説明

対物用液体塗布シート用積層体

【課題】 液体を含浸させることができ、含浸させた液体の徐放性に優れ、かつ放出された液体を均一に塗布することができる、対物用液体塗布シート用積層体を提供する。
【解決手段】 液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、平均孔径(P)が1μm以上25μm以下の範囲内にある多孔シートである液体徐放層B、および平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きく、10μm以上45μm以下の範囲内にある不織布である、液体塗布層Cをこの順に積層することにより、対物用液体塗布シート用積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を含浸でき、液体を含浸させた場合には液体を徐々に放出させて、人および動物以外の対象物に塗布する対物用液体塗布シートとして使用可能である、対物用液体塗布シート用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
被洗浄面を洗浄するための洗浄剤が含浸されて用いられる洗浄剤含浸用物品として、これまでにも種々多様なものもが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。より具体的には、特許文献1は、洗浄剤保持層と、高密度の洗浄剤徐放層とを備え、洗浄剤保持層が洗浄剤徐放層によって挟持されている、洗浄剤含浸物品を提案し、特許文献2は、洗浄剤が含浸されている液保持シートの一方の面に液不透過性シートを配し、他方の面に液保持シートよりも通気度が低く且つ繊維材料からなる液徐放シートを配してなる清掃用ウェットシートを提案している。いずれも、洗浄剤を保持させたシートから、洗浄剤が一度に放出されることなく徐々に放出されるようにするべく、所定の構成の徐放シートを有している。
【特許文献1】特開平10−272082号公報
【特許文献2】特開2004−105710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1で提案された洗浄剤含浸用物品および特許文献2で提案された清掃用シートは、いずれも液体を徐放させるシートにおいて、なお改善を要するものであった。即ち、特許文献1で提案されているように、洗浄剤徐放層の密度を調整するだけでは、十分な徐放効果を得られないことがある。また、特許文献1に記載の物品は、保持層が徐放層により挟持された構造であるから、道具に装着して使用する場合に、道具に取り付ける側にも徐放層が位置することとなり、道具を取り付けた側において洗剤徐放性が利用されず、したがって、道具を取り付けるのに必ずしも最適化されたものではない。また、特許文献2に記載のように、徐放層の通気度を所定の範囲に調整しても十分な徐放効果を得られないことがある。
【0004】
さらに、含浸させる液体が例えば艶出し剤等である場合には、液体を含浸させるシートは液体の徐放性が良好であることに加えて、液体を対象物に均一に塗布しうるものであることを要する。この点について、特許文献1は、繰り返し液体を放出させたときの放出の均一性に言及するにとどまり、放出された液体を均一に塗布するための具体的なシート構成には言及していない。特許文献2は、洗浄剤の放出量の多少に起因して、塗布が均一である場合と不均一である場合とがあることに言及するにとどまり、したがって、この文献もまた徐放された液体を均一に塗布するための具体的なシート構成には言及していない。
【0005】
本発明は、従来のシートが有する問題に鑑みてなされたものであり、液体を含浸させることができ、含浸させた液体を良好に徐放する性質を有し、かつ徐放された液体を均一に対象面に塗布し得るシート状物を得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、液体徐放層Bおよび液体塗布層Cがこの順に積層されて成り、
液体徐放層Bが、その平均孔径(P)が1μm以上25μm以下の範囲内にある多孔シートであり、
液体塗布層Cが、その平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きく、10μm以上45μm以下の範囲内にある不織布である、
対物用液体塗布シート用積層体を提供する。ここで、「対物用」とは、人および動物以外の物品に適用されることを意味し、したがって、「対物用液体塗布シート」とは、人および動物以外の物品に液体を塗布するためのシートを意味する。
【0007】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体は、上記構成を採ることにより、液体保持層Aに含浸された液体の放出量が、液体徐放層Bにより調整され、調整された放出量の液体が液体徐放層Bから液体塗布層Cに移動し、液体塗布層Cにおいて均一に拡散されることを可能にする。したがって、液体塗布層Cを対象面に当てて塗布作業を実施することにより、適当な量の液体を均一に対象面に塗布することができる。
【0008】
