説明

定着部材及びそれを有する画像形成装置

【課題】基材、弾性層、離型層を順次有する定着部材において、弾性層が劣化し難い定着部材の提供、即ち、離型層形成時の熱による弾性層の劣化を低減して、画像ムラ、光沢ムラ、定着不良等の不具合の発生を防止することができると共に、耐久性を向上させた定着部材の提供。更に、該定着部材を有する画像形成装置の提供。
【解決手段】耐熱性の基材、該基材上に設けた合成ゴムを主成分とする弾性層、及び該弾性層上に設けたフッ素系樹脂を主成分とする離型層を順次有する定着部材であって、前記弾性層と離型層の間に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む中間層を設けるか、或いは、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層と、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層からなる中間層を設けた画像形成装置用定着部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写機、レーザープリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において用いられる定着部材、及びそれを有する画像形成装置に関する。
【0002】
近年、複写機やプリンタ等の画像形成装置はカラー化の傾向にあり、その割合は徐々に高まりつつあると言える。カラー画像形成装置は4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のトナーを記録材に定着させるものであり、中間色を作り出す際にはニップ部(定着部)においてトナーを均一に溶融させた状態で混合する必要がある。そのため、カラー画像形成装置に用いられている定着部材は、柔軟性、弾力性が必要とされ、基材と離型層との間に弾性層を設けた構成のものが提案されている。ここで、上述のような柔軟性、弾力性を持った弾性層を有する定着部材の一例として、図1(a)に定着部材の断面図を、図1(b)に断面の部分拡大図を示す。
定着部材(1)を作製するためには、ベルト基材(2a)又はローラ基材(2b)の表面に合成ゴムをコーティングして弾性層(3)を設け、更に、該弾性層(3)上にフッ素系樹脂をコーティングして離型層(4)を設けて定着ベルト(1)とする。なお、一般に各々の界面はプライマー処理されているが、ここでは図示していない。
【0003】
また、上述のような定着ベルトを組み込んだ定着装置を、図2(a)により説明する。図2(a)に示すように、金属パイプ表面に合成ゴムで構成された弾性層を有する定着ローラ(6)と、金属パイプの内側に第1のハロゲンヒータ(8a)を内蔵した加熱ローラ(5)とを設け、これら2本のローラ間に定着ベルト(1a)を張架する。定着ローラ(6)には、定着ベルト(1a)を介して加圧ローラ(7)が圧接されている。加圧ローラ(7)は金属パイプ表面に合成ゴムで構成された弾性層を設け、内側に第2のハロゲンヒータ(8b)を内蔵した構成である。
定着ベルト(1a)は、加熱ローラ(5)を定着ローラ(6)から離間する方向に付勢したり、図示しないテンションローラを別途設けたりすることによって弛み無く張架される。加熱ローラ(5)や加圧ローラ(7)の表面温度はセンサー(9a)、(9b)によって検知され、所定の設定温度(例えば約170℃)となるように制御されている。また、加熱ローラ(5)の表面温度検知は、加熱ローラ(5)、定着ローラ(6)間に張架した定着ベルト(1a)上の温度をセンサー(9c)により検知することもある。
【0004】
更に、上述のような定着ローラを組み込んだ定着装置を、図2(b)により説明する。図2(b)に示すように、表面に合成ゴムで構成された弾性層、及びフッ素系樹脂で構成された離型層を順次有する金属パイプの内側に第1のハロゲンヒータ(8a)を内蔵した定着ローラ(1b)と、加圧ローラ(7)が圧接されている。加圧ローラ(7)は金属パイプ表面に合成ゴムで構成された弾性層を設けた構成である。
定着ローラ(1b)や加圧ローラ(7)の表面温度はセンサー(9a)、(9b)によって検知され、所定の設定温度(例えば約170℃)となるように制御されている。
【0005】
上述のような定着部材の形成において、合成ゴムで構成される弾性層の上にフッ素系樹脂で構成される離型層を設ける方法としては、スプレーコート、ブレードコート、ディッピングコート等の湿式塗工法、又は電着塗装等の乾式塗工法を用いることができる。このように塗布されたフッ素系樹脂塗布層は、樹脂の融点以上の高温で溶融・焼成されて定着部材の離型層となる。
