が増加する傾向を示す。例えば、図4に示すように実数項μ’は1.0MHz付近の周波数で大きく立ち下がり、虚数項μ”はこの1.0MHz付近から徐々に立ち上がった後、2〜3MHz以降で立ち下がる。また、高周波ノイズ(10.0MHz以上)を吸収するエネルギー量を大きくするには、磁気損失項の虚数部μを大きくする必要がある。このため、目的の周波数10.0MHz以上において高いインピーダンスを得るとともに、10.0MHz以下の伝送信号の通過帯域では十分に低いインピーダンスとする必要がある。図5は、図3に示すようなフェライトプレート3に要求されるインピーダンス特性を示す。このインピーダンス特性は、前述のようにフェライトコア(材料)の複素透磁率(μ”、μ’)およびフェライトコア形状による形状係数Kに依存する。図5において、実数部のインピーダンス(抵抗)Rおよび虚数部のインピーダンス(リアクタンス)Xは周波数に依存性し、1.0MHz以上で実数部のインピーダンス成分が立ち上がり、10.0MHz以上の高周波域ではフェライトコアは抵抗のように働きノイズを熱に変換して吸収する。従って、必要とされる10.0MHz以上の高周波ノイズをカットし、10.0MHz以下の低周波域ではインピーダンスを十分に低くして伝送信号を通過可能にする。このように、フェライトコアを用いたローパスフィルタの設計に当たって、前記必要とされるインピーダンスの周波数が得られる形状設計が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−78658号公報
【特許文献2】特開2003−123918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の多重通信用ジョイントコネクタ10は、解決すべき以下の問題を有している。
即ち、必要とされる例えば10.0MHz以上の高周波ノイズをカットし、10.0MHz以下の伝送信号を通過させる特定のインピーダンス特性を持ったローパスフィルタ用のフェライトコアが汎用品として生産されていない場合、必要とされるインピーダンスZに近い汎用品を選んで使用しなければならない。この結果、必要とされる低周波域の伝送信号の通過と不要な高周波ノイズの除去は不十分となる。なお、図6は、ローパスフィルタとして必要とされるインピーダンス特性(Z=R+jX)、汎用品1のフェライトコアのインピーダンス特性(Z1=R1+jX1)、汎用品2のフェライトコアのインピーダンス特性(Z2=R2+jX2)及び汎用品3のフェライトコアのインピーダンス特性(Z3=R3+jX3)を示す図である。同図中、R、R1、R2、R3およびX、X1、X2、X3はそれぞれインピーダンスZ、Z1、Z2、Z3の実数項および虚数項を示す。
【0011】
また、10.0MHz以上の高周波ノイズをカットし、10.0MHz以下の伝送信号を通過させるインピーダンス特性を持ったローパスフィルタ用のフェライトコアが専用品として製作することも考えられるが、この場合大幅なコストアップが避けられない。さらに、フェライト磁心とチップコンデンサによって構成されるローパスフィルタ回路を用いることも考えられるが、この場合も、コストアップが避けられない。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、必要とされるインピーダンス特性を汎用品のフェライトコアを用いて実現することができる多重通信用ジョイントコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために、本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタは、下記(1)を特徴としている。
(1) 複数の相手側コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、かつ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合された際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続される複数対の端子と、
前記各端子によって貫通されるように前記コネクタハウジング内に配置されたフェライトプレートと
を備え、
前記コネクタハウジング内には、インピーダンス特性が異なる複数の前記フェライトプレートが配置され、
複数の前記フェライトプレートのインピーダンス特性を加算したものは、フィルタとして必要とされる所定のインピーダンス特性を満たす
こと。
【0014】
上記(1)の構成の多重通信用ジョイントコネクタによれば、複数のフェライトプレートはそれぞれのインピーダンスについて異なった周波数特性を持つため、このインピーダンス特性の異なった複数枚のフェライトプレートを重ね合わせるなどして、これらに前記端子を同時に貫通させるようにコネクタハウジング内に配置することで、その端子間に必要となるインピーダンスを持つフェライトプレートの設置が可能になる。このため、フェライトプレートは、各コネクタ嵌合部内に配置される前記端子を信号が伝播した際に、前記端子の各対間に生じる高周波ノイズ(電磁波)を吸収し、各端子を流れる伝送信号へのノイズの重畳を回避し、各端子間のインピーダンスの不整合を回避する。また、インピーダンスの不整合に基づく高周波ノイズの発生を抑制または除去しながら、必要とされる低周波域の伝送信号の通過を許容するローパスフィルタ機能を果たす。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多重通信用ジョイントコネクタによれば、必要とされるインピーダンス特性を汎用品のフェライトコアを用いて実現することができる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る多重通信用ジョイントコネクタの分解斜視図である。
