射出成形方法と射出成形装置
【課題】 成形品の表面を意図した表面形状に射出成形するために必要な圧力を低減し、射出成形型の小型化と製造コストを低減する。
【解決手段】 キャビティに溶融樹脂を充填してから型を開くまでの間に、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する工程を同時に実行する。両者を同時に実行すると、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けて収縮分を補充する圧力を低下させることができ、成形品裏面をキャビティ面から剥離させるために成形品の裏面に注入する加圧流体の圧力を低下させることができる。
【解決手段】 キャビティに溶融樹脂を充填してから型を開くまでの間に、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する工程を同時に実行する。両者を同時に実行すると、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けて収縮分を補充する圧力を低下させることができ、成形品裏面をキャビティ面から剥離させるために成形品の裏面に注入する加圧流体の圧力を低下させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形方法では、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し、充填した溶融樹脂が凝固したら型を開けて成形品を取出す。
多くの樹脂は凝固するときに収縮する。キャビティに充填した溶融樹脂が収縮して凝固すると、成形品の外形形状がキャビティの形状からずれてしまい、成形品の外形を意図した形状に成形することができない。
【0003】
これに対策するために、キャビティに充填した溶融樹脂が凝固するまでの間、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続け、溶融樹脂が収縮する分だけ溶融樹脂を補充する技術が開発されている。これによると、溶融樹脂が収縮しても成形品外面がキャビティ面から剥離することが防止され、意図した外形を有する成形品を射出成形することができる。
【0004】
特許文献1に、これに代わる技術が開示されている。特許文献1の技術では、多くの成形品には意図した表面形状に仕上げる必要がある面(これを意匠面という)と、表面形状が重視されない面(これを裏面という)があることに着目し、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し終えたら樹脂に圧力を加えることを止め、その代わりに成形品の裏面に加圧流体を注入する。成形品の裏面に加圧流体を注入すると、成形品の裏面がキャビティ面から剥離する一方、成形品の意匠面はキャビティ面に押付けられる。このために、成形品の意匠面を意図した表面形状に仕上げることができる。特許文献1の技術では、キャビティに溶融樹脂を充填し終えたら樹脂に圧力を加えることを止めるので、余分な樹脂が必要とされないと説明している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キャビティに充填した溶融樹脂が凝固するまでの間、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続ける技術によって良好な成形品を成形しようとすると、高い圧力を加え続ける必要がある。例えば自動車のバンパを成形しようとすると、収縮が問題となる末端部位(ゲートから遠い部位をいう)で16MPa程度の圧力を加え続ける必要があり、そのためにはゲート近傍で40MPa程度の圧力を加え続ける必要がある。このために、バンパ成形型には40MPa以上の耐圧が必要とされ、大型で高価な射出成形型が必要とされる。
ゲートから供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることに代えて、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術によって良好な成形品を成形する場合でも、高い流体圧力が必要とされる。特許文献1の技術でも、18MPa程度の加圧流体を注入する。射出成形型には18MPa以上の耐圧が必要とされ、大型で高価な射出成形型が必要とされる。
【0007】
本発明は、成形品の意匠面を意図した表面形状に射出成形するために必要とされる圧力を低減し、射出成形型に必要とされる耐圧を低減し、射出成形型の小型化と射出成形型の製造コストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
射出成形方法では、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し、溶融樹脂が凝固してから型を開く。
本発明で創作された射出成形方法では、キャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する加圧流体注入工程を同時に実行する。
【0009】
本射出成形方法は、手法の上からみると、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることによって収縮分を補充する技術と、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術の両者を実行するものである。本射出成形方法では、両者を同時に実行することによって予期せぬ相乗作用を得ることに成功し、意図した意匠面形状に成形するのに必要な圧力を大幅に低減するのに成功した。先に例示したケースでは、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けて収縮分を補充する技術だけによる場合には末端部で16MPa程度の圧力が必要とされ、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術だけによる場合には18MPa程度の圧力が必要とされていたのに対し、両者を同時に実行すると、溶融樹脂の補充圧力は8MPa程度と半減でき、加圧流体の注入圧力についてはわずか1MPa程度の圧力で足りるようになる。溶融樹脂の補充圧力と、加圧流体の注入圧力の両者とも低くてよく、両者とも低い条件の中で成形品の意匠面を意図した表面形状に成形することができる。なお上記圧力値は例示のためのものであり、発明の技術的範囲を制約するものではない。
【0010】
溶融樹脂の補充と成形品裏面への加圧流体の注入を同時に実行することによって、意匠面を意図した形状に射出成形するのに必要な圧力を低減できる推測理由を下記に示す。ただし、本発明の技術はその推測理由によって制約されるものでなく、あくまで特許請求の範囲に記載されている客観的要件に従う。
成形品の裏面側では、樹脂が冷却されて収縮するにつれ、ゲートから樹脂に掛けられている圧力が伝達し難くなり、樹脂全体に作用する圧力が低下していく。樹脂全体に作用する圧力が、成形品の裏面に向けて開口する流路に存在する流体に加えられている圧力よりも低下すると、加圧流体が成形品裏面とキャビティ面の間に浸入し始め、成形品裏面をキャビティ面から剥離させる。この結果、成形品裏面はキャビティ面を転写したものに仕上がらないが、成形品の裏面形状は製品性能に影響しないために、問題にはならない。樹脂の収縮に伴って、成形品の裏面近傍の圧力が低下するため、低圧の加圧流体が成形品裏面とキャビティ面の間に容易に浸入することができる。樹脂の収縮に伴って、成形品の意匠面近傍の圧力も低下するが、意匠面がキャビティ面から剥離しない間に、成形品裏面とキャビティ面の間に加圧流体が入り込み、成形品裏面とキャビティ面から剥離させる。
成形品の裏面がキャビティ面から剥離した後においても、成形品の意匠面形状が固定されるまでの間は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しないように、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続ける。このとき、キャビティ面から剥離した成形品の裏面が成形品の意匠面に向けて接近して厚みを減じるように収縮できるために、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に加え続ける圧力を従来技術よりも低くしても、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離することを禁止することができる。
【0011】
キャビティに溶融樹脂を充填し終えた後、溶融樹脂圧力保持工程と加圧流体注入工程を同時に開始することが好ましい。
キャビティに溶融樹脂を充填し終えた後、時間間隔をおいてから両工程を開始してもよいが、キャビティに溶融樹脂を充填し終えたタイミングに引続いて、溶融樹脂圧力保持工程と加圧流体注入工程を同時に開始することが好ましい。この場合、無駄な成形時間を必要としない。
あるいは、キャビティに溶融樹脂を充填し終えるのを待たないで、加圧流体注入工程を開始するようにしてもよい。キャビティに溶融樹脂を充填する際には、溶融樹脂がキャビティ内を流動し、溶融樹脂の先端が移動していく。キャビティに溶融樹脂を充填し終えるのを待たないで加圧流体注入工程を開始する場合には、キャビティ内を移動してゆく溶融樹脂の先端が、加圧流体を注入する流路の開口を通過した後に、加圧流体注入工程を開始することが好ましい。この場合、溶融樹脂の先端が開口を通過した後であって溶融樹脂の収縮が開始する前に、加圧流体注入工程を開始することが好ましい。
この場合、成形品の裏面がそれに対向するキャビティ面から剥離した状態で、溶融樹脂の凝固を進行させることができ、意匠面が意図した形状に仕上げられる。
成形品の裏面に対向するキャビティ面は、複数個に分割された成形型を組合わせて形成されていることがあり、その組合せ部位に段差が生じることがある。裏面といえどもキャビティ面に段差が存在していると、成形品の厚みが急変することから収縮が一様に進行せず、キャビティの意匠面が平坦であっても、成形品の意匠面に裏面の段差に対応する歪が現れることがある。本射出成形方法によると、成形品の厚みに裏面側キャビティ面の段差が影響せず、段差歪の発生が抑えられる。
【0012】
溶融樹脂圧力保持工程を終了した後に、加圧流体注入工程を継続して実行することが好ましい。
加圧流体注入工程を継続すると、成形品の意匠面側で樹脂が収縮しても、その収縮によって意匠面がキャビティ面から剥離することがない。すなわち、成形品裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入するために、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しづらい状態を維持することができる。これによって樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化することができ、サイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【0013】
溶融樹脂圧力保持工程において溶融樹脂に加える圧力と、加圧流体注入工程において加圧流体を介して溶融樹脂に加える圧力とによって、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離されない状態を形成することが好ましい。