しかし、上述のような離型層に用いられるフッ素系樹脂は一般に融点が高く、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)で320〜330℃、四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)で300〜320℃、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂(FEP)で250〜280℃であり、何れも高温である。したがって、従来の定着部材においては、フッ素系樹脂を前記したような高温で成膜して離型層を形成する際に、弾性層を形成する合成ゴムが熱によって劣化してしまい、弾性層にクラック等が生じ易くなるという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題に対応するため、ローラ基材表面に設けられたシリコーンゴム層にカーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、酸化鉄から選ばれる添加剤を配合して耐熱性を向上させた定着ローラ(例えば特許文献1)、弾性層を構成する耐熱性合成ゴムに酸化錫及び酸化チタンから選ばれる少なくとも一つを含有させて耐熱性を向上させた加熱定着部材(例えば特許文献2)、等が提案されている。
しかしながら、合成ゴム自体の耐熱性を向上させた定着部材は、離型層の焼成における弾性層の劣化が軽減されるが必ずしも十分とは言えなかった。更に、近年は部品やユニットの高信頼性が求められており、特に画像形成装置に組み込んで長期使用した際の信頼性に関する要求が高まってきている。また、上記問題を解決するために合成ゴム自体に耐熱向上剤を添加すると、弾性層の比重が増大するのに伴って熱容量が増大して定着装置の立ち上げ時間、すなわち、ウォームアップ時間が長くなったりするという問題が現れる。また、熱容量が増すために、定着装置を所定の温度に維持するための消費電力も大きくなり、近年の省エネ化に関する要求に反するような問題も現れる。
【0007】
【特許文献1】特開平11−60955号公報
【特許文献2】特開2004−163715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題に鑑み、基材、弾性層、離型層を順次有する定着部材において、弾性層が劣化し難い定着部材の提供を目的とする。即ち、離型層形成時の熱による弾性層の劣化を低減して、画像ムラ、光沢ムラ、定着不良等の不具合の発生を防止することができると共に、耐久性を向上させた定着部材の提供を目的とする。更に、該定着部材を有する画像形成装置の提供を目的とする。なお、本発明における定着部材とは、ローラ、ベルト、シート等を指し、特に明記されない限り形状は限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の1)〜4)の発明(以下、本発明1〜4という)によって解決される。
1) 耐熱性の基材、該基材上に設けた合成ゴムを主成分とする弾性層、及び該弾性層上に設けたフッ素系樹脂を主成分とする離型層を順次有する定着部材であって、前記弾性層と離型層の間に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む中間層を設けたことを特徴とする画像形成装置用定着部材。
2) 耐熱性の基材、該基材上に設けた合成ゴムを主成分とする弾性層、及び該弾性層上に設けたフッ素系樹脂を主成分とする離型層を順次有する定着部材であって、前記弾性層と離型層の間に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層と、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層からなる中間層を設けたことを特徴とする画像形成装置用定着部材。
3) 弾性層上にフッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層を形成し、その上に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層を形成する工程を含むことを特徴とする2)記載の定着部材の製造方法。
4) 1)又は2)記載の定着部材を有することを特徴とする画像形成装置。
【0010】
以下、図面を参照して、上記本発明の実施形態を詳細に説明する。
図3は本発明1の実施形態の一例を示す断面図である。
定着部材(1)は、基材(2)の上に、図示しないプライマー層を介して、合成ゴムを主成分とする弾性層(3)、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む中間層(10)、及びフッ素系樹脂を主成分とする離型層(4)が順次設けてある。なお、中間層(10)において、炭素クラスターは弾性層(3)との界面側に偏って含有されていてもよい。
【0011】
図4は本発明2の実施形態の一例を示す断面図である。
