説明

対物レンズ、光ピックアップ光学系、光ヘッド及び光ディスク装置

【課題】
温度変化による性能劣化を確実に抑える形状を持つ対物レンズの提供を目的とする。
【解決手段】
本発明に係る対物レンズは、入射する光束を光媒体上に収束させる単レンズから構成された対物レンズであって、単レンズの少なくとも一方のレンズ面に設けられ、光軸を含む中央領域と、当該中央領域の周囲に位置した周辺領域と、中央領域と周辺領域との境界に少なくとも一段設けられ、中央領域と周辺領域とを区分する段差とを備え、当該段差は、光軸方向に延在し、前記中央領域から前記周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成され、0.60<hx/hmax<0.97(hx:境界位置の半径、hmax:段差をもつ面のNAを決定する有効径)を満たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズ、光ピックアップ光学系、光ヘッド及び光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク用対物レンズは、使用環境の温度変化により、光源である半導体レーザーの発振波長変化、レンズ材料の屈折率変化および線膨張が生じ、性能が劣化する。記録密度の低い光ディスク用の低NA(NA:開口数)の対物レンズにおいては、温度変化による性能劣化も許容範囲に収めることが可能である。これに対して、記録密度の高いDVDのような光ディスク用の高NAの対物レンズにおいては、性能の劣化が許容範囲に収まらず、何らかの補正手段が必要となる。
【0003】
性能劣化に対する補正手段の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、レンズ表面に段差を設けることによって、温度変化による性能劣化を補正している。
【0004】
しかしながら、このようなレンズ表面の段差形状は、温度変化による性能の劣化を助長させ、性能劣化の補正効果を持たないことがある。例えば、0.80以上といった非常に高いNAの対物レンズを必要とするブルーレイディスクのような光ディスクの場合には、性能劣化を補正することができない。
【特許文献1】特開2004−70292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の対物レンズにおいては、光ディスクの記録密度が高い場合には、温度変化による性能劣化を抑えることができないという問題があった。
本発明は、上述した背景技術の問題点を考慮したものであり、温度変化による性能劣化を確実に抑える形状を持つ対物レンズ、このような対物レンズを備えた光ピックアップ光学系、光ヘッド、及び光ディスク装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る対物レンズは、上記の目的を達成させるため、入射する光束を光媒体上に収束させる単レンズから構成された対物レンズであって、前記単レンズの少なくとも一方のレンズ面に設けられ、光軸を含む中央領域と、当該中央領域の周囲に位置した周辺領域と、前記中央領域と前記周辺領域との境界に少なくとも一段設けられ、前記中央領域と前記周辺領域とを区分する段差とを備え、当該段差は、光軸方向に延在し、前記中央領域から前記周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成され、以下の条件(1)を満たすように構成されている。
0.60<hx/hmax<0.97 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ただし、
hx: 境界位置の半径、
hmax:段差をもつ面のNAを決定する有効半径である。
【0007】
このような構成において、前記段差によって、位相がシフトされ、温度変化時の波面収差を確実に低く抑えることができる。これにより、本発明に係る対物レンズを、ブルーレイディスクのような高NAの光ディスク用の光ヘッド対物レンズとして利用することが可能となる。
【0008】
さらに、前記光軸方向の段差は、条件(2)を満たすように形成されることがより望ましく、条件(3)を満たすように形成されることがより望ましい。
0<N×λ<5[μm] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
0<N×λ<3[μm] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
ただし、
N:中央領域を透過する光線を基準にした周辺領域を透過する光線の光路長差(単位:波長)
λ:設計波長[μm]である。
【0009】
好適には、前記光媒体は、ブルーレイディスクとすることができる。
【0010】
さらに、前記段差は、前記中央領域から前記周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成されている。
このような構成により、温度変化による波面収差劣化を抑制することができ、ブルーレイディスクのような記録密度の高い光ディスクに対しても、波面収差を許容範囲内に収めて良好なビームスポットをディスク上に形成することができる。
【0011】
本発明に係る光ピックアップ光学系は、上記のような対物レンズを備えたものである。
