説明

天然トリウム塩からトリウム228を製造する方法

本発明は、天然トリウム塩から228Thを製造する方法に関し、
一連の、
a) 硫酸バリウムによるラジウムの少なくとも1回の共沈処理によって、天然トリウム塩中に存在する他の放射性元素からラジウムを分離する処理と、
b) このように分離された共沈物中のラジウム228が崩壊して得られるトリウム228を抽出する処理と、
必要に応じて、
c) このように抽出された228Thを精製する処理および濃縮する処理と、
を有する。
ただし、前記共沈処理は、
i) 硫酸バリウム−硫酸ラジウムの共沈物を形成するために、前記天然トリウム塩の水溶液に硫酸とバリウム塩とを添加する処理と、
ii) 前記共沈物が形成されたときに、その媒質から前記共沈物を分離する処理と、
を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然トリウム塩からトリウム228を製造する方法に関する。
【0002】
非常に高い収率で高純度のトリウム228が得られる本方法は、特に核医学において、とりわけガンやエイズの治療のための放射免疫療法において有用な放射性医薬品の製造に適用できる。
【背景技術】
【0003】
放射免疫療法は、α粒子またはβ粒子を放射する放射性元素がグラフトされたガン性細胞に固有の抗原性薬剤により、これらのガン性細胞に選択的に付着可能とされたモノクローナル抗体またはペプチドからなる組を注射することによって生体組織に形成されたガン性細胞を放射線治療する治療法である。
【0004】
β線放射体による放射免疫療法は、直径数ミリメートルの固形ガンの治療とリンパ腫や白血病などの血液ガンの治療とに適しているのに対して、α線放射体による放射免疫療法は、多発性骨髄腫などの播種性ガンの治療と微小転移の治療とに適している。
【0005】
特にアメリカ合衆国でα線による放射免疫療法により前臨床試験を行なってきたどの疾患に対しても、とりわけ膵臓ガンあるいは他の腹膜ガンおよびメラノーマの治療に対しても、トリウム228のある子孫核、特にα線放射体のビスマス212およびβ線放射体の鉛212とビスマス212の放射性親核とは、α線による放射免疫療法に利用可能である。
【0006】
また、これらの子孫核により構成された放射性医薬品を製造するためには、まず、第一に、高純度のトリウム228を工業的規模で供給できるようにすることが必要となり、それゆえ、高純度のトリウム228を工業的規模で製造できるようにすることが必要となる。
【0007】
トリウム232の放射性崩壊を示す本明細書に添付された図1に示されたように、トリウム228は、モナザイトやトーライトなどの鉱石から抽出された天然トリウムの主成分であるトリウム232の崩壊系列の一部を成している。
【0008】
そこで、発明者は、高い純度を有し、工業的な開発に見合った収率およびコストとなるトリウム228を、天然トリウムから製造する方法を開発することを目的に設定した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H.A. Doerner and WM.M. Hoskins, Journal of the American Chemical Society, 47(3), 662-675, 1925.
【非特許文献2】L. Gordon and K. Rowley, Analytical Chemistry, 29(1), 34-37, 1957.
【非特許文献3】T-C. Chu and J-J. Wang, Journal of Nuclear and Radiochemical Sciences, 1(1), 5-10, 2000.
