説明

大環状分子の調製方法

本発明は、式(I)の大環状化合物の調製方法のためのものであり、触媒の存在下で、式(II)のジエンを環化させる工程を含み、R1-R6、A、W及びVは本明細書に定義されたとおりである。また、本発明は式(II)の中間体化合物のためのものである。


(I)


(II)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の治療用薬剤として、またはそのような薬剤の調製に有効な中間体として有用な、一定の大環状化合物の改良した調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景情報)
以下式の大環状化合物及びそれらの調製方法は、米国特許第6,608,027号(B1)(Tsantrizosら)、米国特許第7,119,072号(Llinas Brunetら)、米国特許第7,504,378号(Llinas Brunetら)、米国特許出願第2005/0080005号(A1)(Llinas Brunetら)、米国特許出願第7,148,347号(Brandenburgら)及び米国特許出願第2004/0248779号(A1)(Samstagら)により知られており:
【化1】

式中、
RAはOH、O-PGであり、PGは保護基、または-OSO2-R27であり、R27はフェニル、p-トリル、p-ブロモフェニル、p-ニトロフェニル、メチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロブチル及び2,2,2-トリフルオロエチルから選択され;
または式IIの基、
【0003】
【化2】

(II)
WはCHまたはNであり、
L0はH、ハロ、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6アルコキシ、C3-6シクロアルコキシ、ヒドロキシまたはN(R23)2であり、
R23は互いに独立にH、C1-6アルキルまたはC3-6シクロアルキルであり、
L1、L2は互いに独立にH、ハロゲン、C1-4アルキル、-O-C1-4アルキルまたは-S-C1-4アルキル(硫黄は酸化された状態)、または
L0及びL1または
L0及びL2は、それらが結合している2つの炭素原子と一緒に共有結合して、4員、5員または6員炭素環を形成してもよく、その環の互いに直接結合していない-CH2-基の1または2つ(5員または6員環の場合)は、互いに独立に-O-またはNRa(RaはHまたはC1-4アルキルである)により置換されていてもよく、前記環はC1-4アルキルで一置換または二置換されていてもよく、
R22はH、ハロ、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6チオアルキル、C1-6アルコキシ、C3-6シクロアルキル、C2-7アルコキシアルキル、C3-6シクロアルキル、C6またはC10アリールまたはHetであり、Hetは、窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4のヘテロ原子を含む5、6または7員飽和または不飽和複素環式化合物であり、前記シクロアルキル、アリールまたはHetはR24で置換され、
【0004】
R24はH、ハロ、C1-6アルキル、C3-6シクロアルキル、C1-6アルコキシ、C3-6シクロアルコキシ、NO2、N(R25)2、NH-C(O)-R25;またはNH-C(O)-NH-R25であり、R25は互いに独立にH、C1-6アルキルまたはC3-6シクロアルキルであり、
またはR24はNH-C(O)-OR26であり、R26はC1-6アルキルまたはC3-6シクロアルキルであり、
R3はヒドロキシ、NH2または式- NH-R9の基であり、R9はC6またはC10アリール、ヘテロアリール、-C(O)-R20、C(O)-NHR20またはC(O)-OR20であり、R20はC1-6アルキルまたはC3-6シクロアルキルであり、
Dは独立にO、SまたはN-R27から選択される1〜3のヘテロ原子を含んでもよい3〜7の原子飽和アルキレン鎖であり、 R27はH、 C1-6アルキル、C3-6シクロアルキルまたはC(O)R28であり、R28はC1-6アルキル、C3-6シクロアルキルまたはC6またはC10アリールであり、
R4はH、または前記鎖Dの炭素原子における1〜3の置換基であり、前記置換基は独立にC1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6アルコキシ、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、オキソ、チオまたはC1-6チオアルキルから成る群から選択され、及び
Aは式C(O)-NH-R11のアミドであり、R11はC1-8アルキル、C3-6シクロアルキル、C6またはC10アリール、C7-16アラルキル、またはSO2R5Aから成る群から選択され、R5AはC1-8アルキル、C3-7シクロアルキル、C16アルキル-C37シクロアルキルであり、
またはAはカルボン酸または医薬上許容されるその塩またはエステルである。
【0005】
国際公開第2005/037214号は、同様の化合物を開示している。
C型肝炎ウィルス(HCV)感染の治療のための有効成分として、または前記明細書に記載されるとおりの前記抗HCV剤の調製に有用な中間体として、明細書に開示されている化合物は、好適な有機溶媒中ルテニウムを基礎とする触媒を用いた非環式ジオレフィンの閉環メタセシスによって調製する。先に述べた閉環メタセシスによる化合物の調製方法は、反応時間の長さ、高い触媒充填、緩やかな収率、及びジエン基質をより低い濃度で使用する必要がある等の不利益がある。従って、大環状化合物を得るための改良された方法の開発が、継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
(発明の簡単な要約)
本発明は、式(I)の大環状化合物の調製方法のためのものであり、
【化3】