【図2】フェライトプレートのインピーダンス特性を示すインピーダンス特性図である。
【図3】従来の多重通信用ジョイントコネクタを示す分解斜視図である。
【図4】従来のフェライトプレートの複素透磁率を示す説明図である。
【図5】図4に示す複素透磁率を持つインピーダンスのインピーダンス特性図である。
【図6】ローパスフィルタとして必要とされるインピーダンス特性および汎用品のフェライトコアのインピーダンス特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態にかかる多重通信用ジョイントコネクタを、図1乃至図2を参照して説明する。
【0019】
図1に示す本実施の形態にかかる多重通信用ジョイントコネクタ20は、コネクタハウジング21と、3枚のフェライトプレート22〜24と、2枚の接続部25、26とを備える。これらのうち、コネクタハウジング21は合成樹脂の成形品からなり、上下方向に複数のコネクタ嵌合部27を並置している。これらのコネクタ嵌合部27は、相手側コネクタを嵌合するために、コネクタハウジング21の一端側から他端側に通じる断面矩形状の横孔をなし、その他端側の一部がフェライトプレート22〜24および接続部25、26の収納部(図示しない)となっている。なお、これらのフェライトプレート22〜24はコネクタハウジング内に収納される。
【0020】
また、前記収納部に収納されるフェライトプレート22〜24は全体としてサイズがそれぞれ略等しく、図1に示すように長方形状で、略等しい厚みを有する。これらのフェライトプレート22〜24はその厚み方向に貫通する複数の貫通孔Hを有する。これらの貫通孔Hは、それぞれのフェライトプレート22〜24において水平方向の2個を一組として垂直方向に複数組、ここでは8組ずつ設けられている。また、接続部25、26の端子28、29は各コネクタ嵌合部27内に突出するようにコネクタハウジング21に配置され、相手側コネクタがこのコネクタ嵌合部27に嵌合されたときに、その相手側コネクタの相手側端子に接触して電気的に接続される。
【0021】
より具体的には、これらの接続部25、26は、ピン状に形成された複数の端子28、29(図1では各列につき8本)と、この複数の端子28、29を一端において接続するバスバー30、31(図1では2本)とを有している。左右方向に隣り合う一対の端子28、29は、一つのコネクタ嵌合部27内に配置される。各コネクタ嵌合部27内に配置される一対の端子28、29には、多重通信を実現する伝送方式に則った信号が伝送される。
【0022】
より具体的な事例を以ってフェライトプレート22〜24の機能を説明する。多重通信用ジョイントコネクタがCANに利用される場合であって、一対の端子28、29に差動信号が入力される伝送路では、一方の一対の端子28、29に接続されるH側信号ラインと他方の一対の端子28、29に接続されるL側信号ラインとの間の、インピーダンスのバランスを保つこと(H側信号ラインのインピーダンス特性≒L側信号ラインのインピーダンス特性)が必須である。このため、H側信号ラインとL側信号ラインの間に位置するフェライトプレート22〜24が、H側信号ラインとL側信号ラインの間の、インピーダンスのバランスを保つこともまた必須である。H側信号ラインとL側信号ラインとの間の、インピーダンスのバランスが保たれていない場合、H側信号ラインとL側信号ラインに誘導される同相モード(コモンモード)のノイズ成分が、差動成分として働き、その結果、このような差動成分がbitエラーの要因となってしまう。
【0023】
なお、本発明においては、フェライトプレート22〜24がコネクタハウジング21にインサート成形される構成に限定されるものではなく、フェライトプレート22〜24がコネクタハウジング21内に配置される構成であればよい。接続部25、26の複数対の端子28、29は、フェライトプレート22〜24の貫通孔Hに挿通されてコネクタ嵌合部27内に突出するようにそれぞれ配置されている。なお、フェライトプレート22〜24の形態は、上述のものに限るものではない。
【0024】
また、本実施の形態では、最適のローパスフィルタとしての特性が、端子28、29が設けられる部位において得られるように、必要となるインピーダンス特性が算出される。一方、この必要とされるインピーダンス特性は、インピーダンス特性が異なる複数枚のフェライトプレート22〜24を組み合わせることによって実現される。
【0025】
