説明

定着装置および画像形成装置

【課題】低温環境下等におけるスイッチング素子の破壊を確実に防止でき、低温環境下でも安定して速やかに使用可能状態にできる定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】スイッチング素子Q1、Q2は、直流電力を高周波電力に変換して電磁誘導コイル231に供給する。電磁誘導コイル231は、定着ローラ210の導電層213に誘導電流を発生させて昇温する。スイッチング駆動部421は、スイッチング素子Q1、Q2のオン状態およびオフ状態を、予め設定された駆動周波数範囲内に属する所定の駆動周波数で切り替える。異常検知部422は、スイッチング駆動部421による駆動により想定されるスイッチング素子Q1、Q2の動作と、スイッチング素子Q1、Q2の現実の動作との不一致を検知する。駆動周波数範囲変更部423は、異常検知部422が不一致を検知した場合、駆動周波数範囲の下限値を高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱方式の定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機、複合機(MFP:Multi Function Peripheral)等の、電子写真方式により画像データを用紙上に印刷する画像形成装置において使用される定着装置として、誘導加熱方式の定着装置が採用されている。当該定着装置は、用紙上に転写されたトナー像を加熱して溶融させるとともに用紙上に圧着する。
【0003】
誘導加熱方式の定着装置は、電磁誘導コイルと共振コンデンサとを有する共振回路と、当該共振回路に接続されたスイッチング素子とを備える。スイッチング素子は、オン状態とオフ状態とを切り替えるスイッチング動作を繰り返すことで直流電力から擬似高周波を生成し、当該擬似高周波を共振回路に供給する。当該擬似高周波に応じて電磁誘導コイルが交番磁場を生成し、当該交番磁場によって導電性の発熱部材に渦電流が流れる。当該渦電流により発生するジュール熱により発熱部材が加熱される。共振回路およびスイッチング素子に供給される直流電力は、商用交流電源を整流することにより生成される。
【0004】
このような誘導加熱方式の定着装置は、電磁誘導コイルへの電力供給および電力供給停止を切り替えることにより、用紙に熱を与える定着ローラの温度を適正範囲内に保持することができる。この種の定着装置では、安定した温度制御を実現するための種々の技術が提案されている。
【0005】
例えば、後掲の特許文献1は、発熱部材の表面温度を検出する温度検出手段の検出温度に基づいて、電磁誘導コイルに供給する高周波電流を制御する制御手段を備える誘導加熱定着装置を開示している。特許文献1は、この構成により、発熱部材の表面温度の上昇に伴って発熱部材の抵抗が増加しても、発熱部材の表面温度に基づいて、高周波電流の周波数、インバータ回路への入力電圧を制御することで、電磁誘導コイルへの供給電力を一定に保持できるようにしている。
【0006】
また、後掲の特許文献2は、電磁誘導コイルと共振用コイルとを和動接続して構成したコイルに共振コンデンサを並列接続した共振回路を備える構成を開示している。この構成により、共振回路のQ値(Quality factor)を大きくしてスイッチング素子におけるスイッチング損失を少なし、発熱部材の加熱時間を短縮できるようにしている。
【0007】
さらに、後掲の特許文献3は、両波整流ブリッジによって平滑化された直流電圧の電圧変動を検知し、予め指定された変動量を超える電圧変動を検出した場合は、スイッチング素子のスイッチング動作を停止させ、停止後は、スイッチング素子の通電電圧を徐々に上昇させて復帰させる技術を開示している。この構成により、商用交流電源に雷サージの重畳や瞬間停電による電圧変動が発生しても、スイッチング素子の破壊を回避できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−061650号公報
【特許文献2】特開2008−103307号公報
【特許文献3】特開2004−266890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電磁誘導コイルと共振コンデンサとを有する共振回路と、当該共振回路に接続されたスイッチング素子とを備える定着装置では、スイッチング素子のオン状態とオフ状態とを切り替える周波数(以下、駆動周波数という。)を、共振回路の共振周波数の近傍設定した場合に効率よく電磁誘導コイルに電力を投入することができる。
【0010】
また、発熱部材の発熱量は渦電流の2乗に比例し、渦電流は電磁誘導コイルに流れる高周波電流に比例する。そのため、電磁誘導コイルにより多くの高周波電流を流すと、発熱部材の発熱量は大きくなる。インダクタンス値Lを有する電磁誘導コイルに流れる高周波電流I(周波数f)は、誘導性リアクタンスXL(=2πfL)に反比例する。そのため、駆動周波数を低くして誘導性リアクタンスXLを小さくすることで電磁誘導コイルにより多くの高周波電流Iを流すことができる。すなわち、駆動周波数が低いほど、発熱部材の発熱に使用される電力が大きくなる。
【0011】
以上のことから、誘導加熱方式の定着装置では、共振回路の共振周波数は、駆動周波数の可変範囲の低周波数側に設定され、発熱部材の発熱量を小さくする場合には、共振回路の共振周波数から高周波数側に離れた駆動周波数によりスイッチング素子を駆動する制御が行われる。また、発熱部材の発熱量を大きくする場合は駆動周波数を低下させて共振回路の共振周波数近傍の駆動周波数によりスイッチング素子を駆動する制御が行われる。
【0012】
一方、画像形成装置は、摂氏0度等の低温環境下においても動作することが求められている。このような低温環境下において、画像形成装置を短時間で使用可能な状態にするには、定着装置の発熱部材を所定温度まで速やかに昇温することが必要になる。この場合、低い駆動周波数によりスイッチング素子を駆動し、電磁誘導コイルにより多くの高周波電流を流す制御が行われることになる。
【0013】