【発明の概要】
【0010】
上記の目的および、その他の目的は、一連の、
a) 硫酸バリウムによるラジウム(228Raと224Ra)の少なくとも1回の共沈処理によって、天然トリウム塩中に存在する他の放射性元素からラジウムを分離する処理と、
b) このように分離された共沈物中のラジウム228が崩壊して得られるトリウム228を抽出する処理と、
必要に応じて、
c) このように抽出されたトリウム228を精製する処理および濃縮する処理と、
を有し、天然トリウム塩からトリウム228を製造する方法を提案する本発明によって達成される。
【0011】
ただし、上記の共沈処理は、
i) 硫酸バリウム−硫酸ラジウムの共沈物を形成するために天然トリウム塩の水溶液に硫酸とバリウム塩とを添加する処理と、
ii) 共沈物が形成されたときに、その媒質から共沈物を分離する処理と、
を有する。
【0012】
このように、本発明では、天然トリウム塩に含まれるラジウムを捕捉する処理と、硫酸バリウムを用いた共沈処理と、こうして得た共沈物から、それが含むラジウムの崩壊により生じるトリウム228を二次的に抽出する処理とによって、トリウム228を天然トリウム塩から生成する。
【0013】
また、必要に応じて、上記の抽出の後に、抽出されたトリウム228の精製と濃縮とが行われる。
【0014】
放射性元素、特にラジウムの硫酸バリウムによる共沈処理は、本質的に、新規のものではないことに注意すべきである。
【0015】
上述のように、そのメカニズムは、例えば、H.A. DoernerとWM.M. Hoskins(非特許文献1)、L. GordonとK. Rowley(非特許文献2)らの数多くの著者によって研究されてきた。
【0016】
さらに最近では、T-C. ChuとJ-J. Wang(非特許文献3)らによって、台北のペイトゥ盆地の温泉や河川水のラジウム226の含有量を調査するのに共沈処理が利用された。
【0017】
しかしながら、発明者の知る限りでは、共沈処理が天然トリウム塩からトリウム228を製造する方法の一処理として提案されたことはない。
【0018】
しかも、共沈処理が施される天然トリウム塩の水溶液を1mol/lの濃度か、それより大きい濃度とするのが望ましいので、そのことにより非常に大きな生理食塩水負荷がある場合には、従来技術における上記の共沈処理の実施方法は、本発明の方法が利用される用途とは明らかに相容れない。
【0019】
本発明では、上記の天然トリウム塩を硝酸トリウムとしたければ、上記のバリウム塩自体を硝酸バリウムとした方がよい。
【0020】
また、上記の天然トリウム塩を、例えば、塩化トリウムとしたければ、上記のバリウム塩を塩化バリウムとした方がよい。
【0021】
これらの作業では、ラジウムの共沈処理でも、それに続くトリウム228の抽出処理でも、100%に近い収率を得るためには、共沈処理の間に形成される硫酸バリウム−硫酸ラジウムの粒子を、超微細粒子サイズ、すなわち、実際には、なるべく体積基準で10μm、個数基準で0.5μmの50%平均粒子径とすることが必要であると発明者には分かっている。
【0022】
また、下位の処理i)において、トリウム塩の水溶液に、硫酸とバリウム塩とを次々に、この順で撹拌しながら加え、このとき、粒子形成の間中、継続して撹拌すれば、上記の粒子サイズの硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子が得られることも発明者には分かっている。
したがって、本発明では、これが最良の処理方法となる。
【0023】
さらに、硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子を形成するには、硫酸の余剰分を利用するのが有効であるが、硫酸に対するバリウム塩の割合が共沈処理の収率に影響を与えることが分かっている。
【0024】
これは、バリウム塩自体はトリウム塩に対して不足した量で加えた方がよいのに対して、硫酸はトリウム塩の水溶液にバリウム塩に対して過剰な量で加える方がよいからである。
【0025】
具体的には、モル比BaS0/HS0を0.12〜0.27の範囲とし、モル比Ba/Thを約2×10−3とした場合が、完全に適合していることが分かる。
【0026】
本発明の方法を実施するのに必要とされる装置の作業容積をできる限り小さくするためには、トリウム塩溶液に硫酸とバリウム塩とを加えることにより生じる希釈効果を最小限に抑えるのが望ましい。
【0027】
このためには、高濃度の硫酸、理想的には36Nの硫酸と、固形状のバリウム塩、具体的にはパウダー状のバリウム塩とを加えるのが望ましい。
【0028】
また、共沈物が形成された後で、共沈物を、それが形成された媒質から分離しなければならない。
【0029】
100%に近いラジウムの共沈処理の収率を得るために必要とされる共沈物の粒子サイズが非常に小さいということは、いかなる固体−液体の分離技術も、このような分離を行なうのには使用できないということを意味している。
【0030】
この粒子サイズ3Dは非常に小さいので、特に単純で発展性のない濾過作用を利用した場合には、フィルターが詰まるかもしれない。
