射出成形条件の決定方法、射出成形条件の決定プログラム、射出成形機、及び樹脂製品
【課題】樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで、最適な成形条件を求めることが可能な射出成形条件の決定方法等を提供する。
【解決手段】樹脂B〜Dの粘度特性データが樹脂Aの粘度特性データとフィッティングするときの補正係数Sをそれぞれ求め、樹脂A〜Dの補正係数SとMFRとの相関関係を求める。相関関係に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する第1の場合、及び、樹脂XのMFRがサンプリング値となる第2の場合、について樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定する。第1及び第2の場合の粘度とせん断速度との関係それぞれに基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行い、この解析結果に基づき評価関数の値を求める。成形条件を変更し一部ステップを反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定する。
【解決手段】樹脂B〜Dの粘度特性データが樹脂Aの粘度特性データとフィッティングするときの補正係数Sをそれぞれ求め、樹脂A〜Dの補正係数SとMFRとの相関関係を求める。相関関係に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する第1の場合、及び、樹脂XのMFRがサンプリング値となる第2の場合、について樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定する。第1及び第2の場合の粘度とせん断速度との関係それぞれに基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行い、この解析結果に基づき評価関数の値を求める。成形条件を変更し一部ステップを反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形条件の決定方法、射出成形条件の決定プログラム、射出成形機、及び樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を射出成形するのに最適な成形条件を決定する方法として、例えば特許文献1記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術では、流動解析を実行することにより、キャビティへの樹脂材料の流入量を時系列的に設定する製造パラメータ等の最適値を求めている。またこの技術では、最適値を効率よく求める目的で、流動解析を最適化手法と組み合わせて実行している。
【特許文献1】特開2004−314625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1記載のような従来の技術では、樹脂の流動特性パラメータ(例えばメルトフローレート)を一定値として流動解析を行うのが一般的であり、樹脂の流動特性パラメータにばらつきがある場合を考慮したものは存在しなかった。
【0004】
そこで本発明は、樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで、最適な成形条件を求めることが可能な射出成形条件の決定方法及び射出成形条件の決定プログラムと、この決定方法を用いた射出成形機及び樹脂製品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る射出成形条件の決定方法は、射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定方法であって、射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備ステップと、複数の樹脂のうち基準となる樹脂を除く樹脂のデータを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが基準となる樹脂のデータとフィッティングするときの複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備ステップと、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備ステップと、相関関係に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備ステップと、第4の準備ステップにて推定された、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行うと共に、第4の準備ステップにて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行う解析ステップと、射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価ステップと、最適化手法に従って成形条件を変更し解析ステップ及び評価ステップを反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定し、当該特定された成形条件を最適な成形条件とする最適化ステップと、
を有することを特徴とする。
【0006】
本発明に係る成形条件の設計方法では、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する時について射出成形解析を行う。これと共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを成形用樹脂が有する時についても、射出成形解析を行う。射出成形解析の複数の結果に基づいて評価関数の値を求めるので、評価関数は成形用樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したものとなる。よって、最適化手法にしたがって得られる評価関数の最適値と、これにより特定される最適な成形条件は、成形用樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで最適なものとなる。
【0007】
ところで本発明では、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を基に推定する。つまり、「流動特性パラメータが任意の値である成形用樹脂と、流動特性パラメータが任意の値から所定範囲のばらつきを有する成形用樹脂とを用意し、各成形用樹脂の粘度とせん断速度とを実測定する」といった作業を行わずとも、各成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を特定することができる。したがって、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を迅速に求めることができ、また成形用樹脂の流動特性パラメータを変更した場合にも柔軟な対応が可能となる。
【0008】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、最適化ステップでは、射出成形解析の複数の結果から算出される制約関数の値が所定の制約条件を満たし且つ評価関数の値が最適となるような、成形条件を特定することが好ましい。この場合には、所定の制約条件を満たすことが可能な成形条件を得ることができる。
【0009】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第2の準備ステップでは、基準となる樹脂のデータに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(1)を導出し、基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(1)に基づく下記式(2)においてTの値が最も小さくなるような補正係数Sを求めることが好ましい。
【数1】
【数2】
なお、式中、ηaは基準となる樹脂の粘度、γaは基準となる樹脂のせん断速度、mは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータの数、ηbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度を示す。この場合には、より適切な補正係数Sを得ることができる。
【0010】
また、第2の準備ステップでは、第2の準備ステップでは、基準となる樹脂のデータに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(3)を準備し、基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(4)からTを求め、基準となる樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(5)からTaを求め、基準となる樹脂を除く樹脂のTを総和した値とTaとの和が最も小さくなるよう、基準となる樹脂を除く樹脂の補正係数Sと下記式(3)に含まれる定数とをそれぞれ求めるとしてもよい。
【数3】
【数4】
【数5】
なお、式中、ηaは基準となる樹脂の粘度、γaは基準となる樹脂のせん断速度、mは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータの数、ηbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度、nは基準となる樹脂におけるデータの数、ηaiは基準となる樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γaiは基準となる樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度を示す。この場合には、補正係数Sと上記式(3)に含まれる定数とを同時に求めることが可能となるため、適切な補正係数S及び上記式(3)の定数をより効率よく取得することができる。
【0011】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第3の準備ステップでは、相関関係を求めると共に、相関関係と複数の樹脂のうち所定の樹脂における流動特性パラメータとに基づいて所定の樹脂の補正係数Scを求め、更に所定の樹脂のデータに基づき所定の樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(6)を導出し、第4の準備ステップは、第3の準備ステップにて取得された相関関係に基づいて、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数Sdを求めるとともに、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する当該成形用樹脂の補正係数Seを求めるステップと、補正係数Sdと、補正係数Scと、第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(7)に基づいて、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、補正係数Seと、補正係数Scと、第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(8)に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、を含むことが好ましい。
【数6】
【数7】
【数8】
なお、式中、ηcは所定の樹脂の粘度、γcは所定の樹脂のせん断速度、ηdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度、γdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂のせん断速度、ηeは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂の粘度、γeは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂のせん断速度、Scは所定の樹脂の補正係数、Sdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数、Seは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定範囲のばらつきを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数を示す。この場合には、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式を得ることができる。
