説明

太陽電池用バックシートおよび太陽電池モジュール

【課題】太陽電池用バックシートにおいて、コスト的に有利に耐候性を改善する。
【解決手段】太陽電池用バックシート7は、液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなる。式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性および水蒸気バリア性に優れる太陽電池用バックシートと、この太陽電池用バックシートを用いて構成される太陽電池モジュールとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、環境汚染がなくクリーンなエネルギー源として太陽電池が注目され、有用なエネルギー資源としての太陽エネルギー利用の面から鋭意研究され、実用化に至っている。太陽電池には、その代表的なものとして、結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、非晶質シリコン太陽電池、銅インジウムセレナイド太陽電池、化合物半導体太陽電池などが知られている。
【0003】
これら太陽電池は、太陽光が入射してくる側に、表面を保護する目的で表面保護シートを備えており、太陽光が入射してくる面と反対側の面に、太陽電池素子を保護する目的でバックシート(裏面保護シート)を備えている。
【0004】
従来、この太陽電池用バックシートとしては、基材フィルムの片面に蒸着層を設けたフィルム上に、耐熱性のポリオレフィン系樹脂フィルムを設けたバックシート(例えば、特許文献1参照)、無機蒸着層を有する基材上に着色ポリエステル系樹脂層を積層したバックシート(例えば、特許文献2参照)、金属箔を有する基材に液晶ポリエステルを積層したバックシート(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
一方で、耐候性を有するフィルムとしてフッ素系樹脂フィルムを最外層に用いたバックシート(例えば、特許文献4、5参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−200322号公報
【特許文献2】特開2004−223925号公報
【特許文献3】特開2002−64213号公報
【特許文献4】特開2003−347570号公報
【特許文献5】特開2004−352966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3で提案された技術では、これらの樹脂シートに用いられるポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂があまり耐候性(屋外耐光性)に優れない。したがって、これを長時間にわたって使用すると、太陽電池モジュールの出力が低下したり、太陽電池用バックシートの外観が損なわれたりする恐れがあった。そのため、必ずしも十分な耐候性を示すとは限らず、耐候性の一層の改善が望まれていた。
【0008】
また、特許文献4、5で提案された技術では、フッ素系樹脂フィルムを用いる必要があるが、このフッ素系樹脂フィルムは、価格が高いという課題があった。
【0009】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、耐候性に優れる太陽電池用バックシートおよび太陽電池モジュールをコスト的に有利に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、特定の構造を有する液晶ポリエステルが高い強度保持率および低い水蒸気透過度を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、液晶ポリエステル基材を含む太陽電池用バックシートであって、前記液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれている太陽電池用バックシートとしたことを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステル基材に水蒸気バリア層が積層されていることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池用バックシートが太陽電池素子の裏面に設けられている太陽電池モジュールとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、太陽電池用バックシートの液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルの構造を特定したので、強度保持率が高くなると同時に、水蒸気透過度が低くなることから、耐候性に優れる太陽電池用バックシートおよび太陽電池モジュールをコスト的に有利に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る太陽電池モジュールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0019】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0020】
本発明の実施の形態1に係る太陽電池モジュール1は、図1に示すように、光起電力を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子2を有している。この太陽電池素子2は、シリコンなどの半導体からなる3個の光電変換セル3が順に直列接続され、これらの光電変換セル3が光透過性の封止材5でモールドされた構造を有している。そして、太陽電池素子2の表面(太陽光を受光する側の面)には光透過性の表面保護ガラス6が設置されており、太陽電池素子2の裏面(太陽光を受光する側と反対側の面)には、太陽電池素子2の保護や防湿を目的として、耐候性および水蒸気バリア性(ガスバリア性)に優れるバックシート7が貼付されている。また、太陽電池素子2の側面にはアルミニウム製のフレーム9が、太陽電池素子2、表面保護ガラス6およびバックシート7を挟み込んで一体に保持するように装着されている。さらに、バックシート7の裏側には端子ボックス10が取り付けられている。
【0021】
ここで、封止材5としては、酢酸ビニル−エチレン共重合体(EVA)、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの透明な樹脂を主成分とする接着剤を使用することができる。これらの樹脂は、耐候性の向上を目的として、紫外線吸収剤を含有していても構わない。
【0022】
また、バックシート7は、主に液晶ポリエステル基材から構成されている。この液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれており、かつ、流動開始温度が280℃以上であり、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上のものであり、溶融時に光学異方性を示す。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【0023】
ここで、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融時に光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、その製造段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中において、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が40モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。