定着部材(1)は、基材(2)の上に、図示しないプライマー層を介して、合成ゴムを主成分とする弾性層(3)、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層(10a)、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層(10b)、及びフッ素系樹脂を主成分とする離型層(4)が順次設けてある。
本形態では、弾性層(3)上に第1中間層(10a)を塗布した後、その上に第2中間層(10b)を塗布する工程を含む方法で製造することによって、定着部材の形状や形成過程に拘わらず、中間層(10c)における炭素クラスターを意図的に弾性層(3)との界面側に偏らせることができる。
【0012】
ここで、本発明に用いられる材料について、図3、図4を参照して詳しく説明する。
基材(2)としては、定着部材(1)が定着ベルトである場合には、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂、又はニッケルやステンレス等の金属からなるシームレスベルトが好ましく用いられる。また、定着部材(1)が定着ローラである場合には、例えば、アルミニウム、ステンレススチール、真鍮などの金属からなるパイプが好ましく用いられる。
【0013】
弾性層(3)には合成ゴムを主成分とする材料を用いる。ここで主成分とは、合成ゴムを、その特性が十分に発揮される割合で含むことを意味するが、通常は、目的に応じて適宜添加される充填剤などの汎用の添加剤は別として、合成ゴムのみを用いる。
合成ゴムとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等が好ましく用いられる。
弾性層(3)は、基材(2)上に、図示しないプライマー層を介して、合成ゴム溶液を塗工することによって塗布層を形成し、次いで、ゴムを加硫して形成することができる。また、塗工方法としては、有機溶剤等を用いて溶液の濃度を調整することにより、スプレーコート、ブレードコート、ディッピングコート等を用いることができる。
【0014】
図3における中間層(10)は、弾性層(3)上に炭素クラスターを分散させたフッ素系樹脂含有プライマーを塗工したのち、自然乾燥させて形成することができる。フッ素系樹脂含有プライマーとしては、フッ素系樹脂用のプライマーであれば特に限定されない。炭素クラスターの分散は、超音波分散やホモジナイザー等、一般的な方法を用いることができる。また、塗工方法としては、有機溶剤等を用いて溶液の濃度を調整することにより、スプレーコート、ブレードコート、ディッピングコート等を用いることができる。
中間層(10)の厚さは、0.1〜3μmの範囲内であれば特に限定されない。厚さが0.1μm未満では炭素クラスターの含有量が少なく、弾性層(3)に対する熱劣化抑制効果が十分に得られない場合がある。一方、厚さが3μmを超えると所望の接着性が得られない場合があり、定着部材の使用中に層間剥離が生じる恐れがある。
【0015】
図4における第1中間層(10a)は、前記中間層(10)と同様の組成である。
また、第2中間層(10b)としては、第1中間層(10a)を構成するフッ素系樹脂含有プライマーを用いても、異なるフッ素系樹脂含有プライマーを用いてもよい。
炭素クラスターを弾性層(3)との界面側に偏らせるためには、炭素クラスターを分散させたフッ素系樹脂含有プライマーを塗工・乾燥して第1中間層(10a)を形成した後で、その上に第2中間層(10b)を同様の方法で形成すればよい。
第1中間層(10a)及び第2中間層(10b)の厚さとしては、2層合計(10c)の厚さが0.1〜3μmの範囲内であれば特に限定されないが、第1中間層(10a)の厚さは0.1〜2μmであることが好ましい。第1中間層(10a)の厚さが0.1μm未満では炭素クラスターの含有量が少なく、弾性層(3)に対する熱劣化抑制効果が十分に得られない場合がある。一方、2層合計(10c)の厚さが3μmを超えると、所望の接着性が得られない場合があり、定着部材の使用中に層間剥離が生じる恐れがある。
【0016】
本発明で用いられる炭素クラスターとは、主に炭素原子のみが数十個〜数百個結合して形成されている集合体である。
炭素クラスターとしては、球状又は長球状の構造を有するもの(以下、フラーレンという)、チューブ状の構造を有するもの(以下、カーボンナノチューブという)、球体の一部が欠損したような籠状の構造を有するもの、平面構造を有する鱗片状の構造を有するもの等が挙げられる。これらの中では、フラーレンとカーボンナノチューブが好ましく用いられる。
【0017】
フラーレンは、種類や製造方法について特に限定されるものではないが、主に炭素原子のみで構成されており、球状又は長球形状をなすものである。また、特に炭素数が限定されることもなく、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96、又は一分子中の炭素数が96を超える高次フラーレン、及びそれらの誘導体を挙げることができる。また、これらのうちの2種以上のフラーレンの混合物等を用いることもできる。コストの面からは、C60又はC60/C70の混合物が好ましく用いられる。