しかも、それはケーキ形成や共沈物の乾燥には必要ではない。
【0031】
液体中で、共沈物を沈殿状態にしたり、懸濁状態にしたりすることは、例えば、上記の処理後に続く処理において、容易な懸濁処理を可能とするのに役立つ。
【0032】
このような効果を得るのに、例えば、以下の様々な技術を利用することができる。
・ 共沈物がフィルターを詰まらせることがないように、共沈物がフィルターを通ってから形成されるようにして、その媒質の透過を促す(精密濾過あるいは限外濾過用の)クロスフロー濾過膜の利用
・ 共沈物を凝集させ、それを沈殿させる凝集剤の利用(この沈殿により生じる上澄みは、その後取り除かれる。)
【0033】
適当な凝集剤としては、例えば、SNF Floerger社から販売されている低価数の陰イオン性ポリアクリルアミドがある。
【0034】
また、本発明の方法を実施するための最良の方法では、天然トリウムの共沈物を除去するために、この共沈物を弱酸性の水溶液、例えば、規定度が約0.5の硝酸水溶液と接触させることにより効果的に行われる処理a)と処理b)との間の共沈物の洗浄処理も含まれる。
【0035】
したがって、下位の処理ii)がクロスフロー濾過によって行われる場合には、共沈物が沈殿している媒質中の天然トリウムの濃度を必要なだけ低下させるために、供給物の液体構造によりフィルターを通しての透過率を補填するダイアフィルトレーションの処理を補足的に追加するのが望ましい。
【0036】
変形例として、下位の処理ii)が共沈物を凝集させた結果生じる上澄みを除去することにより行われる場合には、共沈物の数回のリパルプにおいて、その都度移される弱酸性の水溶液によって洗浄処理を行なうのが効果的である。
【0037】
本発明の方法を実施するための別の最良の方法では、下位の処理ii)を行なう方法(軟凝縮またはクロスフロー濾過)に関係なく、共沈物を弱酸性の水溶液に接触させることによって、ラジウムの崩壊により生じるトリウム228が抽出される。
【0038】
このように抽出されたトリウム228の精製および濃縮に関しては、イオン交換クロマトグラフィー、さらに具体的には陽イオン交換クロマトグラフィーによって行なうのが望ましいので、トリウムが、例えば、樹脂状あるいは溶剤状の陽イオン交換体に付着するのに適したTh4+の状態となるように、トリウム228を抽出するのに使用する水溶液を弱酸性水溶液とするのが効果的である。
【0039】
ここで再び、この弱酸性水溶液を、特に規定度が約0.5の硝酸水溶液とすることができる。
【0040】
本発明の方法を実施するための1つのとりわけ最良の方法では、処理a)中に、共沈処理を数回、望ましくは少なくとも4回は連続して実行する。
【0041】
また、累積された共沈物により共沈処理の収率の増加速度が増大するので、同じ収率および装置容積に対しては、実際に、処理a)の継続時間が削減可能となることが発明者には分かっている。
【0042】
下位の処理ii)を、沈殿処理と、その結果として生じる上澄みの化学反応炉からの除去処理とによって行なうならば、これらの共沈処理を同一の化学反応炉内で行なうのが効果的である。
【0043】
本発明の方法は、他の利点と共に、医学的な用途および要求に適合する高純度のトリウム228の製造方法となっている。
【0044】
すなわち、放射性物質の如何なる放射性親核にも遡ることなく、また、大きな影響を及ぼす程の外部からの化学的不純物を含むこともなく、したがって、核医学を目的とする放射性医薬品の製造に利用可能な純粋なトリウム228を製造する方法となっている。
【0045】
また、本発明の目的は、それゆえ、核医学を目的とする放射性医薬品の製造のために、特に放射免疫療法のために、さらに具体的には、α−放射免疫療法のために、上述の処理によって得られたトリウム228を利用することにある。
【0046】
本発明は、付録の図面について述べられた後に続く実施例の視点より一層明確に理解される。
【0047】
もちろん、これらの実施例は、単に本発明の主題の一例として与えられており、この主題を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】トリウム232の放射性崩壊系列を示している。
【図2】本発明の方法が工業的規模で、どのように実施されるかの一例を簡易図に示している。
【図3】本発明の方法に係る洗浄処理において、フロックの洗浄に使用された硝酸水溶液中のトリウム元素の濃度変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0049】
〔本発明の方法の工業的規模での実施〕
図2は、本発明の方法が工業的規模で、どのように実施されるかの一例を概略的に示している。
【0050】
本実施例において、本方法は、
・ 同一の化学反応炉内で連続して行われる硫酸バリウムを使用したn回の共沈処理によって、天然トリウム塩中に含まれるラジウム(224Raと228Ra)を、そこに一緒に存在している他の放射性元素から分離する処理と、
