説明

射出シリンダ用負荷装置

【課題】 射出スリーブからキャビティに通ずる通路に配置するゲートを実際の溶融材料が通過する際に生じる絞り抵抗に基づく背圧と略同等の背圧(負荷)が射出シリンダのピストンロッドに付与されるようにした射出シリンダ用負荷装置を提供する。
【解決手段】 射出成形機における射出シリンダのピストンロッド51に連結されるプランジャ21を本体11の嵌挿孔(内孔12b)に軸方向へ摺動可能に嵌挿して、本体11の内部に作動室R1を区画形成する。作動室R1には射出成形の溶融材料に替わる液体を封入して設け、本体10には作動室R1に連通路Poを通して連通して前記液体を収容可能な作用室R3を設け、連通路Poには絞り孔23aを有する絞り部材(オリフィスプレート23)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型(成形金型)と同等の負荷を射出成形機の射出シリンダに付与することが可能な射出シリンダ用負荷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機においては、下記の特許文献1に示されているように、射出成形に際して使用される実際の成形型が内部にキャビティを有していて、このキャビティに連通するように射出スリーブを成形型に接続し、この射出スリーブに射出プランジャを挿入し、この射出プランジャを射出成形機における射出シリンダのピストンロッドに連結し、この射出成形機の射出シリンダを作動させることによりピストンロッドを前進作動させて、射出スリーブに供給された溶融材料(溶融金属または溶融樹脂)をキャビティ内に射出充填することにより射出成形が行われる。
【特許文献1】特開2004−66253(段落番号0008〜0018、図1)
【0003】
ところで、従来の射出成形機においては、実際の射出成形を行う前に、実際の溶融材料を用いることなく射出シリンダのピストンロッドの射出速度や増圧圧力を設定するのに、射出スリーブ内にウエス等を詰めた状態にて射出シリンダのピストンロッドにより射出プランジャを前進させる所謂ウエス打ちと呼ばれる方法や、空打ちと呼ばれる方法(射出スリーブ内にウエス等を詰めない状態にて同様の作業を行う方法)等を作業者がその経験に基づき繰り返し行って調整している。
【0004】
しかし、上記した調整方法では、実際の射出成形において、射出スリーブからキャビティに通ずる通路に配置するゲートを実際の溶融材料が通過する際に生じる絞り抵抗に基づく背圧(負荷)が射出シリンダのピストンロッドに付与されない。このため、上記した調整方法では、ゲートによる絞り抵抗に基づく背圧を射出シリンダのピストンロッドに付与した状態にて、射出シリンダのピストンロッドの射出速度や増圧圧力を設定することができなくて、実際の射出成形において、射出成形機の射出シリンダを所定の諸元(例えば、所定の射出速度、所定の増圧圧力)で作動させることが難しい。
【発明の開示】
【0005】
本発明の課題は、実際の射出成形を行う前に、実際の溶融材料を用いることなく射出シリンダのピストンロッドの射出速度や増圧圧力を設定するのに、射出スリーブからキャビティに通ずる通路に配置するゲートを実際の溶融材料が通過する際に生じる絞り抵抗に基づく背圧と略同等の背圧(負荷)が射出シリンダのピストンロッドに付与されるようにした射出シリンダ用負荷装置を提供することにある。
【0006】
この射出シリンダ用負荷装置は、射出成形機における射出シリンダのピストンロッドに連結されるプランジャを本体の嵌挿孔に軸方向へ摺動可能に嵌挿して、前記本体の内部に作動室を区画形成し、同作動室には射出成形の溶融材料に替わる液体を封入して設け、前記本体には前記作動室に連通路を通して連通して前記液体を収容可能な作用室を設け、前記連通路には絞り孔を有する絞り部材を設けたことに特徴がある。
【0007】
本発明による射出シリンダ用負荷装置によれば、そのプランジャに射出成形機における射出シリンダのピストンロッドを連結して、射出成形機の射出シリンダを作動させると、ピストンロッドの前進作動に伴って、作動室の容積を減少させるべくプランジャが前進作動する。このときには、作動室内の液体が連通路を通して作用室に導入され、その際に連通路に設けた絞り部材の絞り孔を通過する。
【0008】
このため、作動室に封入する液体の粘度と絞り部材における絞り孔の開口面積を適宜に設定することにより、射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型と同等の負荷(すなわち、射出スリーブからキャビティに通ずる通路に配置するゲートを実際の溶融材料が通過する際に生じる絞り抵抗に基づく背圧と略同等の背圧)を射出成形機の射出シリンダに付与することが可能である。
【0009】
したがって、本発明による射出シリンダ用負荷装置のプランジャに、射出成形機における射出シリンダのピストンロッドを連結して、射出成形機の射出シリンダを所定の諸元(例えば、所定の射出速度)で作動するように設定すれば、当該射出成形機を実際の成形型に適用して実際に使用する際にも、本発明による射出シリンダ用負荷装置を用いて設定したのと同等の諸元にて当該射出成形機の射出シリンダを作動させることが可能である。
【0010】
また、本発明の実施に際して、前記絞り部材を絞り孔の開口面積が異なる他の絞り部材に交換可能とすることも可能である。この場合には、開口面積が異なる種々な絞り部材から適宜な開口面積の絞り部材を選択して使用することにより、実際の種々な成形型に容易かつ最適に対応させることが可能である。
【0011】