本発明の特徴は、多孔性シートが有する液体徐放効果がその平均孔径に依存すること、ならびに平均孔径が上記範囲内にあると、良好な液体徐放性が得られることを見出したことに存する。ここで、平均孔径は、ASTM F 316 86に準拠してバブルポイント法によって測定されるものをいう。さらに、本発明は、徐放される液体を均一に塗布するための液体塗布層として、平均孔径が液体徐放層のそれよりも大きく、かつ上記特定の範囲内にある不織布を設けた点に特徴を有する。
【0009】
液体徐放層Bの平均孔径(P)が1μm未満であると、液体徐放層Bから液体塗布層Cへ液体が移行しにくくなり、液体が適当な量で放出されない。液体徐放層Bの平均孔径(P)が25μmを超えると、徐放効果が低下し、液体保持層Aに含浸させた液体が早期に放出される。
【0010】
液体塗布層Cの平均孔径(P)を液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きくすることは、液体を液体徐放層Bから液体塗布層Cへスムースに移行させるために必要とされる。液体塗布層Cの平均孔径(P)が液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも小さいと、液体塗布層(C)から均一に液体を放出させて、塗布面に均一に塗布することができない。また、液体塗布層(C)の平均孔径(P)が10μm未満であると、液体を塗布するときに液体がかすれる傾向にあり、対象面に液体を均一に塗布することが困難となる。一方、平均孔径(P)が45μmを超えると、液体が早期に放出されることがあり、あるいは液体を均一に放出させて塗布面に塗布することが困難となることがある。
【0011】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体において、液体保持層Aは、好ましくは、0.05g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する不織布である。液体保持層Aの見掛け密度(ρ)が0.05g/cm未満であると、液体を保持しにくい傾向にあり、0.2g/cmを超えると、液体が液体徐放層Bの側へ移行しにくい傾向にある。ここで、見掛け密度は、1cmあたり2.94cNの荷重を加えて測定した不織布の厚さおよび目付から算出されるものをいう。
【0012】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体において、上記範囲の平均孔径(P)を有する液体徐放層Bは、好ましくは10g/m以上150g/m以下の目付を有し、0.05g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有するメルトブローン不織布である。メルトブローン不織布の目付が10g/m未満であると、含浸した液体が早期に放出されてしまうことがある。メルトブローン不織布の目付が150g/mを超えると、経済的に不利になる。また、メルトブローン不織布は、一般に目付が高くなるほど見掛け密度が低くなる傾向にあり、見掛け密度が低いほど、安定して液体を放出することができる。したがって、メルトブローン不織布は、上記範囲の目付を有する場合には、上記範囲内にある見掛け密度を有することが好ましい。
【0013】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体において、上記範囲の平均孔径(P)を有する液体塗布層Cは、好ましくは、0.03g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有し、かつ、0.5dtex以下の極細繊維を50mass%以上含有してなる不織布である。液体塗布層Cの見掛け密度(ρ)が0.03g/cm未満であると、液体が液体塗布層Cに均一に拡散する前に外部に放出されて、対象面に均一に塗布することができないことがある。一方、液体塗布層Cの見掛け密度(ρ)が0.2g/cmを超えると、液体が放出されにくくなる、液体が拡散しにくくなる、あるいは液体が放出され易い部分と放出されにくい部分とが生じる等の理由により、液体を対象面に均一に塗布できないことがある。また、液体塗布層Cを構成する繊維の50mass%以上を0.5dtex以下の極細繊維とすることにより、層中に均一に液体を拡散させて、均一に液体を塗布することが可能となる。極細繊維の繊度が0.5dtexを超える、または極細繊維の含有量が50mass%未満であると、液体塗布層Cから均一に液体を放出させることが困難な場合がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体は、液体保持層Aの少なくとも一方の面に特定の平均孔径を有する液体徐放層Bおよび液体塗布層Cを設けることにより、液体保持層Aに含浸させた液体を、少量ずつ放出面(即ち、液体塗布層Cの表面)から均一に放出させることを可能にしている。