・ こうして得たフロックの隙間に入り込んだ液体中に存在する天然トリウムを除去するための洗浄溶液による洗浄処理と、
・ このように洗浄されたフロックから、ラジウム228の崩壊によって生じたトリウム228を、抽出溶液を使用して抽出する処理と、
・ このように抽出されたトリウム228を、イオン交換樹脂上を通過させることによって精製する処理および濃縮する処理と、
を含んでいる。
【0051】
ただし、各共沈処理には、トリウム塩の水溶液を準備する処理と、その場で硫酸バリウム−硫酸ラジウムを形成する処理とが含まれており、その後、この共沈物が軟凝縮して、その上澄みから共沈物が分離される。
【0052】
これらの全ての処理は、室温、すなわち、22±2℃の温度で行われる。
【0053】
1. 硫酸バリウムによる共沈処理
【0054】
各共沈処理は、撹拌装置2が取り付けられた化学反応炉1内に、濃度がなるべく1mol/lか、それ以上の天然トリウム塩の水溶液を導入することから開始される。
【0055】
ただし、天然トリウム塩の水溶液は、予め天然トリウム塩を適当な量の水の中で撹拌しながら溶解させることによって得られている。
【0056】
上記のトリウム塩を、高純度の硝酸トリウム、すなわち、理想的には少なくとも99.8%の純度の硝酸トリウムとするとよい。
この場合、例えば、Areva NC社製の硝酸トリウムが有効である。
【0057】
次の各共沈処理には、硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子の、その場での形成が含まれている。
【0058】
上で示したように、共沈処理でも、それに続くトリウム228の抽出でも、100%近い収率を得たければ、これらの粒子が、体積基準で10μmより小さく、個数基準で0.5μmより小さい50%平均粒子径(D50)を有しているのが望ましい。
【0059】
このために、各共沈処理には、化学反応炉に硫酸を撹拌しながら導入するステップ(その後、すぐに、例えば、硝酸バリウムなどのバリウム塩が加えられる。)と、この撹拌の下で共沈処理速度および、この速度で達成が期待される共沈処理の収率によって予め設定された時間だけ反応混合物を保持するステップとが含まれている。
【0060】
上記の反応混合物中には、上記の硫酸が上記のバリウム塩に対して過剰に存在していなければならない。
【0061】
一方で、上記のバリウム塩自体は上記のトリウム塩に対して不足していなければならない。
【0062】
例えば、モル比BaS0/HS0が約0.2とモル比Ba/Thが約2×10−3とでは、優れた結果が示される。
【0063】
さらに、バリウム塩自体は、これらの薬剤を加えることによって生じる希釈効果を最小限に抑えるために、化学反応炉に固形状で、具体的にはパウダー状で導入した方がよいのに対して、硫酸は高濃度に濃縮した状態で、理想的には36Nの硫酸として化学反応炉1に導入するとよい。
【0064】
これと上記の天然トリウム塩の溶液とによって、本発明の方法を実施するのに必要とされる装置の作業容積を可能な限り減少させる。
【0065】
各共沈処理には、硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子の形成に掛かる時間の後にSNF Floerger社などによって販売されている低価数の陰イオン性ポリアクリルアミドタイプの凝集剤を化学反応炉に導入するステップと、その後、硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子が化学反応炉の底部に集積・沈殿可能となるように撹拌を停止するステップとが含まれている。
【0066】
このように、各共沈処理後に得られるものは、化学反応炉1から排出装置3によって除去される上澄みであり、そして、それはライン4を経て、上記の方法によって生成された様々な残留廃液を受け入れるために用意されたタンク5に案内される。
【0067】
したがって、第n回目の共沈処理が終了するまで、化学反応炉1内に留まったフロック自体が、第2回目の共沈処理と同様に、先行する共沈処理の結果生じるフロックに累積する。
【0068】
最終的に得られたものは、n回の共沈処理の間に生成されたn個のフロックによって形成された単一のフロック6である。
【0069】
2. フロックの洗浄および洗浄されたフロックからのトリウム228の抽出
【0070】
図2に示されたように、フロックの洗浄は、フロックの沈殿および化学反応炉からの洗浄溶液の除去によって結果として生じる洗浄溶液を撹拌しながら添加することにより、化学反応炉1内で実行可能である。
ただし、これらの処理が、1回以上繰り返される。
【0071】
他に可能な方法としては、例えば、カラム内のフロックを収集する処理と、洗浄溶液をフロックに浸透させることによって、それを洗浄する処理とを有するものがある。
【0072】
また、化学反応炉内でのフロックのリパルプ処理と、一緒に洗浄する処理と、隙間に入り込んだトリウム232を除去するために樹脂上で精製する処理とを実行する可能性もある。
【0073】
