説明

太陽電池用シリコンの製造方法

【課題】本発明は、太陽電池用シリコンを安定かつ安価に提供する。
【解決手段】太陽電池用シリコンの製造方法のある態様は、ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することで四塩化珪素を得る工程(1)と、前記工程(1)によって得られた四塩化珪素を分離精製する工程(2)と、前記工程(2)において精製された四塩化珪素と亜鉛ガスを反応させることで多結晶シリコンを得る工程(3)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を防止するため、原因物質の一つとされる二酸化炭素の排出量低減が大きな課題となっている。その解決手段として太陽電池は注目を集めており、需要も著しい伸びを示している。現在主流の太陽電池はシリコンを発電層として用いた太陽電池であるため、太陽電池需要の伸びに伴って太陽電池用シリコンの需要が逼迫する事態に陥っている。
【0003】
一方で、現在の太陽電池はまだまだ高価であるため、太陽電池によって得られる電力の価格は商業電力の電気代と比較して数倍であり、原料費の低減・製造コストの低減が望まれている。
【0004】
太陽電池用シリコンを製造する手法としては、(1)シーメンス法:トリクロロシランを水素によって還元することで多結晶シリコンを製造する手法、(2)流動床法:反応炉内にシリコン微粉末を流動させておき、その中にモノシランと水素の混合ガスを導入して多結晶シリコンを製造する手法、(3)亜鉛還元法:四塩化珪素を溶融亜鉛によって還元することで多結晶シリコンを製造する手法、上記の3つの手法が挙げられる。低価格化を指向する太陽電池用シリコンの製造方法としては、(1)シーメンス法、(2)流動床法では高純度金属シリコンの生産効率が低いという基本的な問題があり、生産効率に優れている(3)亜鉛還元法を用いることが好ましいと考えられる。
【0005】
図1は、現在提案されている、亜鉛還元法によって太陽電池用シリコンを製造する一般的なプロセスを示している(特許文献1参照)。
【0006】
まず始めに、以下の反応式(ア)もしくは(イ)に示したように、珪石等の二酸化珪素を炭素によって還元することで、純度が97〜99%程度の金属シリコンを製造する。
【0007】
SiO+C→Si+CO・・・(ア)
SiO+2C→Si+2CO・・・(イ)
しかしながら、この製造プロセスは反応温度を2000℃以上にする必要があるために大量の電力を必要とし、金属シリコンの価格が高くなるという問題を抱えている。
【0008】
上記反応で得られた97〜99%程度の純度の金属シリコンは、以下の反応式(ウ)に示したように塩化水素と反応させることで四塩化珪素を製造する。
【0009】
Si+4HCl→SiCl+2H・・・(ウ)
上記のように、亜鉛還元法に用いる四塩化珪素の製造プロセスには、2ステップの反応を経て製造されている、大量の電力が必要である、などの問題点があり、改善の余地を残している。
【0010】
高純度多結晶シリコンは、上記手法によって製造された四塩化珪素を精製後、以下の反応式(エ)に基づいて、亜鉛ガスによって還元することで製造する。
【0011】
SiCl+2Zn→Si+2ZnCl・・・(エ)
反応副生成物である塩化亜鉛は、電気分解によって金属亜鉛と塩素に分けられ、金属亜鉛は上記反応(エ)の原料として再利用されている。また塩素は、前記四塩化珪素を製造する工程において生成した水素(反応式(ウ))と反応させることで塩化水素にし、前記四塩化珪素を製造する工程の原料として再利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−092130号公報
【特許文献2】特開昭58-055330号公報
【特許文献3】特公平3−055407号公報
【特許文献4】特公平4−072765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した現状を踏まえて、太陽電池用シリコンをより安定かつ安価に供給することが望まれている。そこで、本発明では安定かつ安価に供給し続けることが可能な原料を用いて、従来の製造方法よりも製造プロセスの簡素化、反応温度の低温化を図り、安定かつ安価に太陽電池用シリコンを供給し続けることが可能な新規の製造手法を提供する。
四塩化珪素を製造する手法としては、珪素含有物質を金属シリコンにし、製造した金属シリコンと塩化水素の反応によって四塩化珪素を製造するといった、2ステップの反応を用いた手法が一般的であるが、珪石等のシリカ含有物質から直接製造する手法もある。
SiO+2C+2Cl→SiCl+2CO ・・・(オ)
【0014】
