説明

密封装置

密封装置(1)は、アーク炉の天井部(2)に設けられた開口部(3)を貫いて垂直に伸びて炉内を垂直方向に動くことができる棒電極(4)の周りに配設され、炉のガスが開口部(3)を介して外部に流出するのを防ぎ、また、空気が大気中から炉内へ流入するのを防ぐ。密封装置はガス供給室(5)を含み、ガス供給室は、窒素または空気などの実質的に不活性なガスをガス配給室に送り込む供給導管(6)を備える。また、密封装置は電極を囲むスリットノズル(7)を備え、このノズルを通じて、ガス供給室(5)から電極(4)に向かって、水平面に対して角度(α)でやや上方に傾斜した向きで、且つ炉の内部方向に対して外向きにガス噴流が放出されて、発生したよどみ点圧力の効果によって密封を実現する。


【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、冶金で使用する電気アーク炉の電極に係る密封に関するものである。本発明の対象は、請求項1の前段に規定する密封装置である。
【発明の背景】
【0002】
アーク炉は、金属の融解および/またはスラグの除去に使用する電気炉である。この炉は光アークを利用し、光アークは、電極間、もしくは電極と融解する原料との間のどちらでも発生する。炉は、交流電流または直流電流のどちらを利用してもよい。光アークを原料と電極の間で発生させる場合、光アークに熱が発生し、また原料にも熱が発生する。電力は、炉の中心点に対して均等に三角形に配設された垂直電極に伝導される。炉内の電極は、その先端が光アークによって消耗するため、電極のアセンブリ深度を継続的に調整する。
【0003】
電極は炉の天井部に設けられた貫通孔を通って、炉の内部へ伸びている。貫通孔の直径は電極の直径より大きく、これにより電極を自由に動かすことができ、電極と天井部との接触が防止される。電極と天井部の孔との間の間隙は、封止しなければならず、これにより、炉のガスが孔を通じて外部に流出するのを防ぎ、また大気中の空気が炉に入り込むのを防ぐ。
【0004】
従来の技術では、電極と天井孔との間の間隙を塞ぐための、たとえば黒鉛リングやブレーデッド・ロープシールなどの密封装置が公知であり、これらは液圧で電極に押し付けられる。種々の機械式密封装置が、たとえばフィンランド特許公報第81197号、フィンランド特許公報第64458号、ドイツ特許公報第1540876号、およびスウェーデン特許公報第445744号により公知である。液圧を生むために使用される液体は水である。
【0005】
機械式密封装置は、実際には電極の表面が完全に円筒形で滑らかなものでなく、真円でも均一でもない場合があり、そのため、電極が垂直方向に動くと、電極の外面と接触する封かんが損耗するという欠点を有する。これにより、封かんが弱体化する。しかしながら、還元性雰囲気のアーク炉では、炉内に空気を漏入させてはならない。また、炉内は一酸化炭素雰囲気となっている。一酸化炭素は非常に有害であるため、一酸化炭素を炉外に漏出させてもいけない。また、空気が炉に流入すると、一酸化炭素が燃え始め、孔付近の温度が非常に高くなるため、炉構造体が破損してしまう。炉内に配設されたソダーバーグ電極の成分は白熱黒鉛である。空気の漏入によって、黒鉛が燃焼して急速に損耗する。これにより、ソダーバーグ電極ペーストおよびコークスの消費が増大する。
【0006】
別の欠点は密封にあたって水を使用することであるが、装置が損傷している場合、水が偶発的に炉に入ってしまうため問題となる。水が高温の炉内環境に入ってしまうと、水性ガスの爆発が起きることがあり危険である。
【発明の目的】
【0007】
本発明は、上述の欠点を解消することを目的とする。
【0008】
本発明はとくに、電極に接触することなく密封することができる密封装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、炉内への空気の漏入および炉からのガス漏れを効果的に防止する密封装置を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、水を使用しない密封装置を紹介することを目的とする。
【0011】
本発明はその他にも、電極の損耗を低減させる密封装置を紹介することを目的とする。
【発明の概要】
【0012】
本発明に係る密封装置は、請求項1に規定される事項により特徴づけられる。
【0013】
本発明において、密封装置には、アーク炉の天井部に設けられた開口部を貫いて垂直に伸びて炉内で垂直方向に動くことのできる棒電極の周囲に配設されて、炉のガスが開口部を通じて外部に流出するのを防止し、また、大気中の空気が炉に入り込むのを防止し、密封装置は、窒素または空気などの実質的に不活性なガスをガス配給室に供給する供給路を備えたガス配給室と、ガス流をガス供給室から電極に対して放出するノズルとを含む。
【0014】
本発明では、ノズルはスリットノズルであり、電極を囲んで、水平面に対してある角度でやや上方に傾斜した向きで、且つ炉の内部方向に対して外向きにガス噴流を放出して、よどみ点圧力の効果によって密閉する。