しかしながら、電磁誘導コイルのインダクタンスLは温度依存性を有しており、低温環境下では低インダクタンスになる。そのため、低温環境下では常温環境下に比べて電磁誘導コイルの誘導性リアクタンスXLが小さくなり、より多くの高周波電流Iが流れることになる一方、インダクタンスLの低下により共振回路の共振周波数f0=1/2π(LC)1/2は大きくなる。すなわち、低温環境下において、発熱部材の発熱量を大きくすることを目的としてスイッチング素子の駆動周波数を低下させる制御を行うと、駆動周波数が共振回路の共振周波数f0よりも低くなる状況が発生し得る。この場合、スイッチング素子の駆動周波数を低下させる制御は、共振周波数f0から離れた駆動周波数でスイッチング素子を駆動する制御になる。当該状態では、スイッチング素子の電圧と電流のスイッチング損失が大きくなる状態(いわゆる、ハードスイッチング動作状態)になることが避けられない場合がしばしば発生する。駆動周波数が低く共振回路に大きな高周波電流が流れる状況下でこのようなスイッチング損失が発生すると、スイッチング損失に起因して発生するジュール熱によりスイッチング素子が破壊に至ってしまう。
【0014】
また、スイッチング素子が擬似高周波を生成する際に使用される直流電圧が低下した場合にも同様の問題が発生する。図8は、発熱部材における発熱(シュール熱の発生)に使用される高周波電力の駆動周波数依存性の一例を示す図である。図8では、スイッチング素子が擬似高周波を生成する際にスイッチング素子に印加される直流電圧をパラメータとして変化させている。なお、図8において、横軸は駆動周波数に対応し、縦軸は高周波電力に対応する。
【0015】
図8から理解できるように、同一の駆動周波数において直流電圧が低下すると、発熱部材に供給される電力が著しく小さくなる。このとき、発熱部材に供給する電力を維持するためには、駆動周波数をより小さくする制御が必要になる。例えば、直流電圧100Vの場合、駆動周波数f2において出力電力P0が得られるとする。この場合、直流電圧が95Vに低下すると、駆動周波数をf1(f1<f2)にしなければ、同一の出力電力P0は得られない。このような制御が、例えば、低温環境下で発生すると、スイッチング素子の破壊がより発生しやすくなる。
【0016】
このようなスイッチング素子の破壊は、例えば、駆動周波数が共振周波数よりも低い周波数に設定されないように駆動周波数の可変範囲に下限値を設定することで防止できるかもしれない。しかしながら、このような下限値は共振周波数の温度依存性や装置ごとの特性ばらつきを考慮したマージンを設けて設定する必要がある。すなわち、低温環境下における共振周波数よりもかなり高い周波数を下限値としなければならない。このような設定では、例えば、高温環境下において、電磁誘導コイルが高インダクタンスになり共振周波数が低下した状況下では、駆動周波数は、その共振周波数から大きく離れたところに設定されてしまう。つまり、共振系が発熱部材により大きな電力を投入できる能力を有しているにもかかわらず、小さな電力しか投入しない非効率な状態になる上、使用することのない過大な電力を出力できる能力を有する共振系を設けなければならないため、コスト高になるという問題がある。
【0017】
また、上述の特許文献1、2が開示する技術では、電磁誘導コイルへの安定した電力供給が可能になったり、加熱時間の短縮が可能になったりするかもしれないが、低温環境下あるいは電圧低下時に、上述の現象が発生した場合のスイッチング素子の破壊を回避することはできない。また、特許文献3が開示する技術では、電圧低下時には、スイッチング素子の破壊を防止することは可能であるが、低温環境下において、電源電圧が安定している場合には、上述の現象が発生した場合のスイッチング素子の破壊を回避することはできない。また、電源にノイズが頻繁に重畳する環境下では、頻繁にスイッチング動作が停止するため、安定した動作を実現することができないという問題も有している。
【0018】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、低温環境下等におけるスイッチング素子の破壊を確実に防止することができ、低温環境下でも安定して速やかに使用可能状態にできる、定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の目的を達成するために、本発明に係る定着装置は以下の技術的手段を採用している。本発明は、誘導加熱方式の定着装置であって、発熱部材、共振回路、スイッチング素子、スイッチング駆動部、異常検知部および駆動周波数範囲変更部を備える。共振回路は、電磁誘導コイルと共振コンデンサとを有する。この電磁誘導コイルは、発熱部材に近接して配置され、発熱部材に誘導電流を発生させる。スイッチング素子は、直流電力を高周波電力に変換して電磁誘導コイルに供給する。スイッチング駆動部は、スイッチング素子のオン状態(導通状態)およびオフ状態(遮断状態)を、予め設定された駆動周波数範囲内に属する所定の駆動周波数で切り替える。異常検知部は、スイッチング駆動部による駆動により想定されるスイッチング素子の動作と、スイッチング素子の現実の動作との不一致を検知する。駆動周波数範囲変更部は、異常検知部が上記不一致を検知した場合、スイッチング駆動部に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする。
【0020】
この定着装置によれば、低温環境下等において、スイッチング駆動部による駆動により想定されるスイッチング素子の動作と、スイッチング素子の現実の動作との不一致が検知されると、スイッチング駆動部に設定された駆動周波数範囲の下限値が自動的に高くなる。これにより、スイッチング素子の破壊を確実に防止することができる。また、本構成では、スイッチング素子が破壊する可能性のある場合のみ、駆動周波数範囲の下限値を高くして電力投入能力を抑制する構成であるため、常温環境下や高温環境下などでは、電力投入能力を抑制することなく発熱部材に電力を供給することができる。その結果、周囲の温度環境に関わらず、安定して動作させることができる。
【0021】
上記定着装置において、異常検知部は、例えば、オン状態とオフ状態とで電位が変動する前記スイッチング素子の出力端子の電位に基づいて上記不一致を検知する構成を採用することができる。また、駆動周波数範囲変更部は、駆動周波数範囲の下限値を段階的に高くする構成であってもよい。
