説明

太陽電池封止材用樹脂シート

【課題】生産性が良く、耐熱性、透明性、柔軟性、及びガラス基板への接着性に優れる太陽電池封止材用樹脂シート。
【解決手段】下記(a1)〜(a5)の特性を有する成分(A):エチレン・α−オレフィン共重合体及び成分(C):有機過酸化物を含む層(X)と、下記の成分(B):官能基を含有するポリオレフィン及び成分(C):有機過酸化物を含む層(Y)とを積層。(a1)密度が0.860〜0.920g/cm(a2)Z平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が7.0×10poise以下(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.5×10poise以下(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が式(a)を満たす。式(a):N≧−0.67×E+53

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止材用樹脂シートに関し、より詳しくは、エチレン・α−オレフィン共重合体、官能基を含有するポリオレフィン及び有機過酸化物などを含有し、生産性が良く、しかも耐熱性、透明性、柔軟性、及びガラス基板への接着性に優れる太陽電池封止材用樹脂シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の増加など地球環境問題がクローズアップされる中で、水力、風力、地熱などの有効利用とともに太陽光発電が再び注目されるようになった。
太陽光発電は、一般にシリコン、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレンなどの太陽電池素子を上部透明保護材と下部基板保護材とで保護し、太陽電池素子と保護材とを樹脂製の封止材で固定し、パッケージ化した太陽電池モジュールを用いるものであり、水力、風力などと比べて規模は小さいものの、電力が必要な場所に分散して配置できることから、発電効率等の性能向上と価格の低下を目指した研究開発が推進されている。また、国や自治体で住宅用太陽光発電システム導入促進事業として設置費用を補助する施策が採られることで、徐々にその普及が進みつつある。しかしながら、更なる普及には一層の低コスト化が必要であり、そのため従来型のシリコンやガリウム−砒素などに代わる新たな素材を用いた太陽電池素子の開発だけでなく、太陽電池モジュールの製造コストをより一層低減する努力も地道に続けられている。
【0003】
太陽電池モジュールを構成する太陽電池封止材の条件としては、太陽電池の発電効率を低下しないように、太陽光の入射量を確保するため、透明性が良好なことが求められている。また、太陽電池モジュールは通常、屋外に設置されるから長期間太陽光に晒され温度上昇する。それにより樹脂製の封止材が流動し、モジュールが変形したりするトラブルを避けるために、耐熱性を有するものでなければならない。また年々、太陽電池素子の材料コストを削減するために薄肉化が進んでおり、一層柔軟性に優れた封止材も求められている。
また、太陽電池モジュールは、前記のとおり、長期間太陽光に晒されると温度が上昇し、それによりガラス基板と樹脂製封止材との接着力が低下して、ガラス基板から樹脂製封止材が分離し、その空間に空気や水分が入って、モジュールが変形したりするので、これを防止するため、接着性に優れた封止材が求められている。
【0004】
現在、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止材では、柔軟性、透明性等の観点から、酢酸ビニル含量の高いエチレン・酢酸ビニル共重合体が樹脂成分として採用されている。特許文献1には、この樹脂成分に有機過酸化物が架橋剤として併用されており、シランカップリング剤を配合することが記載されているが、ガラス基板との接着性は満足できるものではない。
そして、特許文献2には、EVAフィルムとFRP基板を用いた太陽電池モジュールにおいて、封止材樹脂へのシランカップリング剤の配合が記載されているが、太陽電池素子の封止作業では、太陽電池素子を樹脂製の封止材でカバーした後、数分から十数分程度加熱して仮接着し、オーブン内において有機過酸化物が分解する高温で数分から1時間加熱処理して接着させているが、基板との接着性は十分ではない。
【0005】
しかも、太陽電池モジュールの製造コストを抑えるために、封止作業に要する時間のさらなる短縮が求められており、特許文献3では、封止材の樹脂成分であるエチレン・酢酸ビニル共重合体に代わり、結晶化度が40%以下の非晶性又は低結晶性のα−オレフィン系共重合体からなる太陽電池封止材が提案されている。この特許文献3には、非晶質又は低結晶性のエチレン・1−ブテン共重合体に、有機過酸化物を混合し、異型押出機を用いて加工温度100℃でシートを作製することが例示されているが、加工温度が低いため十分な生産性は得られない。
【0006】
一方、太陽電池封止材として、エチレン・酢酸ビニル共重合体の代わりに非晶性又は低結晶性のα−オレフィン系共重合体を使用する場合、太陽電池セルや保護膜との接着性が懸念されている。接着性が乏しいと実用時に太陽電池セルが雨に曝される等不具合がある。
エチレン・酢酸ビニル共重合体と同等の接着性を持つエチレン・α−オレフィン共重合体系の封止用材料として、少なくとも0.01質量%以上の不飽和カルボン酸若しくは不飽和カルボン酸誘導体を共重合成分として含有し、融点が80〜120℃であり、かつ80℃におけるせん断弾性率が3×10Pa以上である変性エチレン系樹脂シートの表面に、エポキシアルキル基を有するアルコキシシランをコーティングした接着性シート(特許文献4参照)、また、少なくとも0.01質量%以上のアルコキシシランを共重合成分として含有し、融点が80℃以上120℃以下であり、かつ、80℃における剪断弾性率が3×10Pa以上である変性エチレン系樹脂からなる接着性シート(特許文献5参照)、さらには、少なくとも0.01質量%以上のエポキシ化合物を共重合成分もしくは付加成分として含有し、融点が80℃以上120℃以下であり、かつ、80℃における剪断弾性率が3×10Pa以上である変性エチレン系樹脂のシートの表面にアミノ基を有するアルコキシシランをコーティングした接着性シート(特許文献6参照)などが提案されている。
そして、接着性シートの反対側(場合により芯側)には、ポリエチレン若しくはエチレン―αオレフィン共重合体を主としたエチレン系樹脂を接着積層して積層シートとしてもよいと記載されている。
【0007】
特許文献4〜6によれば、変性エチレン系樹脂シートの表面にエポキシアルキル基を有するアルコキシシラン、アミノ基を有するアルコキシシランなどのアルコキシシランが形成されるので、ある程度接着性が改善されるが、まだ不十分であり、コーティングし乾燥する工程が必要となって生産性が低下する。
また、これらの接着性シートを用いた積層シートでは、いずれの層にも架橋剤が含まれていないために、太陽電池モジュールの耐熱性が不十分で耐久性に問題があった。
【0008】
また、太陽電池モジュールの封止材として、(a)約0.90g/cc未満の密度、(b)ASTM D−882−02により測定して約150メガパスカル(mPa)未満の2%割線係数、(c)約95℃未満の融点、(d)ポリマーの重量に基づいて少なくとも約15および約50重量%未満のα−オレフィン含量、(e)約−35℃未満のTg、ならびに(f)少なくとも約50のSCBDI、の1以上の条件を満たすポリオレフィンコポリマーを含むポリマー材料が提案されている(特許文献7参照)。
太陽電池モジュールでは、太陽電池素子の薄膜化に伴い、太陽電池封止材も薄膜化する傾向がある。その際、太陽電池封止材のカバーフィルム側から衝撃が加わると、配線が断線しやすいことが問題となっていた。それを改良するため、封止材の剛性を高くすることが求められるが、特許文献7のポリマー材料では剛性を高くすると、架橋効率が悪くなることが問題となっていた。
【0009】
このように従来の技術では、太陽電池モジュールの生産性が高められ、しかも耐熱性、透明性、柔軟性、耐久性及びガラス基板への接着性に優れる太陽電池封止材用樹脂シートは得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−116182号公報
【特許文献2】特開2003−204073号公報
【特許文献3】特開2006−210906号公報
【特許文献4】特開2002−235047号公報
【特許文献5】特開2002−235048号公報
【特許文献6】特開2002−235049号公報
【特許文献7】特表2010−504647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、生産性が良く、しかも耐熱性、透明性、柔軟性、及びガラス基板への接着性に優れる太陽電池封止材用樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の性状を有するエチレン・α−オレフィン共重合体に有機過酸化物を配合した層と、官能基を含有するポリオレフィンに有機過酸化物を配合した層を積層することにより、耐熱性、透明性、柔軟性、耐久性及びガラス基板への接着性に優れる太陽電池封止材用樹脂シートが得られ、これを用いれば太陽電池モジュールの生産性が大幅に向上するとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A)及び成分(C)を含む層(X)と、下記の成分(B)及び成分(C)を含む層(Y)とを積層してなる太陽電池封止用樹脂シートが提供される。
成分(A):下記(a1)〜(a5)の特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体
(a1)密度が0.860〜0.920g/cm
(a2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下
(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下
(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.8×10poise以下
(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が下記式(a)を満たす。
式(a): N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
成分(B):官能基を含有するポリオレフィン
成分(C):有機過酸化物