【0015】
本発明の有利な点は、ガス流を、電極を囲むスリットノズルから、水平面に対してある角度でやや上方に傾斜した向きで、且つ炉の内部方向に対して外向きに放出するため、炉内が陽圧状態のときにガスが炉から漏れるのを防ぐことができ、またその一方で、炉内が陰圧状態のときに空気が炉に漏入するのを防ぐことができ、また、電極と密封装置の間の間隙がよどみ点圧力によって実質的に塞がれることである。本発明に係る機構は、炉内が陽圧、陰圧状態に関係なく常に機能する。炉内の圧力は、周囲の気圧に対して、たとえばマイナス70Paの陰圧から22Paの陽圧まで変更可能である。すなわち、炉のあらゆる運転条件において、本密封装置は優れた密封を施すことができる。
【0016】
本発明のさらなる利点は、電極がやや非円形で均一でなくとも密封装置が摩耗せず、密封機能が弱まらないことにある。そのため、本装置の保全間隔は長い。本密封装置は水を使用する液圧式の機械を含んでいないため、炉中で水漏れが生じることがない。さらに他の利点として、炉への空気の漏入および炉からのガス漏れを効果的に防止することができ、その場合、電極の摩耗が減少するということが挙げられる。
【0017】
本密封装置の一実施形態において、スリットノズルからガス流をある角度で放出し、その角度は水平面に対して約 15 度〜25 度である。
【0018】
本密封装置の一実施形態において、スリットノズルの電極の外面からの距離は、約 10〜40 mmである。
【0019】
本密封装置の一実施形態において、スリットノズルのノズルスリットの高さは、約 5 mmである。
【0020】
本密封装置の一実施形態において、スリットノズルから出るガスの流速は、少なくとも約 10 m/sである。
【0021】
本密封装置の一実施形態において、ガス配給室内のガス圧力は、約 3〜4 kPaである。この程度の圧力は、送風機によって生み出すことができる。
【0022】
本密封装置の一実施形態において、電極はいわゆるソダーバーグ電極であり、金属管内にいわゆるソダーバーグ電極ペーストが入っている。電極は、ソダーバーグ電極の代わりに黒鉛電極でもよい。
【0023】
本密封装置の一実施形態において、密封装置は、炉の天井部に設けられた開口部の上部に配設された金属製の第1基部リングを含む電気絶縁滑り軸受上に組み立てられている。電気絶縁材料からなる第2基部リングが、第1基部リング上に配設されている。金属製の第3基部リングが、第2基部リング上に配設されている。第3基部リング上に、密封装置が留め具を用いずに重力だけで据えられている。基板の表面は機械加工されているため、密封装置は側方にいくらか動くことができ、電極の側方運動に順応することができる。
【0024】
本密封装置の一実施形態において、密封装置は複数のセンタリングローラを備え、センタリングローラはガス配給室上に円形に配されて、電極の外面に接して支持される。センタリングローラにより、スリットノズルと電極の外面との間に実質的に一定の間隔が維持される。
【0025】
本密封装置の一実施形態において、センタリングローラはバネを用いて備えられて、水平方向にある程度動くことができる。
【0026】
本密封装置の一実施形態において、密封装置は銅製の冷却要素を備え、要素内には冷却水循環用の導管が配されている。
【0027】
本密封装置の一実施形態において、冷却要素はガス供給室の下部において密封装置の金属枠に取り付けられている。
【0028】
本密封装置の一実施形態において、密封装置は耐火性ライニングを備え、耐火性ライニングはガス供給室下部の金属枠に取り付けられている。
【0029】
本密封装置の一実施形態において、密封装置は2つ以上の同一の部分からなり、この部分は着脱可能に相互連結されて、電極を囲む円形構造を形成している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明を、好適な実施形態および添付の図面を参照して以下に詳細に述べる。
【図1】本発明に係る密封装置の一実施形態が電極の周囲に組み立てられたアーク炉の天井部の概略断面図である。
【図2】図1のA部分の詳細を示す図である。
【図3】図1および図2に係る密封装置を、不等角傾斜方向の上方から示す図である。
【図4】図3に示す密封装置の基部リング上に配設された4つの部分のうちの1つを示す図である。
【図5】図1ないし図4に示す密封装置のバネ式センタリングローラを、上方から見た図である。
【発明の詳細な説明】
【0031】
図1は、アーク炉の天井部2の一部を示し、天井部には垂直棒電極4のフィードスルーとなる開口部3が設けられている。開口部3の縁の上には、図3に示す密封装置1が配設され、この密封装置は電極4を囲っている。電極4はいわゆるソダーバーグ電極であり、円筒状の鋼管8の内部にいわゆるソダーバーグ電極ペーストが入っている。別の実施形態では、電極は黒鉛電極でもよい。電極4の口径はだいたい 500〜1200 mm程度でよい。密封装置1は、ガスが炉内から開口部3を通じて外部に漏れるのを防ぎ、また、空気が炉内に漏入するのを防ぐ。
