説明

密閉形スクロール圧縮機

【課題】吐出バイパス孔と、液インジェクション孔と、中間圧孔との配置関係を最適な関係に設定して、液インジェクションの冷却効果を最大限に発揮することができる密閉形スクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】固定スクロール翼23と旋回スクロール翼33とによって形成される圧縮室37A、Bに液冷媒を注入する液インジェクション孔85A、Bを固定スクロールの端板に設けるとともに、液インジェクション孔85A、Bよりも渦巻方向の中心側に圧力を一定圧力以上において放出する吐出バイパス孔87A、Bを設け、更に、旋回スクロールを前記固定スクロール側へ押付ける押付力を生じせしめる中間圧力ガスを取り出す中間圧孔91を、旋回スクロールの端板に設けるとともに、中間圧孔91を固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で吐出バイパス孔が位置する圧縮室に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室に位置するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉形スクロール圧縮機に関し、特に、圧縮機からの吐出ガス冷媒の温度を低温化するために圧縮室内に液冷媒を噴射する液インジェクション装置を具えたに関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機では、蒸発器での熱負荷が少ない時には、圧縮機からの冷媒吐出量を多くする必要がないため、圧縮途中のガスを吸入側へ戻して容量制御を行うようにしているガスを逃す技術も知られている。
さらに、高負荷時には圧縮室内の冷媒ガス圧力が目標設定値以上に高圧化しないようにして、駆動源の使用電力を低減して、圧縮機の摺動部の損傷等を防止する技術についても知られている。
【0003】
例えば、特開2003−184775号公報(特許文献1)には、アンモニアを冷媒とする冷凍装置に用いられるスクロール圧縮機において、吐出ガス冷媒の温度が設定値を超えないように、アンモニアの液冷媒をスクロール圧縮機の圧縮室に注入するための液インジェクション回路が示されている。
【0004】
さらに、特開平6−26474号公報(特許文献2)においては、図8に示すように、液インジェクション孔01が固定スクロール02の端板03に形成された渦巻き状の固定スクロール翼04の間に設けられ、吐出ガス温度が設定値より高くなったときに液インジェクション回路上の電磁弁を開いて液冷媒を圧縮室内に噴射して、ガス温度を下げる構成が開示されている。
なお、図8は固定スクロール02を底面側から見た図面であり、さらに、この特許文献2には、ガス戻しポート05が圧縮機の吸入管に接続され、蒸発器における熱負荷が小さい時、または電源設備容量によって高負荷運転ができない時は、圧縮行程中のガス冷媒を吸入側へ戻す構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−184775号公報
【特許文献2】特開平6−26474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように特許文献1、特許文献2には、アンモニアの液冷媒をスクロール圧縮機の圧縮室に注入するための液インジェクション回路(孔)が示されており、さらに、特許文献2には、液インジェクション孔01に加えて、ガス戻しポート05が圧縮室に形成されている。
【0007】
しかし、液インジェクション孔が設置されている圧縮室において、圧縮室内の圧力が吐出圧力を越えると、液インジェクションされた冷媒液の蒸発により作動圧縮室内の圧力が大きく上昇し作動圧縮室内の圧力増大による動力増大による効率低下やラップ破損や荷重増大の問題が生じる問題がある。しかも、特に特許文献2の場合にガス戻しポート05が仮に液インジェクション孔01と同じ圧縮室に配置されていたとしても、吸入側に戻すため、圧縮室内の圧力が液インジェクションによって大きく上昇する問題に対して効果的ではない。
【0008】
さらに、特許文献1、特許文献2のいずれにおいても、旋回スクロールを固定スクロール側に押し付けるために、圧縮室行程の中間圧力や高圧力を旋回スクロールの端板の背面側に導くための中間圧ポートと液インジェクション孔との関係や、圧縮ガスを密閉容器内に放出するガス逃しポートと液インジェクション孔との関係については示されていない。
【0009】