したがって、この積層体の液体保持層Aに液体を含浸させることにより、長期間にわたって一定量の液体を対象面に均一に塗布することができる、対物用液体塗布シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の対物用液体塗布シート用積層体(本明細書において単に「積層体」とも呼ぶ)においては、液体を含浸させ得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に液体徐放層Bおよび液体塗布層Cがこの順に積層されている。液体徐放層Bおよび液体塗布層Cは、液体保持層Aの一方の表面にのみ位置してよい。その場合には、液体保持層Aの他方の表面を適当な道具または治具に装着するための装着面として使用することができる。また、液体保持層Aの当該他方の表面には液体不透過性フィルムなど他のシートを積層してよい。液体徐放層Bおよび液体塗布層Cが、液体保持層Aの両方の面に位置する場合(即ち、液体保持層Aを2つの液体徐放層Bで挟んでなる構造物が、さらに2つの液体塗布層Cで挟まれた構成である場合)、両方の面を対象面に当てて液体を塗布するために使用できる。
【0016】
液体保持層Aは、所望の液体を含浸および保持し得る限りにおいて、その材料および構造は特に限定されない。したがって、液体保持層Aとして、例えば、繊維から成るシートおよびスポンジ状シート等、空隙を有する構造のものを任意に使用できる。
【0017】
液体保持層Aは、繊維ウェブを作製し、当該繊維ウェブを構成する繊維同士を交絡させる、あるいは熱接着等により接合させることによって得られる不織布であることが好ましい。不織布を製造するために作製される繊維ウェブは、例えば、カードウェブ、エアレイウェブおよびスパンボンドウェブなど、繊維間空隙(即ち、孔径)の大きいウェブであることが好ましい。不織布としては具体的には、繊維ウェブをニードルパンチ処理または水流交絡処理等に付すことにより得られる交絡不織布、繊維ウェブを熱風処理または熱ロール処理等に付すことにより得られるサーマルボンド不織布、および繊維同士をバインダー樹脂により接着したレジンボンド不織布等が挙げられる。特に、エアレイウェブを熱風処理して繊維同士を熱接着したサーマルボンド不織布は、厚みの大きい不織布または目付の大きい不織布として得ることが容易であり、また、その製造過程において均一なウェブを作製することが容易であることから、好ましく使用される。
【0018】
液体保持層Aを構成する繊維は、コットン、パルプおよび麻などの天然繊維、ビスコースレーヨンおよび溶剤紡糸セルロースなどの再生繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンおよびアクリルなどの合成繊維等から、1種または2種以上選択される。例えば、不揮発性のワックスを含浸させる場合には、パルプが好ましく使用される。
【0019】
液体保持層Aの目付は、50g/m以上2000g/m以下であることが好ましく、100g/m以上1500g/m以下であることがより好ましい。液体保持層Aの目付が50g/m未満であると、液体の含浸量が少なくなる傾向にあり、目付が2000g/mを超えると、経済的に不利である。また、液体保持層Aは、好ましくは、0.05g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有し、より好ましくは0.09g/cm以上0.15g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する。その理由は先に説明したとおりである。
【0020】
液体徐放層Bは、前述したとおり、平均孔径(P)が1μm以上25μm以下である多孔性シートである。平均孔径(P)は、好ましくは1μm以上20μm以下である。平均孔径(P)は、液体保持層Aに含浸させようとする液体の種類、および所望の液体徐放効果に応じて、適宜選択される。一般には、平均孔径(P)が小さいほど、徐放効果は高くなる。ここで、徐放効果が高いとは、液体保持層Aに含浸させた液体がより少量ずつ、より長期間にわたって放出されることをいう。より具体的には、一定量の液体を液体保持層Aに保持させて対物用液体塗布シートを作製し、一定面積の塗布面に繰り返し液体を塗布できる回数を測定したときに、この回数が多いほど、徐放効果は高いといえる。
【0021】
上記範囲の平均孔径(P)を有する液体徐放層Bとして、微多孔膜、メルトブローン不織布又は湿式不織布が好ましく使用される。
液体徐放層Bとして、メルトブローン不織布を使用する場合には、目付が10g/m以上150g/m以下であることが好ましく、20g/m以上120g/m以下であることがより好ましい。その理由は先に説明したとおりである。また、メルトブローン不織布の見掛け密度(ρ)は、0.05g/cm以上0.2g/cm以下であることが好ましく、0.06g/cm以上0.1g/cm以下であることがより好ましい。その理由は先に説明したとおりである。メルトブローン不織布の厚さ(1cmあたり2.94cNの荷重を加えて測定した厚さ)は、0.1〜3mmであることが好ましく、0.6〜3mmであることがより好ましく、0.8〜2mmであることがさらにより好ましい。不織布の厚さを大きくすることにより、液体が層内を通過するまでの時間が長くなり、液体徐放層自体で液体を保持する量も多くなって、液体徐放性が良くなる傾向にある。ここに記載した厚さの範囲は、特に、見掛け密度(ρ)が0.1g/cm以下のメルトブローン不織布を使用する場合に好都合である。
