説明

封止用樹脂組成物、電子部品の製造方法、電子部品

【課題】 チクソ性の経時変化が小さいため長期間にわたって使用が可能で、また塗膜上にピンホールや凝集物が発生しないため外観性に優れた封止用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 チクソ性付与剤を、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとで構成し、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率を、オクチルシラン表面処理シリカ10〜40重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ60〜90重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品などに用いられる封止用樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、チクソ性付与剤としてオクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとを含み、チクソ性の経時変化が小さく、また塗膜上にピンホールや凝集物が発生しない封止用樹脂組成物に関する。また、本発明は、その封止用樹脂組成物を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品などに用いられる封止用樹脂組成物として、特許文献1(特開2004−269763号公報)や特許文献2(特開昭61−209276号公報)に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1に記載されたものは、熱硬化性樹脂、無機充填材、溶剤、無機系チクソ性付与剤を含み、無機系チクソ性付与剤としてはスメクタイト系膨潤物質が用いられている。この封止用樹脂組成物は、ディップ工法により電子部品などの周囲に塗布され、加熱されることによって硬化して封止を構成する。
【0004】
スメクタイト系膨潤物質は、その分子層間に溶剤成分を取り込むことにより膨潤し、カードハウス構造を形成して封止用樹脂組成物にチクソ性を発現するが、使用する溶剤の種類や温度環境によっては膨潤構造が不安定となり、ゲル化や沈降などによりハードケーキングを発生させる、あるいは凝集物を発生させるという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載されたものは、熱硬化性樹脂、無機充填材、溶剤、有機系チクソ性付与剤を含んでなり、有機系チクソ性付与剤としては水添ヒマシ油アマイド系化合物が用いられている。この樹脂組成物は、ディップ工法やドリップ工法により電子部品などの周囲に塗布され、加熱されることによって硬化して封止を構成する。
【0006】
水添ヒマシ油アマイド系化合物は、分散媒体中で膨潤し、連続的な網目構造をとることで封止用樹脂組成物にチクソ性を発現するが、分散時の温度を厳密に制御する必要があった。たとえば、適正分散温度を超えた高い温度で分散させた場合には、常温に冷却する際に析出され、顔料凝集をともなってピンホールや凝集粒を発生させるという問題があった。逆に、適正分散温度を下回る低い温度で分散させた場合には、膨潤不足のために初期のチクソ性発現効果が弱く、また経時変化により膨潤が進み、粘度とチクソ性が変化してしまい、封止の塗装状態の安定性に支障をきたすという問題があった。また、アマイド系化合物に代表される有機系チクソ性付与剤は、未硬化成分が硬化後の封止樹脂中に残存し、封止樹脂の強度が低下する、あるいはクラックが生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−269763号公報
【特許文献2】特開昭61−209276号公報
【発明の概要】
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来の封止用樹脂組成物が有する問題点を解決するためになされたものであり、チクソ性の経時変化が小さく、また塗膜上にピンホールや凝集物が発生しない封止用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、無機充填材、有機溶剤およびチクソ性付与剤を含み、チクソ性付与剤が、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとを含んだものとし、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率を、オクチルシラン表面処理シリカ10〜40重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ60〜90重量%とした。
【0011】
また、本発明の封止用樹脂組成物は、より好ましくは、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率を、オクチルシラン表面処理シリカ20〜40重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ60〜80重量%とする。
【0012】