【0024】
このように、バックシート7は、前記の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなる液晶ポリエステルにおいて、2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上となっているので、耐候性を高めることができる。
【0025】
また、バックシート7は、フッ素系樹脂フィルムなどの高価な材料を用いる必要がないので、製造コストを抑制することができる。
【0026】
本発明に用いられる液晶ポリエステルにおいては、Ar1 、Ar2 およびAr3 で示される2価の芳香族基の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が、50モル%以上である液晶ポリエステルが好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が65モル%以上の液晶ポリエステルがさらに好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルが特に好ましい。このように、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、太陽電池用バックシート1の耐候性をさらに向上させることができる。
【0027】
また、本発明の液晶ポリエステルを構成する構造単位である(1)、(2)および(3)の合計(以下、「全構造単位合計」と呼ぶことがある。)を100モル%とするとき、(1)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計が30〜80モル%、(2)で示される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計が10〜35モル%、(3)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位の合計が10〜35モル%であることが好ましい。
【0028】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましい。ここで、全芳香族液晶ポリエステルとは、前記のAr1 、Ar2 およびAr3 で示される2価の芳香族基同士がエステル結合(−C(O)O−)で連結されている樹脂であり、全構造単位合計に対する式(2)で示される構造単位の含有比率と式(3)で示される構造単位の含有比率とは実質的に等しくなる。全芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性にも優れるため、バックシート7の材料として好適に用いることができる。
【0029】
ここで、全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位の含有比率が前記の範囲であると、液晶ポリエステルが高度の液晶性を発現することに加えて、溶融加工性に優れるものとなるため好ましい。
【0030】
なお、全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。一方、全構造単位合計に対する前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位はそれぞれ、15〜30モル%であると、より好ましく、17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0031】
式(1)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸または4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であり、さらに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0032】
式(2)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸またはビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、さらに2,6−ナフタレンジカルボン酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0033】
式(3)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシンまたは4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトールであり、さらに2,6−ナフトールのナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0034】
前述したように、式(1)、(2)または(3)で示される構造単位はいずれも、芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に前記の置換基(ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基)を有していてもよい。これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などで代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。さらに、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などで代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0035】
前記の式(1)、(2)または(3)で示される構造単位を形成するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で重合を容易にするため、エステル形成性誘導体を用いることが好ましい。このエステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボン酸基を酸ハロゲン化物、酸無水物に転換したエステル形成性誘導体や、モノマー分子内のヒドロキシル基(水酸基)を低級カルボン酸エステル基にしたエステル形成性誘導体などの高反応性誘導体が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられる液晶ポリエステルの好ましいモノマーの組み合わせとしては、特開2005−272810号公報に記載された液晶ポリエステルが、耐熱性とメルトテンション向上という観点から好ましい。具体的には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸の繰り返し構造単位(I)が40〜74.8モル%、ハイドロキノンの繰り返し構造単位(II)が12.5〜30モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸の繰り返し構造単位(III)が12.5〜30モル%およびテレフタル酸の繰り返し構造単位(IV)が0.2〜15モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たすものである。
【0037】
より好ましくは、前記の(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が40〜64.5モル%、(II)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%、(III)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%および(IV)の繰り返し構造単位が0.5〜12モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0038】