このような構成により、温度変化による波面収差劣化を確実に抑制することができる。これによって、ブルーレイディスクのような記録密度の高い光ディスクに対しても、波面収差を許容範囲内に収めて良好なビームスポットをディスク上に形成することができる。従って、記録密度の高い光ディスクに対応した良好な光ピックアップ光学系を得ることができる。
【0012】
本発明に係る光ヘッドは、このような光ピックアップ光学系を備えたものである。
このような構成により、記録密度の高い光ディスクに対応した良好な光ヘッドを得ることができる。
【0013】
本発明に係る光ディスク装置は、このような光ヘッドを備えたものである。
このような構成により、記録密度の高い光ディスクに対応した良好な光ディスク装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温度変化による性能劣化を確実に抑える形状を持つ対物レンズ、このような対物レンズを備えた光ピックアップ光学系、光ヘッド及び光ディスク装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る対物レンズは、レンズ面に階段状の段差を設けた対物レンズである。好適には、本発明は、ブルーレイディスクを記録媒体として用いる光ディスク装置に組み込まれる光ヘッド用の対物レンズに適用することができる。本明細書において、ブルーレイディスクとは、2002年6月発行の規格書「BD−RE Ver.1.0」に記載されている、光源の標準発振波長が405nm、記録膜を覆うカバー層の厚さが0.1mm、対物レンズの開口数が0.85である光ディスクを示している。
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図を参照して説明する。本実施形態においては、ブルーレイディスク用の光ヘッドに用いられる対物レンズ(以下、これを光ヘッド対物レンズと略す)を用いて説明するが、本発明は、ブルーレイディスクに限らず、それ以外の光ディスクに適用可能である。
【0017】
まず、図1を用いて、本発明に係る光ヘッド対物レンズについて説明する。図1は、本実施形態における光ヘッド対物レンズを示す断面模式図である。この光ヘッド対物レンズは、半導体レーザーから発せられ平行光として入射するレーザー光をブルーレイディスクに収束させてスポットを形成する機能を有する。
【0018】
図1に示すように、光ヘッド対物レンズ1は、第1面2、第2面3、段差4を備えた単レンズである。第1面2は半導体レーザから出射したレーザー光の入射面、第2面3は同出射面である。
【0019】
第1面2は、非球面であり、回転対称非球面である。この第1面2は、中央領域2a、周辺領域2bに区分されている。中央領域2aは光軸Axを含む領域であり、その周辺に周辺領域2bが位置している。また、中央領域2aは、周辺領域2bよりも入射面側に突出している。これらの領域2a,2bは、互いに異なる非球面形状を有し、光軸Axからの半径hxの位置にある境界を境に区分されている。なお、半径hmaxは、後述するように、光ヘッド対物レンズ1の有効半径である。
【0020】
第2面3は球面、もしくは非球面であり、第1面2のようには段差を有しない。また、第2面3が非球面である場合には、第1の面2と同様に、回転対称非球面とすることができる。
段差4は、第1面2の中央領域2aと周辺領域2bとの境界部分に設けられ、光軸方向に延在している。具体的には、この光軸方向の段差4は、中央領域2aから周辺領域2bへ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に設けられている。ここで、光軸方向とは、光軸Axに略平行な方向を示す。このような段差4に加え、上述の中央領域2a、周辺領域2bによって、第1面2は構成されている。なお、図1においては、段差4を説明するために、この段差を実際より誇張して表示している。
【0021】
図2の模式図に、本発明に係る光ヘッド用対物レンズ1とブルーレイディスクとが示されている。図2においては、ブルーレイディスクの保護層Dが示され、この保護層Dに対する光ヘッド対物レンズ1の位置関係が示されている。なお、図2においては、段差4を実際の縮尺で示しているため、図面上では視認することができない。
【0022】
次に、実施例1により、光ヘッド対物レンズ1の温度が40℃変化した場合における、波面収差とレンズ面の段差形状(段差高さ)の関係について具体的に説明する。
【実施例】
【0023】
実施例1.
実施例1における光ヘッド対物レンズは、光路長差Nが6となるような段差高さを持つブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。このレンズを用いて、レンズ面の段差が波面収差へ及ぼす影響を詳細に説明する。
【0024】
まず、表1,2を用いて、実施例1における光ヘッド対物レンズ1の具体的な形状について説明する。
表1に、実施例1における光ヘッド対物レンズ1の焦点距離(f)、開口数(NA)、設計波長(λ)、温度が40℃変化した後の波長(λ’)、面の曲率半径(r:mm)、面間の光軸Ax上の距離(d:mm)、設計波長λにおける屈折率(n)および温度が+40℃変化した後の屈折率(n’)が示されている。また、表1中の面番号1は、図2において光ヘッド対物レンズ1の第1面2を示す。また、面番号1は第2面3を示す。面番号3はブルーレイディスクの保護層Dの、光ヘッド対物レンズ1側の面を示す。面番号4はブルーレイディスクの保護層Dの、面番号3とは反対側の面を示している。また、表1において、曲率半径rは、第1面2における中央領域2aの近軸曲率半径を示している。
【表1】