また、本発明の封止用樹脂組成物は、より好ましくは、オクチルシラン表面処理シリカの平均粒径およびジメチルシラン表面処理シリカの平均粒径が、いずれも100nm以下となるようにする。
【0013】
また、本発明は、この封止用樹脂組成物を用いた電子部品の製造方法および電子部品に向けられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の封止用樹脂組成物は、上記構成としたことにより、長期間にわたって安定したチクソ性、分散性、塗装性をえることができる。また、硬化後の樹脂塗膜上にピンホールや凝集物が発生せず、外観性に優れた封止を行うことができる。さらに、長期間にわたって安定したチクソ性を備えているため、その管理が容易で、ライフも向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)本発明の実施形態にかかる高圧抵抗部品(電子部品)を示す分解平面図である。(B)本発明の実施形態にかかる高圧抵抗部品(電子部品)を示す分解平面図である。(C)本発明の実施形態にかかる高圧抵抗部品(電子部品)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態にかかる封止用樹脂組成物について説明する。本実施形態においては、封止用樹脂組成物の材料に次のものを用いた。
【0017】
熱硬化性樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた。
【0018】
無機充填物として、平均粒径20μmの球形溶融シリカと、平均粒径7μmの破砕溶融シリカとを用いた。球形シリカおよび不定形シリカは、表面処理はなされていない。
【0019】
顔料として工業用に汎用されている青色の顔料、有機溶剤としてアセトン、硬化剤としてフェノール系硬化剤、カップリング剤としてシラン系カップリング剤を用いた。
【0020】
チクソ性付与剤には、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとを用いた。
【0021】
そして、オクチルシラン表面処理シリカには、日本アエロジル株式会社製、品番R805、平均粒径12nmを用いた。オクチルシラン表面処理シリカは、シリカ表面のシラノール基(Si-OH)をオクチルシラン化したものであり、[化1]に示す化学構造式からなる。
【0022】
【化1】

【0023】
ジメチルシラン処理シリカには、日本アエロジル株式会社製、品番R974、平均粒径16nmを用いた。ジメチルシラン表面処理シリカは、シリカ表面のシラノール基(Si-OH)をジメチルシラン化したものであり、[化2]に示す化学構造式からなる。
【0024】
【化2】

【0025】
なお、本発明においては、オクチルシラン表面処理シリカの平均粒径およびジメチルシラン表面処理シリカの平均粒径は、いずれも100nm以下であることが好ましい。100nm以下とすることで、十分なチクソ性を発現させることができるからである。
【0026】
本実施形態にかかる封止用樹脂組成物は、次の方法により製造した。
【0027】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に、シラン系カップリング剤5重量部、顔料70重量部、アセトン150重量部、球形シリカ400重量部、不定形シリカ600重量部、オクチルシラン処理シリカ9重量部、ジメチルシラン処理シリカ21重量部を添加し、プラネタリミキサを用いて、120分間、混練し、樹脂組成物を得た。
【0028】
次に、当該樹脂組成物100重量部に対し、フェノール系硬化剤7重量部を添加し、さらに、リオン製回転式粘度計3号ロータにて、アセトンを後添加し、混合しながら、粘度が30±2dPa・sになるように粘度調整をおこない、本実施形態にかかる封止用樹脂組成物を得た。
【0029】
本発明の封止用樹脂組成物は、チクソトロピック指数変化率が小さく、経時安定性が高い。その理由は、次のように考えられる。
【0030】
すなわち、本発明の封止用樹脂組成物においては、チクソ性付与剤としてオクチルシラン表面処理シリカが含まれており、このオクチルシラン表面処理シリカが表面の長鎖アルキル鎖の物理的な絡まりによって、経時安定性の高い構造粘性を発現しているものと考えられる。この構造粘性の発現機構は、有機系チクソ性付与剤のように温度依存性が高く、かつ変動しやすい膨潤性を利用したものではなく、また鉱物粘土系の無機系チクソ性付与剤のように溶剤種との親和性に依存した膨潤性を利用したものでもないため、長期にわたって、安定的な分散性、塗装性が確保できるものと考えられる。
【0031】
また、本発明の封止用樹脂組成物は、外観不良率が低く、硬化した樹脂塗膜上にピンホールや凝集物がほとんどみられない。その理由は、次のように考えられる。
【0032】
すなわち、本発明の封止用樹脂組成物は、主にディップ工法により電子部品等の周囲に塗布され、加熱されて硬化され、封止樹脂塗膜を構成する。このディップ工法においては、無機充填剤の沈降を防止するために、封止用樹脂組成物を間欠攪拌しておくことが必要であるが、この際に封止用樹脂組成物が内部に気泡を巻き込み、封止用樹脂組成物を電子部品等の周囲に塗布した後に、気泡が塗膜表面で破泡してピンホールを生じやすい。このため、ピンホールのない平滑な塗膜表面を得るためには、硬化工程に先立つ乾燥工程において、塗布された封止用樹脂組成物が自ら気泡痕を埋め戻す必要がある。