この手法では、上述の反応式(オ)に示したように珪石等の珪素含有物質と炭素、塩素を反応させることで四塩化珪素を得ることができるため、従来の手法よりも反応プロセス数を削減することができる。しかしながら、珪石等と炭素の混合物と、塩素との反応性は低く、1300℃以上という高温条件下で反応を行う必要がある。
【0015】
一方で、上記反応式(オ)の原料である珪素含有物質として珪酸バイオマスの炭化処理生成物を使用すると、塩素との反応性が飛躍的に向上し、400〜1100℃という従来よりも低温な条件下でも高収率で四塩化珪素を得たという報告例がある(特許文献2参照)。その理由としては、炭化処理生成物中に含まれているシリカと炭素が各々微粒子であり高分散状態であること、多孔質であり表面積が大きいことなどが挙げられている。
【0016】
また、原料の珪酸バイオマスの炭化処理生成物にカリウム化合物や硫黄又は硫黄化合物を添加することで反応転化率を向上させた報告例があり、カリウム分や硫黄分が塩素化反応の触媒として働くことが示唆されている(特許文献3、4参照)。
しかしながら、珪酸バイオマスは比重が小さいため、工業化の際に大量の珪酸バイオマスを集荷、運搬するためには膨大なコストがかかってしまう。また、大量の珪酸バイオマスを安定的に供給することは困難であり、量産化を考えた際、珪酸バイオマスは有用な材料とは言い難い。
【0017】
一方、ゼオライトは多孔質性の材料であるために表面積が大きい。また、酸点を有しているため炭素含有物質と混合した際、酸点と炭素含有物質間の相互作用によってバイオマス由来のシリカ・炭素化合物同様、シリカと炭素を高分散にすることが期待でき、反応温度を低温化させることが期待できる。
【0018】
また、ゼオライトは反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などの用途として工業的に多くの分野で使用されているため、安価かつ安定的な供給が期待できる。さらに、工業的に使用された廃ゼオライトの大半は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。上述した内容を踏まえると、少なくともゼオライトを含有した珪素含有物質を用いると、1ステップの反応で、低温条件下でも四塩化珪素を高収率で製造することが期待できる。また、原料費用および従来必要であった廃ゼオライトの処理費用をも削減することが期待できる。さらには産業廃棄物を削減することができるため、環境への負荷も低減することが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある態様は、太陽電池用シリコンの製造方法である。当該太陽電池用シリコンの製造方法は、ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することで四塩化珪素を得る工程(1)と、工程(1)によって生成した四塩化珪素を分離精製する工程(2)と、工程(2)において精製された四塩化珪素と亜鉛ガスを反応させることで多結晶シリコンを得る工程(3)と、を備えることを特徴とする。
【0020】
この態様の太陽電池用シリコンの製造方法によれば、ゼオライトを含有した珪素含有物質を用い、上記(オ)に示した反応によって直接的に四塩化珪素を製造することにより、従来の製造方法よりも反応ステップ数を削減でき、かつ反応温度を低温化することができるため、太陽電池用シリコンを安定かつ安価に供給し続けることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、太陽電池用シリコンを安定かつ安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の亜鉛還元法を用いた一般的な太陽電池用シリコンの製造方法を示すプロセス図である。
【図2】実施の形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法を示すプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良形態を示すが、この限りではない。
【0024】
実施の形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法は、ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することで四塩化珪素を得る工程(1)と、前記工程(1)によって得られた四塩化珪素を分離精製する工程(2)と、前記工程(2)において精製された四塩化珪素と亜鉛ガスを反応させることで多結晶シリコンを得る工程(3)とを備える。図2は、実施の形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法を示すプロセス図である。
