説明

太陽電池の製造方法

【課題】シリコン基板表面にテクスチャを均一に形成することができる太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化水素酸を含有する第1の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、前記シリコン基板2表面の自然酸化膜を除去するステップと、前記金属イオンを含有する第2の水溶液に、前記自然酸化膜を除去した前記シリコン基板2を浸漬し、無電解めっきにより前記金属イオンを前記シリコン基板2表面に付着させるステップと、フッ化水素酸と過酸化水素水を含有する第3の水溶液に、前記金属イオンを付着させた前記シリコン基板2を浸漬し、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板2表面に多孔質層3を形成するステップとを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の製造方法に関し、特にシリコン基板の表面に多孔質層を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭や石油などの代替エネルギーとして、クリーン、かつ無尽蔵なエネルギー源として太陽光が注目されており、当該太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池の普及が一層期待されている。
【0003】
太陽電池の表面には、太陽光を効果的に取り込む役割を有する微細な凹凸(以下、「テクスチャ」という。)が無数に形成されている。単結晶シリコンの場合、アルカリ液を用いてSi(100)面をエッチングすることにより、容易にピラミッド構造のテクスチャを得ることができる。一方、多結晶シリコンの場合は、シリコン基板表面に種々の結晶方位が出現しているため、単結晶シリコンのようにシリコン基板表面全体に均一なテクスチャを形成することは難しい。
【0004】
多結晶シリコンからなるシリコン基板表面にテクスチャを形成する方法として、金属イオンを含有する、酸化剤とフッ化水素酸の混合水溶液に、シリコン基板を浸すことにより、シリコン基板の表面に多孔質層を形成する方法(例えば、特許文献1)が開示されている。また、金属イオンを含有する酸化剤とフッ化水素酸の混合水溶液にシリコン基板を浸漬して当該シリコン基板表面に多孔質層を形成する第一工程と、前記第一工程を経たシリコン基板表面をフッ化水素酸及び硝酸を主とした混酸に浸漬してエッチングしてテクスチャを形成する第2工程とを備える方法(例えば、特許文献2)が開示されている。
【0005】
上記特許文献2によると、上記特許文献1の方法により形成したテクスチャを有するシリコン基板は、反射率が低いもののシリコン基板表面が変色し、結果として太陽電池の特性が大幅に劣化するという問題がある。これに対し、上記特許文献2の方法では、上記特許文献1と同様の工程を経たシリコン基板表面をフッ化水素酸及び硝酸を主とした混酸に浸漬してエッチングしてテクスチャを形成することにより、反射率の低減効果を残したまま清浄なシリコン面が得られるとともに、孔の底の金属をも除去できるので、特性の高い太陽電池を製造することができるという効果が得られると、上記特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3925867号公報
【特許文献2】特許第4610669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、いずれも金属イオンを含有する酸化剤とフッ化水素酸の混合水溶液にシリコン基板を浸すことにより、当該シリコン基板表面において金属イオンの付着とエッチングとが同時進行するので、金属イオンの付着量とエッチング量とを管理することが困難である。金属イオンの付着量のバラツキは、エッチングにより形成される孔の密度のバラツキの原因となる。また、エッチング量のバラツキは、エッチングにより形成される孔の大きさのバラツキの原因となる。金属イオンの付着量とエッチング量のバラツキは、シリコン基板表面全体において生じるだけでなく、同じ混合水溶液を使用した複数のシリコン基板間でも、混合水溶液の劣化により生じてしまう。