そこで、本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、固定スクロールまたは旋回スクロールの端板に設けられる、圧縮室内の圧力を一定圧力以上において放出する吐出バイパス孔と、液冷媒を注入する液インジェクション孔と、中間圧孔との配置関係、特に吐出バイパス孔と中間圧孔とを最適な関係に設定して、液インジェクションによる作動圧縮室内のガス冷媒の圧力増大に伴う効率低下やラップ破損や摺動部損傷等の問題を低減して、液インジェクションの冷媒ガスの冷却効果を最大限に発揮することができる密閉形スクロール圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、端板上に渦巻状の固定スクロール翼を有する固定スクロールと、端板上に渦巻状の旋回スクロール翼を有する旋回スクロールとを組み合わせて、前記旋回スクロールを固定スクロールに対して自転防止機構を介して旋回運動をなすことによって、前記固定スクロール翼と旋回スクロール翼とによって形成される圧縮室の容積を減少させてガスを圧縮して、該圧縮ガスを中心部から吐出するように構成した密閉形スクロール圧縮機において、前記固定スクロール翼と旋回スクロール翼とによって形成される圧縮室に液冷媒を注入する液インジェクション孔と圧縮室内の圧力を一定圧力以上において放出する吐出バイパス孔とを前記固定スクロールの端板に設け、
更に、図5に示すように、前記旋回スクロールの端板の背面側に導いて該旋回スクロールを前記固定スクロール側へ押付ける押付力を生じせしめる中間圧力ガスを取り出す中間圧孔を、前記旋回スクロールの端板に設けると共に、該固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で前記中間圧孔の位置が、前記吐出バイパス孔が位置する圧縮室に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室を位置するように構成したことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、圧縮室に液冷媒を注入する液インジェクション孔が設置されている圧縮室において、該液インジェクション孔よりも渦巻方向の中心側に位置する吐出バイパス孔を前記圧縮室と対応する固定スクロールの端板に設けたため、液インジェクションによって作動圧縮室内の圧力が大きく上昇した場合でも、吐出バイパス孔から圧縮ガスが吐出空間に放出されるようになり、液インジェクションによる作動圧縮室内の圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を防止することができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、前記中間圧孔は前記固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で、前記液インジェクション孔より180°以上渦巻方向の外側に設置され、更に前記吐出バイパス孔は、液インジェクション孔よりも渦巻方向の中心側に位置しているために、前記吐出バイパス孔と前記中間圧孔との関係において、前記固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で、必然的に前記中間圧孔は前記吐出バイパス孔より180°以上渦巻方向の外側に設置されることになる。
【0013】
従ってかかる発明によれば、前記中間圧孔を前記吐出バイパス孔より180°以上渦巻方向の外側に設置させることにより、中間圧孔の位置が吐出バイパス孔の設置されている作動圧縮室とは確実に別の圧縮室に設置され、前記作動圧縮室内の液インジェクションによる圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を防止することができる。
【0014】
また、本発明において好ましくは、前記液インジェクション孔、吐出バイパス孔、中間圧孔がそれぞれ複数個設置されて、複数の圧縮室それぞれにおいて前記関係を有することが望ましい。
かかる構成によれば、複数の圧縮室のそれぞれにおいて、吐出バイパス孔を液インジェクション孔の位置に対して同一圧縮室内において渦巻方向の中心側に設置する関係、および中間圧孔を液インジェクション孔の位置に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室に設置する関係を有する。
