説明

太陽電池裏面保護膜用フィルム

【課題】加水分解が抑制され、高い耐久性を備え、優れた加工性を有する太陽電池の裏面保護膜を提供する。
【解決手段】ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなり、厚みが1〜38μm、面配向係数が0.240〜0.255、破断強度が250〜280Mpaであることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
太陽電池裏面保護膜用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムは、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして、普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は、例えば実開平6−38264号公報に記載があるように、一般的には、受光側のガラス基板と、裏面側の保護膜との間に、複数の板状太陽電池素子を挟み、内部の隙間に封止樹脂を充填した構造となっている。裏面側の保護膜は一般的には2〜3枚の樹脂フィルムを接着剤を介して積層されている。裏面の保護膜には、例えば特開平11−261085号公報、特開平11−186575号公報などに、ポリエチレン系樹脂やポリエステル系樹脂シート、フッ素樹脂フィルムが用いられることが記載されている。しかしながら、これらの保護膜は各層の接着性が必ずしも十分ではなく耐久性に劣る部分があった。
【0003】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐湿性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属板ラミネート用フィルム、ディスプレイ部材要フィルムとして広く用いられており、太陽電池裏面保護膜としても優れた性能を有する。しかしながら、ポリエステルフィルム、特に二軸延伸したポリエステルフィルムは、延伸方向すなわちフィルムの面内方向に分子鎖が配向するため、フィルムの厚み方向の凝集力が弱まり層状に破壊しやすい傾向がある。このため、フィルムの層状剥離(デラミネーション)が発生し、耐久性が悪化するという問題がある。
【0004】
【特許文献1】実開平6−38264号公報
【特許文献2】特開平11−261085号公報
【特許文献3】特開平11−186575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解決し、加水分解が抑制され、高い耐久性を備え、優れた加工性を有する太陽電池の裏面保護膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなり、厚みが1〜38μm、面配向係数が0.240〜0.255、破断強度が250〜280Mpaであることを特徴とする、太陽電池の裏面保護膜用フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加水分解が抑制され、高い耐久性を備え、優れた加工性を有する太陽電池の裏面保護膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなる。このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、2,6−ナフタレンジカルボン酸をジカルボン酸成分とし、エチレングリコールをジオール成分としてなるポリエステルである。
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、高い耐加水分解性と強度を得るために、ホモポリマーであることが好ましいが、共重合成分をジカルボン酸、ジオールそれぞれについて3モル%まで共重合してもよい。
【0009】
[固有粘度]
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、その固有粘度が、o−クロロフェノール中35℃での測定から算出される固有粘度として、好ましくは0.40dl/g以上、さらに好ましくは0.40〜0.90dl/gである。固有粘度が0.40dl/g未満であると工程切断が多発することがあり好ましくなく、0.90dl/gを超えると溶融粘度が高いため溶融押出しが困難であるうえ重合時間が長く不経済であり好ましくない。
【0010】
[厚み]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、太陽電池裏面保護フィルムとして使用するときに必要な強度と、ある程度自由な屈曲性を得るために、フィルム厚みが好ましくは1〜38μm、さらに好ましくは6〜38μm、特に好ましくは12〜25μmである。1μm未満であると太陽電池裏面保護膜としての強度が不足し、38μmを超えると絶縁用フィルムをラミネートした際のトータル厚みが厚くなり過ぎるため屈強性が低下して好ましくない。
【0011】
[面配向係数]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、その面配向係数が0.240〜0.255である。面配向係数が0.240未満であると配向が低すぎるため厚み斑が悪く平面性の悪いフィルムとなり、また加水分解しやすく強度が不足する。他方、0.255を越えると配向が高すぎるためデラミネーションが発生しやすい。なお、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムの通常は面配向係数は0.260程度であり、配向が高すぎ、デラミネーションが発生しやすい。
【0012】
[破断強度]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、破断強度が250〜280Mpaである。破断強度が250Mpa未満であると長期の耐久性が得られない。他方、300Mpaを越えると配向が高すぎるためデラミネーションが発生する。
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、加水分解への耐久性を長期わたり維持する観点から、121℃、100RH%、2atmの環境にて300時間放置する加速試験の後のフィルムの破断強度が100Mpa以上であることが好ましい。
【0013】
[熱収縮率]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率が共に0.5〜1.5%であることが好ましい。0.5%未満であると十分な強度が得られず好ましくなく、1.5%を超えると絶縁用フィルムとのラミネーションプロセスでの熱により反りやシワが発生して好ましくない。
【0014】
[易接着層]
太陽電池において、太陽電池の裏面保護膜のうえには太陽電池素子の封止材が設けられる。封止材としては、一般的にエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(以下、EVAと略す)が用いられる。フィルムと封止材との密着性を向上させるために、フィルムのうえには易接着層が設けられていることが好ましい。
【0015】
易接着層の厚みは、好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは20〜150nmである。易接着層の厚みが10nm未満であると密着性を向上させる効果が乏しく好ましくない。200nmを超えると易接着層の凝集破壊が発生しやすくなり密着性が低下することがあり好ましくない。
【0016】
易接着層は、ポリエステルフィルムとEVAの双方に優れた接着性を示す構成材であることが好ましく、具体的には、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリシロキサン樹脂が例示できる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を例えば混合物として用いてもよい。
【0017】
易接着層は、フィルムが形成された後に設てもよく、ポリエステルフィルムの製造工程で塗工により設けてもよい。特にポリエステルフィルムの製造において延伸・熱固定等を実施する場合、これらの工程が完了する前に塗布するのが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前のプラスチックフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。