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が、下記式(a’)を満たすことを特徴とする太陽電池封止材用樹脂組成物が提供される。
式(a’): −0.67×E+80 ≧ N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
また、本発明の第3の発明によれば、下記の成分(A)及び成分(C)を含む層(X)と、下記の成分(B)及び成分(C)を含む層(Y)とを積層してなる太陽電池封止用樹脂シートが提供される。
成分(A):下記(a1)〜(a4)及び(a6)の特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体
(a1)密度が0.860〜0.920g/cm
(a2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下
(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下
(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.8×10poise以下
(a6)フローレシオ(FR):190℃における10kg荷重でのMFR測定値であるI10と、190℃における2.16kg荷重でのMFR測定値であるI2.16との比(I10/I2.16)が7.0未満
成分(B):官能基を含有するポリオレフィン
成分(C):有機過酸化物
さらに、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、特性(a6)のフローレシオ(FR)が、5.0〜6.2であることを特徴とする太陽電池封止材用樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、成分(B)の官能基が、エポキシ基、カルボン酸基、酸無水物基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、又はシラン基から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする太陽電池封止材用樹脂シートが提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、成分(B)の官能基を含有するポリオレフィンが、オレフィンと酸無水物基含有化合物若しくはエポキシ基含有化合物との共重合体、又は、ポリオレフィンを酸無水物基含有化合物若しくはエポキシ基含有化合物とグラフト化反応した変性ポリオレフィンであることを特徴とする太陽電池封止材用樹脂シートが提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、成分(C)の含有量が、層(X)において、成分(A)100重量部に対して、0.2〜5重量部であり、また、層(Y)において、成分(B)100重量部に対して、0.2〜5重量部であることを特徴とする太陽電池封止材用樹脂シートが提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、層(X)及び/又は層(Y)が、さらに成分(D):ヒンダードアミン光安定化剤を含有し、その含有量が、層(X)において、成分(A)100重量部に対して、0.01〜2.5重量部であり、また、層(Y)において、成分(B)100重量部に対して、0.01〜2.5重量部であることを特徴とする太陽電池封止材用樹脂シートが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽電池封止材用樹脂シートは、それを構成する層の成分として、特定の密度、分子量分布、溶融粘度特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いているので、耐熱性、透明性、柔軟性、耐久性等に優れており、これに官能基を含有するポリオレフィンを主成分とする層を積層しているため、ガラス基板に対して接着性がよい。
また、いずれの層にも有機過酸化物が配合されているので、原料樹脂組成物をシート化する際には、エチレン・α−オレフィン共重合体が比較的短時間で架橋して十分な接着力を有し、太陽電池封止材としてモジュールの形成が容易であり生産性に優れ、製造コストを低減することができる。
また、特定のヒンダードアミン系光安定化剤がさらに配合された太陽電池封止材用樹脂シートを用いることで、得られた太陽電池モジュールは、透明性、柔軟性、耐候性等に優れるものとなり、長期間安定した変換効率を維持することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の太陽電池封止材用樹脂シートであり、層(X)と層(Y)とを積層したもの(A)、層(X)の両側に層(Y)を積層したもの(B)の断面を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の太陽電池封止材用樹脂シートを用いた太陽電池モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の太陽電池封止材用樹脂シート(以下、単に樹脂シートともいう)について図面を用いて説明する。
本発明の太陽電池封止材用樹脂シートは、図1に示すように、下記の成分(A)及び成分(C)を含む層(X)と、下記の成分(B)及び成分(C)を含む層(Y)とを積層したものである。
【0019】
1.層(X)
本発明において、層(X)は、下記の成分(A)及び成分(C)を含んでおり、さらに成分(D)を含むことができる。
【0020】
(1)成分(A):エチレン・α−オレフィン共重合体
本発明に用いる成分(A)は、下記(a1)〜(a4)の特性を有し、かつ必要に応じて(a5)及び/又は(a6)の特性を有したエチレン・α−オレフィン共重合体である。
(a1)密度が0.860〜0.920g/cm
(a2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下
(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下
(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.8×10poise以下
【0021】
(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が下記式(a)を満たす。
式(a): N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの個数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
(a6)フローレシオ(FR):190℃における10kg荷重でのMFR測定値であるI10と、190℃における2.16kg荷重でのMFR測定値であるI2.16との比(I10/I2.16)が7.0未満
【0022】
(i)成分(A)のモノマー構成
本発明に使用されるエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンから誘導される構成単位を主成分としたエチレンとα−オレフィンのランダム共重合体である。
コモノマーとして用いられるα−オレフィンは、好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンである。具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等を挙げることができる。
かかるエチレン・α−オレフィン共重合体の具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・4−メチル−ペンテン−1共重合体等が挙げられる。なかでも、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体が好ましい。
また、α−オレフィンは1種または2種以上の組み合わせでもよい。2種のα−オレフィンを組み合わせた三元共重合体としては、エチレン・プロピレン・1−ヘキセン三元共重合体、エチレン・1−ブテン・1−ヘキセン三元共重合体、エチレン・プロピレン・1−オクテン三元共重合体、エチレン・1−ブテン・1−オクテン三元共重合体等が挙げられる。
コモノマーとして、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、及び1,9−デカジエン等のジエン化合物を、α−オレフィンに少量配合してもよい。これらのジエン化合物を配合すると、長鎖分岐ができるので、エチレン・α−オレフィン共重合体の結晶性を低下させ、透明性、柔軟性、接着性等が良くなり、分子間の架橋剤ともなるので、機械的強度が増加する。また長鎖分岐の末端基は、不飽和基であるから、有機過酸化物による架橋反応や、酸無水物基含有化合物若しくはエポキシ基含有化合物との共重合反応やグラフト反応を容易におこすことができる。
【0023】
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、そのα−オレフィンの含有量が5〜40重量%であり、好ましくは10〜35重量%、より好ましくは15〜30重量%である。この範囲であれば柔軟性と耐熱性が良好である。
ここでα−オレフィンの含有量は、下記の条件の13C−NMR法によって計測される値である。
装置:日本電子製 JEOL−GSX270
濃度:300mg/2mL
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0024】
(ii)成分(A)の重合触媒及び重合法
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、チーグラー触媒、バナジウム触媒又はメタロセン触媒等、好ましくはバナジウム触媒又はメタロセン触媒、より好ましくはメタロセン触媒を使用して製造することができる。製造法としては、高圧イオン重合法、気相法、溶液法、スラリー法等が挙げられる
メタロセン触媒としては、特に限定されるわけではないが、シクロペンタジエニル骨格を有する基等が配位したジルコニウム化合物などのメタロセン化合物と助触媒とを触媒成分とする触媒が挙げられる。
エチレン・α−オレフィン共重合体の市販品としては、日本ポリエチレン社製のハーモレックス(登録商標)シリーズ、カーネル(登録商標)シリーズ、プライムポリマー社製のエボリュー(登録商標)シリーズ、住友化学社製のエクセレン(登録商標)GMHシリーズ、エクセレン(登録商標)FXシリーズが挙げられる。バナジウム触媒としては、可溶性バナジウム化合物と有機アルミニウムハライドとを触媒成分とする触媒が挙げられる。
【0025】