従って、圧縮行程にある複数の圧縮室のそれぞれにおいて液インジェクションによって発生するおそれがある作動圧縮室内の圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を回避することができ、液インジェクションによる冷媒ガスの冷却効果を効果的に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固定スクロールまたは旋回スクロールの端板に設けられる液インジェクション孔と、吐出バイパス孔と、中間圧孔との配置関係を最適な関係に設定して、液インジェクションによる作動圧縮室内のガス冷媒の圧力増大に伴う効率低下やラップ破損や摺動部損傷等の問題を低減して、液インジェクションの冷媒ガスの冷却効果を最大限に発揮することができる密閉形スクロール圧縮機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる密閉形スクロール圧縮機の実施形態を示す全体構成断面図である。
【図2】図1の全体断面図のうちの上方の部分の拡大図である。
【図3】固定スクロールの底面図である。
【図4】旋回スクロールを示す図面であり、(a)は平面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。
【図5】図2のA−A断面図である。
【図6】他の実施形態を示す図5対応図である
【図7】圧縮室の動作状態説明図である。
【図8】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0018】
図1は、本発明にかかる密閉形スクロール圧縮機の実施形態を示す全体構成断面図であり、図2は図1の全体断面図のうちの上方の部分の拡大図である。図3は固定スクロールの底面図である。図4は旋回スクロールを示す図面であり、(a)は平面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。図5は図2のA−A断面図である。図6は他の実施形態を示す図5対応図である。図7は圧縮室の動作状態説明図である。
【0019】
図1、図2を参照して密閉形スクロール圧縮機の全体構成について説明する。図1に示すように、密閉形スクロール圧縮機1を構成する縦長の円筒形状の密閉ケース2は、湾曲形状の下ケース3と湾曲形状の上ケース5と円筒状の中ケース6とがそれぞれ溶接接合されて形成されている。
密閉ケース2内の上方寄りに、密閉ケース2内を上下に仕切るようにフレーム部材7が中ケース6の内部に取付けられている。
そして、フレーム部材7の上方にはスクロール圧縮機構部9が配置され、下方にはスクロール圧縮機構部9を構成する旋回スクロール11に旋回運動の回転力を与えるモータ13が配置されている。さらに、密閉ケース2の底部には潤滑油が収容されるようになっていて、底部に貯留された潤滑油を汲み上げる給油ポンプ15がモータ13の下方に配置されている。
【0020】
図2に示すように、スクロール圧縮機構部9は、固定スクロール17と、この固定スクロール17の下方に配置された旋回スクロール11とによって構成されている。固定スクロール17は、円板状の端板19と、この端板19の一方の面の周縁部に突設された環状壁21と、この環状壁21で囲まれた部分に該環状壁21とほぼ等しい高さに突設された固定スクロール翼23と、端板19の略中央部に設けられた吐出口25と、端板19の周縁部に設けられた吸入口27とで構成されている。そして、環状壁21の延長部分がボルト29でフレーム部材7に固定されている。
【0021】
一方、旋回スクロール11は、前記環状壁21より大きい外径を有して円板状の旋回スクロール11の端板31と、この端板31の一方の面に前記固定スクロール翼23と等しい高さに突設された旋回スクロール翼33と、他方の面の中央部には軸受ボス部35が突設されて構成されている。
【0022】
また、旋回スクロール11の端板31に渦巻状に突設され上方向を向いた旋回スクロール翼33と、固定スクロール17の端板19に渦巻状に突設され下方向を向いた固定スクロール翼23とが噛合い、それぞれの壁の間に圧縮室37を形成している。
【0023】
そして、固定スクロール17と旋回スクロール11との噛み合い状態を保持して旋回スクロール11を固定スクロール17に対して相対的に旋回運動させるために、旋回スクロール11の端板31とフレーム部材7との間にオルダム機構38が設けられている。
【0024】
フレーム部材7には、旋回スクロール11の軸受ボス部35の軸心線に対して偏心した筒状空間39が上下方向に貫通して設けられており、この筒状空間39の下端部分にはモータ13の駆動軸41を回転自在に支持する主軸受43が設けられている。
【0025】
駆動軸41の上端部には、駆動軸41の軸中心線と偏心した位置にクランク部45が形成され、該クランク部45が旋回スクロール11の軸受ボス部35に嵌入している。この軸受ボス部35がクランク部45の旋回軸受を形成している。