【0012】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、上記式(6)は、Crossモデル又はCarreau−Yasudaモデルに基づくことが好ましい。この場合には、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係をより適切に示す近似式を得ることができる。
【0013】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第3の準備ステップでは、相関関係を示す下記式(9)を導出するとしてもよい。
【数9】
なお、式中、pは複数の樹脂の流動特性パラメータ、α,βは定数を示す。この場合には、複数の樹脂における補正係数Sと流動特性パラメータとの相関関係をより適切に求めることができる。
【0014】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、最適化ステップでは、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた最適化手法に従って成形条件を変更して解析ステップ及び評価ステップを反復実行し、最適な評価関数の値の集合であるパレート最適解を取得することが好ましい。この場合には、最適な成形条件の一つとして、例えば、射出時間をある程度短くしつつ型締力を低減可能なものや、型締力をある程度小さくしつつ成形性サイクルを短縮可能なものを求めることができる。
【0015】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、流動特性パラメータは、メルトフローレート、メルトインデックス、及びメルトフローインデックスのいずれであることが好ましい。この場合には、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を確実に求めることができる。
【0016】
ところで、本発明は、上記のように射出成形条件の決定方法の発明として記述できる他に、以下のように射出成形条件の決定プログラムの発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0017】
すなわち、本発明に係る射出成形条件の決定プログラムは、射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備処理と、複数の樹脂のうち基準となる樹脂を除く樹脂のデータを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが基準となる樹脂のデータとフィッティングするときの複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備処理と、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備処理と、相関関係に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備処理と、第4の準備処理にて推定された、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行うと共に、第4の準備処理にて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行う解析処理と、射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価処理と、最適化手法に従って成形条件を変更し解析処理及び評価処理を反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定し、当該特定された成形条件を最適な成形条件とする最適化処理と、を実行させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る射出成形機は、射出成形機本体と、上述した射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて射出成形機本体を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。本発明の射出成形機によれば、最適な成形条件下で樹脂製品を製造することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る樹脂製品は、上述した射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて製造されたことを特徴とする。本発明によれば、最適な成形条件下で製造された樹脂製品を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで、最適な成形条件を求めることが可能射出成形条件の決定方法及び射出成形条件の決定プログラムと、この決定方法を用いた樹脂及び樹脂製品とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面とともに本発明に係る射出成形条件の決定方法および射出成形条件の決定プログラムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法は、射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求めるものであって、ワークステーションやPC(Personal Computer)等の情報処理装置により実行される。情報処理装置30としては、例えば、図1に示すようなハードウェア構成のものが用いられる。図1に示すように、情報処理装置30は、中央処理装置(CentralProcessing Unit:CPU)31と、プログラムやデータを格納するためのハードディスク装置32と、主メモリ33と、キーボードやマウス等の入力装置34と、CRT(CathodeRay Tube)等の表示装置35と、磁気テープやROM等の記録媒体37を読み取る読取装置36とを含んで構成されている。ハードディスク装置32、主メモリ33、入力装置34、表示装置35、及び読取装置36は、何れも中央処理装置31に接続されている。この情報処理装置30では、プログラムを格納した記録媒体37が読取装置36に装着され、記録媒体37からプログラムが読み出されてハードディスク装置32に格納される。続いて、ハードディスク装置32に格納されたプログラムが、中央処理装置31により主メモリ33上に展開して実行されて、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法が実行される。なお、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法は、上記のようにプログラムによるものでなく装置のみで実行されるものであってもよい。また、以下に述べる一連の処理全てが情報処理装置にて実行されるとしてもよいし、一連の処理のうちの一部が情報処理装置にて実行されるとしてもよい。
【0023】
本実施形態では、最適化支援ソフトウエアと射出成形解析ソフトウエアとを組み合わせて実行することにより、最適な成形条件として、射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を求めることとする。射出成形解析ソフトウエアにはMoldflow Plastics Insight version 6.1(Moldflow Corporation製、簡易解析にて実施)を用い、最適化支援ソフトウエアにはiSIGHTversion 10.0 (Engineous Software Inc.製)を用いる。なお、適用可能な最適化支援ソフトウエアおよび射出成形解析ソフトウエアはこれに限られない。
【0024】
以下、図2のフローチャートを用いて、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法を説明する。この決定方法は大きく分けて、射出成形解析のための準備を行うステップS01と、射出成形解析を実施し、射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を特定するステップS02と、を有している。
【0025】
最初に、図3のフローチャートを用いつつ、射出成形解析のための準備を行うステップについて詳細に説明する。ここではまず、ステップS10に示すように、射出成形過程における樹脂X(成形用樹脂)の流れを解析するための解析用形状モデルを作成する。
【0026】
本実施形態の解析用形状モデルは、図4に示すような長方形(縦横比=4/5)且つ平板状を呈した、内部にキャビティを有する部材50である。部材50は、金型に相当する。かかる部材50の一隅部分には、長方形の開口部が形成されており、これによってキャビティ内で樹脂が均等に流れにくい形状となっている。例えば、部材50の外形は800mm×1000mmとなっており、開口部の大きさは100mm×400mmとなっている。部材50の板厚は、図5のようにpt1〜pt4の4つの領域毎に異なり、本実施形態ではpt1が2.0mm、pt2が2.5mm、pt3が3.0mm、pt4が3.5mmの板厚となっている。部材50主面のほぼ中央と、開口部付近に位置する部材50側面のほぼ中央とには樹脂の注入口が配置されており、各注入口には、テーパ付きスプルー51及びホットランナー52を介して、また場合によっては更にコールドランナーを介して、外部から樹脂Xが供給される。また部材50のキャビティは、図5に示すような厚み分布を有している。
【0027】
解析用形状モデルを作成したら、ステップS11に示すように、最適化手法に従って射出成形解析を行うための各種条件を設定する。より具体的には、設計変数(成形条件)、評価関数、樹脂流動特性、制約条件、初期条件、信頼性評価手法、及び最適化手法を設定する。本実施形態で設定した各種条件を表1に示す。
【表1】
【0028】
表1に示すように、本実施形態では射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを設計変数としている。
【0029】
各種条件を設定したら、ステップS12に示すように、複数の樹脂の粘度特性データを用意し、複数の樹脂の中から基準となる樹脂を1つ定める(第1の準備ステップ、第1の準備処理)。
【0030】
例えば本実施形態では、樹脂A,B,C,Dの粘度特性データを用意する。粘度特性データとは、粘度とせん断速度との関係を示すデータであり、より具体的には、せん断速度と粘度との組み合わせ(γ,η)からなるデータである。樹脂Aの粘度特性データ、樹脂Bの粘度特性データ、樹脂Cの粘度特性データ、及び樹脂Dの粘度特性データは、それぞれ複数用意される。図6は、樹脂A〜Dの粘度特性データを示すグラフである。図6に示すように、本実施形態では、樹脂A〜Dの粘度特性データを8〜10個ずつ用意する。なお、樹脂A〜Dの粘度特性データは図1に示すハードディスク装置32あるいは記録媒体37に予め格納されたものであってもよいし、本ステップにおいてユーザにより入力されたものであってもよい。
【0031】
樹脂A〜Dは、射出成形に用いる樹脂Xと同一種類の樹脂である。同一種類とは、分子量の分布形状が同一であることを指し、より具体的には同一の触媒を用い且つ同一の製造プロセスで製造されていることを指す。樹脂A〜D及び樹脂Xは、例えば、ホモポリプロピレン(ホモPP)、エチレン−プロピレンランダムコポリマー(ランダムPP)、エチレン−プロピレンブロックコポリマー(ブロックPP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)からなる群から選択される。例えば本実施形態では、樹脂A〜D及び樹脂Xとしてポリプロピレン樹脂を用いる。
【0032】
樹脂A〜Dは、流動特性パラメータが互いに異なっている。本実施形態における流動特性パラメータとは、メルトフローレート(以下、MFRと呼ぶ)である。樹脂A〜Dは、分子量の分布形状は同一であるもののMFRが互いに異なっているために、分子量のピーク位置が互いにシフトした関係となっている。例えば本実施形態では、樹脂AのMFRを2.6とし、樹脂BのMFRを8.3とし、樹脂CのMFRを14.0とし、樹脂DのMFRを65.0とする。
【0033】
樹脂A〜Dの粘度特性データを用意したら、樹脂A〜Dの中から基準となる樹脂を1つ定める。本実施形態では、樹脂Aを基準となる樹脂とする。なお、基準となる樹脂は、樹脂B〜Dのいずれかであってもよい。
【0034】
樹脂Aを基準となる樹脂として定めた後、ステップS13に示すように、樹脂B〜Dにおける粘度特性データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正する。そして、当該補正した粘度特性データが樹脂Aにおける粘度特性データとフィッティングするときの樹脂B〜Dの補正係数Sを求める(第2の準備ステップ、第2の準備処理)。
【0035】