【0022】
メルトブローン不織布を構成する繊維としては、例えば、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ならびにナイロン6などのポリアミド等が挙げられる。これらの材料から選択される1または複数の材料から成るメルトブローン不織布であって、上記範囲の平均孔径(P)を有するものは、具体的には、例えば平均繊維径が0.5〜10μmである繊維から成る、上記範囲の目付を有するメルトブローン不織布である。
【0023】
液体徐放層Bとして、湿式不織布を使用する場合、例えばパルプを含むパルプ紙が液体徐放層Bとして好ましく用いられる。液体徐放層Bがパルプ紙である場合、その見掛け密度(ρ)は、0.1g/cm以上0.7g/cm以下であることが好ましく、0.2g/cm以上0.4g/cm以下であることがより好ましい。パルプ紙の見掛け密度が0.1g/cm未満であると、所望の平均孔径(P)が得られないことがある。パルプ紙の見掛け密度が0.7g/cmを超えると、液体が液体塗布層Cへ移行しにくく、その結果、液体が良好に放出されないことがある。湿式不織布は、その平均孔径(Pc)が上記条件を満たす限りにおいて、パルプ紙以外のものであってよいことはいうまでもない。
【0024】
液体塗布層Cは、前述したとおり、平均孔径(P)が液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きく、かつ、10μm以上45μm以下の範囲内にある、不織布である。液体塗布層Cの平均孔径(P)は、液体徐放層Bの平均孔径(P)の1.2倍以上30倍以下の範囲内にあることが好ましく、1.5倍以上20倍以下の範囲内にあることがより好ましい。平均孔径(P)が平均孔径(P)の1.2倍未満であると、液体徐放層Bから液体塗布層Cへ液体が移行しにくくなることがある。平均孔径(P)が平均孔径(P)の30倍を超えると、液体が早期に放出されることがあり、あるいは液体を均一に放出することが困難となる場合がある。平均孔径(P)は、好ましくは15μm以上40μm以下の範囲内にあり、より好ましくは20μm以上35μm以下の範囲内にある。
【0025】
液体塗布層Cは、その内部に液体が拡散すること、即ち、拡散性を有することが要求される。そのため、液体塗布層Cは、その平均孔径が小さいとともに、繊維間空隙が入り組んだラビリンス形状を形成していることが好ましい。そのような繊維間空隙を有する場合には、液体塗布層Cもまた一種の液体徐放層として作用する。
【0026】
ラビリンス形状の繊維間空隙は、繊維同士が三次元的に交絡された不織布において好ましく実現される。特に、水流交絡不織布は、水流エネルギーにより繊維同士が不織布の平面方向だけでなく厚み方向にも交絡した構造を有するため、これを液体塗布層Cとして使用すると、液体徐放層Bを通過した液体が液体塗布層C内を三次元的に移動し、拡散されて表面に放出されるので好ましい。さらに、水流交絡不織布を液体塗布層Cとした本発明の積層体を、例えば、艶出し剤を含浸させた艶出しシートとして使用する場合には、対象面と接する面の耐久性(具体的には、毛玉ができにくい性質(耐ももけ性))を高くすることができ、好ましい。
【0027】
液体塗布層Cの見掛け密度(ρ)は、0.03g/cm以上0.2g/cm以下であることが好ましく、0.05g/cm以上0.12g/cm以下であることがより好ましい。その理由は先に説明したとおりである。
【0028】
液体塗布層Cは、繊度が0.5dtex以下の極細繊維を50mass%以上含有することが好ましい。その理由は、先に説明したとおりである。極細繊維は、より好ましくは、0.2dtex以下の繊度を有する。また、極細繊維のより好ましい含有量は、80mass%以上である。
【0029】
前記極細繊維は、異なる2以上の成分からなる分割型複合繊維を割繊させることにより得られる極細繊維であることが好ましい。分割型複合繊維は、前述した水流交絡処理により割繊されるとともに交絡が進むので、複雑なラビリンス形状の繊維間空隙を形成するのに適しており特に好ましい。分割型複合繊維を構成する成分の組合せとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン等が挙げられる。
【0030】
前述のとおり、本発明の積層体は、液体保持層Aの片面または両面に、液体徐放層Bおよび液体塗布層Cがこの順に積層され、一体化された構成を有する。本発明の積層体は、液体の放出性を阻害しない限りにおいて、他の不織布またはシートをさらに積層してもよい。層同士は、例えば、バインダー樹脂を用いて接合される。あるいは、層を構成する繊維が熱接着性を有する場合には、当該繊維の熱接着性を利用して、層同士を接合させてよい。あるいは、最終的に得られる積層体において、液体徐放層Bの平均孔径(P)および液体塗布層Cの平均孔径(P)が上記条件を満たす限りにおいて、各層を構成する繊維同士を交絡させることによって、層同士を接合させてよい。あるいはまた、繊維同士を交絡させる接合手法と、バインダー樹脂を用いる接合手法とを併用して、層同士を接合させてよい。
