説明

対向ピストン型ディスクブレーキ

【課題】大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時にアウタ、インナ両パッド5aがキャリパ2aに対してがたつくのを効果的に防止できて、組立作業を容易に行える構造を実現する。
【解決手段】一対のガイドピン7a、7bと、前記両パッド5aを構成するプレッシャプレート13aに形成した各ガイド孔17a、17aとの係合により前記両パッド5aの周方向に離隔した2箇所位置を前記キャリパ2aに対し、それぞれ軸方向の変位を可能に支持する。一方の支持部は前記両パッド5aを前記キャリパ2aに対し、径方向の変位を阻止した状態で支持し、他方の支持部は、同じく径方向の変位を許容した状態で支持する。更に、弾性部材によりこの他方の支持部で前記両パッド5aに、径方向に向いた弾力を付与する事によりこれら両パッド5aに、前記一方の支持部を中心として揺動する方向の弾力を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に使用するディスクブレーキのうち、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキの改良に関する。具体的には、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時にアウタ、インナ両パッドがキャリパに対してがたつくのを効果的に防止できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行う為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向両側に配置された一対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から各種構造のものが知られているが、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキは、安定した制動力を得られる事から、近年使用例が増えている。この様な対向ピストン型ディスクブレーキとして従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。このうちの特許文献1の記載に基づいて、本発明の対象となる対向ピストン型ディスクブレーキの基本的構造に就いて、簡単に説明する。
【0003】
前記特許文献1に記載された対向ピストン型のディスクブレーキ1は、図21〜22に示す様に、キャリパ2と、複数のシリンダ3、3(本発明の実施の形態を示す図3参照)と、複数のピストン4、4(同じく図3参照)と、一対のパッド5、5と、複数のガイド孔6、6と、一対のガイドピン7、7とを備える。
【0004】
このうちのキャリパ2は、アウタ、インナ両ボディ部8、9と一対の連結部10、10とを備える。このうち、アウタ、インナ両ボディ部8、9は、車輪と共に回転するロータ11の一部を、軸方向(本明細書及び特許請求の範囲で、「軸方向」、「径方向」、「周方向」とは、特に断らない限り、ロータに関するそれぞれの方向を言う。又、ロータの回入側、回出側とは、特に断らない限り、前進時での状態を言う。)両側から挟んだ状態で設けられている。又、前記両連結部10、10は、ロータ11の外周縁よりも径方向外方位置で、前記両ボディ部8、9の両端部同士を連結する。図示の例では、互いに別体に造ったこれら両ボディ部8、9を、複数本のボルト12、12により結合固定して一体化しているが、鋳造により造られた一体型のキャリパも、例えば特許文献2に記載される等により、従来から知られている。
【0005】
何れの構造にしても、前記両ボディ部8、9に前記各シリンダ3、3を、互いに対向した状態で設けている。そして、これら各シリンダ3、3内に前記各ピストン4、4を、液密に、且つ、軸方向に関する変位を可能に嵌装している。又、前記両パッド5、5は、それぞれがプレッシャプレート13と、このプレッシャプレート13のうちで前記ロータ11に対向する面に添着固定されたライニング14とから成る。それぞれがこの様な構成を有する前記両パッド5、5は、前記両ボディ部8、9の互いに対向する面に設けられた保持凹部15、15に、軸方向の変位を可能に保持されている。前記各シリンダ3、3は、これら両保持凹部15、15の奥面に開口している。又、前記各ガイド孔6、6は、前記両パッド5、5を構成する前記プレッシャプレート13、13のうち、前記ロータ11の外周縁よりも径方向外寄り部分で、且つ、周方向に離隔した位置に、前記両パッド5、5のプレッシャプレート13、13毎に2箇所ずつ設けられている。更に、前記両ガイドピン7、7は、前記各ガイド孔6、6を軸方向に挿通する状態で、前記両ボディ部8、9同士の間に掛け渡す状態で設けられている。
【0006】
上述の様なディスクブレーキ1により制動を行う場合には、前記各シリンダ3、3内に油圧を導入し(加圧したブレーキオイルを送り込み)、これら各シリンダ3、3から前記各ピストン4、4を押し出す。そして、これら各ピストン4、4により、前記両パッド5、5のライニング14、14を前記ロータ11の軸方向両側に押し付け、これら両ライニング14、14とロータ11との摩擦により、制動を行う。
【0007】
以上の様に構成され作用するディスクブレーキ1では、制動及びその解除に伴って前記両パッド5、5を軸方向に変位させる必要上、これら両パッド5、5を構成するプレッシャプレート13の端縁と前記保持凹部15の内面との間に隙間を介在させる必要がある。従って前記両パッド5、5は、前記隙間分だけ、前記キャリパ2に対し変位可能となる。この為、何らの対策も施さないと、非制動時、前記各ピストン4、4により押圧されていない状態で前記両パッド5、5が、前記保持凹部15内でがたつき、不快な異音や振動を発生する。この為、従来から、アンチラトルスプリングと呼ばれる板ばねにより前記両パッド5、5を抑え付ける事が行われている。図21〜22に示した従来構造の場合には、前記両ガイドピン7、7と前記両パッド5、5との間にアンチラトルスプリング16を設けて、これら両パッド5、5を、径方向内方に向け弾性的に押圧している。
【0008】
この様な従来構造の場合、前記プレッシャプレート13の端縁と前記保持凹部15の内面との間の隙間はそのまま残る。従って、悪路走行時等、大きな振動が加わる場合にも、前記キャリパ2に対し前記両パッド5、5ががたつかない様にする為には、前記アンチラトルスプリング16の弾力を相当に大きくする必要がある。この為、前記両パッド5、5のうちでこのアンチラトルスプリング16により押圧されている側が、制動解除に伴って、前記ロータ11から離れる方向に変位しにくくなる。この結果、前記両パッド5、5が前記ロータ11の軸方向両側面に対して傾斜した状態で接触する為、回転トルク(引摺トルク)が増大し、前記ロータ11の軸方向両側面に部分的な摩耗が生じてしまい、制動時のジャダーの発生、燃費の低下を招いてしまう。又、このアンチラトルスプリング16を所定位置に組み付ける作業が面倒になり、前記ディスクブレーキ1の組立コストが嵩む原因となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時にアウタ、インナ両パッドがキャリパに対してがたつくのを効果的に防止できて、組立作業を容易に行える対向ピストン型ディスクブレーキの構造を実現すると同時に、ロータに対するパッドの傾斜を最小限に抑えるべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対向ピストン型ディスクブレーキは、前述の特許文献1に記載される等により従来から知られている対向ピストン型ディスクブレーキと同様に、キャリパと、複数のシリンダと、複数のピストンと、一対のパッドと、複数のガイド孔と、一対のガイドピンとを備える。
このうちのキャリパは、車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタ、インナ両ボディ部と、前記ロータの外周縁よりも径方向外方位置で、これら両ボディ部の周方向両端部同士を連結する、一対の連結部とから成る。
又、前記各シリンダは、前記両ボディ部に、互いに対向して設けられている。
又、前記各ピストンは、前記各シリンダ内に液密に、且つ、軸方向に関する変位を可能に嵌装されている。
又、前記両パッドは、それぞれがプレッシャプレートと、このプレッシャプレートのうちで前記ロータに対向する面に添着固定されたライニングとから成る。そして、前記両ボディ部の互いに対向する面に設けられた保持凹部に、軸方向の変位を可能に保持されている。