より具体的には、補正係数Sを用いて、樹脂B〜Dの各粘度特性データの粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することで、樹脂B〜Dの各粘度特性データを補正する。つまり、図7に示すように、補正後の樹脂B〜Dの粘度特性データをグラフ上にプロットすると、かかる粘度特性データと樹脂Aの粘度特性データとが略同一線上に位置するよう、樹脂B〜Dの補正係数Sを決定する。
【0036】
樹脂B〜Dの補正係数Sを導出する方法は種々考えられるが、その一つとして以下の方法を適用することができる。
【0037】
すなわち、樹脂Aの粘度特性データから、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式として、Carreau−Yasudaモデルを用いて下記式(10)を導出する。
【数10】
式中、ηAは樹脂Aの粘度、γAは樹脂Aのせん断速度を示し、η0,λ,y,Nはそれぞれ定数である。例えば本実施形態では、図6に示す樹脂Aの粘度特性データから、η0(単位Pas)は25000、λ(単位s)は0.55、N(単位なし)は0.5、y(単位なし)は0.25となった。
【0038】
そして、上記式(10)から下記式(11)を得る。
【数11】
式中、mは樹脂Bにおける粘度特性データの数を示し、ηBiは樹脂Bの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示された粘度を示し、γbiは樹脂Bの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示されたせん断速度を示す。
【0039】
上記式(11)に樹脂Bの粘度特性データを代入して、Tの値が最も小さくなるときの補正係数Sを求める。これを樹脂Bの補正係数Sとする。樹脂Bと同様にして、樹脂C,Dについても補正係数Sをそれぞれ求める。補正を行わない樹脂Aについては、補正係数Sを1とする。このようにして、樹脂A〜Dの補正係数Sを導出する。
【0040】
なお、上述した補正係数Sの導出方法では、上記式(10)の定数η0,λ,y,Nを図6に示す樹脂Aの粘度特性データから取得するとしたが、以下の方法で定数η0,λ,y,Nを樹脂B〜Dの補正係数Sと同時に取得するとしてもよい。
【0041】
すなわち、上記式(11)に樹脂Bの粘度特性データを代入したときのTをTB、上記式(11)に樹脂Cの粘度特性データを代入したときのTをTC、上記式(11)に樹脂Dの粘度特性データを代入したときのTをTDとする。更に、上記式(10)から得られる下記式(12)よりTAを求める。なお、TA〜TDを求めるとき、上記式(10)の定数η0,λ,y,Nの値は未定とする。
【数12】
式中、nは樹脂Aにおける粘度特性データの数を示し、ηAiは樹脂Aの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示された粘度を示し、γAiは樹脂Aの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示されたせん断速度を示す。
【0042】
続いて、TA+TB+TC+TDの総和値が最も小さくなるような樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nを求める。この場合、樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nは全て変数として扱われる。変数が多いので各変数値の算出はやや複雑になるが、樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nをいちどきに求めることが可能となるため、適切な値をより効率よく取得することができる。
【0043】
以上のようにして樹脂A〜Dの補正係数Sを導出したら、ステップS14に示すように、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を求める(第3の準備ステップ、第3の準備処理)。
【0044】
より具体的には、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとに基づき、これらの相関関係を示す近似式として、下記式(13)を導出する。
【数13】
式中、pはMFRを示し、α,βは定数を示す。
【0045】
定数α,βは、pに樹脂A〜DのMFRを代入した時に、ステップS13で決定された樹脂A〜Dの補正係数Sと10(−αlogp+β)との差が最も小さくなるよう、最小二乗近似によって導出される。例えば本実施形態では、α=1.0084となり、β=0.4211となった。したがって本実施形態において、上記式(13)は下記式(14)で表すことができる。
【数14】
【0046】
図8は、樹脂A〜DのMFRとステップS13で得られた樹脂A〜Dの補正係数Sとの組み合わせを点で示し、更に上記式(14)から求められる樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの関係を線で示したグラフである。
【0047】
補正係数SとMFRとの相関関係を求めたら、ステップS15に示すように、樹脂A(所定の樹脂)の粘度特性データから、Carreau−Yasudaモデルを用いて、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を近似的に示す下記式(15)を導出する(第3の準備ステップ、第3の準備処理)。
【数15】
上記式(15)はステップS13で得た上記式(10)と同一の式であるため、ステップS13にて上記式(10)を導出した場合には、ここで上記式(15)をあらためて導出する必要はなく、上記式(10)を用いることができる。
【0048】
続いて、上記式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合について樹脂Xの補正係数Sを求める(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【0049】
ここで、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合とは、例えば本実施形態では樹脂XのMFRが表1の樹脂流動特性に記載の値である場合を指し、より具体的には樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である場合を指す。ステップS16に示すように、補正係数SとMFRとの相関関係を示す式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である場合の補正係数Sを求め、これを第1の補正係数S1とする。例えば本実施形態では、第1の補正係数S1の算出式は下記式(16)のようになる。
【数16】
【0050】
また、樹脂XのMFRが、任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となるときについても樹脂Xの補正係数Sを求める(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【0051】
ここで、樹脂XのMFRが「任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となるとき」とは、例えば本実施形態では樹脂XのMFRが表1のサンプリング点の値である場合を指し、より具体的には樹脂XのMFRが(30+3×0.03×30)=32.7[g/10分、230℃]である場合を指す。ステップS17に示すように、ステップS13で導出された近似式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが32.7[g/10分、230℃]である場合の補正係数Sを求め、これを第2の補正係数S2とする。
【0052】
続いて、ステップS18に示すように、ステップS16で得られた第1の補正係数S1と、ステップS13で得られた樹脂Aの補正係数S(ここではSAとする)と、ステップS15で導出された樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)とから、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合における、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式(17)を導出する(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【数17】
式中、ηXは樹脂Xの粘度、γXは樹脂Xのせん断速度、SAは樹脂Aの補正係数を示す。
【0053】
上記式(17)は、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合における、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式である。ステップS12で説明したように、例えば本実施形態においてSAは1、η0は25000、λは0.55、Nは0.5、yは0.25であり、また上記式(16)に示すように、樹脂XのMFRが30.0[g/10分、230℃]のときの第1の補正係数S1は0.085である。このことから、例えば本実施形態において上記式(17)は下記式(18)で表すことができる。
【数18】
【0054】
また、ステップS19に示すように、ステップS17で得られた第2の補正係数S2と、ステップS13で得られた樹脂Aの補正係数S(ここではSAとする)と、ステップS15で導出された樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)とから、樹脂XのMFRが先述したサンプリング値である時の、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式(19)を導出する(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【数19】
【0055】
以上述べたように、ステップS18では、樹脂XのMFRが任意の値である時、すなわち樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す上記式(17)を導出する。また、ステップS19では、樹脂XのMFRがサンプリング値(この場合は32.7[g/10分、230℃])である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す上記式(19)を導出する。したがって、上記式(17)からは樹脂XのMFRが任意の値である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定することができ、上記式(19)からは樹脂XのMFRがサンプリング値(この場合は32.7[g/10分、230℃])である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定できる。これらの式(17),(19)の導出を以って、射出成形解析の準備を行うステップS01は終了する。
【0056】
ステップS01が終了したら、ステップS02に示すように、射出成形解析を行い、型締力、射出時間、及び冷却時間の最適値を特定する。
【0057】
図9のフローチャートを参照しつつ、ステップS02について詳細に説明する。まず図9のステップS23に示すように、上記式(17),(19)を用いて、樹脂Xを部材50に流し込んだときの射出成形解析を行う。
【0058】
より具体的には、上記式(17)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを、部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果として、型締力、射出時間、及び冷却時間を求める。また、上記式(19)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを、部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果として、型締力、射出時間、及び冷却時間を求める。なおここでは、部材50の射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metは表1の初期条件を満たしているものとする。
【0059】
得られた射出成形解析の結果である型締力から、Taylor一次近似によりMCF、SCFを算出する。MCFは樹脂充填率98%時型締力の平均値であり、SCFは樹脂充填率98%時型締力の標準偏差である。また、得られた射出成形解析の結果である成形サイクルから、Taylor一次近似によりMCT、SCTを算出する。MCTは成形サイクルの平均値であり、SCTは成形サイクルの標準偏差である。本実施形態では、成形サイクルは、射出時間と冷却時間と製品取り出し時間(例えば10秒で固定)との和であり、冷却時間は固化時間の最大値(ただしランナー部を除く)とする。なお、型締力は射出成形機の装置規模を示す指標であり、成形サイクルは装置の生産効果を示す指標であるため、いずれも小さいほうが製造コスト的に有利である。