【0022】
さらに、発熱部材が予め指定された温度に到達したとき、あるいは、異常検知部により上記不一致が検出されない状態でスイッチング駆動部によるスイッチング素子の駆動が予め指定された期間継続したときに、駆動周波数範囲変更部は、変更した駆動周波数範囲の下限値を変更前の値に変更する構成を採用することもできる。これにより、発熱部材による発熱により周囲温度が上昇して、共振回路の共振周波数が低下した場合に、自動的に電力投入能力の抑制を解除することができる。
【0023】
また、上記定着装置において、電源電圧を検出する電圧検出部をさらに備え、電圧検出部が電源電圧の低下を検知した場合、駆動周波数範囲変更部が、スイッチング駆動部に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする構成を採用することもできる。この構成では、電源電圧の低下により、スイッチング駆動部による駆動により想定されるスイッチング素子の動作と、スイッチング素子の現実の動作とが不一致を発生することが予測される場合に、その発生を防止することができる。
【0024】
なお、他の観点では、本発明は上述の定着装置を備える画像形成装置を提供することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低温環境下等におけるスイッチング素子の破壊を確実に防止することができ、低温環境下においても、安定して速やかに使用可能状態にできる定着装置および画像形成装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態における複合機の全体構成を示す概略構成図
【図2】本発明の一実施形態における定着装置を示す概略構成図
【図3】本発明の一実施形態における複合機のハードウェア構成を示す図
【図4】本発明の一実施形態における定着装置の定着駆動部を示す概略図
【図5】本発明の一実施形態における定着装置が備える異常検知部の動作を説明する図
【図6】本発明の一実施形態における定着装置が備える異常検知部の動作を説明する図
【図7】本発明の一実施形態における定着装置の昇温過程を示す図
【図8】発熱部材の発熱量とスイッチング素子の駆動周波数との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。以下では、デジタル複合機および当該デジタル複合機が備える定着装置として本発明を具体化する。
【0028】
図1は本実施形態におけるデジタル複合機の全体構成の一例を示す概略構成図である。図1に示すように、複合機100は、画像読取部120および画像形成部140を含む本体101と、本体101の上方に取り付けられたプラテンカバー102とを備える。本体101の上面には原稿台103が設けられており、原稿台103はプラテンカバー102によって開閉されるようになっている。また、プラテンカバー102は、原稿搬送装置110を備えている。
【0029】
原稿台103の下方には、画像読取部120が設けられている。画像読取部120は、走査光学系121により原稿の画像を読み取りその画像のデジタルデータ(画像データ)を生成する。原稿は、原稿台103や原稿搬送装置110に載置することができる。走査光学系121は、第1キャリッジ122や第2キャリッジ123、集光レンズ124を備える。第1キャリッジ122には線状の光源131およびミラー132が設けられ、第2キャリッジ123にはミラー133および134が設けられている。光源131は原稿を照明する。ミラー132、133、134は、原稿からの反射光を集光レンズ124に導き、集光レンズ124はその光像をラインイメージセンサ125の受光面に結像する。この走査光学系121において、第1キャリッジ122および第2キャリッジ123は、副走査方向135に往復動可能に設けられている。第1キャリッジ122および第2キャリッジ123を副走査方向135に移動することによって、原稿台103に載置された原稿の画像をイメージセンサ125で読み取ることができる。原稿搬送装置110にセットされた原稿の画像を読み取る場合、画像読取部120は、第1キャリッジ122および第2キャリッジ123を画像読取位置に合わせて一時的に固定し、画像読取位置を通過する原稿の画像をイメージセンサ125で読み取る。イメージセンサ125は、受光面に入射した光像から、例えば、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色に対応する原稿の画像データを生成する。
【0030】
画像形成部140は、画像読取部120で得た画像データや、ネットワーク162に接続された他の機器(図示せず)からネットワークアダプタ161を介して受信した画像データを用紙に印刷する。
【0031】
画像形成部140は、感光体ドラム141を備える。感光体ドラム141は一定速度で一方向に回転する。感光体ドラム141の周囲には、回転方向の上流側から順に、帯電器142、露光器143、現像器144、中間転写ベルト145が配置されている。帯電器142は、感光体ドラム141表面を一様に帯電させる。露光器143は、一様に帯電した感光体ドラム141の表面に、画像データに応じて光を照射し、感光体ドラム141上に静電潜像を形成する。現像器144は、感光体ドラム141に形成された静電潜像にトナーを付着させ、感光体ドラム141上にトナー像を形成する。中間転写ベルト145は、感光体ドラム141上のトナー像を用紙に転写する。画像データがカラー画像である場合、中間転写ベルト145は、各色のトナー像を同一の用紙に転写する。なお、RGB形式のカラー画像は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)形式の画像データに変換され、各色の画像データが露光器143に入力される。
【0032】