又、前記各ガイド孔は、前記両パッドを構成する前記プレッシャプレートのうち、前記ロータの外周縁よりも径方向外寄り部分で、且つ、周方向に離隔した位置に、前記両プレッシャプレート毎に2箇所ずつ設けられている。
更に、前記両ガイドピンは、これら各ガイド孔を軸方向に挿通して、前記両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設けられている。
【0011】
特に、本発明の対向ピストン型ディスクブレーキに於いては、前記両ガイドピンと前記各ガイド孔との係合により前記両パッドの周方向に離隔した2箇所位置を前記キャリパに対し、それぞれ軸方向の変位を可能に支持した第一、第二両支持部のうち、周方向一端寄りの第一支持部は前記両パッドを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持している。同じく周方向他端寄りの第二支持部は前記両パッドを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を許容した状態で支持している。そして、弾性部材により前記第二支持部に径方向に向いた弾力を付与する事により前記両パッドに、前記第一支持部を中心として揺動する方向の弾力を付与している。
【0012】
上述の様な本発明の対向ピストン型ディスクブレーキを実施するのに、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記両ガイドピンのうち、前記第一支持部を構成する一方のガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持すると共に、同じく前記第二支持部を構成する他方のガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を許容した状態で支持する。
そして、弾性部材により前記他方のガイドピンに径方向に向いた弾力を付与する事で前記両パッドに、前記一方のガイドピンを中心として揺動する方向の弾力を付与する。
【0013】
上述の様な請求項2に記載した発明を実施する場合に、前記一対のガイドピンの設置位置と、このうちの他方のガイドピンを押圧する方向との関係は、前記ロータの回転方向との関係で規制する事が好ましい。
例えば、請求項3に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置する場合には、この他方のガイドピンに径方向内方に向いた弾力を付与する。
又、請求項4に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、この他方のガイドピンに径方向外方に向いた弾力を付与する構造にする事もできる。
これに対して、請求項5に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置する場合には、この他方のガイドピンに径方向内方に向いた弾力を付与する。
又、請求項6に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置する場合に、この他方のガイドピンに径方向外方に向いた弾力を付与する構造にする事もできる。
【0014】
又、上述の様な請求項2〜6に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項12に記載した発明の様に、前記弾性部材を、周方向に配置された板ばねとする。そして、この板ばねの中間部2箇所位置を、前記両ガイドピンの位置の何れかのガイドピンの軸方向中間部の径方向内側面と別のガイドピンの軸方向中間部の径方向外側面とに弾性的に当接させる。
更に、上述の様な請求項12に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項13に記載した発明の様に、前記保持凹部の周方向両端面と前記両パッドを構成する前記プレッシャプレートの周方向両端面との間に挟持される一対のパッドクリップを、前記アウタ、インナ両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設ける。そして、これら両パッドクリップの径方向外端縁の軸方向中間部に形成された係止部に前記板ばねの周方向両端部を係止する事により、この板ばねが軸方向にずれ動く事を阻止する。
【0015】
或いは、前述の様な本発明の対向ピストン型ディスクブレーキを実施するのに、具体的には、請求項7に記載した発明の様に、前記両ガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持する。そして、前記第一支持部を構成する前記ガイド孔に一方のガイドピンを、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、前記第二支持部を構成する前記ガイド孔に他方のガイドピンを、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、弾性部材により前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向に向いた弾力を付与する事によりこれら両パッドに、前記一方のガイドピンを中心として揺動する方向の弾力を付与する。
【0016】
上述の様な請求項7に記載した発明を実施する場合に、前記一対のガイドピンの設置位置と、前記両パッドの周方向他端寄り部分を押圧する方向との関係は、前記ロータの回転方向との関係で規制する事が好ましい。
例えば、請求項8に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものである場合には、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向内方に向いた弾力を付与する。
又、請求項9に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向外方に向いた弾力を付与する構造にする事もできる。
これに対して、請求項10に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものである場合には、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向内方に向いた弾力を付与する。
又、請求項11に記載した発明の様に、前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものである場合には、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向外方に向いた弾力を付与する構造にする事もできる。
【0017】
更に、本発明の対向ピストン型ディスクブレーキを実施する場合、好ましくは、請求項14に記載した発明の様に、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端縁部の径方向両端部に、それぞれ前記両保持凹部の周方向両端部に設けられた段差面と係合するアンカ凸部を設ける。
或は、請求項15に記載した発明の様に、前記両パッド同士の間に、これら両パッドを互いに離隔する方向に押圧するリターンスプリングを設ける。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明の対向ピストン型ディスクブレーキの場合、非制動時に一対のパッドのうちの第二支持部に対応する部分が弾性部材により径方向に、直接又は他方のガイドピンを介して押圧されるのに伴って、前記両パッドが第一支持部に対応する部分を中心として、所定方向に揺動変位する。そして、これら両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向端縁とキャリパの保持凹部の内面とが、このプレッシャプレートの対角線方向に存在する2箇所位置ずつで互いに当接する。この状態では、これらプレッシャプレートの周方向端縁と保持凹部の内面とが摩擦係合し、特に前記両パッドを前記キャリパに向けて強く押し付けなくても、前記プレッシャプレートが前記キャリパに対しがたつく事がなくなる。この結果、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時にアウタ、インナ両パッドがキャリパに対してがたつくのを効果的に防止できて、組立作業を容易に行える。
【0019】