(I)
触媒の存在下で、式(II)のジエンを環化させる工程を含み、
【0007】
【化4】

(II)
式中、R1はアルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、カルボニル及びスルホニル等の電子吸引アミド保護基であり、R2はアリール、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル-O-、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、ヘテロシクロアルコキシまたは-NRR’でよく、R及びR’は独立にH、アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリールから選択され、R3はC(O)R7、C(O)OR7またはC(O)NR7R7'でよく、R7及びR7'はアルキル、シクロアルキル、またはアリールであり、R4はH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアミノ保護基でよく、R5及びR6は独立にH、アルキル、アルケニル、アリールまたはシクロアルキルでよい。
【0008】
AはCOOH、COOR8、CHO、CNまたはCON(R9)SO2R10でよく、R8はアルキル、アリール、ヘテロアリール(hetroaryl)、R9はHまたはアミド保護基であり、R10はアルキル、シクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、WはO及びVはO、NまたはS、またはその塩である。
本発明は、また、式IIの中間体化合物又はその塩のためのものであり、
【化5】

(II)
式中R1は電子吸引アミド保護基であり、R2はアリール、ヘテロアリール、及びヘテロシクロアルキルから選択され、R3はC(O)R7、C(O)OR7またはC(O)NR7R7'であり、R7及びR7'は独立してアルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、R4はH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアミノ保護基であり、R5及びR6は独立してH、アルキル、アルケニル、アリール及びシクロアルキルから選択され、AはCOOH、COOR8、CHO、CNまたはCON(R9)SO2R10であり、R8はアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R9はHまたはアミド保護基であり、R10はアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、WはO、及び VはO、NまたはSである。
【0009】
(発明の詳細な説明)
本発明は、触媒の存在下で、式(II)の対応するジエン化合物から式(I)の大環状化合物を合成する方法に対するものであり、シクロプロピル環に隣接するアミド窒素は、電子吸引アミド保護基により保護される。
従来、このような環化は希釈した濃度のジエン、大量の触媒及び長い反応時間を要するにもかかわらず、所望の大環状化合物を緩やかな収率でしか得ることができなかった。国際公開2005/037214号は、ジエンを少なくとも0.01Mの希釈、25%(mol/mol)の触媒、少なくとも16時間の反応時間が必要であると開示している。これらの条件は、特に大規模な合成においては実際的でない。
しかしながら、本発明の方法を用いることにより、式(I)の所望の大環状化合物は、対応するより高い濃度のジエンから、より少量の触媒で、より短時間で実質的により高い収率をもって合成することができる。これは、大環状化合物の大規模な製造を、より効率的に、実質的にコストを抑えて実現する。
本明細書で特に定義されていない用語は、その開示及び文脈に照らして、当業者が解釈するであろう意味を有するべきである。しかしながら、本明細書で使用される場合、特に断りがない限り、以下の用語は指定された意味を持ち、以下の規定は準拠するものである。
【0010】
以下に定義された基(groups)、基(radicals)または基(moieties)において、炭素原子の数は大抵基の直前に明記されている。例えば、C1-6アルキルは、1〜6の炭素原子を有するアルキル基または基を意味する。概して、2以上の亜族(subgroups)を含む基において、後方に記される基は基の結合点(radical attachment point)であり、例えば「チオアルキル」は式HS-アルキル-の1価の基を意味する。以下特に明記されない限り、用語の通常の定義が支配し、及び通常の安定な原子価がすべての式及び基において想定されかつ実現される。