【0032】
図2および図3により詳細に示すように、密封装置1は供給路6を備えたガス配給室5を含んでいて、供給路を介して空気または窒素がガス配給室5に供給される。ガス配給室5から、電極を囲むスリットノズル7を通じて電極4に向かって、水平面に対してわずかに上向きに傾斜する角度αで、且つ炉の内部方向に対して外向きにガスを放出させて、環状の気体を形成し、この気体は発生したよどみ点圧力によって電極の周囲を密封する。ガスは有利にはスリットノズル7から角度αで放出され、ノズルは水平面に対して約 15 度〜25 度の角度で上向きに傾斜している。ここで、密封ガスは主に外向きに排出され、炉の内部には流入しない。
【0033】
スリットノズル7の電極4の活電外面からの距離sは、約 10〜40 mmである。スリットノズルのスリット高さdは、約 5 mmである。スリットノズル7から出るガスの流速は、少なくとも約 10 m/sである。ガス配給室5におけるガス圧力は、約 3〜4 kPaであり、この値は標準的な送風機で実現することができる。ここでは加圧気体を使用する必要はない。前述の基準値は、ある所定の実施形態の例として挙げたものである。この基準値は実施形態に応じて変更可能である。
【0034】
図2および図4に示すように、密封装置1が重力だけで電気絶縁滑り軸受9上に据えられている(密封装置の重量は、実施形態によるが、一般的には、たとえば約 500〜1000 kgである)。滑り軸受9により、密封装置1は、電極が側方に動くと水平方向に摺動することができる。装置の下部の最も低いところには、第1基部輪縁10が設けられていて、この輪縁はスチール製で開口部3の縁に配されている。第2基部輪縁11は電気絶縁材料からなり、第1基部輪縁上に配設されている。第3基部輪縁12はスチール製であり、絶縁第2基部輪縁11上に設けられている。密封装置1は、第3基部輪縁12上に配設されている。密封装置1の金属枠16の底面は水平であり、機械加工されている。同様に、第3基部輪縁12の上面も水平であり、機械加工されているため、密封装置1は第3基部輪縁上を水平方向に滑らかに摺動することができ、密封装置は電極の側方運動に合わせて動くことができる。
【0035】
図3に示すように、密封装置1はモジュール組み立て式であり、4つの同一部分17から成り、これらの部分は着脱可能に相互連結されて電極4を囲む円形構造を成している。図4はこのような部分17の1つを示している。各部分17はそれぞれ金属枠16を有していて、その枠に、他の部分のガス配給室5と通流接続していないガス配給室5と、配給室5にガスを注入するための個々の供給路6とが一体化されている。スリットノズル7は、弓形部分17の弧の90度全体に渡って伸びている。
【0036】
図2ないし図5に示すように、密封装置1は複数のセンタリングローラ13を備え、本例では8個備えている。これらのローラはガス配給室5上に円形に配列されて電極4の外面に接して支持されている。センタリングローラ13によってスリットノズル7と電極4の外面との間に実質的に一定の間隔sが保たれるが、ローラ13が弾力的に支持するため(図5を参照のこと)、電極4はいくらか動くことができる。電極4が側方に動くと、まずセンタリングローラ4が弾力的にある程度動かされる。電極4がさらに側方へ動くと、密封装置1全体が滑り軸受9上で摺動し始める。これにより、電極4の損傷を防ぐ。
【0037】
図2に示すように、密封装置1には銅製の冷却要素14が設けられてよく、冷却要素はガス供給室5下部の密封装置1の金属枠16に取り付けられている。導管15を冷却要素4内に設けて冷却水を循環させてもよい。また別の方法として、冷却要素14の代わりに耐火性ライニングを用いてもよく、耐火性ライニングはガス供給室5下部の金属枠16に取り付けられる。
【0038】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本願特許請求の範囲に規定する発明の概念の範囲内において様々に変更可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク炉の天井部(2)に設けられた開口部(3)を貫いて垂直に伸びて炉内で垂直方向に動くことのできる棒電極(4)の周囲に配設されて、炉のガスが前記開口部(3)を通じて外部に流出するのを防止し、また、空気が外部から炉内に流れ込むのを防止し、
−供給導管(6)を備え、該供給導によって窒素または空気などの実質的に不活性なガスが供給されるガス配給室(5)と、
−ガス噴流を該ガス供給室(5)から前記電極(4)に対して放出するノズル(7)とを含む密封装置(1)において、該密封装置は、
