説明

官能化基材

官能化基材、官能化基材を作製する方法、及び官能化基材を使用する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、「官能化基材を作製する方法(METHODS OF MAKING FUNCTIONALIZED SUBSTRATES)」という表題の米国特許仮出願番号第60/755244号(2005年12月30日出願)、及び「官能化基材(FUNCTIONALIZED SUBSTRATES)」(2005年12月30日出願)という表題の米国特許仮出願番号第60/755267号の優先権の利益を主張し、両特許の要旨をともにその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、官能化基材に関するものである。
【背景技術】
【0003】
当該技術分野では、官能性の高いポリマー基材に対する必要性がある。さらに、当該技術分野では、官能性の高いポリマー基材を作製する方法に対する必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、官能化基材、及び、官能化基材を作製する方法に関するものである。より具体的には、官能化基材には、1つ以上の化合物又はその混合物に、異なる官能性及び/又は反応性、異なる親和性を提供する(すなわち向上又は低下させる)ように改質されている多孔質ベース基材が含まれる。
【0005】
中間面と外面を有する多孔質ベース基材と、多孔質ベース基材の中間面と外面から伸延するグラフト化種が含まれる官能化基材を備える物品を提供する。グラフト化種の少なくとも1つには、(i)エチレン系不飽和基、(ii)エポキシ基又は開環エポキシ連結基、(iii)アズラクトン基又は開環アズラクトン連結基、(iv)イソシアネート基、ウレタン連結基、又は尿素連結基、(v)イオン基、(vi)アルキレンオキシド基、又は(i)〜(vi)のいずれかの組み合わせが含まれる。官能化基材は、最終生成物又は中間生成物として使用してよく、生成物内では、追加の反応物質が、エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、イオン基、又はこれらの混合物と反応することによって、官能化基材に結合している。
【0006】
本発明の上述及びその他の特徴及び利点は、以下に開示される実施態様の詳細な説明及び添付の請求項を検討すれば明らかになるであろう。
【0007】
添付の図面を参照しながら本発明をさらに説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、本明細書に、特定の実施形態に関して記載されているが、本発明の精神から逸脱することなく、さまざまな変更、再構成、及び置換を行えることは、当該技術分野の当業者には極めて明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【0009】
官能化基材と、官能化基材を作製する方法を記載する。種々の官能基又は官能種を多孔質ベース基材表面にグラフトする。これらのグラフト化官能基又は種は、多孔質ベース基材の表面特性又は反応性を変えることが多い。
【0010】
I.官能化基材
表面改質前の多孔質ベース基材と比較すると、官能化基材は典型的に、1つ以上の化合物又はその混合物に対して、異なる官能性及び/又は反応性、異なる親和性(すなわち向上又は低下している)を有する。官能化基材の成分及び官能化基材の物理特性を説明する。
【0011】
A.官能化基材の構成要素
官能化基材には多くの構成要素が含まれており、この構成要素としては、(a)中間面と外面を有する多孔質ベース基材と、(b)多孔質ベース基材の表面から延びているグラフト化種が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の官能化基材を形成させるための代表的な構成要素を以下に記載する。
【0012】
1.多孔質ベース基材
官能化基材には多孔質ベース基材が含まれる。適切な多孔質ベース基材としては、多孔質膜、多孔質不織布ウェブ及び多孔質繊維が挙げられるが、これらに限定されない。多孔質ベース基材は、いずれかの適切なポリマー物質から形成させてよい。適切なポリマー物質としては、ポリオレフィン、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、フッ素化ポリマー、塩素化ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(スルホン)、ポリフェニレンオキサイド、ポリ(ビニルアセテート)、ビニルアセテートのコポリマー、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルアルコール)、及びポリ(カーボネート)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なポリオレフィンとしては、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(1−ブテン)、エチレンとプロピレンのコポリマー、αオレフィンコポリマー(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及び1−デセンのコポリマー)、ポリ(エチレン−コ−1−ブテン)、及びポリ(エチレン−コ−1−ブテン−コ−1−ヘキセン)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なフッ素化ポリマーとしては、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンのコポリマー(例えば、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマー(例えば、ポリ(エチレン−コ−クロロトリフルオロエチレン)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なポリアミドとしては、ポリ(イミノ(1−オキソヘキサメチレン))、ポリ(イミノアジポイルイミノヘキサメチレン)、ポリ(イミノアジポイルイミノデカメチレン)、及びポリカプロラクタムが挙げられるが、これらに限定されない。適切なポリイミドとしては、ポリ(ピロメリットイミド)が挙げられるが、これに限定されない。適切なポリ(エーテルスルホン)としては、ポリ(ジフェニルエーテルスルホン)及びポリ(ジフェニルスルホン−コ−ジフェニレンオキシドスルホン)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なビニルアセテートのコポリマーとしては、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)、及びアセテート基の少なくとも一部が加水分解されていて、種々のポリ(ビニルアルコール)を与えるコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
ある1つの代表的な実施形態では、多孔質ベース基材には、平均孔径が典型的に約1.0ミクロン未満である微小多孔性ベース基材が含まれる。適切な微小多孔性ベース基材としては、微小多孔性膜、微小多孔性不織布ウェブ、及び微小多孔性繊維が挙げられるが、これらに限定されない。微小多孔性ベース基材は疎水性である場合が多く、上述のポリマー物質の1つ以上が含まれる。
【0014】
一部の実施形態では、多孔質ベース基材は、熱誘起相分離(TIPS)膜のような疎水性微小孔膜である。TIPS膜は、熱可塑性物質とその熱可塑性物質の融点を超える第2の物質との溶液を形成させることによって、作製させる場合が多い。第2の物質は、熱可塑性材料の融点より高い温度において液体である。冷却すると、熱可塑性物質は結晶化し、第2の物質から相分離する。結晶化した熱可塑性物質は、伸張されている場合が多い。第2の物質は、所望に応じて、伸張前又は伸張後に取り除く。微小多孔性膜は、米国特許第4,539,256号、同4,726,989号、同4,867,881号、同5,120,594号、同5,260,360号、同5,962,544号、及び同5,962,544号にさらに開示されており、これらは全て3M社(3M Company)(ミネソタ州セントポール)(St. Paul, MN)に譲渡されている。いくつかの代表的なTIPS膜には、ポリ(フッ化ビニリデン)(すなわちPVDF)、ポリオレフィン(ポリ(エチレン)又はポリ(プロピレン)など)、ビニル含有ポリマー又はコポリマー(エチレン−ビニルアルコールコポリマー、及びブタジエン含有ポリマー又はコポリマー、並びにアクリレート含有ポリマー又はコポリマーがなど)が含まれる。一部の用途では、PVDFが含まれるTIPS膜が特に望ましい。PVDFが含まれるTIPS膜は、米国特許公開番号第2005/0058821号(3M社(3M Company)(ミネソタ州セントポール(St. Paul, MN))に譲渡)にさらに記載されている。
【0015】
他の実施形態では、多孔質ベース基材は不織布ウェブである。例えば、不織布ウェブは、米国特許第5,962,544号に記載されているように、エチレン−ビニルアルコールコポリマーから調製することができる。
【0016】
疎水性及び疎水性微小多孔性膜はいずれも、例えばミリポア社(Millipore Corp.)(マサチューセッツ州ビルリカ)(Billerica, MA)から「デュラポア(DURAPORE)」及び「ミリポアエクスプレス膜(MILLIPORE EXPRESS MEMBRANE)」という商品名で、又はポール社(Pall Corp.)(ニューヨーク州イーストヒルズ(East Hills, NY))から「ニラフロ(NYLAFLO)」及び「スポール(SUPOR)」という商品名で市販されている。
【0017】
2.グラフト化種
官能化基材は、多孔質ベース基材の表面につながっているグラフト化種を有する。多孔質ベース基材の表面に物質をグラフトすると、多孔質ベース基材の表面特性又は反応性の変化をもたらす場合が多い。多孔質ベース基材の表面にグラフトされた物質は、典型的にはモノマー(すなわちグラフトモノマー)である。グラフトモノマーには通常、(a)フリーラジカル重合可能基と、(b)その上に少なくとも1つのさらなる官能基の両方を有する。フリーラジカル重合可能基は典型的に、(メタ)アクリロイル基((meth)acryloly group)又はビニル基のようなエチレン系不飽和基である。フリーラジカル重合可能基は典型的に、電子ビームを照射すると、多孔質ベース基材の表面と反応することができる。すなわち、電子ビーム存在下でのグラフトモノマーのフリーラジカル重合可能基と多孔質ベース基材の表面の反応が、多孔質ベース基材につながっているグラフト化種が形成をもたらす。1つ以上のグラフトモノマーを多孔質ベース基材の中間面と外面にグラフトして、得られた官能化基材の表面特性を調整してよい。
【0018】
フリーラジカル重合可能基が備わっていることに加えて、適切なグラフトモノマーは、典型的に、第2のエチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、イオン基、アルキレンオキシド基、又はこれらの組み合わせから選択した追加の官能基を有する。この追加の官能基は、さらなる反応性又は親和性の部位を提供することができる。すなわち、一部の実施形態では、フリーラジカル重合可能基が関与する反応によって、グラフトモノマーが多孔質ベース基材につながり、得られたグラフト化種の追加の官能基が、さらに反応することができる。例えば、追加の官能基が反応して、多孔質ベース基材と他の物質(例えば、他のモノマー又は少なくとも1つの求核基を有する求核性化合物)の間に連結基を形成することができる。他の実施例では、追加の官能基は、官能化基材に望ましい表面特性(例えば、特定の種類の化合物に対する親和性)を付与することができる。グラフト化種にイオン基が含まれる場合、官能化基材には、対立する電荷を有する化合物に対する親和性を有する場合が多い。すなわち、負に帯電した基を有する化合物は、カチオン基を有するグラフト化種を有する官能化基材につなぐことができ、正に帯電した基を有する化合物は、アニオン基を有するグラフト化種を有する官能化基材につなぐことができる。さらに、グラフト化種は、そのグラフト化種で表面改質する前に、疎水性表面を有している多孔質ベース基材が含まれる官能化基材に親水性表面を付与することができる。すなわち、アルキレンオキシド基が含まれるグラフト化種は、得られた官能化基材に親水性特性を付与することができる。
【0019】
一部のグラフトモノマーは、(a)第1のエチレン系不飽和基であるフリーラジカル重合可能基と、(b)第2のエチレン系不飽和基である追加の官能基を有する。2つのエチレン系不飽和基を有する適切なグラフトモノマーとしては、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられるが、これに限定されない。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートという用語は、ポリアルキレンオキシドジ(メタ)アクリレートという用語とほとんど同じ意味で用いられる。(メタ)アクリレートにおいて見られるような「(メタ)アクリル」という用語は、アクリレートにおいて見られるようなアクリル基、及び、メタクリレートにおいて見られるようなメタクリル基の両方を包含する。代表的なポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマー及びポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。平均分子量が約400g/モルのポリエチレングリコールジアクリレートモノマーは、例えば、「SR344」という商品名で市販されており、平均分子量が約400g/モルのポリエチレングリコールジメタクリレートモノマーは、ペンシルベニア州エクストン(Exton, PA)のサルトマー社(Sartomer Co., Inc.)から「SR603」という商品名で市販されている。
【0020】
ある1つの代表的な実施形態では、グラフト化種は、電子ビームを照射すると、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーと多孔質ベース基材の反応の結果生じる。ポリアルキレンオキシド基の存在によって、疎水性多孔質ベース基材を親水性官能化基材に変えるために、これらのグラフトモノマーを用ることができる。ある1つの望ましい実施形態では、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーは、ポリエチレングリコールジメタクリレートモノマー(例えば、平均分子量が約400g/モルのポリエチレングリコールジメタクリレート)が単独で、又は他のモノマーとともに含む。得られた官能化基材は、以下に詳細に記載されているように、1NのNaOHに20時間さらした後の瞬時湿潤性などの多くの望ましい特性を有することができる。
【0021】
一部のグラフトモノマーは、(a)第1のエチレン系不飽和基であるフリーラジカル重合可能基と、(b)エポキシ基である追加の官能基を有する。この部類内の適切なグラフトモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられるが、これに限定されない。この部類のグラフトモノマーは、さらなる反応性のために利用可能な少なくとも1つのエポキシ基を有する官能化基材を提供することができる。多孔質ベース基材に望ましい表面特性(例えば異なる反応性を有する特定の化合物又は官能基に対する親和性)を付与するために、エポキシ基は、別のモノマーなどの他の反応物質と又は求核性化合物と反応することができる。エポキシ基と求核性化合物が反応は、例えば、エポキシ環が開環、及び求核性化合物を多孔質ベース基材につなげるように機能する連結基が形成をもたらす。求核性化合物には典型的に、少なくとも1つの求核基が含む。エポキシ基と反応するための適切な求核基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、及びカルボキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。求核性化合物は、複数のエポキシ基を架橋できる追加の求核基を含むことができ、又は官能化基材に親水性特性を付与することのできる他の任意の基を含むことができる。エポキシ基の開環によって形成された連結基は、エポキシを1級アミノ基と反応させる場合は、−C(OH)HCHNH−基を、又はエポキシをカルボキシ基と反応させる場合は、−C(OH)HCHO(CO)−基を含む場合が多い。