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、単独で、または別の置換基と組み合わせて、非環式、直鎖または分枝アルキル置換基を意味する。前記基は10までの炭素原子を含んでよいが、1〜6の炭素原子を含むことが好ましく、1〜4の炭素原子を含むことがより好ましい。「シクロアルキル」という用語は、例えばシクロヘキサニルのような、環状アルキル基を意味する。シクロアルキル基は3〜10の炭素原子を含んでよいが、3〜7の炭素原子を含むことが好ましい。
【0011】
「アルケニル」という用語は、2〜6の炭素原子を有する分枝及び未分枝アルケニル基を意味し、「C2-4-アルケニル」という用語は、少なくとも一つの二重結合を有するという条件で、2〜4の炭素原子を有する分枝及び未分枝アルケニル基を意味する。2〜4の炭素原子を有するアルケニル基が好ましい。例えばエテニルまたはビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルまたはヘキセニルが挙げられる。特に言及されていない限り、プロペニル、ブテニル、ペンテニル及びヘキセニルという用語の定義には、当該基の可能な異性体のすべてが含まれる。従って、例えば、プロペニルという用語には1-プロペニル及び2-プロペニルが含まれ、ブテニルという用語には1-、2-及び3-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル等が含まれる。
「アルキニル」という用語は(他の基の部分を含む)、2〜6の炭素原子を有する分枝及び未分枝アルキニル基を意味し、「C2-4-アルキニル」という用語は、少なくとも一つの三重結合を有するという条件で、2〜4の炭素原子を有する分枝及び未分枝アルキニル基を意味する。2〜4の炭素原子を有するアルキニル基が好ましい。例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニルまたはヘキシニル(hexynyl)が挙げられる。特に言及されていない限り、プロピニル、ブチニル、ペンチニル及びヘキシニルという用語の定義には、当該基の可能な異性体のすべてが含まれる。従って、例えば、プロピニルという用語には1-プロピニル及び2-プロピニルが含まれ、ブチニルという用語には1,2-及び3-ブチニル、1-メチル-1-プロピニル、1-メチル-2-プロピニル等が含まれる。
【0012】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、置換基アルキル-O-を意味し、ここでアルキルは先に定義されたとおりである。前記基は10までの炭素原子を含んでよいが、1〜6の炭素原子を含むことが好ましく、1〜4の炭素原子を含むことがより好ましい。同様に、「アリールオキシ」はアリール-O-基を意味し、アリールは本明細書中に定義されるとおりである。
本明細書で使用される「シクロアルコキシ」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、置換基シクロアルキル-O-を意味し、3〜10の炭素原子を含み、より好ましくは3〜7の炭素原子を含む。
本明細書で使用される「アリール」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、6の炭素原子を含む芳香族単環式系または10の炭素原子を含む芳香族二環式系を意味する。例えば、アリールにはフェニルまたはナフチル環系が含まれる。
本明細書で使用される「ヘテロシクロアルキル」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、炭素原子を含む5員、6員または7員の飽和または不飽和(芳香族を含まない)複素環、及び窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4の環ヘテロ原子から水素を除去することにより誘導する1価の置換基を意味する。好適なヘテロシクロアルキルは、例えば、テトラヒドロフラン、チオフェン、ジアゼピン、イソキサゾール、ピペリジン、ジオキサン、モルホリン、ピリミジンまたは
【化6】

が挙げられる。
【0013】
当該用語は、1以上の他の環式系に結びついた先に定義された「複素環」を含み、複素環でも炭素環でも、それぞれ飽和または不飽和してよい。例えば、チアゾール[4,5-b]-ピリジン及びイソインドリンが挙げられる。好ましくは前記基は、1〜9の炭素原子を含む。
本明細書中で使用される「ヘテロアリール」という用語は、正確には、二重結合が芳香族系を形成する不飽和複素環を意味する。複素環式芳香族化合物「ヘテロアリール」系の好適な例は例えば、キノリン、インドール、ピリジン、
【化7】