前述のように、計算上で必要となるインピーダンス特性が得られても、その必要となるインピーダンス特性を持つフェライトプレートを専用品として実際に開発、作成することは、困難を伴うほかコストアップが避けられない。一方、LR素子を用いたローパスフィルタ回路で代替してもよいが、前記同様に組み付けの作業性およびコストの点で不利であり、コネクタハウジングの大型化を招いてしまう。本実施の形態では、前述のようにインピーダンス特性が異なる汎用の複数枚のフェライトプレート22〜24を組み合わせることによって、必要とされるインピーダンス特性を容易に得ることができる。これにより所望の高周波ノイズカット用のローパスフィルタがコネクタハウジングに設置されることとなる。
【0026】
インピーダンスが異なる汎用の3枚のフェライトプレート22〜24を用いて、3つのインピーダンス特性に基づき必要とされる1つのインピ−ダンス特性を得るための方法を説明する。これらのフェライトプレート22〜24のインピーダンスZ1、Z2、Z3は、フェライトプレート22〜24ごとに形状係数および透磁率が異なるためにそれぞれ異なった値を持つ。そして形状係数(K1、K2、K3)および複素透磁率(μ”、μ”、μ”及びμ’、μ’、μ’、)が異なることによって、式(2)〜(4)に示すようなインピーダンス特性を持つインピーダンスZ1、Z2、Z3を組み合わせた(加算した)場合に、前記の必要とされるインピーダンスZ(Z=Z1+Z2+Z3)が得られる。
【0027】
【数2】


【数3】


【数4】

【0028】
図2は、このように汎用の3枚のフェライトプレート22〜24を組み合わせることによって、得られたインピーダンスZの実数項Raおよび虚数項Xaの周波数特性を示す。これらの実数項Raおよび虚数項Xaの周波数特性は、必要とされるインピーダンスZの実数項Rおよび虚数項Xに近似した特性とすることができる。この必要とされるインピーダンスZに近いインピーダンスZaの近似特性を得ることによって、例えば10.0MHzを中心に低周波側の伝送信号の通過を促進し、一方、10.0MHzを超える高周波信号や高周波ノイズのエネルギを鉄損に変換して除去することができる。これにより汎用品の1つのフェライトプレートでは得られない特定のインピーダンス特性を、汎用品の複数のフェライトプレートを組み合わせることで得ることができる。これにより所望の周波数特性を持つローパスフィルタを容易に作成し、高周波ノイズの除去を簡単かつローコストに実現できる。従って、このローパスフィルタを構成する複数フェライトプレート22〜24をコネクタハウジング21に前述のように収納することで、前記各対の端子28、29での高周波ノイズの輻射や信号伝送に及ぼす悪影響を回避または軽減することができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態の多重通信用ジョイントコネクタによれば、複数対の端子28、29および相手側コネクタとの電気的な接続部分に、必要となるインピーダンス特性を持つフェライトプレート22〜24を設置することで、フェライトプレート22〜24は各対の端子28、29どうしのインピーダンスの不整合により発生する高周波磁界を吸収し、各対の端子28.29どうし間におけるインピーダンスの不整合を回避できる。また、インピーダンスの不整合に基づく高周波ノイズの発生を抑制または除去しながら、低周波域の伝送信号の通過を許容するローパスフィルタ機能を果たすことができる。このようにインピーダンス特性が異なる複数のフェライトプレート22〜24を組み合わせて用いることにより、ローパスフィルタとして必要とされるインピーダンス特性を有する多重通信用ジョイントコネクタ20を容易かつ安価に提供できることとなる。
【符号の説明】
【0030】
1 コネクタハウジング
2 コネクタ嵌合部
3 フェライトプレート
4 貫通孔
5 接続部
6 バスバー
7 端子
10 多重通信用ジョイントコネクタ
20 多重通信用ジョイントコネクタ
21 コネクタハウジング
22〜24 フェライトプレート
25、26 接続部
27 コネクタ嵌合部
28、29 端子
30、31 バスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相手側コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、かつ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合された際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続される複数対の端子と、
前記各端子によって貫通されるように前記コネクタハウジング内に配置されたフェライトプレートと
を備え、
前記コネクタハウジング内には、インピーダンス特性が異なる複数の前記フェライトプレートが配置され、
複数の前記フェライトプレートのインピーダンス特性を加算したものは、フィルタとして必要とされる所定のインピーダンス特性を満たす
ことを特徴とする多重通信用ジョイントコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−253643(P2011−253643A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124963(P2010−124963)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】