【0033】
ここで、本発明の封止用樹脂組成物に含まれるオクチルシラン処理シリカは、上記のとおり経時安定性には寄与するが、粒子間相互作用が大きいために、無せん断状態になる乾燥工程において、樹脂の流動性が低くなりやすく、気泡痕の埋め戻しが進まずピンホールを生じやすく、また凝集物を生じやすい。しかしながら、本発明の封止用樹脂組成物においては、鎖長が長いオクチルシラン表面処理シリカと比較して、アルキル鎖長が短く、立体構造的な粒子間相互作用が小さいジメチルシラン表面処理シリカが併用されているため、乾燥工程における樹脂の流動性が緩和されており、適度なレベリングがなされ、気泡痕の埋め戻しがなされるためピンホールが生じにくく、また凝集物も生じにくいものと考えられる。
【0034】
次に、上記実施形態にかかる封止用樹脂組成物を用いた、本発明の実施形態にかかる電子部品、およびその製造方法について説明する。
【0035】
図1(A)〜(C)は、本実施形態にかかる高圧抵抗部品(電子部品)を示す。ただし、図1(A)は分解平面図であり、封止樹脂塗膜と、被覆層と、外部端子を接続するためのはんだとを省略した状態を示す。図1(B)も分解平面図であり、封止樹脂塗膜を省略した状態を示す。図1(C)は平面図である。
【0036】
この高圧抵抗部品は、長方形の板状の基板1と、基板1の表面に形成された一対の電極2a、2bと、電極2aと2bとの間に形成された抵抗膜3と、抵抗膜3を覆って形成された被覆層4と、電極2a、2bに取付けられた外部端子5a、5bと、電極2a、2bと外部端子5a、5bとを接続固定するはんだ6と、外部端子5a、5bを外部に導出して全体を被覆して形成された封止樹脂塗膜7とを備える。
【0037】
基板1は、アルミナからなる。
【0038】
電極2a、2bは、Agからなり、基板1の表面に、所定の間隔をとって形成されている。
【0039】
抵抗膜3は、酸化ルテニウム系の抵抗材料からなり、一端が電極2aに接続され、他端が電極2bに接続され、基板1の表面に形成されている。
【0040】
被覆層4は、高電圧のかかる抵抗膜3と外部との絶縁性を高めるためのものであり、ガラス系材料からなり、基板1の抵抗膜3上に形成されている。
【0041】
外部端子5a、5bは、それぞれ、一方の先端が二股に分かれた形状からなり、その二股に分かれた先端が基板1を挟み込み、また二股に分かれた先端の一方が電極2a、2bのいずれかに接するように、基板1に取付けられている。そして、外部端子5aの二股に分かれた先端の一方と電極2aとの間、外部端子5b の二股に分かれた先端の一方と電極2bとの間は、それぞれ、Sn/Ag系のはんだ6により接続固定されている。外部端子5a、5bの材質には、鉄の表面にNiメッキを施し、さらにその上にSnメッキを施したものが用いられている。
【0042】
封止樹脂塗膜7には、上記実施形態にかかる封止用樹脂組成物が用いられ、外部端子5a、5bの他方の先端を外部に導出させて、基板1全体を覆って形成されている。
【0043】
本実施形態にかかる高圧抵抗部品は、次の方法により製造した。
【0044】
まず、複数個の高圧抵抗部品を製造するための、複数個分の基板1を含む、大きなマザー基板(図示せず)を用意した。
【0045】
次に、マザー基板の各基板1の所定部分に、Agペーストを塗布し、焼付け、電極2a、2bを形成した。
【0046】
次に、マザー基板の各基板1の所定部分に、酸化ルテニウム系の抵抗ペーストを所定のパターン形状に塗布し、焼付け、抵抗膜3を形成した。
【0047】
次に、マザー基板の各基板1の抵抗膜3上に、ガラス系絶縁ペーストを塗布し、焼付け、被覆層4を形成した。
【0048】
次に、マザー基板を、ダイサーを用いて各基板1に分割した。
【0049】
次に、基板1の電極2a、2bに、外部端子5a、5bを取付け、はんだ6を施して接続固定した。
【0050】
最後に、外部端子5a、5bの外部導出部分を除き、基板1を上記実施形態にかかる封止用樹脂組成物に2回浸漬し、基板1の周囲に封止用樹脂組成物を付着させたのち(ディップ工法)、室温にて30分間乾燥させ、さらにバッチオーブンにて、50℃/22分間、80℃/22分間、155℃/22分間、170℃/22分間の順番で加熱し、封止用樹脂組成物を硬化させて封止樹脂塗膜7を形成し、本実施形態にかかる高圧抵抗部品を完成させた。
【0051】
以上、本発明の実施の形態にかかる封止用樹脂組成物、それを用いた電子部品の製造方法、電子部品について説明したが、本発明が上記の内容に限定されることはなく、種々の変更をなすことができる。たとえば、本発明の封止用樹脂組成物に用いる熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂には限られず、他の種類の樹脂を用いても良い。また、本発明が適用される電子部品も高圧抵抗部品には限られず、他の種類の電子部品に適用することができる。
【0052】
(実験例1)
本発明にかかる封止用樹脂組成物の特性を確認するため、次の実験をおこなった。その結果を表1に示す。なお、表1において、試料2〜5は本発明の範囲内、※を付した試料1、6、7は本発明の範囲外である。
【0053】
【表1】

【0054】
