説明

密封形多列円すいころ軸受

【課題】密閉形多列円すいころ軸受において、軸受内輪端面と圧延ロール軸肩部との間での潤滑不良によって生じる恐れのある軸受内輪端面の異常磨耗を、軸受に簡単な形状を追加することで防止する。
【解決手段】軸受内輪端面1aの圧延ロール肩部10aと接触する側と内輪内径面に、油溝41と油溜まり42を形成し、そこに潤滑剤を塗布して保持させることで、軸受内輪端面1aと圧延ロール肩部10aの接触面との潤滑を保ち、軸受内輪端面1aと圧延ロール肩部10aの異常磨耗を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼用圧延機に使用される、圧延ロール用軸受の様な多列円すいころ軸受の潤滑性向上構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄鋼用圧延機の圧延ロールの支持には、
図1に示す様な、軌道輪である内輪1、外輪2と、両軌道輪1、2の間で転動自在に複列配置される転動体3と、転動体3を等間隔に保持する保持器4からなる4列円すいころ軸受100が使用されている。
図2の様に4列円すいころ軸受100はチョック200と呼ばれるハウジングに入れられ、圧延ロール10の両端を支持し、ラジアル荷重とスラスト荷重を支えるようになっている。
板状、または線状の圧延材を圧延ロール10で圧延し、板材、線材を形成する過程で、圧延ロール10は前記圧延材との重荷重接触により磨耗し、型崩れを生じる。また、圧延ロール10の表面粗さも次第に劣化していく。
圧延ロール10の形状、表面粗さは圧延材の形状に直接影響を及ぼす。圧延を繰り返していくと、圧延ロール10の形状、表面粗さの劣化は進行し、板材、線材に求められる形状や寸法精度を保持出来なくなる。
【0003】
圧延工程には熱間圧延と冷間圧延がある。熱間圧延においては圧延材の温度が1000度以上であるため、接する圧延ロール10の表面磨耗や劣化が著しい。
また、冷間圧延においては圧延速度が高速(1500m/min)であることと、圧延材が圧延中に加工硬化を生じ圧延抵抗が増大し、圧延を行うために、変形抵抗を上回る重荷重を負荷させる必要がある。その為、圧延材と圧延ロール10との間の油膜維持が困難となり、潤滑が乏しくなる。結果として圧延ロール10表面の磨耗や劣化が進行する。
【0004】
その為、熱間圧延機では約3時間毎に、冷間圧延機では約8時間毎に圧延ロール10とチョック200及び軸受100を共に圧延機から取り出し、既に形状と表面粗さの修正が完了している圧延ロールを直ちに組込み、再び圧延が行われる。
【0005】
取り出された圧延ロール10は、チョック200と分離され、圧延ロール10は研磨機に設置されロール表面を研磨し、表面形状と表面粗さの修正が行われる。併せて、チョック200内部の軸受の点検が行われる。
【0006】
上記のように熱間圧延、冷間圧延共に定期的に圧延ロール10表面の形状修正を行う必要があり、作業効率を上げるために、軸受内輪内径と圧延ロール10の軸とを緩みばめで嵌合させている。
【0007】
図2に示す開放型4列円すいころ軸受100は、ラジアル荷重とスラスト荷重を同時に受ける。スラスト荷重は圧延ロール肩部10aから開放型4列円すいころ軸受軸受100の内輪端面1aへと伝わっていく。軸受内輪内径と圧延ロール軸10とを緩みばめで嵌合させているため、軸受内輪内径と圧延ロール軸10との間ですべり(クリープ)を生じる。同時に、圧延ロール肩部10aと軸受内輪端面1aの間ですべりが生じる。軸受内輪内径と圧延ロール軸10との間でクリープが進行すると、軸受内輪内径と圧延ロール軸及び、軸受端面1aと圧延ロール肩部10aとの間で異常磨耗や発熱を生じる恐れがある。前記異常磨耗や発熱は、寸法異常やサーマルクラック等の軸受異常の原因となる。
【0008】
上記に対する先行技術として、軸受内部にオイルエアを供給し、内輪に形成した穴から内輪内径側にオイルエアを流すことで、軸受内輪と圧延ロールの嵌合部を潤滑して磨耗を防ぐものがある。従来の鉄鋼設備圧延機用軸受は図1に示すように、軸受密封シールの無い開放形仕様の軸受であるため、軸受内部の潤滑剤が図2のAの様に圧延ロール肩部10aと内輪端面1aに流れることで、圧延ロール肩部10aと内輪端面1aが潤滑され、すべりによる異常磨耗の発生が抑制されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−90737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記先行技術文献の様に、近年潤滑剤消費量の削減や、軸受内部への異物(水、スケール等)の浸入防止、軸受からの潤滑剤漏れ防止の要求に対応するため、図3に示すような軸受両端面に密封シールを取り付けた密封形4列円すいころ軸受300が主流になりつつある。その為、圧延ロール肩部10aと軸受内輪端面1aとの間に潤滑剤が従来に較べ充分に行き渡らない恐れがある。
上記に対する対策として、圧延ロール10を軸受(チョック200を含む)に挿入する際に、軸受内輪端面1aにグリース等の潤滑剤を塗布することで、すべりによる軸受内輪端面1aの異常磨耗を防止していた。しかし、圧延条件のさらなる高速化、重荷重化や材質改良による、圧延ロール10の耐磨耗性向上に伴うロール交換や研磨作業の周期が延長したことにより、圧延ロール肩部10aと軸受内輪端面1a間の潤滑不足が生じる恐れが出てきており、圧延ロール肩部10aと軸受内輪端面1aとの間のすべりによる異常磨耗のさらなる対策を講じる必要が生じている。
そこで、本発明は、鉄鋼設備圧延機に使用される密閉形多列円すいころ軸受について、設備の改造を必要とせず、圧延ロール肩部10aと軸受内輪端面1aとの異常磨耗を防止することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