また、本発明の実施に際して、前記作用室は前記本体に設けた作用孔にピストンを軸方向に摺動可能に嵌挿することにより区画形成されていて、前記ピストンは前記本体に設けた当接部との当接により軸方向の摺動が停止するように設定されていることも可能である。この場合には、ピストンが本体の当接部と当接して軸方向の摺動が停止されるまでの作用室の容積増大量を、射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型のキャビティの容積と同等に設定することにより、実際の成形型を使用して射出成形機による射出成形を実際に行う場合の作動を検証することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による射出シリンダ用負荷装置を示していて、この射出シリンダ用負荷装置は、基盤(図示省略)に取付けられる本体10と、この本体10に組付けたプランジャ21、ピストン22およびオリフィスプレート23を備えるとともに、本体10に組付けられてプランジャ21の位置を検知する位置検出センサ24を備えている。
【0013】
本体10は、シリンダブロック11と横シリンダチューブ12と横シリンダヘッド13を備えるとともに、縦シリンダチューブ14と縦シリンダヘッド15を備えている。シリンダブロック11は、横穴11aと縦穴11bが連通するように形成されていて、横穴11aに対して同軸的にセンサ取付孔11cが形成され、縦穴11bの上部に連通するように給液口11dが形成されている。なお、給液口11dには、プラグ16が脱着可能に組付けられている。
【0014】
横シリンダチューブ12は、その軸心がシリンダブロック11の横穴11aの軸心と略一致するように配置されていて、その基端部にてシリンダブロック11に液密的かつ一体的に組付けられており、先端部側方には大気開放口12aが形成されている。横シリンダヘッド13は、プランジャ21のロッド部21bが貫通する支持孔13aを有していて、横シリンダチューブ12の先端部に一体的に組付けられており、支持孔13aにはプランジャ21のロッド部21bを摺動可能に支持するメタル軸受17が一体的に組付けられている。
【0015】
縦シリンダチューブ14は、その軸心がシリンダブロック11の縦穴11bの軸心と略一致するように配置されていて、その基端部にてシリンダブロック11に液密的かつ一体的に組付けられている。縦シリンダヘッド15は、ピストン22のロッド部22bが貫通する支持孔15aを有していて、縦シリンダチューブ14の先端部に一体的に組付けられており、支持孔15aにはピストン22のロッド部22bを摺動可能に支持するメタル軸受18が一体的に組付けられている。また、縦シリンダヘッド15には、大気開放口15bが形成されている。
【0016】
プランジャ21は、大径のヘッド部21aと小径のロッド部21bを有していて、ヘッド部21aにて本体10の嵌挿孔すなわち横シリンダチューブ12の内孔12bにシールリング31を介して軸方向へ摺動可能に嵌挿されていて、本体10の内部に作動室R1と空気室R2(大気開放口12aを通して常時大気と連通している)を区画形成している。また、プランジャ21は、ロッド部21bの先端にてジョイント41を介して射出成形機における射出シリンダのピストンロッド51に連結されるように構成されている。
【0017】
ピストン22は、大径のヘッド部22aと小径のロッド部22bを有していて、ヘッド部22aにて本体10の作用孔すなわち縦シリンダチューブ14の内孔14aにシールリング32を介して軸方向へ摺動可能に嵌挿されていて、本体10の内部に作用室R3と空気室R4(大気開放口15bを通して常時大気と連通している)を区画形成している。また、ピストン22は、縦シリンダヘッド15の内端凸部(当接部)15cとの当接により軸方向の摺動が停止するように設定されている。
【0018】
オリフィスプレート23は、絞り孔23aを有する絞り部材であり、作動室R1と作用室R3を連通させる連通路Poに設けられている。また、オリフィスプレート23は、シリンダブロック11から縦シリンダチューブ14を取り外した状態にて、シリンダブロック11に脱着可能に組付けられていて、絞り孔23aの開口面積が異なる他のオリフィスプレート23に交換可能とされている。この交換時には、縦シリンダチューブ14、縦シリンダヘッド15、ピストン22等も大きさの異なるものと交換可能である。
【0019】
作動室R1と作用室R3は、オリフィスプレート23の絞り孔23aを通して連通していて、各室の内部には射出成形の溶融材料(溶融金属または溶融樹脂)に替わる液体(作動液)が給液口11dを通して注入されて封入されている。作用室R3は、作動室R1に封入した液体の一部をオリフィスプレート23の絞り孔23aを通して収容可能であり、その最大容積(ピストン22が縦シリンダヘッド15の内端凸部15cと当接して停止したときの容積)は射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型のキャビティの容積と略等しくされている。
【0020】
上記のように構成した本実施形態の射出シリンダ用負荷装置においては、図1に示したように後退位置にあるプランジャ21に射出成形機における射出シリンダの後退位置にあるピストンロッド51をジョイント41を介して連結して、射出成形機の射出シリンダを前進作動させると、ピストンロッド51の前進作動に伴って、作動室R1の容積を減少させるべくプランジャ21が前進作動する。このときには、作動室R1内の液体が連通路Poを通して作用室R3に導入され、その際に連通路Poに設けたオリフィスプレート23の絞り孔23aを通過する。
【0021】
