説明

家畜排泄物を原料とする炭素体の製造方法及びその製造装置

【課題】 汚染源である家畜排泄物より炭素体の製造方法の提供
【構成】 家畜排泄物とフェノール樹脂を混合し一体化させた複合体を、500℃〜800℃の加熱により炭素化して得る炭素体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の排泄物を原料とし、抵抗発熱体フィラーや摺動部材の充填剤として好適に使用しうる炭素体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素体の製造方法として、環境問題を考慮して植物系材料より得た液化物を植物系原料に含浸させて無酸素雰囲気中で焼成し、通電材料、電子機器内の電磁シールド材、航空宇宙材料、原子力用材原料等の用途に供される可能性を有する硬質炭素製品(ウッドセラミックス)の製造方法がある(特許文献1参照)。この方法は原料を天然物に仰いだ製品であるので、エコロジー製品ということができる。
また、環境汚染源の1つとして家畜の排泄物がある。従来、家畜の排泄物、特に鶏糞の処理方法としては堆肥として供されていたが、この処理方法は広大な面積を必要とし、かつ、悪臭を放すためよりよい処理方法が検討されている。
例えば、家畜排泄物の処理方法及び有効利用する方法として、乾燥および発酵工程を経て、堆肥化が行われているが、処理工程、製品が有臭であることや、消費量の季節変動、保管性に問題があった。例えば鶏糞の場合、数割が堆肥化されているが、他は有効に利用されていないのが現状である。
鶏糞の処理方法として、例えば特許文献2には空気の供給が制限された雰囲気で300℃から800℃の温度で鶏糞を加熱して熱分解させる方法が開示されており、得られた鶏糞の炭化体は、特殊肥料や土質改良材、融雪剤として使用できることが開示されている。しかし、この方法で得られる炭化体は、0.50〜0.85g/ccで空隙率が大きい炭素体であることが記載されており、強度不足による粉化現象で取扱いが困難となり、例えば強度の必要な大規模な吸着塔充填用途には応用しがたいといった不都合や、抵抗発熱体用フィラーや摺動部材用フィラーなどの、充填性が必要な用途には供しがたいといった不都合があった。また、この処理方法によれば、牛排泄物、豚排泄物などの含水率の高い家畜排泄物を、処理できないという不都合があった。しかも、この方法によって得られた鶏糞の炭化体は悪臭を放つため、取り扱い上の問題があった。
【特許文献1】特開2000−60272号公報
【特許文献2】特開2002−303409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者らは、環境に配慮した方法で、家畜排泄物を処理し、従来の強度、密度、形状、機能性などの点において、従来の炭素体に遜色がなく、かつ悪臭のない炭素体を製造するため種々検討した結果、本発明を完成したもので、本発明の目的は、産業上有用な、悪臭の無い炭素体を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、家畜排泄物に含まれる植物組織残滓とフェノール樹脂が相互作用して得られる複合体を炭素化することにより、簡便に強固な機能性炭素体が得られることを見いだし、解決することができた。
すなわち、本発明の要旨は、家畜排泄物とフェノール樹脂を混合し一体化させた複合体を、500℃〜800℃の加熱により炭素化して得る炭素体の製造方法である。そして、この方法において
家畜排泄物とフェノール樹脂と共に、セメント成分を含有した複合体を加熱して炭素体を製造することが好ましく、また、使用するフェノール樹脂が請求項に記載される特性を有するフェノール樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明においては、上述のように、家畜排泄物とフェノール樹脂を混合し一体化させた複合体を、500℃〜800℃の加熱により炭素化することによって、従来の炭素体の特性に遜色のない、且つ悪臭のない炭素製品を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明について、詳細に説明する。