が挙げられる。
好ましくは、上述の基は1〜9の炭素原子を含む。
【0014】
「ハロアルキル」という用語は、先の定義どおり、F、Cl、Br及びI等のハロゲン原子と置換するアルキル基を意味する。F及びClで置換したアルキルは、好ましいハロアルキル基であり、例えばCF3及び-CCl3が挙げられる。
本明細書で使用される「カルボニル」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、オキソ基、すなわちC(O)-を意味する。従って、アルキルカルボニル基はアルキル-C(O)-を意味し、アリールカルボニル基はアリール-C(O)-を意味し、及びアルコキシカルボニル基はアルキル-O-C(O)-を意味する。
本明細書で使用される「スルホニル」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、SO2-Rを意味し、RはH、アルキル、ハロアルキルまたはアリールである。例えばSO2-CH3、-SO2-CF3、-SO2H及びSO2-Phが挙げられる。
「アミド保護基」という用語は、アミド官能基を不活性にすることができる基を意味するが、適切な条件下においては容易に除去することができる。当業者によれば、例えば、“Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd Ed., Wiley&Sons, 1991, ISBN:0-471-62301-6”をここで参考に取り入れるが、文献により公知である多数の可能性を理解するであろう。上記基の一般的な例は、例えばt-BOC及びアセチルである。「電子吸引アミド保護基」という用語は、先に定義されるとおり、一定の分子において同様の位置を占める場合、水素原子より電子を引きつけるアミド保護基を意味する。前記基は、例えばt-BOC及びアセチルが挙げられる。
【0015】
「アミノ保護基」という用語は、アミン官能基を不活性にすることができる基を意味するが、適切な条件下においては容易に除去することができる。当業者は、例えば、“Greene, Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd Ed., Wiley&Sons, 1991, ISBN:0-471-62301-6”をここで参考に取り入れるが、文献により公知である多数の可能性を理解するであろう。前記基の一般的な例は、例えばt-BOC及びアセチルが挙げられる。
上述の置換基、基(moieties)、基(groups)及び官能基は、さらに、好適な置換基によって置換してよい。当業者は、どの置換基が好適であるか容易に理解するであろう。
概して、立体化学または異性体を化学名または化学式に具体的に示さない限り、化学名も化学式も、すべての互変異性体及び異性体の形及び混合物は、個々の幾何異性体、立体異性体、光学異性体または異性体のラセミまたは非ラセミ混合物を称する。
【0016】
本明細書で使用される「医薬的に許容されるエステル」という用語は、単独で、あるいは他の置換基と組み合わせて、式1の化合物の、分子のカルボン酸官能基のいずれか、好ましくは末端のカルボキシル基を、アルコキシカルボニル官能基で置換したエステルを意味する。
【化8】

式中、エステルのR基がアルキル(例えばメチル、エチル、n-プロピル、t-ブチル、n-ブチル);アルコキシアルキル(例えばメトキシメチル);アルコキシアシル(例えばアセトキシメチル);アラルキル(例えばベンジル);アリールオキシアルキル(例えばフェノキシメチル);アリール(例えばフェニル)から選択され、任意にハロゲン、C1-4アルキルまたはC1-4アルコキシにより置換する。他の好適なプロドラッグエステルは“Design of Prodrugs、Bundgaard、H.Ed.Elsevier(1985)”に掲載され、ここで参考に取り入れる。前記医薬的に許容されるエステルは、哺乳動物に注射され、式1の化合物の酸の形態へ変わると、通常インビボで加水分解される。
【0017】
上述のエステルに関し、特に明記されない限り、存在するアルキル基は有利に1〜16の炭素原子を含み、特に1〜6の炭素原子を含む。前記エステルに存在するアリール基は、有利にフェニル基を含む。
特に、エステルはC1-16アルキルエステル、置換されていないベンジルエステル、または少なくとも1のハロゲン、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、ニトロまたはトリフルオロメチルで置換したベンジルエステルでよい。
本明細書で使用される「医薬的に許容される塩」という用語は、医薬的に許容される塩基から誘導するものを含む。好適な塩基は、例えばコリン、エタノールアミン及びエチレンジアミンを含む。Na+、K+及びCa++の塩は、同様に本発明の範囲内にあるものと意図する(Pharmaceutical Salts、Birge、S.M.ら、J. Pharm. Sci.、(1977)、66、1-19を同様に参照、ここで参考に取り入れる)。
【0018】
一般的合成方法:
スキームI
【化9】