【0018】
[製造方法]
本発明におけるポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法で製造することができる。例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法で製造することができる。また、例えば、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとを従来公知のエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中においてさらに固相重合を施してもよい。
【0019】
本発明のフィルムは、原料のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートをシート状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で縦方向に倍率3.6〜4.0倍、横方向に倍率3.9〜4.3倍で2軸に延伸し、240〜250℃の温度で1〜100秒間熱固定し、熱固定後に幅方向に0−2%弛緩(トーイン)することにより得ることができる。
延伸方法は、一般に用いられる方法例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、縦方向、横方向を同時に延伸してもよく、また縦方向、横方向に逐次延伸してもよい。
【0020】
易接着層の塗設は、逐次延伸の場合には、一方向に延伸した1軸配向フィルムに、水性塗液を塗布し、そのままもう一方向に延伸し熱固定することで行うことができる。
塗布方法としては、例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法及びカーテンコート法を用いることができる。塗布量は走行しているフイルム1mあたり例えば0.5〜20g、好ましくは1〜10gである。水性塗液は、水分散液または乳化液として用いるのが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
なお、物性値および特性は以下のとおり測定した。
【0022】
(1)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0023】
(2)破断強度
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック感100mmにして引張速度100mm/分、チャート速度100mm/分でインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、破断した際の強度を測定した。
【0024】
(3)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに所定の温度のオーブンで所定時間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム連続製膜方向(MD方向)と、製膜方向に垂直な方向(TD方向)において、下記式にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)
=(熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離×100
【0025】
(4)面配向係数(NS)
アッベ屈折計を用い、ナトリウムD線(589nm)を光源として屈折率を測定し、nMD、nT、D及びnZを求める。
また面配向係数(NS)は、下記式により求めた。
NS=(nMD+nTD)/2−nZ
(式中、nMDはフィルムの連続製膜方向の屈折率、nTDは幅方向の屈折率、nZは厚み方向の屈折率を表す。)
【0026】
(5)耐デラミ性
フィルムサンプルに125μmのポリエチレンテレフタレートフィルムをウレタン系接着剤{ポリエステル系主剤+(イソホロンジイソシアネート/キシリレンジイソシアネート)系硬化剤}にてドライラミネート手法によりラミネートを行い、その後、180°にてピールオフし、そのときにできる剥離界面を観察して下記の基準で評価した。
○:剥離が接着剤層の破壊により発生しているもの
×:剥離がフィルム自体の凝集破壊により発生しているもの(デラミ)
【0027】
(6)耐加水分解性
フィルムの縦方向に100mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、121℃・100%RH・2atm・濡れ飽和モードに設定した環境試験機内に100時間放置した。その後試料片を取り出し、その縦方向の破断強度を5回測定し、平均値を求めた。下記基準にて耐加水分解性を評価した。
○: 処理後の破断強度 100Mpa以上
×: 処理後の破断強度 100Mpa未満
【0028】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部とエチレングリコール60部の混合物に、酢酸マンガン・4水塩0.03部を添加し、150℃から240℃に徐々に昇温しながらエステル交換反応を行った。途中、反応温度が170℃に達した時点で三酸化アンチモン0.024部を添加し、さらに平均粒径0.25μm、粒径比1.1の球状シリカ粒子を0.13重量%添加した。そして、反応温度が220℃に達した時点で3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩0.042部(2mmol%に相当)を添加した。その後、引き続いてエステル交換反応を行い、エステル交換反応終了後、燐酸トリメチル0.023部を添加した。ついで、反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、0.2mmHg以下の高真空下にて重縮合反応を行い、25℃のo−クロロフェノール溶液で測定した固有粘度が固有粘度が0.66dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
【0029】
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、2mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より900℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.8に延伸した。続いてテンターに供給し、145℃にて横方向に.4.1倍に延伸し、さらに245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に1.0%弛緩(トーイン)させ、厚み12μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0030】
[実施例2〜6、比較例1〜6]
フィルムの製膜条件を表1に示すように変えること以外は実施例1と同様に行った。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、太陽電池裏面保護膜として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートからなり、厚みが1〜38μm、面配向係数が0.240〜0.255、破断強度が250〜280Mpaであることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項2】
フィルムの長手方向の熱収縮率および幅方向の熱収縮率がともに0.5〜1.5%である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項3】
121℃、100RH%、2気圧の環境に300時間放置した後のフィルムの破断強度が100Mpa以上である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項4】
請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルムからなる太陽電池裏面保護膜。

【公開番号】特開2009−45888(P2009−45888A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215923(P2007−215923)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】