樹脂圧力と流体圧力のそれぞれは低くても、それらが複合して作用することによって、意匠面がキャビティ面から剥離することを抑制できる圧力であることが好ましい。
特に、樹脂圧力保持工程で加える圧力は、同時に加圧流体注入工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できない圧力であり、加圧流体注入工程で加える圧力は、同時に樹脂圧力保持工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できない圧力であることが好ましい。
本技術によると、同時に加圧流体注入工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できないほど低い樹脂圧力で足りる。また、同時に樹脂圧力保持工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できないほど低い圧力の加圧流体を注入すれば足りる。両者の特徴を生かし、両者とも低い圧力で実施することが可能となる。
【0014】
本射出成形方法は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証することと、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることを組合せて利用することによって、相乗作用を得るものである。成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する手法は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証する一つの手法であって、それには限られない。
本射出方法は、一般化していえば、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面とそれに対向するキャビティ面を剥離させる工程とを同時に実行することを特徴とする射出成形方法であるということができる。
ノックアウトピン等を利用して機械的に成形品裏面をキャビティ面から剥離させるようにし、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証するようにしてもよい。
【0015】
本発明は、射出成形装置に具現化することもできる。この射出成形装置は、ゲートと、キャビティと、成形品の裏面に向けて開口するとともに開口部にベントを備えている流路を有する射出成形型を利用する。ここでいうベントとは、溶融樹脂の通過を禁止し、それよりも低粘性の流体の通過を許容するものであり、金型からのガス抜き等の目的で通常利用されているものである。
本発明で具現化された射出成形装置は、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから後もゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける手段と、前記流路から加圧流体を注入する手段を備えている。
本射出成形装置によると、溶融樹脂に加える圧力と流路から注入する流体の圧力をともに下げても、成形品の表面形状を意図して形状に成形することができる。射出成形型に必要な耐圧を下げることができる。従って、射出成形型の小型化と射出成形型の製造コストを低減することができる。
【0016】
貫通穴を持つ成形品を射出成形する場合、貫通穴を成形するための柱状部がキャビティ内に形成されている射出成形型を用いる。キャビティ内に柱状部が形成されていると、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、その柱状部の左右を通過した溶融樹脂が柱状部の下流側で合流する。この場合、加圧流体を注入する流路の開口部を、合流する樹脂の境界の近傍に形成しておくことが好ましい。
【0017】
2以上の樹脂の流れが合流する境界では、内部ウエルドと称する成形欠陥が発生しやすい。この成形欠陥は、キャビティに溶融樹脂を充填してから後に溶融樹脂に加え続ける圧力が高いほど発生しやすい。溶融樹脂に加え続ける圧力が高いほど、境界の左右の圧力差が大きくなり、境界が移動しやすくなるからである。境界が移動すると内部ウエルドが発生しやすい。内部ウエルドの発生を抑えるためには、溶融樹脂に加え続ける圧力を低下させるのが有効であるが、そうすると、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しやすくなってしまう。表面形状の精度を確保しながら内部ウエルドの発生を抑制することができる技術がなく、随分と苦労している。本装置は、この問題を解決する。
2以上の樹脂の流れが合流する境界の近傍に加圧流体の注入流路を設けておけば、意匠面の形状精度を確保するために溶融樹脂に加え続ける圧力を下げることができ、それによって内部ウエルドの発生を抑制することができる。
さらには、加圧流体注入手段は、キャビティに充填した溶融樹脂が流動して流路の開口部上を通過してから、加圧流体の注入を開始することが好ましい。
このような射出成形装置によれば、成形品の裏面がそれに対向するキャビティ面から剥離した状態で溶融樹脂の凝固を進行させることができ、意匠面を意図した形状に仕上げることができる。成形品の裏面に対向するキャビティ面に段差があっても、成形品の意匠面に段差歪が現れないようすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
(形態1) 射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、充填しづらい末端部に、加圧流体注入流路の開口を設ける。
(形態2) 注入流路の開口は、成形品の裏面に対向する位置に、分散配置する。
(形態3) キャビティの末端部に充填された樹脂の圧力が、樹脂圧力保持工程によって上昇するよりも早いタイミングで、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態4) キャビティの末端部に充填された樹脂の圧力が、樹脂圧力保持工程によって上昇し、その後に冷却されて低下するのを待って、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態5) キャビティに溶融樹脂が充填され終えるのを待たないで、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態6) キャビティに充填された溶融樹脂が加圧流体を噴出す開口を通過する時間を予め計測しておき、その時間が経過したときに加圧流体を注入し始める。
(形態7) 加圧流体は、加圧空気である。
(形態8) 加圧空気には、工場に既設されている空気源から供給される工場エアーを用いる。新規な設備を必要としない。
【実施例】
【0019】
(第1実施例)
本発明の射出成形技術に係る第1実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施例の射出成形技術によって成形する成形品の部分斜視図であり、図2は本実施例の射出成形装置の概略断面図であり、図3は本実施例の射出成形方法と従来の射出成形方法を比較する図であり、図4は本実施例の射出成形方法の工程図であり、図5は本実施例の射出成形方法と従来の射出成形方法で必要とされる圧力を対比して示す図である。
【0020】
図1に示す成形品10は、図2に示す射出成形装置18によって射出成形される樹脂成形品であり、典型例として、自動車の樹脂バンパ用の成形品が例示される。
成形品10において、面12は意図した表面形状に精密に仕上げる必要がある意匠面(表面)であり、面14は表面形状が重視されない裏面である。成形品10には表裏を貫通する穴16が成形される。
【0021】
図2は、射出成形装置18の金型20の、図1の成形品10のII−II線に対応する位置での断面を示す。金型20は、成形品10の意匠面12を成形するための雌金型22と、成形品10の裏面14を成形するための雄金型24とを有している。雌金型22と雄金型24を組合せることによって形成されるキャビティ26の形状は、得ようとする成形品10の形状に対応している。即ち、雌金型22のキャビティ面22aと成形品10の意匠面12が正確に対応しており、雄金型24のキャビティ面24aと成形品10の裏面14がほぼ対応している。雄金型24には、キャビティ面24aからキャビティ面22aに向かって伸びる柱状部24bが形成されている。柱状部24bはキャビティ面22aに当接している。柱状部24bの形状は、図1の成形品10に成形される貫通穴16の形状に対応している。
【0022】
雌金型22には、雌金型22の外部とキャビティ面24aを連通するゲート28が形成されている。ゲート28が雄金型24の外部に開口する箇所に、ランナー32のノズル30が取付けられている。ゲート28とノズル30とランナー32は、樹脂射出部34を構成している。ランナー32が所定の圧力で溶融樹脂を押出すために、溶融樹脂はゲート28からキャビティ26に充填される。
【0023】
雄金型24には、雄金型24の外部とキャビティ面24aを連通する2本の流体注入流路24d,24fが形成されている。流体注入流路24d,24fはキャビティ面24aに開口し、その開口部24c,24eは、ゲート28からキャビティ26に溶融樹脂を充填する際に、溶融樹脂を充填しづらい末端部に設けられている。開口部24c,24eには、ベント36c,36eが取付けられている。ベント36c,36eは、溶融樹脂は通過させないが空気は通過させる径の小孔を有している。さらに、第3の流体注入流路24gが設けられている。流体注入流路24gの開口は、溶融樹脂をゲート28からキャビティ26に充填する際に、貫通穴16を成形する柱状部24bの左右を通過した溶融樹脂が、柱状部24bの下流で合流する位置に形成されている。流体注入流路24gの開口部にもベントが取付けられている。
流体注入流路24d,24f,24gが雄金型24の外部に開口する箇所に、流体配管38が接続されている。流体配管38の一端には、流体を加圧して送出すポンプ42が接続されており、流体配管38の途中には流体の流量と圧力を調整するバルブ40が設けられている。バルブ40は、ポンプ42が供給する空気の圧力を0.5MPaに調圧する。バルブ40の開度は、図示しない制御装置によって制御される。ポンプ42が送出す加圧流体(この実施例では空気)は、バルブ40で0.5MPaに調圧され、流体配管38と流体注入流路24d,24f,24gから、キャビティ26に注入される。流体注入流路24d,24f,24gの開口部は、雄金型24側に用意されており、成形品の裏面に向けて0.5MPaに調圧された加圧空気を送出す。
【0024】
上記の射出成形装置18による射出成形方法の工程図を図4を参照して説明する。
最初に雌金型22と雄金型24とを合せ、金型20を閉じる。このとき流体注入部44のバルブ40は閉じておく。この状態で、樹脂射出部34のランナー32から約50MPaの射出圧で溶融樹脂を押出す。押出された溶融樹脂はノズル30を経てゲート28からキャビティ26に充填されていく。柱状部24bの近傍では、溶融樹脂が柱状部24bの左右を通過し、柱状部24bの下流位置で合流する。
溶融樹脂がキャビティ26に充填し終えたら、ランナー32の射出圧を20MPaまで降下させ、溶融樹脂圧力保持工程に移行する。