【0060】
続いて、ステップS24に示すように、算出されたMCF、SCF、MCT、SCTに基づいて評価関数A(所定の評価関数)の値を求める(評価ステップ、評価処理)。表1に示すように、評価関数Aは下記式(20)で表される。
【数20】
式中、MCF0は表1の初期条件で射出成形解析を行った場合の樹脂充填率98%型締力の平均値を示し、MCT0は表1の初期条件で射出成形解析を行った場合の成形サイクルを示す。RCFは3σのばらつきを考慮した樹脂充填率98%型締力を示し、RCTは3σのばらつきを考慮した成形サイクルを示す。なお先述したように、型締力は射出成形機の装置規模を示す指標であり、成形サイクルは装置の生産効果を示す指標である。そのため、評価関数Aは小さいほうが好ましい。
【0061】
上記式(20)では、(MCT+3SCF)をMCF0でスケーリングし、(MCT+3SCT)をMCT0でスケーリングしている。
【0062】
以降、ステップS25に示すように、最適化手法に従って、設計変数である射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを変更しステップS23,S24を反復実行する(最適化ステップ、最適化処理)。例えば本実施形態では、Adaptive Simulated Annealing -ASA (解適応焼き鈍し法)を用いた最適化手法に従って、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを変更しステップS23,S24を最適な評価関数値が得られるまで、もしくは、200回まで反復実行する。なお、表1に制約条件として示すように、射出時間itは1.0以上10.0以下の値、金型温度motは30以上70以下の値、樹脂温度metは180以上240以下の値からそれぞれ選択される。
【0063】
反復実行の結果から、評価関数Aの最適値を取得する。より具体的には、反復実行によって得られた評価関数Aのうち、最小値であるもの(所定の条件を満たすもの)が評価関数Aの最適値として選択される。
【0064】
ステップS25で評価関数Aの最適値を取得した後、ステップS26に示すように、この値を求める際に用いた設計変数すなわち射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの値をそれぞれ特定する(最適化ステップ、最適化処理)。ここで特定された値が、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値となる。射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値を取得したら、最適化結果を図1に示す表示装置35に表示する。これにより、最適化支援ソフトウエア及び射出成形解析ソフトウエアの実行が終了する。表2は最適化結果を示すものである。
【表2】
【0065】
例えば本実施形態では、射出時間itが3.2[s]、金型温度motが32[℃]、樹脂温度metが238[℃]の時、評価関数Aの値が1.76と最も小さくなった。よって、MFRが30[g/10分、230℃]の樹脂Xから樹脂製品を製造する場合には、射出時間、金型温度、及び樹脂温度を上述した値とすれば、製造コストが低減された樹脂製品を得ることが可能となる。
【0066】
以上述べたように、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法では、MFRが任意の値(すなわち30[g/10分、230℃])の樹脂Xを部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。これと共に、MFRが、任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となっている樹脂Xを部材50に供給した場合についても、射出成形解析を行う。射出成形解析の結果に基づいて評価関数Aの値を求めるので、評価関数Aの値は樹脂XのMFRのばらつきを考慮した値となる。よって、最適化手法にしたがって得られる評価関数Aの最適値は、樹脂XのMFRのばらつきを考慮したうえで最適なものとなり、ひいてはこれにより特定される射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値もまた、樹脂XのMFRのばらつきを考慮したうえで最適なものとなる。よって、樹脂XのMFRにばらつきがあるときの最適な射出時間、金型温度、及び樹脂温度を求めることが可能となる。
【0067】
本実施形態に係る射出成形条件の決定方法では、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を基に推定する。つまり、「MFRが任意の値である樹脂Xと、MFRが前述したサンプリング値となっている樹脂Xとを用意し、各樹脂Xの粘度とせん断速度とを実測定する」といった作業を行わずとも、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を特定することができる。したがって、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を迅速に且つ容易に求めることができる。その結果、樹脂XのMFRを種々の値に変え、各MFR値における射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値を求める、ということも可能となる。
【0068】
また、射出成形機本体と、上記の決定方法により求められた射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値に基づいて射出成形機本体を制御する制御部とを備える射出成形機を用いれば、型締力及び成形サイクルの点で最適な成形条件下で樹脂製品を製造することができるため、製造コストが低減された樹脂製品を製造することが可能となる。
【0069】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る射出成形条件の決定方法について説明する。本実施形態は、評価関数が2種類ある点と、最適化手法に多目的遺伝的アルゴリズムを適用する点とで、第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法と大きく異なる。以下、第1の実施形態と相違する点について重点的に説明する。
【0070】
本実施形態では、図3に示すステップS11にて、表3に示す各種条件が設定される。
【表3】
【0071】
各種条件を設定後、第1の実施形態と同様に、ステップS12〜S19が実行される。ステップS19を実行後、第1世代のP個の個体の設計変数(第1世代遺伝子)を、制約条件の中で適宜に、例えば乱数を用いて選択する。
【0072】
これ以降は、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた工程となる。例えば本実施形態では、表3に示すように、Neighborhood Cultivation Genetic Algorithm -NCGA(近傍培養型遺伝的アルゴリズム)を用い、個体数Pは20とし、世代数Gは50とした。すなわち、ステップS19を実行後、第1世代の各個体について、上記式(17)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを用い、射出成形解析を行う。また、上記式(19)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを用い、射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果から、MCF、SCF、MCT、SCTを算出し、算出したMCF、SCF、MCT、SCTに基づいて評価関数B,Cの値を求める。なお表3に示すように、評価関数Bは下記式(21)で表され、評価関数Cは下記式(22)で表される。
【数21】
【数22】
【0073】
次に、求められた第1世代の各個体の評価関数B,Cの値を評価し、多目的遺伝的アルゴリズムの手法に則り、新たな第2世代の遺伝子を持つ個体群を生成する。そして、第2世代の各個体についても、第1世代の各個体と同様に射出成形解析を行い、それぞれの評価関数B,Cの値を算出する。以下、評価関数B,Cの値の評価、個体群の新たな生成、各個体の射出成形解析、及び評価関数B,Cの値の算出、といった一連の工程を反復実行する。反復実行は、第G世代まで行われる。そして、各世代の個体の評価に基づき、パレート最適解を作成し、表示する。パレート最適解を図10に示す。
【0074】
このようにしてパレート最適解を得ることにより、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metとして、例えば成形サイクルをある程度短くしつつ型締力を低減可能なもの、あるいは型締力をある程度小さくしつつ成形性サイクルを短縮可能なもの、を適宜選択することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、評価関数の種類は上述したものに限られない。また、最適化手法もAdaptiveSimulated Annealing -ASA (解適応焼き鈍し法)やNeighborhood Cultivation Genetic Algorithm-NCGA(近傍培養型遺伝的アルゴリズム)に限られない。
【0077】
また、本実施形態のステップS15では、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)を導出するとしたが、樹脂B〜Dのいずれかについて近似式を導出するとしてもよい。例えば樹脂Bについて粘度とせん断速度との関係を示す近似式を導出した場合には、上記式(17),(19)では樹脂Aの補正係数SAに代わり樹脂Bの補正係数SBが用いられることになる。
【0078】
また、本実施形態のステップS13,15において、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式をCarreau−Yasudaモデルを用いて導出するとしたが、Crossモデルを用いて導出するとしてもよい。この場合には、上記式(10),(15)に代わって下記式(23)を導出することとなる。
【数23】
式中、ηAは樹脂Aの粘度、γAは樹脂Aのせん断速度を示し、η0,K,Nはそれぞれ定数である。
【0079】
また、本実施形態では、流動特性パラメータとしてMFRを用いるとしたが、流動特性パラメータとしてメルトインデックス又はメルトフローインデックスを用いるとしてもよい。
【0080】
また、本実施形態のステップS23では、Taylor一次近似によりMCF、SCF、MCT、およびSCTを算出しているが、モンテカルロ法やその他のサンプリング方法によりこれらを算出するとしてもよい。
【0081】
また、第1実施形態のステップS25では、設計変数を変更してステップS23,S24を200回反復実行し、この結果に基づいて評価関数Aの最適値を取得するとした。第2実施形態では、評価関数B,Cの値の評価、個体群の新たな生成、各個体の射出成形解析、及び評価関数B,Cの値の算出、といった一連の工程を、1000回(20個体、50世代)反復実行し、この結果に基づいて評価関数B,Cの最適値を取得するとした。しかしながら、反復実行する回数は上記のものに限られない。また、評価関数の値が十分に小さくなった時点で反復実行を終了するとしてもよい。
【0082】
また、本実施形態のステップS10では、4つの樹脂A〜Dの粘度特性データを用意するとしたが、樹脂の数がこれに限られないことはいうまでもない。また、樹脂A〜Dの粘度特性データを8〜10個ずつ用意するとしたが、粘度特性データの数がこれに限られないことはいうまでもない。
【0083】
(成形条件最適化プログラム)
次に、上述した一連の処理を情報処理装置30に実行させるための射出成形条件の決定プログラムについて説明する。図11に示すように、成形条件最適化プログラム(射出成形条件の決定プログラム)71は、情報処理装置により読取可能な、あるいは情報処理装置に備えられる、記録媒体70に形成されたプログラム格納領域70a内に格納される。なお、記録媒体70が情報処理装置により読取可能なものである場合、かかる記録媒体70は図1に示す記録媒体37に相当する。
【0084】
成形条件最適化プログラム71は、射出成形条件の決定方法を統括的に制御するメインモジュール71aと、第1の準備モジュール71bと、第2の準備モジュール71cと、第3の準備モジュール71dと、第4の準備モジュール71eと、解析モジュール71fと、評価モジュール71gと、最適化モジュール71hと、を備えて構成される。