(iii)成分(A)の特性
(a1)密度
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、密度が0.860〜0.920g/cm、好ましくは0.870〜0.915g/cm、さらに好ましくは0.875〜0.910g/cmである。エチレン・α−オレフィン共重合体の密度が0.860g/cm未満では、加工後のシートがブロッキングしてしまい、密度が0.920g/cmを超えると、加工後のシート剛性が高すぎ、取り扱い性に欠ける。
ポリマーの密度を調節するには、例えばα−オレフィン含有量、重合温度、触媒量などを適宜調節する方法がとられる。
なお、エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、JIS−K6922−2:1997附属書(低密度ポリエチレンの場合)に準拠して、23℃で測定する。
【0026】
(a2)Z平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、ゲルパーミエーションクロマグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下であり、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下である。また、Mz/Mnは、2.0以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは3.0以上である。ただし、Mz/Mnが8.0を超えると透明性が悪化する。(Mz/Mn)を所定の範囲に調整するには、適当な触媒系を選択する方法等によることができる。
【0027】
なお、(Mz/Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で行い、測定条件は次のとおりである。
装置:ウオーターズ社製GPC 150C型
検出器:MIRAN社製 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
カラム:昭和電工製AD806M/S 3本(カラムの較正は、東ソー製 単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/ml溶液)の測定を行い、溶出体積と分子量の対数値を2次式で近似した。また、試料の分子量は、ポリスチレンとポリエチレンの粘度式を用いてポリエチレンに換算した。ここでポリスチレンの粘度式の係数は、α=0.723、logK=−3.967であり、ポリエチレンはα=0.733、logK=−3.407である。)
測定温度:140℃
濃度:20mg/10mL
注入量:0.2ml
溶媒:オルソジクロロベンゼン
流速:1.0ml/分
【0028】
なお、Z平均分子量(Mz)は、高分子量成分の平均分子量への寄与が大きいので、Mz/Mnは、Mw/Mnに比べて高分子量成分の存在を確認しやすい。高分子量成分は、透明性に影響を与える要因であり、高分子量成分が多いと透明性は悪化する。また、架橋効率も悪化する傾向が見られる。よって、Mz/Mnは小さい方が好ましい。
【0029】
(a3)(a4)溶融粘度
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、100℃で測定した、せん断速度が特定の範囲でなければならない。100℃で測定した、せん断速度に着目するのは、当該温度での組成物を製品化する際の製品への影響を推定するためである。
すなわち、(a3)の溶融粘度については、せん断速度2.43×10sec−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下、好ましくは8.0×10poise以下、より好ましくは7.0×10poise以下、さらに好ましくは5.5×10poise以下、さらにまた好ましくは5.0×10poise以下、特に好ましくは3.0×10poise以下、最も好ましくは2.5×10poise以下である。溶融粘度(η)は、1.0×10poise以上、さらには1.5×10poise以上であることが好ましい。溶融粘度(η)がこの範囲にあれば低温で低速成形時の生産性がよく、製品への加工に問題が生じない。
溶融粘度(η)は、エチレン・α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)や分子量分布などにより調整可能である。メルトフローレートの値を高めると溶融粘度(η)は小さくなる傾向がある。分子量分布など他の性状が異なれば、大小関係が逆転することもありうるが、たとえば、好ましくはMFR(JIS−K6922−2:1997附属書(190℃、21.18N荷重))が5〜50g/10分であり、より好ましくは10〜40g/10分、さらに好ましくは15〜35g/10分とすることで、溶融粘度(η)を所定の範囲に収めやすい。
さらに、本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体の溶融粘度(a4)については、100℃で測定した、せん断速度2.43×10sec−1での溶融粘度(η)が、1.8×10poise以下、好ましくは1.7×10poise以下、より好ましくは1.5×10poise以下、さらに好ましくは1.4×10poise以下、最も好ましくは1.3×10poise以下である。溶融粘度(η)は、5.0×10poise以上、さらには8.0×10poise以上であることが好ましい。溶融粘度(η)がこの範囲にあれば低温で低速成形時の生産性がよく、製品への加工に問題が生じない。
ここで、溶融粘度(η)、(η)は、径1.0mm、L/D=10のキャピラリーを有するキャピラリーレオメーターを用いて得られる測定値である。
2種類のせん断速度を設けるのは、低速成形時、高速成形時の製品の表面への影響が小さく、それぞれの成形速度領域で同様の製品が得られるようにするためである。
【0030】
また、本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、ηとηとの比(η/η)が、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.2以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.0以下である。ηとηとの比(η/η)は、1.1以上が好ましく、さらには1.5以上であることが好ましい。(η/η)が上記範囲であれば、低速成形時、高速成形時のシート表面への影響が少なく好ましい。
【0031】
(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)と、引張弾性率(E)が下記式(a)を満たしていることが好ましい。
式(a): N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
ここで、ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)は、例えばE. W. Hansen, R. Blom, and O. M. Bade, Polymer, 36巻 4295頁(1997年)を参考にC−NMRスペクトルから算出することができる。
【0032】
太陽電池モジュールでは、太陽電池素子の薄膜化に伴い、太陽電池封止材も薄膜化する傾向がある。薄膜化した太陽電池封止材では、カバーフィルム側から衝撃が加わると、配線が断線しやすいため、封止材の剛性を高くすることが求められる。高分子鎖の分岐度が低い共重合体であれば、架橋後の共重合体の剛直性が強まるので、高剛性の封止材として有用である。しかし、剛性を高くすると、架橋効率が悪くなるので、高分子鎖の分岐度がある程度高い共重合体を用いて、架橋前の共重合体の流動性を向上させ、成形性に優れた材料として使用する必要がある。本発明では、エチレン・α−オレフィン共重合体のコモノマーによる分岐数(N)が式(a)を満たすポリマー構造となっているので、剛性と架橋効率のバランスが良好である。
【0033】
本発明に係るエチレン・α−オレフィン共重合体は、上述した様に、触媒を用いた共重合反応により製造できるが、共重合させる原料単量体の組成比や使用する触媒の種類を選択することにより、その高分子鎖中の分岐度を容易に調整することが可能である。本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体が式(a)を満たすためには、エチレン・α−オレフィン共重合体中のコモノマーは、プロピレン、1−ブテン、又は1−ヘキセンから選択するのが好ましい。また、気相法、高圧法を用いて製造するのが好ましく、特に、高圧法を選択するのがより好ましい。
より具体的にはEを固定してNを増減させるためには、主にエチレンと共重合させるコモノマーの炭素数を変更する方法によることができる。エチレンに対して1−ブテン又は1−ヘキセンの量が60〜80wt%となるように混合し、メタロセン触媒を使用して、重合温度130〜200℃で反応させエチレン・α−オレフィン共重合体を製造することが好ましい。これにより、エチレン・α−オレフィン共重合体の分岐数Nが適度に調整でき、得られるシートの引張弾性率Eが、40MPa以下となって、式(a)が示す範囲のエチレン・α−オレフィン共重合体を得ることができる。
【0034】
本発明では、特性(a5)の関係式が、下記式(a’)で示されることが好ましい。また、特性(a5)の関係式は、下記式(a’’)であることがより好ましい。
式(a’): −0.67×E+80 ≧ N ≧ −0.67×E+53
式(a’’): −0.67×E+75 ≧ N ≧ −0.67×E+54
【0035】
(a6)フローレシオ(FR)
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体は、フローレシオ(FR)、すなわち190℃における10kg荷重でのMFR測定値であるI10と、190℃における2.16kg荷重でのMFR測定値であるI2.16との比(I10/I2.16)が7.0未満であることが好ましい。なお、メルトフローレート(MFR)は、JIS−K7210−1999に準拠して測定した値である。
【0036】
FRは、エチレン・α−オレフィン共重合体の分子量分布、長鎖分岐の量と相関が深いことが知られている。本発明では、上記(a1)〜(a4)の条件を満たすポリマーの中でも、190℃における10kg荷重でのMFR測定値(I10)と、190℃における2.16kg荷重でのMFR測定値(I2.16)との比(I10/I2.16)が7.0未満であるものを使用する。このような長鎖分岐に特徴があるポリマー構造となっている共重合体を用いることで、剛性と架橋効率のバランスが良好なものとなる。これに対して、FRが7.0以上であると、太陽電池封止材として架橋する際の架橋効率が悪くなる傾向にある。