キャビティ26に溶融樹脂を充填し終ったタイミング、すなわち、樹脂圧力保持工程の開始タイミングで、流体注入部44のバルブ40を開き、0.5MPaに加圧した空気を流体注入流路24d、24f、24gに導く。
【0025】
ゲート28からキャビティ26内の溶融樹脂に加えられている圧力と、流体注入流路24d、24f、24gに加えられている加圧流体の圧力の関係から、下記の事象が存在する。
流体注入流路24d、24f、24gに加圧流体が導入されたときのキャビティ26内の溶融樹脂の圧力が加圧流体の圧力よりも高いため、溶融樹脂が凝固するのにともなって樹脂圧力が低下し、樹脂圧力が流体圧力よりも低くなった時に、成形品の裏面側に加圧流体が注入される。
成形品の裏面側に流体注入流路24d、24f、24gから加圧流体が注入されるために、成形品の表面側がキャビティ面22aから剥離することがなく、その前に成形品の裏面がキャビティ面24aから剥離する。
【0026】
キャビティ26に充填した溶融樹脂は冷却されて収縮する。このとき、成形品の裏面に加圧流体を注入するのと同時に、ランナー32から約20MPaの圧力を加え続ける。図5に示すように、ランナー32から約20MPaの圧力を加え続けると、末端部の樹脂圧力は約8MPa程度となる。
この樹脂圧力は、図5の従来技術1に示す従来の樹脂圧力保持技術による場合の約半分であり、低い樹脂圧力である。
【0027】
図3は、本実施例の射出成形技術を従来の射出成形技術と対比して説明する図である。(a)は、ゲート28からキャビティ26に供給する溶融樹脂に圧力P1を加え続けて樹脂の収縮分を補充する技術だけで成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにする技術に対応する。先に成形品裏面がキャビティ面から剥離することが保証されておらず、成形品表面がキャビティ面から先に剥離することがありえる。この場合、成形品裏面側の収縮と成形品表面側の収縮が複合した力が成形品表面をキャビティ面から剥離させる力となる。これに抗して成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにするためには、ゲート28からキャビティ26に供給する溶融樹脂に加え続ける圧力P1を高くしなければならない。図5に示すようにゲート部で40MPa(末端部で16MPa)程度の圧力が得られる高い補充圧力を必要とする。
図3(b)は、成形品裏面へ加圧流体を注入するだけで成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにする技術に対応し、その技術では、相当大きな圧力で成形品を裏面から表面に向けて押付けおく必要がある。図5に示すように、18MPa程度の高い圧力で成形品を裏面から表面に向けて押付けおく必要がある。
図3(c)は、本実施例に対応し、溶融樹脂に圧力P1を加え続けるのと同時に、成形品裏面に加圧空気を注入する。空気の注入圧力は低くても成形品表面がキャビティ面22aから剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面24aから剥離することが保証されており、溶融樹脂に加える圧力P1を低下させることができる。図5に示すようにゲート部で20MPa(末端部で8MPa)程度の圧力を掛ければよい。
上記の数値は例示のためのものであり、本発明の技術範囲に定める要件ではない。また上記の説明は、推測理由の説明であって、本発明の技術はその推測理由に拘束されない。あくまで本発明の技術は、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する工程を同時に実施する技術である。
【0028】
溶融樹脂圧力保持工程は、加圧流体注入工程よりも先に終了させることができる。本実施例では、加圧流体注入工程を実施するために、成形品表面がキャビティ面から剥離しようとする力を低減することができる。成形品表面の強度が比較的に弱い段階で樹脂圧力保持工程を終了しても、成形品表面がキャビティ面から剥離することを禁止することができるために、樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化することができる。
樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化できるために、その後の工程を早いタイミングで実施できるようになる。図4において、破線は従来の技術による場合の工程実施タイミングを示す。本実施例によると、型開きタイミングを早めることができ、製品取出しタイミングを早めることができる。サイクルタイムが短縮化され、量産効率が増大する。
【0029】
本実施例によると、溶融樹脂圧力保持工程で必要な圧力をほぼ半減することができる。このために、成形品に貫通穴を成形する柱状部の左右を通過した溶融樹脂が柱状部の下流側で合流した境界が、樹脂圧力保持工程で移動することがなく、樹脂の合流境界が目立たない製品を成形することができる。このためには、合流境界の近傍に、加圧流体注入流路24gを形成しておくことが好ましい。
また、例えば、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから型を開くまでの間に、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面とそれに対向するキャビティ面を機械的な力で離させる工程を同時に実行するようにしてもよい。ノックアウトピン等を利用して、成形品表面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面をキャビティ面から剥離させればよい。
【0030】
(第2実施例)
本発明の射出成形技術に係る第2実施例について、図面を参照しながら説明する。
本第2実施例では、図6に示す射出成形装置50を用いて、第1実施例と同形状の成形品10(図1参照)を成形する。射出成形装置50は、金型51と加圧部52を備えている。図6では、金型51の成形品10の端部を成形する部分のみを図示している。金型51は、雌金型53と雄金型54を備えている。雄金型54は、中子59を持っている。雌金型53と雄金型54を組合せることによってキャビティ55が形成される。雌金型53のキャビティ面56は、成形品10の意匠面12に対応している。雄金型54のキャビティ面57は、成形品10の裏面14にほぼ対応している。金型51を開くときには、雌金型53と雄金型54を上下方向に分離する。
雄金型54には、一端が開口部60としてキャビティ面57に開口し、他端61が雄金型54の外面に開口する流体注入流路58が形成されている。開口部60には、ベント62が装着されている。ベント62には、キャビティ55と流体注入流路58を連通させる孔が設けられている。その連通孔の大きさは、キャビティ55に溶融樹脂が充填されたときに(射出されたときに)、樹脂が流体注入流路58に入り込まないように設定されている。
図6には図示されていないが、本第2実施例の射出成形装置50は、第1実施例の射出成形装置18と同様に、ランナー32、ノズル30、ゲート28から構成される樹脂射出部34を有している。
【0031】
加圧部52は、オートカプラ63、流体配管64、ソレノイドバルブ70、レギュレータ68、フィルタ67、タイマー部71、成形コントローラ72を備えている。オートカプラ63は、雄金型54の外面に固定されているとともに、流体注入流路58と接続されている。流体配管64の一端65は、オートカプラ63と接続されている。流体配管64の他端66には、加圧流体としての工場エアーが供給されている。フィルタ67、レギュレータ68、ソレノイドバルブ70は、流体配管64に介装されている。フィルタ67は、工場エアーに含まれている異物を取り除く。レギュレータ68は、供給された工場エアーを所定圧力(例えば、0.5MPa)に調圧する。ソレノイドバルブ70は、その通過流路を開閉する。ソレノイドバルブ70が開いているときには、金型51の流体注入流路58に、レギュレータ68によって調圧された加圧流体が供給される。ソレノイドバルブ70には、タイマー部71が接続されている。タイマー部71には、成形コントローラ72が接続されている。成形コントローラ72は、射出成形装置50を統合的に制御している。
成形コントローラ72は、金型51に溶融樹脂の射出が開始されたタイミングで、タイマー部71に射出開始信号を出力する。また、成形コントローラ72は、金型51を開く動作が開始されたタイミングで、型開信号をタイマー部71に出力する。さらに、成形コントローラ72は、金型51を閉じる動作が開始されたタイミングで、型閉信号をタイマー部71に出力する。
タイマー部71は、入力された射出開始信号と型開信号と型閉信号に基づいて、開信号または閉信号をソレノイド70に出力する(タイマー部71が開信号/閉信号を出力するタイミングについては、後述にて詳細に説明する)。
【0032】
射出成形装置50によって成形品10を成形する各工程と、その工程が進行するときのキャビティ55内の圧力の変化について、図7を参照しながら説明する。図7の下半分は、成形工程図である。図7の上半分はキャビティ55内の圧力を示すグラフである。成形工程図の横軸は、時間(秒)に対応している。その横軸の時間は、キャビティ内の圧力のグラフにも適用される。キャビティ内の圧力のグラフ中に示されている線Xは、ゲート28(図1、図2参照)近傍のキャビティ内圧力に対応している。線Yは、流体注入流路58の開口部60近傍のキャビティ内圧力に対応している。図7に記載されているA〜Dを付した三角形は、後述にて加圧流体の注入開始や注入停止のタイミングを詳細に説明するときに使用する。
図7に示すように、成形品10を成形する際には、最初に、雌金型53と雄金型54を組合せて金型51を型閉めする工程を行う。型閉工程が開始されたタイミングで型閉信号がソレノイドバルブ70に出力されることによって、ソレノイドバルブ70は閉じる。従って、金型51の流体注入流路58には、加圧空気が供給されない。次に、金型51内のキャビティ55にゲート28から溶融樹脂を射出する射出工程が行われる。
【0033】
射出された溶融樹脂は、キャビティ55に充填されて行く。射出が開始されると、ゲート28近傍のキャビティ内圧力(線X)は急激に60(MPa)程度まで上昇する。キャビティ55に溶融樹脂が射出されても、その圧力は直ぐにはキャビティ55の開口部60近傍に伝搬しない。従って、キャビティ55の開口部60近傍の圧力(Y線)が上昇を始めるのは、射出工程の終わりに近づいてからである。
射出された溶融樹脂は、キャビティ55内を流動する。図8はキャビティ55に射出された溶融樹脂74の先端(先頭部分)75(以下、「メルトフロント75」と言う)が流体注入流路58の開口部60を通過する前の状態を図示している。図9は、溶融した樹脂74のメルトフロント75が流体注入流路58の開口部60を通過した直後の状態を図示している。
【0034】
タイマー部71は、成形コントローラ72から型閉信号が入力されてから計時を行っている。そしてタイマー部71は、樹脂74のメルトフロント75が流体注入流路58の開口部60上を通過したタイミング(図7において、三角Bで示されているタイミング。以下、「注入タイミング」と言う)で、ソレノイドバルブ70に開信号を出力する。注入タイミングは、開口部60近傍のキャビティ面57の圧力を計測したデータや、樹脂74のキャビティ55内における流動解析結果等を用いて、メルトフロント75が開口部60を通過するタイミングを推定することによって、あらかじめ設定されている。射出開始信号が入力されてから計時を行い、それに基づいてソレノイドバルブ70に開信号を出力することもできる。