したがって、金属イオンの付着量とエッチング量のバラツキが生じることにより、上記特許文献1及び2では、シリコン基板表面に大きさや密度が均一なテクスチャを形成することが困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、シリコン基板表面にテクスチャをより均一に形成することができる太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る太陽電池の製造方法は、金属イオンを用いたエッチングによりシリコン基板の表面に多孔質層を形成する太陽電池の製造方法において、フッ化水素酸を含有する第1の水溶液に前記シリコン基板を浸漬し、前記シリコン基板表面の自然酸化膜を除去するステップと、前記金属イオンを含有する第2の水溶液に前記自然酸化膜を除去した前記シリコン基板を浸漬し、無電解めっきにより前記金属イオンを前記シリコン基板表面に付着させるステップと、フッ化水素酸と過酸化水素水とを含有する第3の水溶液に前記金属イオンを表面に付着させた前記シリコン基板を浸漬し、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板表面に前記多孔質層を形成するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1によれば、エッチングによる多孔質層の形成に先立ち、シリコン基板表面に金属イオンを付着させることとした。これにより金属イオンの付着とエッチングとを同時に行う従来に比べ、金属イオンをより均一にシリコン基板表面に付着させることができる。次いで、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板表面に多孔質層を形成することとした。これによりシリコン基板の浸漬時間及びフッ化水素酸と過酸化水素水の比率を制御することにより、触媒反応により形成される孔の大きさを制御することができる。したがってシリコン基板表面に、大きさや密度がより均一なテクスチャを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る太陽電池の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る太陽電池の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】金属イオンを付着させたシリコン基板表面のSEM画像である。
【図4】本実施形態に係る製造方法において、多孔質層を形成した実施例を示すシリコン基板表面のSEM画像である。
【図5】本実施形態に係る製造方法において、フッ硝酸を主体とした混酸で多孔質層をエッチングしてシリコン基板表面に形成したテクスチャのSEM画像である。
【図6】従来の作製方法による比較例を示すシリコン基板表面のSEM画像である。
【図7】フッ化水素酸に対する過酸化水素水の添加量を変えてエッチングを行ったシリコン基板表面の写真であり、図7Aは0ml、図7Bは100ml、図7Cは200ml、図7Dは300mlの結果を示す写真である。
【図8】図7に示すシリコン基板の反射率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態について詳細に説明する。図1に示す太陽電池1は、光電変換を行うシリコン基板2と、当該シリコン基板2表面をテクスチャ形状に加工した多孔質層3とを備え、多孔質層3が形成された受光面から入射した光をシリコン基板2において電気エネルギーに変換する。多孔質層3は、シリコン基板2表面に入射した光が透過・反射を繰り返し、その結果、平坦なシリコン基板表面に比べより多くの光をシリコン基板2内に導く。多孔質層3に形成された微細なテクスチャは、高さや密度が均一である方が不均一であるよりも入射した光を効率的に閉じ込められることが一般に知られている。なお、テクスチャの高さとは凹凸の高低差をいい、密度は単位面積当たりの凹または凸の数をいう。本実施形態に係る太陽電池1は、多孔質層3に微細なテクスチャが従来に比べ均一に形成されている点が特徴的であって、その他は従来と同じ構成である。
【0013】
実際上、太陽電池1は、図示しないが、p型シリコン基板に対し、多孔質層3を形成する受光面側に拡散層、反射防止膜、グリッド電極が順に形成されており、裏面側に裏面電界層、裏面電極が順に形成されている。反射防止膜は、光の反射を抑制するために、多孔質層3の表面に形成されている。反射防止膜は、例えば、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法などで形成される酸化チタン(TiO2)膜や窒化シリコン(SiN)膜の単層構造の膜で構成される。