また、図1に示すように、駆動軸41の下端部には、給油ポンプ15が接続されていて、この給油ポンプ15は潤滑油をパイプ47によって汲み上げて、駆動軸41の軸中心部を貫通して設けられた貫通油路49を介して前記クランク部45の上端から軸受ボス部35内に放出するようになっている。
【0026】
なお、使用される圧縮ガスはアンモニア冷媒を用いており、吐出ガス温度の上昇を抑えるためにアンモニアの液冷媒を固定スクロール17の端板19に取付けられた液インジェクション配管57から圧縮室37内に噴射するようになっている。この液インジェクションについては後述する。
【0027】
また、図1に示すように、駆動軸41に対して偏心したクランク部45の回転に伴うアンバランスを打ち消すために、駆動軸41には、上から順に上バランサ59、中バランサ61、下バランサ63の3つのバランサが取り付けられている。
さらに、前記固定スクロール17の吸入口27には、吸入管65が上ケース5を貫通して設けられ、中ケース6にはケース内の高圧ガスを吐出する吐出管67が設けられている。
【0028】
次に、以上のように構成された密閉形スクロール圧縮機において、前記スクロール圧縮機構部9による冷媒ガスの圧縮動作について説明する。
まず、モータ13に給電すると、駆動軸41が回転を開始する。そして、回転力が旋回スクロール11に伝えられる。
旋回スクロール11の軸受ボス部35は駆動軸41に対して、偏心して設けられクランク部45と嵌合しており、しかもオルダム機構38によって支持されているため、この旋回スクロール11は自転の伴わない旋回運動を行う。
従って、旋回スクロール11に植設された旋回スクロール翼33も旋回運動を行い、この旋回運動に伴って、旋回スクロール翼33と固定スクロール翼23との間に形成された圧縮室37が周期的に小さくなり、吸入管65を介して吸入されたガスが圧縮されて吐出口25から吐出されて、密閉ケース2内の上方に吐出されてからフレーム部材7の周囲に形成された図示しない連通孔を通って下方側に流れて密閉ケース2内のフレーム部材7の下方の空間内に高圧ガスが貯留され、吐出管67から外部へ排出される。
【0029】
次に、液インジェクションについて説明する。
図3は、固定スクロール17を下面側から見た図面であり、固定スクロール翼23が渦巻形状に形成され、その隣り合う渦巻形状の固定スクロール翼23との間には旋回スクロール翼33が嵌り合う渦巻状の渦巻溝80が凹状に形成されている。この渦巻溝80の入口は吸入口27に繋がり、出口は吐出口25に繋がっている。
【0030】
また、固定スクロール17の端板19の周縁部分には、固定スクロール17をフレーム部材7に取り付けるボルト29の貫通穴83が形成されている。
そして、渦巻溝80の底の部分である端板19には、固定スクロール翼23の縦壁に接する位置に液インジェクション孔85、85が位置を隔てて2個所に穿設されている。
【0031】
この液インジェクション孔85には液インジェクション配管57が連結している。そして、図示しない液インジェクション回路に設けられた液インジェクションバルブまたは電子制御膨張弁を吐出口25から吐出される圧縮ガスの温度に関連して制御して、液インジェクション配管57に供給する液冷媒の量が制御されるようになっている。
【0032】
このように液インジェクションを行うことによって、圧縮室内の圧縮行程にある圧縮ガスに液冷媒のアンモニア液が噴射されて冷却されて、スクロール圧縮機構部9で圧縮されて吐出口25から吐出される圧縮ガスの温度が高温になることを抑えることができ、その結果、密閉ケース2内のガス温度の温度上昇を抑えてモータ13の冷却効果を発揮できモータ13の効率を向上することができる。
【0033】
図3に示すように、固定スクロール翼23の渦巻方向に沿って液インジェクション孔85と吐出バイパス孔87とが並んで穿設され、また、液インジェクション孔85と吐出バイパス孔87とは、一対になって配置されている。
さらに、図3に示すように、吐出バイパス孔87は、液インジェクション孔85より渦巻きの内側に設けて、渦巻き角で90°以内の範囲に設置されている。
渦巻きの内側に逃し孔を設けることで、圧縮室での圧縮は渦巻きの中心に向かって旋回して容積が小さくなり高圧化されていくため、この高圧化される位置で圧力を開放するようにして、吐出バイパス孔87の機能を信頼性あるものとしている。
さらに、隣の圧縮室37には、別の一対の液インジェクション孔85と吐出バイパス孔87が設けられるように、それぞれの圧縮室37内に位置されるように設置されている。