制動時に、前記両パッドを構成するライニングとロータとが擦れ合い、これら両パッドに、制動に伴う大きな摩擦力(ブレーキトルク)が加わると、これら両パッドが前記弾性部材の弾力に抗し、前記一方のガイドピンを中心として、前記所定方向とは逆方向に揺動変位する。そして、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端縁のうち、前記ロータの回出側端縁が、前記保持凹部のうちの回出側内面と当接し、前記ブレーキトルクを支承する。この状態では、これら回出側端縁と回出側内面とが、十分に広い面積で当接するので、当接部に過大な面圧が作用する事はなく、これら回出側端縁及び回出側内面に著しい摩耗が生じる事を防止できる。特に請求項14に記載した構成を採用すれば、制動時に於ける前記両パッドの姿勢を安定させて、制動時にこれら両パッドが振動する事を抑えられる。
【0020】
本発明の場合、前記弾性部材の弾力に基づいて前記プレッシャプレートの端縁と前記保持凹部の内面とを、非制動時にも摩擦係合させる為、制動解除時に、前記両パッドのライニングの前面と前記ロータの側面とが離隔しにくく、これら各面同士が擦れ合ったままとなる可能性がある。これに対して、請求項15に記載した発明の様にリターンスプリングを設ければ、この様な擦れ合いを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、キャリパの径方向外側且つインナ側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく、径方向外側から見た正投影図。
【図3】図2のイ−イ断面図。
【図4】同ロ−ロ断面図。
【図5】一対のガイドピンの両端部を支持する為にキャリパに形成した支持孔を示す、(A)は前進状態での回入側の、(B)は同じく回出側の、それぞれ図4と同方向から見た部分正投影図。
【図6】リターンスプリングを組み込んだ状態で示す、図2のハ−ハ断面図。
【図7】一対のパッドのプレッシャプレートの周方向端縁と保持凹部の内面との突合せ部に挟持するパッドクリップを、周方向から見た状態(A)と、(A)の中央部で階段状に切断し、軸方向から見た状態(B)とで示す正投影図。
【図8】本発明の実施の形態の第2例を示す、図4と同様の図。
【図9】同第3例を示す、図2と同様の図。
【図10】図9のニ−ニ断面図。
【図11】本発明の実施の形態の第4例を示す、図2のホ−ホ断面図。
【図12】本発明の実施の形態の第5例を示す、パッドと一対のガイドピンとを取り出して図4、8と同方向から見た部分断面図。
【図13】本発明の技術的範囲に属する代表的構造の第1例を、非制動時乃至軽制動時の状態(A)と、前進時の制動状態(B)と、後退時の制動状態(C)とで示す模式図。
【図14】同第2例を示す模式図。
【図15】同第3例を示す模式図。
【図16】同第4例を示す模式図。
【図17】同第5例を示す模式図。
【図18】同第6例を示す模式図。
【図19】同第7例を示す模式図。
【図20】同第8例を示す模式図。
【図21】従来構造の1例を、径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図22】図21のヘ−へ断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1〜7は、請求項1〜3、12、13、14、15に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の対向ピストン型ディスクブレーキは、キャリパ2aと、複数のシリンダ3、3と、複数のピストン4、4と、一対のパッド5a、5aと、複数のガイド孔6a、6aと、一対のガイドピン7a、7bと、板ばね18と、一対のリターンスプリング20、20aとを備える。本例の対向ピストン型ディスクブレーキの特徴は、非制動時に前記両パッド5a、5aの周方向両端縁を、前記キャリパ2aに設けた保持凹部21、21の内面である受面に対し傾斜させ、制動時に前記両パッド5a、5aの回出側端縁を、この受面に対し均一に当接させる点にある。この為に本例の場合には、前記両ガイドピン7a、7bのうちの回出側(図1、2、4の右側)のガイドピン7bを中心として揺動変位を可能に支持すると共に、前記板ばね18により回入側(図1、2、4の左側)のガイドピン7aを、径方向内方に押圧している。以下、この様な特徴を備えた本例の構造に就いて説明する。
【0023】
前記キャリパ2aは、アルミニウム合金を鋳造する事により一体に造られたもので、アウタ、インナ両ボディ部8a、9aと、一対の連結部10a、10aとから成る。このうちのアウタ、インナ両ボディ部8a、9aは、車輪と共に回転するロータ11aを、軸方向両側から挟んだ状態で設けられている。本例の場合、車両の前進状態で、このロータ11aが、図4で時計方向に回転する。又、前記両連結部10a、10aは、このロータ11aの外周縁よりも径方向外方位置で、前記両ボディ部8a、9aの周方向両端部同士を連結している。又、前記アウタ、インナ両ボディ部8a、9aの互いに対向する面のうちで、前記両連結部10a、10a同士の間部分に、それぞれ保持凹部21、21を設け、これら両保持凹部21、21に、それぞれ前記両パッド5a、5aを、軸方向の変位を可能に保持する様に構成している。前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面と、前記両連結部10a、10aの互いに対向する面とは、同一平面上に存在する。言い換えれば、前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面と、前記両連結部10a、10aの互いに対向する面とは、段差部等が存在せずに、滑らかに連続している。前記各シリンダ3、3は、前記両保持凹部21、21の底面部分で、前記アウタ、インナ両ボディ部8a、9aの互いに対向する面に開口している。前記各ピストン4、4は、この様な前記各シリンダ3、3内に液密に、且つ、軸方向に関する変位を可能に嵌装されている。
【0024】
又、前記両パッド5a、5aは、それぞれがプレッシャプレート13aと、このプレッシャプレート13aのうちで前記ロータ11aに対向する面に添着固定されたライニング14a、14aとから成る。そして、このうちのプレッシャプレート13aを、前記両保持凹部21、21に、パッドクリップ22、22を介して、軸方向の変位を可能に保持している。本例の場合にこれら両パッドクリップ22、22は、アルミニウム合金製の前記キャリパ2aに設けた前記両保持凹部21、21の回出側の端部内面に、ブレーキトルクに基づく大きな面圧が作用した場合に、この端部内面に圧痕等の損傷が生じるのを防止する為に設ける。これに対して、鋳鉄製のキャリパを使用する場合には、このキャリパとパッドのバッキングプレートとの摺接部が錆び付くのを防止する為に、同様のパッドクリップが必要になる。
【0025】
何れにしても、前記両パッドクリップ22、22は、ステンレス鋼板等の、耐食性及び耐圧縮性を有する金属薄板製で、図7の(A)に示す様な、門形の基板部23を有する。又、この基板部23の端縁部に、複数の側方折れ曲がり部24、24と、1個の内径側折れ曲がり部25と、一対の外径側折れ曲がり部26、26とを形成している。このうちの側方折れ曲がり部24、24は、軸方向に関してこの基板部23の両端縁部複数個所ずつ(図示の例では2箇所ずつ合計4箇所)から、この基板部23から同方向にほぼ直角にまで折れ曲がった状態で形成している。又、前記内径側折れ曲がり部25は、前記基板部23の中央部径方向内端縁から前記各側方折れ曲がり部24、24とは逆方向に、前記両連結部10a、10aの内周面の傾斜に合わせて折れ曲がった状態で形成している。更に、前記両外径側折れ曲がり部26、26は、前記基板部23の外径側端縁の中央部から両端寄りに少し外れた部分から径方向外方に延出した部分の中間部を180度弱折り返し、更にその先端部を前記各側方折れ曲がり部24、24とは逆方向に折り曲げた状態で形成している。
【0026】
それぞれが上述の様な形状を有する、前記両パッドクリップ22、22は、図1、2、4に示す様に、前記キャリパ2aの周方向両端寄り部分に装着する。即ち、前記両パッドクリップ22、22を構成する前記基板部23を、前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面と前記両連結部10a、10aの互いに対向する面とに当接させる。この状態で、前記各側方折れ曲がり部24、24を、前記両保持凹部21、21の周方向両端部で前記アウタ、インナ両ボディ部8a、9aの互いに対向する面に当接させる。又、前記内径側折れ曲がり部25を前記両連結部10a、10aの内周面に、前記両外径側折れ曲がり部26、26をこれら両連結部10a、10aの外周面に、それぞれ当接させる。
【0027】