【0014】
次に多孔質層3の形成方法について図2を参照して説明する。以下の記載において、濃度は質量%である。
【0015】
まず、ステップSP1においてフッ化水素酸を含有する第1の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、前記シリコン基板2表面の自然酸化膜を除去する。この場合の第1の水溶液の容量比はHF(濃度50%):HO=400ml〜5000ml:1200ml〜15000mlであり、浸漬時間は60秒〜360秒とすることができる。なお、第1の水溶液はシリコン基板2表面の自然酸化膜を除去することのみを目的としているため、金属イオンを含有しない。
【0016】
次にステップSP2において、金属イオンを含有する第2の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、無電解めっきにより前記金属イオンを前記シリコン基板2表面に付着させる。金属イオンは、例えば、Agイオンを適用することができる。金属イオンとしてAgイオンを適用する場合、金属イオン含有剤としてAgNOを用いて第2の水溶液を生成することができる。この場合の第2の水溶液の容量比は金属イオン含有剤(濃度1E-4M〜8E-4M):HO=5.0ml〜15ml:5000ml〜15000mlである。無電解めっきの条件は、例えば、浸漬時間を300秒、第2の水溶液の温度を26度とすることができる。無電解めっきは、第2の水溶液に含まれる金属イオンの濃度を測定し、当該金属イオン濃度を一定に制御しながら行う。金属イオンの濃度は、例えば、電気抵抗法で測定することができる。なお、第2の水溶液は金属イオンをシリコン基板2表面に付着させることのみを目的としており、シリコン基板2表面に多孔質層3を形成することは目的としていないため、酸化剤とフッ化水素酸を含有しない。
【0017】
本実施形態の場合、第2の水溶液は、金属イオンを含有するが酸化剤とフッ化水素酸を含有しないから金属イオン単体の濃度を測定することができる。したがって、本実施形態に係る製造方法は、金属イオンに加え酸化剤とフッ化水素酸とを含む水溶液を用いる従来に比べ、より容易に金属イオン濃度を測定することができる。このように第2の水溶液に含まれる金属イオン濃度を制御することにより、シリコン基板2表面に付着させる金属イオンの量をより確実に制御することができる。
【0018】
因みに、金属イオンを含有する酸化剤とフッ化水素酸の混合水溶液にシリコン基板を浸漬する従来の方法では、電気抵抗値が金属イオンと酸化剤とフッ化水素酸のそれぞれの抵抗値の和として計測され、金属イオンのみの抵抗値を直接計測することができないため、金属イオン単体の濃度を測定することが困難だった。
【0019】
また、本実施形態の場合、無電解めっきは、第2の水溶液を流動しながら行うのが好ましい。例えば、第2の水溶液は、図示しないが、第2の水溶液を貯留した貯蔵タンクと、無電解めっきを行うめっき槽を2つの配管で連通し、ポンプで第2の水溶液を貯留タンクとめっき槽間を循環させてもよい(以下、「ポンプ循環器」ともいう)。また、第2の水溶液は、図示しないが、めっき槽内において、スターラーで撹拌することとしてもよい。このように本実施形態では、第2の水溶液を流動しながら無電解めっきを行うことにより、より確実に均一な密度で金属イオンをシリコン基板2表面に付着させることができる。
【0020】
次にステップSP3において、フッ化水素酸と過酸化水素水を含有する第3の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬する。シリコン基板2では、表面に付着した前記金属イオンの触媒作用による過酸化水素水の水素還元反応が進む。そうすると、電子消費量の増加分を補うため金属イオンに接するシリコン基板2表面から電子が引き抜かれる。この結果、シリコン基板2に正孔が生成され、シリコン基板の酸化的溶解を引き起こすことになる。このようにして前記シリコン基板2表面に孔が無数に形成され、孔(凹)と孔が形成されていない部分(凸)とで多孔質層3が形成される。この場合の第3の水溶液の容量比はHF(濃度50%):H(濃度30%):HO=400ml〜4000ml:400ml〜2000ml:10000ml〜20000mlである。シリコン基板2の浸漬時間を制御することにより、多孔質層3を構成する孔の大きさを制御する。例えば、孔(凹)が大きいと、孔が形成されていない部分(凸)との高低差が大きくなるので、テクスチャの高さが大きくなる。なお、第3の水溶液は、エッチングによりシリコン基板2表面に多孔質層3を形成することのみを目的としており、シリコン基板2表面に金属イオンを付着させることを目的としていないため、金属イオンを含有しない。