注入タイミングでソレノイドバルブ70が開くと、流体注入流路58に加圧流体としての空気が供給され、流体注入工程が開始される。このとき、開口部60近傍の樹脂74は凝固しておらず、この凝固していない樹脂74の裏面側にベント62から流体が注入され、樹脂74の裏面とキャビティ面57が剥離する。
図6には1つしか図示されていないが、キャビティ面57には、キャビティ55に流体を注入する開口部が複数設けられている。それら開口部が流体を注入するタイミングは、各開口部に連通する流体配管に介装されているソレノイドバルブがタイマー部71に制御されることによって、別々に調整される。
【0035】
図7に示すように、射出工程を終了してから、溶融樹脂圧力保持工程(保圧工程)に移行する。また、保圧工程とともに、冷却工程も開始され、キャビティ55内の温度が低下することで樹脂74の凝固が進行する。ベント62から流体が注入されているので、樹脂74の裏面がキャビティ面57と剥離した状態で樹脂74が凝固する。保圧工程が終了しても、流体注入工程と冷却工程は継続される。そして、流体注入工程と冷却工程は同時に終了される。
ゲート28近傍のキャビティ内圧力(線X)は、保圧工程に移行すると急激に低下し、冷却工程が終了するまで約35(MPa)を維持する。開口部60近傍のキャビティ内圧力は、保圧工程が開始されても上昇を続け、保圧工程の中程でピーク(約10(MPa))を付け、その後下降して、保圧工程が終了してからゼロに戻る。このように、開口部60近傍のキャビティ内圧力は、一旦は加圧流体の圧力(0.5(MPa))をよりも高くなる。開口部60近傍のキャビティ内圧力が加圧流体の圧力(0.5(MPa))よりも高くなっても、樹脂74が凝固することによって収縮するので、樹脂74の裏面とキャビティ面57は間もなく剥離する。
図10は、流体注入工程が終了したタイミング(図7の三角D)における樹脂74の状態を図示している。樹脂74の裏面が剥離しており、樹脂の表面は雌金型53のキャビティ面56に確実に密着している。図6に示すように、雄金型54が中子59を持っていることによって段差69が存在しても、樹脂74の裏面が剥離した状態で凝固が進行するので、段差69によって樹脂74の裏面に段差部が形成されることがない。よって、樹脂74の裏面に段差部が形成されてしまい、その影響が意匠面12におよぶこともない(段差部に対応する歪みが意匠面12に発生することがない)。よって、成形品10の意匠面12は良好に成形される。
流体注入工程と冷却工程が終了するタイミングで、タイマー部71はソレノイドバルブ70に閉信号を出力する。ソレノイドバルブ70が閉じると、キャビティ55への加圧流体の供給が停止される。流体注入工程と冷却工程が終了してから、型開き工程に移行して金型51を開く。図14は、金型51が開かれた状態を図示している。
最後に製品取出工程を実行して成形品10を金型51から取り出す。
【0036】
上述したように、樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過した直後のタイミング(注入タイミング)で流体を樹脂74の裏側に注入することで、良好な意匠面12を持つ成形品10を成形することができる。それに対して、図11に示すように、溶融した樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過するよりも前のタイミング(図7の三角A)でキャビティ55に流体を注入すると、メルトフロント75に流体が吹き込まれる。このため、成形品10にフローマークが発生してしまう。
キャビティ55に充填された樹脂74は、冷却工程が進行すると、凝固する過程で収縮する。冷却工程が進行したタイミング(図7の三角C)、すなわち樹脂74が収縮を開始してから樹脂74の裏側に流体を注入しても、成形品10の意匠面12が歪んでしまう。具体的には、図12に示すように、流体が樹脂74の裏面側に十分に入り込む前に収縮が起こってしまい、成形品10の意匠面12と裏面14に歪み77が発生してしまう。
樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過した直後のタイミング(注入タイミング、図7の三角B)で流体の注入を開始しても、早目に(例えば、図7の三角C)で流体の注入を中止すると、樹脂74が凝固している途中なので、成形品10が良好に成形されない。詳しくは、図13に示されているように、成形品10の意匠面12が良好に形成される範囲F(流体注入の効果がある範囲)が狭くなってしまう。
【0037】
発明者は、樹脂74の裏側に流体を注入した状態で、保圧時間とキャビティ55内の圧力とを様々に変化させて成形品10を成形してみた。図15は、その結果を示している。図15の横軸は保圧時間(保圧工程を実行した時間)(秒)に対応している。縦軸は、キャビティ55の端末部(開口部60近傍)内の圧力(MPa)に対応している。なお、このキャビティ内圧力は保圧状態におけるものである。
図13中の「○」は、成形品10が良好に成形されたポイントを示している。「1」を付した「×」は、成形品10にバリが発生してしまったポイントを示している。「2」を付した「×」は、成形品10にボイドが発生してしまったポイントを示している。「3」を付した「×」は、成形品10の意匠面12に歪みが発生してしまったポイントを示している。従って、領域「J」、領域「K」、領域「L」では成形品10を良好に成形することが出来ない。
これに対して、太い線のハッチングで示されている領域Gと、細い線のハッチングで示されている領域Hで保圧時間とキャビティ内圧力を組み合わせれば、良好な成形品10を成形することができる。
従来のように樹脂74の裏側に流体を注入しない場合には、領域Gでしか良好な成形品10を成形することができなかった。すなわち、従来においては、保圧時間を最低でも8(秒)必要としていたのに、それを3(秒)まで短くしても良好な成形品10を成形することが可能になった。保圧時間が短くなると、成形時間が短縮されるので、単位時間当りにより多くの成形を行うことができる。また、従来においては、キャビティ内圧力を最低でも20(MPa)必要としていたのに、それを10(MPa)まで低下させても良好な成形品10を成形することが可能になった。キャビティ内圧力を低下させることできると、型締め圧力を強くしなくても、より大きな成形品を成形することが可能になる。
上述した数値は例示のためのものであり、本発明の技術範囲に定める要件ではない。また上述した説明は、推測理由の説明であって、本発明の技術はその推測理由に拘束されない。
【0038】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例の技術で成形する成形品の一例を斜視した図。
【図2】第1実施例の射出成形装置の概略断面図。
【図3】成形品表面がキャビティ面から剥離する様子を説明する図。
【図4】第1実施例の工程図を従来と対比して説明する図。
【図5】実施例で必要な圧力を従来と対比して説明する図。
【図6】第2実施例の射出成形装置の概略断面図。
【図7】射出成形の各工程と、キャビティ内圧力の変化を説明する図。
【図8】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図9】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図10】流体注入工程終了時におけるキャビティ内の樹脂の状態を説明する図。
【図11】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図12】成形品が成形された状態を説明する図。
【図13】成形品が成形された状態を説明する図。
【図14】成形品が成形された状態を説明する図。
【図15】保圧時間とキャビティ内圧力を変化させて射出成形を行った結果を説明する図。
【符号の説明】
【0040】
10:成形品
12:意匠面
14:裏面
16:貫通穴
18:射出成形装置
20:金型
22:雌金型
22a:キャビティ面
24:雄金型
24a:キャビティ面
24b:柱状部
24c,24e:開口
24d,24f,24g:注入流路
26:キャビティ
28:ゲート
30:ノズル
32:ランナー
34:樹脂射出部
36c,36e:ベント
38:流体配管
40:バルブ
42:ポンプ
44:流体注入部
50:射出成形装置
51:金型
52:加圧部
53:雌金型
54:雄金型
55:キャビティ
56、57:キャビティ面
58:流体注入流路
59:中子
60:開口部
61:他端
62:ベント
63:オートカプラ
64:流体配管
65:一端
66:他端
67:フィルタ
68:レギュレータ
69:段差
70:ソレノイドバルブ
71:タイマー部
72:成形コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形方法では、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し、充填した溶融樹脂が凝固したら型を開けて成形品を取出す。
多くの樹脂は凝固するときに収縮する。キャビティに充填した溶融樹脂が収縮して凝固すると、成形品の外形形状がキャビティの形状からずれてしまい、成形品の外形を意図した形状に成形することができない。
【0003】
これに対策するために、キャビティに充填した溶融樹脂が凝固するまでの間、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続け、溶融樹脂が収縮する分だけ溶融樹脂を補充する技術が開発されている。これによると、溶融樹脂が収縮しても成形品外面がキャビティ面から剥離することが防止され、意図した外形を有する成形品を射出成形することができる。
【0004】
特許文献1に、これに代わる技術が開示されている。特許文献1の技術では、多くの成形品には意図した表面形状に仕上げる必要がある面(これを意匠面という)と、表面形状が重視されない面(これを裏面という)があることに着目し、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し終えたら樹脂に圧力を加えることを止め、その代わりに成形品の裏面に加圧流体を注入する。成形品の裏面に加圧流体を注入すると、成形品の裏面がキャビティ面から剥離する一方、成形品の意匠面はキャビティ面に押付けられる。このために、成形品の意匠面を意図した表面形状に仕上げることができる。特許文献1の技術では、キャビティに溶融樹脂を充填し終えたら樹脂に圧力を加えることを止めるので、余分な樹脂が必要とされないと説明している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キャビティに充填した溶融樹脂が凝固するまでの間、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続ける技術によって良好な成形品を成形しようとすると、高い圧力を加え続ける必要がある。例えば自動車のバンパを成形しようとすると、収縮が問題となる末端部位(ゲートから遠い部位をいう)で16MPa程度の圧力を加え続ける必要があり、そのためにはゲート近傍で40MPa程度の圧力を加え続ける必要がある。このために、バンパ成形型には40MPa以上の耐圧が必要とされ、大型で高価な射出成形型が必要とされる。