【0022】
一部の実施形態では、エポキシ基は、多官能アミン(例えば、2個の1級アミノ基を有するジアミン又は3個の1級アミノ基を有するトリアミン)と反応することができる。アミノ基の1つは、エポキシ基との開環反応することができ、求核性化合物と多孔質ベース基材との間に−C(OH)HCHNH−基が含む連結基の形成をもたらすことができる。第2のアミノ基、又は第2及び第3のアミノ基は、官能化基材に親水性特性を付与することができ、或いは1つ以上の追加のエポキシ基と反応することによって、2つ以上のグラフト化種を架橋することができる。一部の実施例では、多官能アミンは、ポリアルキレングリコールジアミン又はポリアルキレングリコールトリアミンであり、エポキシ基と反応が、ポリアルキレングリコール基を有するグラフト化種(すなわちポリアルキレンオキシド基)の連結をもたらす。ポリアルキレングリコール基並びにいかなる末端1級アミノ基も、官能化基材に親水性特性を付与する傾向がある。
【0023】
他のグラフトモノマーは、(a)エチレン系不飽和基であるフリーラジカル重合可能基と、(b)アズラクトン基である追加の官能基を有する。適切なグラフトモノマーとしては、2−ビニル−4,4−ジメチルアズラクトンのようなビニルアズラクトンが挙げられるが、これに限定されない。この部類のグラフトモノマーは、さらなる反応性のために利用可能な少なくとも1個のアズラクトン基を有する官能化基材をも提供することができる。多孔質ベース基材に望ましい表面特性(例えば異なる反応性を有する特定の化合物又は官能基に対する親和性)を付与するために、アズラクトン基は、別のモノマーのような他の反応物質と又は求核性化合物と反応することができる。アズラクトン基と求核性化合物の反応は、例えば、アズラクトン環が開環し、求核性化合物を多孔質ベース基材につなげるように機能する連結基の形成をもたらす。求核性化合物には典型的に、少なくとも1つの求核基が含まれる。アズラクトン基と反応する適切な求核基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、及びヒドロキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。求核性化合物は、複数のアズラクトン基を架橋できる追加の求核基を含めることができ、又は官能化基材に親水性特性を付与することができる他の任意の基を含むことができる。アズラクトン基の開環によって形成される連結基は、−(CO)NHCR(CO)−基が含まれる場合が多い(式中、Rはメチルのようなアルキルであり、(CO)はカルボニルを示す)。
【0024】
一部の実施形態では、アズラクトン基は、多官能アミン(例えば、2個の1級アミノ基を有するジアミン又は3個の1級アミノ基を有するトリアミン)と反応することができる。アミノ基の1個は、アズラクトン基との開環反応することができ、求核性化合物と多孔質ベース基材の間に−(CO)NHCR(CO)−基を含有する連結基を形成をもたらすことができる。第2のアミノ基、又は第2及び第3のアミノ基は、官能化基材に親水性特性を付与することができ、或いは複数のグラフト化種を架橋することができる。一部の実施例では、多官能アミンは、ポリアルキレングリコールジアミン又はポリアルキレングリコールトリアミンであり、アズラクトン基との反応が、ポリアルキレングリコール基を有するグラフト化種(すなわちポリアルキレンオキシド基)をもたらす。ポリアルキレングリコール基並びにあらゆる末端1級アミノ基は、官能化基材に親水性特性を付与する傾向がある。
【0025】
さらに他のグラフトモノマーは、(a)エチレン系不飽和基であるフリーラジカル重合可能基と、(b)イソシアネート基である追加の官能基を有する。適切なグラフトモノマーとしては、2−イソシアネートエチルメタクリレート及び2−イソシアネートエチルアクリレートのようなイソシアネートアルキル(メタ)アクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。この部類のグラフトモノマーは、反応性のために利用可能な少なくとも1個のイソシアネート基を有する官能化基材を提供することができる。官能化基材に望ましい表面特性(例えば異なる反応性を有する特定の化合物又は官能基に対する親和性)を付与するために、イソシアネート基は、別のモノマーのような他の反応物質と又は求核性化合物と反応することができる。イソシアネート基と求核性化合物の反応は、求核基が1級アミノ基又は2級アミノ基の場合には、尿素連結の形成をもたらし、或いは求核基がヒドロキシ基の場合には、ウレタン連結の形成もたらすことができる。求核性化合物は、複数のイソシアネート基を架橋できる追加の求核基を含むことができ、又は官能化基材に親水性特性を付与することができる他の任意の基を含むことができる。求核性化合物とイソシアネート基の反応によって形成される連結基は、求核基が1級アミノ基である場合は、−NH(CO)NH−基を、又は求核基がヒドロキシである場合は、−NH(CO)O−を含む場合が多い。
【0026】
さらに他のグラフトモノマーは、(a)エチレン系不飽和基であるフリーラジカル重合可能基と、(b)イオン基である追加の官能基を有する。イオン基は、正電荷、負電荷、又はこれらの組み合わせを有することができる。一部の適切なイオン性モノマーの場合、イオン基は、pH条件に応じて、中性、又は帯電状態であることができる。この部類のモノマーは典型的に、1つ以上の逆帯電した化合物に対する望ましい表面親和性を付与するために、又は1つ以上の同様に帯電した化合物に対する親和性を低下させるために用いる。
【0027】
負電荷を有する一部の代表的なイオン性グラフトモノマーとしては、式IIの(メタ)アクリルアミドスルホン酸又はその塩が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
式I中、Rは水素又はメチルであり、Yは、直鎖又は分枝アルキレン(例えば、1個〜10個の炭素原子、1個〜6個の炭素原子、又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキレン)である。式Iに従った代表的なイオン性モノマーとしては、N−アクリルアミドメタンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、及び2−メタクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸性モノマーの塩も用いることが可能である。塩に対する対イオンは、例えば、アンモニウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、又はナトリウムイオンであることができる。
【0030】
負電荷を有する他の適切なイオン性グラフトモノマーとしては、ビニルスルホン酸及び4−スチレンスルホン酸などのスルホン酸、(メタ)アクリルアミドホスホン酸、例えば、(メタ)アクリルアミドアルキルホスホン酸(例えば、2−アクリルアミドエチルホスホン酸及び3−メタクリルアミドプロピルホスホン酸)、アクリル酸及びメタクリル酸、並びに2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、3−カルボキシプロピルアクリレート、及び3−カルボキシプロピルメタクリレートなどのカルボキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。さらに他の適切な酸性モノマーとしては、米国特許第4,157,418号(ヘイルマン(Heilmann))に記載されているような(メタ)アクリロイルアミノ酸が挙げられる。代表的な(メタ)アクリロイルアミノ酸としては、N−アクリロイルグリシン、N−アクリロイルアスパラギン酸、N−アクリロイル−β−アラニン及び2−アクリルアミドグリコール酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸性モノマーのいずれの塩も用いることが可能である。
【0031】
正電荷を与えることのできるいくつかの代表的なイオン性グラフトモノマーは、式IIのアミノ(メタ)アクリレート又はアミノ(メタ)アクリルアミド、又はそれらの4級アンモニウム塩である。4級アンモニウム塩の対イオンは、ハロゲン化物、硫酸、リン酸、硝酸などである場合が多い。
【0032】
【化2】

【0033】
式II中、Rは水素又はメチルであり、Lはオキシ又は−NH−であり、Yはアルキレン(例えば、1個〜10個の炭素原子、1個〜6個の炭素原子、又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキレン)である。各Rは独立して、水素、アルキル、ヒドロキシアルキル(すなわち、ヒドロキシで置換されているアルキル)、又はアミノアルキル(すなわち、アミノで置換されているアルキル)である。或いは、2個のR基は、これらが結合する窒素原子と一緒になって、芳香族であって、部分的に不飽和(すなわち、不飽和ではあるが芳香族ではない)である複素環式基を形成でき、この場合、複素環式基は任意に応じて、芳香族(例えばベンゼン)、部分的に不飽和(例えばシクロヘキセン)、又は飽和(例えばシクロヘキサン)である第2の環と融合することができる。
【0034】
式IIの実施形態の一部では、R基は両方とも水素である。他の実施形態では、1個のR基は水素であり、他方は、1個〜10個、1個〜6個又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキルである。さらに他の実施形態では、R基の少なくとも1個は、アルキル基の炭素原子のいずれかの上に配置されているヒドロキシ基又はアミノ基とともに1個〜10個、1個〜6個、又は1個〜4個の炭素原子を有しているヒドロキシアルキル又はアミノアルキルである。さらに他の実施形態では、R基は、この基が結合している窒素原子と結びついて複素環式基を形成する。この複素環式基は、少なくとも1つの窒素原子が含み、酸素又は硫黄のような他のヘテロ原子を含むことができる。代表的な複素環式基としては、イミダゾリルが挙げられるが、これに限定されない。複素環式基は、ベンゼン、シクロヘキセン、又はシクロヘキサンのような追加の環と融合することができる。追加の環と融合した代表的な複素環式基としては、ベンゾイミダゾリルが挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
代表的なアミノ(メタ)アクリレート(すなわち、式IIのLがオキシである)としては、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N−tert−ブチルアミノプロピルメタクリレート、N−tert−ブチルアミノプロピルアクリレートなどが挙げられる。
【0036】
代表的なアミノ(メタ)アクリルアミド(すなわち、式IIのLが−NH−である)としては、例えば、N−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド、N−(3−アミノプロピル)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)メタクリルアミド、N−(3−イミダゾリルプロピル)アクリルアミド、N−(2−イミダゾリルエチル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−イミダゾイルプロピル)メタクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−イミダゾイルプロピル)アクリルアミド、N−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)アクリルアミド、及びN−(3−ベンゾイミダゾリルプロピル)メタクリルアミドが挙げられる。
【0037】
式IIのイオン性モノマーの代表的な4級塩としては、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド及び3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、及び(メタ)アクリルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、及び2−アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
正の電荷を有する基をイオン交換樹脂に提供することができる他のグラフトモノマーとしては、アルケニルアズラクトンのジアルキルアミノアルキルアミン付加物(例えば、2−(ジエチルアミノ)エチルアミン、(2−アミノエチル)トリメチルアンモニウムクロライド、及びビニルジメチルアズラクトンの3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン付加物)、及びジアリルアミンモノマー(例えば、ジアリルアンモニウムクロライド及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。
【0039】
多孔質ベース基材の表面特性を変えるために、以下にさらに詳細に記載されているように、上述のグラフトモノマーの1つ又は上述のグラフトモノマーの2つ又はそれ以上の混合物を用いて本発明の官能化基材を調製してよい。上述のグラフトモノマーの2つ又はそれ以上を用いて多孔質ベース基材の表面特性を変える場合、モノマーは、単一の反応工程で(すなわち、電子ビーム照射の際に2つ又はそれ以上のグラフトモノマーが全て存在している)、又は順次的な反応工程で(すなわち、電子ビームの第1の照射の際に第1のグラフトモノマーが存在し、電子ビームの第2の照射の際に第2のグラフトモノマーが存在する)多孔質ベース基材の上にグラフトしてよい。
【0040】
3.グラフト化種の上の官能基に結合する反応物質
上述のように、多孔質ベース基材から延びているグラフト化種に沿った官能基は、1つ以上の他の反応物質と反応することができる。すなわち、官能化基材の表面をさらに改質するために、エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、又はイソシアネート基のような官能基が、モノマー又は求核性化合物と反応することができる。グラフト化種と反応できるいずれのモノマーも使用することができる。求核性化合物は、例えば、官能化基材の親水性又は疎水性特性を変える基を有することができ、この基が、他の望ましい官能基をもたらすか、又は官能化基材のイオン性を変える。
【0041】
一部の実施形態では、グラフト化種は、表面改質する前に疎水性特性を有する多孔質ベース基材が含まれる官能化基材に親水性特性を付与することができる。官能化基材の親水性特性は、電子ビームを照射した時の多孔質ベース基材とグラフトモノマーの反応から生じ、又はグラフト化種と他の反応物質の反応から生じることができる。グラフト化種は親水基を含む場合が多い。親水性特性を付与することのできる適切な基としては、例えば、ポリアルキレンオキシド基、(メタ)アクリロイル((meth)acryloly)基、イオン基、並びに、ヒドロキシ基、アミノ基、及びカルボキシ基のような求核基が挙げられる。
【0042】
B.官能化基材の特性と構造的特徴
本発明の官能化基材は、多くの要因に応じてさまざまな表面特性及び構造的特徴を有し、この要因としては、多孔質ベース基材、多孔質ベース基材を形成する方法、多孔質ベース基材の中間面と外表面にグラフトされた種、官能化基材に施されるいずれかのグラフト後処理(例えば加熱工程)、及びいずれかのグラフト後反応(例えば、グラフト化種の追加の官能基と化合物(例えば、求核性化合物又はイオン基を有する化合物)の反応)が挙げられるが、これらに限定されない。官能化基材の多くの特性及び特徴を以下に記載する。
【0043】
1.孔径の増大
本発明の一部の実施形態では、官能化基材の平均最終孔径は、表面改質工程前(例えば、グラフト化種の接続前、又は、グラフト化種上の官能基とモノマー又は求核性化合物などの別の化合物の反応前)の多孔質ベース基材の平均初期孔径よりも大きい。孔径が増大するある1つの代表的な実施形態では、官能化基材は、(i)中間面と外表面を有する多孔質ベース基材(例えば、微小多孔性膜のような微小多孔性ベース基材)で、グラフト工程前の平均初期孔径を有する多孔質ベース基材と、(ii)中間面と外表面から伸延するグラフト化種(官能化基材は平均最終孔径を有しており、官能化基材の平均最終孔径は、多孔質ベース基材の平均初期孔径よりも大きい)を備える。この実施形態では、官能化基材は、望ましくは微小多孔性膜である多孔質ベース基材を含む。