本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体のFRは、7.0未満であり、好ましくは、6.5未満、より好ましくは、6.3未満である。ただし、FRが5.0未満であると、太陽電池封止材として十分な剛性が得られにくくなることがある。特性(a6)のフローレシオ(FR)は、5.0〜6.2であることが最も好ましい。
【0037】
(2)成分(C):有機過酸化物
本発明の樹脂シートの層(X)に含まれる有機過酸化物は、主に成分(A)を架橋する機能を有する。
有機過酸化物としては、分解温度(半減期が1時間である温度)が70〜180℃、特に90〜160℃の有機過酸化物を用いることができる。このような有機過酸化物として、例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、ジクロヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。
【0038】
(3)配合割合
本発明において、成分(A)と成分(C)の配合割合は、成分(A)を100重量部としたときに、好ましくは成分(C)を0.2〜5重量部とする。より好ましい成分(C)の配合割合は、0.5〜3重量部であり、さらに好ましくは、1〜2重量部である。成分(C)の配合割合が上記範囲よりも少ないと、架橋しないか架橋に時間がかかる。また、上記範囲よりも大きいと、分散が不十分となり架橋度が不均一になりやすい。
【0039】
2.層(Y)
本発明において、層(Y)は、下記の成分(B)及び成分(C)を含んでおり、さらに成分(D)を含むことができる。
【0040】
(1)成分(B):官能基を含有するポリオレフィン
本発明において、成分(B)として用いる官能基を含有するポリオレフィンは、官能基含有化合物とオレフィンとの共重合体、ポリオレフィンを官能基含有化合物でグラフト化反応した変性ポリオレフィン等が挙げられる。官能基を含有するポリオレフィンは、一種でも、二種以上の併用であってもよい。
官能基含有化合物とオレフィンとの共重合体においては、オレフィンとしては、炭素数が2以上のオレフィン、好ましくは2〜10のα−オレフィンが挙げられる。具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等がある。
変性ポリオレフィンにおいては、ポリオレフィンとは、オレフィン単独重合体、二種以上のオレフィン同士の共重合体であり、前述のエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0041】
(2−1)官能基含有化合物
本発明に係る官能基を含有するポリオレフィンの官能基含有化合物は、エポキシ基含有化合物(a)、不飽和カルボン酸基含有化合物またはその誘導体(b)、エステル基含有化合物(c)、ヒドロキシル基含有化合物(d)、アミノ基含有化合物(e)、及びシラン基含有化合物(f)の群から選択される少なくとも1種の化合物であり、エポキシ基含有化合物(a)、又は不飽和カルボン酸基含有化合物またはその誘導体(b)が好ましい。
【0042】
(a) エポキシ基含有化合物
エポキシ基含有化合物としては、例えばフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、エポキシ化植物油などが挙げられる。
このエポキシ基含有化合物の中でも、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基(オキシラン基)を含む、分子量3000以下の多価エポキシ化合物が好ましい。このエポキシ化合物は、分子内に2個以上のエポキシ基を含んでいることにより、分子内のエポキシ基が1個の場合と比べ、接着強度が飛躍的に向上する。また、エポキシ化合物の分子量は、3000以下であることが好ましく、特に1500以下が好ましい。分子量が3000を超えると、組成物化した際に、十分な接着強度を得ることができない虞が生じる。
【0043】
このエポキシ基含有化合物としては、扱い易さと安全性の観点からエポキシ化植物油を選択することができる。エポキシ化植物油とは、天然植物油の不飽和二重結合を過酸などでエポキシ化したものであり、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化オリーブ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化コーン油などを挙げることができる。これらのエポキシ化植物油は、例えば旭電化工業(株)製、O−130P(エポキシ化大豆油)、O−180A(エポキシ化亜麻仁油)等として市販されている。
なお、植物油をエポキシ化する際に、若干副生するエポキシ化されていないか、エポキシ化が不十分な油分は、それが存在しても本発明における作用効果を何ら妨げるものではない。
本発明においてエポキシ基含有化合物の含有量は、変性ポリオレフィン中に0.01〜5重量%であり、0.01〜3重量%が好ましく、0.01〜1重量%がより好ましい。エポキシ基含有化合物の含有量がこの範囲にあれば、太陽電池素子や保護材との接着強度が不十分とならず、しかも積層された太陽電池モジュールがベタツキによるブロッキングを起こさず、あるいは臭いを発する等の問題が生じない。
【0044】
(b) 不飽和カルボン酸基含有化合物またはその誘導体
本発明において使用する不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、カルボン酸基または酸無水基含有化合物から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
例えば、一塩基性不飽和カルボン酸、二塩基性不飽和カルボン酸、ならびに、これらの金属塩、アミド、イミド、エステルおよび無水物が挙げられる。一塩基性不飽和カルボン酸の炭素数は20個以下、好ましくは15個以下、また二塩基性不飽和カルボン酸の炭素数は30個以下、好ましくは25個以下であり、誘導体の炭素数は30個以下、好ましくは25個以下である。これら不飽和カルボン酸基含有化合物およびその誘導体の中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびその無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸およびその無水物、ならびにメタクリル酸グリシジルが好ましく、特に無水マレイン酸、5−ノルボルネン酸無水物が、樹脂シートの接着性能が優れることから好適である。
不飽和カルボン酸基含有化合物またはその誘導体の含有量は、変性ポリオレフィン中に0.05〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%である。この含有量の範囲であれば、未反応モノマーが増加することなく、十分な接着性能を付与することができる。
【0045】
(c) エステル基含有化合物
エステル基含有化合物としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなどが例示でき、特に好ましいものとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルを挙げることができる。
変性ポリオレフィンとしては、エチレン−メタアクリル酸メチル共重合体(住友化学製、アクリフト(登録商標)CM502)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(日本ユニカー製、NUC(登録商標)−6570)が市販されている。
エステル基含有化合物の含有量は、変性ポリオレフィン中に5〜40重量%が好ましく、より好ましくは10〜30重量%、特に好ましくは15〜25重量%である。この範囲の含有量であれば、変性ポリオレフィンの柔軟性や接着性が発現する。
【0046】
(d) ヒドロキシル基含有化合物
ヒドロキシル基含有化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有化合物の含有量は、変性ポリオレフィン中に0.05〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%である。この範囲の含有量であれば、未反応モノマーが増加することなく、十分な接着性能を付与することができる。
【0047】
(e) アミノ基含有化合物
アミノ基含有化合物としては、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ基含有化合物の含有量は、変性ポリオレフィン中に0.05〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%である。この範囲の含有量であれば、未反応モノマーが増加することなく、十分な接着性能を付与することができる。
【0048】
(f) シラン基含有化合物
シラン基含有化合物としては、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリスメチルエチルケトオキシムシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン等のビニルシラン類、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等のアクリルシラン類、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等のメタクリルシラン類、スチリルトリメトキシシラン、スチリルトリエトキシシラン、スチリルメチルジメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のスチリルシラン類等の不飽和シラン化合物が挙げられる。なお、これらの不飽和シラン化合物は、単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
本発明において、シラン基含有化合物の含有量は、変性ポリオレフィン中に、0.01〜5重量%である。好ましい含有量は、0.01〜3重量%であり、より好ましくは0.01〜1重量%である。この範囲の含有量であると、ガラス等の保護材との十分な接着が得られ、また、体積固有抵抗値の低下を抑えることができる。
【0049】
(2−2)官能基を含有するポリオレフィンの製造
官能基を含有するポリオレフィンは、官能基含有化合物とオレフィンとを共重合するか、ポリオレフィンを、ラジカル開始剤の存在下、グラフト化反応しうる前記官能基含有化合物でグラフト化反応させて製造することができる。