前記両パッド5a、5aを構成する前記両プレッシャプレート13a、13aは、それぞれ、上述の様に前記キャリパ2aの周方向両端寄り部分に装着した前記両パッドクリップ22、22の基板部23、23同士の間に装着する。これら両基板部23、23同士の(これら両基板部23、23と前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面とを隙間無く当接させた状態での)間隔は、前記両プレッシャプレート13a、13aの周方向に関する長さ寸法よりも少しだけ大きくしている。従って、これら両プレッシャプレート13a、13aは前記両保持凹部21、21に、軸方向の変位を可能である事に加えて、図4の表裏方向の仮想中心軸O(説明の便宜上、後述する摩擦中心と一致させた状態で描いている)を中心とする、若干の揺動変位を可能に保持される。
【0028】
前記両パッド5a、5aを構成する前記両プレッシャプレート13a、13aの周縁寄り部分は、それぞれ前記両ライニング14a、14aの周縁部よりも突出している。特に、径方向外端寄り部分と周方向両端寄り部分とは、これら両ライニング14a、14aの周縁部よりも、それぞれの方向に十分に突出させている。
先ず、前記両プレッシャプレート14a、14aの径方向外端部に関しては、周方向両端寄り部分に、それぞれ径方向外方に突出する突出部27、27を設け、これら各突出部27、27に、それぞれ前記各ガイド孔6a、6aを形成している。そして、これら各ガイド孔6a、6aに、前記両ガイドピン7a、7bを挿通している。これら各ガイド孔6a、6aの内寸(互いに対向する内面同士の間隔)は、径方向に関しては前記両ガイドピン7a、7bの外径よりも僅かに(軸方向の相対変位を許容するが、径方向に関する相対変位を実質的に阻止する程度に)大きく、周方向に関してはこの外径よりも少し(周方向に関する相対変位を多少許容できる程度に)大きい。
【0029】
前記両ガイドピン7a、7bは、軸方向に配置した状態で、前記キャリパ2aを構成する、前記アウタボディ部8aと前記インナボディ部9aとの間に掛け渡している。但し、これら両ボディ部8a、9aに対する前記両ガイドピン7a、7bの支持状態を、互いに異ならせている。本例の場合には、回入側のガイドピン7aを前記両ボディ部8a、9aに、径方向への若干の変位を可能に支持すると共に、回出側のガイドピン7bをこれら両ボディ部8a、9aに、各方向への変位を阻止した状態で支持している。この為に本例の場合には、前記両ガイドピン7a、7bの両端部を支持する為、前記両ボディ部8a、9aの径方向外端部で、それぞれ周方向に離隔した2箇所位置に形成した支持孔28a、28bの形状を互いに異ならせている。
【0030】
即ち、前記回入側のガイドピン7aの両端部を支持する為の支持孔28aは、図5の(A)に示す様に、径方向に長い(好ましくは、次述する回出側の支持孔28bの中心をその中心とする部分円弧状の)長孔としている。この様な前記回入側の支持孔28aの幅寸法は、前記回入側のガイドピン7aの外径よりも僅かに大きく、同じく長さ寸法は、前記回入側のガイドピン7aの直径よりも少し(このガイドピン7aが前記支持孔28a内で径方向に若干変位できる程度に)大きい。これに対して、前記回出側のガイドピン7bの両端部を支持する為の支持孔28bは、図5の(B)に示す様に、単なる円孔としている。前記回出側のガイドピン7bはこの支持孔28bに、ほぼ隙間なく挿通している。本例の場合、前記回出側のガイドピン7bと前記両プレッシャプレート13a、13aの回出側の支持孔28bとの係合部が、特許請求の範囲に記載した第一支持部であり、回入側のガイドピン7aと前記回入側の支持孔28aとの係合部が、同じく第二支持部である。
【0031】
本例の場合には、上述の様な構成により、前記両パッド5a、5a(を構成する前記両プレッシャプレート13a、13a)を前記キャリパ2aの保持凹部21、21内に、前記回出側のガイドピン7b(第一支持部)を中心とする、若干の揺動変位を可能に支持している。又、前記キャリパ2aと前記回入側のガイドピン7aとの間に設けた、前記板ばね18によりこの回入側のガイドピン7aに、径方向内方に向いた弾力を付与している。この板ばね18は、ステンレスのばね鋼板等の弾性を有する帯状の金属板を曲げ形成して成るもので、前記キャリパ2aの周方向両端部を構成する、前記両連結部10a、10a同士の間隔よりも大きな長さ寸法を有する。又、前記板ばね18の長さ方向中間部の2箇所位置に、それぞれが部分円弧形の弾性押圧部29a、29bを設けている。これら両弾性押圧部29a、29bの湾曲方向は互いに逆であり、回入側の弾性押圧部29aは径方向外側面が、回出側の弾性押圧部29bは径方向内側面が、それぞれ凸面となる方向に湾曲している。
【0032】
この様な形状を有する前記板ばね18は、長さ方向(周方向)両端部を前記両連結部10a、10aの径方向外側面に弾性的に突き当てると共に、前記回入側の弾性押圧部29aを前記回入側のガイドピン7aの軸方向中間部の径方向外側面に、回出側の弾性押圧部29bを前記回出側のガイドピン7bの軸方向中間部の径方向内側面に、それぞれ弾性的に突き当てる。この状態で前記回入側のガイドピン7aに径方向内方に向いた、前記回出側のガイドピン7bに径方向外方に向いた、それぞれ弾力が加わる。又、前記板ばね18の両端部は、前記両パッドクリップ22、22の径方向外端縁部にそれぞれ一対ずつ設けた、前記各外径側折れ曲がり部26、26同士の間に位置する。従って、前記板ばね18が、図1〜4、6に示した設置位置から軸方向にずれ動く事はない。
【0033】
尚、前記板ばね18は、次述する様に、前記回入側のガイドピン7aを径方向内方に押圧する為に設けている。従って、前記板ばね18のうちで、前記両弾性押圧部29a、29bを上述の様に前記両ガイドピン7a、7bの所定位置に弾性的に当接させると共に、何れか一方の端部を前記キャリパ2aの周方向両端部に設けた連結部10a、10aのうちの何れか一方の連結部10aの径方向外側面に当接させる事は必要である。これに対して、前記板ばね18の他方の端部は、他方の連結部10aの径方向外側面から浮き上がっていても構わない(例えば後述する図8の右端部参照)。但し、設置位置のずれ止め防止の為に、前記各外径側折れ曲がり部26、26の径方向高さ以上浮き上がる事は好ましくない(浮き上がりの程度は、後述する図8の右端部程度に止めるべきである)。
【0034】
前述した様に、前記回出側のガイドピン7bは前記キャリパ2aに対し変位不能に支持されているのに対して、前記回入側のガイドピン7aはこのキャリパ2aに対し、径方向の変位を可能に支持されている。この為、前記両パッド5a、5aに外力が加わらない状態(非制動時)、及び、外力が加わった場合でもその外力が小さい状態(軽制動時)では、前記回入側のガイドピン7aが径方向内方に変位し、これら両パッド5a、5aが前記回出側のガイドピン7bを中心として、図4で反時計方向に揺動変位する。そして、この揺動変位の結果、同図に示す様に、前記両パッド5a、5aを構成するプレッシャプレート13a、13aの周方向両端縁のうち、回入側端縁の径方向外端部と、回出側端縁の径方向内端部とが(前記両プレッシャプレート13a、13aの対角線位置部分が)、それぞれ前記両保持凹部21、21の内面(に添設した前記両パッドクリップ22、22)に当接する。
【0035】
これに対して、制動時(前記板ばね18を弾性変形させる程に大きなブレーキトルクが作用する制動時、以下同じ)には、前記両パッド5a、5aを構成するライニング14a、14aと前記ロータ11aとの摩擦(ブレーキトルク)に基づいて、これら両パッド5a、5aに、図4で時計方向のモーメントが加わる。即ち、前記ブレーキトルクは、前記両ライニング14a、14aと前記ロータ11aとの摩擦中心Oから接線方向に、図4に矢印αで示す様に加わる。この様にブレーキトルクは、この矢印αの様に、非制動時乃至軽制動時に於ける、前記両プレッシャプレート13a、13aの回出側端縁と前記両保持凹部21、21の回出側端部内面との当接部(非制動時アンカ側当接部)よりも径方向外側部分に作用する。この為、前記両プレッシャプレート13a、13aが、前記板ばね18を弾性変形させ、前記アンカ側のガイドピン7aを径方向外方に変位させつつ、それぞれの非制動時アンカ側当接部を中心として、図4で時計方向に揺動変位する。そして、前記両プレッシャプレート13a、13aの回出側端縁と前記両保持凹部21、21の回出側端部内面とが、径方向内端部だけでなく径方向外端部でも当接する。この結果、大きなブレーキトルクが作用する制動時に、このブレーキトルクを、広い面積で、前記両プレッシャプレート13a、13aから前記キャリパ2aに伝達できる。
【0036】