【0085】
第1の準備モジュール71bは、樹脂A〜Dそれぞれについて、粘度とせん断速度との関係を示すデータを用意すると共に、樹脂A〜Dの中から基準となる樹脂を1つ定めるモジュールである。第2の準備モジュール71cは、樹脂A〜Dのうちから基準となる樹脂を除く樹脂における粘度特性データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正した粘度特性データが基準となる樹脂における粘度特性データとフィッティングするときの樹脂A〜Dの補正係数Sを求めるモジュールである。第3の準備モジュール71dは、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を求めるモジュールである。第4の準備モジュール71eは、第3の準備モジュール71dで得られた相関関係に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合について樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、樹脂XのMFRが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、樹脂XのMFRをサンプリングして樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定するモジュールである。
【0086】
解析モジュール71fは、第4の準備モジュール71eにて推定された、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で部材50を用いた射出成形解析を行うモジュールである。これと共に、解析モジュール71fは、第4の準備モジュール71eにおいて、樹脂XのMFRが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮し樹脂XのMFRをサンプリングして推定した、粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で部材50を用いた射出成形解析を行うモジュールである。
【0087】
評価モジュール71gは、射出成形解析の複数の結果に基づいて所定の評価関数の値を求めるモジュールである。最適化モジュール71hは、最適化手法に従って射出時間、金型温度、及び樹脂温度を変更し射出成形解析及び評価関数値の算出を反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる射出時間、金型温度、及び樹脂温度を特定し、これらを最適値とするモジュールである。
【0088】
すなわち、第1の準備モジュール71bは上記の実施形態におけるステップS12を実現させ、第2の準備モジュール71cはステップS13を実現させ、第3の準備モジュール71dはステップS14,S15を実現させ、第4の準備モジュール71eはステップS16〜S19を実現させ、解析モジュール71fはステップS23を実現させ、評価モジュール71gはステップS24を実現させ、最適化モジュール71hはステップS25,S26を実現させる。なお、成形条件最適化プログラム71は、その一部若しくは全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施形態に係る射出成形条件の決定方法が実行される情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法を示すフローチャートである。
【図3】射出成形解析のための準備ステップを示すフローチャートである。
【図4】第1の形態の解析用形状モデルを示す図である。
【図5】第1の形態の解析用形状モデルにおけるキャビティの厚み分布を示す図である。
【図6】樹脂A〜Dの粘度特性データを示すグラフである。
【図7】補正後の樹脂B〜Dの粘度特性データと、樹脂Aの粘度特性データとを示すグラフである。
【図8】樹脂A〜DのMFRと補正係数Sの樹脂A〜Dの補正係数Sとの組み合わせを点で示し、上記式(14)から求められるMFRと補正係数Sとの関係を線で示したグラフである。
【図9】射出成形解析を行って射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を特定するステップを示すフローチャートである。る。
【図10】第2実施形態に係る射出成形条件の決定方法の結果を示すグラフである。
【図11】本実施形態に係る射出成形条件の決定プログラムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
30…情報処理装置、31…中央処理装置、32…ハードディスク装置、33…主メモリ、34…入力装置、35…表示装置、36…読取装置、37…記録媒体、50…部材、51…スプルー、52…ホットランナー、53…ゲート、70…記録媒体、70a…プログラム格納領域、71…成形条件最適化プログラム、71a…メインモジュール、71b…第1の準備モジュール、71c…第2の準備モジュール、71d…第3の準備モジュール、71e…第4の準備モジュール、71f…解析モジュール、71g…評価モジュール、71h…最適化モジュール。
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形条件の決定方法、射出成形条件の決定プログラム、射出成形機、及び樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を射出成形するのに最適な成形条件を決定する方法として、例えば特許文献1記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術では、流動解析を実行することにより、キャビティへの樹脂材料の流入量を時系列的に設定する製造パラメータ等の最適値を求めている。またこの技術では、最適値を効率よく求める目的で、流動解析を最適化手法と組み合わせて実行している。
【特許文献1】特開2004−314625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1記載のような従来の技術では、樹脂の流動特性パラメータ(例えばメルトフローレート)を一定値として流動解析を行うのが一般的であり、樹脂の流動特性パラメータにばらつきがある場合を考慮したものは存在しなかった。
【0004】
そこで本発明は、樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで、最適な成形条件を求めることが可能な射出成形条件の決定方法及び射出成形条件の決定プログラムと、この決定方法を用いた射出成形機及び樹脂製品とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る射出成形条件の決定方法は、射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定方法であって、射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備ステップと、複数の樹脂のうち基準となる樹脂を除く樹脂のデータを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが基準となる樹脂のデータとフィッティングするときの複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備ステップと、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備ステップと、相関関係に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備ステップと、第4の準備ステップにて推定された、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行うと共に、第4の準備ステップにて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行う解析ステップと、射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価ステップと、最適化手法に従って成形条件を変更し解析ステップ及び評価ステップを反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定し、当該特定された成形条件を最適な成形条件とする最適化ステップと、
を有することを特徴とする。
【0006】
本発明に係る成形条件の設計方法では、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する時について射出成形解析を行う。これと共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを成形用樹脂が有する時についても、射出成形解析を行う。射出成形解析の複数の結果に基づいて評価関数の値を求めるので、評価関数は成形用樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したものとなる。よって、最適化手法にしたがって得られる評価関数の最適値と、これにより特定される最適な成形条件は、成形用樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで最適なものとなる。
【0007】
ところで本発明では、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を基に推定する。つまり、「流動特性パラメータが任意の値である成形用樹脂と、流動特性パラメータが任意の値から所定範囲のばらつきを有する成形用樹脂とを用意し、各成形用樹脂の粘度とせん断速度とを実測定する」といった作業を行わずとも、各成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を特定することができる。したがって、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を迅速に求めることができ、また成形用樹脂の流動特性パラメータを変更した場合にも柔軟な対応が可能となる。
【0008】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、最適化ステップでは、射出成形解析の複数の結果から算出される制約関数の値が所定の制約条件を満たし且つ評価関数の値が最適となるような、成形条件を特定することが好ましい。この場合には、所定の制約条件を満たすことが可能な成形条件を得ることができる。
【0009】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第2の準備ステップでは、基準となる樹脂のデータに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(1)を導出し、基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(1)に基づく下記式(2)においてTの値が最も小さくなるような補正係数Sを求めることが好ましい。
【数1】
【数2】
なお、式中、ηaは基準となる樹脂の粘度、γaは基準となる樹脂のせん断速度、mは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータの数、ηbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度を示す。この場合には、より適切な補正係数Sを得ることができる。
【0010】
また、第2の準備ステップでは、第2の準備ステップでは、基準となる樹脂のデータに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(3)を準備し、基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(4)からTを求め、基準となる樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(5)からTaを求め、基準となる樹脂を除く樹脂のTを総和した値とTaとの和が最も小さくなるよう、基準となる樹脂を除く樹脂の補正係数Sと下記式(3)に含まれる定数とをそれぞれ求めるとしてもよい。
【数3】
【数4】
【数5】