官能基含有化合物とオレフィンとの共重合体は、共重合しうる前記官能基含有化合物とオレフィンとの共重合体である。好ましい共重合体としては、エチレン・エポキシ基含有化合物共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エチル共重合体等の二元又は三元共重合体が挙げられる。共重合量は、官能基含有化合物の種類によっても異なるが、共重合体100重量%中に、官能基含有化合物単位が0.5〜30重量%含まれるようにする。
また、官能基を含有するポリオレフィン、すなわちポリオレフィンを官能基含有化合物でグラフト化反応した変性ポリオレフィンの具体例としては、無水マレイン酸変性エチレン・α−オレフィン共重合体等を挙げることができる。変性ポリオレフィンは、次に詳述するように、ポリオレフィンを、ラジカル開始剤の存在下、グラフト化反応しうる前記官能基含有化合物で変性させて製造することができる。
【0050】
(i)ラジカル開始剤
本発明においてグラフト化反応に用いるラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジt−ブチルジパーオキシイソフタレート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、アセチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。
これらの中でも、半減期1分を得るための分解温度が、160〜200℃のものが好ましい。分解温度が低すぎると原料のポリオレフィン樹脂が押出機内で十分可塑化しないうちに分解反応が始まるため、反応率が低くなり、逆に分解温度が高すぎると、押出機内等で反応が完結せず、未反応の官能基含有化合物の量が多くなる。
ラジカル開始剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対して、0.005〜0.5重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜0.3重量部の範囲とする。ラジカル開始剤が0.005重量部未満ではグラフト化反応が十分に行なわれず、未反応モノマーが増加するので好ましくない。また、0.5重量部より多い場合には、ゲル、フィッシュアイが多発するため好ましくない。
【0051】
(ii)変性方法
官能基含有ポリオレフィンは、ポリオレフィン樹脂100重量部に、官能基含有化合物0.05〜20重量部並びにラジカル開始剤0.005〜0.5重量部を加え、単軸押出機及び/又は二軸押出機、単数又は複数の反応器などを用いて、溶融混練または溶媒中で変性することにより製造される。
具体的には、押出機やバンバリーミキサー、ニーダーなどを用いる溶融混練法、適当な溶媒に溶解させる溶液法、適当な溶媒中に懸濁させるスラリー法、あるいはいわゆる気相グラフト法等が挙げられる。
処理温度としては、樹脂の劣化、官能基含有化合物の分解、使用するラジカル開始剤の分解温度などを考慮して適宜選択されるが、前記の溶融混練法を例に挙げると、通常190〜350℃であり、とりわけ200〜300℃が好適である。
なお、本発明に係る官能基含有ポリオレフィンを製造するにあたり、その性能を向上する目的で、特開昭62−10107号公報に記載のごとく、例えば前記のグラフト化反応時あるいは変性後に、エポキシ化合物またはアミノ基もしくは水酸基などを含む多官能性化合物で処理する方法、さらに加熱や洗浄などによって未反応の官能基含有化合物や副生する諸成分などを除去する方法を採用することができる。
グラフト量は高いほど望ましいが、変性ポリオレフィン100重量%中に0.001〜5重量%の官能基含有化合物単位が含まれるようにするのが好ましい。
【0052】
上記ラジカル開始剤を用いた官能基含有化合物とポリオレフィンの反応では、グラフト化反応とポリオレフィンの微架橋、分解などの副反応が同時に並行して起こるが、溶融混練時の樹脂温度を250℃以上とすることで、グラフト化反応が優先的に起こり、モノマーの高付加率が実現される。一方、樹脂温度が250℃未満ではポリオレフィンの微架橋が優先的に起こることでゲルや樹脂焼けが増加し、得られる官能基含有ポリオレフィンの品質が低下する。また、樹脂温度が310℃を超えるとポリオレフィンの劣化が加速されるため、ゲルや樹脂焼けなどが激増し、これも品質を低下させる。
また、このような高温で反応を行うため、押出機や反応器などの内部への空気の混入はできるだけ抑える必要があり、また溶融混練では、押出機内などでの樹脂の長時間滞留も避けなければならない。このため、原料樹脂投入口付近での窒素フィードを行うことが極めて好ましい。
本発明に係る官能基含有ポリオレフィンを製造するにあたり、余計な副反応を抑えオレフィンへのグラフト化反応を優先させるためには、一般的に使用されている酸化防止剤などの添加剤を添加することは好ましくない。例えば、ポリオレフィン用酸化防止剤の添加は、酸化防止剤とラジカル開始剤が拮抗作用して、未反応の官能基含有化合物を増加する可能性がある。また、金属石鹸類の添加は、金属石鹸類と不飽和カルボン酸又はその誘導体が反応し、得られる変性ポリオレフィンの接着性能が低下する可能性がある。
【0053】
官能基含有ポリオレフィンの製造においては、ポリオレフィン樹脂を複数次にわたって変性することが好ましく、それにより比較的に高価なモノマーである、不飽和カルボン酸及びその誘導体やエポキシ基含有化合物などの変性モノマーによる変性率を充分に高めて経済性を向上させ、比較的に少量の変性モノマーでも接着性能が非常に優れて、未反応変性モノマーが残留せず、ゲルや樹脂焼けなども生じない、高品質の変性ポリオレフィンを製造することができる。
このような溶融混練での変性方法で得られるグラフト化反応率(官能基含有量)は、一般的に0.2〜2.5重量%程度の範囲である。最終次の官能基含有ポリオレフィンのグラフト化反応率は、一般的には0.55〜2.5重量%の範囲である。しかし、特にこの範囲に限定されるものではなく、より高い変性率にすることが望ましい。
【0054】
(2)成分(C):有機過酸化物
本発明の樹脂シートの層(Y)に含まれる有機過酸化物は、主に成分(B)を架橋する機能を有する。
【0055】
有機過酸化物としては、分解温度(半減期が1時間である温度)が70〜180℃、特に90〜160℃の有機過酸化物を用いることができる。このような有機過酸化物として、例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、ジクロヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。
【0056】
(3)配合割合
本発明において、成分(B)と成分(C)の配合割合は、成分(B)を100重量部としたときに、成分(C)の配合量を好ましくは0.2〜5重量部とする。より好ましい成分(C)の配合割合は、0.5〜3重量部であり、さらに好ましくは、1〜2重量部である。成分(C)の配合割合が上記範囲よりも少ないと、架橋しないまたは架橋に時間がかかる。また、上記範囲よりも大きいと、分散が不十分となり架橋度が不均一になりやすい。
【0057】
(4)成分(D):ヒンダードアミン系光安定化剤
本発明において、樹脂シートの層(X)及び/または層(Y)には、ヒンダードアミン系光安定化剤を配合することが好ましい。ヒンダードアミン系光安定化剤は、ポリマーに対して有害なラジカル種を補足し、新たなラジカルを発生しないようにするものである。ヒンダードアミン系光安定化剤には、低分子量のものから高分子量のものまで多くの種類の化合物があるが、従来公知のものを特に制限されずに用いることができる。
【0058】
低分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロパーオキサイド及びオクタンの反応生成物(分子量737)70重量%とポリプロピレン30重量%からなるもの;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(分子量685);ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート混合物(分子量509);ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量481);テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量791);テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量847);2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900);1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900)などが挙げられる。
【0059】
高分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)、並びに、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の環状アミノビニル化合物とエチレンとの共重合体(エチレン・環状アミノビニル化合物共重合体)などが挙げられる。
上述したヒンダードアミン系光安定化剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
これらの中でも、ヒンダードアミン系光安定化剤としては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400);環状アミノビニル化合物とエチレンとの共重合体(エチレン・環状アミノビニル化合物共重合体)が好ましい。
これらを用いれば、製品使用時に経時でのヒンダードアミン系光安定剤のブリードアウトを妨げることができる。また、ヒンダードアミン系光安定化剤は、融点が60℃以上であるものを用いるのが、組成物の作製しやすさの観点から好ましい。
【0061】
本発明において、ヒンダードアミン系光安定化剤の含有量は、前記エチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対して、0.01〜2.5重量部とし、好ましくは0.01〜1.0重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.2重量部、最も好ましくは0.03〜0.1重量部とするのがよい。
前記含有量を0.01重量部以上とすることにより安定化への効果が十分に得られ、2.5重量部以下とすることによりヒンダードアミン系光安定化剤の過剰な添加による樹脂の変色を抑えることができる
