説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】加熱回転体の非通紙領域における、熱定着動作時の過剰昇温を抑制しつつ、機械的強度の低下を防ぐことが可能な定着装置を提供する。
【解決手段】通電により発熱する発熱層を有する加熱回転体51の外周面に、加圧回転体51を圧接して定着ニップを形成し、未定着画像の形成された記録シートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、前記発熱層においては、非導電性の耐熱性樹脂に金属微粒子が分散された抵抗発熱体層514と、前記金属微粒子よりも電気伝導度が低く、温度上昇に伴い、電気伝導度が上昇する高イオン導電体を含む高イオン導電体層515と、がそれぞれ通電可能なように二層に積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、複写機等の画像形成装置が備える定着装置に関し、特に定着装置用の加熱回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機等の画像形成装置の定着装置用の発熱部材として、フィルムやベルト等の厚みが薄い材料で構成され、熱容量が小さく、短時間で昇温可能で、エネルギー消費が少ないものが利用されるようになってきている。例えば、周回駆動しながら記録シートに接触し、記録シート上の未定着画像の熱定着を抵抗発熱体のジュール熱を利用して行う加熱ベルトが利用されている。
【0003】
このような加熱ベルトを用いて記録シート上に形成された未定着画像の熱定着を行うと、実際に記録シートが通紙された部分では、記録シートに熱が奪われて加熱ベルトの温度が低下するが、通紙されなかった部分では、記録シートに熱を奪われないのであまり温度が低下しない。
その結果、例えば、温度が低下した小サイズの記録シートの通紙領域を適温まで昇温するために、加熱ベルト全体を継続的に発熱させると、上記通紙領域以外の非通紙領域が過剰に昇温されることになる。そして、このように過剰に昇温された領域に、その後、サイズの大きい記録シートが通紙されて、トナー像の熱定着が行われると、例えば、端部でホットオフセットの問題が生じたり、中央部と端部で画質が不均一となったりして、画質低下を招くことになる。
【0004】
この非通紙領域における過剰昇温を防止する技術として特許文献1には、グラファイトを含有した抵抗発熱体を用いた加熱体が開示されている。グラファイトは、変曲点温度(700℃程度)を境にその温度以下ではNTC特性(Negative Temperature Coefficient:温度が上がると抵抗が小さくなる負の抵抗温度特性)を、その温度以上ではPTC特性(Positive Temperature Coefficient:温度が上がると抵抗が大きくなる正の抵抗温度特性)を示す。
【0005】
このグラファイトを抵抗発熱体に含有させることにより、変曲点温度以下の温度において抵抗発熱体にNTC特性を具備させることができ、非通紙領域における過剰昇温を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4208587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非通紙領域における過剰昇温を抑制するために、グラファイト等のカーボン含有物質を加熱ベルトに用いると、その分、加熱ベルトの機械的強度が低下してしまうという問題が生じる。特に、エネルギー消費量を少なくするため、熱容量が非常に小さい加熱ベルトを用いて、未定着画像の熱定着動作を行う場合には、少ない発熱量でも非通紙領域が高温に昇温されるので、過剰昇温を抑制するためにグラファイトの含有量を多くする必要が生じ、その分、加熱ベルトの機械的強度が弱くなり、加熱ベルトが破損しやすくなってしまうという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上述のような問題に鑑みて為されたものであって、加熱ベルトや加熱ローラ等の加熱回転体の非通紙領域における、熱定着動作時の過剰昇温を抑制しつつ、機械的強度の低下を防ぐことが可能な定着装置及び当該定着装置を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る定着装置は、通電により発熱する発熱層を有する加熱回転体の外周面に、加圧回転体を圧接して定着ニップを形成し、未定着画像の形成された記録シートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、前記発熱層においては、非導電性の耐熱性樹脂に金属微粒子が分散された抵抗発熱体層と、前記金属微粒子よりも電気伝導度が低く、温度上昇に伴い、当該電気伝導度が上昇する高イオン導電体を含む高イオン導電体層と、がそれぞれ通電可能なように二層に積層されている。
【0010】
ここで、前記発熱層は、前記抵抗発熱体層の上に前記高イオン導電体層が積層されて構成されていることとすることができる。又、前記抵抗発熱体層にはさらに、非金属性の導電性粒子が含まれていることとすることができる。
又、前記高イオン導電体は、定着温度より高温側において電気伝導度が急激に増加する相転移温度を有することとすることができる。さらに、前記高イオン導電体は、AgI又はCuIであることとすることができる。
【0011】
又、本発明の一形態に係る画像形成装置は、前記定着装置を備える画像形成装置とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を備えることにより、温度上昇に伴い、電気伝導度が上昇し、体積抵抗率が低下するNTC特性を有し、機械的強度がNTC特性を有するグラファイトやカーボンよりも強い高イオン導電体を含む高イオン導電体層と、抵抗発熱体層とが積層されて発熱層が構成されるので、記録シートの熱定着時に非通紙領域が過剰に昇温するのを有効に防止できると共に、加熱回転体の機械的強度の低下量を少なくすることができる。
【0013】
さらに、発熱層において、抵抗発熱体層を構成する金属微粒子よりも電気伝導度の低い高イオン導電体層と、抵抗発熱体層とがそれぞれ通電可能なように二層になるように構成されているので、発熱層の温度が定着温度を超えない範囲内にあり、高イオン導電体層の電気伝導度がより低い場合においても、抵抗発熱体層の体積抵抗率に影響を与えないようにすることができ、高イオン導電体を抵抗発熱体層中に分散させて一層の発熱層とした場合に比べ、以下に示すような有利な効果が得られる。