【0031】
本発明の積層体は、液体を含浸させて使用する。含浸させる液体は、流動性を有する限りにおいて、いずれの液体であってよい。具体的には、液体は、洗浄剤または艶出し剤であることが好ましい。液体を積層体に含浸させた状態において長期保存することを考慮すると、不揮発性の液体であることが好ましく、油を主たる成分として含むことがより好ましい。
【0032】
液体に含まれる油として、鉱物油、合成油、シリコーン油、界面活性剤及びその他の油状物質等を挙げることができる。鉱物油としては、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、または芳香族炭化水素等が用いられる。合成油としては、アルキルベンゼン油、ポリオレフィン油、またはポリグリコール油が用いられる。シリコーン油としては、ジメチルシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンまたはその他の各種変性シリコーン等が用いられる。
【0033】
本発明の積層体に含浸させる液体は、10〜1000cpsの粘度(25℃)を有することが好ましい。粘度が1000cps以上になると、液体が液体塗布層Cに拡散しにくくなるため好ましくない。
【0034】
液体の含浸量は、液体の種類および用途等に応じて決定される。一般に、積層体の質量の1.5倍〜4倍の液体を積層体に含浸させることが好ましい。
【0035】
前記液体は、工業的に一般に用いられている加工方法を使用して、本発明の積層体に含浸させることができる。具体的には、例えば、ハケ塗り法、ディップ(浸漬)法、スプレーコート法、リバースロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、グラビアロールコーター法、キスロールコーター法、インバースナイフコーター法、エアナイフコーター法、ディップロールコーター法、またはオポジットナイフコーター法等の公知の方法を使用することができる。本発明の積層体が、液体保持層Aの一方の面にのみ液体徐放層Bおよび液体塗布層Cが積層された構成である場合には、液体保持層Aの他方の面に、例えばハケで液体を塗って、またはロールを接触させて、液体を含浸させる。液体保持層Aの両面に液体徐放層Bおよび液体塗布層Cが位置する場合(即ち、積層体の両方の表面が液体塗布層Cの表面である場合)には、いずれか一方の表面の側から液体を含浸させればよい。その場合、得られた対物用液体塗布シートの一方の側(ハケ等を接触させた側)の液体徐放層Bおよび液体塗布層Cに、液体が比較的多量に含まれることがある。そのような液体は、対物用液体塗布シートの使用初期に放出させて、対象面に液体を塗布するために使用してもよい。あるいは、使用初期に多量の液体を放出させることが望ましくない場合には、予め液体を放出させてから、製品として提供してよい。同様のことは、本発明の積層体を液体槽中に浸漬するディップ法により液体を含浸させる場合にも生じ得る。その場合にも用途等に応じて、液体保持層A以外の層に含まれる液体を使用初期に放出させて使用してよく、あるいは予め放出させてから製品として提供してよい。
【実施例】
【0036】
液体保持層Aとして、下記の2種類の不織布を用意した。
A−1:構成繊維が、パルプ80mass%、熱接着性繊維20mass%であり、目付が850g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が8.0mmであり、見掛け密度(ρ)が0.106g/cmである、パルプが熱接着性繊維により接着されているエアレイ不織布。
A−2:構成繊維が、パルプ50mass%、熱接着性繊維50mass%であり、目付が1000g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が8.5mmであり、見掛け密度(ρ)が0.125g/cmである、パルプが熱接着性繊維により接着されているエアレイ不織布。
【0037】
液体徐放層Bとして、下記の4種類の不織布および1種類のフィルムを用意した。
B−1:構成繊維が平均繊維径5μmのポリプロピレン繊維であり、平均孔径(P)が15.1μmであり、目付が20g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.12mmであり、見掛け密度(ρ)が0.17g/cmである、メルトブローン不織布。
B−2:構成繊維が平均繊維径5μmのポリプロピレン繊維であり、平均孔径(P)が13.1μmであり、目付が50g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.57mmであり、見掛け密度(ρ)が0.09g/cmである、メルトブローン不織布。