ゲートから供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることに代えて、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術によって良好な成形品を成形する場合でも、高い流体圧力が必要とされる。特許文献1の技術でも、18MPa程度の加圧流体を注入する。射出成形型には18MPa以上の耐圧が必要とされ、大型で高価な射出成形型が必要とされる。
【0007】
本発明は、成形品の意匠面を意図した表面形状に射出成形するために必要とされる圧力を低減し、射出成形型に必要とされる耐圧を低減し、射出成形型の小型化と射出成形型の製造コストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
射出成形方法では、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填し、溶融樹脂が凝固してから型を開く。
本発明で創作された射出成形方法では、キャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する加圧流体注入工程を同時に実行する。
【0009】
本射出成形方法は、手法の上からみると、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることによって収縮分を補充する技術と、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術の両者を実行するものである。本射出成形方法では、両者を同時に実行することによって予期せぬ相乗作用を得ることに成功し、意図した意匠面形状に成形するのに必要な圧力を大幅に低減するのに成功した。先に例示したケースでは、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けて収縮分を補充する技術だけによる場合には末端部で16MPa程度の圧力が必要とされ、成形品の裏面に加圧流体を注入する技術だけによる場合には18MPa程度の圧力が必要とされていたのに対し、両者を同時に実行すると、溶融樹脂の補充圧力は8MPa程度と半減でき、加圧流体の注入圧力についてはわずか1MPa程度の圧力で足りるようになる。溶融樹脂の補充圧力と、加圧流体の注入圧力の両者とも低くてよく、両者とも低い条件の中で成形品の意匠面を意図した表面形状に成形することができる。なお上記圧力値は例示のためのものであり、発明の技術的範囲を制約するものではない。
【0010】
溶融樹脂の補充と成形品裏面への加圧流体の注入を同時に実行することによって、意匠面を意図した形状に射出成形するのに必要な圧力を低減できる推測理由を下記に示す。ただし、本発明の技術はその推測理由によって制約されるものでなく、あくまで特許請求の範囲に記載されている客観的要件に従う。
成形品の裏面側では、樹脂が冷却されて収縮するにつれ、ゲートから樹脂に掛けられている圧力が伝達し難くなり、樹脂全体に作用する圧力が低下していく。樹脂全体に作用する圧力が、成形品の裏面に向けて開口する流路に存在する流体に加えられている圧力よりも低下すると、加圧流体が成形品裏面とキャビティ面の間に浸入し始め、成形品裏面をキャビティ面から剥離させる。この結果、成形品裏面はキャビティ面を転写したものに仕上がらないが、成形品の裏面形状は製品性能に影響しないために、問題にはならない。樹脂の収縮に伴って、成形品の裏面近傍の圧力が低下するため、低圧の加圧流体が成形品裏面とキャビティ面の間に容易に浸入することができる。樹脂の収縮に伴って、成形品の意匠面近傍の圧力も低下するが、意匠面がキャビティ面から剥離しない間に、成形品裏面とキャビティ面の間に加圧流体が入り込み、成形品裏面とキャビティ面から剥離させる。
成形品の裏面がキャビティ面から剥離した後においても、成形品の意匠面形状が固定されるまでの間は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しないように、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続ける。このとき、キャビティ面から剥離した成形品の裏面が成形品の意匠面に向けて接近して厚みを減じるように収縮できるために、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に加え続ける圧力を従来技術よりも低くしても、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離することを禁止することができる。
【0011】
キャビティに溶融樹脂を充填し終えた後、溶融樹脂圧力保持工程と加圧流体注入工程を同時に開始することが好ましい。
キャビティに溶融樹脂を充填し終えた後、時間間隔をおいてから両工程を開始してもよいが、キャビティに溶融樹脂を充填し終えたタイミングに引続いて、溶融樹脂圧力保持工程と加圧流体注入工程を同時に開始することが好ましい。この場合、無駄な成形時間を必要としない。
あるいは、キャビティに溶融樹脂を充填し終えるのを待たないで、加圧流体注入工程を開始するようにしてもよい。キャビティに溶融樹脂を充填する際には、溶融樹脂がキャビティ内を流動し、溶融樹脂の先端が移動していく。キャビティに溶融樹脂を充填し終えるのを待たないで加圧流体注入工程を開始する場合には、キャビティ内を移動してゆく溶融樹脂の先端が、加圧流体を注入する流路の開口を通過した後に、加圧流体注入工程を開始することが好ましい。この場合、溶融樹脂の先端が開口を通過した後であって溶融樹脂の収縮が開始する前に、加圧流体注入工程を開始することが好ましい。
この場合、成形品の裏面がそれに対向するキャビティ面から剥離した状態で、溶融樹脂の凝固を進行させることができ、意匠面が意図した形状に仕上げられる。
成形品の裏面に対向するキャビティ面は、複数個に分割された成形型を組合わせて形成されていることがあり、その組合せ部位に段差が生じることがある。裏面といえどもキャビティ面に段差が存在していると、成形品の厚みが急変することから収縮が一様に進行せず、キャビティの意匠面が平坦であっても、成形品の意匠面に裏面の段差に対応する歪が現れることがある。本射出成形方法によると、成形品の厚みに裏面側キャビティ面の段差が影響せず、段差歪の発生が抑えられる。
【0012】
溶融樹脂圧力保持工程を終了した後に、加圧流体注入工程を継続して実行することが好ましい。
加圧流体注入工程を継続すると、成形品の意匠面側で樹脂が収縮しても、その収縮によって意匠面がキャビティ面から剥離することがない。すなわち、成形品裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入するために、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しづらい状態を維持することができる。これによって樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化することができ、サイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【0013】
溶融樹脂圧力保持工程において溶融樹脂に加える圧力と、加圧流体注入工程において加圧流体を介して溶融樹脂に加える圧力とによって、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離されない状態を形成することが好ましい。
樹脂圧力と流体圧力のそれぞれは低くても、それらが複合して作用することによって、意匠面がキャビティ面から剥離することを抑制できる圧力であることが好ましい。
特に、樹脂圧力保持工程で加える圧力は、同時に加圧流体注入工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できない圧力であり、加圧流体注入工程で加える圧力は、同時に樹脂圧力保持工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できない圧力であることが好ましい。
本技術によると、同時に加圧流体注入工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できないほど低い樹脂圧力で足りる。また、同時に樹脂圧力保持工程を実施しなければ成形品表面とキャビティ面が剥離することを禁止できないほど低い圧力の加圧流体を注入すれば足りる。両者の特徴を生かし、両者とも低い圧力で実施することが可能となる。
【0014】
本射出成形方法は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証することと、ゲートからキャビティに供給する溶融樹脂に圧力を加え続けることを組合せて利用することによって、相乗作用を得るものである。成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する手法は、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証する一つの手法であって、それには限られない。
本射出方法は、一般化していえば、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面とそれに対向するキャビティ面を剥離させる工程とを同時に実行することを特徴とする射出成形方法であるということができる。
ノックアウトピン等を利用して機械的に成形品裏面をキャビティ面から剥離させるようにし、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面から剥離することを保証するようにしてもよい。
【0015】
本発明は、射出成形装置に具現化することもできる。この射出成形装置は、ゲートと、キャビティと、成形品の裏面に向けて開口するとともに開口部にベントを備えている流路を有する射出成形型を利用する。ここでいうベントとは、溶融樹脂の通過を禁止し、それよりも低粘性の流体の通過を許容するものであり、金型からのガス抜き等の目的で通常利用されているものである。
本発明で具現化された射出成形装置は、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから後もゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける手段と、前記流路から加圧流体を注入する手段を備えている。
本射出成形装置によると、溶融樹脂に加える圧力と流路から注入する流体の圧力をともに下げても、成形品の表面形状を意図して形状に成形することができる。射出成形型に必要な耐圧を下げることができる。従って、射出成形型の小型化と射出成形型の製造コストを低減することができる。
【0016】
貫通穴を持つ成形品を射出成形する場合、貫通穴を成形するための柱状部がキャビティ内に形成されている射出成形型を用いる。キャビティ内に柱状部が形成されていると、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、その柱状部の左右を通過した溶融樹脂が柱状部の下流側で合流する。この場合、加圧流体を注入する流路の開口部を、合流する樹脂の境界の近傍に形成しておくことが好ましい。