【0014】
(1)発熱層の厚みが同じ場合に、発熱層に同じ電流量を流すのに要する印加電圧を低くすることができ、所望の発熱量を得るために高電圧をかけなくてすむ。
(2)発熱層の厚みが同じで印加電圧が制限される場合に、発熱層に添加する高イオン導電体の量をより多くし、より大きい過剰昇温防止効果を得ることができる。一層の発熱層では、印加電圧が制限される場合、その厚みを厚くしないと、発熱層を高イオン導電体層と抵抗発熱体層の二層で構成した場合と同様の過剰昇温防止効果が得られず、厚みが厚くなる分だけ、発熱層の熱容量が大きくなり、発熱効率が低下してしまう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンタ1の構成を示す図である。
【図2】定着装置5の構成を示す斜視図である。
【図3】加熱回転体51の詳細な構造を示す断面図である。
【図4】代表的な高イオン伝導体における電気伝導度の温度変化の具体例を示す図である。
【図5】リングコート法の具体例を示す図である。
【図6】各加熱回転体における体積抵抗率の温度変化を示す図である。
【図7】昇温性能及び過剰昇温防止効果の評価結果を示す図である。
【図8】加熱回転体51の形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態)
以下、本発明に係る一形態の画像形成装置の実施の形態を、タンデム型カラーデジタルプリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)に適用した場合を例にして説明する。
[1]プリンタの構成
先ず、本実施の形態に係るプリンタ1の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るプリンタ1の構成を示す図である。同図に示すように、このプリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着装置5、制御部60を備えている。
【0017】
プリンタ1は、ネットワーク(例えばLAN(Local Area Network))に接続され、外部の端末装置(不図示)や図示しない操作パネルから印刷指示を受け付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像を形成することにより、記録シートへの印刷処理を実行する。
【0018】
以下、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各再現色をY、M、C、Kと表し、各再現色に関連する構成要素の番号にこのY、M、C、Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、作像部3Y、3M、3C、3K、露光部10、中間転写ベルト11、2次転写ローラ45などを有している。
作像部3Y、3M、3C、3Kの構成は、いずれも同様の構成であるため、以下、主として作像部3Yの構成について説明する。
【0019】
作像部3Yは、感光体ドラム31Yと、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、1次転写ローラ34Y、および感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを有しており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。
現像器33Yは、感光体ドラム31Yに対向し、感光体ドラム31Yに帯電トナーを搬送する。
【0020】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印C方向に周回駆動される。又、従動ローラ13の近傍には、中間転写ベルト上に残留するトナーを除去するためのクリーナ14が配置されている。露光部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Lを発し、作像部3Y、3M、3C、3Kの各感光体ドラムを露光走査する。
【0021】
この露光走査により、帯電器32Yにより帯電された感光体ドラム31Y上に静電潜像が形成される。作像部3M、3C、3Kの各感光体ドラム上にも同様にして静電潜像が形成される。各感光体ドラム上に形成された静電潜像は、作像部3Y、3M、3C、3Kの各現像器により現像されて各感光体ドラム上に対応する色のトナー像が形成される。
形成されたトナー像は、作像部3Y、3M、3C、3Kの各1次転写ローラにより、中間転写ベルト11上の同じ位置に重ね合わされるように、中間転写ベルト11上にタイミングをずらして順次1次転写された後、2次転写ローラ45による静電力の作用により中間転写ベルト11上のトナー像が一括して記録シート上に2次転写される。トナー像が2次転写された記録シートは、さらに定着装置5に搬送され、記録シート上のトナー像(未定着画像)が、定着装置5において加熱及び加圧されて記録シートに熱定着された後、排出ローラ71により排紙トレイ72に排出される。
【0022】
給紙部4は、記録シート(図1の符号Sで表す)を収容する給紙カセット41と、給紙カセット41内の記録シートを搬送路43上に1枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートを2次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ44などを備えている。給紙カセットは、1つに限定されず、複数であってもよい。
【0023】
記録シートとしては、大きさや厚さの異なる用紙(普通紙、厚紙)やOHPシートなどのフィルムシートを利用できる。給紙カセットが複数ある場合には、異なる大きさ又は厚さ又は材質の記録シートを複数の給紙カセットに収納することとしてもよい。
繰り出しローラ42、タイミングローラ44等の各ローラは、搬送モータ(不図示)を動力源とし、歯車ギヤやベルトなどの動力伝達機構(不図示)を介して回転駆動される。この搬送モータとしては、例えば、高精度の回転速度の制御が可能なステッピングモータが使用される。
【0024】
記録シートは、中間転写ベルト11上のトナー像の移動タイミングに合わせて
給紙部4から2次転写位置46に搬送され、2次転写ローラ45により中間転写