【0025】
[工程(1)]
工程(1)では、少なくともゼオライトを含有した珪素含有物質(S10)を炭素含有物質(S20)の存在下で塩素化すること(S30)で四塩化珪素を得る(S40)。
【0026】
ここで「ゼオライト」とは、シリカを含有する結晶性の無機多孔質材料であり、具体的にはゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトL、ゼオライトΩ、USYゼオライト、ZK、ZSM、シリカライト、シャバサイト、エリオナイト、オフレタイト、モルデナイト、ナイトロライト、フォージャサイト、ソーダライト、トムソナイト等が挙げられるが、この限りではない。
【0027】
ゼオライトの特徴としては、多孔質性の材料であるために表面積が大きいことや酸点を有していることが挙げられる。珪素含有物質として珪石等の表面積が小さい物質を使用する場合、表面積を大きくするための粉砕工程が必要であるが、ゼオライトは表面積が大きいために粉砕工程が不要であり、工業化した際の製造プロセスを削減することができる。また炭素含有物質と混合した際、ゼオライト中の酸点と炭素含有物質間の相互作用によってシリカに炭素を高分散することができ、低温条件下でも高収率で四塩化珪素を得ることができる。
【0028】
また、ゼオライトは、以下のような特性を有していることが望ましいが、この限りではない。表面積(BET法)としては、1〜1000m/g、好ましくは10〜700m/g、さらに好ましくは300〜600m/gであることが適しているがこの限りではない。平均細孔径としては、2〜100Å、好ましくは10〜70Å、さらに好ましくは30〜50Åであることが適しているがこの限りではない。細孔容量としては、0.1〜2.0mL/g、好ましくは0.3〜1.5mL/g、さらに好ましくは0.5〜1.0mL/gであることが適しているがこの限りではない。酸点としては、0.01〜1.0mol/kg、好ましくは0.1〜0.8mol/kg、さらに好ましくは0.3〜0.6mol/kgであることが適しているが、この限りではない。また、ケイバン比(アルミナに対するシリカのモル比)としては、2以上、好ましくは2〜1000、さらに好ましくは10〜1000であることが適しているが、この限りではない。
【0029】
本実施の形態で用いられる珪素含有物質は、少なくともゼオライトを含有していればよく、ゼオライトの他に珪素含有化合物を含有していてもよい。珪素含有化合物として具体的には、珪石、珪砂、珪素集積バイオマス、非晶質性のシリカアルミナ等が挙げられるがこの限りではない。また、珪素含有化合物中に含まれている珪素の量としては、15〜46質量%、好ましくは20〜45質量%、より好ましくは20〜35質量%であることが適しているが、この限りではない。
【0030】
さらに、本実施の形態で用いられる珪素含有物質は、上述したゼオライト、珪素含有化合物からなる主成分以外の副成分を含有していてもよい。副成分としては、具体的には、金、銀、白金、パラジウム、モリブデンなどのゼオライト中に担持されている貴金属や、粘土鉱物、シリカゾル、アルミナゾル等のゼオライトを成形するために使用するバインダー等が挙げられるが、この限りではない。
【0031】
ゼオライトとして廃ゼオライトを使用することが好ましい。なお、「廃ゼオライト」とは、工業的に使用後のゼオライトのことを指しており、具体的には反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などに使用後のゼオライトが挙げられるが、この限りではない。また、廃ゼオライトにはゼオライト以外の物質が含有されていてもよい。
【0032】
ゼオライトは反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などの用途として工業的に多くの分野で使用されているため、廃ゼオライトは大量かつ安定して供給することができる。さらに、廃ゼオライトの大部分は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。原料として少なくとも廃ゼオライトを含有した珪素含有物質を用いた場合、原料コストを削減できるのみならず、従来必要であった灰の処理費用をも削減することができる。さらには産業廃棄物を削減することができるため、環境への負荷も低減することができる。
【0033】
