説明

定着器用ローラ

【課題】この発明は、揮発性有機化合物のベンゼンを発生して、環境を悪化しないようにしたシリコーンスポンジゴムを用いて、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの加熱定着装置からベンゼンが発生しないようにしたシリコーンスポンジ弾性体を有する定着器用ローラを得ようとするものである。
【解決手段】芯金の周囲にシリコーンスポンジ弾性体層を少なくとも一層設けた定着器用ローラにおいて、シリコーンスポンジ弾性体層が充填剤の分散促進剤としてフェニル基を含まない分散促進剤を使用し、かつフェニル基を含まないジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとした熱硬化性シリコーンゴム組成物を加硫、発泡させたシリコーンスポンジを用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真方式を用いた複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置で用いられる定着器用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置で用いられる加熱定着装置の定着器用ローラは、最近、省エネルギ化を図るために、内部にヒータを有する薄肉の中空芯金のロールを用いて、その肉厚を一層薄くすることで機器の立ち上がり時間を短くする方式が採用されている。
【0003】
また、ポリイミド樹脂のような耐熱性樹脂や金属で薄肉の定着ベルトを作成し、これをロール状にして表面にフッ素樹脂などの離型層を設け、その内側から加熱ヒータで加熱するようにした定着器用ローラも使用されている。
【0004】
これらの方式では、熱容量の少ない薄肉芯金や薄肉の定着ベルトを用いるために、機器の立ち上がり時間が短縮できる利点がある。しかし、機器の早い立上げには、さらに加熱定着に際して、定着器の加圧ローラが、定着用ロールや定着ベルトからの熱を奪うのを出来るだけ少なくするようにすることが好ましく、このために加圧ローラの表面に熱伝導率の低いシリコーンスポンジ層を形成し、その外表面に薄いフッ素樹脂層を設けた低熱伝導性の加圧ローラを使用することが行われている。
【0005】
こうした定着器用ローラの代わりに、上記と同じの薄肉の定着ベルトを、例えば逆三角形の三角に配置した駆動ローラを用いて走行させて、同じように別に設けた加熱装置を用いて加熱定着することも行われている。この場合は、薄肉の定着ベルトを走行させる駆動ローラと、これに用いる加圧ローラのいずれも、表面層に低熱伝導性のシリコーンスポンジ層を設けて低熱伝導性の定着器用ローラとすることが行われている。
【0006】
こうした定着用ローラにシリコーンスポンジ層を形成する方法は、次のように各種の方法が知られている。(a)加硫剤、発泡剤などを配合した熱硬化型シリコーンゴム組成物を連続的に押し出し、熱空気加硫装置を通過させることで加熱を行い、発泡,加硫させてシリコーンスポンジチューブを作成して、これを芯金に被覆する方法、(b)加硫剤、発泡剤が配合された熱硬化型のシリコーンゴム組成物を芯金周面に被覆し、芯金とともに金型で加熱することで、発泡,加硫と同時に芯金との接着も行い、シリコーンスポンジ層を形成する方法、(c)液状シリコーンゴムの硬化反応時に発生するガスによりシリコーンスポンジ層を形成する方法や、液状シリコーンゴムに発泡剤を配合してシリコーンスポンジ層を形成する方法、またはこれらを組合わせる方法、(d)シリコーンゴムに樹脂バルーンやガラスバルーンなどの中空バルーンを配合して低比重のシリコーンスポンジ層を形成する方法などである。中でも、熱硬化型シリコーンゴムを用いたシリコーンスポンジはその物性の高さから定着器用ローラには広く用いられている。
【0007】
これらで用いられる熱硬化型シリコーンゴム組成物は、一般にミラブルシリコーンゴムといわれるもので、ジオルガノポリシロキサンに加硫剤、補強性充填剤、増量充填剤、耐熱添加剤、着色剤、分散促進剤などを配合したものである。
【0008】
ジオルガノポリシロキサンとしては、メチル、フェニル、ビニル基を用いたものが一般的であるが、この中のフェニル基の量を5〜30重量%用いたメチルフェニルビニルシルキサンをベースポリマーとした熱硬化型シリコーンゴム組成物は、定着器用ローラに使用される離型剤としてのジメチルシリコーンオイルに対して膨潤性が小さいところから、定着器用ローラ、シリコンオイル塗布ローラ、定着ベルト駆動ローラなど、定着器用ローラとして使用されている。
【0009】