【0062】
また、本発明において、前記有機過酸化物(C)と前記ヒンダードアミン系光安定化剤(D)との重量比(C:D)は、1:0.1〜1:10とすることが好ましく、1:0.2〜1:6.5とすることがより好ましい。これにより、樹脂の黄変を顕著に抑制することが可能となる。
【0063】
(5)架橋助剤
また、本発明の層(X)及び/または層(Y)には架橋助剤を配合することができる。架橋助剤は、架橋反応を促進させ、層(X)及び/または層(Y)の架橋度を高めるのに有効であり、その具体例としては、ポリアリル化合物やポリ(メタ)アクリロキシ化合物のような多不飽和化合物を例示することができる。
【0064】
より具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエートのようなポリアリル化合物、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートのようなポリ(メタ)アクリロキシ化合物、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。架橋助剤は、成分(A)又は成分(B)100重量部に対し、0〜5重量部程度の割合で配合することができる。
【0065】
(6)紫外線吸収剤
本発明の層(X)及び/または層(Y)を構成する樹脂組成物には、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチル酸エステル系など各種タイプのものを挙げることができる。
【0066】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクタデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0067】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニル置換ベンゾトリアゾール化合物であって、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、などを挙げることができる。
また、トリアジン系紫外線吸収剤としては、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノールなどを挙げることができる。サリチル酸エステル系としては、フェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレートなどを挙げることができる。
これら紫外線吸収剤は、エチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対し、0〜2.0重量部配合し、好ましくは0.05〜2.0重量部、より好ましくは0.1〜1.0重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部、最も好ましくは0.2〜0.4重量部配合するのがよい。
【0068】
(7)他の添加成分
本発明の層(X)及び/または層(Y)を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、他の付加的任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、通常のポリオレフィン系樹脂材料に使用される酸化防止剤、結晶核剤、透明化剤、滑剤、着色剤、分散剤、充填剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を挙げることができる。
【0069】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、柔軟性等を付与するため、チーグラー系又はメタロセン系触媒によって重合された結晶性のエチレン・α−オレフィン共重合体及び/又はEBR、EPR等のエチレン・α−オレフィンエラストマー若しくはSEBS、水添スチレンブロック共重合体等のスチレン系エラストマー等のゴム系化合物を3〜75重量部配合することもできる。さらに、溶融張力等を付与するため、高圧法低密度ポリエチレンを3〜75重量部配合することもできる。
【0070】
3.太陽電池封止用樹脂シート
本発明の太陽電池封止用シートは、図1に示すように、エチレン・α−オレフィン共重合体を樹脂成分とする層(X)と、官能基を含有するポリオレフィンを樹脂成分とする層(Y)とを含有する層構成をとる。
【0071】
太陽電池封止用シートの層構成は、図1(A)に示す層(X)と層(Y)を組み合わせた層(X)/層(Y)、図1(B)に示す層(X)の両側に層(Y)を積層した層(Y)/層(X)/層(Y)のほかに、層(Y)の両側に層(X)を積層した層(X)/層(Y)/層(X)や、層(X)の片側又は両側に層(Z)を積層し、さらに層(Y)を積層した層(Y)/層(X)/層(Z)/層(Y)、及び層(Y)/層(Z)/層(X)/層(Z)/層(Y)等が挙げられる。ここで層(Z)とは、例えば接着剤層、熱接着性樹脂層、アンカーコート層等である。
好ましいものは、層(Y)がシートの外表面となる層構成であり、より好ましくは層(Y)がシートの両外表面となる層(Y)/層(X)/層(Y)の層構成である。層(X)と層(Y)との厚さ比は、他の層の有無如何にかかわらず、X/Y=1〜8/8〜1であり、好ましくはX/Y=1〜5/5〜1、より好ましくはX/Y=1〜3/3〜1である。
【0072】
太陽電池封止用樹脂シートは、T−ダイ押出機、カレンダー成形機などを使用する公知のシート成形法によって製造することができる。例えばエチレン・α−オレフィン共重合体に、添加される架橋剤、必要に応じて、ヒンダードアミン系光安定化剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を予めドライブレンドしてT−ダイ押出機のホッパーから供給し、他方、官能基を含有するポリオレフィンに、添加される架橋剤、必要に応じて、ヒンダードアミン系光安定化剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を予めドライブレンドしてT−ダイ押出機の別のホッパーから供給し、シート状に共押出成形することによって得ることができる。勿論、これらドライブレンドに際して、一部又は全部の添加剤は、マスターバッチの形で使用することができる。また、T−ダイ押出やカレンダー成形において、予め非晶性α−オレフィン系共重合体に一部又は全部の添加剤を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて溶融混合して得た樹脂組成物を使用することもできる。
本発明のシートは、共押出しだけでなく、ドライラミネート、押出ラミネート法等の積層方法により得ることも可能である。
本発明の太陽電池封止用樹脂シートは、通常、0.1〜1mm程度の厚みのシート状で使用される。好ましい厚さは、0.1〜0.5mmである。
【0073】
4.太陽電池モジュール
本発明の太陽電池封止用樹脂シート(以下、単にシート又は封止材ともいう)として用い、太陽電池素子を上下の保護材で固定することにより、太陽電池モジュールを製作することができる。
このような太陽電池モジュールとしては、種々のタイプのものを例示することができる。例えば図2に示すような上部透明保護材1/封止材2/太陽電池素子4/封止材2’/下部保護材3のように太陽電池素子の両側から封止材で挟む構成のもの、下部基板保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子上に封止材と上部透明保護材を形成させるような構成のもの、上部透明保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子(例えばフッ素樹脂系透明保護材上にアモルファス太陽電池素子をスパッタリング等で作成したもの)の下に封止材と下部保護材を形成させるような構成のものなどを挙げることができる。
【0074】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルルなどのIII−V族やII−VI族化合物半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。
太陽電池モジュールを構成する上部保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などを例示することができる。下部保護材としては、金属や各種熱可塑性樹脂フィルムなどの単体もしくは多層のシートであり、例えば、錫、アルミ、ステンレススチールなどの金属、ガラス等の無機材料、ポリエステル、無機物蒸着ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリオレフィンなどの1層もしくは多層の保護材を例示することができる。このような上部及び/又は下部の保護材には、封止材との接着性を高めるためにプライマー処理を施すことができる。本発明における上部保護材としては、ガラスを用いることが好ましい。
太陽電池モジュールの製造に当たっては、本発明に係る封止材(シート)を予め作っておき、封止材が溶融する温度で圧着するという方法によって、上記構成のモジュールを形成することができる。また、本発明に係る封止材を押出コーティングすることによって太陽電池素子や上部保護材あるいは下部保護材と積層する方法を採用すれば、わざわざシート成形することなく一段階で太陽電池モジュールを製造することが可能である。したがって、本発明に係る封止材を使用すれば、モジュールの生産性を格段に改良することができる。
【0075】
本発明では、封止材に有機過酸化物(架橋剤)を配合しているので、有機過酸化物が実質的に分解せず、かつ本発明の封止材が溶融するような温度で、太陽電池素子や保護材に該封止材を仮接着し、次いで昇温して充分な接着とエチレン・α−オレフィン共重合体、官能基を有するポリオレフィンの架橋を行えばよい。この場合は、封止材層の融点(DSC法)が40℃以上、150℃の貯蔵弾性率が10Pa以上の耐熱性良好な太陽電池モジュールを得るために、封止材層におけるゲル分率(試料1gをキシレン100mlに浸漬し、110℃、24時間加熱した後、20メッシュ金網で濾過し未溶融分の質量分率を測定)が50〜98%、好ましくは70〜95%程度になるように架橋するのがよい。
【0076】