さらに好ましくは、前記の式(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が50〜58モル%、(II)の繰り返し構造単位が20〜25モル%、(III)の繰り返し構造単位が20〜25モル%および(IV)の繰り返し構造単位が2〜10モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0039】
また、液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法を採用することができるが、特に好ましくは、前記のエステル形成性誘導体として、モノマー分子内のヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてエステル基に転換した誘導体を用いて製造することが好ましく、ヒドロキシル基をアシル基に転換することが特に好ましい。アシル化は、通常、ヒドロキシル基を有するモノマーを無水酢酸と反応させることで達成できる。こうしたアシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
【0040】
前記の液晶ポリエステル製造方法としては、公知の方法(例えば、特開2002−146003号公報に記載された方法など)を適用することができる。すなわち、前記の式(1)、(2)および(3)で示されるに対応するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に対応するモノマーが、全モノマーの合計に対して、40モル%以上になるように選択し、必要に応じてエステル形成性誘導体に転換した後、溶融重縮合せしめ、比較的低分子量の芳香族液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより、固相重合させる方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、高分子量化を図ることができる。
【0041】
溶融重縮合により得られたプレポリマーを粉末とするには、例えばプレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下が好ましく、特に0.05mm以上1.5mm程度以下が、芳香族液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1.0mm程度以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0042】
固相重合における加熱は、通常昇温しながら行われ、例えば室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温させる。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮という観点から、1時間以内で行うことが好ましい。
【0043】
液晶ポリエステルの製造においては、固相重合における加熱は、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温することが好ましい。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましい。この昇温速度は、好ましくは0.1〜0.15℃/分である。この昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングが生じにくいため、高重合度の液晶ポリエステルの製造が容易となる点で好ましい。
【0044】
ここで、液晶ポリエステルの重合度を高めるため、固相重合における加熱は、得られる液晶性樹脂の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸成分のモノマー種によって異なるが、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の範囲で、30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶性樹脂の熱安定性の点から、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係る液晶ポリエステルの流動開始温度とは、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機を使用し、溶融混錬により得られたペレットについて測定した値であることを意味する。このペレットの流動開始温度が280℃以上であることが、耐熱性の向上、特には高密度実装技術としてはんだリフロー処理に耐えうる耐熱性という観点からは必須であり、特に290℃以上380℃以下であれば、耐熱性が高く、かつ成形時のポリマーの分解劣化が抑えられるため好ましく、295℃以上350℃以下であれば、さらに好ましい。
【0046】
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0047】
次に、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機を使用して溶融混錬する具体的方法を説明する。
【0048】
例えば、単軸または多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンハリー式混錬機、ロール式混練機等を用いて、上記液晶ポリエステルの製造方法により得られた樹脂単体(パウダーまたはペレット)の流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス100℃の範囲で溶融混練して、ペレットを得る。液晶ポリエステルの熱劣化を防止するという観点から、好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス70℃の範囲、さらに好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス50℃の範囲である。
【0049】
また、本発明に用いる液晶ポリエステルは、これに充填剤などを含有せしめることにより液晶ポリエステル樹脂組成物とすることもできる。
【0050】
ここで、充填剤としては、例えば、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質など)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス、黒鉛等の無機充填剤;チタン酸カリウムウイスカ、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属または非金属系ウイスカ類、これら2種以上の混合物などが挙げられる。中でもガラス繊維、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭素繊維などが好適である。
【0051】
また、充填剤は、表面処理剤で表面処理されたものであってもよい。この表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤などの反応性カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの潤滑剤その他が挙げられる。
【0052】
これら充填剤の使用量は、芳香族液晶ポリエステル100質量部に対し、通常、0.1〜400質量部の範囲であり、好ましくは、10〜400質量部、より好ましくは、10〜250質量部の範囲である。