【0044】
孔径が増大すると、官能化基材に、グラフト化種の添加前の多孔質ベース基材とは異なる有用性を持たせることができる。例えば、官能化基材を流れる流束又は流速が大きくなる可能性があり、これによって、官能化基材を濾過用途で使用する場合に、比較的低い操作圧を維持させながら、官能化基材の優れた透過性を実現できる。さらに、多孔質ベース基材と比較して官能化基材の孔径が増大すると、官能化基材を貫通する孔を開口状態に維持させながら、官能化基材の中間面と外表面に追加のコーティングを塗布を可能にする。官能化基材にさらなる官能性を追加するために、このような追加のコーティングを使用してよい。
【0045】
ある1つの望ましい実施形態では、増大された孔径を有する官能化基材は、PVDFのようなポリマー物質から形成されているTIPS膜のようなTIPS微小多孔性膜を備える。本発明より前では、既知のTIPS膜形成プロセスによって形成した既知のTIPS膜は、平均孔径が約1.0ミクロン未満の膜を生じた。従来技術の方法を用いると、平均孔径が1.0ミクロン以上の比較的均一な大きさであるTIPS膜を調製するのは困難である可能性がある。しかし、本発明は、TIPSプロセスを介して形成された膜に、1.0ミクロン超の平均孔径を持たせることを可能にし、一部の実施形態では、最大で約1.2ミクロン以上にすることができる。
【0046】
TIPSプロセスを介して形成された微小多孔性膜の平均初期孔径は、約0.6ミクロン〜約0.9ミクロンの範囲である場合が多い。これらの微小多孔性膜の平均初期孔径は、本発明では、平均最終孔径が約0.7ミクロン〜約1.2ミクロンの範囲で増大させてもよい。言い換えると、平均初期孔径は、約0.1ミクロン(約0.2ミクロン、約0.3ミクロン、約0.4ミクロン、約0.5ミクロン、又はさらには約0.6ミクロン)ほどまで増大させてもよい。平均初期孔径は約17%ほど増大させてよい。例えば、平均初期孔径は、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、又は約70%ほど増大させてもよい。
【0047】
2.水分流動速度の増加
本発明の官能化基材は、望ましくは0を超える水分流動速度を有する。典型的には、官能化基材の水分流動速度は、グラフト工程前の多孔質ベース基材の初期水分流動速度よりも大きい。一部の実施形態では、官能化基材の水分流動速度は、グラフト工程前の多孔質ベース基材の初期水分流動速度よりもかなり大きく、例えば、2倍大きい。
【0048】
所定の官能化基材又は多孔質ベース基材の水分流動速度測定の1つの方法は、一定温度及び一定圧力において、ある量の水が官能化基材又は多孔質ベース基材を貫流するのに必要な時間を測定することである。一定温度及び一定圧力において、ある量の水が所定の官能化基材の中を貫流するのに必要な時間が、表面改質前の対応する多孔質ベース基材と比べて減少することは、官能化基材の水分流動速度が増加していることを示す。
【0049】
一部の実施形態では、本発明の官能化基材は、グラフト工程前の多孔質ベース基材の水分流動速度と比べて、水分流動速度が約25%〜約100%増加することがでる。(例えば、以下の比較例6及び実施例30〜31を参照。)
3.湿潤性
本発明の官能化基材は、さまざまな溶液又は溶媒にさらした場合、さまざまな程度の湿潤性を示すことができる。湿潤性は、官能化基材の親水性特性又は疎水性特性と相関関係にある可能性のある場合が多い。以下の表1は、いくつかの官能化基材及び多孔質ベース基材をNaOH溶液(すなわち、0.25N及び1NのNaOH溶液)に20時間さらすことによる影響に関するデータを提供する。本明細書で使用する時、「瞬時湿潤」又は「瞬時湿潤性」という用語は、水が基材表面に接触するとすぐに(典型的には1秒未満以内で)、水滴の特定の基材への浸透を指す。例えば、表面湿潤エネルギーが約72ダイン以上だと、通常、瞬時湿潤したことになる。本明細書で使用する時、「瞬時湿潤しない」という用語は、水滴が特定の基材に浸透するが、水滴が基材の表面に接触してすぐには湿潤しないことを指す。本明細書で使用する時、「湿潤しない」という用語は、水滴が特定の基材に浸透しないことを指す。例えば、表面湿潤エネルギーが約60ダイン以下だと、通常、湿潤しないことになる。
【0050】
【表1】

【0051】
表1は、多孔質ベース基材としてPVDF膜を用いて調製された官能化基材のデータを示す。これらの多孔質ベース基材は、TIPS膜(実施例の節のTIPS「A」フィルムの記載を参照)、又はミリポア社(Millipore Corporation)(マサチューセッツ州ビルリカ)からデュラポアという商品名で市販されている膜(購入時は疎水性)のいずれかであった。ポリエチレングリコール(400)ジメタクリレートモノマー(20重量%メタノール溶液、サルトマー社(Sartomer Company, Inc.)(ペンシルベニア州エクストン)から市販されているサルトマーSR−603(Sartomer SR-603))に線量40kGyの電子ビームを照射し、多孔質ベース基材にグラフトした。得られた官能化基材は、0.25NのNaOH溶液に20時間さらすか、又は1NのNaOH溶液に20時間さらした場合、瞬時湿潤性を保持する。
【0052】
比較のために、購入時には疎水性で、表面改質されていない別のデュラポア膜(これは親水性多孔質基材に対応する)は、0.25NのNaOH溶液に20時間さらした場合には瞬時湿潤性を有していたが、1NのNaOH溶液に20時間さらした場合には瞬時ではない湿潤性を有していた。さらに、比較のために、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレートモノマー(10重量%メタノール溶液、サルトマー社(Sartomer Company, Inc.)(ペンシルベニア州エクストン)から市販されているサルトマーSR−344(Sartomer SR-344))、及び微小多孔性PVDF TIPS膜に線量40kGybの電子ビームを照射することによって、官能化基材を調製した。得られた官能化基材は、0.25NのNaOH溶液に20時間さらした場合には瞬時湿潤性を有していたが、1NのNaOH溶液に20時間さらした場合にはいずれの湿潤性も示さなかった。
【0053】
4.耐熱性
官能化基材は、熱に複数回さらすことに対する耐性も示す。例えば、以下の表2には、TIPS膜及びポリエチレングリコール(400)ジメタクリレートモノマー(20重量%メタノール溶液)に線量40kGyの電子ビームを照射することによって調製した代表的な官能化基材に対して、温度121℃までオーブンで1時間の熱に複数回さらすことによる単純な耐久性試験の影響に関するデータを提供する。
【0054】
【表2】

【0055】
水分流動時間は、100mLの水が47mmのゲルマンサイエンス(Gelman Sciences)(現在はポールコーポレーション(Pall Corporation)(ミシガン州アナーバー)として知られている)製4238ディスクホルダーを711hPa(533mmHg)(21インチHg)で通るのに必要な時間と等しい。表2に示されているように、官能化基材は、複数回の熱サイクルと0.25NのNaOH溶液に16時間さらした後、初期の流動時間と実質的に同じか、又はそれより短い水分流動時間を保持していた。比較において、改質していない疎水性微小多孔性PVDFデュラポア(登録商標)膜を同じ一連の工程にさらした後は、水分流動時間の実質的増加(すなわち、基材を通る水分流動速度の実質的減少)を示した。
【0056】
II.官能化基材の作製方法
上述の官能化基材は、プロセス工程の組み合わせを用いて調製してよい。この方法は、中間面と外表面を有する多孔質ベース基材をもたらす工程と、(a)フリーラジカル重合可能基と(b)エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イオン基、アルキレンオキシド基、又はこれらの組み合わせが含まれる追加の官能基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーが含まれる第1の溶液を多孔質ベース基材に吸収させ、吸収した多孔質ベース基材を作成する工程と、吸収した多孔質ベース基材に線量を制御した電子ビームを照射して多孔質ベース基材の表面に接続しているグラフト化種を備えている第1の官能化基材を作成する工程が含まれており、グラフト化種の少なくとも1つには、追加の官能基が含まれる。この実施形態で用いる多孔質ベース基材のうちの一部は、疎水性、微小多孔性、又はこれらの組み合わせにすることができる。
【0057】
ある1つの実施形態では、この方法には、中間面と外表面を有する多孔質ベース基材をもたらす工程と、(a)フリーラジカル重合可能基と(b)エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イオン基、アルキレンオキシド基、又はこれらの組み合わせが含まれる追加の官能基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーが含まれる第1の溶液を多孔質ベース基材に吸収させ、吸収した多孔質ベース基材を作成する工程と、吸収したベース基材を、取り外し可能なキャリア層と取り外し可能なカバー層の間に配置し、多層構造を作成する工程と、多層構造に線量を制御した電子ビームを照射して、取り外し可能なキャリア層と取り外し可能なカバー層の間に配置されている官能化基材を形成させるようにする工程と(官能化基材には、多孔質ベース基材の表面に接合されているグラフト化種が含まれており、このグラフト化種の少なくとも1つには追加の官能基が含まれている)、多層構造からキャリア層及びカバー層を取り外す工程が含まる。この実施形態で用いる多孔質ベース基材のうちの一部は、疎水性、微小多孔性、又は、これらの組み合わせにすることができる。
【0058】
官能化基材を作製する1つの代表的な方法を図1に示す。図1に示されているように、代表的方法10は、吸収工程100、サンドイッチ工程200、照射工程300、剥離工程400、洗浄/すすぎ工程500、乾燥工程600、及び取り出し工程700を含む。これらの代表的な工程をそれぞれ以下にさらに詳細に記載する。
【0059】
A.代表的なプロセス工程
本発明の官能化基材を作製する方法は、以下の工程のうちの1つ以上を含んでよい。
【0060】
1.吸収工程
図1に示されているように、ベースである多孔質ベース基材12が備えるロール11は、ベースである多孔質ベース基材12が吸収工程100に入るように巻き出してよい。吸収工程100では、ベースである多孔質ベース基材12をアプリケータ14に接触させるか、又はアプリケータ14に近づける、すなわちアプリケータ14は、1つ以上のグラフトモノマーを含有する溶液13の容器に接続している。ローラー15及び16によって、ベースである多孔質ベース基材12がアプリケータ14を通るように導き、ベースである多孔質ベース基材12が望ましい時間だけ溶液13にさらされるようにする。典型的には、ベースである多孔質ベース基材12が溶液13にさらされる時間は、最大で約1.0分、より典型的には約15秒未満である。ベースである多孔質ベース基材12は通常、1分未満で吸収工程100を通って照射工程300まで進む。吸収工程の一部では、多孔質ベース基材12を溶液13で飽和する。
【0061】
上述のように、溶液13は、ベースである多孔質ベース基材12の中間面と外表面にグラフトするのに適している1つ以上のグラフトモノマーを含んでよい。上述のいずれかの代表的なグラフトモノマーを溶液13に含むことができる。グラフトモノマーに加え、溶液13には、例えば溶媒のような他の物質を含有することができる。溶液13中の各グラフトモノマーの濃度は、多くの要因(溶液13中のグラフトモノマー又はモノマー、望ましいグラフト度、グラフトモノマーの反応性及び使用溶媒が挙げられるが、これらに限定されない)に応じて変化してよい。典型的には、溶液13中の各グラフトモノマーの濃度は、溶液13の総重量に対して約1重量%〜約100重量%、望ましくは約5重量%〜約30重量%、及びより望ましくは約10重量%〜約20重量%の範囲である。
【0062】
ベースである多孔質ベース基材12が溶液13を望ましい時間だけ吸収したら、ベースである多孔質ベース基材12は、ガイドローラー17を介してサンドイッチ工程200に向かう。所望に応じて、吸収したベースである多孔質ベース基材12から過剰な溶液13を計量するために、ガイドローラー17を使用してもよい。あるいは、吸収したベースである多孔質ベース基材12から気泡及び過剰な溶液13を搾り出すために、ローラー(図示なし)を使用することができる。典型的には、ベースである多孔質ベース基材12は、実質的に飽和した状態で(すなわち、ベースである多孔質ベース基材12は最大量又は最大量に近い溶液13を含む)サンドイッチ工程200に入り、この場合、ベースである多孔質ベース基材12の中間面と外表面の実質的に全てが溶液13でコーティングされている。
【0063】
吸収工程100は、ベースである多孔質ベース基材12に溶液13を導入する1つの可能な方法に過ぎないことに留意すべきである。他の適切な方法としては、スプレーコーティング法、フラッドコーティング法(flood coating method)、ナイフコーティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
2.サンドイッチ工程
サンドイッチ工程200を、吸収したベースである多孔質ベース基材12を取り外し可能なキャリア層22と取り外し可能なカバー層19の間に挟み(すなわち配置し)、多層サンドイッチ構造24を形成する。代表的方法10に示されるように、取り外し可能なカバー層19をロール18から巻き出し、ローラー20を介して、吸収したベースである多孔質ベース基材12の外表面と接触させてよく、その一方で、取り外し可能なキャリア層22をロール21から巻き出し、ローラー23を介して、吸収したベースである多孔質ベース基材12の反対側の外表面と接触させてもよい。
【0065】
取り外し可能なカバー層19及び取り外し可能なキャリア層22は、チャンバ25から出る際に官能化基材30(すなわち、グラフト化ベースである多孔質ベース基材12)が酸素に直接さらされてしまうことを一次的に防ぐことができるいずれかの不活性シート材を含んでよい。取り外し可能なカバー層19及び取り外し可能なキャリア層22を形成させるのに適している不活性シート材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム材、他の芳香族ポリマーフィルム材、及び他のいずれかの非反応性ポリマーフィルム材が挙げられるが、これらに限定されない。一旦組み立てられると、多層サンドイッチ構造24を照射工程300に進める。
【0066】
3.照射工程
照射工程300では、多層サンドイッチ構造24に、ベースである多孔質ベース基材12の中間面と外表面の上に溶液13内の1つ以上のモノマーをグラフトするのに十分な量の放射線を照射して、取り外し可能なキャリア層22と取り外し可能なカバー層19の間に挟まれている官能化基材30を備えている多層サンドイッチ構造27を形成するようにする。代表的方法10に示されるように、多層サンドイッチ構造24は、十分な線量の放射線を提供可能な少なくとも1つのデバイス26を備えるチャンバ25を進む。単一のデバイス26は、十分な線量の放射線を提供可能であるが、特に比較的厚いベースである多孔質ベース基材12の場合には、2個以上のデバイス26を使用してもよい。典型的には、チャンバ25は、フリーラジカル重合を阻害することが知られている少量の酸素とともに、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気を含む。取り外し可能なカバー層19がない状態で、ベースである多孔質ベース基材12を照射する実施形態では、チャンバ25内部の酸素量がより関心事となり得る。取り外し可能なキャリア層22及び取り外し可能なカバー層19がベースである多孔質ベース基材12を覆っている場合、チャンバ25内部の酸素による暴露は最小限になる。
【0067】