画像形成部140は、手差しトレイ151、給紙カセット152、153、154等から、中間転写ベルト145と転写ローラ146との間の転写部に用紙を給送する。手差しトレイ151や各給紙カセット152、153、154には、様々なサイズの用紙を載置または収容することができる。画像形成部140は、ユーザの指定した用紙や、自動検知した原稿のサイズに応じた用紙を選択し、選択した用紙を給送ローラ155により手差しトレイ151やカセット152、153、154から引き出す。引き出した用紙は搬送ローラ156やレジストローラ157で転写部に送り込む。トナー像を転写した用紙は、搬送ベルト147により定着装置200に搬送される。定着装置200は、ヒータを内蔵した定着ローラ210および加圧ローラ220を有しており、熱と押圧力によってトナー像を用紙に定着する。画像形成部140は、定着装置200を通過した用紙を排紙トレイ148へ排紙する。
【0033】
ユーザは、本体上部正面に設けられた操作パネル170を用いて、上述のような複合機100に複写開始やその他の指示を与えたり、複合機100の状態や設定を確認したりすることができる。
【0034】
図2は、本実施形態における定着装置を示す概略構成図である。図2に示すように、定着装置200は、互いに平行な回転軸を有する円柱状の、定着ローラ210と加圧ローラ220とが対向して配置された構成を有する。また、加圧ローラ220の反対側では、定着ローラ210に近接して誘導加熱部230が配置されている。
【0035】
定着ローラ210の回転軸は、図示しない駆動手段により、一定速度で一方向(図2に示す矢印の方向)に回転駆動される。加圧ローラ220の回転軸は、図示しない付勢手段により定着ローラ210の回転軸の方向に付勢されており、定着ローラ210の回転に伴って加圧ローラ220も回転する構成になっている。
【0036】
定着ローラ210は、内包ローラ211と当該内包ローラ211の外周面に配置された定着ベルト212とを備える。特に限定されないが、本実施形態では、シリコーンゴムを発泡させたスポンジローラを内包ローラ211として使用している。定着ベルト212は、誘導加熱部230が生成する交番磁場により渦電流(誘導電流)が発生する導電層213上に、トナー像の離型性を高めるとともにカラー画像の定着性を向上させるための弾性層214が配置された構造を有する。発熱部材として機能する導電層213には、渦電流により発熱可能な材料であれば任意の材料を使用することができるが、ここでは、膜厚が40μm程度のニッケルを使用している。また、弾性層214の材質も特に限定されないが、ここでは、200〜300μm程度の厚さを有するシリコーンゴムを使用している。
【0037】
加圧ローラ220は、熱伝導性の小さい弾性材料を外周面に備える。特に限定されないが、本実施形態では、厚さ3.5mm程度のシリコーンゴムからなる弾性層221を備える外径35mmのローラを加圧ローラ220として使用している。弾性層221は、上記付勢力によって定着ローラ210に圧接し、ニップ部240を形成している。トナー像242が形成された用紙241が当該ニップ部240に搬入されると、定着ローラ210による加熱と、定着ローラ210および加圧ローラ220による加圧とによってトナー像242が用紙241に定着される。
【0038】
また、誘導加熱部230は、電磁誘導コイル231およびフェライトコア233がケーシング232に収容された構造を有する。ケーシング232は、半円筒状の形状を有し、定着ローラ210の表面を覆う状態で配置される。電磁誘導コイル231は、定着ローラ210の回転軸方向の全幅にわたって渦巻状に配置されおり、後述の定着駆動部の駆動により時間的に変動する交番磁場を生成し、導電層213を発熱させる。導電層213の発熱量は、定着ローラ210の表面温度に応じて、定着駆動部により制御される。定着ローラ210の表面温度は、ニップ部240直前の上流側に配置された温度センサ250により検出されるようになっている。フェライトコア233は、電磁誘導コイル231周辺に発生する磁束を効率的に定着ローラ210に向けて誘導する磁路を構成する状態に配置されている。図示を省略しているが、誘導加熱部230の、定着ローラ210と反対側の面にも半円筒状のフェライトコアが、ケーシング232の表面を覆う状態で配置されている。
【0039】
図3は、複合機における制御系のハードウェア構成図である。本実施形態の複合機100は、CPU(Central Processing Unit)301、RAM(Random Access Memory)302、ROM(Read Only Memory)303、HDD(Hard Disk Drive)304および原稿搬送装置110、画像読取部120、画像形成部140における各動作駆動部に対応するドライバ305が内部バス306を介して接続されている。ROM303やHDD304等は制御プログラムを格納しており、CPU301はその制御プログラムの指令にしたがって複合機100を制御する。例えば、CPU301はRAM302を作業領域として利用し、ドライバ305とデータや命令を授受することにより上記各動作駆動部の動作を制御する。また、HDD304は、画像読取部120により得られた画像データや、ネットワークアダプタ161を通じて受信した画像データの蓄積にも用いられる。
【0040】
内部バス306には、操作パネル170や各種のセンサ307も接続されている。操作パネル170は、ユーザの操作を受け付け、その操作に基づく信号をCPU301に供給する。また、センサ307は、プラテンカバー102の開閉検知センサや原稿台103上の原稿検知センサ、定着装置200の温度センサ、搬送される用紙または原稿の検知センサ、電源電圧の変動を検知するセンサなど各種のセンサを含む。CPU301は、例えばROM303に格納されたプログラムを実行することで、複合機100の各機能を実現するとともに、これらセンサからの信号に応じて複合機100の動作を制御する。また、CPU301は、例えばROM303に格納されたプログラムを実行することで、後述の各手段(機能ブロック)を実現する。
【0041】
図4は、本実施形態の定着装置が備える定着駆動部を示す概略図である。図4に示すように、当該定着駆動部400は、2石式のインバータ回路401および整流回路402を含む。整流回路402は、商用交流電源403から供給される交流電力の電源ノイズを除去して整流し、直流電力に変換する。インバータ回路401は、整流回路402から出力された直流電力を高周波電力に変換して電磁誘導コイル231に供給する。
【0042】