【0025】
回転対称非球面である第1面2、第2面3のサグ量X(h)は、下記式(4)によって求められる。ここで、サグ量X(h)とは、光軸Axからの距離がhとなる非球面上の座標点から非球面の光軸Ax上での接平面までの長さのことである。
【数1】

上記式(4)において、Cは非球面の光軸Ax上での曲率(1/r)、κは円錐係数、A,A,A,A10,A12は4次、6次、8次、10次、12次の非球面係数、Δは光軸Ax上で1波長分の光路長差を与えるレンズ面の光路における段差高さ(Δ=λ/(n−1))、Nは上述したように中央領域2aに対する周辺領域2bの光路長差(単位:λ)である。
【0026】
表2に、実施例1における光ヘッド対物レンズ1の有効半径hmax、境界位置hx、中央領域2a、周辺領域2bの近軸曲率半径r、円錐係数κ、非球面係数A4〜A12、光軸Ax上での1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔN、光路長差Nを示す。なお、ΔNはレンズ面の段差高さを表す値である。
【表2】

表2に示されるように、非球面形状を表す値である光軸Ax上での曲率r、円錐係数κおよび4次、6次、8次、10次、12次の非球面係数A,A,A,A10,A12は中央領域2aと周辺領域2bで異なる。また、これらの非球面形状を表す値は、周辺領域2bにおいて光路長差Nによって変化する。
【0027】
続いて、図3及び図4を用いて、実施例1における光ヘッド対物レンズに対する温度変化が波面収差に与える影響について説明する。ここで、この波面収差の影響について、段差4がない光ヘッド対物レンズ(比較例1)と比較しながら説明する。この比較例1の光ヘッド対物レンズは、光ヘッド対物レンズ1の第1面2から段差4をなくしたレンズであり、その詳細については後述する。
図3は、実施例1の光ヘッド対物レンズ1が基準温度から+40℃変化した場合の光軸Ax上の波面収差を示し、図4は、比較例1における同様の波面収差を示すグラフである。図3、図4において横軸は光軸Axからの距離、縦軸は波面収差を示す。
【0028】
図3に示すように、実施例1では、波面収差に段差ができて周辺部の波面収差が小さくなる。そのため、デフォーカスが0となる合焦時の場合の波面収差rms(root-mean-square)値を0.05917λに抑えることができる。これに対して、図4に示すように、実施例1の光ヘッド対物レンズ1の第1面2から段差4をなくした比較例1では、合焦部分における周辺部での波面収差が大きくなる。そのため、合焦時の波面収差rms値は、0・05924λとなる。このように、第1面2に段差4を形成することにより、波面収差rms値を削減することができる。
なお、実施例1の光ヘッド対物レンズ1では、段差4が設けられる境界位置hxを1.12mm(Hx=hx/hmax=0.75)としている。
【0029】
図5のグラフに、この境界位置の違いにより温度変化後の合焦時の波面収差rms値がどのように変化するかが示されている。このグラフの縦軸は波面収差rms値の相対値を、横軸は正規化された境界位置Hxを示している。以下では、この正規化された境界位置Hxを単に境界位置Hxと呼ぶ。
上記のように、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における第1面2の中央領域2aが周辺領域2bよりも入射面側に突出している。この場合には、図5に示されたグラフから、上述した条件(1)0.6<hx/hmax<0.97の範囲が適していることがわかる。この条件(1)は、光ヘッド対物レンズ1の設計が変化した場合にも有効である。
【0030】
次に、波面収差rms値を最小にする段差4が形成される境界位置Hxを計算によって求める。球面収差がある場合、光軸Axからの高さHの位置を通った光線から軸上の光線までの光路差OPD(H)はCH(Cは定数)で表される。ここでの半径H、Hxは、有効半径hmaxを1として正規化した値である。
【0031】
具体的には、波面収差のrms値は、以下に示す下記式(5)を用いて求められる。
【数2】