他の照射源を使用してもよいが、望ましいデバイス26は、電子ビーム源を備える。電子ビーム(eビーム)は一般的に、約1.33mPa(10−6Torr)に維持された真空チャンバ内の反射板と抽出グリッドの間に保持されているタングステンワイヤフィラメントに高電圧をかけることによって発生する。フィラメントを高電流で加熱し電子を発生させる。金属箔の薄い窓の方に向いた反射板及び抽出グリッドによって電子を導き、加速させる。10メートル/秒(m/sec)超の速度で移動し、約150キロエレクトロンボルト(keV)〜300キロエレクトロンボルト(keV)を有する加速電子は、箔の窓を通って真空チャンバの外に飛び出し、箔の窓のすぐ向こうに配置されているいかなる材料をも透過する。
【0068】
発生する電子の量は、抽出グリッドの電圧と直接関係がある。抽出グリッドの電圧が高くなると、タングステンワイヤフィラメントから飛び出す電子の量が多くなる。eビームによる加工は、コンピュータ制御する場合にはきわめて正確であることができ、正確な線量及び線量率の電子を多層サンドイッチ構造24に向けることができる。
【0069】
電子ビーム発生器は種々の供給業者から入手可能であり、エネルギーサイエンス社(Energy Sciences, Inc.)(マサチューセッツ州ウィルミントン)から入手可能なESI「エレクトロキュア(ELECTROCURE)」EBシステム、及びPCTエンジニアードシステム(PCT Engineered Systems, LLC)(アイオワ州ダベンポート)から入手可能なブロードビームEBプロセッサ(BROADBEAM EB PROCESSOR)が挙げられる。装置のいずれかの特定部分及び照射サンプルの位置については、「フィルムの放射線量測定システムを使用するための実務(Practice for Use of a Radiochromic Film Dosimetry System)」という表題のASTM E−1275に従って、到達した線量を測定することができる。抽出グリッドの電圧、ビームの直径及び/又は光源との距離を変えることによって、さまざまな線量率を得ることができる。
【0070】
チャンバ25内部の温度は、従来の手段によって周囲温度に維持させることが望ましい。あらゆる特定の機構に限定することを意図することなく、吸収した多孔質ベース基材に電子ビームを照射すると、基材表面でフリーラジカルが発生し、エチレン系不飽和基を有するモノマーのような二重結合を有するモノマーと反応することができると考えられる。
【0071】
多層サンドイッチ構造24が受けた全線量は、主に、グラフトモノマーが多孔質ベース基材にグラフトされる程度に影響を与える。一般的には、吸収工程中に添加したグラフトモノマーのうち、少なくとも10重量%、望ましくは20重量%、さらに望ましくは50重量%を超えるグラフトモノマーがグラフト化種に変換されることが望ましく典型的である。さらに、吸収工程中に添加した1つ以上のグラフトモノマーのうち、ベースである多孔質ベース基材12の総重量に対して約5重量%、望ましくは約10重量%、より望ましくは約20重量%(又は約100重量%)が、ベースである多孔質ベース基材12にグラフトされることが望ましく典型的である。線量は、電圧、速度及びビームの電流を含む多くの加工パラメータに左右される。ライン速度(すなわち、多層サンドイッチ構造24がデバイス26の下を通る速度)及び抽出グリッドに供給される電流を制御することによって、利便的に線量を調節することができる。実験的に測定された係数(機械定数)をビームの電流に乗じて、ウェブ速度で除すことによって目標の線量(例えば20kGy)を利便的に算出し、照射量を決定することができる。機械定数は、ビームの電圧の関数として変動する。
【0072】
照射する電子ビームの制御量は、滞留時間に左右されるが、一般的な問題として、多層サンドイッチ構造24の一部である多孔質ベース基材12に吸収されたモノマーは、最小線量約10キログレイ(kGy)から最大線量約60kGyまでの範囲の制御量の線量を受けると、一般的には顕著にグラフトする。典型的には、合計制御線量は約20kGy〜約40kGyの範囲である。照射によってグラフトさせるためには線量率が小さく、滞留時間が長いことが好ましいが、実際的な操作では、強制的に高い線量率及び短い滞留時間を与える速度を必要とする場合もある。多層サンドイッチ中の酸素の除去が、eビームを照射した後もグラフト収率が高くなるのに十分な時間、フリーラジカル化学物質が存在し続けることを可能にする。
【0073】
4.剥離工程
チャンバ25から出ると、多層サンドイッチ構造27は剥離工程400に進む。剥離工程400では、多層サンドイッチ構造27は、取り外し可能なキャリア層22及び取り外し可能なカバー層19を官能化基材30から分離することによって分解される。代表的方法10に示されるように、取り外し可能なカバー層19は、官能化基材30の外表面から分離してロール28として取り出され、取り外し可能なキャリア層22は、官能化基材30の反対側の外表面から分離してロール29として取り出される。
【0074】
1つの望ましい実施形態では、電子ビームの照射後にチャンバ25を出た後、官能化基材30が酸素にさらされるのを長時間防ぐために、取り外し可能なキャリア層22及び取り外し可能なカバー層19が、剥離工程400に入る前の所定時間だけ官能化基材30表面に残ることを可能にする。望ましくは、取り外し可能なキャリア層22及び取り外し可能なカバー層19は、チャンバ25を出た後、官能化基材30表面に少なくとも15秒間、より望ましくは約30秒〜約60秒間残っている。しかし、グラフトの質を下げてしまうような時間の上限はなく、多層サンドイッチ構造27は、多層サンドイッチ構造27のバッチ加工用ロールが調製される場合のように、長期間にわたってそのままの状態であってもよい。一旦多層サンドイッチ構造27を分解すると、官能化基材30は任意の洗浄/すすぎ工程500に進むことができる。
【0075】
5.洗浄/すすぎ工程
任意の洗浄/すすぎ工程500では、官能化基材30は、すすぎチャンバ31で1回以上洗浄するか又はすすいで、いずれもの未反応モノマー、溶媒又は他の反応副生成物を官能化基材30から除去する。典型的には、官能化基材30は、すすぎ水、すすぎ用アルコール、すすぎ水及びすすぎ用アルコールの混合物、及び/又はすすぎ用溶媒(例えば、アセトン、MEKなど)を用いて最大で3回洗浄するか又はすすぐ。すすぎ用アルコールを使用する場合、すすぎ液は、1つ以上のアルコール(イソプロパノール、メタノール、エタノール、又は実用的に用いられ、またいずれかの残留モノマーの有効な溶媒であるいずれかの他のアルコールが挙げられるが、これらに限定されない)を含んでよい。それぞれのすすぎ工程では、官能化基材30は、すすぎ浴を通すか、又はすすぎ液を噴霧してもよい。
【0076】
6.乾燥工程
任意の乾燥工程600では、官能化基材30を乾燥させ、官能化基材30からいずれかのすすぎ溶液を除去する。典型的には、官能化基材30を比較的低いオーブン温度のオーブン32で所望の時間(本明細書では「オーブン滞留時間」と称する)乾燥する。オーブン温度は、典型的には約60℃〜約120℃の範囲であり、オーブン滞留時間は、典型的には約120秒〜約600秒の範囲である。
【0077】
いずれかの従来のオーブンを、本発明の任意の乾燥工程600で使用してもよい。適切なオーブンとしては、対流式オーブンが挙げられるが、これに限定されない。
【0078】
他の実施形態では、乾燥工程600を、洗浄/すすぎ工程500の前に行うことができ、グラフトされていない残渣の抽出の前に揮発性成分を除去する点にも留意するべきある。
【0079】
7.取り出し工程
任意の乾燥工程600の後に、乾燥した官能化基材30をロール33としてロール形態で取り出すことができる。官能化基材30は、将来の使用に備えてロール形態で保管してもよく、そのまますぐに使用してもよく、又はさらに加工して官能化基材30の表面特性をさらに変えてもよい。
【0080】
8.さらなる加工
1つの代表的な実施形態では、官能化基材30をさらに加工して、官能化基材30の表面特性を変える。この実施形態では、官能化基材30を、(i)官能化基材30の中間面と外表面に追加のグラフトモノマーをグラフトするか、(ii)官能化基材30の中間面と外表面から伸延するグラフト化種に追加のモノマーをグラフトするか、又は、(iii)(i)及び(ii)の双方を行なうために、第2の時間(又はそれ以上の時間)、代表的方法10のようなグラフトプロセスで加工する。例えば、1つの代表的な実施形態では、官能化基材30は、(a)フリーラジカル重合可能基と(b)少なくとも1つの追加の官能基(例えば、エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、イオン基、アルキレンオキシド基、又はこれらの組み合わせ)を有する少なくとも1つのグラフトモノマーを含む1つ以上のグラフトモノマーを溶媒に溶かした第1の溶液を多孔質ベース基材に吸収させ、第1の溶液を吸収した多孔質ベース基材に、線量を制御した電子ビームを照射して、多孔質ベース基材の中間面と外表面に1つ以上のグラフトモノマーをグラフトすることによって調製する。得られた第1の官能化基材をすすいで、いずれかの未反応のグラフトモノマーを除去し、(a)フリーラジカル重合可能基と(b)少なくとも1つの追加の官能基(例えば、エチレン系不飽和基、エポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、イオン基、アルキレンオキシド基、又はこれらの組み合わせ)を有する少なくとも1つのグラフトモノマーを含む1つ以上のグラフトモノマーを溶媒に溶かした第2の溶液を吸収させ、第2の溶液を吸収した第1の官能化基材に、線量を制御した電子ビームを照射して、第2の官能化基材を形成する。さらに改質した官能化基材30を、任意の洗浄/すすぎ工程(例えば、代表的方法10の代表的な洗浄/すすぎ工程500)及び任意の乾燥工程(例えば、代表的方法10の代表的な乾燥工程600)に進めることができる。
【0081】
さらなる代表的な実施形態では、官能化基材30を、さらに加工し(例えば、代表的方法10のようなグラフトプロセスを1回又は複数回行なった後)、官能化基材30を図2の代表的方法50に示されているようなプロセスに通すことによって、官能化基材30の表面特性をさらに変える。この実施形態では、官能化基材30が、官能化基材30のグラフト化種に沿って官能基と反応することができる1つ以上の反応物質を含有する溶液と接触する。図2には、ロール33から供給される官能化基材30が示されているが、図2に示されるプロセス工程は、図1に示されるプロセス工程が含まれる連続したプロセス工程で行なうことができる。
【0082】
図2に示されているように、代表的方法50は、官能化基材30をロール33から取り出し、官能化基材30を吸収工程100に導くことによって始まる。吸収工程100では、官能化基材30は、1つ以上の反応物質を含有する溶液13と接触する。反応物質は、官能化基材30のグラフト化種に沿った1つ以上の官能基(例えば、エポキシ基、エチレン系不飽和基、アズラクトン基、イソシアネート基又はイオン基、アルキレンオキシド基、或いはこれらの組み合わせ)と反応又は相互作用する化合物であってよい。例えば、求核基を有する化合物は、アズラクトン基、イソシアネート基、又はエポキシ基と反応することができ、又は、電荷を有する基を有する化合物はイオン基と相互作用することができる。ローラー15及び16が、官能化基材30が溶液13を通るように導き、官能化基材30を望ましい時間だけ溶液13と接触させる。典型的には、官能化基材30が溶液13中に滞留する時間は約1.0分未満である。
【0083】
溶液13中の各反応物質の濃度は、多くの要因(溶液13中の1つ以上の反応物質、望ましい表面改質度、及び使用溶媒を含むがこれらに限定されない)に応じて変えてよい。典型的には、溶液13中の各反応物質の濃度は、溶液13の総重量に対して約5重量%〜約100重量%の範囲である。
【0084】
一旦官能化基材30が溶液13を望ましい時間だけ吸収すると、官能化基材30は、ガイドローラー17を介して任意の加熱工程800に向かう。所望に応じて、吸収した官能化基材30から過剰の溶液13を計量するために、ガイドローラー17を使用してもよい。典型的には、官能化基材30は、実質的に飽和した状態(すなわち、官能化基材30が最大量又は最大量に近い溶液13を含む)で任意の加熱工程800に入る。
【0085】
図2には示されていないが、代表的方法50は、加熱工程800中に化学物質及び/又は溶媒キャリアの蒸発を防ぐために、溶液13を吸収した官能化基材30を取り外し可能な材料(例えば、非反応性ポリマーフィルム(例えばPET)を含む取り外し可能なキャリア層及び取り外し可能なカバー層)の間に挟む任意の工程を含むことができる。上述のものと同じ取り外し可能な材料をこの工程で使用することができる。取り外し可能なカバーの使用は、少なくとも一部の実施形態では、VOCの放出を最小限にし、燃焼してしまう危険性を減らすことができる。この実施形態では、剥離工程400と同様の剥離工程を、加熱工程800の後に続けてよい。
【0086】
9.加熱工程
任意の加熱工程800は、官能化基材30を加熱して、吸収工程100中に添加した反応物質と、官能化基材30のグラフト化種に沿った1つ以上の官能基との反応を促し、さらなる官能化基材35が作製されるようにする。典型的には、任意の加熱工程800中に、多くの要因(反応物質、ベースである多孔質ベース基材、グラフト化種に存在している官能基、及びオーブン36内での滞留時間が挙げられるが、これらに限定されない)に応じて、官能化基材30を、最大で約120℃のオーブン温度のオーブン36に入れる。典型的には、任意の加熱工程800で用いるオーブン温度は、30℃以上(望ましくは40℃以上、50℃以上、又は60℃以上)である。オーブン温度は典型的には約60℃〜約120℃の範囲である。典型的には、任意の加熱工程800中のオーブンでの滞留時間は、約60秒〜約1時間の範囲である。
【0087】
本発明の任意の加熱工程(例えば、代表的方法50の加熱工程800)では、従来のいずれかのオーブンを使用してもよい。適切なオーブンとしては、代表的方法10の任意の乾燥工程600で用いられる上述のオーブンが挙げられるが、これに限定されない。望ましくは、代表的方法50の任意の加熱工程800で用いるオーブンは、空気循環式オーブンを含む。
【0088】
一旦さらなる官能化基材35がオーブン36を出ると、官能化基材35は、上述のような任意の洗浄/すすぎ工程500及び任意の乾燥工程600を通過してもよい。任意の乾燥工程600の後に、乾燥した官能化基材35をロール37としてロール形態で取り出すことができる。さらなる官能化基材35は、将来の使用に備えてロール形態で保管してもよく、そのまますぐに使用してもよく、又は1つ以上の追加のプロセス工程(図示なし)でさらに加工してもよい。適切な追加のプロセス工程としては、コーティング組成物をさらなる官能化基材35に適用する反応工程又はコーティング工程、1つ以上の追加層をさらなる官能化基材35に一時的又は永久的に結合する積層工程、さらなる官能化基材35を1つ以上の追加の構成要素と組み合わせて最終製品(例えばフィルタアセンブリ)を作成する組み立て工程、さらなる官能化基材35又はさらなる官能化基材35を含む最終製品を所望の包装材(例えばポリエチレンフィルム又は袋)で包装する包装工程、又はこれらのいずれかの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0089】
B.プロセスパラメータ
本発明の官能化基材を作製する方法は、1つ以上のプロセスパラメータ(以下に記載されているプロセスパラメータが挙げられるが、それらに限定されない)によって表してよい。
【0090】
1.バッチプロセス対連続プロセス
本発明の官能化基材を作製する方法は、連続プロセス(例えば、図1に示されている代表的方法10)を用いて行なってもよく、又は上述の1つ以上のプロセス工程をそれぞれ別個に行なうバッチプロセスを用いて行なってもよいことに留意するべきである。望ましくは、官能化基材を作製する方法は、図1に示されている代表的方法10のような連続プロセスを用いて行なう。
【0091】
2.線張力