インバータ回路401は、整流回路402から出力される直流電力に対して、直列に接続された1対のスイッチング素子Q1、Q2、スイッチング素子Q1、Q2にそれぞれ並列に接続された共振コンデンサC1、C2を備える。また、共振コンデンサC1、C2は、互いに直列に接続されている。共振コンデンサC1、C2の静電容量は、略同一である。電磁誘導コイル231(インダクタL1)は、Low側のスイッチング素子Q2(共振コンデンサC2)と並列に接続されている。スイッチング素子Q1、Q2には、入力信号に応じてオン状態とオフ状態とが切り替わる任意の素子を使用することが可能であるが、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)をスイッチング素子Q1、Q2として採用している。
【0043】
なお、共振コンデンサC1、C2は、各スイッチング素子Q1、Q2のスイッチング時に、電磁誘導コイル231のインダクタンス成分と共振し、各スイッチング素子Q1、Q2の両端に印加される電位差がゼロの状態でのスイッチング動作(ソフトスイッチング動作)を実現するスナバコンデンサとして機能する。つまり、共振コンデンサC1、C2およびインダクタLが共振回路411を構成している。
【0044】
スイッチング素子Q1、Q2の入力端子(駆動信号が入力される端子:ここでは、ゲート端子)には、スイッチング駆動部421から駆動信号が入力される。当該駆動信号は、スイッチング素子のオン状態とオフ状態とを所定の駆動周波数で切り替えるための信号であり、スイッチング駆動部421は各スイッチング素子Q1、Q2に対して独立に駆動信号を入力する。当該駆動周波数は、予め指定された駆動周波数範囲内で変更可能に構成されている。なお、スイッチング駆動部421は、温度センサ250により取得される定着ローラ210の表面温度等に基づいて駆動周波数(電磁誘導コイル231に投入する電力)を決定する構成になっている。
【0045】
スイッチング駆動部421は、スイッチング素子Q1がオン状態であるときスイッチング素子Q2がオフ状態となるようにし、スイッチング素子Q2がオン状態であるときスイッチング素子Q1がオフ状態となるように駆動信号を出力する。また、スイッチング素子Q1、Q2がともにオン状態になることを確実に避けるため、いずれかのスイッチング素子をオン状態にする直前には、スイッチング素子Q1、Q2がともにオフ状態になる短絡防止期間(デッドタイム)が設けられている。
【0046】
また、本実施形態の定着装置200は、異常検知部422を備える。異常検知部422は、スイッチング駆動部421による駆動により想定されるスイッチング素子の動作と、スイッチング素子の現実の動作との不一致を検知する。特に限定されないが、ここでは、異常検知部422は、以下で詳述するように、High側スイッチング素子Q1のエミッタ端子とLow側スイッチング素子Q2のコレクタ端子との接続部Sにおける電位Vsをモニタすることにより、上記不一致を検出する。なお、接続部Sは、スイッチング素子Q1において、オン状態とオフ状態とで電位が変動する出力端子(エミッタ端子)であり、かつスイッチング素子Q2において、オン状態とオフ状態とで電位が変動する出力端子(コレクタ端子)である。
【0047】
さらに、定着装置200は、駆動周波数範囲変更部423を備える。駆動周波数範囲変更部423は、異常検知部422が上記不一致を検知した場合、スイッチング駆動部421に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする。
【0048】
なお、スイッチング駆動部421、異常検知部422および駆動周波数範囲変更部423は、例えば、上述のCPU301が、ROM303やHDD304に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0049】
続いて、異常検知部422による異常検知動作について説明する。図5は、スイッチング駆動部421の駆動により想定されるスイッチング素子Q1、Q2の動作と、スイッチング素子Q1、Q2の現実の動作とが一致している状態、すなわち、ソフトスイッチング動作が正常に実施されている状態(以下、適宜、正常状態という。)を示すタイムチャートである。図5では、スイッチング素子Q1のゲート信号(ゲート端子の電位)、スイッチング素子Q2のゲート信号(ゲート端子の電位)、接続点Sの電位Vs、電磁誘導コイル231を流れる電流を模式的に示している。なお、スイッチング素子をオン状態にするゲート信号が「high(高電位)」であり、オフ状態にする駆動信号が「low(低電位)」である。
【0050】
図5に示すように、High側スイッチング素子Q1およびLow側スイッチング素子Q2には、デッドタイムtdを挟んで交互に「high」信号が入力されている。「high」信号が入力されている時間(オン時間)tonとデッドタイムtdとの和を2倍した値の逆数は、スイッチング駆動部421による駆動周波数に対応することになる。
【0051】
スイッチング素子Q1がオン状態にあり、スイッチング素子Q2がオフ状態にある場合、整流回路402から出力された直流電圧は接続点Sに印加される。すなわち、接続点Sの電位Vsは、「highレベル(高電位状態)」になる。また、スイッチング素子Q1がオフ状態にあり、スイッチング素子Q2がオン状態にある場合、接続点Sは整流回路402の低電位側(ここでは、接地電位)と導通状態になる。すなわち、接続点Sの電位Vsは「lowレベル(低電位状態)」になる。
【0052】
また、スイッチング素子Q1がオン状態からオフ状態に切り替わる場合、接続点Sの電位Vsは、共振コンデンサC2の放電(コンデンサC2とインダクタL1との共振)に伴って低下し、スイッチング素子Q2に「high」信号が入力されるまでに、接続点Sの電位Vsが「lowレベル」に低下している。すなわち、スイッチング素子Q2がオフ状態からオン状態に切り替わるとき、スイッチング素子Q2のエミッタ−コレクタ間の電位差はゼロになっている。
【0053】
さらに、スイッチング素子Q2がオン状態からオフ状態に切り替わる場合、接続点Sの電位Vsは、共振コンデンサC1の放電(コンデンサC1とインダクタL1との共振)に伴って上昇し、スイッチング素子Q1に「high」信号が入力されるまでに、接続点Sの電位Vsが「highレベル」に上昇している。すなわち、スイッチング素子Q1がオフ状態からオン状態に切り替わるとき、スイッチング素子Q1のエミッタ−コレクタ間の電位差はゼロになっている。
