説明

密閉型圧縮機

【課題】ピストンの潤滑性を向上させ、信頼性と効率の向上を目的とする。
【解決手段】シリンダブロック120の上方に、オイル溜め部135と、圧縮室121とオイル溜め部135を連通させた給油孔136を設け、給油孔136は圧縮室121の軸心に対して、圧縮行程でピストン122の反負荷側に給油孔136の開口面積が大きくなるように給油孔136をシフトしたもので、ピストン122と圧縮室121の摺動部の摩耗を防止するとともに潤滑性を向上することができるため、高い信頼性と効率が得られる密閉型圧縮機を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍冷蔵装置等に用いられる密閉型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍冷蔵庫等の冷凍装置に使用される密閉型圧縮機については、消費電力の低減のための高効率化並びに高信頼性化が望まれている。
【0003】
一般に、この種の密閉型圧縮機は、シリンダブロックに設けられた圧縮室内を往復運動するピストンに対し、シャフトの上部からピストンの上面部へオイルを供給する給油機構を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
以下、図面を参照しながら上記従来の密閉型圧縮機について説明する。
【0005】
図3は、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機の縦断面図、図4は、図3における要部上面図、図5は、図4における断面図である。
【0006】
図3、図4、図5において、密閉容器1内には、固定子52と回転子54とからなる電動要素2と、この電動要素2により回転駆動される圧縮要素4とがそれぞれ収納され、底部にオイル6を貯留している。電動要素2と圧縮要素4は一体に組み立てられて圧縮機構8を形成し、この圧縮機構8は、複数のコイルばね10により、密閉容器1内に弾性的に支持されている。
【0007】
圧縮要素4を構成するシリンダブロック20には、円筒状の圧縮室22が形成され、ピストン24が圧縮室22内に往復自在に嵌入されている。シリンダブロック20には、軸受26が固定されている。
【0008】
シャフト30は、軸受26によって鉛直方向に軸支され、外周に螺旋状の給油溝32を有する主軸部34と、その上方に形成された偏芯軸部36を備えており、偏芯軸部36とピストン24とは、連結機構44により連結されている。
【0009】
また、シャフト30の下端に形成された給油ポンプ42は、螺旋状の給油溝32に連通し、偏芯軸部36上面のオイル排出孔46は、給油溝32と連通している。
【0010】
給油孔50は、圧縮室22の軸心B上に孔中心を有し、シリンダブロック20の上部と圧縮室22を連通するように構成されている。
【0011】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0012】
電動要素2に外部電源より通電がされると、回転子54が回転し、これに伴ってシャフト30が回転し、偏芯軸部36の回転運動が連結機構44を介してピストン24に伝えられることで、ピストン24は圧縮室22内で往復運動を行い、圧縮要素4が所定の圧縮動作を行う。
【0013】
それにより、冷媒ガスは冷却システム(図示せず)から圧縮室22内へ吸入、圧縮された後、再び冷却システムへと吐き出される。
【0014】
このとき、給油ポンプ42は、遠心力によりオイル6を汲み上げ、螺旋状の給油溝32
を介して偏芯軸部36上面のオイル排出孔46からオイル6が排出される。
【0015】
オイル排出孔46から排出されたオイル6の一部は、シリンダブロック20の上部に振り掛けられ、給油孔50からピストン24に給油され、ピストン24摺動部を潤滑し、摩耗を防ぎ、信頼性を確保している。
【0016】
また、図6は、他の要部上面図、図7は、図6における断面図である。
【0017】
図6、図7のように、圧縮室22の軸心で対称となる切欠き部58を有することで、オイル排出孔46から排出されたオイル6の一部を、切欠き部58からピストン24に給油し、同様の効果を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−197684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら上記従来の構成では、圧縮機の運転時、偏芯軸部36上面のオイル排出孔46からオイル6が排出されてシリンダブロック20の上部に振り掛けられ、給油孔50、または切欠き部58からピストン24に給油され、ピストン24摺動部を潤滑するが、給油孔50や切欠き部58が圧縮行程時にピストン24の側面の負荷側摺動面と重なるため、摺動部面積が減少し、油膜形成が困難となり、摩耗が促進され、信頼性が低下する可能性があるという課題を有していた。
【0020】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、高い信頼性と効率の密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記従来の課題を解決するために、本発明の密閉型圧縮機は、シリンダブロックの上方に、オイル溜め部と、圧縮室とオイル溜め部を連通させた給油孔を設け、給油孔を、圧縮室の軸心に対して、圧縮行程でピストンの反負荷側に給油孔の開口面積が大きくなるようにシフトしたもので、ピストンと圧縮室の摺動部の摩耗を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の密閉型圧縮機は、シリンダブロックの上方に、オイル溜め部と、圧縮室とオイル溜め部を連通させた給油孔を設け、その給油孔を、圧縮室の軸心に対して、圧縮行程でピストンの反負荷側に給油孔の開口面積が大きくなるようにシフトしたもので、ピストン摺動への安定した給油を行うとともに、圧縮行程時にピストンの側面の負荷側摺動面と給油孔の重なりを低減することで、摺動部の面積を確保して油膜切れを防止し、さらに、ピストンと圧縮室の摺動部の摩耗を防止し、信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】同実施の形態における密閉型圧縮機のシリンダブロックの要部上面図