例えば代表的方法10などの連続プロセスを用いる場合、連続プロセスを通じて、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30を動かすために、1つ以上の駆動ロール(図示なし)を用いてもよい。1つ以上の駆動ロールは、ベースである多孔質ベース基材12及び官能化基材30に十分な張力をもたらして、ベースである多孔質ベース基材12及び官能化基材30を特定の装置を介して動かす。加工中に、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30の収縮及び/又は破断を防ぐのに適用するための張力の量を定める場合には、注意深く行なうべきである。ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30を運ぶために用いるキャリアウェブ(例えば、取り外し可能なキャリア層22)が強固な場合、基材自体に張力の負荷をかけることなく、張力の負荷を調整しやすくなる。
【0092】
本発明の代表的な連続グラフトプロセスでは、1つ以上の駆動ロールを、典型的には、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30を特定の装置を介して動かすために、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30の30cm(12インチ)幅のウェブに対して張力が22〜178ニュートン(5ポンド〜40ポンド)の範囲で操作し、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30の1cmあたりの線張力は0.7ニュートン〜5.9ニュートンである。1つの望ましい実施形態では、1つ以上の駆動ロールを、ベースである多孔質ベース基材12又は官能化基材30の1cmあたりの線張力が1.4ニュートン〜3.0ニュートンの範囲で操作する。
【0093】
3.ライン速度
本発明の代表的な連続グラフトプロセスでは、1つ以上の駆動ロールは、特定の装置を介して望ましいライン速度ももたらす。望ましくは、ベースである多孔質ベース基材12及び官能化基材30は、特定の装置内を介して少なくとも約1.52メートル/分(mpm)(5fpm)のライン速度で移動する。ある1つの望ましい実施形態では、ベースである多孔質ベース基材12及び官能化基材30は、特定の装置を介して約3.05mpm(10fpm)〜約30.5mpm(100fpm)の範囲のライン速度で移動する。
【0094】
C.官能化基材の変更された特性
さまざまな官能化基材を作製するために、官能化基材を作製する開示済みの方法を用いてもよい。官能化基材は、(i)エチレン系不飽和基、(ii)エポキシ基又は開環エポキシ連結基、(iii)アズラクトン基又は開環アズラクトン連結基、(iv)イソシアネート基、ウレタン連結基、又は尿素連結基、(v)イオン基、(vi)アルキレンオキシド基、又は(i)〜(vi)のいずれかの組み合わせから選択される少なくとも1個の基を備える。一部の実施形態では、官能化基材を作製する方法が、多孔質ベース基材の特性を変えることができる。
【0095】
官能化基材を作製するための上述の方法のいずれかでは、特定の官能化基材を形成するために、ベースである上述の多孔質ベース基材、グラフトモノマー、及び反応物質のうちのいずれかを用いてもよい。ベースである多孔質ベース基材は、微小多孔性膜のような多孔質膜、多孔質不織布ウェブ、又は多孔質繊維の形態である場合が多い。一部の実施形態では、ベースである多孔質ベース基材は、熱誘起相分離(TIPS)法によって形成された疎水性微小孔膜を含む。
【0096】
1.平均孔径の増大
一部の方法では、平均孔径を変えることができる。この方法は、平均初期孔径を有する多孔質ベース基材をもたらす工程と、(a)フリーラジカル重合可能基と(b)少なくとも1つの追加の官能基を有する少なくとも1つのグラフトモノマーが含まれる第1の溶液を多孔質ベース基材に吸収させる工程と、多孔質ベース基材に、線量を制御した電子ビームを照射して多孔質ベース基材の中間面と外表面に1つ以上のグラフトモノマーをグラフトする工程と、グラフトした多孔質ベース基材を30℃以上(望ましくは60℃以上)の熱サイクルにかける工程を含んでおり、この方法によって、平均最終孔径を有する官能化基材が得られ、この官能化基材の平均最終孔径は、多孔質ベース基材の平均初期孔径よりも大きい。この実施形態では、多孔質ベース基材は、微小多孔性膜であることが多い。例えば、微小多孔性膜は、TIPS膜のような疎水性微小多孔性膜にすることができる。
【0097】
孔径を増大させるための上述の方法の一部では、微小多孔性ベース基材の平均初期孔径(グラフト工程前)は、典型的には約0.6ミクロン〜0.9ミクロンの範囲であるが、グラフトされた微小多孔性ベース基材の平均最終孔径は、典型的には約0.7ミクロン〜約1.2ミクロンの範囲である。平均孔径のこのような増大は、微小多孔性膜に疎水性微小多孔性膜が含まれる場合、特に熱誘起相分離(TIPS)法によって形成した疎水性微小多孔性膜が含まれる場合に、特に顕著である。例えば、微小多孔性膜は、TIPS法によって作製したPVDFを含むことができる。
【0098】
平均孔径は、例えば、2個のフリーラジカル重合可能基を有するグラフトモノマーを用いた場合に、増大させることができる。理論によって束縛されたくはないが、これらの基の両方を多孔質ベース基材のグラフトは、基材表面に応力が生じて孔径が増大を生じてもよい。グラフトモノマーは、親水基をもたらすように選択する場合が多い。例えば、グラフトモノマーは、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであることができる。
【0099】
別の例では、平均孔径は、複数の求核基を有する求核性化合物と、1個以上のグラフト化種の官能基とを反応させてグラフト化種を架橋することによって増大することもできる。理論によって束縛されたくはないが、グラフト化種の架橋が、基材の表面に応力を生じてもよく、孔径の増大を生じる。求核性化合物は、親水基をもたらすように選択する場合が多い。例えば、ポリアルキレングリコールジアミン又はポリアルキレングリコールトリアミンを求核性化合物として用いることができる。
【0100】
さらに他の例では、平均孔径は、異なる種類のグラフトポリマーの組み合わせを用いて増大させることもできる。第1のグラフトモノマーは、2個のフリーラジカル重合可能基を含むことができ、第2のグラフトモノマーは、エポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、又はこれらの組み合わせである官能基を含むことができる。次に、第2のグラフトモノマーは、複数の求核基を有する求核性化合物と反応させることができる。求核性化合物は、1個超のエポキシ基、アズラクトン基、イソシアネート基、又はこれらの組み合わせと反応させることができ、複数のグラフト化種の架橋を生じる。第1及び第2のグラフトモノマーは、同じ吸収溶液を含有し、同時にグラフトすることもでき、又は別の吸収溶液に含有し、順次的な形でグラフトすることもできる。モノマーのグラフト順序は典型的には、重要ではない。グラフトモノマー又は求核性化合物の少なくとも1つは、親水性基を与えるように選択する場合が多い。
【0101】
2.親水性/疎水性特性
他の実施形態では、官能化基材を作製する方法は、多孔質ベース基材の疎水性の性質を変える。例えば、グラフト化種は親水基を含むことができる。他の例では、親水基のないグラフト化種を、親水基を含む求核性化合物と反応させることができる。さらに他の例では、第1のグラフト化種が親水基を含むことができ、親水基のない第2のグラフト化種を、親水基を含む求核性化合物と反応させることができる。
【0102】
官能化基材を作製する方法の一部では、グラフトモノマーは、2個のフリーラジカル重合可能基と親水基とを含む。例えば、疎水性多孔質ベース基材に親水性特性を付与するために、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートをグラフトモノマーとして用いることができる。これらのグラフトモノマーは、2個の(メタ)アクリル基と親水性ポリアルキレングリコール(すなわちポリアルキレンオキシド)基とを備える。TIPS膜のような微小多孔性膜の平均孔径を増大させるために、これらの同じグラフトモノマーを用いることができる。
【0103】
官能化基材が、エポキシ基、アズラクトン基、又はイソシアネート基を含むグラフト化種を備える場合、疎水性多孔質ベース基材に親水性特性を付与するために、官能化基材をさらに処理して、これらの官能基と複数の求核基を有する求核性化合物とを反応させることができる。いずれかの未反応求核基は、親水性官能化基材に寄与する傾向がある。代表的な求核性化合物の一部は、求核基に加え、ポリアルキレンオキシド基のような親水基を含む。例えば、ポリアルキレングリコールジアミン及びポリアルキレングリコールトリアミンのような求核性化合物は、複数のアミノ基を含むことができる。
【0104】
本発明は、疎水性多孔質ベース基材(例えば、疎水性微小多孔性膜)の利点の多くを有するが、官能化基材の表面上の永久的な親水性を有する官能化基材の形成を可能にする。本発明は、疎水性ポリマーから形成された多孔質ベース基材に関連する多くの既知の問題(例えば、湿度により膨張するという問題、加湿のない場合の脆弱性、機械的強度の低さ、並びに耐溶剤性、耐苛性性及び/又は耐酸性の低さが挙げられるが、これらに限定されない)を解消する。
【0105】
本発明は、特定の官能化基材を形成するために用いられる材料及び工程に応じてさまざまな親水性度を有する官能化基材の形成を可能にする。例えば、疎水性多孔質膜を親水性にして、親水性多孔質膜にエポキシ基をグラフトするように処理してよい。得られた親水性多孔質膜は、疎水基(例えばエポキシ基)がその上にグラフトされていても、親水性を維持する。得られた親水性多孔質膜は、親水性が維持し、エポキシ基が存在しているため、さらによく反応するようになる。
【0106】
本発明は上述され、さらに以下の実施例によって例示されているが、これらは決して、本開示の範囲を限定することを強制すると解釈すべきではない。むしろ、本明細書中の説明を読むことによって、本発明の精神及び/又は添付の請求項の範囲を逸脱することなく、当業者に示唆され得る様々な他の実施形態、修正、及びそれらの等価物を講じることができることが明確に分かるだろう。
【実施例】
【0107】
特に断りのない限り、溶媒及び試薬は全て、シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich Corp.)(ミズーリ州セントルイス)から得たか、又は得ることができる。
【0108】
「TIPS「A」フィルム」とは、厚みが約0.051mm(0.002インチ)であり、ガーレー空気流値(Gurley air flow value)が約7秒/空気50立方センチメートルであり、及び平均孔径が約0.7μmである微小多孔性ポリ(フッ化ビニリデン)フィルムを指す。このフィルムは、以下の仕様とともにPCT国際公開特許WO2005035641に記載されているように作製した。PVDFポリマーペレット(ソレフ1012(SOLEF 1012)、ソルベーソレキシス社(Solvay Solexis Co.)(ニュージャージー州スロフェア(Thorofare,NJ))を40mmの同方向回転2軸押出機のホッパーに5.8kg/時で入れた。粉末形態の核剤ピグメントブルー60(Pigment Blue 60)(PB60、クロモフタルブルーA3R(Chromophtal Blue A3R)、チバスペシャリティケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、スイス、バーゼル)を希釈剤、グリセリルトリアセテート(トリアセチン(TRIACETIN)、イーストマンケミカル社(Eastman Chemical Co.)、テネシー州キングズポート)と、核剤の最終濃度が0.25重量%になるように混合しておいた。このブレンドを、8つの領域を有する40mm軸押出機の4番目の領域に配置されている注入口に供給し、PVDFと溶融混合して均質溶液を形成させて、混合比PVDF/トリアセチン(TRIACETIN)/PB60は、42.0/57.75/0.25であった。2軸押出機を150RPM及び215℃(領域1)〜188℃(領域8)の低下温度プロフィールで操作した。溶融物を、2重クロムコートしたハンガースロットフィルムダイで押し出し、52℃に保った模様付きクロムロール上に鋳造し、4.1m/分で鋳造フィルムを形成した。このフィルムを7つの洗浄水タンクに連続的に供給し、トリアセチン(TRIACETIN)を除去した。次に、フィルムを5個のロールに連続的に供給し、流れ方向伸張装置(machine-direction stretching device)を60℃〜82℃の上昇温度プロフィール、及び伸張比約1.7:1に維持した。続けて、長さを伸張したフィルムを、99℃〜132℃の上昇温度プロフィールで、伸張比約2.2:1に維持した8個の領域を有する逆方向伸展装置(transverse-direction stretching device)に連続的に供給した。このフィルムを最終的な幅になるように切り離し、コアに巻きつけた。このフィルムの厚みは約50ミクロンであり、ガーレー空気流値は約7秒/空気50cmであり、平均孔径は約0.7ミクロンであった。
【0109】
「TIPS「B」フィルム」とは、平均孔径が約0.15μmである微小多孔性ポリ(フッ化ビニリデン)フィルムを指す。TIPS「B」フィルムは、TIPS Aフィルムの調製に用いるのと同様の方法を用いて調製した。
【0110】
「TIPS「C」フィルム」とは、平均孔径が約0.6μmである微小多孔性ポリ(プロピレン)フィルムを指す。TIPS「C」フィルムは、米国特許第4,726,989号及び同5,120,594号(これらはそれぞれミネソタ州セントポールの3M社(3M Company)に譲渡されている)の方法に従って調製した。
【0111】
「TIPS「D」フィルム」とは、平均孔径が約0.6μmである微小多孔性ポリ(エチレン)フィルムを指す。TIPS「D」フィルムは、米国特許第4,726,989号及び同5,120,594号(これらはそれぞれミネソタ州セントポールの3M社に譲渡されている)の方法に従って調製した。
【0112】
「EVOHフィルム」とは、米国特許第5,962,544号に従って調製したビニルアルコール68モル%及びエチレン32モル%の微小多孔性ポリ(ビニルアルコール−コ−エチレン)フィルムを指す。
【0113】
「MEK」とはメチルエチルケトンを指す。
【0114】
「GMA」とはグリシジルメタクリレートを指す。
【0115】
「PVDF」とはポリ(フッ化ビニリデン)を指す。
【0116】
「ジェフアミンXTJ−504(JEFFAMINE XTJ-504)」とは、テキサス州ヒューストンのハンツマン社(Huntsman Corp.)から入手可能なポリエーテルジアミンであるジェフアミンXTJ−504を指す。
【0117】
「ジェフアミンT−5000」とは、テキサス州ヒューストンのハンツマン社から入手可能なポリエーテルトリアミンであるジェフアミンT−5000を指す。
【0118】
「DETA」とはジエチレントリアミンを指す。
【0119】
「SR344」とは、ペンシルバニア州エクストンのサルトマー社(Sartomer Co.,Inc.)から得た平均分子量が約400g/モルのポリエチレングリコールジアクリレートを指す。
【0120】
「SR603」とは、ペンシルバニア州エクストンのサルトマー社から得た平均分子量が約400g/モルのポリエチレングリコールジメタクリレートを指す。
【0121】
「CD553」とは、ペンシルバニア州エクストンのサルトマー社から得たポリエチレングリコールアクリレートを指す。
【0122】
「APTAC」とは3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを指す。
【0123】
「AMPS」とは、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホネートを指す。
【0124】
「AETAC」とは、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロライドを指す。
【0125】
「デュラポア「A」フィルム」とは、マサチューセッツ州ビルリカのミリポア社からデュラポアHVLP14250という商品名で入手可能な親水性フィルムを指す。
【0126】
「デュラポア「B」フィルム」とは、マサチューセッツ州ビルリカのミリポア社からデュラポアHVHP14250という商品名で入手可能な親水性フィルムを指す。
【0127】
「PEG」とはポリエチレングリコールを指す。
【0128】
「PES「A」フィルム」とは、マサチューセッツ州ビルリカのミリポア社から入手可能なミリポアエクスプレス膜(MILIPORE EXPRESS MEMBRANE)GPWP1ポリエーテルスルホン膜を指す。