しかし、こうした通常の熱硬化型のシリコーンゴム組成物から製作されたシリコーンスポンジゴムを用いた定着器用ローラでは、シリコーンゴムからベンゼンが発生して従来から問題とされていた。特に、定着器用ローラの使用温度が140℃以上になると、ベンゼンの発生が多くなるといった問題が生じていた。
【0010】
ところで最近は、環境問題が複写機、プリンタ、ファクシミリなどのOA機器についても及び、VOC(volatile organic compound,揮発性有機化合物)に対する規制が厳しくなる中で、こうした機器でのベンゼン発生に対する規制が厳しくなってきている。そこで、こうした問題を解消するために、ポストキュアといわれる後加熱処理を長時間行って、ベンゼンの除去とその後のベンゼン発生量を抑制する試みが行われている。
【0011】
しかしながら、この方法ではベンゼン発生量を測定することができなくなるように、実質的に無くすまで抑制することはできず、また使用の初期では確かにベンゼンの発生を抑えることができても、その後比較的短時間のうちに、再びベンゼンの発生量が多くなって、後加熱しないローラとベンゼン発生量で大差なくなってしまい、有効な手段といえるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は、揮発性有機化合物のベンゼンを発生して、環境を悪化しないようにしたシリコーンスポンジゴムを用いて、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの定着装置からベンゼンが発生しないようにしたシリコーンスポンジ弾性体を有する定着器用ローラを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、芯金の周囲にシリコーンスポンジ弾性体層を少なくとも一層設けた定着器用ローラにおいて、シリコーンスポンジ弾性体層が充填剤の分散促進剤としてフェニル基を含まない分散促進剤を使用し、かつフェニル基を含まないジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとした熱硬化性シリコーンゴム組成物を加硫、発泡させたシリコーンスポンジを用いたことを特徴とする定着器用ローラ(請求項1)、前記シリコーンスポンジ弾性体層の最外層に、離型層として20〜70μmのフッ素樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1記載の定着器用ローラ(請求項2)である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、複写機、プリンタ、ファクシミリなどで用いられる加熱定着装置の定着器用ローラの芯金周面に設けたシリコーンスポンジ弾性体に、ベンゼンが発生しないシリコーンスポンジを使用したので、このOA機器を使用することで同機器の定着器用ローラからベンゼンの発生を抑制することができ、環境の悪化を抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、複写器などの定着装置1の構成を概略で示したものである。定着装置1は、定着器用ローラ2とこれに周面で摺接している加圧ローラ3とからなり、定着器用ローラ2と加圧ローラ3の間をトナー4が文字,図形などを描いて付着された紙5が矢印方向に移動し、その間に定着器用ローラ2の加熱ヒータ11がこれを加熱して、紙5の上にトナー4が溶着されるものである。
【0016】
定着器用ローラ2は、ベルトの中空ローラ10で内部にヒータ11を内蔵したものである。加圧ローラ3は、芯金15の周囲にシリコーンスポンジ弾性層16を一層或いは複数層形成したものである。この発明では、加熱定着を行う定着用ローラと加圧ローラを含めて定着器用ローラとする。
【0017】
この発明では、定着器用ローラのシリコーンスポンジ弾性層16として、フェニル基を含まないジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとした熱硬化型シリコーンゴム組成物を加硫、発泡させてシリコーンスポンジとし、また充填剤の分散促進剤としては、フェニル基を含まない分散促進剤を使用したものである。
【0018】
熱硬化型シリコーンゴム組成物にメチルフェニルビニルシルキサンをベースポリマーとして使用したシリコーンスポンジは、高温時劣化,分解によってフェニル基からベンゼンが徐々に発生することが見出され、フェニル基を用いないポリシロキサンを使用することによってベンゼンの発生を抑制することが出来るようになったものである。
【0019】