ベルト11上のトナー像が一括して記録シート上に2次転写される。
[2]定着装置の構成
図2は、定着装置5の構成を示す斜視図である。同図に示すように、定着装置5は、加熱回転体51と、定着ローラ52と、加圧ローラ53と、を有する。
【0025】
加熱回転体51は、無端状のベルトであり、その両端部に電極511、512が設けられ、両電極には給電部材501、502が当接され、電源部500から給電部材501、502を介して給電が行われる。給電部材としては、例えば、給電ブラシや給電ローラを用いることができる。給電部材501、502からの給電により、両電極間に電流が流れて、加熱回転体51がジュール発熱する。
【0026】
図3は、加熱回転体51の詳細な構造を示す断面図である。同図に示すように、両端部を除く領域においては、加熱回転体51は、補強層513、抵抗発熱体層514、高イオン導電体層515、弾性層516、離型層517が、この順に積層されて構成され、両端部においては、補強層513、抵抗発熱体層514、電極511又は512がこの順に積層されて構成される。高イオン導電体層515の両端部は、電極511、512とそれぞれ接触している。
【0027】
電極511、512は、導電性の材料から構成される。各電極の材料としては、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、真鍮、リン青銅等の金属を用いることができる。補強層513は、加熱回転体51の強度を補強するための層であり、例えば、ポリイミド樹脂を用いることができる。補強層513の厚さは10〜100μmの範囲内であることが望ましい。
【0028】
抵抗発熱体層514は、電極511、512を通じて給電されることにより、ジュール熱を発生する層である。抵抗発熱体層514は、耐熱性樹脂等の絶縁性材料中に後述する高イオン導電体より電気伝導度が高い、導電性材料を分散させて構成される。抵抗発熱体層514の体積抵抗率は、上記の導電性材料(例えば、金属微粒子)の量を調整することにより、所定の体積抵抗率に調整される。
【0029】
耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリエステル-イミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリ-p-キシリレノン樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂などを用いることができる。抵抗発熱体層514に用いる耐熱性樹脂として、耐熱性、絶縁性及び機械的強度等に優れた特性を示すポリイミド樹脂を用いるのが望ましい。
【0030】
導電性材料としては、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)等の金属、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイル等を用いることができ、2種類以上の導電性材料(例えば、カーボンナノ材料と金属)を用いることとしてもよい。この場合、金属は、特に針状やフレーク状の銀(Ag)やニッケル(Ni)が好ましく、粒径は0.01〜10μmが良い。これにより、カーボンナノ材料と線状に絡み合うことで均一な電気抵抗を有する抵抗発熱体層514を成型することができる。金属が粒状や粉末状や塊状の場合、抵抗発熱体層514中に混在するカーボンナノ材料と絡み合わず、カーボンナノ材料と点接触することになるため、均一な電気抵抗を有する抵抗発熱体層514が得られにくくなる。
【0031】
抵抗発熱体層514の厚さは、任意であるが、5〜100μm程度が望ましい。抵抗発熱体層513の体積抵抗率は、1.0×10−6〜1.0×10−2Ω・m程度の範囲に設定することができるが、当該体積抵抗率は、1.0×10−5〜5.0×10−3Ω・mの範囲内であることが望ましい。
高イオン導電体層515は、熱定着時に、非通紙領域における過剰昇温を防止するための層であり、高イオン導電体で構成される層である。高イオン導電体とは、イオン結合性の高い化合物の内、その化合物の融点より低い温度領域で電気伝導性を有し、温度上昇とともに電気伝導度が指数関数的(両対数グラフにおいて直線的)に増加する性質を有する物質又は電気伝導度が急激に増加する相転移温度を有し、相転移温度を超えると電気伝導度が指数関数的に増加する性質を有する物質のことをいう。高イオン導電体は、上記の性質を有することにより、温度が上昇すると、その体積抵抗率が低下するNTC特性(負の抵抗変化率特性)を示す。そのため、高イオン導電体により、加熱回転体51に優れたNTC特性を具備させることができ、非通紙領域(図2の符号51で表す加熱回転体の周面の内、通紙範囲に対応する通紙領域を除く領域)における過剰昇温を効果的に抑制することができる。
【0032】
一方、高イオン導電体は、定着温度(例えば、150℃)を超えない範囲の低い温度では電気伝導度が小さい(例えば、ヨウ化銀(AgI)では、147℃以下で10−3Ω−1cm−1より小さい)ため、高イオン導電体を、抵抗発熱体層に分散させることにより、抵抗発熱体層を構成すると、高イオン導電体層515と抵抗発熱体層514の各層を二層で構成する場合に比べ、抵抗発熱体層の体積抵抗率が大きくなってしまいます。その結果、当該抵抗発熱体層において、各層を二層とした場合と同じ電流量を流すためには、当該抵抗発熱体層の厚みを厚くするか、当該抵抗発熱体層に印加する電圧を高くすることが必要となる。
【0033】
そして、当該抵抗発熱体層の厚みを厚くした場合には、その分、熱容量が大きくなるので、高イオン導電体層515と抵抗発熱体層514の各層を二層で構成する場合に比べ、発熱効率が悪くなり、又、印加する電圧を高くすると、商用電源(500〜1500Wの電源)で印加できる限度を超えてしまう場合が生じる。さらに、印加電圧を低くするために、当該抵抗発熱体層における高イオン導電体の量を少なくすると、その分、高イオン導電体による、非通紙領域における過剰昇温防止効果が小さくなってしまいます。
【0034】
このように、高イオン導電体を、抵抗発熱体層に分散させることにより、抵抗発熱体層を構成した場合には、商用電源を用いて加熱回転体の発熱効率と非通紙領域における過剰昇温防止効果との両者が最適化されるように、調整することが難しい。