【0021】
第3の水溶液における過酸化水素水の濃度は、より確実に多孔質層3を形成するため、金属イオンのエッチングを抑制しない程度の濃度に抑えることが好ましい。具体的には、過酸化水素水の濃度は、フッ化水素酸の濃度に対し、25〜50%であるのが好ましい。過酸化水素水は、金属イオンよりシリコン基板から電子を奪う力が強いので、過酸化水素水の濃度が50%より高いと、金属イオンの触媒作用によるエッチング速度より過酸化水素水によるエッチング速度の方が早くなり、シリコン基板の表面全体が酸化されて鏡面になってしまい、多孔質層が形成されなくなってしまう。また、過酸化水素水は、フッ化水素酸に対する濃度が上記範囲外の場合、すなわちフッ化水素酸に対する濃度が50%より高い場合、及びフッ化水素酸に対する濃度が25%より小さい場合には、反射率を低下させることができない。
【0022】
上記したように、本実施形態に係る太陽電池1の製造方法では、エッチングによる多孔質層3の形成に先立ち、金属イオンを含有する第2の水溶液にシリコン基板2を浸漬し、当該シリコン基板2表面に金属イオンを付着させることとした。これにより、金属イオンの付着とエッチングとを同時に行う従来に比べ、金属イオンを均一にシリコン基板2表面に付着させることができる。
【0023】
しかも、第2の水溶液は、金属イオンを含有するが、従来のように酸化剤とフッ化水素酸とを含まないので、金属イオンの濃度をより容易に測定することができる。したがって、本実施形態では、第2の水溶液に含有される金属イオンの濃度をより確実に制御することにより、一つのシリコン基板2表面内に金属イオンを均一に付着させることができるとともに、同じ第2の水溶液を複数のシリコン基板2に用いた場合でも複数のシリコン基板2の表面に均一に金属イオンを付着させることができるので、全体として金属イオンの付着量のバラツキを抑制することができる。
【0024】
さらに、本実施形態では、シリコン基板2表面に金属イオンを付着させた後、フッ化水素酸と過酸化水素水を含有する第3の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板2表面に多孔質層3を形成することとした。このように、シリコン基板2の浸漬時間及びフッ化水素酸と過酸化水素水の比率を制御することにより、触媒反応により形成される孔の大きさを制御することができる。したがって、本実施形態では、シリコン基板2表面により均一な高さのテクスチャを形成することができる。
【0025】
金属イオンをシリコン基板2表面に付着させた後、フッ化水素酸と過酸化水素水の濃度を管理した第3の水溶液に前記シリコン基板2を所定時間浸漬し、シリコン基板2表面に多孔質層3を形成することとしたから、シリコン基板2表面にテクスチャをより均一に形成することができる。
【0026】
多孔質層3を形成する第3の水溶液は、シリコン基板2の加工数に比例して劣化するので交換する必要があるが、本実施形態の場合、第3の水溶液が金属イオンを含有する第2の水溶液と別体であるから、従来のように金属イオンを廃棄する必要がないので、水溶液の管理を簡略化することができる。
【0027】
なお、上記ステップSP3の後に下記のステップを追加することとしてもよい。すなわち、ステップSP4において、水洗浄をし、ステップSP5でフッ化水素酸と硝酸とを含有する第4の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、エッチングする。これにより、本実施形態では、金属イオンを除去するという効果を得ることができる。この場合、第4の水溶液の容量比は、HF(濃度50%):HNO(濃度69%):HO=100ml〜500ml:600ml〜3000ml:10000ml〜50000mlである。浸漬時間は、240秒〜360秒とすることができる。
【0028】
次にステップSP6において、水洗浄をし、次いでアルカリ薬液に前記シリコン基板2を浸漬し、ステイン膜を除去する(ステップSP7)。ステイン膜とは、エッチングによりシリコン基板2表面に形成される黒褐色の膜をいう。最後に水洗浄することにより、本実施形態に係る多孔質層3を備えたシリコン基板2を得ることができる(ステップSP8)。
【0029】