【0054】
以上の動作が繰り返されることにより、電磁誘導コイル231に駆動周波数に応じた高周波電力が印加され、駆動周波数に応じた高周波電流(コイル電流)が流れる。
【0055】
一方、図6は、スイッチング駆動部421の駆動により想定されるスイッチング素子Q1、Q2の動作と、スイッチング素子Q1、Q2の現実の動作とが一致していない状態、すなわち、ソフトスイッチング動作が正常に実施されていない状態(以下、適宜、異常状態という。)を示すタイムチャートである。図5と同様に、図6においても、スイッチング素子Q1のゲート信号、スイッチング素子Q2のゲート信号、接続点Sの電位Vs、電磁誘導コイル231を流れる電流を模式的に示している。当該状態は、低温環境下において、スイッチング素子Q1、Q2の駆動周波数を低下させる制御を行い、駆動周波数が共振回路の共振周波数f0よりも低くなった状態に相当する。
【0056】
図5と同様に、High側スイッチング素子Q1およびLow側スイッチング素子Q2には、デッドタイムtdを挟んで交互に「high」信号が入力されている。しかしながら、図6では、スイッチング素子Q1がオン状態からオフ状態に切り替わる場合、スイッチング素子Q2に「high」信号が入力されるまでに、接続点Sの電位Vsが「lowレベル」に低下していないことが理解できる(図6矢指部A)。これは、スイッチング素子Q2がオフ状態からオン状態に切り替わるとき、スイッチング素子Q2のエミッタ−コレクタ間に電位差があることを示している。同様に、スイッチング素子Q2がオン状態からオフ状態に切り替わる場合、スイッチング素子Q1に「high」信号が入力されるまでに、接続点Sの電位Vsが「highレベル」に上昇していないことが理解できる(図6矢指部B)。これは、スイッチング素子Q1がオフ状態からオン状態に切り替わるとき、スイッチング素子Q1のエミッタ−コレクタ間に電位差があることを示している。
【0057】
すなわち、矢指部A、Bでは、ソフトスイッチング動作ではなく、スイッチング素子のエミッタ−コレクタ間に電位差がある状態でのスイッチング動作(ハードスイッチング動作)が発生している。このようなハードスイッチング動作が、駆動周波数が低く大きな高周波電流が流れる状況下で発生すると、スイッチング素子において大きなスイッチング損失(電流×電圧)が発生し、スイッチング素子の破壊に至ってしまう。
【0058】
そこで、本実施形態では、異常検知部422が電位Vsをモニタすることにより、上述の異常状態であるか否かを検知するようにしている。
【0059】
例えば、異常検知部422は、スイッチング素子Q2がオフ状態からオン状態に切り変わる立ち上がり(図6の矢指部A)において、電位Vsが「lowレベル」であるか否かを確認する。この場合、異常検知部422は、電位Vsが「lowレベル」である場合は正常状態と判断し、電位Vsが「lowレベル」でない場合は異常状態と判断する。なお、電位Vsが「lowレベル」であるか否かは、例えば、予め設定された閾値以上であるか否かにより容易に判断可能である。
【0060】
また、異常検知部422は、スイッチング素子Q1がオフ状態からオン状態に切り変わる立ち上がり(図6の矢指部B)において、電位Vsが「highレベル」であるか否かを確認することで、異常状態であるか否かを判断することもできる。この場合、異常検知部422は、例えば、予め設定された閾値を超えていれば正常状態と判断し、閾値以下であれば異常状態と判断する。
【0061】
なお、異常検知部422は、上記の2つの判断を併用して異常状態であるか否かを判断してもよい。さらに、異常検知部422は、各スイッチング素子Q1、Q2の、オフ状態からオン状態に切り替わる立ち上がりにおいて、エミッタ−コレクタ間の電位差の有無により、異常状態であるか否かを判断することもできる。この場合、異常検知部422は、例えば、エミッタ−コレクタ間に予め設定された閾値以上の電位差がなければ正常状態であると判断し、エミッタ−コレクタ間に予め設定された閾値以上の電位差があれば異常状態であると判断する。
【0062】
異常検知部422は、異常状態であることを検知した場合、駆動周波数範囲変更部423にその旨を通知する。当該通知を受けた駆動周波数範囲変更部423は、スイッチング駆動部421に予め指定されている駆動周波数範囲の下限値をより高い値に変更する。例えば、スイッチング駆動部421に予め指定されている駆動周波数範囲の下限値が35kHzであるとすると、駆動周波数範囲変更部423は当該下限値を、例えば、500Hz高い値に設定する。なお、特に限定されないが、本実施形態では、駆動周波数範囲変更部423が駆動周波数範囲を変更する間(例えば、500μsec程度)、スイッチング駆動部421はスイッチング動作を停止する構成になっている。
【0063】
このとき、スイッチング駆動部421が、駆動周波数範囲の変更後の下限値より小さい駆動周波数でスイッチング素子Q1、Q2を駆動していた場合、駆動周波数は、強制的に変更後の下限駆動周波数まで上昇する。これにより、異常検知部422が異常状態の解消(すなわち、正常状態であること)を検知すると、スイッチング駆動部421は駆動周波数範囲変更部423により変更された駆動周波数範囲においてスイッチング素子Q1、Q2を駆動する。
【0064】
一方、異常検知部422が異常状態を検知したときに、スイッチング駆動部421が、駆動周波数範囲の変更後の下限値より高い駆動周波数でスイッチング素子Q1、Q2を駆動していた場合、異常状態は解消されず、異常検知部422は異常状態を検知し続けることになる。この場合、駆動周波数範囲変更部423は駆動周波数範囲の下限値をさらに所定量(例えば、500Hz)高い値に設定する。すなわち、異常検知部422が正常状態であることを検知するまで、駆動周波数範囲変更部423は、スイッチング駆動部421の駆動周波数範囲の下限値を高くする。なお、下限値の上昇量は、異常検知部422の検知回数に応じて可変にしてもよいし、異常状態が確実に解消されるように、1回の上昇量を大きく設定してもよい。なお、特に限定されないが、本実施形態では、駆動周波数範囲変更部423は、駆動周波数範囲の下限値を3段階(例えば、500Hzを3回)高めたにも関わらず、異常検知部422が異常状態を検知し続ける場合は、スイッチング駆動部421にスイッチング動作の停止を指示する構成になっている。この構成では、電磁誘導コイル231の破損等、他の原因でハードスイッチングが発生している場合に、駆動周波数範囲の下限値を高める動作が無制限に繰り返され、当該動作を繰り返す間にスイッチング素子の破壊が発生することを防止できる。