【図3】従来の密閉型圧縮機の縦断面図
【図4】図3における要部上面図
【図5】図4における断面図
【図6】他の要部上面図
【図7】図6における断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に電動要素と、前記電動要素によって駆動される圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を、前記電動要素によって回転駆動される主軸部及び前記主軸部の一端に前記主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、前記シャフトの前記主軸部を軸支することによって片持ち軸受を形成する軸受部と、略円筒形の圧縮室を形成するシリンダブロックと、前記圧縮室の内部に往復動可能に挿設されたピストンと、前記偏心軸部と前記ピストンとを連結するコンロッドを備えた構成とし、さらに、前記シリンダブロックの上方に、オイル溜め部と、前記圧縮室と前記オイル溜め部を連通させた給油孔を設け、前記給油孔を、前記圧縮室の軸心に対して、圧縮行程で前記ピストンの反負荷側に前記給油孔の開口面積が大きくなるようにその位置をシフトさせたものである。
【0025】
かかることにより、前記軸受部の上部から排出されたオイルは、一旦オイル溜め部に溜まり、給油孔からピストンに給油される。したがって、ピストン摺動への安定した給油が可能となり、また、圧縮行程時にピストンの側面の負荷側の摺動面と給油孔の重なりを低減することで、摺動部面積を確保して油膜切れを防止することができる。その結果、ピストンと圧縮室の摺動部の摺動損失低減と摩耗を防止し、高い効率と信頼性を確保することができる。
【0026】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記圧縮室を、上死点側に同心の円筒と、前記円筒から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有する非線形とし、前記給油孔を、前記テーパ部に開口させたものである。
【0027】
かかることにより、ピストンが上死点の近傍にあるとき、ピストンは圧縮室の円筒部に位置するため、圧縮室のテーパ部の給油孔とピストンが摺動面とならない。そのため、最大圧縮負荷時に、給油孔からピストンと圧縮室の間のオイルが抜けて油膜圧力が低下することを防止し、ピストンの挙動を安定させ、ピストンと圧縮室の接触音の発生を防止し、騒音を低減することができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図、図2は実施の形態1における密閉型圧縮機のシリンダブロックの要部上面図である。
【0030】
図1および図2において、密閉容器101内には、固定子102と回転子103を備えた電動要素104と、電動要素104によって駆動される圧縮要素105が収容され、さらに、密閉容器101内の底部に、オイル106が貯留されている。
【0031】
シャフト110は、主軸部111と、この主軸部111と一体運動するようにその一端に偏心して形成された偏心軸部112を有し、このうち、主軸部111が回転子103の軸心に固定されている。シャフト110の内部には、周知のように給油用の穴(図示せず)が設けられ、また、その表面には、前記給油用の穴につながった螺旋状の給油溝113が設けられている。シャフト110の下端部である偏芯軸部112の先端には、鋼管で形成された給油機構114が前記給油用の穴と連通するように圧入固定され、給油機構114の先端は、オイル106の所定の深さまで浸漬するように延出している。
【0032】
圧縮要素105を構成するシリンダブロック120には、円筒状の圧縮室121が形成され、ピストン122が圧縮室121内に往復自在に嵌入されている。ピストン122は、コンロッド125を介して偏芯軸部112と連結される。
【0033】
コンロッド125は、一端にピストンピン126を介してピストン122と連結される小端部127が形成され、他端に偏芯軸部112と連結される大端部128が形成されている。
【0034】
さらに、シリンダブロック120には軸受部123が固定され、シャフト110の主軸部111における偏心軸部112側の端部を軸支することによって片持ち軸受を形成している。
【0035】
ここで、圧縮室121は、上死点側に同心の円筒部131と、円筒部131から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部132を有している。
【0036】
シリンダブロック120の上部には、オイル溜め部135と、圧縮室121とオイル溜め部135を連通させた給油孔136が設けられている。給油孔136は、圧縮室121の軸心Cに対して、圧縮行程でピストン122の反負荷側に給油孔136の開口面積が大きくなるようにその位置をシフトさせ、かつテーパ部132に設けられている。
【0037】
本実施の形態1では、給油孔136は、図2に示すように略円筒形であり、給油孔136の略中心は、圧縮室121の軸心Cに対して、シャフト110の回転方向側に略並行にシフトした線E上で、かつテーパ部132に設けられている。
【0038】
図1、図2の矢印はシャフト110の回転方向を示す。