なお、前記特許文献3では、非晶質又は低結晶性エチレン・ブテン共重合体100重量部に、有機過酸化物として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを1.5重量部、および架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを2重量部混合した混合物を、異型押出機を用いて加工温度100℃で厚み0.5mmのシートを作製している(実施例3)。しかしながら、このような組成物の選択では、加工温度が低いため十分な生産性を得ることはできない。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例によって、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0078】
1.樹脂物性の評価方法
(1)メルトフローレート(MFR):エチレン・α−オレフィン共重合体のMFRは、JIS−K6922−2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定した。
(2)密度:前述の通り、エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、JIS−K6922−2:1997附属書(23℃、低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定した。
(3)Mz/Mn:前述の通り、GPCにより測定した。
(4)溶融粘度:JIS−K−7199−1999に準拠して、東洋精機製作所製キャピログラフ1−Bを用い、設定温度:100℃、D=1mm、L/D=10のキャピラリーを用いて、せん断速度2.43×10s−1での溶融粘度(η)、せん断速度2.43×10−1での溶融粘度(η)を測定した。
【0079】
(5)分岐数:ポリマー中の分岐数(N)は、NMRにより次の条件で測定し、コモノマー量は、主鎖及び側鎖の合計1000個の炭素あたりの個数で求めた。
装置 : ブルカー・バイオスピン(株) AVANCEIII cryo−400MHz
溶媒 : o−ジクロロベンゼン/重化ブロモベンゼン = 8/2混合溶液
<試料量>
460mg/2.3ml
<C−NMR>
・Hデカップル、NOEあり
・積算回数:256scan
・フリップ角:90°
・パルス間隔20秒
・AQ(取り込み時間)=5.45s D1(待ち時間)=14.55s
(6)FR:JIS−K7210−1999に準拠し、190℃、10kg荷重の条件下で測定したMFR(I10)と、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定したMFR(I2.16)との比(I10/I2.16)を計算し、FRとした。
【0080】
3.シートの評価方法
(1)HAZE
厚み0.7mmのプレスシートを用いて、JIS−K7136−2000に準拠して測定した。プレスシート片を、関東化学製特級流動パラフィンを入れたガラス製セルにセットし測定した。プレスシートは、160℃の条件で熱プレス機に30分間保管し、架橋させ準備した。HAZE値は、小さいほど良い。
(2)引張弾性率
厚み0.7mmのプレスシートを用いて、ISO1184−1983に準拠して測定した。尚、引張速度1mm/min、試験片幅10mm、つかみ具間を100mmとし、伸び率1%のときの引張弾性率を求めた。この値が小さい程、柔軟性に優れていることを示す。
(3)耐熱性
160℃で30分架橋したシート、及び150℃で30分架橋したシートのゲル分率で評価した。ゲル分率は、当該シートを、約1gを切り取り精秤して、キシレン100ccに浸漬し110℃で24時間処理し、ろ過後残渣を乾燥し精秤して、処理前の重量で割りゲル分率を算出する。ゲル分率が高いほど架橋が進行しており、耐熱性が高いと評価できる。ゲル分率が70wt%のものを、耐熱性良好「○」と評価した。
(4)ガラスとの接着性
縦7.6cm×横2.6cm×厚み1mmのスライドガラスを用いた。シートとスライドガラスを接触させ、160℃で30分の条件でプレス機を用いて加熱を行った。23℃雰囲気下に、24時間放置後、ガラスから樹脂を手で剥がせる場合を「×」、剥がせない場合を「○」として評価を行った。
【0081】
4.使用原料
(1)成分(A): エチレン・α−オレフィン共重合体
下記の<製造例1>で重合したエチレンとヘキセン−1の共重合体(PE−1)、<製造例2>で重合したエチレンとブテン−1の共重合体(PE−2)、及び市販のエチレン・α−オレフィン共重合体(PE−3)(PE−4)(PE−5)を用いた。物性を表1に示す。
(2)成分(B): 官能基を含有するポリオレフィン
高圧ラジカル重合法ポリエチレンを無水マレイン酸でグラフト変性した変性低密度ポリエチレン(無水マレイン酸量5重量%)
(3)成分(C):有機過酸化物:アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)101(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン)
(4)ヒンダードアミン系光安定化剤(a):ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N‘−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(チバ・ジャパン社製、CHIMASSORB 2020FDL)
【0082】
(5)ヒンダードアミン系光安定化剤(b):コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(チバ・ジャパン社製、TINUVIN 622LD)
(6)紫外線吸収剤:2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(サンケミカル社製、CYTEC UV531)
【0083】
<製造例1>
(i)触媒の調製
触媒は、特表平7−508545号公報に記載された方法で調製した。即ち、2.0mモルの錯体ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ハフニウムジメチルに対して、トリペンタフルオロフェニルホウ素を等モル加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
(ii)重合
内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を130MPaに保ち、エチレンと1−ヘキセンとの混合物を1−ヘキセンの組成が75重量%となるように40kg/時の割合で原料ガスを連続的に供給した。また、上記触媒溶液を連続的に供給し、重合温度が150℃を維持するように、その供給量を調整した。1時間あたりのポリマー生産量は約4.3kgであった。反応終了後、1−ヘキセン含有量=24重量%、MFR=35g/10分、密度=0.880g/cm、Mz/Mn=3.7であるエチレン・1−ヘキセン共重合体(PE−1)を得た。
また、PE−1を160℃−0kg/cm 3分予熱、160℃−100kg/cm 5分加圧、その後、30℃に設定された冷却プレスに100kg/cmの条件で、10分間冷却することで、厚み0.7mmのプレスシートを得た。その引張弾性率を、ISO1184−1983に準拠し、測定を行った結果、17MPaであった。
このエチレン・1−ヘキセン共重合体(PE−1)の特性を表1に示す。
【0084】
<製造例2>
表1に示す組成、密度、および溶融粘度となるように、製造例1における重合時のモノマー組成、重合温度を変更して重合を行った。反応終了後、1−ブテン含有量=35重量%、MFR=33g/10分、密度=0.870g/cm、Mz/Mn=3.5であるエチレン・1−ブテン共重合体(PE−2)を得た。製造例1と同様に引張弾性率測定を行った結果、8MPaであった。このエチレン・1−ブテン共重合体(PE−2)の特性を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例1)
1.樹脂組成物の製造
エチレンとヘキセン−1の共重合体(PE−1)100重量部に対して、有機過酸化物として、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富社製、ルペロックス101)を1.5重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤(a)として、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CHIMASSORB 2020FDL)0.2重量部配合した。これを十分に混合し、40mmφ単軸押出機を用いて設定温度130℃、押出量(17kg/時)の条件でペレット化した。得られたペレット(x)を層(X)として用いた。
また、官能基を含有するエチレン・α−オレフィン共重合体100重量部に対して、有機過酸化物として、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(アルケマ吉富社製、ルペロックス101)を1重量部と、ヒンダードアミン系光安定化剤として、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CHIMASSORB 2020FDL)0.2重量部配合した。これを十分に混合し、40mmφ単軸押出機を用いて設定温度130℃、押出量(17kg/時)の条件でペレット化した。得られたペレット(y)を層(Y)として用いた。
2.シートの成形
プラコー社製3種3層キャスト成形機(ダイ幅;550mm、ダイリップ;1mm、ダイス温度;100℃)を用い、層(Y)/層(X)/層(Y)の順番となるように、厚み500μmの太陽電池封止材用樹脂シートを成形した。厚み比は、1/3/1となるようにした。
3.評価
得られたシートを、160℃で30分間プレス機を用いて熱を与え架橋を実施した。その後、シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価した。評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例2)
実施例1において、エチレンとヘキセン−1の共重合体(PE−1)に替えて、エチレンとブテン−1の共重合体(PE−2)を用いた以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0088】
(実施例3)
実施例1において、ヒンダードアミン系光安定化剤(a)0.2重量部に替えて、ヒンダードアミン系光安定化剤(b)0.05重量部を用いた以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、剛性と架橋効率のバランス、接着性を測定、評価した。評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例4)