又、これら両プレッシャプレート13a、13aの回入側、回出側両端縁の径方向中間部に、それぞれ凹入部30、30を形成している。言い換えれば、前記プレッシャプレート13a、13aの周方向両端縁部の径方向両端部分を径方向中間部よりも周方向に突出させ、これら各部分を、それぞれ前記両保持凹部21、21の周方向両端部に設けられた段差面と係合する(突き当たる)、アンカ凸部31a、31bとしている。そして、前述した非制動時及び軽制動時には、これら各アンカ凸部31a、31bのうち、回入側で外径側の凸部31aと回出側で内径側の凸部31bとを、前記両保持凹部21、21の周方向両端部の段差面の径方向外端部と径方向内端部とに、それぞれ当接させる様にしている。これに対して、前述した制動時には、前記各アンカ凸部31a、31bのうち、回出側の径方向両端部の凸部31a、31bを、前記両保持凹部21の回出側端部の段差面の径方向両端部に、それぞれ当接させる様にしている。
【0037】
更に、本例の場合には、前記各凹入部30、30を利用して、前記両パッド5a、5aを互いに離隔する方向に押圧する、前記各リターンスプリング20、20aを設置している。このうちリターンスプリング20は、図1、6に示す様に、前記両プレッシャプレート13a、13aの円周方向両端部のうち、前記各凹入部30、30の底部と前記両ライニング14a、14aの周方向両端縁との間部分に互いに対向する状態で存在する、段差部32、32を利用する事により設置している。この為に、これら各段差部32、32の一部に、それぞれV溝状の係止受部33、33を設け、これら各係止受部33、33に、前記ロータ11aの一部を跨ぐ形状を有する前記リターンスプリング20の両端部に設けた係止部34、34を、それぞれ係止している。
【0038】
前記リターンスプリング20は、ステンレスのばね鋼、亜鉛メッキ鋼板の如く、弾性及び耐食性を有する金属板を曲げ形成して成る板ばねであり、弾性変形部35と、一対の腕部36、36と、一対の折れ曲がり部37、37とを備える。このうちの弾性変形部35は、前記リターンスプリング20全体としての中央部で、前記ロータ11aを跨ぐ部分に設けられている。本例の場合に前記弾性変形部35は、波型形状として、弾性変形量を確保し、前記両折れ曲がり部37、37を近付ける事に関するばね定数を低く抑えている。又、前記両腕部36、36は、前記弾性変形部35の軸方向両端部から径方向内方に折れ曲がっている。更に、前記両折れ曲がり部37、37は、前記両腕部36、36の径方向内端部から、軸方向に関して互いに近づく方向に折れ曲がっている。又、周方向(図6の表裏方向)に関して、前記両折れ曲がり部37、37の幅寸法は、前記弾性変形部35及び前記両腕部36、36の幅寸法よりも大きくいる。そして、周方向に関して、前記両折れ曲がり部37、37の片半部(図6の裏面側半部)を、前記両腕部36、36の径方向内端部よりも同方向に延出している。そして、この延出した部分を、前記両係止部34、34として、前記各係止受部33、33に係合させている。
【0039】
上述の様なリターンスプリング20は、前記弾性変形部35を弾性変形させつつ、前記両腕部36、36の先端部同士の間隔を縮めた状態で、前記両プレッシャプレート13a、13aの周方向両端部同士の間に組み付ける。即ち、前記弾性変形部35を前記ロータ11aの外周縁よりも径方向外方に位置させると共に、前記両腕部36、36をこのロータ11aの軸方向両側に配置した状態で、前記両係止部34、34の先端縁を前記両係止受部33、33の底部(V型溝の最も深くなった部分)に突き当てる。この様に、前記リターンスプリング20を、前記両プレッシャプレート13a、13aの円周方向両端部同士の間に組み付けた状態で、前記両パッド5a、5aには、それぞれの周方向両端部を互いに離隔させる方向の弾力が付与される。この為、制動解除に伴って、前記両パッド5a、5aを前記ロータ11aの側面に押し付けている力が解除されると、前記両リターンスプリング20が前記両パッド5a、5aを前記ロータ11aの側面から退避させる。この為、非制動時に於ける、このロータ11aの側面と前記両ライニング14a、14aとの擦れ合い(引き摺り)を解消できる。又、組み付け状態では、図6に示す様に、前記リターンスプリング20の弾性変形部35の波形形状のうちの軸方向中央の谷の部分と、前記板ばね18とが当接している。この為、この板ばね18がアンカの役割を果たし、前記両パッド5a、5aに対して、互いに離隔させる方向の弾力を安定して付与する事ができる。
尚、前記リターンスプリング20aは、後述する実施の形態の第4例の構造を説明する為の図11の様に、前記リターンスプリング20と比較して、中央部に設けた弾性変形部35aの折り返し部(波形)の個数を多くして、このリターンスプリング20aのばね定数を低く抑えている。この構造以外は、前述したリターンスプリング20と同様である。
【0040】
上述の様に本例の対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、非制動時乃至軽制動時には、図4に示す様に、前記両プレッシャプレート13a、13aの周方向両端部に設けた前記各アンカ凸部31a、31bのうち、回入側で外径側の凸部31aと回出側で内径側の凸部31bとが(前記両プレッシャプレート13a、13a毎に、対角線上2箇所位置の凸部31a、31bが)、前記両保持凹部21、21の周方向両端部の段差面の径方向外端部と径方向内端部とに、それぞれ当接する。この状態では、前記2箇所位置の凸部31a、31bの先端縁と前記両保持凹部21、21の内面の周方向反対側部分とが、前記両パッドクリップ22、22を介して摩擦係合する。この結果、特に前記両パッド5a、5aを前記キャリパ2a(の保持凹部21、21)に向けて強く押し付けなくても、前記両プレッシャプレート13a、13aが前記キャリパ2a(の保持凹部21、21)に対しがたつく事がなくなる。この結果、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時に前記両パッド5a、5aが前記キャリパ2aに対してがたつくのを効果的に防止できて、組立作業を容易に行える。又、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用せずに済む(従来の1/2〜1/3程度の弾力で済む)為、前記両プレッシャプレート13a、13aの端縁と、この端縁が摩擦係合している部分との当接圧を低く抑える事ができる。この結果、制動及びその解除に伴って、前記両パッド5a、5aを軸方向に変位させる為に要する力を低く抑えられる。
【0041】
これに対して、前進時の制動時には、前述した様に、制動に伴うブレーキトルクにより前記両パッド5a、5aが前記回出側のガイドピン7bを中心として図4の時計方向に揺動変位する傾向になる。そして、前記ブレーキトルクが大きくなると、前記回入側のガイドピン7aを、前記板ばね18の弾力に抗して径方向外方に変位させつつ、前記両パッド5a、5aが前記時計方向に揺動変位し、前記両プレッシャプレート13a、13aの回出側端縁の径方向両端部に設けた、前記各アンカ凸部31a、31bが、前記両保持凹部21、21のうちの回出側内面と当接し、前記ブレーキトルクを支承する。この状態で前記ブレーキトルクの作用方向は、前記各アンカ凸部31a、31bと前記両保持凹部21、21のうちの回出側内面との当接部同士の間を通過するので、前記ブレーキトルクが前記両パッド5a、5aの姿勢を安定させる方向に作用する。従って、制動時にこれら両パッド5a、5aが振動する事を抑えられる。又、それぞれが前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面と平行な平坦面である、前記各アンカ凸部31a、31bの先端面全体が、前記両保持凹部21、21の回出側内面と(回出側に設置したパッドクリップ22を介して)当接する。この為、前記両パッド5a、5aから前記キャリパ2aにブレーキトルクを伝達する当接部の面積を十分に確保できて、当接部に過大な面圧が作用する事はない。この結果、前記各アンカ凸部31a、31bの先端面と前記両保持凹部21、21の回出側内面とに著しい摩耗が生じる事を防止できる。
【0042】