スキームIは、式(I)の大環状化合物の一般的な合成を例証し、R1〜R6、A、V及びWは本文に定義されたとおりである。
【0019】
式(I)の大環状化合物の合成において、式(II)のジエン化合物は、触媒の存在下で環化する。当業者は、そのような反応に好適な触媒を理解するであろう。好ましい触媒は、第2世代グラブス触媒及び第2世代ホベイダ・グラブス等の触媒をもとにしたイミダゾリウムカルベンまたは飽和イミダゾリウムカルベンである。最も好ましい触媒はグレーラ触媒であり、[1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)ジクロロ (5-ニトロ-2-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム]である。先行技術において、通常触媒充填は、ジエン化合物に対して25%モルである。しかしながら、シクロプロピル環に隣接するアミド窒素がt-BOCまたはアセチル等の電子吸引保護基により保護される場合、約25%(mol/mol)より少ない触媒が所望の大環状化合物を高い収率で得るために必要であり、より詳細には、高い収率で環化させるため、わずか約0.1%を使用すればよい。
従来より、このような環化反応は、非プロトン性有機溶媒において高い希釈度、通常0.01Mで行われた。当業者は、この合成で使用するのに好適な非プロトン性溶媒を了知しているであろうが、トルエンが好ましい。R1が電子吸引アミド保護基の場合、環化は約0.01Mより大きい濃度で行ってよく、同時に所望の大環状化合物が高い収率で得られる。好ましくは、当該濃度は約0.10Mでよい。
【0020】
特殊な合成方法
スキームII

スキームIIは、(Z)-(1S,4R,6S,14S,18R)-14-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-18-(4-フルオロ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-カルボニルオキシ)-2,15-ジオキソ-3,16-ジアザ-トリシクロ [14.3.0.04,6]ノナデク-7-エン-4-カルボン酸(3R,5S)-1-((S)-2-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-ノン-8-エノイル)-5-((1R,2R)-1-メトキシカルボニル-2-メチル-シクロプロピルカルバモイル)-ピロリジン-3-イル エステルの合成と比べ、(Z)-(1S,4R,6S,14S,18R)-14-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-18-(4-フルオロ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-カルボニルオキシ)-2,15-ジオキソ-3,16-ジアザ-トリシクロ [14.3.0.04,6]ノナデク-7-エン-3,4-ジカルボン酸3-(3R,5S)-5-[t-ブチルエステル 4ブトキシカルボニル-((1R,2R)-1-メトキシカルボニル-2-メチルエステル-シクロプロピル)-アミノカルボニル]-1-((S)-2-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-ノン-8-エノイル)-ピロリジン-3-イル エステルの特殊な合成を例証する。
【0021】
対応するジエン化合物、1bは、1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)ジクロロ (5-ニトロ-2-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウムの存在下で環化し、大環状化合物2bを高い収率で得る。特に、スキームIIは、Rがt-BOCのような電子吸引アミド保護基である場合、反応濃度が0.10Mより10倍高いとしても、RがHの場合に比べて所望の生成物をより高い収率で得ることができる。
その上、シクロプロピル基に隣接した窒素を電子吸引アミド保護基とすることは、反応時間を短縮させる。RがHの場合、反応は通常約16時間またはそれ以上を要するが、Rがt-BOCのような電子吸引アミド保護基である場合、反応は約16時間より短い時間で完了し、約30分間で完了させることができる。
以下の実施例は、例証的目的で提示され、本発明の理解の助けとなるものであり、本発明の範囲を限定すべきものではない。
【実施例】
【0022】
実施例1
(Z)-(1S,4R,6S,14S,18R)-14-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-18-(4-フルオロ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-カルボニルオキシ)-2,15-ジオキソ-3,16-ジアザ-トリシクロ[14.3.0.04,6]ノナデク-7-エン-3,4-ジカルボン酸3-t-ブチルエステル4-メチルエステル
トルエン(50mL)中に1b[4-フルオロ-1,3-ジヒドロ-イソインドール-2-カルボン酸(3R,5S)-5-[t-ブトキシカルボニル-((1R,2S)-1-メトキシカルボニル-2-ビニル-シクロプロピル)-アミノカルボニル]-1-((S)-2-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-ノン-8-エノイル)-ピロリジン-3-イルエステル] (3.9 g)が入った三つ口フラスコへ、1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)ジクロロ(5-ニトロ-2-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウムを110℃で30分間かけて加えた(トルエン4mL中12mg)。反応を10分間後にHPLCにより観察した。転化が>99%に達した後、反応をイミダゾール(50mg)で急冷することで停止させ、さらに1時間80℃で攪拌した。反応を1M HCl(2 x 20 mL)で抽出し、濃縮させ、粗生成物のトルエン溶液(20mL)が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の大環状化合物又はその塩の調製方法であって、