本実施の形態の構成のように、抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515とを、各層について通電可能なように二層に積層する構成とすることにより、商用電源で印加できる範囲内で、層の厚さを厚くすることなく、良好な発熱効率を維持し、又、高イオン導電体の量を減らすことなく、商用電源で印加できる範囲内で非通紙領域において充分な過剰昇温防止効果を得ることができる。
【0035】
図4は、代表的な高イオン導電体における電気伝導度の温度変化の具体例を示す図である。同図においては、ヨウ化銀(α―AgI、β―AgI)、ナトリウムイオン伝導体(NaZrSiPO12)、ハロゲン陰イオン伝導体(LaF)、イットリア安定化ジルコニア(ZrO+Y)、ガルシア安定化ジルコニア(ZrO+CaO)の各高イオン導電体の電気伝導度の温度変化が示されている。同図に示すように、温度の上昇に伴い、各高イオン導電体の電気伝導度σは、指数関数的に(横軸の温度の常用対数に対し、縦軸の常用対数で示す電気伝導度(logσ))が直線的に)上昇する傾向を示すか又は相転移温度までは非指数関数的に増加し、相転移温度に達すると、急激に電気伝導度が増加し、相転移温度を超えると、温度の上昇と共に電気伝導度が指数関数的に上昇する傾向を示す。その上昇率は、ヨウ化銀(AgI)、ハロゲン陰イオン伝導体(LaF)、イットリア安定化ジルコニア(ZrO+Y)、ガルシア安定化ジルコニア(ZrO+CaO)において特に大きい。
【0036】
中でもヨウ化銀(AgI)は、温度上昇に伴い、当該温度が相転移温度(約150℃)に達し、β―AgIからα―AgIに相転移される時に、電気伝導度σが飛躍的に上昇する。さらに、α―AgIに相転移後も、電気伝導度σは温度上昇に伴い、指数関数的に増加する。
このように、高イオン導電体は、温度上昇と共に、電気伝導度が指数関数的に又は相転移により急激に上昇するため、温度上昇と共に電気抵抗(体積抵抗率)が有意に低下するという優れたNTC特性を示す。その結果、加熱回転体51の非通紙領域が過剰に昇温するのを効果的に防止することができる。
【0037】
一方、高イオン導電体と同様にNTC特性を有するカーボン含有物質では、温度上昇に伴う体積抵抗率の低下が指数関数的ではなく、直線的であるため、温度上昇に伴う体積抵抗率の低下量が、高イオン導電体に比べて少なく、高イオン導電体よりも量的に多い量を定着加熱体に含有させないと、高イオン導電体と同等の昇温抑制効果が得られない。
従って、加熱回転体にNTC特性を付与する昇温抑制物質として、高イオン導電体を用いた場合には、温度上昇に伴う体積抵抗率の低下が直線的で急激でないカーボン含有物質を用いた場合よりも、すぐれた昇温抑制効果を得ることができ、その分、昇温抑制物質の含有量を少なくすることができ、昇温抑制物質の添加量に起因する加熱回転体51の機械的強度の低下量を少なくすることができる。
【0038】
高イオン導電体としては、高温側で大きい電気伝導度を示す銀ハライド(例えば、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銀ルビジウム(RbAg))、銅ハライド(例えば、ヨウ化銅(CuI))、カルコゲナイト(例えば、硫化銅(AgS))、温度が上昇すると連続的に電気伝導度が大きくなるハロゲン陰イオン導電体(例えば、フッ化鉛(PbF)、フッ化ランタン(LaF)、蛍石(CaF))、アルミナ(Naβ)、ガルシア(CaO)安定化ジルコニア(ZrO)、イットリア安定化ジルコニア(ZrO+Y)、ガドリア安定化ジルコニア(ZrO+Gd)、1次元導電体(例えば、ホランダイト)、プロトン導電体(例えば、BaCeO)などを用いることができる。加熱回転体51の非通紙領域における過剰昇温を効果的に抑制するという観点から、定着温度よりも高温側で電気伝導度が急激に増加する相転移温度を有し体積抵抗率の低下率が大きいもの(例えば、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI))を加熱回転体51用の高イオン導電体として用いることが望ましい。
【0039】
例えば、ヨウ化銀(AgI)は、定着温度近傍の温度(約150℃)領域に相転移温度を有し、非通紙領域において定着温度(例えば、145℃)を超えると、すぐに相転移温度に達し、電気伝導度が急激に上昇し、その体積抵抗率が大きく低下するので、非通紙領域における過剰昇温に対し、迅速に応答して過剰昇温を抑制させることができる。
なお、ヨウ化銀(AgI)が相転移を起こす相転移温度は、通常は147℃であるが、相転移温度は、その粒子サイズに依存し、粒子サイズが小さくなる程、相転移温度は、低くなる。従って、定着温度に応じて粒子サイズを調整することで、定着温度の近傍で定着温度よりも高温側で相転移が起こるように調整することができ、これにより、加熱回転体51の非通紙領域の温度が定着温度を超えると、すぐに相転移により、高イオン導電体層515の体積抵抗率を低下させ、効果的に過剰昇温防止効果を発現させることができる(例えば、特開2010−260759号公報、段落55、図8の記載参照)。
【0040】
各粒子サイズのヨウ化銀(AgI)は、硝酸銀(AgNO)水溶液と有機ポリマーであるPVP(ポリ−N−ビニル−2−ピロリドン)の水溶液を常温常圧下で混合し、ろ過、乾燥させることにより得られる。硝酸銀とPVPの比率など、作製条件を変えることで、異なる粒子サイズ(10〜50nmの範囲の異なる粒子サイズ)のヨウ化銀が得られる(例えば、特開2010−260759号公報、段落23の記載参照)。
【0041】
高イオン導電体層515の厚さは、抵抗発熱体層514の厚さに応じて決定される。例えば、抵抗発熱体層514の厚さが100μmであれば、高イオン導電体層515の厚さを20〜200μmとすることができる。
図3の説明に戻って、弾性層516は、記録シート上のトナー像に均一かつ柔軟に熱を伝えるための層である。弾性層516を設けることにより、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止し、画像ノイズの発生を防止することができる。弾性層516の材料としては、耐熱性と弾性とを有するゴム材や樹脂材を用いる。例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性エラストマーを材料として用いることができる。
【0042】