【0039】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作と作用を説明する。
【0040】
電動要素104に電源から電気が供給されることで、シャフト110が回転し、偏芯軸部112の回転運動によりコンロッド125を介してピストン122が圧縮室121内で往復運動を行い、冷媒(図示せず)を圧縮室121内に吸入し、圧縮する。
【0041】
このとき、密閉容器101の底部に貯留したオイル106は、給油機構114の下端から偏芯軸部112を通って主軸部111の下端まで遠心力により汲み上げられる。
【0042】
主軸部111の下端に導かれたオイル106は、シャフト110の回転により、主軸部111の下端から上方まで螺旋溝113に沿って上昇する。このとき、主軸部111と軸受部123の摺動部を潤滑する。
【0043】
主軸部111の上方まで汲み上げられたオイル106は、軸受部123の上部から流れ、オイル溜め部135に貯留される。
【0044】
オイル溜め部135に貯留されたオイル106は、給油孔136を通って圧縮室121のテーパ部132内に連続的に導かれる。
【0045】
圧縮室121のテーパ部132内に導かれたオイル106は、ピストン122に供給され、圧縮室121とピストン122の摺動部を潤滑する。
【0046】
この行程において、圧縮行程では、ピストン122はシャフト110の回転方向に横方
向の荷重を受け、圧縮室121の側面に押されながら摺動する。
【0047】
このとき、ピストン122の摺動面は、給油孔136との重なりがほとんどないため、給油孔136部からピストン122と圧縮室121の間のオイル106が抜けて油膜圧力が低下することがなく、摺動部面積を確保し、油膜切れを防止する。これにより、ピストン122と圧縮室121の摺動部の摺動損失低減と摩耗を防止し、高い効率と信頼性を確保することができる。
【0048】
さらに、ピストン122は、圧縮行程の上死点近傍では圧縮室121の円筒部131に位置するため、圧縮室121のテーパ部132の給油孔136とピストン122は摺動面となることはない。そのため、最大圧縮負荷時に給油孔136からピストン122と圧縮室121の間のオイル106が抜けて油膜圧力が低下することを防止できる。これにより、ピストン122の挙動を安定させ、ピストン122と圧縮室121の接触音の発生を防止し、騒音を低減できる。
【0049】
本実施の形態1では、給油孔136を略円筒形としたが、多角形や円錐形など、圧縮室121とオイル溜め部135を連通可能な形状であれば、いずれの場合も同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、給油孔136の圧縮室121内の開口部がシフトした線Eにあれば、シリンダブロック側の開口部は、オイル106の流れ込みが可能なシリンダブロック120表面(圧縮室121の軸心Cを含む)であれば、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0051】
さらに、本実施の形態1においては、圧縮要素105が電動要素104の下方に配置された密閉型圧縮機を例に説明したが、従来例のように圧縮要素105を電動要素104の上方に配置し、シリンダブロックに切欠き部を設ける構成においても、切欠き部が圧縮室121の軸心Cに対して、圧縮行程でピストン122の反負荷側に切欠き部の開口面積が大きくなるように切欠き部をシフトさせることで、本実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、ピストンの摺動損失を低減するとともに、摺動部の摩耗を防止することができるため、効率向上と高い信頼性が得られる。さらに、ピストンと圧縮室の接触音の発生を防止し、騒音を低減することができるので、家庭用冷蔵庫および、除湿機やショーケース、自販機等、冷凍サイクルを用いたあらゆる用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
101 密閉容器
104 電動要素
105 圧縮要素
110 シャフト
111 主軸部
112 偏心軸部
120 シリンダブロック
121 圧縮室
122 ピストン
123 軸受部
125 コンロッド
131 円筒部
132 テーパ部
135 オイル溜め部
136 給油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に電動要素と、前記電動要素によって駆動される圧縮要素を収容し、前記圧縮要素を、前記電動要素によって回転駆動される主軸部及び前記主軸部の一端に前記主軸部と一体運動するように形成された偏心軸部を有するシャフトと、前記シャフトの前記主軸部を軸支することによって片持ち軸受を形成する軸受部と、略円筒形の圧縮室を形成するシリンダブロックと、前記圧縮室の内部に往復動可能に挿設されたピストンと、前記偏心軸部と前記ピストンとを連結するコンロッドを備えた構成とし、さらに、前記シリンダブロックの上方に、オイル溜め部と、前記圧縮室と前記オイル溜め部を連通させた給油孔を設け、前記給油孔を、前記圧縮室の軸心に対して、圧縮行程で前記ピストンの反負荷側に前記給油孔の開口面積が大きくなるようにその位置をシフトさせた密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮室を、上死点側に同心の円筒と、前記円筒から下死点に位置する側に向かって内径寸法が増大するように形成されたテーパ部を有する非線形とし、前記給油孔を、前記テーパ部に開口させた請求項1に記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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