本発明に用いる家畜排泄物として、鶏糞、牛糞、豚糞、馬糞などがあげられ、必要に応じ、単独または混合して用いることができる。これらの排泄物は屎尿の混合物になっている場合が多いが、乾燥、凝集沈殿などの方法で固形分濃度を調整したものを用いても良い。例えば鶏卵鶏糞の場合、粗調整で40%水分量程度のものを安定的に確保することができる。
また、高水分率の家畜排泄物とフェノール樹脂を原料とする場合、原料である家畜排泄物とフェノール樹脂とにセメント質を添加、複合化することにより、家畜排泄物中の水分をセメントの水和反応で吸収し、所望の水分含有率とすることができる。
【0007】
本発明に用いるフェノール樹脂として、フェノールとホルムアルデヒドを塩基性触媒で重合して得られるレゾール樹脂、及び酸性触媒で重合して得られるノボラック樹脂があげられる。レゾール樹脂は100℃〜200℃に加熱する事により、またノボラック樹脂はヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤とともに100℃〜200℃に加熱する事により、架橋構造を有する熱硬化体になるため、他の例えば熱可塑性樹脂に比べて炭素化の際にペレット形状や、排泄物残滓の微細構造を保持する性質がある。また、フェノール樹脂も300℃以上の高温度では熱分解するが、芳香族環を多く有しているため残炭率が40〜50%と高く、良質な炭素体に変換し、家畜排泄物の微細な表面構造を被覆した炭素体が得られる。その結果、汎用の熱可塑性樹脂などを用いた場合に比べて、良好な結果を与える。
【0008】
また本発明に用いるフェノール樹脂として、例えば特公昭62−30211号公報に記載のような炭素含有量の大きいフェノール樹脂を特に好適に用いることができる。このフェノール樹脂は、(1)塩酸(HCl)濃度5〜28重量%、ホルムアルデヒド(HCHO)濃度3〜25重量%であり、かつ塩酸とホルムアルデヒドの合計濃度15〜40重量%である塩酸−ホルムアルデヒド浴に、(2)フェノール類を
浴比=(塩酸−ホルムアルデヒド浴の重量)/フェノール類の重量
で表される浴比が少なくとも8以上となるような割合に維持して接触させ、(3)この接触によりフェノール類の白濁を生成させ、その後、粒状ないし粉末状の固形物を形成するように前記接触を行い、この接触の間、反応系内の温度を45℃以下に維持することにより粒状ないし粉末状樹脂を得る、方法で製造することができる。樹脂の固形物は反応混合液から分離し、水洗し、アルカリ水溶液(アルカリ金属水酸化物,アンモニアなどの塩基を含有する水溶液)で中和してもよい。
【0009】
前記フェノール類には、フェノール、メタクレゾール、他のフェノール類(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、o−,m−又はp−C2-4アルキルフェノール、p−フェニルフェノール、キシレノール、ハイドロキノン、レゾルシンなど)などが含まれる。
【0010】
得られたフェノール樹脂は、1分子中に約70個程度のフェノール環を有するもので、(1)実質的に炭素、水素及び酸素原子で構成されており、(2)メチレン基,メチロール基,並びに3官能性のフェノール類残基を主たる結合単位として含有しており、3官能性のフェノール類残基は、2,4および6−位の一箇所でメチレン基と結合し、少なくとも他の1箇所でメチレン基及び/又はメチロール基と結合している。また、(3)KBr錠剤法による赤外線吸収スペクトルにおいて、波数1600cm-1(ベンゼンに帰属する吸収ピーク)での吸収強度をD1600とし、波数990〜1015cm-1(メチロール基に帰属する吸収ピーク)での最大吸収強度をD990-1015、波数890cm-1(ベンゼン核の孤立水素原子の吸収ピーク)での吸収強度をD890としたとき、D990-1015/D1600=0.2〜9.0(好ましくは0.2〜5、さらに好ましくは0.3〜4)程度、D890/D1600=0.09〜1.0(好ましくは0.1〜0.9,さらに好ましくは0.12〜0.8)程度である。このようなフェノール樹脂の1つとしてカネボウ(株)製ベルパールが市販されている。
【0011】
さらに、このフェノール樹脂は、(A)粒径0.1〜150μmの球状一次粒子および二次凝集物を含有し、(B)少なくとも全体の50重量%が100タイラーメッシュ篩を通過可能な大きさであり、(C)液体クロマトグラフィーによる遊離フェノール含有量は、通常、50〜500ppm(好ましくは400ppm以下、さらに好ましく300ppm以下)である。そして、この特殊フェノール樹脂の大過剰の熱メタノールによる抽出量は、20重量%以上(好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上)である。