又、後退状態での制動時には、制動に伴うブレーキトルクにより前記両パッド5a、5aが後退時に回入側となる前記ガイドピン7bを中心として図4の時計方向に揺動変位する傾向になる。そして、前記ブレーキトルクが大きくなると、後退時に回出側となる前記ガイドピン7aを、前記板ばね18の弾力に抗して径方向外方に変位させつつ、前記両パッド5a、5aが前記時計方向に揺動変位し、前記両プレッシャプレート13a、13aのうちで、後退時に回出側となる端縁の径方向両端部に設けた、前記各アンカ凸部31a、31bが、前記両保持凹部21、21のうちの回出側内面と当接し、前記ブレーキトルクを支承する。この状態で前記ブレーキトルクの作用方向は、前記各アンカ凸部31a、31bと前記両保持凹部21、21のうちの回出側内面との当接部同士の間を通過するので、前記ブレーキトルクが前記両パッド5a、5aの姿勢を安定させる方向に作用する。従って、制動時にこれら両パッド5a、5aが振動する事を抑えられる。
【0043】
上述の様に本例の構造の場合には、前記板ばね18の弾力に基づいて前記両パッド5a、5aのプレッシャプレート13a、13aの端縁と前記両保持凹部21、21の内面とを、非制動時にも摩擦係合させる為、制動解除時に、前記両パッド5a、5aのライニング14a、14aの前面と前記ロータ11aの側面とが離隔しにくく、これら各面同士が擦れ合ったままとなる可能性がある。これに対して本例の構造の場合には、前記両パッド5a、5aの周方向両端部同士の間に前記両リターンスプリング20、20aを設けている為、制動解除に伴って前記両パッド5a、5a同士の間隔を十分に(前記ロータ11aよりも大きく)離隔させられる。この為、上述の様な、制動解除後の擦れ合いを防止できる。
【0044】
尚、前記ロータ11aの回転方向が以上に述べた実施の形態の第1例の場合とは逆である場合、即ち、車両の前進時に前記ロータ11aが、図4の反時計方向に回転する(図4の右側が回入側になり、同じく左側が回出側になる)場合に、図4の左側のガイドピン7aに、径方向外向の弾力を付与する事もできる(図4のままでも良い)。径方向外方への弾力付与は、前記板ばね18の組み付け方向を図4と左右反転させる事により、容易に行える。この様な構成を採用した場合、非制動時及び軽制動時には、前記両プレッシャプレート13a、13aの周方向両端部に形成した前記各アンカ凸部31a、31bのうち、回出側で内径側のアンカ凸部31bと回入側で外径側のアンカ凸部31aとが、前記両保持凹部21、21の周方向両端部内面と当接する。制動時には、前記両プレッシャプレート13a、13aが図4で反時計方向に揺動変位する。この結果、上述した実施の形態の第1例の場合と同様に、回出側端縁部のアンカ凸部31a、31bが、前記両保持凹部21、21の回出側端部内面と当接する。この過程で、前記回出側で内径側のアンカ凸部31bと回出側のパッドクリップ22とが、径方向に関して僅かに摺動する為、制動時に於ける前記両パッド5a、5aの動きが、上述した実施の形態の第1例よりも重くなる(揺動変位に要する力が大きくなる)。逆に言えば、上述した実施の形態の第1例は、制動時に前記両パッド5a、5aの動きを軽くできて、所望の制動力をより安定して得られる。
又、本例の場合には、前記両ガイドピン7a、7bとして、中空管状のものを使用して、小型計量化と材料費の低減とを図っているが、これら両ガイドピン7a、7bとして、充実体のものを使用する事は差し支えない。
【0045】
[実施の形態の第2例]
図8は、請求項1〜3、12、13、14に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、板ばね18aを構成する回出側の弾性押圧部29cの形状を、上述した実施の形態の第1例に比べ、半円筒形に近くしている。そして、この弾性押圧部29cを、回出側のガイドピン7bの軸方向中間の下半部に、このガイドピン7bを抱持する様に当接させている。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0046】
[実施の形態の第3例]
図9〜10も、請求項1〜3、12、13、14に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、板ばね18bの長さ寸法を、前述した実施の形態の第1例及び上述した第2例の場合よりも短くしている。そして、前記板ばね18bのうち、回出側端部のみを、パッドクリップ22の径方向外端縁部に形成し一対の外径側折れ曲がり部26、26同士の間に配置して、前記回出側端部の軸方向に関する位置決めを図っている。これに対して、前記板ばね18bの回入側端部及び中間部の軸方向に関する位置決めを、一対のガイドピン7c、7dの中間部外周面に形成した小径部38、38の両端に存在する段差部との係合により図っている。その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0047】
[実施の形態の第4例]
図11は、請求項15に対応する、実施の形態の第4例を示している。本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、リターンスプリング20aの中央部に設けた弾性変形部35aの折り返し部(波形)の個数を多くして、このリターンスプリング20aのばね定数を低く抑え、一対のパッド5a、5aのライニング14a、14aの摩耗の進行に伴う、これら両パッド5a、5aを離隔させる方向に作用する弾力の変化を、より低く抑えられる様にしている。その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0048】
[実施の形態の第5例]
請求項7〜11に対応する発明の実施の形態に就いて、図12を参照しつつ説明する。これら請求項7〜11に記載した発明を実施する場合には、一対のガイドピン7、7の両端部を、キャリパ2aを構成するアウタ、インナ両ボディ部8a、9a(例えば図1参照)に対し、径方向(及び周方向)の変位を阻止した状態で支持する。そして、第一支持部を構成するガイド孔17aに一方の(図12で右方の)ガイドピン7を、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、第二支持部を構成するガイド孔17bに他方の(図12で左方の)ガイドピン7を、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、板ばね等の弾性部材により一対のパッド5bのうちの前記第二支持部寄り部分に、径方向に向いた弾力を付与する事によりこれら両パッド5bに、前記一方のガイドピン7を中心として揺動する方向の弾力を付与する。
【0049】
前記両ガイドピン7、7の設置位置と、前記両パッド5bの周方向他端寄り部分を押圧する方向との関係は、ロータの回転方向との関係で規制する。
例えば、前記一方のガイドピン7が、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置(このロータが図12の時計方向に回転)し、前記他方のガイドピン7が同じく回入側に位置するものである場合には、前記両パッド5bの回入側部分に、径方向内方又は径方向外方に向いた弾力を付与する。この様な径方向内方の弾力は、前記両パッド5bを構成するプレッシャプレート13bの外径側端縁部を径方向内方に押圧する事により、容易に付与できる。又、径方向外方の弾力は、例えばキャリパに設けた保持凹部の内径側且つ回入側端部に、径方向外方に向いた段差部を設け、この段差部と前記両パッド5bを構成するプレッシャプレート13bの回入側端部の内周縁部との間に、板ばね等の圧縮ばねを設ける。
これに対して、前記一方のガイドピン7が、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置(このロータが図12の反時計方向に回転)し、前記他方のガイドピン7が同じく回出側に位置するものである場合には、前記両パッド5bの回出側部分に径方向外方又は径向内方に向いた弾力を付与する。この様な径方向外方の弾力を付与する為には、例えばキャリパに設けた保持凹部の内径側且つ回出側端部に、径方向外方に向いた段差部を設け、この段差部と前記両パッド5bを構成するプレッシャプレート13bの回出側端部の内周縁部との間に、板ばね等の圧縮ばねを設ける。又、径方向内方の弾力は、前記両パッド5bを構成するプレッシャプレート13bの外径側端縁部を径方向内方に押圧する事により、容易に付与できる。
【0050】