実施例3において、PE−1に替えて、PE−2を用いた以外は、同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、剛性と架橋効率のバランス、接着性を測定、評価した。評価結果を表2に示す。
【0090】
(実施例5)
実施例3において、さらに、紫外線吸収剤:2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(サンケミカル社製、CYTEC UV531)を0.3重量部配合した以外は、同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、剛性と架橋効率のバランス、接着性を測定、評価した。評価結果を表2に示す。
【0091】
(実施例6)
実施例4において、さらに、紫外線吸収剤:2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(サンケミカル社製、CYTEC UV531)を0.3重量部配合した以外は、同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、剛性と架橋効率のバランス、接着性を測定、評価した。評価結果を表2に示す。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、有機過酸化物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。耐熱性が悪い結果となった。
【0093】
(比較例2)
エチレンとヘキセン−1の共重合体(PE−1)の代わりに、PE−3(エチレン・1−ブテン共重合体、三井化学社製 タフマー(登録商標)A4085S)を用いた以外は、実施例1と同様のペレット化を試みた。樹脂温度がせん断発熱により上昇して、有機過酸化物の分解速度が速くなり、架橋が進行してペレットが得られなかった。
【0094】
(比較例3)
比較例2において、押出機の条件を設定温度100℃、押出量9.7kg/時に変えてペレット化を行い、さらにシート化して得られたシートの評価を行った。結果を表2に示す。押出量を高くすることができず、生産性が劣る結果となった。
【0095】
(比較例4)
実施例1において、官能基を含有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いなかったこと、すなわち層(X)、層(Y)の両方にペレット(x)を用いたこと以外は、実施例1と同様にシートを作製した。シートのHAZE、光線透過率、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。接着性が悪い結果となった。
【0096】
(比較例5)
実施例1において、PE−1に替えて、PE−4を用いた以外は、実施例1と同様のペレット化を試みた。樹脂温度がせん断発熱により上昇して、有機過酸化物の分解速度が速くなり、架橋が進行してペレットが得られなかった。
【0097】
(比較例6)
実施例1において、PE−1に替えて、PE−5を用いた以外は、同様にシートを作製した。シートのHAZE、引張弾性率、耐熱性、接着性を測定、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
「評価」
この結果、表2から明らかなように、実施例1〜6では、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)、有機過酸化物(C)及びヒンダードアミン系光安定化剤(D)を含む層(X)と、官能基を含有するポリオレフィン(B)、有機過酸化物(C)及びヒンダードアミン系光安定化剤(D)を含む層(Y)を積層しているために、得られたシートは、HAZEが小さく透明性に優れ、光線透過率が大きく、柔軟性に優れ、耐熱性、ガラスに対する接着性、耐候性も優れており、生産性も優れている。
これに対して、本発明とは異なり、比較例1では、有機過酸化物(C)を用いていないのでシートが架橋されず、耐熱性に劣り規格に合格しなかった。比較例2では、PE−3(エチレン・1−ブテン共重合体)の溶融粘度が高過ぎるので、押出温度を130℃に設定すると樹脂温度がせん断発熱により上昇して有機過酸化物の分解速度が速くなり、架橋が進行してペレットが得られなかった。また、比較例3では、比較例2において、押出機の条件を設定温度100℃に下げたので、有機過酸化物の分解速度が遅くなり、溶融粘度が高くなり、押出量が低くなって生産性が劣る結果となった。比較例4では、官能基を含有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いなかったので、シートの接着性が悪い結果となった。比較例5では、溶融粘度が本発明から外れるエチレン・1−オクテン共重合体を含む樹脂組成物を用いたために、ペレットが得られなかった。比較例6では、式(a)及びFRが本発明から外れるエチレン・1−オクテン共重合体を含む樹脂組成物を用いたために、得られたシートは、架橋効率が悪く耐熱性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の太陽電池封止材用樹脂シートは、透明性、柔軟性、耐熱性、耐候性等が要求される太陽電池封止材として利用される。特にガラスとの接着性が高いことから、基板としてガラス板を用いた太陽電池の封止材として有用である。また、IC(集積回路)の封止材としても利用できる。
【符号の説明】
【0101】
1 上部保護材
2、2’ 太陽電池封止材
3 上部保護材
4 太陽電池素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)及び成分(C)を含む層(X)と、下記の成分(B)及び成分(C)を含む層(Y)とを積層してなる太陽電池封止用樹脂シート。
成分(A):下記(a1)〜(a5)の特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体
(a1)密度が0.860〜0.920g/cm
(a2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下
(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下
(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.8×10poise以下
(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が下記式(a)を満たす。
式(a): N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
成分(B):官能基を含有するポリオレフィン
成分(C):有機過酸化物
【請求項2】
(a5)ポリマー中のコモノマーによる分岐数(N)が、下記式(a’)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池封止材用樹脂シート。
式(a’): −0.67×E+80 ≧ N ≧ −0.67×E+53
( ただし、Nは、NMRで測定した主鎖、側鎖の合計1000個の炭素数あたりの分岐数であり、Eは、ISO1184−1983に準拠して測定した、シートの引張弾性率である。)
【請求項3】
下記の成分(A)及び成分(C)を含む層(X)と、下記の成分(B)及び成分(C)を含む層(Y)とを積層してなる太陽電池封止用樹脂シート。
成分(A):下記(a1)〜(a4)及び(a6)の特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体
(a1)密度が0.860〜0.920g/cm
(a2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたZ平均分子量(Mz)と数平均分子量(Mn)との比(Mz/Mn)が8.0以下
(a3)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10s−1での溶融粘度(η)が9.0×10poise以下
(a4)100℃で測定した、せん断速度が2.43×10−1での溶融粘度(η)が1.8×10poise以下
(a6)フローレシオ(FR):190℃における10kg荷重でのMFR測定値であるI10と、190℃における2.16kg荷重でのMFR測定値であるI2.16との比(I10/I2.16)が7.0未満
成分(B):官能基を含有するポリオレフィン
成分(C):有機過酸化物
【請求項4】
前記特性(a6)のフローレシオ(FR)が、5.0〜6.2であることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池封止材用樹脂シート。
【請求項5】
成分(B)の官能基が、エポキシ基、カルボン酸基、酸無水物基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、又はシラン基から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかにに記載の太陽電池封止材用樹脂シート。
【請求項6】
成分(B)の官能基を含有するポリオレフィンが、オレフィンと酸無水物基含有化合物若しくはエポキシ基含有化合物との共重合体、又は、ポリオレフィンを酸無水物基含有化合物若しくはエポキシ基含有化合物とグラフト化反応した変性ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池封止材用樹脂シート。
【請求項7】
成分(C)の含有量が、層(X)において、成分(A)100重量部に対して、0.2〜5重量部であり、また、層(Y)において、成分(B)100重量部に対して、0.2〜5重量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池封止材用樹脂シート。
【請求項8】
さらに、成分(D):ヒンダードアミン系光安定化剤を含有し、その含有量が、成分(A)又は成分(B)100重量部に対して、0.01〜2.5重量部であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の太陽電池封止材用樹脂シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−18889(P2011−18889A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125640(P2010−125640)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】