該ノズル(7)は、該電極(4)を囲み、水平面に対して角度(α)でやや上方に傾斜した向きで、且つ炉の内部方向に対して外向きにガス噴流を放出するスリットノズル(7)であり、発生したよどみ点圧力の効果によって密封を施すことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、前記スリットノズルからガス流を角度(α)で放出し、角度(α)は水平面に対して約 15 度〜25 度であることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密封装置において、前記スリットノズル(7)の前記電極(4)の活電外面からの距離(s)は、約 10〜40 mmであることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の密封装置において、前記スリットノズルのスリットの高さ(d)は約 5 mmであることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の密封装置において、前記スリットノズル(7)から出るガスの流速は少なくとも約 10 m/sであることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の密封装置において、前記ガス配給室(5)内の気圧は約 3〜4 kPaであることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の密封装置において、前記電極(4)は、いわゆるソダーバーグ電極であり、金属管(8)内部にいわゆるソダーバーグ電極ペーストを含むことを特徴とする密封装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の密封装置において、前記電極(4)は黒鉛電極であることを特徴とする密封装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の密封装置において、該密封装置(1)は電気絶縁滑り軸受(9)上に組み立てられ、該滑り軸受は、
−前記開口部(3)の縁部の上に配設された金属製の第1基部リング(10)と、
−電気絶縁材料からなり、第1基部リング上に配設された第2基部リング(11)と、
−第2基部リング上に配設された金属製の第3基部リング(12)とを含み、第3基部リング上に、前記密封装置(1)は留め具を用いずに重力だけで据えられて、該密封装置が側方にある程度動くことができて前記電極の側方運動に順応することを特徴とする密封装置。
【請求項10】
請求項9に記載の密封装置において、該密封装置(1)は複数のセンタリングローラ(13)を備え、該ローラは前記ガス配給室(5)上に円形に配設されて前記電極(4)の外面に接して支持されて、前記スリットノズル(7)と該電極(4)の外面との間に実質的に一定の間隔を保つことを特徴とする密封装置。
【請求項11】
請求項10に記載の密封装置において、前記センタリングローラ(14)はある程度水平方向にバネに接して動くことができるよう配設されていることを特徴とする密封装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の密封装置において、該密封装置(1)は銅製の冷却要素(14)を備え、該要素内には冷却水循環用の導管(15)が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項13】
請求項12に記載の密封装置において、前記冷却要素(14)は前記ガス供給室(5)の下部において該密封装置の金属枠(16)に取り付けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の密封装置において、該密封装置は前記ガス供給室(5)の下部に耐火性ライニングを備え、該耐火性ライニングは、前記金属枠(16)に取り付けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の密封装置において、該密封装置(1)は2つ以上の実質的に同一の部分(17)からなり、該部分は着脱可能に相互連結されて、前記電極(4)を囲む円形構造を形成することを特徴とする密封装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−523768(P2011−523768A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512161(P2011−512161)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050480
【国際公開番号】WO2009/147302
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(507221324)オウトテック オサケイティオ ユルキネン (33)
【氏名又は名称原語表記】OUTOTEC OYJ
【Fターム(参考)】