フラーレンをフッ素系樹脂含有プライマーへ添加する方法としては、超音波分散やホモジナイザー等、一般的な方法を用いることができる。
なお、フラーレンにはラジカル捕捉能があるので、熱や酸素によってポリマーから発生したラジカルを捕捉し、ポリマー劣化の進行を抑制する作用があると考えられる。
【0018】
中間層(10)又は第1中間層(10a)におけるフラーレンの添加量は、それぞれの分散液(又は塗料)100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。添加量が0.01重量部未満では所望の耐熱性が得られない場合がある。一方、10重量部を越えると均一に分散できないだけでなく、中間層(10)又は第1中間層(10a)の成膜性が劣り、これらの層が均一に塗布できない場合がある。
【0019】
カーボンナノチューブ(以下、CNTという)は、種類や製造方法について特に限定されるものではないが、主に炭素原子のみで構成されており、直径が数nm〜数百nm程度のチューブ形状であれば、単層及び/又は多層のものを用いることができる。また、コイル状のもの、繊維状のもの、あるいは所謂ナノファイバーも用いることができる。更に、これらのうち2種以上の混合物等を用いることもできる。コストの面からは、直径10〜500nm、長さ50nm〜100μmのものが好ましく用いられる。一般に、CNTは互いに絡み合っておりマトリックスに対する分散性があまり良くないが、鎖状の長い高分子をグラフトさせる等の手法により、絡み合いを抑えて分散性を向上させることもできる。CNTをフッ素系樹脂含有プライマーへ添加する方法としては、超音波分散やホモジナイザー等の一般的な方法を用いることができる。なお、CNTにもフラーレンと同様のラジカル捕捉能があるので、熱や酸素によってポリマーから発生したラジカルを捕捉し、ポリマー劣化の進行を抑制する作用があると考えられる。
【0020】
中間層(10)又は第1中間層(10a)におけるCNTの添加量は、それぞれの分散液(又は塗料)100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。添加量が0.01重量部未満では所望の耐熱性が得られない場合がある。一方、10重量部を越えると均一に分散できないだけでなく、中間層(10)又は第1中間層(10a)の成膜性が劣り、これらの層が均一に塗布できない場合がある。なお、フラーレンとCNTは、各々を任意の分量で混合して各層に添加して使用しても良い。
【0021】
離型層(4)は、弾性層(3)上に炭素クラスターを含む中間層(10)又は(10c)を介してフッ素系樹脂分散液をスプレーコート等によって塗工することで塗布層を形成し、その後、フッ素系樹脂の融点以上の温度まで加熱して溶融・焼成することにより形成することができる。また、フッ素系樹脂の粉体塗料を用いた電着塗装等でも形成可能である。なお、離型層(4)を構成するフッ素系樹脂としては、PTFE、PFA、FEP、又はこれらの樹脂の混合物が好ましく用いられる。
【0022】
上記したように、中間層(10)、第1中間層(10a)、第2中間層(10b)、離型層(4)には、主成分としてフッ素系樹脂を用いるが、ここで主成分とは、フッ素系樹脂の特性が十分に発揮される割合で含まれることを意味する。即ち、上記各層には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じて充填剤、酸化防止剤、顔料、染料、界面活性剤、可塑剤、増粘剤、ワックス、オイル等の添加剤を任意に添加することができるが、その総量は、材料全体の1〜10重量%程度に抑えることが好ましい。炭素クラスターを含む層では、これも併せて、材料全体の1〜20重量%程度とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明1によれば、弾性層に接する中間層に炭素クラスターが含まれているので、離型層の焼成に伴う弾性層の熱劣化を大幅に抑制することができ、耐熱性、非粘着性、弾力性を有する定着部材が提供できる。
本発明2及び3によれば、定着部材の形状に拘わらず中間層に含まれる炭素クラスターを意図的に弾性層との界面側に偏らせた積層構造を形成することができるので、より効率的に弾性層の劣化を抑制することができる。
本発明4によれば、長期に亘って高品質な画像を安定して出力することができ、部品やユニット交換の頻度が少なく、信頼性の高い画像形成装置が提供できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0025】
(参考例)フッ素系樹脂含有プライマーの調製
攪拌機、バルブ、圧力ゲージ、温度計を備えた3L(リットル)のガラスライニング製オートクレーブに、純水1500mL、パーフルオロオクタン酸アンモニウム9.0gを入れ、窒素ガスで充分置換したのち真空にし、エタンガス20mLを仕込んだ。