【0017】
2以上の樹脂の流れが合流する境界では、内部ウエルドと称する成形欠陥が発生しやすい。この成形欠陥は、キャビティに溶融樹脂を充填してから後に溶融樹脂に加え続ける圧力が高いほど発生しやすい。溶融樹脂に加え続ける圧力が高いほど、境界の左右の圧力差が大きくなり、境界が移動しやすくなるからである。境界が移動すると内部ウエルドが発生しやすい。内部ウエルドの発生を抑えるためには、溶融樹脂に加え続ける圧力を低下させるのが有効であるが、そうすると、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離しやすくなってしまう。表面形状の精度を確保しながら内部ウエルドの発生を抑制することができる技術がなく、随分と苦労している。本装置は、この問題を解決する。
2以上の樹脂の流れが合流する境界の近傍に加圧流体の注入流路を設けておけば、意匠面の形状精度を確保するために溶融樹脂に加え続ける圧力を下げることができ、それによって内部ウエルドの発生を抑制することができる。
さらには、加圧流体注入手段は、キャビティに充填した溶融樹脂が流動して流路の開口部上を通過してから、加圧流体の注入を開始することが好ましい。
このような射出成形装置によれば、成形品の裏面がそれに対向するキャビティ面から剥離した状態で溶融樹脂の凝固を進行させることができ、意匠面を意図した形状に仕上げることができる。成形品の裏面に対向するキャビティ面に段差があっても、成形品の意匠面に段差歪が現れないようすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
(形態1) 射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、充填しづらい末端部に、加圧流体注入流路の開口を設ける。
(形態2) 注入流路の開口は、成形品の裏面に対向する位置に、分散配置する。
(形態3) キャビティの末端部に充填された樹脂の圧力が、樹脂圧力保持工程によって上昇するよりも早いタイミングで、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態4) キャビティの末端部に充填された樹脂の圧力が、樹脂圧力保持工程によって上昇し、その後に冷却されて低下するのを待って、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態5) キャビティに溶融樹脂が充填され終えるのを待たないで、成形品裏面に加圧流体を注入する。
(形態6) キャビティに充填された溶融樹脂が加圧流体を噴出す開口を通過する時間を予め計測しておき、その時間が経過したときに加圧流体を注入し始める。
(形態7) 加圧流体は、加圧空気である。
(形態8) 加圧空気には、工場に既設されている空気源から供給される工場エアーを用いる。新規な設備を必要としない。
【実施例】
【0019】
(第1実施例)
本発明の射出成形技術に係る第1実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本実施例の射出成形技術によって成形する成形品の部分斜視図であり、図2は本実施例の射出成形装置の概略断面図であり、図3は本実施例の射出成形方法と従来の射出成形方法を比較する図であり、図4は本実施例の射出成形方法の工程図であり、図5は本実施例の射出成形方法と従来の射出成形方法で必要とされる圧力を対比して示す図である。
【0020】
図1に示す成形品10は、図2に示す射出成形装置18によって射出成形される樹脂成形品であり、典型例として、自動車の樹脂バンパ用の成形品が例示される。
成形品10において、面12は意図した表面形状に精密に仕上げる必要がある意匠面(表面)であり、面14は表面形状が重視されない裏面である。成形品10には表裏を貫通する穴16が成形される。
【0021】
図2は、射出成形装置18の金型20の、図1の成形品10のII−II線に対応する位置での断面を示す。金型20は、成形品10の意匠面12を成形するための雌金型22と、成形品10の裏面14を成形するための雄金型24とを有している。雌金型22と雄金型24を組合せることによって形成されるキャビティ26の形状は、得ようとする成形品10の形状に対応している。即ち、雌金型22のキャビティ面22aと成形品10の意匠面12が正確に対応しており、雄金型24のキャビティ面24aと成形品10の裏面14がほぼ対応している。雄金型24には、キャビティ面24aからキャビティ面22aに向かって伸びる柱状部24bが形成されている。柱状部24bはキャビティ面22aに当接している。柱状部24bの形状は、図1の成形品10に成形される貫通穴16の形状に対応している。
【0022】
雌金型22には、雌金型22の外部とキャビティ面24aを連通するゲート28が形成されている。ゲート28が雄金型24の外部に開口する箇所に、ランナー32のノズル30が取付けられている。ゲート28とノズル30とランナー32は、樹脂射出部34を構成している。ランナー32が所定の圧力で溶融樹脂を押出すために、溶融樹脂はゲート28からキャビティ26に充填される。
【0023】
雄金型24には、雄金型24の外部とキャビティ面24aを連通する2本の流体注入流路24d,24fが形成されている。流体注入流路24d,24fはキャビティ面24aに開口し、その開口部24c,24eは、ゲート28からキャビティ26に溶融樹脂を充填する際に、溶融樹脂を充填しづらい末端部に設けられている。開口部24c,24eには、ベント36c,36eが取付けられている。ベント36c,36eは、溶融樹脂は通過させないが空気は通過させる径の小孔を有している。さらに、第3の流体注入流路24gが設けられている。流体注入流路24gの開口は、溶融樹脂をゲート28からキャビティ26に充填する際に、貫通穴16を成形する柱状部24bの左右を通過した溶融樹脂が、柱状部24bの下流で合流する位置に形成されている。流体注入流路24gの開口部にもベントが取付けられている。
流体注入流路24d,24f,24gが雄金型24の外部に開口する箇所に、流体配管38が接続されている。流体配管38の一端には、流体を加圧して送出すポンプ42が接続されており、流体配管38の途中には流体の流量と圧力を調整するバルブ40が設けられている。バルブ40は、ポンプ42が供給する空気の圧力を0.5MPaに調圧する。バルブ40の開度は、図示しない制御装置によって制御される。ポンプ42が送出す加圧流体(この実施例では空気)は、バルブ40で0.5MPaに調圧され、流体配管38と流体注入流路24d,24f,24gから、キャビティ26に注入される。流体注入流路24d,24f,24gの開口部は、雄金型24側に用意されており、成形品の裏面に向けて0.5MPaに調圧された加圧空気を送出す。
【0024】
上記の射出成形装置18による射出成形方法の工程図を図4を参照して説明する。
最初に雌金型22と雄金型24とを合せ、金型20を閉じる。このとき流体注入部44のバルブ40は閉じておく。この状態で、樹脂射出部34のランナー32から約50MPaの射出圧で溶融樹脂を押出す。押出された溶融樹脂はノズル30を経てゲート28からキャビティ26に充填されていく。柱状部24bの近傍では、溶融樹脂が柱状部24bの左右を通過し、柱状部24bの下流位置で合流する。
溶融樹脂がキャビティ26に充填し終えたら、ランナー32の射出圧を20MPaまで降下させ、溶融樹脂圧力保持工程に移行する。
キャビティ26に溶融樹脂を充填し終ったタイミング、すなわち、樹脂圧力保持工程の開始タイミングで、流体注入部44のバルブ40を開き、0.5MPaに加圧した空気を流体注入流路24d、24f、24gに導く。
【0025】
ゲート28からキャビティ26内の溶融樹脂に加えられている圧力と、流体注入流路24d、24f、24gに加えられている加圧流体の圧力の関係から、下記の事象が存在する。
流体注入流路24d、24f、24gに加圧流体が導入されたときのキャビティ26内の溶融樹脂の圧力が加圧流体の圧力よりも高いため、溶融樹脂が凝固するのにともなって樹脂圧力が低下し、樹脂圧力が流体圧力よりも低くなった時に、成形品の裏面側に加圧流体が注入される。
成形品の裏面側に流体注入流路24d、24f、24gから加圧流体が注入されるために、成形品の表面側がキャビティ面22aから剥離することがなく、その前に成形品の裏面がキャビティ面24aから剥離する。
【0026】
キャビティ26に充填した溶融樹脂は冷却されて収縮する。このとき、成形品の裏面に加圧流体を注入するのと同時に、ランナー32から約20MPaの圧力を加え続ける。図5に示すように、ランナー32から約20MPaの圧力を加え続けると、末端部の樹脂圧力は約8MPa程度となる。
この樹脂圧力は、図5の従来技術1に示す従来の樹脂圧力保持技術による場合の約半分であり、低い樹脂圧力である。
【0027】
図3は、本実施例の射出成形技術を従来の射出成形技術と対比して説明する図である。(a)は、ゲート28からキャビティ26に供給する溶融樹脂に圧力P1を加え続けて樹脂の収縮分を補充する技術だけで成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにする技術に対応する。先に成形品裏面がキャビティ面から剥離することが保証されておらず、成形品表面がキャビティ面から先に剥離することがありえる。この場合、成形品裏面側の収縮と成形品表面側の収縮が複合した力が成形品表面をキャビティ面から剥離させる力となる。これに抗して成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにするためには、ゲート28からキャビティ26に供給する溶融樹脂に加え続ける圧力P1を高くしなければならない。図5に示すようにゲート部で40MPa(末端部で16MPa)程度の圧力が得られる高い補充圧力を必要とする。
図3(b)は、成形品裏面へ加圧流体を注入するだけで成形品表面がキャビティ面から剥離しないようにする技術に対応し、その技術では、相当大きな圧力で成形品を裏面から表面に向けて押付けおく必要がある。図5に示すように、18MPa程度の高い圧力で成形品を裏面から表面に向けて押付けおく必要がある。
図3(c)は、本実施例に対応し、溶融樹脂に圧力P1を加え続けるのと同時に、成形品裏面に加圧空気を注入する。空気の注入圧力は低くても成形品表面がキャビティ面22aから剥離するよりも前に成形品裏面がキャビティ面24aから剥離することが保証されており、溶融樹脂に加える圧力P1を低下させることができる。図5に示すようにゲート部で20MPa(末端部で8MPa)程度の圧力を掛ければよい。
上記の数値は例示のためのものであり、本発明の技術範囲に定める要件ではない。また上記の説明は、推測理由の説明であって、本発明の技術はその推測理由に拘束されない。あくまで本発明の技術は、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する工程を同時に実施する技術である。
【0028】