弾性層516の厚さは、10〜800μm、さらに望ましくは100〜300μmの範囲内のものとする。弾性層516の厚さが10μm未満では厚さ方向の十分な弾力性を得ることが難しい。また、この厚さが800μmを超えていると、抵抗発熱体層514で発生した熱を加熱回転体51の外周面まで到達させることが難しく、熱伝熱効率が悪いので好ましくない。
【0043】
離型層517は、加熱回転体51の最外層をなし,加熱回転体51と記録シートとの離型性を高めるための層である。離型層517の材料としては、定着温度での使用に耐えられるとともにトナーに対する離型性に優れたものを使用することができる。例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PTFE(四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化エチレン共重合体)、PFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂を使用することができる。離型層517の厚さは5〜100μm、望ましくは10〜50μmの範囲内のものとするのがよい。
【0044】
図2の説明に戻って、定着ローラ52と加圧ローラ53は、芯金522、532の軸方向両端部521、531が図示しないフレームの軸受部に回転自在に軸支される。加圧ローラ53は、駆動モータ(不図示)からの駆動力が伝達されることにより矢印B方向に回転駆動される。この加圧ローラ53の回転に伴って加熱回転体51と定着ローラ52が矢印A方向に従動回転する。
【0045】
定着ローラ52は、長尺で円筒状の芯金522の周囲を断熱層523で被覆されてなり、加熱回転体51の周回経路の内側に配されている。芯金522は、定着ローラ52を支持する部材であり、耐熱性と強度を有する材料から構成される。芯金522の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。
断熱層523は、加熱回転体51が発熱した熱を芯金522に逃がさないようにするための層である。断熱層523の材料としては、熱伝導率が低く、耐熱性及び弾性を有するゴム材や樹脂材のスポンジ体(断熱構造体)を用いるのが望ましい。加熱回転体51のたわみを許容し、ニップ幅を広くすることができるからである。断熱層523を、ソリッド体とスポンジ体との2層構造にしてもよい。シリコンスポンジ材を断熱層523として用いる場合には、その厚さを1〜10mmとするのが望ましい。さらに望ましくは、2〜7mmとするのがよい。
【0046】
加圧ローラ53は、円筒状の芯金532の周囲に、弾性層533を介して離型層534が積層されてなり、加熱回転体51の周回経路外側に配置され、加熱回転体51の外側から加熱回転体51を介して定着ローラ52を押圧して、加熱回転体51の外周面との間に周方向に所定幅を有する定着ニップが形成される。芯金532は、加圧ローラ53を支持する部材であり、耐熱性と強度を有する材料から構成される。芯金532の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等を用いることができる。
【0047】
弾性層533は、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体で、厚さ1〜20mmの範囲内の耐熱性の高い材料で構成される。離型層534は、離型層517と同様に、加圧ローラ53と記録シートとの離型性を高めるための層であり、離型層517と同様の材料及び厚さで構成することができる。
[3]加熱回転体の製造方法
本実施の形態に係る加熱回転体51は、以下に示す(1)〜(10)の工程を経て製造される。
(1)円筒状金型の表面へ補強層513の前駆体を塗布する工程
円筒状の金型の表面に離型剤を塗布して型離れを良くした後、ポリイミド前駆体溶液を補強層513の前駆体として塗布する。円筒状の金型としては、例えば、アルミニウム製のものを用いることができる。離型剤としては、例えば、シリコーンを用いることができる。ポリイミド前駆体溶液は、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶媒中で、約90℃以下で反応させることにより得られる。
【0048】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
又、芳香族ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ビフェニル等を用いることができる。
【0049】
(2)補強層513の成形工程
塗布されたポリイミド前駆体溶液を加熱して補強層513を成形する。ポリイミド前駆体溶液の加熱は、ポリイミド前駆体が半硬化状態になるように加熱する。例えば、約100℃のオーブンで1時間程度加熱する。
【0050】
(3)抵抗発熱体層514の前駆体を成形された補強層513の外面に塗布する工程
ポリイミド前駆体溶液中に金属微粒子を混合することにより、抵抗発熱体層514の前駆体溶液を調製し、成形された補強層513の外面に塗布する。ポリイミド前駆体溶液は、(1)の場合と同様にして得られる。抵抗発熱体層514の前駆体溶液は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、金属微粒子の重量が50〜300重量%となるように、各構成成分が混合されて調製される。金属微粒子の重量は、定着装置5の発熱量が500〜1500Wの範囲内になるように、抵抗発熱体層514の体積抵抗率を調整するため、上記範囲に設定されている。
【0051】
(4)抵抗発熱体層514の成形工程
塗布された抵抗発熱体層514の前駆体溶液を、(2)の場合と同様に、ポリイミド前駆体が半硬化状態になるように加熱して抵抗発熱体層514を成形する。
(5)ポリイミド前駆体のイミド化工程
成形された補強層513及び抵抗発熱体層514中のポリイミド前駆体を加熱し、ポリイミド前駆体のイミド化を完了させる。ポリイミド前駆体の加熱は、例えば、約350℃で1時間程度加熱することにより、行う。これにより、両層のイミド化がほぼ同時に完了し、補強層513と抵抗発熱体層514との間の接着性を高めることができる。
【0052】
(6)高イオン導電体層515を抵抗発熱体層514の外面に塗布、成形する工程