試料1〜7は、出発原料におけるオクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカの合計量を30重量部に固定したうえで、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率を変化させた。ビスフェノールA型エポキシ樹脂などの他の出発原料の種類と量、また後添加されるフェノール系硬化剤などの種類と量、さらに製造方法は、上述した実施形態と同様にした。
【0055】
本実験においては、25℃におけるチクソトロピック指数変化率、40℃におけるチクソトロピック指数変化率、硬化後の樹脂塗膜の外観不良率、曲げ強度を測定した。
【0056】
チクソトロピック指数変化率は、次の方法により測定した。
【0057】
まず、各試料につき、初期、25℃槽に投入して14日経過後、40℃槽に投入して14日経過後の、各チクソトロピック指数を測定した。チクソトロピック指数は、B型粘度計6号ローターにて、4rpm/1分間、20rpm/1分間、せん断した後のそれぞれの粘度を測定し、4rpmの粘度を20rpmの粘度で除した値とした。
【0058】
チクソトロピック指数変化率は、初期のチクソトロピック指数と、25℃槽または40℃槽に投入して14日経過後のチクソトロピック指数との変化率とした。すなわち、チクソトロピック指数変化率=(初期のチクソトロピック指数−14日経過後のチクソトロピック指数)/初期のチクソトロピック指数×100(%)とした。
【0059】
なお、チクソトロピック指数変化率は、チクソトロピーの経時変化が大きいほど大きな値となり、好ましくない。チクソトロピック指数変化率は、長期間の使用可能性を考慮すると、20%未満であることが望まれる。特に、25℃チクソトロピック指数変化率と40℃チクソトロピック指数変化率の両方が20%未満であれば、温度管理に特段の配慮をしなくても、長期間にわたって安定的に使用することができる。また、25℃チクソトロピック指数変化率が20%未満、40℃チクソトロピック指数変化率が20%以上である場合は、一定の温度管理(25℃管理等)により、長期間にわたって安定的に使用することができる。一方、25℃チクソトロピック指数変化率と40℃チクソトロピック指数変化率の両方が20%以上であれば、長期間の使用には適さない。
【0060】
外観不良率は、次の方法により測定した。
【0061】
まず、各試料を50cc瓶に30cc入れて密閉し、凝集物の生成を加速させる目的で、当該瓶を冷却剤が充填された500cc容器内に収容し、シェーカーにて毎秒1往復の速度で、適時、冷却剤を再充填しながら6時間、振とうさせた。
【0062】
次に、各試料ごとにガラスプレートを10枚用意し、各ガラスプレートを垂直に封止用樹脂組成物に浸漬させ、その後引き上げた。
【0063】
次に、表面に封止用樹脂組成物が付着したガラスプレートを、室温にて30分間乾燥させた後、封止用樹脂組成物の硬化条件に従い、オーブンにて、順番に、50℃/22分間、80℃/22分間、155℃/22分間、170℃/22分間加熱し、封止用樹脂組成物を硬化させて樹脂塗膜を得た。
【0064】
次に、ガラスプレートの硬化した樹脂塗膜を顕微鏡観察し、樹脂塗膜上に存在するピンホールや凝集物の有無を確認し、ピンホールまたは凝集物の確認されなかったものを良、確認されたものを不良とした。そして、不良枚数の割合を外観不良率とした。
【0065】
なお、封止樹脂塗膜(封止用樹脂組成物)の外観不良率は、0%を目標値とした。
【0066】
曲げ強度は、次の方法により測定した。
【0067】
まず、30±2dPa・sに粘度調整した各試料をPETフィルム上にブレードコーターを用いて約1mm厚の成形塗膜を形成し、オーブンにて順番に、40℃/2時間、60℃/5時間、80℃/8時間の条件で乾燥させた。次に、得られた乾燥塗膜をPETフィルムから剥離し、2枚の金属板の間にはさみ、オーブンにて順番に、30℃/0.2時間/50℃、50℃/0.1時間、50℃/0.1時間/70℃、70℃/0.1時間、70℃/0.2時間/150℃、150℃/0.3時間の条件で硬化させた。得られた硬化物を1cm×7cmの短冊状にカットし、3点支持の圧縮試験機にて、圧縮速度2mm/分で曲げ強度を測定した。
【0068】
なお、曲げ強度は、70MPa以上を目標値とした。
【0069】
表1に示すように、オクチルシラン表面処理シリカを0重量%、ジメチルシラン表面処理シリカを100重量%とした試料1(本発明の範囲外)は、外観不良率は0%、曲げ強度は80MPaと良好であったが、25℃チクソトロピック指数変化率が28%、40℃チクソトロピック指数変化率が47%と、いずれも20%を超えてしまった。チクソ性の経時安定性に寄与するオクチルシラン表面処理シリカを含まず、乾燥工程における樹脂の流動性の緩和に寄与するジメチルシラン表面処理シリカのみとしたためである。
【0070】
オクチルシラン表面処理シリカを10重量%、ジメチルシラン表面処理シリカを90重量%とした試料2は、外観不良率は0%、曲げ強度は77MPaと良好であり、25℃チクソトロピック指数変化率も16%と良好であったが、40℃チクソトロピック指数変化率が25%となった。試料2にかかる封止用樹脂組成物は、一定の温度管理(25℃管理等)をおこなえば、長期間にわたって使用が可能である。
【0071】