【0012】
このフェノール樹脂は、微小な粒径の球状1次粒子および2次粒子からなるため、粉砕などの工程を経ずに本発明に用いることができる。また、毒性を有する遊離フェノール含有量がレゾール樹脂やノボラック樹脂に比べて著しく小さいため、ハンドリング時の安全性に優れている。また、炭素化工程において、揮発性の遊離フェノールが出ないことも安全性向上、残炭率向上に寄与する。また、フェノール樹脂の熱硬化反応は脱水縮合反応であり、多量の水分が生成し、ペレット形状を崩したり、発泡構造となる欠点がある。また、この生成水分の潜熱分の加熱エネルギーが必要となる。しかし、上記フェノール樹脂は、発生縮合水量が少ないため、形状の崩壊や発泡が起こらず、良質の炭素体を得ることが出来る。また残炭率が50〜60%と、他のフェノール樹脂に比べて高く、良質の炭素体表面を形成しうる。
【0013】
本発明においては、上述の家畜排泄物とフェノール樹脂とを混合し、一体化して複合体とする。この家畜排泄物とフェノール樹脂との混合は、均一な混合体が得られれば、特に限定されるものではない。フェノール樹脂の有機溶媒溶液や水溶液の場合は、高速ミキサーや、リボンブレンダーが好適に使用できる。排泄物中の植物性残滓への含浸が良好となるように、真空脱泡を行っても良い。
【0014】
粉末状フェノール樹脂を用いる場合は、家畜排泄物がスラリー状を呈するような水分含有率の場合には、添加に続いてバッチ式ニーダーや、連続式混練機により混練することにより、均一に混合できる。または、例えば鶏糞のように水分率が比較的低い排泄物の場合では、40%以下程度の鶏糞であれば、ミキサーなどで粉化して粉末状フェノール樹脂と混合する方法により、均一に分散できる。
【0015】
フェノール樹脂が粉末状態で混合されていても、加熱することにより樹脂を溶融せしめ、家畜排泄物と一体化、含浸状態とすることができる。家畜排泄物には水分が含まれているが、水分はフェノール樹脂の溶融粘度を低下させる作用を有しているからである。含浸が不十分な場合は、例えば粉体混合に引き続いて、少量の有機溶媒を添加して攪拌することにより、含浸を促進させることができる。溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類を良好に用いることができ、特にエタノールが低毒性の観点から有用である。
【0016】
家畜排泄物とフェノール樹脂の配合量は、目的に応じて適宜選定すれば良いが、全乾燥重量の内、家畜排泄物の乾燥重量/フェノール樹脂の乾燥重量の比率が99/1〜30/70、好ましくは97/3〜40/60である。全乾燥重量の70%を越えるフェノール樹脂添加量では、該当するフェノール樹脂のみを炭化焼成して得られる炭素体の機能が支配的となり、また、経済的にも得策ではない。フェノール樹脂の固形分を1%未満とすることは得られる炭素体の強度や機能発現に不十分であった。
【0017】
豚糞、牛糞のような、特に高含水量の家畜排泄物から、炭素化前駆体(この炭素化前駆体とは家畜排泄物とフェノール樹脂とを一体化して複合体としたものを指す。)を製造する方法としては、セメント質の添加が有効である。セメント質としては、ポルトランドセメントを良好に使用しうる。また、ポルトランドセメントの構成要素である、生石灰や、石膏を用いても同様の結果を得る。セメント質は排泄物に含まれる水分を結晶水として取り込みながら凝固すると同時に、フェノール樹脂と相互作用し、強固な凝結構造を作り出す。この構造は耐火性を示すため、炭化焼成において、ペレットの崩壊や膨れ変形を防止する。また、セメント質と同様に貝殻から採取される炭酸カルシウムを利用することができる。殊に貝殻由来の炭酸カルシウムを用いることは廃棄物として扱われている貝殻の利用という意味をも有する。そして、貝殻由来の炭酸カルシウムも炭化焼成時に二酸化炭素を放出して酸化カルシウムとなりセメント質からの場合と同様に作用する。
【0018】
セメント質、或いは貝殻を添加する場合(単にセメント質という)の配合は、用途に応じて適宜選定すればよいが、家畜排泄物の乾燥重量に対して、約5〜15%、好ましくは約10%程度である。