5重量%のヨウ化カリウム水溶液に、高イオン導電体(ここでは、ヨウ化銀(AgI)とする。)の重量%が50%となるように、高イオン導電体を溶解し、当該溶解液にキシレンの重量%が50%となるように、キシレンを溶解し、さらに、キシレンを溶解した溶液に、ポリオールの重量%が1〜2%となるように、ポリオール加え、ポリオール添加後の溶液を100℃の雰囲気下で、(5)で成形した抵抗発熱体層514にスプレーコートし、高イオン導電体層515を成形する。ポリオールを加えることにより、抵抗発熱体層514との接着性や高イオン導電体同士の結着性を向上させることができる。
【0053】
又、上記の方法の代わりに、キシレン中に高イオン導電体の粉体を、重量%が50%なるように投入し、ポールミルあるいはアトライターなどにより粉体を湿
式粉砕した後、ポリオールを重量%が1〜2%になるように加え、ポリオール添加後の溶液を100℃の雰囲気下で、(5)で成形した抵抗発熱体層514にスプレーコートして、高イオン導電体層515を成形することとしてもよい。
【0054】
或いは、メッキやスパッタリングによって、高イオン導電体層515を抵抗発熱体層514上に積層して、高イオン導電体層515を成形することとしてもよい。
(7)弾性層516の前駆体を高イオン導電体層515の外面に塗布する工程
高イオン導電体層515の外面にプライマーを塗布して乾燥した後、さらに、シリコーンゴム前駆体溶液を塗布する。プライマーとしては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−405」を用いることができる。
【0055】
又、シリコーンゴム前駆体溶液としては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−A6361」を用いることができる。
(8)弾性層516の成形工程
塗布されたシリコーンゴム前駆体溶液を加熱して一次加硫を行い、弾性層516を成形する。一次加硫は、シリコーンゴム前駆体溶液を、例えば、約150℃のオーブンで10分程度加熱することにより行われる。
【0056】
(9)離型層517で弾性層516の外面を被覆する工程
弾性層516との接着性をよくするために離型層517の内面にシリコーンゴム前駆体の付加型液状シリコーンゴムを塗布した後、当該離型層517で弾性層516を被覆する。付加型シリコーンゴムとしては、例えば、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XE15−B7354−40K×2S」を用いることができる。又、離型層516としては、例えば、PFAチューブを用いることができる。
【0057】
(10)接着工程
弾性層516及び離型層517に塗布されたシリコーンゴム前駆体を加熱して二次加硫を行い、両層を接着する。二次加硫は、シリコーンゴム前駆体を例えば、約200℃のオーブンで4時間程度加熱することにより行われる。
(11)電極511の成形工程
円筒状金型の両端部において、成形された弾性層516及び離型層517を剥がし、剥がした部分に電極511、512を成形する。電極511、512の成形は、例えば、導電性テープを貼り付けたり、導電性ペーストを成形した後、加熱処理を行ったりすることにより、行われる。
【0058】
(1)、(3)、(6)における各塗布工程では、塗布液の塗布を例えばリングコート法において行うことができる。「リングコート法」とは、円筒状金型の外周を取り囲む円筒状の塗布機構により円筒状金型の外周面に均一に塗布液を塗布する塗布方法のことをいう。図5は、リングコート法の具体例を示す図である。
図5(a)は、符号5で示す塗布液の塗布完了時の状態を示し、図5(b)は、塗布液の塗布を行っている途中の状態を示す。両図に示すように、符号1で示す円筒状金型は、符号2、3で示す支持部材により鉛直に支持された状態で、符号4で示す塗布機構により円筒状金型1の外周面が均一に塗装される。塗布機構4は、上部ヘッド41と下部ヘッド42から構成され、両者の間には、塗布液5を吐出するための吐出路43が形成されている。
【0059】
塗布機構4に塗布液5を供給しながら、円筒状金型1の一方の端部から他方の端部に所定の速度で移動させることにより、円筒状金型1の外周面に塗布液5が均一に塗布される。
(実施例)
本実施の形態に係る定着加熱体51について、非通紙領域における過剰昇温の抑制効果及び機械的強度を評価する実験を行った。
(1)評価用の加熱回転体の調製
(a)加熱回転体51の作成
実施の形態で説明した製造方法([3]加熱回転体の製造方法)に従って加熱回転体51を作成した。円筒状金型としては、外径が30mm、長さが400mmのアルミニウム製のものを用いた。円筒状金型に塗布する離型剤としては、シリコーンを用いた。補強層513の前駆体としてのポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体の固形重量が20%のものを用い、補強層513の成形工程における加熱は、100℃のオーブンで1時間とした。
【0060】
抵抗発熱体層514の前駆体を成形された補強層513の外面に塗布する工程においては、ポリイミド前駆体溶液と混合する金属微粒子をニッケル(Ni)とし、混合比を、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、ニッケル(Ni)100重量%とした。補強層513の成形工程における加熱は、100℃のオーブンで1時間とし、ポリイミド前駆体のイミド化工程における加熱は、350℃で1時間とした。
【0061】
弾性層516の前駆体を高イオン導電体層515の外面に塗布する工程においては、高イオン導電体層515の外面に塗布するプライマーとして、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−405」を用いた。又、シリコーンゴム前駆体溶液として、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XP81−A6361」を用いた。
【0062】
弾性層516の成形工程における一次加硫は、150℃のオーブンで10分間加熱することにより行った。離型層517で弾性層516の外面を被覆する工程
においては、付加型シリコーンゴムとして、モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製の「XE15−B7354−40K×2S」を用い、離型層515として、PFAチューブを用いた。
【0063】
接着工程における二次加硫は、200℃のオーブンで4時間加熱することにより行った。電極511、512の成形工程においては、両端部において弾性層516及び離型層517を、長手方向に各10mmの長さだけ剥がし、そこに3M製銅箔テープJE430001998の導電性テープを貼り付けることにより、電極511、512を成形した。