またとりわけ、廃ゼオライトとして廃触媒、好ましくは原油処理に用いた廃触媒を用いることが適しているがこの限りではない。原油処理に使用した廃触媒には、原油中の炭素含有物質が付着しているものもあり、シリカと後述する炭素含有物質がより高分散状態になる。そのため、より低温条件下で高い塩素化反応転化率を達成することができる。また、炭素含有物質の添加量を削減することもでき、さらなるコスト削減にもなる。さらに、原油処理に使用した廃触媒には、原油中の硫黄成分が付着しているものもあり、硫黄分の触媒作用によって反応転化率がさらに向上する。
【0034】
本実施の形態で用いられる炭素含有物質は、コークスや活性炭、カーボンブラックなどの固体のみならず、一酸化炭素や二酸化炭素、メタンなどの気体であってもよく、さらには後述するように、工程(1)によって生成する一酸化炭素を再利用してもよいが、この限りではない。炭素含有物質の添加量としては、珪素含有物質中に含まれている珪素とアルミニウムを合わせたモル数に対して、炭素のモル数が2〜25倍、好ましくは2〜12倍、より好ましくは3〜6倍になるようにすることが適しているが、この限りではない。
【0035】
炭素含有物質と珪素含有物質を混ぜ合わせる手法としては、単に混合させるだけでもよく、また炭化処理を行ってもよい。炭化処理とは、珪素含有物質と炭素含有物質を混合し、不活性ガス雰囲気下において加熱することで珪素含有物質を炭化することを指し、ゼオライトを炭化処理することで、単にゼオライトと炭素含有物質を混合した時よりもさらにシリカと炭素を高分散にすることができる。なお、炭化処理に使用する不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるがこの限りではない。また、炭化処理時の加熱温度としては、200〜1200℃、好ましくは400〜1000℃、さらに好ましくは600〜800℃が適しているが、この限りではない。
【0036】
実施の形態の一つにおいて、炭素含有物質は工業プロセスから生じた灰を含有する。なお、工業プロセスから生じた灰とは、工場施設において燃焼や焼却処理によって生じる、炭素を含有する灰のことを指す。具体的には廃棄物焼却施設や発電所などで生じる灰が挙げられるが、この限りではない。工業プロセスから生じた灰は総じて粒子径が小さく表面積が大きいため、シリカと炭素とがより高分散状態になる。
【0037】
工業プロセスから生じた灰中に含有されている炭素の量としては、灰の全質量に対して30〜95質量%、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは70〜90質量%であることが適しているが、この限りではない。また、工業プロセスから生じた灰中に含有されている炭素の平均粒子径としては、0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜30μmであることが適しているが、この限りではない。さらに、工業プロセスから生じた灰の表面積(BET法)としては0.01〜100m/g、好ましくは0.1〜50m/g、より好ましくは1〜30m/gであることが適しているが、この限りではない。
【0038】
炭素含有物質としてコークスや活性炭といった粒子径の大きい物質を使用する場合、粒子径を小さくするために粉砕工程が必要であったが、工業プロセスから生じた灰では粉砕工程が不要となり、製造プロセスを簡素化することができる。また、工業プロセスから生じた灰は大量かつ安定的に供給することができる。さらに、工業プロセスから生じた灰の大部分は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。このため、炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰を用いた場合、原料コストを削減できるのみならず、従来必要であった廃ゼオライトの処理費用をも削減することができる。さらには、産業廃棄物を削減することができるため、環境への負荷も低減することができる。
【0039】
実施の形態の一つにおいて、前記炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰、とりわけ有機物を燃焼させることで、燃焼エネルギーを電力に変換する発電設備から生じた灰(以下、発電設備から生じた灰という)を含有していることが好ましい。発電設備から生じた灰とは、主に火力発電所やガス化複合発電(Integrated Gasification Combined Cycle:以下、IGCCと省略)において生じた灰のことを指すが、この限りではない。IGCCとは、重油、石油残渣油、石油コークス、オリマルジョン、石炭等の化石燃料から生成した一酸化炭素や水素を主成分とする合成ガスを原料とし、複合発電設備により発電を行う電力生産システムであり、大量の灰が廃棄される。
【0040】