セメント質の過剰な添加は、相対的に水分量が不足する場合には、湿式造粒の妨げとなったり、炭化焼成時のペレットの崩壊の原因となる。また、土質改良材などに使用する場合には、セメント質の添加量は改良する土質に応じて選定する必要がある。セメント質の均一な混合方法としては、高含水率の家畜排泄物中にセメント質粉体をバッチ式ニーダーや連続式混練機などで混合する通常の方法が好適に使用できる。
【0019】
得られた家畜排泄物とフェノール樹脂の混合物、または、家畜排泄物とフェノール樹脂とセメント質の混合物は、ペレット化することが望ましい。ペレット化により、炭化焼成時の製品の均一化が達成できる。炭化焼成に際しては、ロータリーキルン装置のような連続式焼成装置を用いることが可能となる。
通常、転動造粒や、圧力をかけて細孔から押し出すようなペレット化装置を用いて任意の粒径にペレット化することができる。このような湿式造粒法に分類されるペレット化を行った場合は、70℃〜110℃で揮発成分を除去する乾燥工程を経て強固なペレットとなる。必要に応じ、例えばPVA、セルロース誘導体のような水溶性高分子に代表される、造粒補助材料を添加してもかまわない。
フェノール樹脂含有量が30%以上の場合には、フェノール樹脂を溶融して圧力下ペレット化することも可能である。これは、60℃以上、好ましくは80℃以上に加温することにより、フェノール樹脂を溶融せしめ、転動造粒あるいは細孔からの押し出しペレット化を行うことができる。
【0020】
得られた家畜排泄物とフェノール樹脂の混合物、または、家畜排泄物とフェノール樹脂とセメント質の混合物からなる、ペレットを、通常110℃、好ましくは150℃以上に加温することにより、フェノール樹脂が硬化した複合体となる。この硬化工程は、単独で、あるいは、ペレット化の最終段階である乾燥工程や溶融工程と連続して行うこともできる。
200℃以下の温度では、特に熱分解反応が起こらないため、加熱空気を用いることができる。後述するように、炭素化焼成工程と連続して、この硬化工程を行う場合は、加熱雰囲気の酸素濃度を低く調整することが望ましい。
【0021】
得られた家畜排泄物とフェノール樹脂の混合物、または、家畜排泄物とフェノール樹脂とセメント質の混合物からなる硬化ペレットを、炭化焼成して炭素体を得る。
種々の機能を持った炭素体を製造する方法として、例えば特開2003-034517号公報に記載のウッドセラミックスの製造方法に見られるように、植物体組織にフェノール樹脂を含浸して得られる前駆体を、炭素化することにより、植物体組織の複雑性を表面構造に有し、かつ残炭率の高いフェノール樹脂成分が、強度や特性を付与あるいは制御できるというシステムが提案されている。
本発明者らは、家畜排泄物の主成分が、家畜体内で消化された植物組織残滓であることに着目し、フェノール樹脂と結合、一体化し、炭素化する事で、特性を付与、あるいは制御できる炭素体を製造する方法を見出したのである。
【0022】
本発明において、炭化焼成に際しては、低酸素濃度の不活性ガス気流下あるいは密閉状態で、500℃〜800℃に加温し、好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上、熱処理する事により、炭素体を得ることが出来る。熱処理時間が短いと、炭化が不十分となる場合がある。
炭化焼成工程を前述の硬化工程と連続して行う事もできる。
【0023】
強度を有する炭素体を得るためには、用途に応じた形状が付与された前駆体の製造が必要となる。特開2002−303409号には、鶏糞をディスクペレッタのような、圧密化装置でペレット化する方法が提案されているが、牛糞や豚糞のような、高水分率の家畜排泄物の前駆体化には困難な場合がある。本発明者らは、フェノール樹脂が高水分率排泄物のペレット化バインダーとしての効果を有していることを見いだし、転動造粒などの低圧式造粒法でも前駆体を製造できることを見いだした。
【0024】
炭化焼成に用いる装置としては、バッチ式のガス炉、電気炉を用いることができる。また、製品の均一性、処理能力に優れた、トンネル炉のような連続焼成装置を用いることもできる。硬化体がペレット化されている場合には、ロータリーキルンのような連続式焼成炉を好適に用いうる。
【0025】