【0065】
以上の構成によれば、スイッチング素子Q1、Q2の異常状態が検知されたときに、駆動周波数範囲の下限値が変更される。したがって、スイッチング素子Q1、Q2の破壊を確実に防止することができる。また、スイッチング素子Q1、Q2の異常状態が検知されたときにのみ駆動周波数範囲の下限値が変更されるため、駆動周波数が共振周波数よりも低い周波数に設定されないように駆動周波数範囲に大きなマージンを含む下限値に設定することが不要であり、共振系(共振回路)のパフォーマンスを最大限に発揮することができる。そのため、常温環境下や高温環境下などでは、電力投入能力を抑制することなく発熱部材に電力を供給することができる。その結果、周囲の温度環境に関わらず、安定して動作させることができる。
【0066】
ところで、上述の駆動周波数範囲の変更は、電源電圧(商用交流電源403の電圧または整流回路402の出力電圧)の低下が発生した場合に実施してもよい。上述したように、電源電圧が低下すると、電磁誘導コイル231から定着ローラ210に供給される交番磁場が著しく小さくなる。このとき、定着ローラ210に供給する交番磁場を維持するために、スイッチング駆動部421は、駆動周波数を駆動周波数範囲内でより小さくする。このような制御が発生すると、上述した異常状態が突発的に発生する可能性がある。そこで、定着装置200は、電源電圧(ここでは、整流回路402の出力電圧)を検出する電圧検出部424が電源電圧の低下を検知した場合、駆動周波数範囲変更部423が、スイッチング駆動部421に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする。
【0067】
例えば、整流回路402の出力電圧が正常時に100Vであり、スイッチング駆動部421に予め指定されている駆動周波数範囲の下限値が35kHzであるとする。この場合、整流回路402の出力電圧が90Vになると、駆動周波数範囲変更部423は駆動周波数範囲の下限値を、例えば、35.5kHzに設定する。また、整流回路402の出力電圧が85Vになると、駆動周波数範囲変更部423は駆動周波数範囲の下限値を、例えば、36kHzに設定する。さらに、整流回路402の出力電圧が80Vになると、駆動周波数範囲変更部423は駆動周波数範囲下限値を、例えば、36.5kHzに設定する。
【0068】
この構成では、電源電圧の低下が検出された場合、電圧低下量に応じて、駆動周波数範囲の下限値が変更される。そのため、スイッチング駆動部421による駆動により想定されるスイッチング素子Q1、Q2の動作と、スイッチング素子Q1、Q2の現実の動作とが突発的に不一致になることが予測される場合に、速やかに反応してその発生を防止することができる。
【0069】
なお、以上では、駆動周波数範囲変更部423による駆動周波数範囲下限値の変更について説明したが、当該下限値が変更された状態は、インバータ回路401から電磁誘導コイル231への出力電力が抑制されている状態である。したがって、下限値変更の必要がなくなった場合には、速やかに変更前の下限値に復帰させることが好ましい。そこで、定着装置200では、定着ローラ210が予め指定された温度に到達したとき、あるいは、スイッチング素子Q1、Q2の正常状態での駆動が予め指定された期間継続したことを異常検知部422が検知したときに、駆動周波数範囲変更部423は、変更した駆動周波数範囲の下限値を変更前の値に変更する。これにより、例えば、定着ローラ210による発熱により周囲温度が上昇して共振回路411の共振周波数が低下し、スイッチング素子Q1、Q2が異常状態になる可能性がなくなった場合(あるいは、異常状態になる可能性がなくなったと予測できる場合)に、自動的に電力投入能力の抑制を解除することができる。ここでは、温度センサ250が100℃を検知した場合、あるいは、正常状態でのスイッチング素子Q1、Q2の駆動が10秒間継続した場合に、駆動周波数範囲変更部423がスイッチング駆動部421に設定されている駆動周波数範囲の下限値を当初の駆動周波数範囲下限値に復帰させるようになっている。また、上述の電源電圧低下に起因して、駆動周波数範囲下限値が変更されている場合は、電圧検出部424が正常な電圧を検出したときに、駆動周波数範囲変更部423が当初の駆動周波数範囲下限値に復帰させればよい。
【0070】
図7は、上述した定着装置200における定着ローラ210の昇温過程を示す図である。図7では、スイッチング駆動部421による駆動により現実に電磁誘導コイル231へ出力された電力を破線で示すとともに、要求出力電力を点線で示している。また、定着ローラ210の表面温度を実線で示している。なお、図7において横軸は時間に対応する。また、左縦軸は表面温度に対応し、右縦軸が出力電力に対応する。なお、周囲環境は、気温10℃、湿度15%である。
【0071】
図7から理解できるように、定着装置200が起動されたとき(図7中の「8秒」の時点)、1000Wの出力が要求されている。これに対し、定着装置200は、駆動周波数範囲の下限値を高くして、スイッチング素子Q1、Q2が異常状態になることを防止している。その結果、現実の出力電力が1000Wよりも小さい値に抑制されている。その後、10秒が経過すると、正常状態が10秒間継続したので、駆動周波数範囲変更部423が駆動周波数範囲の下限値を当初設定値に復帰させている。その結果、図7において、「18秒」の時点以降は、要求どおりの出力電力である1000Wが出力されていることが理解できる。これにより、低温環境下において、定着装置200の速やかな起動が実現されている。なお、図7において、「8秒」から「18秒」の間に、出力電力が徐々に上昇しているが、これは、定着ローラ210の発熱による周囲温度の上昇に伴い、共振回路411の共振周波数が徐々に低下していることに起因する。