【0129】
「PES「B」フィルム」とは、ニューヨーク州イーストヒルズのポール社から入手可能なスポール200(SUPOR 200)ポリエーテルスルホン膜を指す。
【0130】
「ニラフロフィルム」とは、ニューヨーク州イーストヒルズのポール社から入手可能な孔径0.45μmの親水性ナイロン膜を指す。
【0131】
電子ビーム加工
マサチューセッツ州ウィルミントンのエネルギーサイエンス社(Energy Sciences,Inc.)から得たモデルCB−300電子ビームシステムを用いて電子ビームを照射した。照射のために、2枚のポリ(エチレンテレフタレート)フィルムの間にサンプルフィルムを定置した。
【0132】
他に指定のない限り、以下の手順を用いた。2枚の大きな面積の厚み3ミルのPETの間にサンプルフィルムを定置し、一端をテープでとめた。次に、このサンドイッチ構造を開き、サンプルフィルムをモノマー溶液で濡らし、このサンドイッチ構造を再び閉じた。サンドイッチ構造の表面にラバーローラーを静かにかけることによって、入り込んだ気泡を取り除き、余分な液体を搾り出した。このサンドイッチ構造をPETの移動ウェブにテープでとめ、速度6.1m/分(mpm)(20fpm)、電圧300keVで電子ビームプロセッサ通って移動させ、目標とする線量をもたらすようにカソードに十分なビーム電流をかけた。国際標準研究所(national standards laboratory)(RISO、デンマーク)で較正し、トレース可能な薄フィルム線量計を用いてビームを較正した。一部のケースでは、ビーム照射下で最終的な線量率を下げ、滞留時間を長くするために、ウェブ方向に延びているカソードを用いて、より長い暴露時間刺激して、電子ビームをより特徴的にするようにビームを複数回通すことによって線量をフラクション化した(すなわち、ブロードビーム(BroadBeam)など)。
【0133】
サンプルをビームに通過させた後、サンドイッチ構造をウェブから取り外し、また開く前に1分以上放置し、そのサンプルを取り出して水のトレイに浸した。トレイの水を3回替えた。次に、サンプルを紙タオルで拭き、風乾した。水で簡単には除去できない残りのモノマーを、MEK、アルコール、又は実施例で定められているような他の適切な溶媒で洗浄することによって抽出した。
【0134】
水分流動性試験
直径約47ミリメートル(mm)(1.85インチ)の試験フィルムのディスクをモデル4238ポールゲルマン磁気フィルターホルダー(Pall Gelman magnetic filter holder)(ニューヨーク州イーストヒルのポール社から入手可能)に置くことによって、水分流動性を割り出した。真空ポンプを取り付けたフィルターフラスコ上に、このフィルターホルダーを定置した。減圧ゲージを使用して減圧を監視した。水約150ミリリットル(mL)をフィルターホルダーに入れ、減圧した。水約50mLがフィルムを通過した後(減圧ゲージはこの時点で約533mmHg(約21インチHg)を指していた)、ストップウォッチでタイミングを測定した。残りの水が全部フィルムを通過した時、タイミング測定をやめた。水分流動性は、減圧0.83mmHgで水100mLが膜を通過するのにかかった時間(秒で測定)であった。
【0135】
平均孔径
湿潤性液体でサンプル膜の孔を同時に満たし、非反応性気体を用いて、膜の孔から液体置換することによって平均孔径を割り出した。自動化キャピラリーフローポロメーター(Automated Capillary Flow Porometer)モデル番号APP−1200−AEXとニューヨーク州イサカのポーラスマテリアル社(Porous Materials Inc.)(PMI)から供給されているソフトウェアのカプウィン(Capwin)バージョン6.71.54を用いて気体の圧力及び流速を正確に測定した。フロリナートFC−43(Fluorinert FC-43)(3Mから入手可能)を湿潤性液体として使用し、圧縮窒素ガスを、最大圧力の設定が689.5kPa(689.5キロニュートン/m(kN/m))(100psi)で交換用に使用した。湿潤時に開始し、乾燥時に停止する(wet up/dry down)ソフトウェア構成で試験を行なった。
【0136】
調製例1、PVDF不織布フィルムの調製
生産工学化学(Industrial Engineering Chemistry)のヴァン・A.ウェンテ(Van A.Wente)の「超微細熱可塑性繊維(Superfine Thermoplastic Fibers)」、第48巻、1342〜1346ページ(1956年8月)及び海軍研究試験所(Naval Research Laboratories)の報告書番号(Report No.)4364(1954年5月25日公開、名称「超微細有機繊維の作製(Manufacture of Super Fine Organic Fibers)」、ヴァンAウェンテ(Van A. Wente)ら)に記載されているものに類似の方法及び装置を用いて、メルトブローンPVDF超極細繊維不織布ウェブを調製した。
【0137】
PVDFポリマーペレット(ソレフ1012(SOLEF 1012)、ソルベーソレキシス社(Solvay Solexis Co.)(ニュージャージー州スロフェア(Thorofare,NJ))を使用して、溶融温度234℃及び質量流量0.35g/孔/分でメルトブローンウェブを作製した。0℃で101.3kN/m(1気圧)でダイ表面1mを1分あたり空気4.5立方メートルに相当する速度で移動し、360℃まで加熱した熱風を用いて繊維を弱めた。穿孔ドラムコレクターを用いてダイ表面から繊維を15センチメートル(cm)分集め、ウェブを作製した。作製したサンプルは、有効繊維直径が12.3ミクロン(μm)であった。このウェブの秤量は約50グラム/立方メートル(gsm)で、厚みは0.13cmであった。有効繊維直径は、C.N.デービス(Davies,C.N.)の「浮遊ダスト及び粒子の分離(The Separation of Airborne Dust and Particles)」、機械技術者協会(Institution of Mechanical Engineers)、ロンドン、会報1B、1952年(Proceedings 1B,1952)に記載されている方法に従って計算した。
【0138】
調製例2、EVOH不織布膜の調製
調製例1に記載の方法及び装置を用いて、メルトブローンEVOH超極細繊維不織布ウェブを調製した。EVOHポリマーペレット(ポバールC109B(Poval C109B)、クラレアメリカ社(Kuraray America Inc.)、レキシントンアベニュー600、ニューヨーク州ニューヨーク)を使用して、溶融温度240℃及び質量流量0.35g/孔/分で、メルトブローンウェブを作製した。0℃で101.3kPa(101.3kN/m)(1気圧)でダイ表面1mを1分あたり空気4.5立方メートルに相当する速度で移動し、285℃まで加熱した熱風を用いて繊維を弱めた。穿孔ドラムコレクターを用いてダイ表面から繊維を17cm分集め、ウェブを作製した。作製したサンプルは、有効繊維直径が35μmであった。このウェブの秤量は約150gsmで、厚みは0.21cmであった。2個の直径25cmの平滑なクロムスチールロール(70℃)の間で、1.5mpmでロール間の線方向のニップ圧18kg力/cmで操作してウェブをカレンダー加工した。得られたウェブの厚みは0.05cmであった。
【0139】
比較例1
TIPS「A」フィルムのサンプルをジェフアミンXTJ−504で飽和し、ガラスバイアルに入れて蓋をした。次に、バイアルを60℃まで1時間加熱した。バイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴が膜に吸収されないことを観察した。
【0140】
(実施例1〜3)
TIPS「A」フィルムの3サンプルをそれぞれ計量し、GMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、それぞれ線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、各サンプルを再び計量した。実施例1〜3のフィルムは、それぞれ重量が18.6%、19.0%、及び20.5%増えていることがわかった。これらのサンプルはいずれも吸水性ではなかった。3つのフィルムをそれぞれジェフアミンXTJ−504で飽和し、それぞれのフィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで1時間加熱した。バイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。次に、すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥させ、再び計量した。実施例1〜3のフィルムサンプルは、重量が約12%増えていることがわかった。処理した後、それぞれのフィルムサンプルは青色から灰色に変わった。水滴を各フィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムにすぐに(例えばほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。
【0141】
(実施例4)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで上述のように照射した。次に、フィルムサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで再び照射した。続いて、サンプルをMEKで抽出し、水で抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部をジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。このバイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。次に、すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。このフィルムサンプルの平均孔径を上述のように評価し、元のTIPS「A」フィルムの平均孔径よりも大きくなっていることがわかった。
【0142】
(実施例5)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで上述のように照射した。このサンプルの一部分を上述のように評価し、平均孔径の中心が約0.9μmであることがわかった。このフィルムサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、水で抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部分をジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。飽和したフィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。このバイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。ジェフアミンで処理した部分の平均孔径は1.1ミクロンであり、またサンプルの水分流動性を上述のように測定し、16.1秒であることがわかった。
【0143】
(実施例6)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR603の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。これによってフィルムを親水性にした。次に、フィルムサンプルをGMAの10重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。続けて、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。このサンプルは親水性のままであり、これをジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。このバイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。このフィルムサンプルの平均孔径を上述のように評価し、元のTIPS「A」フィルムの平均孔径よりも大きくなっていることがわかった。このフィルムの一部分は、フィルム表面に置かれた水滴をすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収することがわかった。
【0144】
(実施例7)
TIPS「A」フィルムのサンプルを、SR603及びGMAがそれぞれ20重量%含まれるメタノール溶液で飽和した。このフィルムを線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部分をジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。このバイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。このフィルムサンプルの平均孔径を上述のように評価し、元のTIPS「A」フィルムの平均孔径よりも大きくなっていることがわかった。このフィルムは、フィルム表面に置かれた水滴をすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収することがわかった。
【0145】
(実施例8)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKですすぎ、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部分をジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。このバイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。フィルムサンプルの平均孔径を上述のように評価し、平均孔径の中心が約0.8μmであることがわかった。
【0146】
比較例2〜4
一連のTIPS「A」フィルムサンプルの平均孔径を上述のように割り出した。1組のサンプル(比較例2)を線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し、1組のサンプル(比較例3)を線量100キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し、1組のサンプル(比較例4)をメタノールで飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。照射したサンプルの平均孔径を割り出し、照射する前のこれらのサンプルと本質的に同等であることがわかった。
【0147】
比較例5
TIPS「A」フィルムのサンプルの平均孔径を上述のように割り出した。次に、サンプルをオーブンで120℃まで加熱した。サンプルを室温まで冷却した後、サンプルの平均孔径を割り出し、加熱する前のサンプルと本質的に同等であることがわかった。
【0148】
(実施例9〜11)
TIPS「A」フィルムの3サンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和した。サンプルの1つを線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し(実施例9)、サンプルの1つを線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し(実施例10)、サンプルの1つを線量60キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した(実施例11)。各サンプルを水で3回すすぎ、それぞれ水に入れ、70℃で1時間加熱した。各サンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。照射したサンプルの平均孔径を割り出し、照射していないTIPS「A」フィルムの平均孔径よりも大きくなっていることがわかった。
【0149】
(実施例12〜14)