【0034】
この吐出バイパス孔87は、固定スクロール17の上部に設置された吐出バイパス制御弁89によって、圧縮室37内の圧力に基づいて開閉制御されるようになっているため、圧縮室37内の圧力が冷凍装置の負荷やガス温度によって異常に上昇した場合には、自動的に開作動してスクロール圧縮機構部9から密閉ケース2内の吐出空間に放出されて圧縮室37内の圧力が異常上昇しないように制御されている。
【0035】
また、固定スクロール17のスクロール翼23の先端面と相手側の旋回スクロール11の端板31の鏡面との接触、および旋回スクロール11のスクロール翼33の先端面と相手側の固定スクロール17の端板19の鏡面との接触を、圧縮室37内の圧縮圧力に抗して相互に密着状態にして摺接させるために、旋回スクロール11を固定スクロール17側に押し付けている。
【0036】
この押付け力は、旋回スクロール11の端板31の背面側に、中心部には圧縮機の吐出圧力である高圧力を作用させ、その外側域には圧縮行程の中間の中間圧力を供給して、旋回スクロール11をバランスよく押し付けている。
そしてこの中間圧力を旋回スクロール11の端板31の背面側に導くために、図4に示すように旋回スクロール11の端板31に中間圧孔91が穿設されて、中間圧力を取り出している。
【0037】
図4に示すようにおいて、旋回スクロール11の端板31には旋回スクロール翼33が渦巻曲線状に形成され、その渦巻形状の旋回スクロール翼33間には渦巻通路93が形成されていて、入口部近傍と該入口近傍からほぼ1周の中心側の位置に、旋回スクロール翼33を挟むように、中間圧孔91が2個所穿設されている。
【0038】
中間圧孔91は、端板31の内部を径方向に伸びる中間圧力通路95によって端板31の側端面に連通して、フレーム部材7の中間圧力室97へ導かれて、中間圧孔91からの圧縮行程途中の圧力が旋回スクロール11の端板31の背面側に作用するようになっている。
なお、旋回スクロール11の端板31の中央部分の軸受ボス部35内には、給油ポンプ15によって密閉ケース2の底に貯まっている潤滑油を汲み上げて供給と同時に密閉ケース2内の高圧ガスも供給されて高圧力室が形成されている。
【0039】
次に、図5と図6を参照して、これら旋回スクロール11と固定スクロール17とを組み合わせた状態での、液インジェクション孔85と、吐出バイパス孔87と、中間圧孔91との位置関係を説明する。図5は、図2のA−A断面図であり、この図に示すように、旋回スクロール11の内側に形成される内室圧縮室37Aには、液インジェクション孔85Aと、吐出バイパス孔87Aとが設置され、旋回スクロール11の外側に形成される外室圧縮室37Bには液インジェクション孔85Bと、吐出バイパス孔87Bがそれぞれ設置されている。
【0040】
また、図5に示すように、液インジェクション孔85と中間圧孔91との相対位置は、旋回スクロール11と固定スクロール17との組み付け状態で略270°以上渦外側に離すことによって、液インジェクションによる液冷媒が中間圧孔91とは完全に別の圧縮室37に位置させるようにしている。
【0041】
なお、それぞれの圧縮室37A、37Bにおいて、液インジェクション孔85A、85Bの1個に対して、吐出バイパス孔87A、87Bと、中間圧孔91をそれぞれ1個設けた例を説明したが、液インジェクション孔85を複数、それに対し吐出バイパス孔87、中間圧孔91を複数個設けてもよい。
【0042】
また、図6には、液インジェクション孔の位置を吸入口27に近い位置に配置した仕様を示す。このように吸入口27に近い位置に設置することで低圧縮比仕様(高温仕様)の圧縮機に対しても圧縮室内への液インジェクションを効率的に行える。
図6には、旋回スクロール11の内側に形成される内室圧縮室97Aには、液インジェクション孔105Aと、吐出バイパス孔107Aとが設置され、旋回スクロール11の外側に形成される外室圧縮室97Bには液インジェクション孔105Bと、吐出バイパス孔107Bがそれぞれ設置されている。さらに中間圧孔91が穿設されている。
【0043】
この図6に示したスクロール圧縮機の圧縮室の軸の回転に伴う動作状態と、前記3種類の孔との関係を図7に示す。
図7(a)図は、旋回スクロール11の旋回スクロール翼33の渦巻き外壁と固定スクロール17の渦巻き溝80の外壁間で形成される外室圧縮室97Bが最大密閉空間を形成し、吸入が完了し圧縮行程開始の状態を示している。この状態から軸が90°ピッチで回転して圧縮動作が進む状態を順に(b)、(c)、(d)に示している。
また、旋回スクロール11の旋回スクロール翼33の渦巻き内壁と固定スクロール17の渦巻き溝80の内壁間で形成される内室圧縮室97Aが最大密閉空間を形成するのは(c)に示されている。