上記の各工程を経ることにより、離型層517の厚さが30μm、弾性層516の厚さが200μm、補強層513の厚さが30μm、抵抗発熱体層514の厚さが50μmで、高イオン導電体層515の厚さが25μmの加熱回転体51と高イオン導電体層515の厚さが50μmの加熱回転体51とがそれぞれ得られた。得られた加熱回転体51の電気抵抗値は、25℃で10.2Ωであった。
【0064】
(b)比較用加熱回転体1の作成
抵抗発熱体層514の前駆体を成形された補強層513の外面に塗布する工程においてポリイミド前駆体溶液と混合する物質を、金属微粒子とする代わりに、金属微粒子及びカーボンナノファイバーとする点、及び高イオン導電体層515を形成しない点を除いて、(a)と同じ工程を経ることにより作成した。金属微粒子としては、ニッケル(Ni)を用いた。
【0065】
又、ポリイミド前駆体溶液と混合する混合比は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、ニッケル(Ni)100重量%、カーボンナノファイバー25重量%とした。これにより、離型層517の厚さが30μm、弾性層516の厚さが200μm、補強層513の厚さが30μm、抵抗発熱体層の厚さが60μmの比較用加熱回転体1が得られた。得られた比較用加熱回転体1の電気抵抗値は、25℃で9.6Ωであった。
【0066】
(c)比較用加熱回転体2の作成
抵抗発熱体層514の前駆体を成形された補強層513の外面に塗布する工程においてポリイミド前駆体溶液と混合する物質を、金属微粒子とする代わりに、金属微粒子及び高イオン導電体とする点、及び高イオン導電体層515を形成しない点を除いて、(a)と同じ工程を経ることにより作成した。金属微粒子としては、ニッケル(Ni)を用い、高イオン導電体としてヨウ化銀(AgI)を用いた。
【0067】
又、ポリイミド前駆体溶液と混合する混合比は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体の固形重量に対して、ニッケル(Ni)100重量%、ヨウ化銀50重量%とした。これにより、離型層517の厚さが30μm、弾性層516の厚さが200μm、補強層513の厚さが30μm、抵抗発熱体層の厚さが100μmの比較用加熱回転体1が得られた。得られた比較用加熱回転体2の電気抵抗値は、25℃で10.6Ωであった。
【0068】
(2)体積抵抗率の温度変化
(1)の(a)及び(b)で調製した各加熱回転体(加熱回転体51(高イオン導電体層515の厚さが50μmの加熱回転体51)、比較用加熱回転体1)について、体積抵抗率の温度変化を調べた。図6は、各加熱回転体における体積抵抗率の温度変化を示す図である。同図において、符号601は、加熱回転体51における体積抵抗率の温度変化を示す。符号602は、比較用加熱回転体1における体積抵抗率の温度変化を示す。体積抵抗率の測定は、各加熱回転体の電極に電力計(HIOKI製3332)と電源(KIKUSUI製PCR2000M)を接続し、加熱しながら電圧と電流を測定することにより、行った。
【0069】
同図に示すように、加熱回転体51では、温度が約150℃を超えると体積抵抗率が急激に低下している。比較用加熱回転体1では、体積抵抗率は、温度変化に係らずほぼ一定値を示している。
(3)昇温性能及び過剰昇温防止効果の評価
(1)で調整した各加熱回転体を用いて定着装置を構成し、その昇温性能及び過剰昇温防止効果をそれぞれ評価した。昇温性能の評価方法は、以下に示す方法により行った。構成した各定着装置について、ウォームアップを開始してから、各加熱回転体の温度が定着温度に相当する155℃に達するまでの時間(昇温時間)を測定することにより、行った。このときのニップ圧は、300N(ニュートン)、ニップ幅は7mm、加圧ローラの周速度は186mm/s、投入電力は、商用電源で印加できる範囲内の1000Wとした。又、上記の方法における各加熱回転体の温度は、放射温度計(コニカミノルタセンシング製TA−0510F)を用いて測定した。
【0070】
又、過剰昇温防止効果の評価は、以下に示す方法により行った。構成した各定着装置の定着ニップに用紙を連続して通紙した後における、当該定着装置の加熱回転体の非通紙領域の温度上昇をそれぞれ調べた。このときのニップ圧は300N(ニュートン)、ニップ幅は7mm、加圧ローラの周速度は、186mm/s、定着加熱体の制御温度は155℃とし、通紙させる用紙のサイズは、A4サイズ(縦)、給紙速度は30枚/分とした。そして、100枚連続通紙した後に、当該定着装置の加熱回転体における軸方向(通紙方向と直交する方向)の最大温度差を赤外線サーモグラフィ(NEC三栄製サーモトレーサTH7100)を用いて測定することにより、各定着装置における過剰昇温防止効果を評価した。
【0071】
図7は、昇温性能及び過剰昇温防止効果の評価結果を示す図である。同図に示すように、加熱回転体51を用いた定着装置では、昇温時間が8.2s(秒)であり、比較用加熱回転体2を用いた定着装置における昇温時間10.5s(秒)に比べ昇温時間が短く、又、軸方向の最大温度差が23℃であり、比較用加熱回転体1の軸方向の最大温度差73℃に比べ、最大温度差が小さく、良好な昇温性能及び過剰昇温防止効果を示している。
【0072】
一方、高イオン導電体の代わりにカーボンナノファイバーを含む、比較用加熱回転体1を用いた定着装置では、加熱回転体51を用いた定着装置と同様に良好な昇温性能を示す(昇温時間が7.9s(秒))が、過剰昇温防止効果が加熱回転体51を用いた定着装置よりも劣っている。
又、高イオン導電体を抵抗発熱体層に分散させて構成した比較用加熱回転体2を用いた定着装置では、加熱回転体51を用いた定着装置と同様に良好な過剰昇温防止効果を示す(軸方向の最大温度差が25℃)が、昇温性能が加熱回転体51を用いた定着装置よりも劣っている。
【0073】
このように、加熱回転体51のように、抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515とを、各層について通電可能なように二層に積層する構成とすることにより、商用電源で印加できる範囲内で、良好な昇温性能を維持しつつ、非通紙領域において充分な過剰昇温防止効果を得ることができる。
【0074】
(4)機械的強度