溶融樹脂圧力保持工程は、加圧流体注入工程よりも先に終了させることができる。本実施例では、加圧流体注入工程を実施するために、成形品表面がキャビティ面から剥離しようとする力を低減することができる。成形品表面の強度が比較的に弱い段階で樹脂圧力保持工程を終了しても、成形品表面がキャビティ面から剥離することを禁止することができるために、樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化することができる。
樹脂圧力保持時間を大幅に短縮化できるために、その後の工程を早いタイミングで実施できるようになる。図4において、破線は従来の技術による場合の工程実施タイミングを示す。本実施例によると、型開きタイミングを早めることができ、製品取出しタイミングを早めることができる。サイクルタイムが短縮化され、量産効率が増大する。
【0029】
本実施例によると、溶融樹脂圧力保持工程で必要な圧力をほぼ半減することができる。このために、成形品に貫通穴を成形する柱状部の左右を通過した溶融樹脂が柱状部の下流側で合流した境界が、樹脂圧力保持工程で移動することがなく、樹脂の合流境界が目立たない製品を成形することができる。このためには、合流境界の近傍に、加圧流体注入流路24gを形成しておくことが好ましい。
また、例えば、射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから型を開くまでの間に、ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける工程と、成形品の裏面とそれに対向するキャビティ面を機械的な力で離させる工程を同時に実行するようにしてもよい。ノックアウトピン等を利用して、成形品表面がキャビティ面から剥離するよりも前に成形品裏面をキャビティ面から剥離させればよい。
【0030】
(第2実施例)
本発明の射出成形技術に係る第2実施例について、図面を参照しながら説明する。
本第2実施例では、図6に示す射出成形装置50を用いて、第1実施例と同形状の成形品10(図1参照)を成形する。射出成形装置50は、金型51と加圧部52を備えている。図6では、金型51の成形品10の端部を成形する部分のみを図示している。金型51は、雌金型53と雄金型54を備えている。雄金型54は、中子59を持っている。雌金型53と雄金型54を組合せることによってキャビティ55が形成される。雌金型53のキャビティ面56は、成形品10の意匠面12に対応している。雄金型54のキャビティ面57は、成形品10の裏面14にほぼ対応している。金型51を開くときには、雌金型53と雄金型54を上下方向に分離する。
雄金型54には、一端が開口部60としてキャビティ面57に開口し、他端61が雄金型54の外面に開口する流体注入流路58が形成されている。開口部60には、ベント62が装着されている。ベント62には、キャビティ55と流体注入流路58を連通させる孔が設けられている。その連通孔の大きさは、キャビティ55に溶融樹脂が充填されたときに(射出されたときに)、樹脂が流体注入流路58に入り込まないように設定されている。
図6には図示されていないが、本第2実施例の射出成形装置50は、第1実施例の射出成形装置18と同様に、ランナー32、ノズル30、ゲート28から構成される樹脂射出部34を有している。
【0031】
加圧部52は、オートカプラ63、流体配管64、ソレノイドバルブ70、レギュレータ68、フィルタ67、タイマー部71、成形コントローラ72を備えている。オートカプラ63は、雄金型54の外面に固定されているとともに、流体注入流路58と接続されている。流体配管64の一端65は、オートカプラ63と接続されている。流体配管64の他端66には、加圧流体としての工場エアーが供給されている。フィルタ67、レギュレータ68、ソレノイドバルブ70は、流体配管64に介装されている。フィルタ67は、工場エアーに含まれている異物を取り除く。レギュレータ68は、供給された工場エアーを所定圧力(例えば、0.5MPa)に調圧する。ソレノイドバルブ70は、その通過流路を開閉する。ソレノイドバルブ70が開いているときには、金型51の流体注入流路58に、レギュレータ68によって調圧された加圧流体が供給される。ソレノイドバルブ70には、タイマー部71が接続されている。タイマー部71には、成形コントローラ72が接続されている。成形コントローラ72は、射出成形装置50を統合的に制御している。
成形コントローラ72は、金型51に溶融樹脂の射出が開始されたタイミングで、タイマー部71に射出開始信号を出力する。また、成形コントローラ72は、金型51を開く動作が開始されたタイミングで、型開信号をタイマー部71に出力する。さらに、成形コントローラ72は、金型51を閉じる動作が開始されたタイミングで、型閉信号をタイマー部71に出力する。
タイマー部71は、入力された射出開始信号と型開信号と型閉信号に基づいて、開信号または閉信号をソレノイド70に出力する(タイマー部71が開信号/閉信号を出力するタイミングについては、後述にて詳細に説明する)。
【0032】
射出成形装置50によって成形品10を成形する各工程と、その工程が進行するときのキャビティ55内の圧力の変化について、図7を参照しながら説明する。図7の下半分は、成形工程図である。図7の上半分はキャビティ55内の圧力を示すグラフである。成形工程図の横軸は、時間(秒)に対応している。その横軸の時間は、キャビティ内の圧力のグラフにも適用される。キャビティ内の圧力のグラフ中に示されている線Xは、ゲート28(図1、図2参照)近傍のキャビティ内圧力に対応している。線Yは、流体注入流路58の開口部60近傍のキャビティ内圧力に対応している。図7に記載されているA〜Dを付した三角形は、後述にて加圧流体の注入開始や注入停止のタイミングを詳細に説明するときに使用する。
図7に示すように、成形品10を成形する際には、最初に、雌金型53と雄金型54を組合せて金型51を型閉めする工程を行う。型閉工程が開始されたタイミングで型閉信号がソレノイドバルブ70に出力されることによって、ソレノイドバルブ70は閉じる。従って、金型51の流体注入流路58には、加圧空気が供給されない。次に、金型51内のキャビティ55にゲート28から溶融樹脂を射出する射出工程が行われる。
【0033】
射出された溶融樹脂は、キャビティ55に充填されて行く。射出が開始されると、ゲート28近傍のキャビティ内圧力(線X)は急激に60(MPa)程度まで上昇する。キャビティ55に溶融樹脂が射出されても、その圧力は直ぐにはキャビティ55の開口部60近傍に伝搬しない。従って、キャビティ55の開口部60近傍の圧力(Y線)が上昇を始めるのは、射出工程の終わりに近づいてからである。
射出された溶融樹脂は、キャビティ55内を流動する。図8はキャビティ55に射出された溶融樹脂74の先端(先頭部分)75(以下、「メルトフロント75」と言う)が流体注入流路58の開口部60を通過する前の状態を図示している。図9は、溶融した樹脂74のメルトフロント75が流体注入流路58の開口部60を通過した直後の状態を図示している。
【0034】
タイマー部71は、成形コントローラ72から型閉信号が入力されてから計時を行っている。そしてタイマー部71は、樹脂74のメルトフロント75が流体注入流路58の開口部60上を通過したタイミング(図7において、三角Bで示されているタイミング。以下、「注入タイミング」と言う)で、ソレノイドバルブ70に開信号を出力する。注入タイミングは、開口部60近傍のキャビティ面57の圧力を計測したデータや、樹脂74のキャビティ55内における流動解析結果等を用いて、メルトフロント75が開口部60を通過するタイミングを推定することによって、あらかじめ設定されている。射出開始信号が入力されてから計時を行い、それに基づいてソレノイドバルブ70に開信号を出力することもできる。
注入タイミングでソレノイドバルブ70が開くと、流体注入流路58に加圧流体としての空気が供給され、流体注入工程が開始される。このとき、開口部60近傍の樹脂74は凝固しておらず、この凝固していない樹脂74の裏面側にベント62から流体が注入され、樹脂74の裏面とキャビティ面57が剥離する。
図6には1つしか図示されていないが、キャビティ面57には、キャビティ55に流体を注入する開口部が複数設けられている。それら開口部が流体を注入するタイミングは、各開口部に連通する流体配管に介装されているソレノイドバルブがタイマー部71に制御されることによって、別々に調整される。
【0035】
図7に示すように、射出工程を終了してから、溶融樹脂圧力保持工程(保圧工程)に移行する。また、保圧工程とともに、冷却工程も開始され、キャビティ55内の温度が低下することで樹脂74の凝固が進行する。ベント62から流体が注入されているので、樹脂74の裏面がキャビティ面57と剥離した状態で樹脂74が凝固する。保圧工程が終了しても、流体注入工程と冷却工程は継続される。そして、流体注入工程と冷却工程は同時に終了される。
ゲート28近傍のキャビティ内圧力(線X)は、保圧工程に移行すると急激に低下し、冷却工程が終了するまで約35(MPa)を維持する。開口部60近傍のキャビティ内圧力は、保圧工程が開始されても上昇を続け、保圧工程の中程でピーク(約10(MPa))を付け、その後下降して、保圧工程が終了してからゼロに戻る。このように、開口部60近傍のキャビティ内圧力は、一旦は加圧流体の圧力(0.5(MPa))をよりも高くなる。開口部60近傍のキャビティ内圧力が加圧流体の圧力(0.5(MPa))よりも高くなっても、樹脂74が凝固することによって収縮するので、樹脂74の裏面とキャビティ面57は間もなく剥離する。
図10は、流体注入工程が終了したタイミング(図7の三角D)における樹脂74の状態を図示している。樹脂74の裏面が剥離しており、樹脂の表面は雌金型53のキャビティ面56に確実に密着している。図6に示すように、雄金型54が中子59を持っていることによって段差69が存在しても、樹脂74の裏面が剥離した状態で凝固が進行するので、段差69によって樹脂74の裏面に段差部が形成されることがない。よって、樹脂74の裏面に段差部が形成されてしまい、その影響が意匠面12におよぶこともない(段差部に対応する歪みが意匠面12に発生することがない)。よって、成形品10の意匠面12は良好に成形される。
流体注入工程と冷却工程が終了するタイミングで、タイマー部71はソレノイドバルブ70に閉信号を出力する。ソレノイドバルブ70が閉じると、キャビティ55への加圧流体の供給が停止される。流体注入工程と冷却工程が終了してから、型開き工程に移行して金型51を開く。図14は、金型51が開かれた状態を図示している。
最後に製品取出工程を実行して成形品10を金型51から取り出す。
【0036】
上述したように、樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過した直後のタイミング(注入タイミング)で流体を樹脂74の裏側に注入することで、良好な意匠面12を持つ成形品10を成形することができる。それに対して、図11に示すように、溶融した樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過するよりも前のタイミング(図7の三角A)でキャビティ55に流体を注入すると、メルトフロント75に流体が吹き込まれる。このため、成形品10にフローマークが発生してしまう。
キャビティ55に充填された樹脂74は、冷却工程が進行すると、凝固する過程で収縮する。冷却工程が進行したタイミング(図7の三角C)、すなわち樹脂74が収縮を開始してから樹脂74の裏側に流体を注入しても、成形品10の意匠面12が歪んでしまう。具体的には、図12に示すように、流体が樹脂74の裏面側に十分に入り込む前に収縮が起こってしまい、成形品10の意匠面12と裏面14に歪み77が発生してしまう。