TIPS「A」フィルムの3つのサンプルをSR603の25重量%メタノール溶液で飽和した。サンプルの1つを線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し(実施例12)、サンプルの1つを線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射し(実施例13)、サンプルの1つを線量60キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した(実施例14)。各サンプルを水で3回すすぎ、それぞれ水に入れ、70℃で1時間加熱した。各サンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。照射したサンプルの平均孔径を割り出し、照射していないTIPS「A」フィルムの平均孔径よりも大きくなっていることがわかった。
【0150】
(実施例15)
デュラポア「A」フィルムのサンプル及びデュラポア「B」フィルムのサンプルそれぞれの平均孔径及び水分流動性を割り出した。デュラポア「B」フィルムのサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。このフィルムをジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで1時間加熱した。バイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。次に、すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。このサンプルの平均孔径及び水分流動性を上述のように割り出し、両方の値がこれらのデュラポア「A」フィルムと本質的に同等であることがわかった。
【0151】
(実施例16)
デュラポア「A」フィルムのサンプル及びデュラポア「B」フィルムのサンプルそれぞれの平均孔径及び水分流動性を割り出した。デュラポア「B」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。サンプルを水で3回すすぎ、それぞれ水に入れ、70℃で1時間加熱した。サンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。このサンプルの平均孔径及び水分流動性を上述のように割り出し、両方の値がデュラポア「A」フィルムと本質的に同等であることがわかった。
【0152】
(実施例17〜22)
実施例17〜22では、表3に示されているように、TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344又はSR603で飽和し、電子ビームで照射した。表3では、表に記載の線量で同じサンプルを連続して照射した(すなわち、2回以上照射した)ことを示すために、電子ビームの照射線量を間に「+」をはさんだ整数で示している。サンプルを照射した後、サンプルの第1の断片の水分流動性を上述のように測定した。サンプルの第2の断片を60℃のオーブンで1時間加熱し、サンプルを室温まで冷却した。サンプルの第2の断片の水分流動性を上述のように測定した。表3に、データを示す。表3では、「モノマー」という用語は、フィルムサンプルを飽和するのに使用したPEGジアクリレート(SR344)又はPEGジメタクリレート(SR603)を指し、「線量」という用語は、kGyで表される電子ビーム照射線量を指し、「流動性1」という用語は、サンプルの第1の断片の水分流動時間(秒)を指し、「流動性2」という用語は、サンプルの第2の断片(すなわち、60℃で1時間加熱した片)の水分流動時間(秒)を指す。
【0153】
【表3】

【0154】
(実施例23〜26)
実施例23、25及び26では、TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和した。実施例24では、TIPS「A」フィルムのサンプルをSR603の20重量%メタノール溶液で飽和した。表4に示すように、各サンプルを線量20kGyの電子ビームで照射した。次に、各サンプルをメタノールで洗浄し、乾燥した。続いて、実施例24及び26のフィルムをCD553の20重量%メタノール溶液で飽和した。続いて、実施例25のフィルムをCD553の10重量%メタノール溶液で飽和した。続いて、実施例23のフィルムをSR603の20重量%メタノール溶液で飽和した。続いて、表4に示すように、実施例24〜26のフィルムを線量20kGyの電子ビームで照射した。続いて、表4に示すように、実施例23のフィルムを線量40kGyの電子ビームで照射した。表4では、実施例23〜26それぞれで使用した2種類のモノマーの表記を「/」で分ける。表4では、各照射工程で列挙した電子ビームの線量を「−」で分ける。各サンプルをメタノールで洗浄し、乾燥した。サンプルを照射した後、サンプルの第1の断片の水分流動性を上述のように測定した。サンプルの第2の断片を60℃のオーブンで1時間加熱し、サンプルを室温まで冷却した。サンプルの第2の断片の水分流動性を上述のように測定した。表4に、データを示す。表4では、「モノマー」という用語は、フィルムサンプルを飽和するのに使用したPEG400ジアクリレート(SR344)又はPEG400ジメタクリレート(SR603)を指し、「線量」という用語は、kGyで表される電子ビーム照射線量を指し、「流動性1」という用語は、サンプルの第1の断片の水分流動時間(秒)を指し、「流動性2」という用語は、サンプルの第2の断片(すなわち、60℃で1時間加熱した片)の水分流動時間(秒)を指す。
【0155】
【表4】

【0156】
(実施例27)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルを室温で乾燥した。続いて、フィルムサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで再び照射した。続いて、サンプルをMEKで抽出し、水で抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部分を尿素20%水溶液で飽和し、60℃のオーブンで45分間加熱した。フィルムサンプルを取り出し、水で2回すすぎ、室温で乾燥した。次に、このサンプルの水分流動性を上述のように測定し、15.9秒であることがわかった。
【0157】
(実施例28)
TIPS「A」フィルムのサンプルをGMAの10重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、非吸水性フィルムサンプルをジェフアミンXTJ−504で飽和し、フィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。フィルムを含有するバイアルを60℃まで1時間加熱した。バイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすいだ。次に、すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。次に、このサンプルの水分流動性を上述のように測定し、15.5秒であることがわかった。
【0158】
(実施例29)
TIPS「A」フィルムのサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、フィルムをDETAで飽和し、このフィルムを60℃のオーブンに1時間置いた。サンプルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルをメタノールで2回すすいだ。次に、すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。続いて、このサンプルの水分流動性を上述のように測定し、16.0秒であることがわかった。
【0159】
比較例6
TIPS「B」フィルムのサンプルの水分流動性を上述のように測定し、6分よりも長いことがわかった。
【0160】
(実施例30)
TIPS「B」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをメタノールですすぎ、室温で乾燥した。サンプルの第1の部分の水分流動性を上述のように測定し、約5分であることがわかった。サンプルの第2の部分を60℃のオーブンで1時間加熱し、サンプルを室温まで冷却した。次に、サンプルの第2の部分の水分流動性を上述のように測定し、約3.5分であることがわかった。
【0161】
(実施例31)
室温で乾燥した実施例30のフィルムのサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプルの一部分をジェフアミンXTJ−504で飽和し、このフィルムをジップロックの袋(ZIPLOC bag)に入れ、密閉し、60℃の水浴に1時間置いた。サンプルを含有する袋を室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、メタノールで2回すすぎ、室温で乾燥した。次に、このサンプルの水分流動性を上述のように測定し、約2.5分であることがわかった。
【0162】
(実施例32)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。サンプルを水で3回すすぎ、室温で乾燥した。次に、フィルムサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。続いて、サンプルをMEKで抽出し、水で抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプル片を、DETAが16.7重量%とジェフアミンXTJ−504が16.7重量%との水混合物で飽和し、このフィルムを90℃のオーブンで15分間加熱した。サンプルを水で2回すすぎ、室温で乾燥した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。
【0163】
(実施例33)
デュラポア「B」フィルムのサンプルを、本質的には実施例32に記載されているように処理した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。
【0164】
(実施例34)
TIPS「A」フィルムのサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、サンプル片を、DETAが16.7重量%とジェフアミンXTJ−504が16.7重量%との水混合物で飽和し、90℃のオーブンに15分間置いた。サンプルを室温まで冷却し、その後、水で2回すすぎ、室温で乾燥した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。
【0165】
比較例7
TIPS「A」フィルムのサンプルをDETAで飽和した。次に、フィルムを65℃のオーブンで15分間加熱した。フィルムサンプルを水で2回すすいだ。すすいだフィルムサンプルを室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムに吸収されないことを観察した。
【0166】
(実施例35)
親水性EVOHフィルムのサンプルをAPTACの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。サンプルを水で3回すすぎ、室温で乾燥した。フィルムサンプルがまだ親水性であることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧してフィルムにポンソーS色素(Ponceau S dye)の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色であった。
【0167】
比較例8
フィルターフラスコのホルダーにEVOHフィルムを取り付け、減圧して、このフィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。次に、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色ではなかった。
【0168】
(実施例36)
約8秒間濡らしたPES「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをMEKですすぎ、室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置くと(つやのある(shinny)側が下で、このフィルムは表面薄層状の側面を備える)、水滴がフィルムサンプルによりすばやく(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。
【0169】
(実施例37)
PEB「B」フィルムのサンプルをAPTACの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルを水で3回すすぎ、室温で乾燥した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは明赤色であった。フィルムサンプルが片側に表面薄層を備えている場合、表面薄層はこれらの試験のときはホルダー内で下になるように置く。
【0170】
比較例9
フィルターフラスコのホルダーにPES「B」フィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。次に、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色ではなかった。
【0171】
(実施例38)
ニラフロフィルムのサンプルをAPTACの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、このサンプルを水で3回すすぎ、室温で乾燥した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続けて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色であった。
【0172】
比較例10
フィルターフラスコのホルダーにニラフロフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通過させることによって、フィルムに色素溶液を通過させた。次に、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは明るい桃色であった。
【0173】
(実施例39)
TIPS「C」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量10キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをメタノールですすぎ、室温で乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。
【0174】
(実施例40)
TIPS「C」フィルムのサンプルを、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射する以外は、本質的に実施例39に記載されるように処理した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。
【0175】
(実施例41)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR603の20重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、このサンプルをメタノールですすぎ、室温で乾燥した。続いて、フィルムをAMPSの20重量%水性メタノール溶液で飽和し、線量30キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。続いて、このフィルムを水ですすぎ、乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにメチレンブルー色素(Methylene Blue dye)の1重量%水溶液を通すことによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは青色であった。
【0176】