複数の内輪と、複数の外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数のころと、
前記内輪と前記外輪の間に封入される潤滑剤と、
前記内輪及び前記外輪の両端部間に配置されて、芯金及びシール部材を有するシール装置と、
を備える鉄鋼設備圧延機の圧延ロールに使用される密封形多列円すいころ軸受であって、
前記内輪端面の、少なくとも圧延ロールの肩部に接する一端に、内輪端面の半径方向に形成された油溝を少なくとも1つ有し、
かつ、前記油溝が形成された前記内輪端面の内径面に、前記油溝の底面と接続する油溜まりを少なくとも1つ有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のような構成を有しており、前記内輪の端面に形成した油溝と、前記内輪内径面に形成され、前記油溝に接続する油溜まりを設け、潤滑剤を充填することで、前記内輪の端面に潤滑剤をより多く保持することが出来、内輪端面と圧延ロール肩部とのすべりによる軸受内輪端面部の異常磨耗や損傷をより長い期間に渡って防止することができるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】開放形4列円すいころ軸受を示す図である。
【図2】開放形4列円すいころ軸受とチョックと圧延ロールとの関係及び軸受潤滑剤の流れを示すものである。
【図3】密閉形4列円すいころ軸受を示すものである。
【図4】本発明による油溜まりの第1の実施例拡大図(a)断面図(b)正面図(c)X矢視図を示すものである。
【図5】本発明による油溜まりの第2の実施例拡大図(a)断面図(b)正面図(c)Y矢視図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の実施例を図4に示す。
軸受内輪端面1aの圧延ロール肩部10aと接する側に、少なくとも1箇所油溝41を形成し、かつ、油溝41が形成された前記内輪端面1aの内径面に、油溝41の底面と接続する油溜まり42を形成する。油溜まり42はエンドミルの回転軸を内輪1の軸と直交する向きとし、内輪端面1aから軸方向軸受中央側に切込み形成する。
【0015】
圧延ロール10をチョック200を含む軸受に挿入する際に、軸受内輪端面部1aに潤滑剤を塗布すると共に、油溝41、油溜まり42へ潤滑剤の充填を行う。充填する潤滑剤は油溝41及び油溜まり42で保持し易いグリースの様な半固形又は半流動性のものが好ましい。軸受内輪端面1aと圧延ロール肩部10aとの間にすべりが発生しても、塗布した潤滑剤により磨耗を防止する。また、油溜まり42により、潤滑剤の保持量が増大するため、密閉形の軸受であっても潤滑状態を良好に保つことが可能である。
【0016】
なお、油溜まり42の軸方向寸法が大きい程、潤滑剤の保持量は多くなり、より長期間に渡って潤滑状態を保持することが可能であるが、内輪軌道面33よりも軸方向中央側まで油溜まり42を形成すると、ラジアル方向の転動体荷重に対する強度が落ちてしまう。そのため、油溜まり42の軸方向長さを、油溝41の底面から内輪軌道面33の最端面側までの距離よりも短くし、油溝41及び油溜まり42を複数箇所に形成することで潤滑剤の保持量を確保するのが好ましい。
【0017】
第2の実施例を図5に示す。油溜まり43は、エンドミルの回転軸を内輪1の軸と平行な向きとし、内輪内径面より半径方向外側に切込み形成する。その他は第1の実施例と同様である。
なお、油溜まり42、43と、油溝41の幅と一致させなくとも良い。また、油溜まり42、43の形状は実施例によって限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
密封形多列円すいころ軸受として利用できる。
【符号の説明】
【0019】
1 内輪
1a 内輪端面
2 外輪
3 転動体
4 保持器
10 圧延ロール
10a 圧延ロール肩部
20 ハウジング
21 ハウジング蓋
22 ハウジング蓋
23 スラストカラー
24 割りリング
25 弾性体シール
31 シールホルダー
32 密封シール
33 内輪軌道面
41 油溝
42 油溜まり(実施例1)
43 油溜まり(実施例2)
100 開放形4列円すいころ軸受
200 チョック
300 密閉形4列円すいころ軸受
A 潤滑剤の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内輪と、複数の外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数のころと、
前記内輪と前記外輪の間に封入される潤滑剤と、
前記内輪及び前記外輪の両端部間に配置されて、芯金及びシール部材を有するシール装置と、
を備える鉄鋼設備圧延機の圧延ロールに使用される密封形多列円すいころ軸受であって、
前記内輪端面の、少なくとも圧延ロールの肩部に接する一端に、内輪端面の半径方向に形成された油溝を少なくとも1つ有し、
かつ、前記油溝が形成された前記内輪端面の内径面に、前記油溝の底面と接続する油溜まりを少なくとも1つ有することを特徴とする密封形多列円すいころ軸受

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72866(P2012−72866A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219250(P2010−219250)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】