また、ラジウム228の崩壊の結果生じるトリウム228は、化学反応炉1に抽出溶液を導入することによって抽出できる。(その後、カラム内でフロックに通過させて、抽出溶液を沈殿あるいは濾過する。)
【0074】
上記の洗浄溶液と上記の抽出溶液とを、弱酸性の水溶液、具体的には規定度が約0.5の硝酸水溶液とすることができる。
【0075】
これは、低い酸性度によって、非常に効果的に天然トリウムのフロックの精製が可能となるだけでなく(その後、そこから高い収率でトリウム228が抽出される。)、フロックを精製して濃縮するために、排出された抽出溶液中に存在するトリウム228を、後で陽イオン交換樹脂に付着させるのに好都合な陽イオン状態Th4+にすることも可能となるからである。
【0076】
フロックが洗浄された後でフロックが化学反応炉1内に留まり、抽出溶液に接触している間中、排出された洗浄溶液は、ライン4を経由してタンク5に送られる。
【0077】
トリウム228が抽出された後で、放射性元素を含んだ、この排出された抽出溶液が、ライン7を経由して精製・濃縮装置8に送られる。
【0078】
3. トリウム228の精製および濃縮
【0079】
図2に示されるように、上記のトリウム228を精製して濃縮する装置には、排出された抽出溶液の酸性度にできるだけ等しい酸性度を有する陽イオン交換樹脂で予め満たしたカラム8が設けられているとよい。
【0080】
これにより、この樹脂にトリウム228を付着させるために、如何なる添加も希釈も必要としない。
【0081】
適当な樹脂としては、例えばPurolite社製のものが使用可能である。
【0082】
したがって、付着したトリウム228を、それが陰イオンとなるように酸性度を変えることによって、容易に溶出させることができる。
【実施例2】
【0083】
〔実験検証〕
【0084】
上で記載された本発明の方法の実施方法の例として、水溶液によるトリウム塩の溶解に関して、硫酸バリウムによる共沈処理と、フロックの洗浄および、このフロックからのトリウム228を抽出する処理との両方の試みが実験室で有効であった。
【0085】
1. 硫酸バリウムによる共沈処理
【0086】
本試験には、ここから先では共沈処理1〜10と呼ぶ、同一の化学反応炉内での連続する10回の共沈処理の実行が含まれる。
【0087】
各共沈処理1,2,4〜6および8〜10は、後述の処理を順番に行なうことによって実行された。
・ 750回/分で磁気撹拌(棒磁石による撹拌)をしながら、(16gのトリウムに対して)50mlの水に40gの硝酸トリウムを溶解させるステップと、
・ 36NのHS0(Merck社の”Pro analysis”)を0.9ml添加するステップと、
引き続いて、2分後に、
・ 0.5gの硝酸バリウムのパウダー(Prolabo社のNORMAPUR(登録商標))を添加する処理と、
・ 硝酸バリウムを添加(この添加をtで表す)後に、硫酸バリウム−硫酸ラジウム粒子の形成を24時間監視するステップと、
・ 放射性物質の放射能を測定するために、t+2h,t+6h,t+23hおよびt+24hに検査サンプルを取り出すステップと、粒子サイズを測定するために、t+23hに検査サンプルを取り出すステップと、
・ t+24hに、水に0.2g/lで溶解された凝集剤(SNF Floerger社のFLOPAM(登録商標)AH 912 SH)を2ml添加するステップと、
・ 撹拌を停止し、その混合物を、1時間を示すtだけ放置し、その上澄みを排出するステップと、
共沈処理3と、共沈処理7とが、以下のステップを除いては上述されたのと同じ方法で行われた。
【0088】
・ 共沈処理3では、粒子サイズの測定を目的とする検査サンプルがt+95hで取り出されたのに対して、放射性物質の放射能測定を目的とする検査サンプルが、t+2h,t+6h,t+95hおよびt+96hで取り出されたので、硫酸バリウム−ラジウムの粒子は、96時間、形成のために放置された。
・ 共沈処理7では、粒子サイズの測定を目的とする検査サンプルがt+71hで取り出されたのに対して、放射性物質の放射能測定を目的とする検査サンプルが、t+2h,t+6h,t+71hおよびt+72hに取り出されたので、硫酸バリウム−ラジウムの粒子は、72時間、形成のために放置された。
【0089】
+2h,t+6h,t+23h,t+71hおよびt+95hに取り出された検査サンプルは、すべて、0.1μmのMillipore(登録商標)フィルターで濾過された。
【0090】
+24h,t+72hおよびt+96hに取り出されたものは、すべて、2つの固まり、すなわち、濾過された固まりと濾過されていない固まりとに分けられた。
【0091】
放射能は、NF M 60−790−6規格に対応するアクチニウム228によるガンマ線分光法によって測定された。
【0092】
この方法では、短寿命の放射性元素を除去するために(それらの放射性の祖先を除く)、検査サンプルの抽出と測定との間に、少なくとも4日間の時間の遅れを伴う。
【0093】
硫酸バリウムによるラジウムの共沈処理では、トリウムの放射性崩壊系列中に、一つはトリウム232とラジウム228との間と、もう一つはトリウム228とラジウム224との間とに、2つの分岐点がある。