なお、式中、ηaは基準となる樹脂の粘度、γaは基準となる樹脂のせん断速度、mは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータの数、ηbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γbiは基準となる樹脂を除く樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度、nは基準となる樹脂におけるデータの数、ηaiは基準となる樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示された粘度、γaiは基準となる樹脂におけるデータのうちi番目のデータに示されたせん断速度を示す。この場合には、補正係数Sと上記式(3)に含まれる定数とを同時に求めることが可能となるため、適切な補正係数S及び上記式(3)の定数をより効率よく取得することができる。
【0011】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第3の準備ステップでは、相関関係を求めると共に、相関関係と複数の樹脂のうち所定の樹脂における流動特性パラメータとに基づいて所定の樹脂の補正係数Scを求め、更に所定の樹脂のデータに基づき所定の樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(6)を導出し、第4の準備ステップは、第3の準備ステップにて取得された相関関係に基づいて、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数Sdを求めるとともに、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する当該成形用樹脂の補正係数Seを求めるステップと、補正係数Sdと、補正係数Scと、第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(7)に基づいて、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、補正係数Seと、補正係数Scと、第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(8)に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、を含むことが好ましい。
【数6】
【数7】
【数8】
なお、式中、ηcは所定の樹脂の粘度、γcは所定の樹脂のせん断速度、ηdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度、γdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂のせん断速度、ηeは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂の粘度、γeは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する成形用樹脂のせん断速度、Scは所定の樹脂の補正係数、Sdは成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数、Seは成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定範囲のばらつきを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数を示す。この場合には、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式を得ることができる。
【0012】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、上記式(6)は、Crossモデル又はCarreau−Yasudaモデルに基づくことが好ましい。この場合には、成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係をより適切に示す近似式を得ることができる。
【0013】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、第3の準備ステップでは、相関関係を示す下記式(9)を導出するとしてもよい。
【数9】
なお、式中、pは複数の樹脂の流動特性パラメータ、α,βは定数を示す。この場合には、複数の樹脂における補正係数Sと流動特性パラメータとの相関関係をより適切に求めることができる。
【0014】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、最適化ステップでは、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた最適化手法に従って成形条件を変更して解析ステップ及び評価ステップを反復実行し、最適な評価関数の値の集合であるパレート最適解を取得することが好ましい。この場合には、最適な成形条件の一つとして、例えば、射出時間をある程度短くしつつ型締力を低減可能なものや、型締力をある程度小さくしつつ成形性サイクルを短縮可能なものを求めることができる。
【0015】
また、本発明の射出成形条件の決定方法では、流動特性パラメータは、メルトフローレート、メルトインデックス、及びメルトフローインデックスのいずれであることが好ましい。この場合には、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を確実に求めることができる。
【0016】
ところで、本発明は、上記のように射出成形条件の決定方法の発明として記述できる他に、以下のように射出成形条件の決定プログラムの発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0017】
すなわち、本発明に係る射出成形条件の決定プログラムは、射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備処理と、複数の樹脂のうち基準となる樹脂を除く樹脂のデータを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが基準となる樹脂のデータとフィッティングするときの複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備処理と、複数の樹脂の補正係数Sと複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備処理と、相関関係に基づいて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備処理と、第4の準備処理にて推定された、成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行うと共に、第4の準備処理にて、成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で射出成形解析を行う解析処理と、射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価処理と、最適化手法に従って成形条件を変更し解析処理及び評価処理を反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる成形条件を特定し、当該特定された成形条件を最適な成形条件とする最適化処理と、を実行させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る射出成形機は、射出成形機本体と、上述した射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて射出成形機本体を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。本発明の射出成形機によれば、最適な成形条件下で樹脂製品を製造することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る樹脂製品は、上述した射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて製造されたことを特徴とする。本発明によれば、最適な成形条件下で製造された樹脂製品を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂の流動特性パラメータのばらつきを考慮したうえで、最適な成形条件を求めることが可能射出成形条件の決定方法及び射出成形条件の決定プログラムと、この決定方法を用いた樹脂及び樹脂製品とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面とともに本発明に係る射出成形条件の決定方法および射出成形条件の決定プログラムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法は、射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求めるものであって、ワークステーションやPC(Personal Computer)等の情報処理装置により実行される。情報処理装置30としては、例えば、図1に示すようなハードウェア構成のものが用いられる。図1に示すように、情報処理装置30は、中央処理装置(CentralProcessing Unit:CPU)31と、プログラムやデータを格納するためのハードディスク装置32と、主メモリ33と、キーボードやマウス等の入力装置34と、CRT(CathodeRay Tube)等の表示装置35と、磁気テープやROM等の記録媒体37を読み取る読取装置36とを含んで構成されている。ハードディスク装置32、主メモリ33、入力装置34、表示装置35、及び読取装置36は、何れも中央処理装置31に接続されている。この情報処理装置30では、プログラムを格納した記録媒体37が読取装置36に装着され、記録媒体37からプログラムが読み出されてハードディスク装置32に格納される。続いて、ハードディスク装置32に格納されたプログラムが、中央処理装置31により主メモリ33上に展開して実行されて、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法が実行される。なお、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法は、上記のようにプログラムによるものでなく装置のみで実行されるものであってもよい。また、以下に述べる一連の処理全てが情報処理装置にて実行されるとしてもよいし、一連の処理のうちの一部が情報処理装置にて実行されるとしてもよい。
【0023】
本実施形態では、最適化支援ソフトウエアと射出成形解析ソフトウエアとを組み合わせて実行することにより、最適な成形条件として、射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を求めることとする。射出成形解析ソフトウエアにはMoldflow Plastics Insight version 6.1(Moldflow Corporation製、簡易解析にて実施)を用い、最適化支援ソフトウエアにはiSIGHTversion 10.0 (Engineous Software Inc.製)を用いる。なお、適用可能な最適化支援ソフトウエアおよび射出成形解析ソフトウエアはこれに限られない。
【0024】
以下、図2のフローチャートを用いて、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法を説明する。この決定方法は大きく分けて、射出成形解析のための準備を行うステップS01と、射出成形解析を実施し、射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を特定するステップS02と、を有している。
【0025】
最初に、図3のフローチャートを用いつつ、射出成形解析のための準備を行うステップについて詳細に説明する。ここではまず、ステップS10に示すように、射出成形過程における樹脂X(成形用樹脂)の流れを解析するための解析用形状モデルを作成する。
【0026】
本実施形態の解析用形状モデルは、図4に示すような長方形(縦横比=4/5)且つ平板状を呈した、内部にキャビティを有する部材50である。部材50は、金型に相当する。かかる部材50の一隅部分には、長方形の開口部が形成されており、これによってキャビティ内で樹脂が均等に流れにくい形状となっている。例えば、部材50の外形は800mm×1000mmとなっており、開口部の大きさは100mm×400mmとなっている。部材50の板厚は、図5のようにpt1〜pt4の4つの領域毎に異なり、本実施形態ではpt1が2.0mm、pt2が2.5mm、pt3が3.0mm、pt4が3.5mmの板厚となっている。部材50主面のほぼ中央と、開口部付近に位置する部材50側面のほぼ中央とには樹脂の注入口が配置されており、各注入口には、テーパ付きスプルー51及びホットランナー52を介して、また場合によっては更にコールドランナーを介して、外部から樹脂Xが供給される。また部材50のキャビティは、図5に示すような厚み分布を有している。
【0027】