【0053】
また、液晶ポリエステル樹脂組成物は、前記の充填剤の他に、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂や添加剤などを含有してもよい。
【0054】
ここで、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。
【0055】
また、添加剤としては、例えば、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤および難燃剤などが挙げられる。
【0056】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記のようして得られた液晶ポリエステルと上記のような充填剤、必要に応じて使用される熱可塑性樹脂や添加剤などを混合することにより、製造することができる。このときの混合は、乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を用いてもよく、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダー等の溶融混練機を用いてもよく、上記溶融混錬条件にて実施することが好ましい。
【0057】
本発明に用いられる液晶ポリエステルは、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)を溶融混錬して得られたペレットの流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上(好ましくは0.015N以上、さらに好ましくは0.020N以上)を示すことを特徴とする。さらに、流動開始温度より25℃高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上である液晶ポリエステルは、液晶ポリエステル基材を安定して製造することができる。
【0058】
このメルトテンションとは、溶融粘度測定試験機(流れ特性試験機)に上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)を溶融混錬により得られたペレットを充填し、シリンダーバレル径1mm、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(単位:N)を意味する。
【0059】
本発明で用いる液晶ポリエステル基材の製造方法としては、かかる液晶ポリエステルを、例えば、Tダイから溶融樹脂を押出し巻き取るTダイ法や、環状ダイスを設置した押出し機から溶融樹脂を円筒状に押出し、冷却し巻き取るインフレーション成膜法により得られたフィルムまたはシート、熱プレス法または溶媒キャスト法により得られたフィルムまたはシート、或いは、射出成形法や押出し法で得られたシートをさらに一軸延伸または二軸延伸して得られたフィルムまたはシートを用いることもできる。射出成形、押出成形などの場合にはあらかじめ混練の工程を経ることなく、成分のパウダーまたはペレットを成形時にドライブレンドして溶融成形して、フィルムまたはシートを得ることもできる。
【0060】
Tダイ法では、Tダイを通して押し出された溶融樹脂を巻き取り機方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って得られる一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムが好ましく用いられる。
【0061】
一軸延伸フィルムの成膜時における押出機の設定条件は、組成物の組成に応じて適宜設定できるが、シリンダー設定温度は200〜360℃の範囲が好ましく、230〜350℃の範囲がさらに好ましい。この範囲外であると、組成物の熱分解が生じたり、成膜が困難となったりする場合がある点で好ましくない。
【0062】
Tダイのスリット間隔は、0.2〜2.0mmが好ましく、0.2〜1.2mmがさらに好ましい。一軸延伸フィルムのドラフト比は、1.1〜40の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは10〜40であり、特に好ましくは15〜35である。
【0063】
このドラフト比とは、Tダイスリットの断面積を長手方向に垂直な面のフィルム断面積で除した値をいう。ドラフト比が1.1未満であると、フィルム強度が不十分であり、ドラフト比が45を越すと、フィルムの表面平滑性が不十分となる場合がある。このドラフト比は、押出機の設定条件、巻き取り速度などを制御して設定することができる。
【0064】
二軸延伸フィルムは、一軸延伸フィルムの成膜と同様の押出機の設定条件、すなわちシリンダー設定温度が、好ましくは200〜360℃の範囲、さらに好ましくは230〜350℃の範囲、Tダイのスリット間隔が、好ましくは0.2〜1.2mmの範囲でこの組成物の溶融押出しを行い、Tダイから押し出された溶融体シートを長手方向および長手方向と垂直方向(横手方向)に同時に延伸する方法、または、Tダイから押し出された溶融体シートをまず長手方向に延伸した後、この延伸シートを同一工程内で100〜300℃の高温下でテンターより横手方向に延伸する逐次延伸の方法などにより得られる。
【0065】
二軸延伸フィルムを得る際、その延伸比は長手方向に1.2〜40倍、横手方向に1.2〜20倍の範囲が好ましい。延伸比が上記の範囲外であると、この組成物フィルムの強度が不十分となったり、または均一な厚みのフィルムを得るのが困難となったりする場合がある。
【0066】
円筒形のダイから押し出された溶融体シートをインフレーション法で成膜して得られるインフレーションフィルムなども好ましく用いられる。すなわち、上記の方法により得られた液晶ポリエステル基材は、環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給され、シリンダー設定温度200〜360℃、好ましくは230〜350℃で溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状フィルムとして上方または下方へ溶融樹脂が押出される。環状スリット間隔は、通常0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.6〜1.5mmである。環状スリットの直径は、通常20〜1000mm、好ましくは25〜600mmである。
【0067】
溶融押出しされた溶融樹脂フィルムに長手方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状フィルムの内側から空気または不活性ガス、例えば窒素ガスなどを吹き込むことにより、長手方向と直角な横手方向(TD)にフィルムを膨張延伸させる。
【0068】
インフレーション成形(成膜)において、好ましいブロー比(横方向の延伸比:インフレーションバブルの直径/環状スリットの直径)は1.5〜10、より好ましくは2.0〜5.0であり、好ましいドローダウン比(MD延伸倍率:バブル引き取り速度/樹脂吐出速度)は1.5〜50、さらに好ましくは5.0〜30である。また、バブル形状はいわゆるB型(ワイングラス型)が好ましく選択される。インフレーション成膜時の設定条件が上記の範囲外であると、厚さが均一でしわのない高強度の液晶ポリエステル基材を得るのが困難となる場合がある点で好ましくない。
【0069】
膨張させたフィルムは通常、その円周を空冷または水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0070】
インフレーション成膜に際しては、液晶ポリエステル基材に応じて、筒状の溶融体フィルムが均一な厚みで表面平滑な状態に膨張するような条件を選択することができる。
【0071】