発電設備から生じた灰の特徴としては、粒子径が小さく表面積が大きいことはもちろん、原料として化石燃料を用いているため、硫黄分を含有していることが挙げられる。上述のように硫黄が塩素化反応の触媒として働くため、炭素含有物質として発電設備から生じた灰を用いると、塩素化反応の転化率が向上する。発電設備から生じた灰は、硫黄を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%含有していることが適しているが、この限りではない。
【0041】
従来の手法では硫黄化合物を珪素含有物質、炭素含有物質に直接混合するもしくは硫黄化合物を直接反応系に送り込むことで原料と硫黄化合物を混合していたため、シリカや炭素と硫黄化合物を十分に高分散させることが困難であり、硫黄の触媒能力を十分に発揮できているとは言い難い。一方、発電設備から生じた灰は、分子レベルで炭素と硫黄が高分散状態にあるため、硫黄の含有量が少量でも反応転化率を向上させることができる。
【0042】
四塩化珪素の製造にあたり、塩素化反応を促進する触媒を添加してもよい。塩素化反応を促進する触媒としてはカリウム分や硫黄分が挙げられるが、この限りではない。具体的には、カリウム分としては炭酸カリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム等を、硫黄分としては硫黄、二酸化硫黄、硫化水素、二硫化炭素等を用いることができるが、この限りではない。触媒を添加する量としては、反応混合物中の珪素分に対して、0.05〜30質量%、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%であることが適しているが、この限りではない。なお、少なくともゼオライトを含有する珪素含有物質、炭素含有物質、必要に応じて固体もしくは液体状の触媒を混合する方法としては、湿式、乾式のいずれでもよく、様々な手法を用いることができる。また、触媒を混合することなく、直接反応器に供給してもよい。
【0043】
(塩素含有物質)
本実施の形態で用いられる塩素含有物質としては、塩素や四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ホスゲン等の塩素炭化化合物、塩素と一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、塩化水素、塩化炭素水素、不活性ガス等の混合物等を用いることができるが、この限りではない。また後述するように、工程(1)において未反応であった塩素含有物質を再利用してもよく、さらには、工程(4)において塩化亜鉛の電気分解によって生成した塩素を再利用してもよい。
【0044】
本実施の形態の製造方法において、珪素含有物質、炭素含有物質、必要に応じて触媒を添加した混合物と塩素含有物質との反応は、固定床、流動床などのいずれの方式を用いてもよく、反応温度としては400〜1500℃、好ましくは600〜1200℃、より好ましくは700〜900℃であることが適しているが、この限りではない。
【0045】
[工程(2)]
工程(2)では、ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質存在下で塩素化反応を行った反応生成物から、四塩化珪素を分離回収する(S50)。
【0046】
一般的にゼオライトはアルミナを含有しているものが多いため、反応生成物には主に四塩化珪素、塩化アルミニウム、一酸化炭素、塩素が含まれる。四塩化珪素を分離精製する手法としては、一般的に広く知られている蒸留法を用いることができる。
【0047】
具体的には、反応生成物を凝縮器で凝縮することで反応生成ガス中の一酸化炭素および塩素を分離する(S60)。凝縮された反応生成液中には、主に四塩化珪素と塩化アルミニウムが含有されている。凝縮液を蒸留塔に通し蒸留缶で加熱すると、大気圧下における塩化アルミニウムの沸点は約183℃、四塩化珪素の沸点は約58℃であるため、蒸留塔頂部から四塩化珪素(S70)を、蒸留塔底部から塩化アルミニウムを取り出すことができる。さらに、得られた四塩化珪素を繰り返して蒸留することで、純度を高めることができる。
【0048】
高い太陽電池性能を得るためには純度の高いシリコンを用いることが必要であるが、中間化合物である四塩化珪素の純度は、製造されるシリコンの純度にも大きく左右されるため、蒸留工程の回数を増やすことで、四塩化珪素の純度を必要以上に高めることが好ましい。実施の形態の一つにおいて、前記工程を繰り返すことで、工程(2)によって精製された四塩化珪素の純度を99.99%以上にすることが好ましい。
【0049】