【0094】
これらの分岐点は、それぞれ図1中の矢印f1およびf2によって記号により示されている。
【0095】
したがって、測定されたアクチニウム228は、それの祖先、すなわち、ラジウム228だけから得られる。
【0096】
それは上記の沈殿しないラジウムを示し、それの放射能はラジウム228の放射能と等しくなっている。
【0097】
その結果、上記の共沈処理の収率は、この測定から次の通り計算される。
【0098】
ρ=(最初の放射能−測定された放射能)/最初の放射能
【0099】
粒子サイズの測定は、Malvern社のMASTERSIZER Sという計器を使用して液相中で行われた。
【0100】
以下の表1は、kBq/lで表されたアクチニウム228の放射能と、パーセンテージで表された共沈処理の収率と、10回の共沈処理のそれぞれに対して得られ、μmで表されたD50値およびμmで表された個数基準のD50値を示している。
【0101】
〔表1〕
【表1】

【0102】
〔表1の続き〕
【表2】

【0103】
この表には、最初の共沈処理からt+24hで、ほとんど98%の共沈処理の収率が得られ、数回の共沈処理が同一の化学反応炉内で連続して行われた場合には、この収率が低下しないことが示されている。
【0104】
また、上記の表には、最初の3回の共沈処理に対する共沈処理の収率は、たった91.0%,82.7%および95.4%であるのに対して、この共沈処理に対してt+2時間に達成した収率および後に続く共沈処理に対する収率は、それぞれ、96.9%,97.5%,98.3%,97.8%,98.0%,97.8%および98.1%であるので、4回目の共沈処理の後で共沈処理の収率の増加速度が著しく上昇することが示されている。
【0105】
したがって、本発明の方法を工業的規模で実施する場合には、共沈処理を繰り返すことが、それらの継続時間を短くするのに有効であるのは明らかである。
【0106】
2. フロックの洗浄
【0107】
10回の共沈処理の後に得られたフロック(体積:3ml)が、Wathman(登録商標)40ペーパーフィルターが備えられた内径16mmのカラム(作業容積:16ml)内に導入された。
【0108】
次に、0.5Nの硝酸水溶液を、上昇方向に連続的に流速10ml/hで、このカラム内に通過させた。
【0109】
カラムに残っている洗浄溶液のトリウム元素の濃度は、誘導結合プラズマ原子発光分光法によって連続的に測定された。
【0110】
ml単位で表した洗浄溶液の累積体積の関数として、g/l単位で表した上記の濃度の変化を描いた図3に示されるように、フロックの隙間にあるトリウムを僅かに濃縮した硝酸水溶液により洗浄することによって、容易に、かつ完全に除去することができる。
【0111】
このような洗浄処理の間にフロックに崩壊が見られなかったことは注目に値する。
【0112】
3. 洗浄されたフロックからのトリウム228の抽出
【0113】
上記の洗浄されたフロックは、撹拌を弱く加減することによって、0.5Nの硝酸水溶液を使用して再懸濁された。
【0114】
生成されたトリウム228は、この溶液を使用して抽出された。
そして、66時間での抽出収率は100%に達した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の、
a) 硫酸バリウムによるラジウム(228Raと224Ra)の少なくとも1回の共沈処理によって、天然トリウム塩中に存在する他の放射性元素からラジウムを分離する処理と、
b) こうして分離された共沈物中のラジウム228が崩壊して得られるトリウム228を抽出する処理と、
必要に応じて、
c) こうして抽出されたトリウム228を精製する処理および濃縮する処理と、
を有することを特徴とする天然トリウム塩からトリウム228を製造する方法。
ただし、前記共沈処理は、
i) 硫酸バリウム−硫酸ラジウムの共沈物を形成するために、前記天然トリウム塩の水溶液に硫酸とバリウム塩とを添加するステップと、
ii) 前記共沈物が形成されたときに、その媒質から前記共沈物を分離するステップと、
を有する。
【請求項2】
前記天然トリウム塩が硝酸トリウムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バリウム塩が硝酸バリウムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記下位の処理i)で使用されたトリウム塩の水溶液が、少なくとも1mol/lのトリウム塩の濃度を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記下位の処理i)において、
前記トリウム塩の水溶液に、前記硫酸と前記バリウム塩とが、この順で次々に加えられ、撹拌されて、
バリウム−ラジウム粒子の形成の継続時間中は、この撹拌が持続されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記下位の処理i)において、