【0044】
圧縮室は吸入から圧縮行程を経て吐出行程に至る全行程を1系統とすると、旋回スクロール11の旋回スクロール翼33の渦巻き外壁と固定スクロール17の渦巻き溝80の外壁間で形成される外室圧縮室97Bでの圧縮系統と、旋回スクロール11の旋回スクロール翼33の渦巻き内壁と固定スクロール17の渦巻き溝80の内壁間で形成される内室圧縮室97Aでの圧縮例との2系統形成されるので、それぞれに配置される上記3種類の孔の位置関係を見ると、渦巻き方向において外側に中間圧孔91、内側に吐出バイパス孔107A、107Bそして、その間に液インジェクション孔105A、105Bが配置されている。この位置関係は、2系統ともに同じとなる。
【0045】
それぞれの孔の位置関係を、図7を用いて具体的に説明する。
始めに、中間圧孔91と液インジェクション孔105A、105Bの位置関係を見ると、互いに渦巻き曲線のおよそ反対側に位置しているので、軸1回転中同じ圧縮室に開口している期間は(d)図で見られるように少なく、距離も離れており互いの影響は少ない。
次に、液インジェクション孔105A、105Bと吐出バイパス孔107A、107Bの位置関係を見ると、吐出バイパス孔87A、87Bが一つの圧縮室37A、37Bそれぞれにおいて液インジェクション孔85A、85Bよりも渦巻方向の中心側に位置して且つ互いに近接しているので、軸1回転中同じ圧縮室に開口している期間は(a)〜(c)図で見られるように半回転以上あり、液インジェクションにより圧縮室圧力が異常に上昇した場合に、吐出バイパス孔107A、107Bから圧力を逃がすことが可能となる。
【0046】
以上のような本実施形態によれば、図5に示す3種類の孔の配置関係では、吐出バイパス孔87A、87Bが一つの圧縮室37A、37Bそれぞれにおいて液インジェクション孔85A、85Bよりも渦巻方向の中心側に位置して、圧縮室37A、37B内の圧力を一定圧力以上において放出するように、固定スクロール17の端板19に設けられたため、液インジェクションによって作動圧縮室内の圧力が大きく上昇した場合でも、吐出バイパス孔87A、87Bから圧縮ガスが放出されるようになり、液インジェクションによる作動圧縮室内の圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を防止することができる。
また、図6、7に示す孔の配置関係においても液インジェクションによって作動圧縮室内97A、97Bの圧力が大きく上昇した場合に、吐出バイパス孔107A、108Bから圧縮ガスが放出されるようになる。
【0047】
また、本実施形態によれば、旋回スクロール11の端板31の背面側に導いて該旋回スクロール11を固定スクロール17側へ押付ける押付力を生じせしめる中間圧力ガスを取り出す中間圧孔91を、一つの圧縮室37A、37Bそれぞれにおいて液インジェクション孔85A、85Bよりも渦巻方向の中心側に位置している吐出バイパス孔87A,87B、107A、107B105A、105Bの位置に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室の位置の旋回スクロールの端板に設けたため、液インジェクションによる作動圧縮室内の圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を防止することができるとともに、中間圧力室97内において液がガス化することに伴い中間圧力が異常上昇して、旋回スクロール11を固定スクロール17側へ押付ける力が増大して、効率低下や摺動部の損傷の問題を防止することができる。
【0048】
さらに、図5に示す中間圧孔91、液インジェクション孔85A、85B、吐出バイパス孔87A、87Bの関係によれば、中間圧孔91は固定スクロール17と旋回スクロール11とを組み合わせた状態で、液インジェクション孔85Bより約270°以上渦巻方向の外側に設置されため、中間圧孔91の位置が液インジェクションの設置されている作動圧縮室とは確実に別の圧縮室に設置されるようになり、前記のような中間圧力室97に液インジェクションの液冷媒が流れ込んで潤滑不良の発生や効率低下等の問題を確実に防止することができる。
【0049】
また、図6に示す中間圧孔91、吐出バイパス孔107A、107Bの関係によれば、中間圧孔91は固定スクロール17と旋回スクロール11とを組み合わせた状態で、吐出バイパス孔107A、107Bより180°以上渦巻方向の外側に設置されため、前記した効率低下等の発生を極力抑えることができる。
【0050】