B−3:構成繊維が平均繊維径5μmのポリプロピレン繊維であり、平均孔径(P)が12.5μmであり、目付が100g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が1.27mmであり、見掛け密度(ρ)が0.08g/cmである、メルトブローン不織布。
B−4:パルプ100mass%から成り、平均孔径(P)が1.9μmであり、目付が36.5g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.1mmであり、見掛け密度(ρ)が0.37g/cmである、パルプ紙。
B−5:孔径約1.5mmの孔が、112個/100cmの割合で形成されているラミネートフィルム。
【0038】
液体塗布層Cとして、下記の4種類の不織布を用意した。
C−1:ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6の2成分からなる16分割型複合繊維を水流交絡処理して割繊することにより得られた、繊度が約0.2dtexである極細繊維を80mass%含み、平均孔径(P)が28.7μmであり、目付が100g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.92mmであり、見掛け密度(ρ)が0.11g/cmである、水流交絡不織布。
C−2:ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレンの2成分からなる16分割型複合繊維を水流交絡処理して割繊することにより得られた、繊度が約0.2dtexである極細繊維を80mass%含み、平均孔径(P)が21.5μmであり、目付が100g/m、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.87mm、見掛け密度(ρ)が0.12g/cmである、水流交絡不織布。
C−3:繊度1.45dtexのポリエステル繊維からなり、平均孔径(P)が45.5μmであり、目付が60g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.82mmであり、見掛け密度(ρ)が0.072g/cmである、水流交絡不織布。
C−4:繊度2.5dtexのポリプロピレン繊維からなり、平均孔径(P)が78.4μmであり、目付が17g/mであり、厚さ(2.94cN/cm荷重)が0.22mmであり、見掛け密度(ρ)が0.077g/cmであるスパンボンド不織布(三井化学(株)製)。
【0039】
上記において、平均孔径はいずれも、パームポロメータ(Porous Materials Inc.製)を使用して、ASTM F 316 86に準拠してバブルポイント法により測定した値である。また、見掛け密度は、2.94cN/cm荷重で測定した厚さと目付とから求めた値である。
【0040】
(実施例1)
不織布A−1の一方の面にシートB−1および不織布C−1をこの順に積層した、A−1/B−1/C−1のシート構成を有する積層体を作製した。層と層との間は、接着剤(コニシ(株)製、商品名「ボンドG17」)を、10cmあたり約0.1gの量で、ヘラを用いて、一方の層の表面に均一に塗布して貼り合わせることにより接着一体化した。得られた積層体に、シート質量の3倍に相当する量の流動パラフィンを不織布A−1の表面にスプレーすることにより、均一に含浸させて、対物用液体塗布シートを得た。
【0041】
(実施例2)
積層体の構成を、A−1/B−2/C−2としたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0042】
(実施例3)
積層体の構成を、A−2/B−3/C−1とし、液体をA−2の表面にスプレーしたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0043】
(実施例4)
積層体の構成を、A−2/B−4/C−2とし、液体をA−2の表面にスプレーしたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0044】
(比較例1)
積層体の構成を、A−1/B−1したこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0045】
(比較例2)
積層体の構成を、A−1/C−2したこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0046】
(比較例3)
積層体の構成を、A−1/B−5/C−2としたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0047】
(比較例4)
積層体の構成を、A−1/B−1/C−3としたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0048】
(比較例5)
積層体の構成を、A−1/B−1/C−4としたこと以外は、実施例1と同様にして、対物用液体塗布シートを得た。
【0049】
実施例1〜4および比較例1〜5で得られた対物用液体塗布シートを以下の手順により評価した。