次いで、ヒドロキシル基を有する含フッ素エチレン性単量体として、パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラヒドロ−2,5−ビストリフルオロメチル−3,6−ジオキサ−8−ノネン−1−オール)3.8g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)18gを窒素ガスを用いて圧入し、系内の温度を70℃に保ちつつ攪拌を行いながらテトラフルオロエチレンガスを内圧が8.5kgf/cmGとなるように圧入した。
次いで、過硫酸アンモニウム0.15gを水5.0gに溶かした溶液を窒素を用いて圧入して反応を開始した。
重合反応の進行に伴って圧力が低下するので、7.5kgf/cmGまで低下した時点で、テトラフルオロエチレンガスを用いて8.5kgf/cmGまで再加圧し、降圧、昇圧を繰り返した。テトラフルオロエチレンガスの供給を続けながら、重合開始からテトラフルオロエチレンガスが約40g消費されるごとに、前記ヒドロキシル基を有する含フッ素エチレン性単量体1.9gを計3回(計5.7g)圧入して重合を継続し、重合開始からの合計でテトラフルオロエチレンが約160g消費された時点で供給を止め、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出し、青みがかった半透明の水性フッ素系樹脂分散液1702gを得た。
得られた水性フッ素系樹脂分散液中のフッ素系樹脂の固形分濃度は、10.9重量%、動的光散乱法で測定した粒子径は、70.7nmであった。
更にこの水性フッ素系樹脂分散液を界面活性剤により濃縮し、固形分濃度を15重量%とした。
次いで、水性フッ素系樹脂分散液100重量部(固形分濃度15重量%)、界面活性剤(濃縮時に使用した量と併せて)1.0重量部、増粘剤:メチルセルロース水溶液(メチルセルロース4.8重量%)4.0重量部を均一混合し、SUS網(300メッシュ)で濾過して、フッ素系樹脂含有プライマーとした。
【0026】
実施例1
次の(a)〜(c)の工程により定着ベルトを得た。
(a)直径60mm、幅400mm、厚さ0.1mmのポリイミド樹脂製シームレスベルトの表面にシリコーンゴム用プライマー(東レダウコーニング社製、DY39−067)を厚さが1μmとなるようにスプレーコートし、この上にシリコーンゴム(東レダウコーニング社製、DY35−2083)のトルエン溶液をスプレーコートして厚さ200μmの塗布層を形成し、シリコーンゴムを120℃×15分間の1次加硫後、200℃×4時間の2次加硫を経て弾性層を形成する工程。
(b)この弾性層の上に、参考例のフッ素系樹脂含有プライマー100重量部に対し、0.1重量部のフラーレンC60(フロンティアカーボン社製、nanom purple N60−S)を分散させたプライマー組成物をスプレーコートした後、自然乾燥させて厚さ2μmの中間層を形成する工程。
(c)この中間層の上に、PFA分散液(三井・デュポンフロロケミカル社製、PFA945HP−Plus)をスプレーコートして厚さ30μmの塗布層を形成し、この塗布層を340℃で30分間焼成して離型層を形成する工程。
【0027】
実施例2
前記(b)の工程において、参考例のフッ素系樹脂含有プライマー100重量部に対し、0.1重量部のフラーレンC60(フロンティアカーボン社製、nanom purple N60−S)を分散させたプライマー組成物をスプレーコートした後、自然乾燥させて厚さ1μmの第1中間層を形成し、その上に、フラーレンを含まない参考例のフッ素系樹脂含有プライマーをスプレーコートした後、自然乾燥させて厚さ1μmの第2中間層を形成した点以外は、実施例1と同様の工程を順次経て定着ベルトを得た。
【0028】
実施例3
前記(b)の工程において、フラーレンの代りに、0.1重量部のカーボンナノファイバー〔昭和電工社製、VGCF(商標)〕を分散させたプライマー組成物を用いた点以外は、実施例1と同様の工程を順次経て定着ベルトを得た。
【0029】
実施例4
前記(b)の工程において、フラーレンの代りに、0.1重量部のカーボンナノファイバー〔昭和電工社製、VGCF(商標)〕を分散させたプライマー組成物を用いた点以外は、実施例2と同様の工程を順次経て定着ベルトを得た。
【0030】
実施例5
前記(a)の工程において、ポリイミド樹脂製シームレスベルトの代りに、直径40mm、長さ400mm、肉厚1.0mmのアルミニウムで構成される基材を用いた点以外は、実施例2と同様の工程を順次経て定着ローラを得た。
【0031】
実施例6
前記(a)の工程において、ポリイミド樹脂製シームレスベルトの代りに、直径40mm、長さ400mm、肉厚1.0mmのアルミニウムで構成される基材を用いた点以外は、実施例4と同様の工程を順次経て定着ローラを得た。