(実施例42)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR603の20重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、サンプルをメタノールですすぎ、室温で乾燥した。続いて、このフィルムをAPTACの20重量%水性メタノール溶液で飽和し、線量30キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。続いて、このフィルムを水ですすぎ、乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素(赤色色素)の1重量%水溶液を通すことによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色であった。
【0177】
(実施例43)
TIPS「A」フィルムのサンプルを、APTACの代わりにAETACを使用する以外は、本質的には実施例42に記載されているように処理した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。次に、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通すことによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色であった。
【0178】
(実施例44)
TIPS「A」フィルムのサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、このサンプルをMEKで抽出し、室温で乾燥した。続いて、まだ疎水性のサンプル片をジェフアミンT−5000の20重量%MEK溶液で飽和し、このフィルムをガラスバイアルに入れて蓋をした。濡れたフィルムを含有するバイアルを60℃まで45分間加熱した。バイアルを室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、水ですすぎ、2−プロパノールですすぎ、乾燥した。フィルムサンプルが水によって簡単に濡れることを観察した。
【0179】
(実施例45)
調製例1に従って調製したPVDF不織布フィルムのサンプルをAPTACの20重量%水性メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。次に、このサンプルを水で洗浄し、室温で乾燥した。続いて、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにポンソーS色素の1重量%水溶液を通すことによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、この不織布フィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは赤色であった。
【0180】
(実施例46)
TIPS「C」フィルムのサンプルを、ポルソーS色素溶液をフィルムに流す前に、フィルムをイソプロパノールで飽和する以外は、本質的には実施例35に記載されているように処理した。次に、このフィルムを水で十分に洗浄した後、フィルムは桃色であった。
【0181】
(実施例47)
TIPS「A」フィルムのサンプルをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで上述の様式で照射した。次に、このフィルムサンプルをGMAの20重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで上述の様式で再び照射した。続いて、このフィルムサンプルを瓶に入れ、亜硫酸ナトリウム10%、2−イソプロパノール15%及び水75%の溶液に浸した。瓶に蓋をし、80℃まで90分間加熱した。この瓶を室温まで冷却し、その後、フィルムサンプルを取り出し、水ですすぎ、乾燥した。水滴をフィルムサンプルの上に置き、水滴がフィルムサンプルにすぐに(すなわち、ほぼ瞬時に)吸収されることを観察した。次に、サンプルの水分流動性を上述のように測定し、23秒であることがわかった。続いて、フィルターフラスコのホルダーにこのフィルムを取り付け、減圧して、フィルムにメチレンブルー色素の1重量%水溶液を通すことによって、フィルムに色素溶液を通過させた。続いて、このフィルムを水で十分に洗浄した。この洗浄工程後に、フィルムは青色であった。
【0182】
(実施例48)
窒素を充填したグローブボックスで、TIPS「D」フィルムのサンプルを2−ビニル−4,4−ジメチルアズラクトン(TCIアメリカ(TCI America)、オレゴン州ポートランドから入手可能)で飽和した。飽和したフィルムをジップロック袋に移し、密閉し、グローブボックスから取り出した。次に、ジップロック袋中のフィルムサンプルを線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで照射した。続いて、このフィルムサンプルを袋から取り出し、室温で乾燥した。続いて、フィルムサンプルをFTIRで分析した。赤外スペクトルは、アズラクトン部分がフィルム表面に存在することを示すピークを示していた。
【0183】
(実施例49)
TIPS「D」フィルムのサンプルを、2−ビニル−4,4−ジメチルアズラクトンの代わりに2−イソシアネートエチルメタクリレートを用いる以外は、本質的には実施例48に記載されているように処理した。フィルムサンプルをFTIRで分析した。赤外スペクトルは、イソシアネート基がフィルム表面に存在することを示すピークを示していた。
【0184】
(実施例50)
調製例2に従って調製したPVDF不織布ウェブのサンプルに、メタノール68%、水8%及び(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ(Aldrich)から入手可能なAPTAC)24%を含む溶液を吸収させ、完全に飽和させて、厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)カバーシートの間に挟んだ。このサンドイッチ構造のサンプルを線量40キログレイ(kGy)(300kvで)の電子ビームで加工し、照射後少なくとも1分間は閉じたままにしておいた。このサンドイッチ構造を開け、処理したウェブを取り出し、脱イオン(DI)水のトレイで3分間すすいだ。
【0185】
処理した不織布ウェブの47mmディスクを0.0032Mメタニル黄色色素(Metanil Yellow dye)溶液(アルファーエイサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ワードヒル)から入手可能)16ml及び脱イオン水4mlとともに20mLバイアルに入れることによって官能性試験を行なった。このバイアルを12時間揺らすことによって攪拌し、色素溶液が、処理したディスクと確実に平衡状態になるようにした。結果は、負電荷を有する色素が、正電荷を有するAPTACがグラフトされたEVOH不織布に結合してウェブが橙色になり、バイアルに残った色素溶液はほとんど透明であった。色素をグラフトされた不織布繊維に結合した。APTACがグラフトされていないコントロールEVOHフィルムを同じ様式で試験した。溶液に残った色素の色強度に基づくと、色素はほとんど結合していないか、又は全く結合していなかった。結合した色素は、水ですすいでもウェブから落ちなかった。
【0186】
(実施例51)
調製例2に従って調製したPVDF不織布ウェブのサンプルに、メタノール52%、水24%及び(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩(AMPS)24%を含む溶液を吸収させ、完全に飽和させて、厚み100μmのPETカバーシートの間に挟んだ。このサンドイッチ構造のサンプルを線量40キログレイ(kGy)(300kvで)の電子ビームで加工し、照射後少なくとも1分間は閉じたままにしておいた。このサンドイッチ構造を開け、処理したウェブを取り出し、脱イオン水のトレイで3回すすいだ。
【0187】
処理した不織布ウェブの47mmディスクを0.0032Mキナルジン赤色色素溶液(TCI(日本、東京)から入手可能)16ml及び脱イオン水4mlとともに20mLバイアルに入れることによって官能性試験を行なった。このバイアルを12時間揺らすことによって攪拌し、色素溶液が、処理したディスクと確実に平衡状態になるようにした。結果は、正電荷を有する色素が、負電荷を有するAMPSがグラフトされたEVOH不織布に結合してウェブが紫色になり、バイアルに残った色素溶液はほとんど透明であった。色素を繊維でコーティングされた不織布に結合した。AMPSグラフトが接合していないコントロールEVOHフィルムを同じ様式で試験し、溶液に残った色素の色強度に基づくと、色素はほとんど結合していないか、又は全く結合していないことを示した。結合した色素は、水ですすいでもウェブから落ちなかった。
【0188】
(実施例52)
溶融物を金属表面に直接鋳造する場合に溶融表面で溶融物の塊よりも早く結晶化すること(すなわち、スキニング(skinning))が起こり得る「スキニング」の程度を最小限にするためにトリアセチンの薄層でコーティングした模様付きクロム鋳造ホイールで溶融物を鋳造することによって作製されたフィルム以外で、TIPS「A」フィルムのサンプルを使用した。このフィルム厚は約56μmであった。フィルム表面のわずかな皮膜は、流動性の低下が起こる前にグラフトできる量のAPTACモノマーに限定できる。
【0189】
このフィルムをSR344の10重量%メタノール溶液で飽和し、厚み100μmのPETカバーシートの間に挟み、線量20キログレイ(kGy)の電子ビームで上述の様式で照射した。少なくとも1分間待った後に、このサンドイッチ構造を開け、フィルムを取り出し、フィルムを脱イオン水(トレイ中)で2回すすぎ、乾燥した。次に、このフィルムサンプルをAPTAC(75%モノマー水溶液)の24重量%メタノール溶液で飽和し、線量40キログレイ(kGy)の電子ビームで上述の様式で再び照射した。少なくとも1分間待った後に、このサンドイッチ構造を開け、フィルムを脱イオン水(トレイ中)で3回すすぎ、風乾した。
【0190】
処理したPVDFウェブの47mmディスクを0.0016Mメタニル黄色色素溶液(アルファーエイサー(マサチューセッツ州ワードヒル)から入手可能)5ml及び脱イオン水3mlとともに8mLバイアルに入れることによって官能性試験を行なった。このバイアルを12時間揺らすことによって攪拌し、色素溶液が、処理したディスクと確実に平衡状態になるようにした。結果は、負電荷を有する色素が、正電荷を有するAPTACがグラフトされたPVDFフィルムに結合してウェブが緑色がかった色になり(もともとは青色)、色素溶液はほとんど透明であった。色素は膜に結合しており、水ですすいでも落ちなかった。
【0191】
本明細書を特定の実施形態について詳述してきたが、前述の事項を理解することにより、当業者がこれらの実施形態に対する変更、その変形、及びそれらの相当物を容易に想像できることは明らかである。それ故に、本発明の範囲は、添付の請求項及びそれらのあらゆる等価物の範囲と判定すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】本発明の官能化基材を作製する代表的な方法の工程を示す。
【図2】本発明の官能化基材を作製する代表的な方法の工程を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間面と外面を有する多孔質ベース基材と、
前記多孔質ベース基材の表面から延びているグラフト化種を備え、
前記グラフト化種の少なくとも1つが、(i)エチレン系不飽和基、(ii)エポキシ基又は開環エポキシ連結基、(iii)アズラクトン基又は開環アズラクトン連結基、(iv)イソシアネート基、ウレタン連結基、又は尿素連結基、(v)イオン基、(vi)アルキレンオキシド基、又は、(i)〜(v)のいずれかの組み合わせを含む物品。
【請求項2】
前記多孔質ベース基材が微小孔性である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記物品が親水性である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記グラフト化種が親水基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記多孔質ベース基材が、多孔質膜、多孔質不織布ウェブ、又は多孔質繊維を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記多孔質ベース基材が、微小孔性、熱誘起相分離膜を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記熱誘起相分離膜が、ポリ(フッ化ビニリデン)を含む、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記物品が、前記中間面と外面から伸延するグラフト化種がない同一の多孔質ベース基材よりも大きな平均最終孔径を有する、請求項6に記載の物品。
【請求項9】
請求項1に記載の物品であって、前記物品が親水性であり、中間面と外面にグラフト化種がない疎水性多孔質ベース基材を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記グラフト化種が、電子ビームの照射による、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと前記多孔質ベース基材の表面との反応生成物を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記グラフト化種が、電子ビームの照射による、グリシジル(メタ)アクリレートと前記多孔質ベース基材の表面との反応生成物を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記グラフト化種が、(a)エポキシ基、イソシアネート基、又は、アズラクトン基を含む第1のグラフト化種と、(b)求核基を含む求核性化合物との反応生成物を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記求核性化合物が、少なくとも2個の求核基を有しており、前記求核性化合物が、複数のグラフト化種と反応して前記グラフト化種を架橋する、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
(a)電子ビームの照射による、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと前記多孔質ベース基材の表面との反応生成物を含む第1のグラフト化種と、(b)エポキシ基、イソシアネート基、アズラクトン基、又はイオン基を含む第2のグラフト化種を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
(a)電子ビームの照射による、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートと前記多孔質ベース基材の表面との反応生成物を含む第1のグラフト化種と、(b)(i)エポキシ基、イソシアネート基、又はアズラクトン基を含むグラフト化モノマーと(ii)求核基を含む求核性化合物との反応生成物を含む第2のグラフト化種を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項16】
前記求核性化合物が、少なくとも2個の求核基を有しており、前記求核性化合物が、複数のグラフト化種と反応して前記グラフト化種を架橋する、請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記グラフト化種が、電子ビームの照射による、ポリエチレングリコールジアクリレート又はポリエチレンジメタクリレートと前記多孔質ベース基材の表面との反応生成物を含む、請求項1に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−522404(P2009−522404A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548583(P2008−548583)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/047956
【国際公開番号】WO2007/078878
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】