しかしながら、さらに実験を行った結果、メチルフェニルビニルシロキサンを使用しないシリコーンゴム組成物を用いても、なお若干のベンゼンの発生が認められるので、ベンゼンの発生をさらに抑制することが必要であることが認められた。そこで、発明者らは、シリコーンスポンジ組成物に使用される加硫剤、補強性充填剤、増量充填剤、耐熱添加剤、着色剤、分散促進剤などについて調べたところ、分散促進剤としてフェニル基を用いないものを使用することでベンゼンの発生を、測定できない値まで少なくしたシリコーンスポンジを用いた定着器用ローラとすることができることを見出しものである。
【0020】
充填剤の分散促進剤は、一般に「ウェッター」といわれるもので、補強性充填材などの分散性を改良し、物性の強化、加工性の改良のためにシリコーンゴム組成物の製作時に添加されるものである。シリコーンレジン類、アルコキシシラン及びシロキサン類、ヒドロキシシラン類、シラザン類、多価アルコール類などが用いられており、代表的なものとしてジフェニルシランジオールなどのフェニル基を含むシラン類がある。特に、高強度が要求される熱硬化型シリコーンゴムでは、補強性充填剤の分散の促進による高強度の保持と加工性の改良のために広く用いられているものである。
【0021】
分散促進剤の使用方法としては、補強性充填材の配合とともに、シリコーンゴムベースポリマーに加えられた後に加熱処理を行い組成物とする方法、予め補強性充填剤と混合して加熱処理して補強性充填剤表面と反応させてから、これをシリコーンゴムベースポリマーに添加して組成物とする方法などがある。
【0022】
本発明で用いられる熱硬化型シリコンゴムに配合される加硫剤、補強性充填剤、増量充填剤、耐熱添加剤、着色剤などは特に限定されるものではなく、通常の熱硬化型シリコーンゴム組成物に配合されるものの使用で問題ないが、高温での使用中に分解してベンゼンを発生させる可能性がないことを十分確認してから使用することが必要である。
【0023】
本発明の定着器用ローラは、シリコーンスポンジ弾性体層の外周に離型層としてフッ素樹脂層を設けることが好ましい。これは、特に薄肉のチューブ状に製作しやすいPFA樹脂(perfluoro‐alkoxyfluoro plastics)を用いるのが好ましく、PFA樹脂の厚さは20〜70μmであることが好ましい。PFAの厚さが20μm未満では使用中の磨耗でチューブに穴があく恐れがあり、70μmを超えると内側のシリコーンスポンジ層の軟らかさを阻害する恐れがある。
【0024】
図2は、ポリイミド樹脂の薄肉の定着ベルトを用いて、これをロール状にして表面にフッ素樹脂などの離型層を設けてロールとしたものである。その内側から加熱ヒータ22で加熱するようにした定着器用ローラ21を使用し、加圧ロールは図1と同様のものを用いたものである。
【0025】
また、図3は、図2で用いたポリイミド樹脂の薄肉の定着ベルトと同様の定着ベルト31を、図3に示すように略逆三角形に配置した駆動ローラ32,33,34を用いて走行させるようにしたもので、これでもって図1或いは図2の定着用ローラの代わりとするものである。この際、加圧ロール3も図1と同様のものを用いたものである
この場合、駆動ローラ32,33,34は、加圧ローラ3と同じように、芯金の周囲にシリコーンスポンジ弾性層を一層或いは複数層形成したものとすることができる。ここにおけるスポンジ弾性層は、加圧ローラと同様に、シリコーンスポンジ弾性体層が充填剤の分散促進剤としてフェニル基を含まない分散促進剤を使用し、またフェニル基を含まないジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとした熱硬化性シリコーンゴム組成物を加硫、発泡させたシリコーンスポンジを用いるものである。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
メチルビニルポリシロキサンをベースポリマーとして、これに補強用充填剤を加え、さらに分散促進剤としてフェニル基を含まない分散促進剤を加えた熱硬化型シリコーン(商品名KE651U,信越化学工業(株))を100重量部準備した。これにパラメチルベンゾイルパーオキサイド0.5重量部、ジクミルパーオキサイド1.0重量部、発泡剤アゾビスイソブチロニトリル1.5重量部、着色剤ベンガラ0.5重量部を配合して練り加工を行い、熱硬化型シリコーンゴムスポンジの原料組成物とした。この組成物を押出機にて連続的に押出した直後に、280℃の熱空気加硫装置内を20分通し加硫、発泡を行った。その後、これを長さ300mmに切断し、内径15mm、外形30mmのシリコーンスポンジチューブを作成した。
【0027】