次に、上記実施形態に係る太陽電池1の製造方法の実施例について説明する。本実施例ではシリコン基板2にp型シリコン基板を用いた。容量比をHF(濃度50%):HO=1200ml:10000mlに調整した第1の水溶液にシリコン基板2を300秒浸漬し、自然酸化膜を除去した。次いで、容量比をAgNO(濃度3E-4M):HO=3ml:10000mlに調整した第2の水溶液に前記シリコン基板2を立てた状態で浸漬し、無電解めっきにより前記金属イオンを前記シリコン基板2表面に付着させた。この場合のめっき条件は、浸漬時間を300秒、第2の水溶液の温度を26度とした。また、ポンプ循環器によりシリコン基板2の周囲を第2の水溶液が流動するようにした。なお、金属イオンの濃度は、溶液の抵抗を測定する抵抗測定装置により測定した。
【0030】
このようにして金属イオンを付着させたシリコン基板表面2AのSEM(Scanning Electron Microscope)画像を図3に示す。本図から明らかなように、本実施形態に係る太陽電池1の製造方法によれば、金属イオン4をシリコン基板表面2Aにより均一に付着させることができる。
【0031】
次いで、フッ化水素酸と過酸化水素水の容量比をHF(濃度50%):H(濃度30%):HO=1200ml:600ml:10000mlに調整した第3の水溶液に前記シリコン基板2を浸漬し、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板2表面に多孔質層3を形成した。このようにして多孔質層3が形成されたシリコン基板2表面のSEM画像を図4に示す。本図から明らかなように、本実施例に係る太陽電池1の製造方法によれば、シリコン基板2表面にテクスチャ3をより均一に形成することができる。
【0032】
次いで、フッ化水素酸と硝酸の容量比を、HF(濃度50%):HNO(濃度69%):HO=400ml:3000ml:6000mlに調整した第4の水溶液に多孔質層を形成したシリコン基板2を浸漬し、エッチングした。このようにしてエッチングされたシリコン基板2表面のSEM画像を図5に示す。本図からも明らかなように、本実施例に係る太陽電池1の製造方法によれば、シリコン基板2表面にテクスチャをより均一に形成することができる。
【0033】
上記実施例に対し、金属イオンの付着とエッチングとを同時に行った比較例を作製した。本比較例は、シリコン基板としてp型多結晶シリコンウェハ(ボロンドープ、1〜3Ωcm、15×15cm角、厚さ280μm)を用意し、シリコン基板表面のダメージ層をアルカリで除去した。その後、HF(濃度50%):H(濃度30%):HO:AgNO(0.1M)=400ml:200ml:1600ml:4.4ml([Ag]=2E−4M)の薬液が入った槽に、シリコン基板を立てた状態で、3分間エッチングを行った。その後、前記シリコン基板の水洗、乾燥を経て、HF(濃度50%):HNO(濃度69%):HO:=1:9:15という容量比の混酸で3分間エッチングを行った。このように作製された比較例のSEM画像を図6に示す。本図から明らかなように、本比較例によれば、ナノサイズの四角い穴10が多数形成されており、テクスチャの大きさにバラツキが大きいことが確認できた。
【0034】
次に、第3の水溶液における過酸化水素水の濃度が多孔質層の形成に及ぼす影響を調べた。容量比がHF(濃度50%):HO=400ml:8000mlであるフッ化水素酸の水溶液に対し、過酸化水素水(濃度50%)を、0ml、100ml、200ml、300ml、400ml、500ml添加した6種類の第3の水溶液を生成した。前記第3の水溶液に、それぞれ金属イオンを表面に付着させたシリコン基板を10分間浸漬し、エッチングを行った。エッチング後のシリコン基板表面を確認した。その結果、図7に示すように、過酸化水素水の添加量が多いほど、シリコン基板表面が鏡面になることが分かった。
【0035】
過酸化水素水の酸化還元電位は1.78(V vs.NHE)であり、金属イオン(例えばAgイオンの酸化還元電位は0.80(V vs.NHE))に比べ高い。すなわち、過酸化水素水は、金属イオンよりシリコン基板から電子を奪う力が強い、といえる。このため、過酸化水素水の濃度が高いと、金属イオンの触媒作用によるエッチング速度より過酸化水素水によるエッチング速度の方が早くなり、シリコン基板の表面全体が酸化されて鏡面になると考えられる。
【0036】