この様な構造は、制動開始と制動解除とに伴って前記両パッド5bを軸方向に変位させる力を小さく抑える面からは、前述した実施の形態の第1〜4例の場合に比べて多少不利になる。但し、これら実施の形態の第1〜4例の場合と同様に、大きな弾力を有するアンチラトルスプリングを使用しなくても、非制動時に前記両パッド5bがキャリパに対してがたつくのを効果的に防止できて、組立作業を容易に行える。又、制動時に、前記両パッド5bを構成するライニング14aとロータとが擦れ合った状態で、これら両パッド5bを構成する前記両プレッシャプレート13bの回出側端縁と前記キャリパに設けた保持凹部の回出側内面とを、十分に広い面積で当接させて、これら回出側端縁及び回出側内面に著しい摩耗が生じる事を防止できる。逆に言えば、前述した実施の形態の第1〜4例の場合には、径方向に関して変位可能に支持したガイドピンを介して、一対のパッド5a、5a(例えば図1参照)を揺動変位させる構造を採用している為、制動開始と制動解除とに伴ってこれら両パッド5a、5aを軸方向に変位させる力を小さく抑えられる。この理由は、本例の場合とは異なり、この軸方向の変位の際に擦れ合う部分を少なく抑えられる(板ばね18とプレッシャプレート13a、13aとを相対変位させる必要がない)為である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、特許請求の範囲で規定される技術的範囲内で、各種変更実施する事ができる。このうち、一対のガイドピンをキャリパに対し固定し、他方のガイドピンをこのキャリパに対し径方向の変位可能に支持すると共に、この他方のガイドピンを弾性部材により径方向に押圧する構造の代表的な4例に就いて、先に説明した実施の形態を含め、図13〜16により簡単に説明する。
【0052】
先ず、図13に示した第1例は、前述の図1〜10に示した実施の形態の第1〜3例に対応するもので、前進時に於ける回出側のガイドピン7bを固定すると共に、同じく回入側のガイドピン7aを径方向の変位を可能に支持し、更にこの回入側のガイドピン7aに、径方向内方に向いた弾力を付与している。この構造でパッド5aの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、前述した通りである。
【0053】
次に、図14に示した第2例は、前進時に於ける回出側のガイドピン7bを固定すると共に、同じく回入側のガイドピン7aを径方向の変位を可能に支持し、更にこの回入側のガイドピン7aに、径方向外方に向いた弾力を付与している。この構造でパッド5aの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、上述の第1例とほぼ同様である。
【0054】
次に、図15に示した第3例は、前進時に於ける回入側のガイドピン7aを固定すると共に、同じく回出側のガイドピン7bを径方向の変位を可能に支持し、更にこの回出側のガイドピン7bに、径方向内方に向いた弾力を付与している。この構造でパッド5aの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、上述の第1例とほぼ同様である。
【0055】
次に、図16に示した第4例は、前進時に於ける回入側のガイドピン7aを固定すると共に、同じく回出側のガイドピン7bを径方向の変位を可能に支持し、更にこの回出側のガイドピン7bに、径方向外方に向いた弾力を付与している。この構造でパッド5aの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、上述の第1例とほぼ同様である。
【0056】
前述の図12に示す様な、一対のピン7、7を固定して、プレッシャプレート13aをこれら両ピン7、7に対し相対変位可能とする構造に就いても、同様の組み合わせが実施可能である。この様な構造は、図13〜16中に破線で描いた、長い長孔と軸方向に重なるガイド孔を、図12の左側の様に大きなガイド孔17bとする事により得られる(径方向に長い長孔は省略する)。この様な構造の代表的な4例に就いて、先に説明した実施の形態を含め、図17〜20により簡単に説明する。
【0057】
先ず、図17に示した第5例は、前述の図12に示した実施の形態の第5例に対応するもので、一対のガイドピン7、7の両端部を、キャリパ2aを構成するアウタ、インナ両ボディ部8a、9a(例えば図1参照)に対し、径方向(及び周方向)の変位を阻止した状態で支持する。そして、第一支持部を構成するガイド孔17aに、前進時に於ける回出側のガイドピン7(図17の右側)を、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、第二支持部を構成するガイド孔17bに、前進時に於ける回入側のガイドピン7(図17の左側)を、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、弾性部材により一対のパッド5bのうちの前記第二支持部寄り部分に、径方向内方に向いた弾力を付与している。
この構造でパッド5bの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、前述した通りである。
【0058】
次に、図18に示した第6例は、一対のガイドピン7、7の両端部を、キャリパ2aを構成するアウタ、インナ両ボディ部8a、9a(例えば図1参照)に対し、径方向(及び周方向)の変位を阻止した状態で支持する。そして、第一支持部を構成するガイド孔17aに、前進時に於ける回出側のガイドピン7(図18の右側)を、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、第二支持部を構成するガイド孔17bに、前進時に於ける回入側のガイドピン7(図18の左側)を、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、弾性部材により一対のパッド5bのうちの前記第二支持部寄り部分に、径方向外方に向いた弾力を付与している。
この構造でパッド5bの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、前述した通りである。
【0059】
次に、図19に示した第7例は、一対のガイドピン7、7の両端部を、キャリパ2aを構成するアウタ、インナ両ボディ部8a、9a(例えば図1参照)に対し、径方向(及び周方向)の変位を阻止した状態で支持する。そして、第一支持部を構成するガイド孔17aに、前進時に於ける回入側のガイドピン7(図19の左側)を、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、第二支持部を構成するガイド孔17bに、前進時に於ける回出側のガイドピン7(図19の右側)を、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、弾性部材により一対のパッド5bのうちの前記第二支持部寄り部分に、径方向内方に向いた弾力を付与している。
この構造でパッド5bの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、前述した通りである。
【0060】
次に、図20に示した第8例は、一対のガイドピン7、7の両端部を、キャリパ2aを構成するアウタ、インナ両ボディ部8a、9a(例えば図1参照)に対し、径方向(及び周方向)の変位を阻止した状態で支持する。そして、第一支持部を構成するガイド孔17aに、前進時に於ける回入側のガイドピン7(図20の左側)を、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、第二支持部を構成するガイド孔17bに、前進時に於ける回出側のガイドピン7(図20の右側)を、径方向の変位を許容する状態で挿通する。更に、弾性部材により一対のパッド5bのうちの前記第二支持部寄り部分に、径方向外方に向いた弾力を付与している。
この構造でパッド5bの姿勢は、非制動時乃至軽制動時の状態では(A)に示す様に、前進時の制動状態では(B)に示す様に、後退時の制動状態では(C)に示す様に、それぞれ変化する。各状態での作用・効果は、前述した通りである。
【0061】
尚、前記両ガイドピン7a、7bを、何れの径方向の変位を可能に、前記キャリパ2aに対し支持し、これら両ガイドピン7a、7bを径方向に関して互いに逆方向に押圧する事も考えられる。但し、この様な構造は、前記両パッド5a、5aの径方向位置が不安定になり、前記ロータ11aに段付摩耗を生じさせる原因となる為、好ましくない。
【符号の説明】
【0062】
1 ディスクブレーキ
2、2a キャリパ
3 シリンダ
4 ピストン
5、5a、5b パッド
6、6a ガイド孔
7、7a、7b、7c、7d ガイドピン
8、8a アウタボディ部
9、9a インナボディ部
10、10a 連結部
11、11a ロータ
12 ボルト
13、13a、13b プレッシャプレート
14、14a ライニング
15 保持凹部
16 アンチラトルスプリング
17、17a、17b ガイド孔
18、18a、18b 板ばね
20、20a リターンスプリング
21 保持凹部
22 パッドクリップ
23 基板部