【0072】
また、下記の表1は、気温10℃、湿度15%において、電源電圧を故意に低下させた場合の定着装置200の起動状態を、表面温度が160℃に到達する時間を起動時間として評価した結果である。また、比較のため、表中に、駆動周波数範囲の下限値を変更しない場合の起動時間を比較例として併記している。なお、比較例の80Vでは、起動開始直後のハードスイッチング動作が顕著であり、スイッチング素子が破壊する可能性があったため起動不能と判断している。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、本実施形態の定着装置200では、いずれの電源電圧においても、従来構成を用いて測定した比較例と比べて起動時間が短くなっている。これは、比較例では、顕著なハードスイッチング動作が発生しなかったため、スイッチング素子の破壊を招くことなく起動が一応可能であったが、駆動周波数と共振周波数との乖離が大きくなっていたことに起因すると考えられる。すなわち、低駆動周波数で駆動はできているが、スイッチング損失が大きいために電磁誘導コイル231に印加する電力が低下した状態が長く継続した結果、起動時間が長くなっていると考えられる。
【0075】
これに対し、本実施形態の定着装置200では、顕著でなくとも、異常検知部422がハードスイッチング動作を検知した場合には駆動周波数下限値を高い値に変更する。そのため、比較例に比べて高い駆動周波数での駆動ではあるが、スイッチング損失が小さいために電磁誘導コイル231に印加する電力の低下が抑制された結果、比較例に比べて温度上昇の立ち上がりが早くなることと、温度上昇に伴う共振周波数の低下に起因する発熱効率の向上との相乗効果により、短時間で起動できていると考えられる。
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、低温環境下等におけるスイッチング素子の破壊を確実に防止することができ、低温環境下でも安定して速やかに使用可能状態にできる定着装置および画像形成装置を実現することができる。
【0077】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、インバータ回路は、本発明の技術的思想が適用可能である限り、任意の回路構成を採用することができる。
【0078】
また、上述の実施形態では、デジタル複合機として本発明を具体化したが、デジタル複合機に限らず、上述の定着装置を有するプリンタ、複写機等の、任意の画像処理装置に本発明を適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、低温環境下等におけるスイッチング素子の破壊を確実に防止できるとともに、低温環境下でも安定して速やかに使用可能状態にでき、定着装置および画像形成装置として有用である。
【符号の説明】
【0080】
100 複合機
200 定着装置
210 定着ローラ
213 導電層(発熱部材)
220 加圧ローラ
230 誘導加熱部
231 電磁誘導コイル
250 温度センサ
400 定着駆動部
401 インバータ回路
411 共振回路
421 スイッチング駆動部
422 異常検知部
423 周波数範囲変更部
424 電圧検出部
Q1、Q2 スイッチング素子
C1、C2 共振コンデンサ
L1 インタクタ(電磁誘導コイル231)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱方式の定着装置であって、
発熱部材と、
前記発熱部材に近接して配置され、当該発熱部材に誘導電流を発生させる電磁誘導コイルと、
前記電磁誘導コイルと共振コンデンサとを有する共振回路と、
直流電力を高周波電力に変換して前記電磁誘導コイルに供給するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のオン状態およびオフ状態を、予め設定された駆動周波数範囲内に属する所定の駆動周波数で切り替えるスイッチング駆動部と、
前記スイッチング駆動部による駆動により想定される前記スイッチング素子の動作と、前記スイッチング素子の現実の動作との不一致を検知する異常検知部と、
前記異常検知部が前記不一致を検知した場合、前記スイッチング駆動部に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする、駆動周波数範囲変更部と、
を備える定着装置。
【請求項2】
前記異常検知部は、オン状態とオフ状態とで電位が変動する前記スイッチング素子の出力端子の電位に基づいて前記不一致を検知する、請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記駆動周波数範囲変更部は、前記駆動周波数範囲の下限値を段階的に高くする、請求項1または2記載の定着装置。
【請求項4】
前記発熱部材が予め指定された温度に到達したとき、あるいは、前記異常検知部により前記不一致が検出されない状態で前記スイッチング駆動部によるスイッチング素子の駆動が予め指定された期間継続したときに、前記駆動周波数範囲変更部は、変更した駆動周波数範囲の下限値を変更前の値に変更する、請求項1から3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
電源電圧を検出する電圧検出部をさらに備え、
前記駆動周波数範囲変更部は、前記電圧検出部が電源電圧の低下を検知した場合、前記スイッチング駆動部に設定された駆動周波数範囲の下限値を高くする、請求項1から4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の定着装置を備える、画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−203044(P2012−203044A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64881(P2011−64881)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】