このスポンジを200℃のオーブン中で10時間加熱し低分子量物質や分解生成物の除去を行った。別に、表面を脱脂処理した径16mmの鉄材芯金41(図4)の周面に、接着剤として自己接着タイプ液状シリコーンゴム(商品名TSE322,GE東芝シリコーン(株))を薄く塗布し、図4に示すように前記シリコーンスポンジのチューブに挿入した。
【0028】
その後、これを1300℃で2時間加熱して硬化し、接着させて芯金41にシリコーンスポンジを接着させた。その後、冷却して外径を28mmになるように研磨して最終的にシリコーンスポンジ層42とした。このスポンジ層表面に自己接着タイプ液状シリコーンゴム(商品名x−32−1934,信越化学工業(株))を接着剤として薄く塗布し、内径27.0mm、厚さ50μm、で内面を化学的に処理したPFAチューブ43に挿入した。次いで、これを150℃で2時間加熱してPFAチューブを接着させ、この発明の定着器用ローラ45とした。
【0029】
この定着器用ローラのシリコーンスポンジ層42からサンプル2gを取り出し20mlのバイアル瓶に採取し、190℃で1時間加熱し、発生ガス1mlをヘッドスペースGC/MS法で計測してベンゼン発生量を測定したが、0.1μg/g以下で検知できなかった。
【0030】
(比較例1)
実施例1のベースポリマーのオルガノ基量の約15%をフェニルにしたメチルフェニルビニルポリシルキサンを用いて、フェニル基を含んだ分散促進剤を使用して製造した熱硬化型シリコーンゴムに、実施例1と同じ配合と製作方法でシリコーンスポンジチューブを作成し、同じようにして定着器用ローラを得た。この定着用ローラのシリコーンスポンジ層についても実施例1の方法でベンゼン量を測定したところ、5.3μg/gのベンゼン発生量であった。
【0031】
(比較例2,3)
ベースポリマーとして、メチルビニルポリシロキサンを使用し、分散促進剤としてフェニル基を含む分散促進剤を使用した熱硬化型シリコーンゴム(商品名KE904FU,信越化学工業(株))で、実施例1と同じ方法でシリコーンスポンジチューブを製作し、実施例1と同じ後加熱処理200℃で10時間行って、比較例2の定着器用ローラを得た。
【0032】
比較例2のシリコーンスポンジの後加熱処理を220℃で100時間の長時間処理を行い、比較例3の定着器用ローラを得た。この定着器用ローラについても実施例1と同様のベンゼン量を測定したところ、比較例2の定着器用ローラでは1.7μg/g、比較例3の定着器用ローラでは0.4μg/gのベンゼン発生量であった。実施例1、比較例1ないし3をまとめて表1に示した。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施例になる定着器用ローラを用いた定着装置の概略説明図。
【図2】この発明の他の実施になる定着器用ローラを用いた定着装置の概略説明図。
【図3】この発明の他の実施になる定着器用ローラを用いた定着装置の概略説明図。
【図4】この発明の実施に用いられる定着器用ローラの側面を示す説明図。
【符号の説明】
【0035】
1……定着装置、2,22……定着器用ローラ、3……加圧ローラ、4……トナー、5……紙、11,22……ヒータ、10,15……芯金、16……シリコーンスポンジ弾性層、31……定着ベルト、32,33,34……駆動ローラ、41……鉄材芯金、42……シリコーンスポンジ層、43……PFAチューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金の周囲にシリコーンスポンジ弾性体層を少なくとも一層設けた定着器用ローラにおいて、シリコーンスポンジ弾性体層が充填剤の分散促進剤としてフェニル基を含まない分散促進剤を使用し、かつフェニル基を含まないジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとした熱硬化性シリコーンゴム組成物を加硫、発泡させたシリコーンスポンジを用いたことを特徴とする定着器用ローラ。
【請求項2】
前記シリコーンスポンジ弾性体層の最外層に、離型層として20〜70μmのフッ素樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1記載の定着器用ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−350118(P2006−350118A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178210(P2005−178210)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000142436)株式会社金陽社 (25)
【Fターム(参考)】