ただし、A,Bは定数、rは入射瞳半径である。
上記式(5)において、任意の境界位置Hxを境に周辺領域2bの波面収差を中央領域2aに対してσだけシフトさせると、波面収差のrms値は、r=1として、
【数3】

となり、上記式(6)においてBとAとσとHxが最小値になるように最適化すると最小になる。
【0032】
最適化後の上記式(6)をHxおよびσについて整理すると、
【数4】

となる。すなわち、段差4は、境界位置Hx≒0.89、または、Hx≒0.46の位置に形成された際に波面収差rms値が最小になる。条件(1)は、境界0.89を含む範囲を規定しており、この条件を満たすことで、波面収差rms値を小さく抑えることができる。
【0033】
続いて、具体的な実施例2〜5を用いて、40℃温度変化時の波面収差とレンズ面の段差形状(段差高さ)の関係について説明する。ここで、これら実施例2〜5に対する比較例1〜6を例示し、これらを参照しながら説明する。
実施例2〜5は、実施例1に基づき、段差の高さをそれぞれ変化させたブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズであり、中央部が突出する形状を持つレンズである。ここでは、実施例1における光ヘッド対物レンズと同様であるから、その詳細な説明を省略する。
【0034】
実施例2.
実施例2における光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが2、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが0.000965であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
実施例3.
実施例3における光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが4、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが0.001931であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
実施例4.
実施例4における光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが8、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが0.003862であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズ。
実施例5.
実施例5における光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが12、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが0.005793であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
【0035】
比較例1〜6は、実施例2〜5同様、実施例1に基づき、段差の高さをそれぞれ変化させたブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズであり、中央部が落ち込んだ形状を持つレンズである。また、比較例1は、段差のないレンズであり、比較例2〜6は、同じ境界位置で同じ高さの段差分、光軸方向の段差が中央領域から周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が大きくなる方向へ段差を設けたレンズである。
比較例1.
比較例1の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1に段差4が設けられていないブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズであり、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが0である。
比較例2.
比較例2の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが−2、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが−0.000965であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
比較例3.
比較例3の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが−4、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが−0.001930であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
比較例4.
比較例4の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが−6、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが一0.002895であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
比較例5.
比較例5の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが−8、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが−0.003860であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
比較例6.
比較例6の光ヘッド対物レンズは、実施例1の光ヘッド対物レンズ1における光路長差Nが−12、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔNが−0.005790であるブルーレイディスク用の光ヘッド対物レンズである。
【0036】
表3に、実施例1〜5および比較例1〜6の光ヘッド対物レンズの40℃温度変化後、合焦時の光路長差N、1波長分の段差Δと光路長差Nとの積ΔN、波面収差rms値の関係が示されている。なお、表3においては、実施例1〜5は上下に、光路長差Nが減少する順に配列されている。
【表3】