実施の形態の一つにおいて、工程(2)によって分離回収された反応生成ガスをこれ以上分離精製することなく、工程(1)の原料として直接用いてもよい。反応生成ガス中の一酸化炭素は工程(1)の炭素含有物質として、未反応の塩素含有物質は塩素化反応に必要な塩素源として再利用することができるため、製造コストのさらなる削減が期待できる。また、この反応生成ガスの再利用工程は、反応ガスの分離精製工程が不要である点でも大きな優位性を有している。
【0050】
[工程(3)]
工程(3)では、上述した反応式(エ)に示したように、工程(2)において精製された四塩化珪素と亜鉛ガスを気相反応させることで四塩化珪素を還元し(S80)、高純度多結晶シリコンを製造する。実施の形態に係る太陽電池用シリコンの製造方法を実施するにあたり、上記還元反応の反応温度としては600〜1400℃であることが好ましいが、この限りではない。また、本実施の形態で用いられる亜鉛は、後述するように工程(3)において未反応であった亜鉛ガスを再利用してもよく、また後述の工程(4)によって分離回収された亜鉛を再利用してもよい。
【0051】
生成した多結晶シリコンは蒸発分離法を繰り返すことで、太陽電池に使用可能な純度(99.99%以上、好ましくは99.99999%以上)まで高めることができる。その他の反応生成物は塩化亜鉛、未反応の亜鉛および四塩化珪素等を含み、温度を塩化亜鉛の沸点である約732℃以下にすることで塩化亜鉛は液体として、亜鉛は粉体または液体として回収される。未反応の亜鉛、四塩化珪素は、工程(3)の原料として再利用することができる。
【0052】
[工程(4)]
実施の形態の一つでは、前記工程(3)によって生成した塩化亜鉛(S90)を電気分解(S100)によって亜鉛(S110)と塩素(S120)に分離回収する工程(4)を含む。工程(4)において分離回収された亜鉛を工程(3)の原料として、工程(4)において分離回収された塩素を工程(1)の原料として再利用してもよい。反応副生成物を余すことなく反応原料として再利用することで、さらに製造コストを削減することが可能になる。また、従来提案されていた製造プロセスでは、工程(4)によって得られた塩素の再利用には塩化水素に変換するプロセスが必要であったが、本実施の形態では工程(4)によって得られた塩素を直接再利用することが可能である。そのため、従来よりも製造プロセスをより簡素化することができ、製造コストをさらに削減することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の説明において、工程(1)における、四塩化珪素の製造プロセスの比較・検討例を示す。
【0054】
(実施例1)
珪素含有物質としてUSYゼオライト(触媒化成製、ケイバン比:150)100mg、炭素含有物質としてコークス(新日本石油製、炭素含有量:99.9質量%以上)39mgを用いた。使用したUSYゼオライトの表面積(BET法)は570m/g、平均細孔径は48Å、細孔容量は1.1mL/g、酸点は0.5mol/kgであり、コークスは市販のものをボールミルによって粉砕後、使用した。炭素含有物質は、珪素含有物質に添加、混合後し、反応混合物を得た。なお、炭素含有物質の添加量は、反応混合物中に含まれているCのモル数が以下の式(カ)を満たすようにした。
【0055】
反応混合物中に含まれているCのモル数=2A+3B・・・(カ)
A:珪素含有物質中に含まれるSiのモル数
B:珪素含有物質中に含まれるAlのモル数
反応混合物は、800℃、900℃または1000℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩素化反応を行った。その後、反応生成物を凝縮器で凝縮することで反応生成ガスである一酸化炭素および塩化水素を分離し、凝縮液を蒸留塔に通し蒸留缶で加熱することで、蒸留塔頂部から四塩化珪素を得た。四塩化珪素への反応転化率は以下の式(キ)により算出した。
【0056】
反応転化率(%)=X/Y×100・・・(キ)
X:生成した四塩化珪素のモル数
Y:珪素含有物質中に含まれているSiのモル数
その結果、四塩化珪素への反応転化率は、反応温度が800℃で56.2%、900℃で71.9%、1000℃で71.0%であった。
【0057】
(実施例2)
珪素含有物質として廃USYゼオライト100mg、炭素含有物質としてコークス36mgを用いた。本実施例で使用した廃USYゼオライトは、原油処理に使用された廃触媒で、原油中の炭素分が1.9質量%、硫黄分が0.3質量%付着していた。反応混合物は実施例1と同様の手法を用いて作製し、700℃、800℃または900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩素化反応を行った。その結果、四塩化珪素への反応転化率は、反応温度が700℃で74.1%、800℃で81.1%、900℃で80.5%であった。
【0058】
(実施例3)