解析用形状モデルを作成したら、ステップS11に示すように、最適化手法に従って射出成形解析を行うための各種条件を設定する。より具体的には、設計変数(成形条件)、評価関数、樹脂流動特性、制約条件、初期条件、信頼性評価手法、及び最適化手法を設定する。本実施形態で設定した各種条件を表1に示す。
【表1】
【0028】
表1に示すように、本実施形態では射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを設計変数としている。
【0029】
各種条件を設定したら、ステップS12に示すように、複数の樹脂の粘度特性データを用意し、複数の樹脂の中から基準となる樹脂を1つ定める(第1の準備ステップ、第1の準備処理)。
【0030】
例えば本実施形態では、樹脂A,B,C,Dの粘度特性データを用意する。粘度特性データとは、粘度とせん断速度との関係を示すデータであり、より具体的には、せん断速度と粘度との組み合わせ(γ,η)からなるデータである。樹脂Aの粘度特性データ、樹脂Bの粘度特性データ、樹脂Cの粘度特性データ、及び樹脂Dの粘度特性データは、それぞれ複数用意される。図6は、樹脂A〜Dの粘度特性データを示すグラフである。図6に示すように、本実施形態では、樹脂A〜Dの粘度特性データを8〜10個ずつ用意する。なお、樹脂A〜Dの粘度特性データは図1に示すハードディスク装置32あるいは記録媒体37に予め格納されたものであってもよいし、本ステップにおいてユーザにより入力されたものであってもよい。
【0031】
樹脂A〜Dは、射出成形に用いる樹脂Xと同一種類の樹脂である。同一種類とは、分子量の分布形状が同一であることを指し、より具体的には同一の触媒を用い且つ同一の製造プロセスで製造されていることを指す。樹脂A〜D及び樹脂Xは、例えば、ホモポリプロピレン(ホモPP)、エチレン−プロピレンランダムコポリマー(ランダムPP)、エチレン−プロピレンブロックコポリマー(ブロックPP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)からなる群から選択される。例えば本実施形態では、樹脂A〜D及び樹脂Xとしてポリプロピレン樹脂を用いる。
【0032】
樹脂A〜Dは、流動特性パラメータが互いに異なっている。本実施形態における流動特性パラメータとは、メルトフローレート(以下、MFRと呼ぶ)である。樹脂A〜Dは、分子量の分布形状は同一であるもののMFRが互いに異なっているために、分子量のピーク位置が互いにシフトした関係となっている。例えば本実施形態では、樹脂AのMFRを2.6とし、樹脂BのMFRを8.3とし、樹脂CのMFRを14.0とし、樹脂DのMFRを65.0とする。
【0033】
樹脂A〜Dの粘度特性データを用意したら、樹脂A〜Dの中から基準となる樹脂を1つ定める。本実施形態では、樹脂Aを基準となる樹脂とする。なお、基準となる樹脂は、樹脂B〜Dのいずれかであってもよい。
【0034】
樹脂Aを基準となる樹脂として定めた後、ステップS13に示すように、樹脂B〜Dにおける粘度特性データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正する。そして、当該補正した粘度特性データが樹脂Aにおける粘度特性データとフィッティングするときの樹脂B〜Dの補正係数Sを求める(第2の準備ステップ、第2の準備処理)。
【0035】
より具体的には、補正係数Sを用いて、樹脂B〜Dの各粘度特性データの粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することで、樹脂B〜Dの各粘度特性データを補正する。つまり、図7に示すように、補正後の樹脂B〜Dの粘度特性データをグラフ上にプロットすると、かかる粘度特性データと樹脂Aの粘度特性データとが略同一線上に位置するよう、樹脂B〜Dの補正係数Sを決定する。
【0036】
樹脂B〜Dの補正係数Sを導出する方法は種々考えられるが、その一つとして以下の方法を適用することができる。
【0037】
すなわち、樹脂Aの粘度特性データから、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式として、Carreau−Yasudaモデルを用いて下記式(10)を導出する。
【数10】
式中、ηAは樹脂Aの粘度、γAは樹脂Aのせん断速度を示し、η0,λ,y,Nはそれぞれ定数である。例えば本実施形態では、図6に示す樹脂Aの粘度特性データから、η0(単位Pas)は25000、λ(単位s)は0.55、N(単位なし)は0.5、y(単位なし)は0.25となった。
【0038】
そして、上記式(10)から下記式(11)を得る。
【数11】
式中、mは樹脂Bにおける粘度特性データの数を示し、ηBiは樹脂Bの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示された粘度を示し、γbiは樹脂Bの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示されたせん断速度を示す。
【0039】
上記式(11)に樹脂Bの粘度特性データを代入して、Tの値が最も小さくなるときの補正係数Sを求める。これを樹脂Bの補正係数Sとする。樹脂Bと同様にして、樹脂C,Dについても補正係数Sをそれぞれ求める。補正を行わない樹脂Aについては、補正係数Sを1とする。このようにして、樹脂A〜Dの補正係数Sを導出する。
【0040】
なお、上述した補正係数Sの導出方法では、上記式(10)の定数η0,λ,y,Nを図6に示す樹脂Aの粘度特性データから取得するとしたが、以下の方法で定数η0,λ,y,Nを樹脂B〜Dの補正係数Sと同時に取得するとしてもよい。
【0041】
すなわち、上記式(11)に樹脂Bの粘度特性データを代入したときのTをTB、上記式(11)に樹脂Cの粘度特性データを代入したときのTをTC、上記式(11)に樹脂Dの粘度特性データを代入したときのTをTDとする。更に、上記式(10)から得られる下記式(12)よりTAを求める。なお、TA〜TDを求めるとき、上記式(10)の定数η0,λ,y,Nの値は未定とする。
【数12】
式中、nは樹脂Aにおける粘度特性データの数を示し、ηAiは樹脂Aの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示された粘度を示し、γAiは樹脂Aの粘度特性データのうちi番目の粘度特性データに示されたせん断速度を示す。
【0042】
続いて、TA+TB+TC+TDの総和値が最も小さくなるような樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nを求める。この場合、樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nは全て変数として扱われる。変数が多いので各変数値の算出はやや複雑になるが、樹脂B〜Dの補正係数Sおよび定数η0,λ,y,Nをいちどきに求めることが可能となるため、適切な値をより効率よく取得することができる。
【0043】
以上のようにして樹脂A〜Dの補正係数Sを導出したら、ステップS14に示すように、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を求める(第3の準備ステップ、第3の準備処理)。
【0044】
より具体的には、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとに基づき、これらの相関関係を示す近似式として、下記式(13)を導出する。
【数13】
式中、pはMFRを示し、α,βは定数を示す。
【0045】
定数α,βは、pに樹脂A〜DのMFRを代入した時に、ステップS13で決定された樹脂A〜Dの補正係数Sと10(−αlogp+β)との差が最も小さくなるよう、最小二乗近似によって導出される。例えば本実施形態では、α=1.0084となり、β=0.4211となった。したがって本実施形態において、上記式(13)は下記式(14)で表すことができる。
【数14】
【0046】
図8は、樹脂A〜DのMFRとステップS13で得られた樹脂A〜Dの補正係数Sとの組み合わせを点で示し、更に上記式(14)から求められる樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの関係を線で示したグラフである。
【0047】
補正係数SとMFRとの相関関係を求めたら、ステップS15に示すように、樹脂A(所定の樹脂)の粘度特性データから、Carreau−Yasudaモデルを用いて、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を近似的に示す下記式(15)を導出する(第3の準備ステップ、第3の準備処理)。
【数15】
上記式(15)はステップS13で得た上記式(10)と同一の式であるため、ステップS13にて上記式(10)を導出した場合には、ここで上記式(15)をあらためて導出する必要はなく、上記式(10)を用いることができる。
【0048】
続いて、上記式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合について樹脂Xの補正係数Sを求める(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【0049】
ここで、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合とは、例えば本実施形態では樹脂XのMFRが表1の樹脂流動特性に記載の値である場合を指し、より具体的には樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である場合を指す。ステップS16に示すように、補正係数SとMFRとの相関関係を示す式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である場合の補正係数Sを求め、これを第1の補正係数S1とする。例えば本実施形態では、第1の補正係数S1の算出式は下記式(16)のようになる。
【数16】
【0050】
また、樹脂XのMFRが、任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となるときについても樹脂Xの補正係数Sを求める(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【0051】
ここで、樹脂XのMFRが「任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となるとき」とは、例えば本実施形態では樹脂XのMFRが表1のサンプリング点の値である場合を指し、より具体的には樹脂XのMFRが(30+3×0.03×30)=32.7[g/10分、230℃]である場合を指す。ステップS17に示すように、ステップS13で導出された近似式(13)に基づいて、樹脂XのMFRが32.7[g/10分、230℃]である場合の補正係数Sを求め、これを第2の補正係数S2とする。
【0052】
続いて、ステップS18に示すように、ステップS16で得られた第1の補正係数S1と、ステップS13で得られた樹脂Aの補正係数S(ここではSAとする)と、ステップS15で導出された樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)とから、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合における、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式(17)を導出する(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【数17】
式中、ηXは樹脂Xの粘度、γXは樹脂Xのせん断速度、SAは樹脂Aの補正係数を示す。
【0053】
上記式(17)は、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合における、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式である。ステップS12で説明したように、例えば本実施形態においてSAは1、η0は25000、λは0.55、Nは0.5、yは0.25であり、また上記式(16)に示すように、樹脂XのMFRが30.0[g/10分、230℃]のときの第1の補正係数S1は0.085である。このことから、例えば本実施形態において上記式(17)は下記式(18)で表すことができる。
【数18】
【0054】
また、ステップS19に示すように、ステップS17で得られた第2の補正係数S2と、ステップS13で得られた樹脂Aの補正係数S(ここではSAとする)と、ステップS15で導出された樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)とから、樹脂XのMFRが先述したサンプリング値である時の、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す近似式(19)を導出する(第4の準備ステップ、第4の準備処理)。