加熱回転体51と比較用加熱回転体1について、機械的強度を比較した。機械的強度は、各加熱回転体を構成する補強層513と発熱層(加熱回転体51の場合は、抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515とを合わせた層、比較用加熱回転体1の場合は、抵抗発熱体層)とから成るポリイミド樹脂層について、ロードセル式引張試験機(モンサント社製Tenso meter 10)を用いて引張強度をJIS K7127規格に準じて測定した。引張強度の測定は、引張速度200mm/min、試験温度23℃(常温)の条件下で行い、試験片は2号型試験片を用いた。
【0075】
その結果、加熱回転体51の引張強度は、3068kg/cm、比較用加熱回転体1の引張強度は、1967kg/cm、比較用加熱回転体2の引張強度は、2243kg/cmであった。この結果は、カーボン含有物質であるカーボンナノファイバーの代わりに、同重量%の高イオン導電体であるヨウ化銀(AgI)を用いることにより、加熱回転体の機械的強度が強化されたことを示している。又、加熱回転体51のように、抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515とを、各層について通電可能なように二層に積層する構成とすることにより、高イオン導電体を抵抗発熱体層に分散させて構成した比較用加熱回転体2よりも加熱回転体の機械的強度が強化されることを示している。
【0076】
このように、非通紙領域における過剰昇温を抑制するために、カーボン含有物質を用いる代わりに高イオン導電体を用いることにより、加熱回転体の非通紙領域における過剰昇温を抑制しつつ、機械的強度の低下を防ぐことができる。
(変形例)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0077】
(1)本実施の形態においては、補強層513の上に抵抗発熱体層514、高イオン導電体層515をこの順に積層して、加熱回転体51を構成することとしたが、抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515の積層順を入れ替えて加熱回転体を構成することとしてもよい。
(2)本実施の形態においては、加熱回転体51は、電極511、512、補強層513、抵抗発熱体層514、高イオン導電体層515、弾性層516、離型層517から構成することとしたが、補強層513、弾性層516を含まない構成とすることとしてもよい。
【0078】
(3)本実施の形態においては、加熱回転体51の形態を、無端状のベルトとしたが、加熱回転体の形態としては、ベルトの形態に限定されず他の形態であってもよい。例えば、加熱回転体を、図8に示すように、芯金801の外周面に弾性層802を備える定着ローラ800とし、弾性層802の外周に、本実施の形態の発熱層(抵抗発熱体層514と高イオン導電体層515との積層構造)と同一構成の発熱層803を形成することとしてもよい。なお、図8では、図示を省略しているが、定着ローラ800の発熱層803の外周には、本実施の形態の離型層517と同一の構成の離型層が設けられている。又、発熱層803と離型層の間にさらに、本実施の形態の弾性層516と同一構成の弾性層を介在させることとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、プリンタ、複写機等の画像形成装置が備える定着装置に関し、特に定着装置用の加熱回転体に関する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 プリンタ
3 画像プロセス部
3Y〜3K 作像部
4 給紙部
5 定着装置
10 露光部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラ
13 従動ローラ
14、35Y クリーナ
31Y 感光体ドラム
32Y 帯電器
33Y 現像器
34Y 1次転写ローラ
41 給紙カセット
42 繰り出しローラ
43 搬送路
44 タイミングローラ
45 2次転写ローラ
46 2次転写位置
51 加熱回転体
52 定着ローラ
53 加圧ローラ
60 制御部
71 排出ローラ
72 排紙トレイ
500 電源部
501、502 給電ブラシ
511、512 電極
513 補強層
514 抵抗発熱体層
515 高イオン導電体層
516 弾性層
517 離型層


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する発熱層を有する加熱回転体の外周面に、加圧回転体を圧接して定着ニップを形成し、未定着画像の形成された記録シートを当該定着ニップに通紙して熱定着する定着装置であって、
前記発熱層においては、
非導電性の耐熱性樹脂に金属微粒子が分散された抵抗発熱体層と、前記金属微粒子よりも電気伝導度が低く、温度上昇に伴い、当該電気伝導度が上昇する高イオン導電体を含む高イオン導電体層と、がそれぞれ通電可能なように二層に積層されている
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記発熱層は、前記抵抗発熱体層の上に前記高イオン導電体層が積層されて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記抵抗発熱体層にはさらに、非金属性の導電性粒子が含まれている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記高イオン導電体は、定着温度より高温側において電気伝導度が急激に増加する相転移温度を有する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記高イオン導電体は、AgI又はCuIである
ことを特徴とする請求項4記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の定着装置を備える
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−234066(P2012−234066A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102978(P2011−102978)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】