前記トリウム塩の水溶液に、前記バリウム塩に対して過剰な量の前記硫酸が加えられることを特徴とする請求項1ないし請求項5のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記下位の処理i)において、
前記トリウム塩の水溶液に、前記バリウム塩に対して不足した量の前記トリウム塩が加えられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記トリウム塩の水溶液に加えられた前記硫酸が36Nの酸であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記トリウム塩の水溶液に加えられた前記バリウム塩が固形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
下位の処理ii)がクロスフロー濾過によって行われることを特徴とする請求項1ないし請求項9のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
下位の処理ii)が、前記共沈物の凝集と、その結果得られる上澄みの除去とによって行われることを特徴とする請求項1ないし請求項9のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記共沈物の軟凝縮が、凝集剤の添加によって促進されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
処理a)と処理b)との間に、さらに前記共沈物を洗浄する処理を有することを特徴とする請求項1ないし請求項12のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記共沈物は、沈殿物を弱酸性の水溶液と接触させることによって洗浄されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記クロスフロー濾過がダイアフィルトレーション処理によって補完されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記共沈物への前記弱酸性の水溶液を使用した1回以上のリパルプ処理を行なうことによって、該共沈物が洗浄されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
ただし、各リパルプ処理の後に沈殿が生じる。
【請求項17】
処理b)において、
前記ラジウムの崩壊によって得られるトリウム228が、前記共沈物を弱酸性の水溶液と接触させることによって抽出されることを特徴とする請求項1ないし請求項16のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
処理c)において、
前記トリウム228の精製処理および濃縮処理を、イオン交換クロマトグラフィーによって、可能ならば陽イオン交換クロマトグラフィーによって行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項17のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
処理a)において、
共沈処理を連続して数回、可能ならば少なくとも4回行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項18のうち何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
下位の処理ii)が、軟凝縮と、その結果とした生じた上澄みの化学反応炉からの除去とによって実行可能な場合には、
前記連続する共沈処理を、同一の前記化学反応炉中で行なうことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
核医学を目的とする放射性医薬品の製造のための請求項1ないし請求項20のうち何れか1項に記載の方法によって得られることを特徴とするトリウム228の使用方法。
【請求項22】
放射免疫療法、特にα線による放射免疫療法を目的とする放射性医薬品の製造のための請求項21に記載の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−521403(P2010−521403A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554015(P2009−554015)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053186
【国際公開番号】WO2008/113792
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(508313895)アレヴァ・エヌセー (32)
【氏名又は名称原語表記】AREVA NC
【住所又は居所原語表記】33, rue La Fayette, 75009 Paris, France
【Fターム(参考)】