得られた家畜排泄物とフェノール樹脂の混合物、または、家畜排泄物とフェノール樹脂とセメント質の混合物を炭化焼成したペレットは、通常の解砕操作、分級操作を経て製品化してもよい。特にバッチ式の炭化焼成工程を選択した場合は、炭素体への発生熱分解ガスの再凝集により、炭素体が互いに固着している場合がある。
【0026】
家畜排泄物の処理及び有効利用のためには、不活性ガス下あるい空気の供給が遮断された状態での加熱による、炭化焼成(炭素化)が有効である。炭素体は濾過材、吸着剤、電磁シールド材料、摺動部材、摩擦材等に活用されている。
近年は、二次電池、湿度センサー、電気二重層コンデンサー、燃料電池などの電極素材としても使用されており、産業上有用な素材である。
【0027】
更に、家畜排泄物は、含水率が高い事や、有臭である事など、炭化に至る工程で不都合が生じる場合があるが、高分子量フェノール樹脂の使用や、必要に応じセメント質を複合化する方法などにより、効率的に炭素体を製造することができ、また、炭化の際に発生する揮発成分は、燃焼させて炭化処理に必要な熱エネルギーとして用いることができ、かつ有臭成分を無臭化する事ができた。
【0028】
得られた炭素体は、家畜排泄物に含まれている無機成分を有しており、無臭性かつ、保存性に優れた、肥料や土質改良材として使用することができる。また、この炭素体は単なる家畜屎尿灰に比べ強度を有しながら、かつ摺動特性や導電性など炭素体に特徴的な性能を発現するため、抵抗発熱体フィラーや摺動部材の充填剤として好適に使用しうる。また、炭化後あるいは炭化中の賦活処理により活性炭を得ることができるが、この活性炭は炭素細孔への物理吸着だけでなく、家畜排泄物に含まれる特徴的な元素や化学種の炭化体により、例えば重金属類の化学吸着作用を示すなど、機能性活性炭として使用しうる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例及び比較例を用いて、本発明の説明をさらに詳細なものとするが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
鶏卵場より採取した、鶏卵鶏糞(40wt%含水品)を、通風下105℃〜110℃に加温して乾燥鶏糞を得た。600gの乾燥鶏糞を、ヘンシェル型ミキサー(三井鉱山製)にて粉化し、フェノール樹脂としてベルパールS890(カネボウ(株)製)400gを、同ミキサーで攪拌混合した。得られた混合粉末を200℃ 3時間加熱処理することにより、上記フェノール樹脂が溶融硬化し、塊状体が得られた。得られた塊状体を解砕してペレットとしたものを、窒素ガス雰囲気下1分間5℃の昇温割合で800℃にし、この温度で2時間保持して、焼成炭素化して、炭素体を得た。
得られた炭素体を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面及び内部に、排泄物残滓に由来する無数の細孔を有しており、土壌改質剤として用いるに有効な、保水性や微生物担持作用を有している。また、多孔質であるにも関わらず、取扱い時に強度不足に起因する粉化は軽微であった。
【0030】
比較例1
鶏卵鶏糞に代えて、杉廃材チップを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行い、炭素体を得た。
【0031】
表1に実施例1及び、比較例1の肥料及び土質改良材としての比較を示した。実施例1で得られた多孔質炭化物は、肥料成分を高濃度に含んでいることが判明した。実施例1では、作物に障害を与えたり、臭気の原因となる排泄物中の易分解性有機物質成分を熱分解して炭化し、そして、無害化しているのが大きな特徴である。さらに、炭化によって、表面と内部に微細な細孔を形成させているため、保水性に加え、各種肥料成分の吸着を促進させる特性も兼ね備えている。これらのことから、農業・林業・緑化造園などにおける肥料及び土壌改良剤として好適に利用することができる。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1(CH)、比較例1(CE)の炭素体を火力発電所の石炭燃焼炉からの排出されるガス中に含まれる水銀吸着剤として用いた。すなわち、直径約1cmのガラス管中のフィルタに、表2に示した実験条件(試料量と測定温度)で炭素体を担持させ、水銀5μg/Lを含む排ガスを、1時間あたり1.0NM3の流量で流した。吸着結果(灰分に含まれる水銀量)を表2に示す。