樹脂74のメルトフロント75が開口部60を通過した直後のタイミング(注入タイミング、図7の三角B)で流体の注入を開始しても、早目に(例えば、図7の三角C)で流体の注入を中止すると、樹脂74が凝固している途中なので、成形品10が良好に成形されない。詳しくは、図13に示されているように、成形品10の意匠面12が良好に形成される範囲F(流体注入の効果がある範囲)が狭くなってしまう。
【0037】
発明者は、樹脂74の裏側に流体を注入した状態で、保圧時間とキャビティ55内の圧力とを様々に変化させて成形品10を成形してみた。図15は、その結果を示している。図15の横軸は保圧時間(保圧工程を実行した時間)(秒)に対応している。縦軸は、キャビティ55の端末部(開口部60近傍)内の圧力(MPa)に対応している。なお、このキャビティ内圧力は保圧状態におけるものである。
図13中の「○」は、成形品10が良好に成形されたポイントを示している。「1」を付した「×」は、成形品10にバリが発生してしまったポイントを示している。「2」を付した「×」は、成形品10にボイドが発生してしまったポイントを示している。「3」を付した「×」は、成形品10の意匠面12に歪みが発生してしまったポイントを示している。従って、領域「J」、領域「K」、領域「L」では成形品10を良好に成形することが出来ない。
これに対して、太い線のハッチングで示されている領域Gと、細い線のハッチングで示されている領域Hで保圧時間とキャビティ内圧力を組み合わせれば、良好な成形品10を成形することができる。
従来のように樹脂74の裏側に流体を注入しない場合には、領域Gでしか良好な成形品10を成形することができなかった。すなわち、従来においては、保圧時間を最低でも8(秒)必要としていたのに、それを3(秒)まで短くしても良好な成形品10を成形することが可能になった。保圧時間が短くなると、成形時間が短縮されるので、単位時間当りにより多くの成形を行うことができる。また、従来においては、キャビティ内圧力を最低でも20(MPa)必要としていたのに、それを10(MPa)まで低下させても良好な成形品10を成形することが可能になった。キャビティ内圧力を低下させることできると、型締め圧力を強くしなくても、より大きな成形品を成形することが可能になる。
上述した数値は例示のためのものであり、本発明の技術範囲に定める要件ではない。また上述した説明は、推測理由の説明であって、本発明の技術はその推測理由に拘束されない。
【0038】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例の技術で成形する成形品の一例を斜視した図。
【図2】第1実施例の射出成形装置の概略断面図。
【図3】成形品表面がキャビティ面から剥離する様子を説明する図。
【図4】第1実施例の工程図を従来と対比して説明する図。
【図5】実施例で必要な圧力を従来と対比して説明する図。
【図6】第2実施例の射出成形装置の概略断面図。
【図7】射出成形の各工程と、キャビティ内圧力の変化を説明する図。
【図8】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図9】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図10】流体注入工程終了時におけるキャビティ内の樹脂の状態を説明する図。
【図11】キャビティ内を樹脂が流動する状態を説明する図。
【図12】成形品が成形された状態を説明する図。
【図13】成形品が成形された状態を説明する図。
【図14】成形品が成形された状態を説明する図。
【図15】保圧時間とキャビティ内圧力を変化させて射出成形を行った結果を説明する図。
【符号の説明】
【0040】
10:成形品
12:意匠面
14:裏面
16:貫通穴
18:射出成形装置
20:金型
22:雌金型
22a:キャビティ面
24:雄金型
24a:キャビティ面
24b:柱状部
24c,24e:開口
24d,24f,24g:注入流路
26:キャビティ
28:ゲート
30:ノズル
32:ランナー
34:樹脂射出部
36c,36e:ベント
38:流体配管
40:バルブ
42:ポンプ
44:流体注入部
50:射出成形装置
51:金型
52:加圧部
53:雌金型
54:雄金型
55:キャビティ
56、57:キャビティ面
58:流体注入流路
59:中子
60:開口部
61:他端
62:ベント
63:オートカプラ
64:流体配管
65:一端
66:他端
67:フィルタ
68:レギュレータ
69:段差
70:ソレノイドバルブ
71:タイマー部
72:成形コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、
ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、
成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する加圧流体注入工程と、
を同時に実行することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
キャビティに溶融樹脂を充填した後に、前記溶融樹脂圧力保持工程と、前記加圧流体注入工程を同時に開始することを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
キャビティに溶融樹脂を充填する際にキャビティ内を流動する溶融樹脂の先端が前記流路の前記開口を通過した後に前記加圧流体注入工程を開始することを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂圧力保持工程を終了した後に、前記加圧流体注入工程を継続することを特徴とする請求項1から3のいずれかの射出成形方法。
【請求項5】
前記溶融樹脂圧力保持工程において溶融樹脂に加える圧力と、前記加圧流体注入工程において加圧流体を介して溶融樹脂に加える圧力とによって、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離されない状態を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれかの射出成形方法。
【請求項6】
射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、
ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、
成形品の裏面を、それに対向するキャビティ面から剥離させる剥離工程とを、
同時に実行することを特徴とする射出成形方法。
【請求項7】
ゲートと、キャビティと、成形品の裏面に向けて開口するとともに開口部にベントを備えている流路を有する射出成形型と、
ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから後もゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持手段と、
前記流路から加圧流体を注入する加圧流体注入手段を、
備えている射出成形装置。
【請求項8】
射出成形型は、成形品に貫通穴を成形する柱状部をキャビティ内に備えており、
前記開口部は、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、柱状部の左右を通過した溶融樹脂が合流する境界の近傍に形成されていることを特徴とする請求項7の射出成形装置。
【請求項9】
前記加圧流体注入手段は、キャビティに充填した溶融樹脂が流動して前記流路の開口部上を通過してから、加圧流体の注入を開始することを特徴とする請求項7または8の射出成形装置。
【請求項1】
射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、
ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、
成形品の裏面に向けて開口する流路から加圧流体を注入する加圧流体注入工程と、
を同時に実行することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
キャビティに溶融樹脂を充填した後に、前記溶融樹脂圧力保持工程と、前記加圧流体注入工程を同時に開始することを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項3】
キャビティに溶融樹脂を充填する際にキャビティ内を流動する溶融樹脂の先端が前記流路の前記開口を通過した後に前記加圧流体注入工程を開始することを特徴とする請求項1の射出成形方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂圧力保持工程を終了した後に、前記加圧流体注入工程を継続することを特徴とする請求項1から3のいずれかの射出成形方法。
【請求項5】
前記溶融樹脂圧力保持工程において溶融樹脂に加える圧力と、前記加圧流体注入工程において加圧流体を介して溶融樹脂に加える圧力とによって、成形品の意匠面がキャビティ面から剥離されない状態を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれかの射出成形方法。
【請求項6】
射出成形型のゲートからキャビティに溶融樹脂を充填して型を開くまでに、
ゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持工程と、
成形品の裏面を、それに対向するキャビティ面から剥離させる剥離工程とを、
同時に実行することを特徴とする射出成形方法。
【請求項7】
ゲートと、キャビティと、成形品の裏面に向けて開口するとともに開口部にベントを備えている流路を有する射出成形型と、
ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填してから後もゲートからキャビティに補充する溶融樹脂に圧力を加え続ける溶融樹脂圧力保持手段と、
前記流路から加圧流体を注入する加圧流体注入手段を、
備えている射出成形装置。
【請求項8】
射出成形型は、成形品に貫通穴を成形する柱状部をキャビティ内に備えており、
前記開口部は、ゲートからキャビティに溶融樹脂を充填する際に、柱状部の左右を通過した溶融樹脂が合流する境界の近傍に形成されていることを特徴とする請求項7の射出成形装置。
【請求項9】
前記加圧流体注入手段は、キャビティに充填した溶融樹脂が流動して前記流路の開口部上を通過してから、加圧流体の注入を開始することを特徴とする請求項7または8の射出成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−21520(P2006−21520A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373751(P2004−373751)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】
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