珪素含有物質としてUSYゼオライト100mg、炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰46mgを用いた。本実施例では、工業プロセスから生じた灰として廃棄物焼却施設より生じた灰を粉砕することなく用いた。使用した工業プロセスから生じた灰の炭素含有量は85.2質量%、平均粒子径は17μm、表面積(BET法)は19m/gであった。反応混合物は実施例1と同様の手法を用いて作製し、700℃、800℃または900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩素化反応を行った。その結果、四塩化珪素への反応転化率は、反応温度が700℃で65.6%、800℃で72.5%、900℃で72.8%であった。
【0059】
(実施例4)
珪素含有物質としてUSYゼオライト100mg、炭素含有物質として発電設備から生じた灰を49mg用いた。本実施例では、発電設備から生じた灰としてIGCCより生じた灰を粉砕することなく用いた。使用したIGCC灰の炭素含有量は79.0質量%、硫黄含有量は5.9質量%、平均粒子径は8μm、表面積(BET法)は23m/gであった。反応混合物は実施例1と同様の手法を用いて作製し、700℃、800℃または900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩素化反応を行った。その結果、四塩化珪素への反応転化率は、反応温度が700℃で74.3%、800℃で82.0%、900℃で81.7%であった。
【0060】
(比較例1)
珪素含有物質として珪石100mg、炭素含有物質としてコークス39mgを用いた。珪石はボールミルによって粉砕後、使用した。なお、粉砕後の珪石の表面積(BET法)は2160cm/g、シリカ含有量は95.2質量%であった。反応混合物は実施例1と同様の手法を用いて作製し、700℃または800℃または900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩素化反応を行った。その結果、四塩化珪素への反応転化率は、反応温度が700℃で3.9%、800℃で4.2%、900℃で4.0%であった。
【0061】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、様々な変更や改良が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することで四塩化珪素を得る工程(1)と、
前記工程(1)によって生成した四塩化珪素を分離精製する工程(2)と、
前記工程(2)において精製された四塩化珪素と亜鉛ガスを反応させることで多結晶シリコンを得る工程(3)と、
を備えることを特徴とする太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記ゼオライトが廃ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記炭素含有物質が工業プロセスから生じた灰を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記工業プロセスから生じた灰が有機物を燃焼させることで、燃焼エネルギーを電力に変換する発電設備から生じた灰であることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)において得られた四塩化珪素の純度が99.99%以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)によって生成した反応生成ガスを、前記工程(1)の原料として再利用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)によって生成した塩化亜鉛を電気分解することで亜鉛と塩素に分離回収する工程(4)をさらに備え、
前記工程(4)において分離回収された亜鉛を前記工程(3)の原料として、前記工程(4)において分離回収された塩素を前記工程(1)の原料として再利用することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の太陽電池用シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68520(P2011−68520A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221415(P2009−221415)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】