このため、作動室R1に封入した液体の粘度とオリフィスプレート23の絞り孔23aの開口面積を適宜に選定することにより、射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型と同等の負荷(すなわち、射出スリーブからキャビティに通ずる通路に配置するゲートを実際の溶融材料が通過する際に生じる絞り抵抗に基づく背圧と略同等の背圧)を射出成形機の射出シリンダに付与することが可能である。
【0022】
したがって、本実施形態においては、射出シリンダ用負荷装置のプランジャ21に、射出成形機における射出シリンダのピストンロッド51を連結して、射出成形機の射出シリンダを所定の諸元(例えば、所定の射出速度)で作動するように設定すれば、当該射出成形機を実際の成形型に適用して実際に使用する際にも、本実施形態の射出シリンダ用負荷装置を用いて設定したのと同等の諸元にて当該射出成形機の射出シリンダを作動させることが可能である。なお、射出シリンダの射出速度すなわちプランジャ21の前進速度は、プランジャ21の位置を検知する位置検出センサ24からの信号に基づいて演算することが可能である。
【0023】
また、本実施形態においては、オリフィスプレート23を絞り孔23aの開口面積が異なる他のオリフィスプレート23に交換可能としたため、絞り孔23aの開口面積が異なる種々なオリフィスプレート23から適宜な開口面積の絞り孔23aを有するオリフィスプレート23を選択して使用することにより、実際の種々な成形型に容易かつ最適に対応させることが可能である。
【0024】
また、本実施形態においては、作用室R3が本体10に設けた作用孔(縦シリンダチューブ14の内孔14a)にピストン22を軸方向に摺動可能に嵌挿することにより区画形成されていて、図2に示したように、プランジャ21が前進位置に達したとき、ピストン22は縦シリンダヘッド15の内端凸部15c(本体10に設けた当接部)との当接により軸方向の摺動が停止するように設定されており、その最大容積(ピストン22が縦シリンダヘッド15の内端凸部15cと当接して停止したときの容積)は射出成形機による射出成形に際して使用される実際の成形型のキャビティの容積と略等しくされている。このため、実際の成形型を使用して射出成形機による射出成形を実際に行う場合の作動を検証することが可能である。
【0025】
上記実施形態においては、作用室R3が本体10に設けた作用孔にピストン22を軸方向に摺動可能に嵌挿することにより区画形成されていて、ピストン22は縦シリンダヘッド15の内端凸部15c(本体10に設けた当接部)との当接により軸方向の摺動が停止するようにして実施したが、ピストン22と内端凸部15cを無くして実施することも可能である。
【0026】
また、上記実施形態においては、オリフィスプレート23を絞り孔23aの開口面積が異なる他のオリフィスプレート23に交換可能として実施したが、オリフィスプレートの絞り孔の開口面積を本体の外部から調整可能に構成して(可変絞り構成として)実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による射出シリンダ用負荷装置の一実施形態を示したもので、プランジャが後退位置にある状態の断面図である。
【図2】図1に示した実施形態においてプランジャが前進位置に移動した状態の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10…本体、11…、シリンダブロック、12…横シリンダチューブ、12b…内孔(嵌挿孔)、13…横シリンダヘッド、14…縦シリンダチューブ、14a…内孔(作用孔)、15…縦シリンダヘッド、15c…内端凸部(当接部)、21…プランジャ、22…ピストン、23…オリフィスプレート、23a…絞り孔、41…ジョイント、51…射出シリンダのピストンロッド、R1…作動室、R3…作用室、Po…連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機における射出シリンダのピストンロッドに連結されるプランジャを本体の嵌挿孔に軸方向へ摺動可能に嵌挿して、前記本体の内部に作動室を区画形成し、同作動室には射出成形の溶融材料に替わる液体を封入して設け、前記本体には前記作動室に連通路を通して連通して前記液体を収容可能な作用室を設け、前記連通路には絞り孔を有する絞り部材を設けたことを特徴とする射出シリンダ用負荷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の射出シリンダ用負荷装置において、前記絞り部材を絞り孔の開口面積が異なる他の絞り部材に交換可能としたことを特徴とする射出シリンダ用負荷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の射出シリンダ用負荷装置において、前記作用室は前記本体に設けた作用孔にピストンを軸方向に摺動可能に嵌挿することにより区画形成されていて、前記ピストンは前記本体に設けた当接部との当接により軸方向の摺動が停止するように設定されていることを特徴とする射出シリンダ用負荷装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−239972(P2006−239972A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56930(P2005−56930)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000241267)豊興工業株式会社 (63)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】