試料3〜5は、オクチルシラン表面処理シリカを20〜40重量%の範囲内から、ジメチルシラン表面処理シリカを60〜80重量%の範囲内から選択した。いずれも、25℃チクソトロピック指数変化率および40℃チクソトロピック指数変化率は20%未満、外観不良率は0%、曲げ強度は78〜84MPa であり良好であった。オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカの配合バランスが良く、チクソ性の経時安定性と、乾燥工程における樹脂の流動性の緩和を両立しているからである。
【0072】
オクチルシラン表面処理シリカを50重量%、ジメチルシラン表面処理シリカを50重量%とした試料6(本発明の範囲外)は、25℃チクソトロピック指数変化率は3%、40℃チクソトロピック指数変化率は5%、曲げ強度は83MPaで良好であったが、外観不良率が20%であった。また、オクチルシラン表面処理シリカ100重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ0重量%とした試料7(本発明の範囲外)は、25℃チクソトロピック指数変化率は3%、40℃チクソトロピック指数変化率も3%、曲げ強度は86MPaで良好であったが、外観不良率が100%であった。いずれも、乾燥工程における樹脂の流動性の緩和に寄与するジメチルシラン表面処理シリカの量が不足している、あるいは含有されていないからである。
【0073】
(実験例2)
有機系チクソ性付与剤である脂肪酸アマイド系化合物を用いた従来の封止用樹脂組成物につき、実験例1と同様の実験をおこなった。その結果を表2に示す。※を付した試料8は本発明の範囲外である。
【0074】
【表2】

【0075】
上述した実験例1では、出発原料におけるオクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカの合計量を30重量部としたが、試料8(発明の範囲外)においては、他の出発原料の種類および量を同一にしたまま、オクチルシラン表面処理シリカおよびジメチルシラン表面処理シリカのみを、有機系チクソ性付与剤である脂肪酸アマイド系化合物30重量部に置き代えた。
【0076】
試料8においては、25℃チクソトロピック指数変化率は16%で良好であったが、40℃チクソトロピック指数変化率が23%、外観不良率が100%、曲げ強度が54MPaであった。
【0077】
外観不良率が100%となったが、脂肪酸アマイド系化合物からなる有機系のチクソ性付与剤は、粒子間の凝集性を高くする作用があるため、無せん断状態となる乾燥工程において流動性が低くなってしまい、気泡痕の埋戻しが進まず、ピンホールが発生してしまったためである。また、曲げ強度が54MPaと低下しているが、有機系のチクソ性付与剤は硬化後に未硬化成分として封止樹脂中に残存してしまいやすく、これが封止樹脂の強度を低下させてしまったものである。
【符号の説明】
【0078】
1:基板
2a、2b:電極
3:抵抗膜
4:被覆層
5a、5b:外部端子
6:はんだ
7:封止樹脂塗膜(封止用樹脂組成物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、無機充填材、有機溶剤およびチクソ性付与剤を含んでなる封止用封止用樹脂組成物であって、
チクソ性付与剤が、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとを含んでなり、オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率が、オクチルシラン表面処理シリカ10〜40重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ60〜90重量%であることを特徴とする封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記オクチルシラン表面処理シリカとジメチルシラン表面処理シリカとの混合比率が、オクチルシラン表面処理シリカ20〜40重量%、ジメチルシラン表面処理シリカ60〜80重量%であることを特徴とする請求項1に記載された封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記オクチルシラン表面処理シリカの平均粒径および前記ジメチルシラン表面処理シリカの平均粒径が、いずれも100nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載された封止用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された樹脂組成物を、ディップ工法により電子部品の周囲に塗布し、加熱して硬化させたことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された封止用樹脂組成物により封止されていることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122050(P2011−122050A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280497(P2009−280497)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】