ここで、試料名CHは実施例1の試料、CEは比較例1の試料、その他比較試料はすべて市販品である。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果より、実施例1のCHは高い水銀吸着性が認められる(0.567−1.130ppm)。純粋に炭素のみからなる比較試料群のうち、BellFineは、顆粒状であり、比較的高い水銀吸着性が認められ、市販活性炭であるFluka05120も安定した吸着性(0.480-0.483ppm)が得られるが、市販品では1.130ppmもの高い水銀吸着性は達成されていない。実施例1のCHでは、炭素以外に水銀に対して親和性のあると考えられるカルシウム分やその他金属元素が多く含まれているため、水銀吸着に対しよい結果が得られる。
【0036】
比較例2
フェノール樹脂を用いることなく、鶏卵鶏糞のみを実施例1と同様に加熱処理、焼成炭素化して、炭素体を得た。
【0037】
実施例1、比較例2の炭素体のTG-DTA(リガクTG8120)をGC-MS(島津製作所QP-5050A)に接続し、30−300℃の間に放出される気体成分の測定を行った。この結果、比較例2の炭素体のみに悪臭成分であるアセトニトリル、ピリジン、スチレン、ベンゾニトリル、ベンゾフランが検出された。実施例1では、作物に障害を与えたり、臭気の原因となる排泄物中の易分解性有機物質成分を熱分解して炭化し、そして、無害化しているのが大きな特徴である。さらに、炭化によって、表面と内部に微細な細孔を形成させているため、保水性に加え、各種肥料成分の吸着を促進させる特性も兼ね備えている。これらのことから、農業・林業・緑化造園などにおける肥料及び土壌改良剤として好適に利用することができる。
【0038】
実施例2
表3として、鶏糞・フェノール樹脂からなる各種の炭素体試料について元素分析を行った結果を示す。
元素分析に使用した装置はLECO社製 CNS−2000型 CNS同時分析装置であって、C N及びSを分析した。分析法及び分析法は次の通りである。
分析法 Dumas法(燃焼法)
分析時間 約5分 積分時間30秒
キャリアガス 酸素、ヘリウム
燃焼温度 1350℃
助燃剤 無し
標準化試料 LECO社製有機分析キャリブレーション試料Sulfa-methazine(P/N 502・209)
(C:51.78,N:20.13%,S:11.52%)
【0039】
【表3】

【0040】
表3より、本発明に係る鶏糞・フェノール樹脂からなる炭素体は炭素含有量が約60〜66重量%と低く、炭素以外の元素を通常の炭素体に比して多く含有するため、通常の炭素含有量が約90%以上のウッド・セラミックスに比して例えば、各種の肥料成分の吸着促進能、或いは水銀吸着能等種々の機能を発揮することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜排泄物とフェノール樹脂を混合し一体化させた複合体を、500℃〜800℃の加熱により炭素化して得る炭素体の製造方法。
【請求項2】
前記複合体がセメント成分を含有することを特徴とする請求項1記載の炭素体の製造方法。
【請求項3】
フェノール樹脂が
(i)メチレン基,メチロール基,並びに3官能性のフェノール類残基を主たる結合単位として含有しており、
(ii)KBr錠剤法による赤外線吸収スペクトルにおいて、波数1600cm-1での吸収強度をD1600とし、波数990〜1015cm-1での最大吸収強度をD990-1015とし、波数890cm-1での吸収強度をD890としたとき、D990-1015/D1600=0.2〜9.0、D890/D1600=0.09〜1.0であり、
(iii)液体クロマトグラフィーによる遊離フェノール含有量が50〜500ppmである、
フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素体の製造方法。


【公開番号】特開2006−282493(P2006−282493A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108779(P2005−108779)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(591005453)青森県 (52)
【出願人】(599142349)株式会社角弘 (2)
【Fターム(参考)】