【0032】
比較例1
前記(b)の工程において、フラーレンを含まない参考例のフッ素系樹脂含有プライマーを用いた点以外は、実施例1と同様の工程を順次経て定着ベルトを得た。
【0033】
比較例2
前記(a)の工程において、ポリイミド樹脂製シームレスベルトの代りに、直径40mm、長さ400mm、肉厚1.0mmのアルミニウムで構成される基材を用いた点以外は、比較例1と同様の工程を順次経て定着ローラを得た。
【0034】
上記実施例1〜6、比較例1〜2で得られた定着部材について、「部材作製後の外観」を目視により観察した。
次いで、各定着部材を用いて複写を行い、複写枚数が「1枚」、「10万枚」、「20万枚」に達した時点での「画質(ベタ地)」を観察し、定着部材の表面の「複写後の外観」について異常の有無を目視により確認した。
評価基準は次の通りとした。
○ : 実用上、問題とならないレベル
△ : 若干の異変や画質の劣化が認められるレベル
× : 著しい異変や画質の劣化が認められるレベル
なお、ここでいう画質の劣化とは、ゆず肌や光沢ムラのことを意味する。これは、定着部材の弾性層が劣化することにより、定着部材表面の平滑性が失われたり、定着の圧力が不均一になったりしたことに起因するものである。
【0035】
評価結果を次の表1に示す。
【表1】

【0036】
実施例1〜6については、部材作製後(1枚)、10万枚、及び20万枚の複写を終えても、画質及び定着ベルトに特に異常は見られなかった。一方、比較例1〜2については、10万枚の複写を終えた時点で定着ベルト表面に多少のクラック、及び弾性層の硬化劣化による画質の劣化が見られたが、部品は破損していなかったので評価を継続した。
しかし、20万枚の複写を終えた時点では画質が著しく劣化し、定着ベルトを観察するとクラックが発生・成長しており、定着部材として満足に機能しないレベルまで劣化・破損していた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来の定着部材の構成を示す断面図。(a)全体図、(b)部分拡大図。
【図2】(a)従来のベルト定着装置の構成図。(b)従来のローラ定着装置の構成図。
【図3】本発明1の実施形態の一例を示す断面図。
【図4】本発明2の実施形態の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0038】
1 定着部材
1a 定着ベルト
1b 定着ローラ
2 基材
2a ベルト基材
2b ローラ基材
3 弾性層
4 離型層
5 加熱ローラ
6 定着ローラ
7 加圧ローラ
8a ハロゲンヒータ
8b ハロゲンヒータ
9a 温度センサー
9b 温度センサー
9c 温度センサー
10 中間層
10a 炭素クラスターを含むフッ素系樹脂で構成された第1中間層
10b 炭素クラスターを含まないフッ素系樹脂で構成された第2中間層
10c 中間層
P 記録材
T トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性の基材、該基材上に設けた合成ゴムを主成分とする弾性層、及び、該弾性層上に設けたフッ素系樹脂を主成分とする離型層を順次有する定着部材であって、前記弾性層と離型層の間に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む中間層を設けたことを特徴とする画像形成装置用定着部材。
【請求項2】
耐熱性の基材、該基材上に設けた合成ゴムを主成分とする弾性層、及び、該弾性層上に設けたフッ素系樹脂を主成分とする離型層を順次有する定着部材であって、前記弾性層と離型層の間に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層と、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層からなる中間層を設けたことを特徴とする画像形成装置用定着部材。
【請求項3】
弾性層上にフッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含む第1中間層を形成し、その上に、フッ素系樹脂を主成分とし炭素クラスターを含まない第2中間層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項2記載の定着部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の定着部材を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−179009(P2007−179009A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300805(P2006−300805)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】