本発明で用いる液晶ポリエステル基材の厚みには、特に制限はないが、好ましくは3〜1000μm、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは12〜150μmである。かかる方法により得られる液晶ポリエステルは、耐熱性、電気絶縁性に優れ、軽量で薄肉化が可能であり、機械的強度が良好であり、柔軟性があり、しかも安価なものである。
【0072】
本発明においては、液晶ポリエステル基材の表面にあらかじめ表面処理を施すことができる。このような表面処理法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、紫外線処理、研磨処理、赤外線処理、オゾン処理などが挙げられる。
【0073】
液晶ポリエステル基材は無色であってもよいし、顔料または染料などの着色成分が含有されていてもよい。着色成分を含有させる方法としては、例えば、フィルムの製膜時に予め着色成分を練り込んでおく方法や、基材上に着色成分を印刷する方法などがある。また、着色フィルムと無色フィルムとを貼り合わせて使用しても構わない。
[発明の実施の形態2]
【0074】
本発明の実施の形態2に係る太陽電池モジュール1は、バックシート7の耐候性を一層向上させることを目的として、バックシート7の液晶ポリエステル基材に水蒸気バリア層(図示せず)が積層されている点を除き、上述した実施の形態1と同じ構成を有している。
【0075】
この水蒸気バリア層としては、金属箔や、金属酸化物または非金属無機酸化物が蒸着された液晶ポリエステル基材を用いることができる。
【0076】
金属箔としては、アルミニウム箔、鉄箔、亜鉛鋼板などを使用することができ、これらの厚みは10〜100μmであることが好ましい。なお、液晶ポリエステル基材に金属箔を積層する方法としては、公知のケミカル・ペーパー・デポジション法、スパッタ法、蒸着法などにより、液晶ポリエステルからなるフィルムに積層してもよく、液晶ポリエステルからなるフィルムに直接、金属板または金属薄膜を貼合してもよい。
【0077】
一方、金属酸化物または非金属無機酸化物が蒸着された液晶ポリエステル基材としては、例えば、液晶ポリエステル基材上に、公知の真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどのPVD方式や、プラズマCVD、マイクロウェーブCVDなどのCVD方式を用いて蒸着されたものを使用することができる。
【0078】
この蒸着に用いられる金属酸化物または非金属無機酸化物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウムなどの酸化物を使用することができる。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属のフッ化物なども使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても構わない。
【0079】
これら金属酸化物または非金属無機酸化物の蒸着層の厚みとしては、使用する材料などにより異なるが、5〜250nmが好ましく、40〜100nmの範囲がより好ましい。
【0080】
また、金属酸化物または非金属無機酸化物の蒸着層は、液晶ポリエステル基材の少なくとも片側に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。さらに、蒸着に使用する金属酸化物または非金属無機酸化物は、2種以上の混合物で使用した場合には、異種の材質が混合された蒸着膜を構成することができる。
【0081】
さらに、液晶ポリエステル基材の少なくとも片側に金属酸化物または非金属無機酸化物を蒸着したフィルムは、1層のみでも水蒸気バリア層として使用することができるが、2層以上を積層した積層体の態様で使用することもできる。2層以上を積層する場合は、公知のプレス、ラミネート方法で貼り合わせることができる。
【0082】
したがって、この実施の形態2に係る太陽電池モジュール1では、上述した実施の形態1と同様、強度保持率が高くなるとともに、バックシート7が液晶ポリエステル基材および水蒸気バリア層から構成されているため、バックシート7の水蒸気透過度を低くして耐候性を一層向上させることが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0083】
なお、上述した実施の形態1、2では、3個の光電変換セル3を備えた太陽電池モジュール1について説明したが、光電変換セル3の個数は別段3個に限るわけではない。
【0084】
また、上述した実施の形態1、2では、アルミニウム製のフレーム9を備えた太陽電池モジュール1について説明した。しかし、フレーム9の材料はアルミニウムに限るわけではなく、また、フレーム9を省いて太陽電池モジュール1を構成することも可能である。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<合成例1>
【0086】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。
【0087】
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。これを合成例1とする。
【0088】
この合成例1の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例1の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例2>
【0089】
合成例1と同様にして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(293℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例2とする。
【0090】
この合成例2の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例2の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例3>
【0091】
合成例1と同様にして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から310℃まで10時間かけて昇温し、次いで、同温度(310℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例3とする。
【0092】
この合成例3の液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この合成例3の液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は72.5モル%である。
<合成例4>
【0093】
合成例1と同様の反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)用いて攪拌した。次いで、1−メチルイミダゾールを0.17g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを1.7g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。
【0094】
こうして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から285℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(285℃)で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。これを合成例4とする。