本実施例の結果から、過酸化水素水の添加量が300ml以上のとき(図7D)、シリコン基板表面20Dが鏡面になることが確認された。一方、過酸化水素水の添加量が100ml(図7B)、200ml(図7C)のとき、シリコン基板表面20B、20Cがステインで茶褐色になった。これは、金属イオンによるエッチングが促進されたことを示している。また、過酸化水素水を添加しなかった場合(図7A)、シリコン基板表面20Aは薄いステインで白濁色になった。
【0037】
次に、エッチング後のシリコン基板に800nmの光を照射した際の反射率を測定した。その結果を図8に示す。本図から、過酸化水素水の添加量を100ml、200mlとすることにより、反射率が低下することが確認できた。したがって、過酸化水素水の添加量を100ml、200mlとした第3の水溶液によりエッチングを行ったシリコン基板を太陽電池に適用することにより、光の反射によるロスを低減でき、光の変換効率の向上が期待できる。
【0038】
このことから、過酸化水素水は、添加量を100mlより多く、200ml以下、すなわち、過酸化水素水の濃度がフッ化水素酸の濃度に対し25%以上50%以下とすることにより、多孔質層を形成できることが確認された。
【0039】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では金属イオンとしてAgイオンを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、Auイオン、Cuイオン、Ptイオン、Pdイオンなどを適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 太陽電池
2 シリコン基板
3 多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを用いたエッチングによりシリコン基板の表面に多孔質層を形成する太陽電池の製造方法において、
フッ化水素酸を含有する第1の水溶液に前記シリコン基板を浸漬し、前記シリコン基板表面の自然酸化膜を除去するステップと、
前記金属イオンを含有する第2の水溶液に、前記自然酸化膜を除去した前記シリコン基板を浸漬し、無電解めっきにより前記金属イオンを前記シリコン基板表面に付着させるステップと、
フッ化水素酸と過酸化水素水とを含有する第3の水溶液に、前記金属イオンを表面に付着させた前記シリコン基板を浸漬し、前記金属イオンの触媒反応により前記シリコン基板表面に前記多孔質層を形成するステップと
を備えることを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記金属イオンを前記シリコン基板表面に付着させるステップにおいて、前記金属イオンの濃度を測定し、当該金属イオン濃度を一定に制御することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第3の水溶液は、過酸化水素水の濃度がフッ化水素酸に対し25%〜50%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
フッ化水素酸と硝酸とを含有する第4の水溶液に、前記多孔質層を形成した前記シリコン基板を浸漬し、エッチングするステップを備えることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
さらにアルカリ薬液に前記シリコン基板を浸漬し、エッチングするステップを備えることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン基板表面に前記多孔質層を形成するステップにおいて、
前記シリコン基板の浸漬時間、及び
前記フッ化水素酸と前記過酸化水素水の比率
を制御することにより、前記多孔質層を構成する孔の大きさを制御することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記金属イオンを前記シリコン基板表面に付着させるステップにおいて、前記金属イオンを含有する前記第2の水溶液を流動させながら、無電解めっきを行うことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93537(P2013−93537A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48340(P2012−48340)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(309042864)株式会社ジェイ・イー・ティ (4)
【Fターム(参考)】