黒色の化粧板(30×90cm)を用意した。これの表面を10等分(9×30cm)して、10箇所の試験面を作製し、うち1箇所をブランクとした。各実施例および各比較例で得た対物用液体塗布シートを、2cm×8cmの大きさに切断したサンプルを、液体塗布層(即ち、不織布C−1〜C−4、比較例1は不織布B−1)の表面が試験面に接触するようにして、各試験面上で各サンプルを一往復させた後、そのまま一時間常温で放置した。一時間放置した後、皮膜の均一性を目視にて評価した。流動パラフィンは、艶出し効果を有するものであり、塗布量が均一であるほど、より光沢のある面を与える。したがって、サンプルで試験面をこすった後の艶の状態を目視することにより、これが均一に塗布されているかどうかを知ることができる。
さらに、この作業を繰り返し、どの程度最初の艶出し効果が維持されているかを目視にて確認した。9個の試験面を擦った後(9回作業を繰り返した後)も艶出し効果が維持されていると判断された場合には、先に使用した試験面から流動パラフィンを除去して、その試験面を再度こすった。
【0050】
[評価の基準]
(1)皮膜の均一性
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや不良
×:不良
(2)艶出し効果の維持
◎:10回以上繰り返しても艶出し効果に変化がなかった。
○:10回繰り返したときに初期に比べて若干、艶の低下が見られた。
△:5回繰り返したときに初期に比べて艶の低下が見られた。
×:2〜3回繰り返したときに初期に比べて艶の低下が見られた。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜4の対物用液体塗布シートは、いずれも液体徐放層Bおよび液体塗布層Cが前述した範囲の平均孔径を有していたため、塗布した皮膜の均一性が良好であり、艶出し効果も長い間維持された。特に実施例3の対物用液体塗布シートを使用した場合に艶出し効果が長く維持されるのは、実施例1および2と比較して、実施例3で使用した液体徐放層Bの目付および厚さが大きいために、液体が徐放層内を通過する時間が長く、徐放層内の空隙に液体が一時的に保持されたことによると考えられる。比較例1の対物用液体塗布シートは、液体塗布層Cを有していなかったために、皮膜の均一性が悪かった。また、比較例1の対物用液体塗布シートの艶出し効果の持続性は実施例のものより劣っており、このことは液体塗布層Cが徐放効果をある程度有することを示している。比較例2〜5の対物用液体塗布シートは、液体徐放層Bおよび液体塗布層Cのいずれか一方が前述した範囲の平均孔径を有していなかったために、皮膜の均一性において劣っており、艶出し効果の持続性においても劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の積層体は、液体を含浸することができ、含浸させた液体を徐々に放出させ、かつ放出された液体を均一に対象面に塗布することを可能にするものであるから、液体の種類を選択することにより種々の液体を長期間にわたって一定量ずつ塗布することが可能なシート、例えば、ワックスまたは洗浄剤を含浸させて、ワックス塗布シートまたは洗浄用シートを製造するのに適している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含浸し得る液体保持層Aの少なくとも一方の表面に、液体徐放層Bおよび液体塗布層Cがこの順に積層されて成り、
液体徐放層Bが、その平均孔径(P)が1μm以上25μm以下の範囲内にある多孔シートであり、
液体塗布層Cが、その平均孔径(P)が前記液体徐放層Bの平均孔径(P)よりも大きく、10μm以上45μm以下の範囲内にある不織布である、
対物用液体塗布シート用積層体。
【請求項2】
前記液体保持層Aが、0.05g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する不織布である、請求項1に記載の対物用液体塗布シート用積層体。
【請求項3】
前記液体徐放層Bが、10g/m以上150g/m以下の目付を有し、0.05g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有するメルトブローン不織布である、請求項1または2に記載の対物用液体塗布シート用積層体。
【請求項4】
前記液体塗布層Cが、0.5dtex以下の極細繊維を50mass%以上含有してなり、0.03g/cm以上0.2g/cm以下の見掛け密度(ρ)を有する不織布である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の対物用液体塗布シート用積層体。


【公開番号】特開2006−109984(P2006−109984A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298931(P2004−298931)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(000227331)株式会社ソフト99コーポレーション (84)
【Fターム(参考)】