<流動開始温度の測定>
【0095】
合成例1〜4についてそれぞれ、粉末状の液晶ポリエステルの流動開始温度を測定した。すなわち、フローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填する。9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を流動開始温度とした。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0096】
また、合成例1〜4についてそれぞれ、粉末状の液晶ポリエステルを造粒してペレット状にし、このペレット状の液晶ポリエステルの流動開始温度を測定した。すなわち、合成例1〜4の液晶ポリエステル粉末各500gを用いて、二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)によって各液晶ポリエステルの粉末の流動開始温度〜流動開始温度+10℃高い温度で造粒し、ペレットを得た。こうして得られた合成例1〜4に相当するペレットについて、その流動開始温度を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。
<メルトテンションの測定>
【0097】
液晶ポリエステル基材を安定して工業的に作製するためには、ある程度のメルトテンションが必要となるので、合成例1〜4についてそれぞれ、ペレット状の液晶ポリエステルのメルトテンションを測定した。このとき、各ペレットについては、ペレットの流動開始温度より高い温度でメルトテンション測定を実施し、メルトテンションの最大値を求めた。また、試料が糸状に引き取れず、メルトテンション測定が実施できない温度についても調べた。
【0098】
すなわち、溶融粘度測定試験機((株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1B型)を用いて、試料約10gを仕込み、シリンダーバレル径1mm、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、試料が破断したときの張力をメルトテンション(単位:N)とした。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0099】
なお、合成例1の液晶ポリエステルについては、メルトテンション測定は、測定温度が300℃以下であると、試料が糸状に引き取れず、一方、測定温度が310℃以上では、樹脂が糸状にならず流動するため、メルトテンション測定が不可能であった。測定温度300〜310℃の間においてもメルトテンション測定を試みたが、試料が糸状に引き取れる場合があるが、メルトテンションが低すぎて糸が破断してしまうため、メルトテンションを算出することができなかった。
【表1】

<実施例1>
【0100】
合成例3で得た液晶ポリエステルを用いて、厚み25μmの液晶ポリエステル基材を作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ25μmの液晶ポリエステル基材(実施例1)を作製した。
<比較例1>
【0101】
合成例4で得た液晶ポリエステルを用いて、実施例1と同様の手順により、厚み25μmの液晶ポリエステル基材(比較例1)を作製した。
<耐候性試験>
【0102】
これらの実施例1および比較例1について、液晶ポリエステル基材の耐候性を評価するため、耐候性の指標として強度保持率を求めた。すなわち、促進耐候性試験機(スガ試験機(株)製の強エネルギーキセノンウェザーメーターSC700−WN)を用いて、以下の条件でキセノン照射を行った。
波長:275nm以上の連続光(フィルターにより短波長側をカット)
強度:160W/m2 (ランプ出力)
温度:65℃(照射面と同位置のフラットパネル温度計により測定)
時間:60時間
【0103】
そして、キセノン照射後の液晶ポリエステル基材の強度をキセノン照射前の液晶ポリエステル基材の強度で除して強度保持率を算出した。
【0104】
その結果、強度保持率は、比較例1では7%であったのに対して、実施例1では75%(つまり、比較例1の約11倍)であった。この結果から、比較例1と比べて実施例1は、液晶ポリエステル基材の耐候性が桁違いに優れていることが判明した。
<水蒸気透過試験>
【0105】
これらの実施例1および比較例1について、液晶ポリエステル基材の水蒸気バリア性を評価するため、水蒸気バリア性の指標として水蒸気透過度を求めた。すなわち、JIS K7126(A法;差圧法)に準拠して、ガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック(株)製の「GTR−10X」)により、温度40℃、相対湿度90%の条件で液晶ポリエステル基材の水蒸気透過度を測定した。
【0106】
その結果、水蒸気透過度は、比較例1では0.343g/m2 ・24hであったのに対して、実施例1では0.011g/m2 ・24h(つまり、比較例1の約1/31倍)であった。この結果から、比較例1と比べて実施例1は、液晶ポリエステル基材の水蒸気バリア性が極めて高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、衛星用途(人工衛星、宇宙用シャトル、宇宙ステーションなど)、建材用途(屋根瓦、窓ガラス、ブラインドなど)および時計・電卓用途のほか、電気自動車、ハイブリッドカーなどの自動車のルーフ、携帯電話機、ノートパソコン、デジタルカメラなどの電子機器の筐体その他の用途に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1……太陽電池モジュール
2……太陽電池素子
3……光電変換セル
5……封止材
6……表面保護ガラス
7……バックシート
9……フレーム
10……端子ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル基材を含む太陽電池用バックシートであって、
前記液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、
これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれていることを特徴とする太陽電池用バックシート。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用バックシート。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルは、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションの最大値が0.0098N以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池用バックシート。
【請求項4】
前記液晶ポリエステル基材に水蒸気バリア層が積層されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の太陽電池用バックシート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の太陽電池用バックシートが太陽電池素子の裏面に設けられていることを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2011−40654(P2011−40654A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188401(P2009−188401)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】