(I)
触媒の存在下で、式(II)のジエンを環化する工程を含み、

(II)
式中:
R1は電子吸引アミド保護基であり、
R2はアリール、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル-O-、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、ヘテロシクロアルコキシ及び-NRR’から選択され、R及びR’は独立にH、アルキル、シクロアキル、アリール及びヘテロアリールから選択され、
R3はC(O)R7、C(O)OR7またはC(O)NR7R7’であり、R7及びR7’は独立にアルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
R4はH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアミノ保護基であり、
R5及びR6は独立にH、アルキル、アルケニル、アリール及びシクロアルキルから選択され、
AはCOOH、COOR8、CHO、CNまたはCON(R9)SO2R10であり、式中R8はアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R9はHまたはアミド保護基であり、R10はアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
WはO;及び
VはO、NまたはS;
である方法。
【請求項2】
W及びVが酸素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R4がHまたはアルキルであり、及びR3がC(O)OR7である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
R7がシクロアルキルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
R2がヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルまたは-NRR’であり、R及びR’がH、アルキル、シクロアキル、アリール及びヘテロアリールである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
R2がヘテロシクロアルキルである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
AがCOOR8である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
R5及びR6がHである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
R1がアセチルまたはt-BOCである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
R1がt-BOCである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
式(II)のジエン化合物の濃度が約0.01Mより大きい、請求項1記載の方法。
【請求項12】
式(II)のジエン化合物の濃度が約0.10Mである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
触媒が、1,3-ビス-(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)ジクロロ(5-ニトロ-2-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウムである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
式(II)のジエン化合物の99%を、式(I)の大環状化合物に転化するための所要時間が約16時間以下である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
式(II)のジエン化合物の99%を、式(I)の大環状化合物に転化するための所要時間が約0.5時間である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
触媒が約25%(mol/mol)より少ない量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
触媒が約0.1% (mol/mol)の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
式IIの化合物またはその塩、

(II)
式中:
R1が電子吸引アミド保護基であり、
R2がアリール、ヘテロアリール及びヘテロシクロアルキルから選択され、
R3がC(O)R7、C(O)OR7またはC(O)NR7R7’であり、式中R7及びR7’ が独立してアルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
R4はH、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアミノ保護基であり、
R5及びR6は独立にH、アルキル、アルケニル、アリール及びシクロアルキルから選択され、
AはCOOH、COOR8、CHO、CNまたはCON(R9)SO2R10であり、式中R8はアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、R9はHまたはアミド保護基であり、R10はアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
WはO;及び
VはO、NまたはS。
【請求項19】
式中:
R1はt-BOCまたはアセチルであり、
R2はヘテロシクロアルキルであり、
R3はC(O)OR7であり、式中R7及びR7’は独立にアルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
R4はHまたはアルキルであり、
R5及びR6は独立にHまたはアルキルであり、
AはCOOHまたはCOOR8であり、R8はアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、WはOであり;及び
VはOである、請求項18記載の化合物。
【請求項20】
R1はt-BOCであり、
R2はイソインドリンであり、
R3はC(O)OR7であり、R7はシクロアルキルであり、
R4はHであり、
R5及びR6はHであり、
AはCOOR8であり、R8はアルキルであり、
WはOであり、及び
VはOである、請求項18記載の化合物。

【公表番号】特表2011−519943(P2011−519943A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508586(P2011−508586)
【出願日】平成21年5月5日(2009.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/042773
【国際公開番号】WO2009/137432
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】