【0037】
図6のグラフに、上記表3の結果が示されている。このグラフの横軸は光路長差Nを、縦軸は温度変化後の波面収差rms(λ)を示している。
実施例1〜5については、比較例2〜6それぞれと比較して、波面収差rms値がよく補正されている。
さらに、実施例1〜3の光路長の範囲では、比較例1の段差のない光ヘッド対物レンズの場合より、温度変化後の波面収差rms値が削減されていることがわかる。
実施例4,5の光路長の範囲において、比較例1の光ヘッド対物レンズの場合より、温度変化後の波面収差rms値が削減されていない。これは、温度変化時の中央領域2aに対する周辺領域2bの波面シフト量が大きくなり、波面収差rms値が補正過剰となったためである。
【0038】
上述した通り、光軸Ax方向の段差4は、中央領域2aから周辺領域2bへ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成されている。すなわち、この段差4は、中央領域2aが周辺領域2bに対して突出する形状となるように形成されている。さらに、中央領域2aと周辺領域2bとの境界位置は、以下の条件(1)を満たし、段差4の高さは、条件(2)より(3)を満たすことが望ましい。
0.60<hx/hmax<0.93・・(1)
0<N×λ<5[μm]・・(2)
0<N×λ<3[μm]・・(3)
ただし、
hx:境界位置の半径
hmax:段差を持つ面のNAを決定する有効半径
N:中央領域2aを透過する光を基準にした周辺領域2bを透過する光線の光路長差(単位:λ)
λ:設計波長[μm]である。
【0039】
上記構成によって、中央領域2aを透過した光束の波面に対して周辺領域2bを透過した光束の波面を所定量シフトさせることができる。これにより、設計基準温度にある場合の波面収差が低く抑えられる。かつ、それによって、設計基準温度から+40℃温度変化し、光源の半導体レーザーの波長変化、レンズ材料の屈折率変化および線膨張が生じた場合であっても、波面収差の劣化を抑えることができる。
【0040】
なお、ここでは+40℃の温度変化がある場合について説明したが、±60℃程度の範囲では屈折率が波長変動に対してリニアに変化するため、この程度の温度変化に対しては上記同様の段差により波面収差の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる光ヘッド用対物レンズの断面模式図である。
【図2】本発明に係る光ヘッド対物レンズとブルーレイディスクとの位置関係を示す模式図である。
【図3】実施例1における光ヘッド対物レンズが基準温度から+40℃変化した場合の光軸上の波面収差を示すグラフである。
【図4】比較例1における光ヘッド対物レンズが基準温度から+40℃変化した場合の光軸上の波面収差を示すグラフである。
【図5】実施例1における光ヘッド対物レンズにおける段差が設けられる境界位置Hxと波面収差rmsとの関係を示すグラフである。
【図6】実施例1〜5及び比較例1〜6の光ヘッド対物レンズの基準温度から+40℃変化した場合の波面収差rmsと光路長差Nとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1…光ヘッド対物レンズ、2…第1面、2a…中央領域、2b…周辺領域、
3…第2面、4…段差、D…ブルーレイディスクの保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光束を光媒体上に収束させる単レンズから構成された対物レンズであって、
前記単レンズの少なくとも一方のレンズ面に設けられ、光軸を含む中央領域と、
当該中央領域の周囲に位置した周辺領域と、
前記中央領域と前記周辺領域との境界に少なくとも一段設けられ、前記中央領域と前記周辺領域とを区分する段差とを備え、
当該段差は、光軸方向に延在し、前記中央領域から前記周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成され、以下の条件(1)を満たす対物レンズ。
0.60<hx/hmax<0.97 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
hx:境界位置の半径
hmax:段差をもつ面のNAを決定する有効径
【請求項2】
前記光軸方向の段差は、以下の条件(2)を満たすよう形成されることを特徴とする請求項1記載の対物レンズ。
0<N×λ<5[μm] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
N:中央領域を透過する光線を基準にした周辺領域を透過する光線の光路長差(単位:波長)
λ:設計波長[μm]
【請求項3】
前記光軸方向の段差は、以下の条件(3)を満たすように形成されることを特徴とする請求項2記載の対物レンズ。
0<N×λ<3[μm] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【請求項4】
前記光媒体は、ブルーレイディスクであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項5】
開口数が0.8以上の光ディスク上に、入射する光束を収束させる単レンズから構成された対物
前記段差は、前記中央領域から前記周辺領域へ移行する際に、レンズ厚が小さくなる方向に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の対物レンズ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の対物レンズを備えた光ピックアップ光学系。
【請求項7】
請求項6記載の光ピックアップ光学系を備えた光ヘッド。
【請求項8】
請求項7記載の光ヘッドを備えた光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−119266(P2006−119266A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305576(P2004−305576)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】