また、図5、図6における複数の圧縮室37A、37B、97A、97Bのそれぞれにおいて、液インジェクション孔、吐出バイパス孔、中間圧孔の前記関係を有するので、すなわち、吐出バイパス孔を液インジェクション孔の位置に対して同一圧縮室内において渦巻方向の中心側に設置する関係、および中間圧孔を液インジェクション孔の位置に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室にあるように、または同一圧縮室内であっても180°近く隔たっている関係を有するので、圧縮行程にある複数の圧縮室37A、37B、97A、97Bそれぞれにおいて、液インジェクションによって発生する作動圧縮室内の圧力増大による効率低下、さらに荷重増大によるラップ破損や摺動部の損傷等を効果的に回避することができ、液インジェクションによる冷媒ガスの冷却効果を向上し、さらには、中間圧力室97に液インジェクションの液冷媒が流れ込んでの潤滑不良の発生を極力抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、固定スクロールまたは旋回スクロールの端板に設けられる液インジェクション孔と、吐出バイパス孔と、中間圧孔との配置関係を最適な関係に設定して、液インジェクションによる作動圧縮室内のガス冷媒の圧力増大に伴う効率低下やラップ破損や摺動部損傷等の問題を低減して、液インジェクションの冷媒ガスの冷却効果を最大限に発揮することができるので、密閉形スクロール圧縮機への適用に際して有益である。
【符号の説明】
【0052】
1 密閉形スクロール圧縮機
2 密閉ケース
7 フレーム部材
9 スクロール圧縮機構部
11 旋回スクロール
17 固定スクロール
19、31 端板
23 固定スクロール翼
33 旋回スクロール翼
37 圧縮室
80 渦巻溝
85 液インジェクション孔
85A、85B、105A、105B 液インジェクション孔
87 吐出バイパス孔
87A、87B、107A、107B 吐出バイパス孔
91 中間圧孔
93 渦巻通路
95 中間圧力通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端板上に渦巻状の固定スクロール翼を有する固定スクロールと、端板上に渦巻状の旋回スクロール翼を有する旋回スクロールとを組み合わせて、前記旋回スクロールを固定スクロールに対して自転防止機構を介して旋回運動をなすことによって、前記固定スクロール翼と旋回スクロール翼とによって形成される圧縮室の容積を減少させてガスを圧縮して、該圧縮ガスを中心部から吐出するように構成した密閉形スクロール圧縮機において、前記固定スクロール翼と旋回スクロール翼とによって形成される圧縮室に液冷媒を注入する液インジェクション孔と圧縮室内の圧力を一定圧力以上において放出する吐出バイパス孔とを前記固定スクロールの端板に設け、
更に、前記旋回スクロールの端板の背面側に導いて該旋回スクロールを前記固定スクロール側へ押付ける押付力を生じせしめる中間圧力ガスを取り出す中間圧孔を、前記旋回スクロールの端板に設けると共に、該固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で前記中間圧孔の位置が、前記吐出バイパス孔が位置する圧縮室に対して渦巻方向の外側における他の圧縮室を位置するように構成したことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記中間圧孔は前記固定スクロールと旋回スクロールとを組み合わせた状態で、前記吐出バイパス孔より180°以上渦巻方向の外側に設置されることを特徴とする請求項1記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項3】
前記液インジェクション孔、吐出バイパス孔、中間圧孔がそれぞれ複数個設置されて、複数の圧縮室それぞれにおいて前記関係を有することを特徴とする請求項1または2に記載の密閉形スクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−180838(P2012−180838A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115803(P2012−115803)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2007−269541(P2007−269541)の分割
【原出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】