24 側方折れ曲がり部
25 内径側折れ曲がり部
26 外径側折れ曲がり部
27 突出部
28a、28b 支持孔
29a、29b、29c 弾性押圧部
30 凹入部
31a、31b アンカ凸部
32 段差部
33 係止受部
34 係止部
35、35a 弾性変形部
36 腕部
37 折れ曲がり部
38 小径部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特開2008−208970号公報
【特許文献2】特開2009−68593号公報
【特許文献3】特開2002−174280号公報
【特許文献4】特開2003−148525号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタ、インナ両ボディ部、及び、このロータの外周縁よりも径方向外方位置で、これら両ボディ部の周方向両端部同士を連結する一対の連結部から成るキャリパと、これら両ボディ部に、互いに対向して設けられた複数のシリンダと、これら各シリンダ内に液密に且つ軸方向に関する変位を可能に嵌装された複数のピストンと、それぞれがプレッシャプレート及びこのプレッシャプレートのうちで前記ロータに対向する面に添着固定されたライニングから成り、前記両ボディ部の互いに対向する面に設けられた保持凹部に軸方向の変位を可能に保持された一対のパッドと、これら両パッドを構成する前記プレッシャプレートのうち、前記ロータの外周縁よりも径方向外寄り部分で、且つ、周方向に離隔した位置に、前記両プレッシャプレート毎に2箇所ずつ設けられたガイド孔と、これら各ガイド孔を軸方向に挿通して、前記両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設けられた一対のガイドピンとを備えた対向ピストン型ディスクブレーキに於いて、これら両ガイドピンと前記各ガイド孔との係合により前記両パッドの周方向に離隔した2箇所位置を前記キャリパに対し、それぞれ軸方向の変位を可能に支持した第一、第二両支持部のうち、周方向一端寄りの第一支持部は前記両パッドを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持するものであり、同じく周方向他端寄りの第二支持部は前記両パッドを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を許容した状態で支持するものであり、弾性部材により前記第二支持部に径方向に向いた弾力を付与する事により前記両パッドに、前記第一支持部を中心として揺動する方向の弾力を付与している事を特徴とする対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記両ガイドピンのうち、前記第一支持部を構成する一方のガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持すると共に、同じく前記第二支持部を構成する他方のガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を許容した状態で支持しており、弾性部材により前記他方のガイドピンに径方向に向いた弾力を付与する事で前記両パッドに、前記一方のガイドピンを中心として揺動する方向の弾力を付与している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、この他方のガイドピンに径方向内方に向いた弾力を付与している請求項2に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、この他方のガイドピンに径方向外方に向いた弾力を付与している請求項2に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものであり、この他方のガイドピンに径方向内方に向いた弾力を付与している請求項2に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものであり、この他方のガイドピンに径方向外方に向いた弾力を付与している請求項2に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項7】
前記両ガイドピンを前記両ボディ部に対し、径方向の変位を阻止した状態で支持し、前記第一支持部を構成する前記ガイド孔に一方のガイドピンを、径方向の変位を阻止した状態で挿通すると共に、前記第二支持部を構成する前記ガイド孔に他方のガイドピンを、径方向の変位を許容する状態で挿通しており、弾性部材により前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向に向いた弾力を付与する事により前記両パッドに、前記一方のガイドピンを中心として揺動する方向の弾力を付与している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項8】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向内方に向いた弾力を付与している請求項7に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項9】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回出側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回入側に位置するものであり、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向外方に向いた弾力を付与している請求項7に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項10】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものであり、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向内方に向いた弾力を付与している請求項7に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項11】
前記一方のガイドピンが、車両の前進状態で前記ロータの回入側に位置し、前記他方のガイドピンが同じく回出側に位置するものであり、前記両パッドの周方向他端寄り部分に径方向外方に向いた弾力を付与している請求項7に記載した対向ピストン側ディスクブレーキ。
【請求項12】
前記弾性部材が周方向に配置された板ばねであり、この板ばねの中間部2箇所位置が、前記両ガイドピンの位置の何れかのガイドピンの軸方向中間部の径方向内側面と別のガイドピンの軸方向中間部の径方向外側面とに弾性的に当接している、請求項2〜6のうちの何れか1項に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項13】
前記保持凹部の周方向両端面と前記両パッドを構成する前記プレッシャプレートの周方向両端面との間に挟持される一対のパッドクリップを、前記アウタ、インナ両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設けており、これら両パッドクリップの径方向外端縁の軸方向中間部に形成された係止部に前記板ばねの周方向両端部を係止する事により、この板ばねが軸方向にずれ動く事を阻止している、請求項12に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項14】
前記両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端縁部の径方向両端部に、それぞれ前記両保持凹部の周方向両端部に設けられた段差面と係合するアンカ凸部を設けた、請求項1〜13のうちの何れか1項に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項15】
前記両パッド同士の間に、これら両パッドを互いに離隔する方向に押圧するリターンスプリングを設けた、請求項1〜14のうちの何れか1項に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2011−220402(P2011−220402A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88456(P2010−88456)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】