【数19】
【0055】
以上述べたように、ステップS18では、樹脂XのMFRが任意の値である時、すなわち樹脂XのMFRが30[g/10分、230℃]である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す上記式(17)を導出する。また、ステップS19では、樹脂XのMFRがサンプリング値(この場合は32.7[g/10分、230℃])である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を示す上記式(19)を導出する。したがって、上記式(17)からは樹脂XのMFRが任意の値である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定することができ、上記式(19)からは樹脂XのMFRがサンプリング値(この場合は32.7[g/10分、230℃])である時の樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定できる。これらの式(17),(19)の導出を以って、射出成形解析の準備を行うステップS01は終了する。
【0056】
ステップS01が終了したら、ステップS02に示すように、射出成形解析を行い、型締力、射出時間、及び冷却時間の最適値を特定する。
【0057】
図9のフローチャートを参照しつつ、ステップS02について詳細に説明する。まず図9のステップS23に示すように、上記式(17),(19)を用いて、樹脂Xを部材50に流し込んだときの射出成形解析を行う。
【0058】
より具体的には、上記式(17)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを、部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果として、型締力、射出時間、及び冷却時間を求める。また、上記式(19)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを、部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果として、型締力、射出時間、及び冷却時間を求める。なおここでは、部材50の射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metは表1の初期条件を満たしているものとする。
【0059】
得られた射出成形解析の結果である型締力から、Taylor一次近似によりMCF、SCFを算出する。MCFは樹脂充填率98%時型締力の平均値であり、SCFは樹脂充填率98%時型締力の標準偏差である。また、得られた射出成形解析の結果である成形サイクルから、Taylor一次近似によりMCT、SCTを算出する。MCTは成形サイクルの平均値であり、SCTは成形サイクルの標準偏差である。本実施形態では、成形サイクルは、射出時間と冷却時間と製品取り出し時間(例えば10秒で固定)との和であり、冷却時間は固化時間の最大値(ただしランナー部を除く)とする。なお、型締力は射出成形機の装置規模を示す指標であり、成形サイクルは装置の生産効果を示す指標であるため、いずれも小さいほうが製造コスト的に有利である。
【0060】
続いて、ステップS24に示すように、算出されたMCF、SCF、MCT、SCTに基づいて評価関数A(所定の評価関数)の値を求める(評価ステップ、評価処理)。表1に示すように、評価関数Aは下記式(20)で表される。
【数20】
式中、MCF0は表1の初期条件で射出成形解析を行った場合の樹脂充填率98%型締力の平均値を示し、MCT0は表1の初期条件で射出成形解析を行った場合の成形サイクルを示す。RCFは3σのばらつきを考慮した樹脂充填率98%型締力を示し、RCTは3σのばらつきを考慮した成形サイクルを示す。なお先述したように、型締力は射出成形機の装置規模を示す指標であり、成形サイクルは装置の生産効果を示す指標である。そのため、評価関数Aは小さいほうが好ましい。
【0061】
上記式(20)では、(MCT+3SCF)をMCF0でスケーリングし、(MCT+3SCT)をMCT0でスケーリングしている。
【0062】
以降、ステップS25に示すように、最適化手法に従って、設計変数である射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを変更しステップS23,S24を反復実行する(最適化ステップ、最適化処理)。例えば本実施形態では、Adaptive Simulated Annealing -ASA (解適応焼き鈍し法)を用いた最適化手法に従って、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metを変更しステップS23,S24を最適な評価関数値が得られるまで、もしくは、200回まで反復実行する。なお、表1に制約条件として示すように、射出時間itは1.0以上10.0以下の値、金型温度motは30以上70以下の値、樹脂温度metは180以上240以下の値からそれぞれ選択される。
【0063】
反復実行の結果から、評価関数Aの最適値を取得する。より具体的には、反復実行によって得られた評価関数Aのうち、最小値であるもの(所定の条件を満たすもの)が評価関数Aの最適値として選択される。
【0064】
ステップS25で評価関数Aの最適値を取得した後、ステップS26に示すように、この値を求める際に用いた設計変数すなわち射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの値をそれぞれ特定する(最適化ステップ、最適化処理)。ここで特定された値が、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値となる。射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値を取得したら、最適化結果を図1に示す表示装置35に表示する。これにより、最適化支援ソフトウエア及び射出成形解析ソフトウエアの実行が終了する。表2は最適化結果を示すものである。
【表2】
【0065】
例えば本実施形態では、射出時間itが3.2[s]、金型温度motが32[℃]、樹脂温度metが238[℃]の時、評価関数Aの値が1.76と最も小さくなった。よって、MFRが30[g/10分、230℃]の樹脂Xから樹脂製品を製造する場合には、射出時間、金型温度、及び樹脂温度を上述した値とすれば、製造コストが低減された樹脂製品を得ることが可能となる。
【0066】
以上述べたように、本実施形態に係る射出成形条件の決定方法では、MFRが任意の値(すなわち30[g/10分、230℃])の樹脂Xを部材50に供給した場合について射出成形解析を行う。これと共に、MFRが、任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮したサンプリング値となっている樹脂Xを部材50に供給した場合についても、射出成形解析を行う。射出成形解析の結果に基づいて評価関数Aの値を求めるので、評価関数Aの値は樹脂XのMFRのばらつきを考慮した値となる。よって、最適化手法にしたがって得られる評価関数Aの最適値は、樹脂XのMFRのばらつきを考慮したうえで最適なものとなり、ひいてはこれにより特定される射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値もまた、樹脂XのMFRのばらつきを考慮したうえで最適なものとなる。よって、樹脂XのMFRにばらつきがあるときの最適な射出時間、金型温度、及び樹脂温度を求めることが可能となる。
【0067】
本実施形態に係る射出成形条件の決定方法では、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を基に推定する。つまり、「MFRが任意の値である樹脂Xと、MFRが前述したサンプリング値となっている樹脂Xとを用意し、各樹脂Xの粘度とせん断速度とを実測定する」といった作業を行わずとも、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を特定することができる。したがって、樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を迅速に且つ容易に求めることができる。その結果、樹脂XのMFRを種々の値に変え、各MFR値における射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metの最適値を求める、ということも可能となる。
【0068】
また、射出成形機本体と、上記の決定方法により求められた射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値に基づいて射出成形機本体を制御する制御部とを備える射出成形機を用いれば、型締力及び成形サイクルの点で最適な成形条件下で樹脂製品を製造することができるため、製造コストが低減された樹脂製品を製造することが可能となる。
【0069】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る射出成形条件の決定方法について説明する。本実施形態は、評価関数が2種類ある点と、最適化手法に多目的遺伝的アルゴリズムを適用する点とで、第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法と大きく異なる。以下、第1の実施形態と相違する点について重点的に説明する。
【0070】
本実施形態では、図3に示すステップS11にて、表3に示す各種条件が設定される。
【表3】
【0071】
各種条件を設定後、第1の実施形態と同様に、ステップS12〜S19が実行される。ステップS19を実行後、第1世代のP個の個体の設計変数(第1世代遺伝子)を、制約条件の中で適宜に、例えば乱数を用いて選択する。
【0072】
これ以降は、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた工程となる。例えば本実施形態では、表3に示すように、Neighborhood Cultivation Genetic Algorithm -NCGA(近傍培養型遺伝的アルゴリズム)を用い、個体数Pは20とし、世代数Gは50とした。すなわち、ステップS19を実行後、第1世代の各個体について、上記式(17)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを用い、射出成形解析を行う。また、上記式(19)で表される粘度とせん断速度との関係を有する樹脂Xを用い、射出成形解析を行う。そして、射出成形解析の結果から、MCF、SCF、MCT、SCTを算出し、算出したMCF、SCF、MCT、SCTに基づいて評価関数B,Cの値を求める。なお表3に示すように、評価関数Bは下記式(21)で表され、評価関数Cは下記式(22)で表される。
【数21】
【数22】
【0073】
次に、求められた第1世代の各個体の評価関数B,Cの値を評価し、多目的遺伝的アルゴリズムの手法に則り、新たな第2世代の遺伝子を持つ個体群を生成する。そして、第2世代の各個体についても、第1世代の各個体と同様に射出成形解析を行い、それぞれの評価関数B,Cの値を算出する。以下、評価関数B,Cの値の評価、個体群の新たな生成、各個体の射出成形解析、及び評価関数B,Cの値の算出、といった一連の工程を反復実行する。反復実行は、第G世代まで行われる。そして、各世代の個体の評価に基づき、パレート最適解を作成し、表示する。パレート最適解を図10に示す。
【0074】
このようにしてパレート最適解を得ることにより、射出時間it、金型温度mot、及び樹脂温度metとして、例えば成形サイクルをある程度短くしつつ型締力を低減可能なもの、あるいは型締力をある程度小さくしつつ成形性サイクルを短縮可能なもの、を適宜選択することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、評価関数の種類は上述したものに限られない。また、最適化手法もAdaptiveSimulated Annealing -ASA (解適応焼き鈍し法)やNeighborhood Cultivation Genetic Algorithm-NCGA(近傍培養型遺伝的アルゴリズム)に限られない。
【0077】
また、本実施形態のステップS15では、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式(15)を導出するとしたが、樹脂B〜Dのいずれかについて近似式を導出するとしてもよい。例えば樹脂Bについて粘度とせん断速度との関係を示す近似式を導出した場合には、上記式(17),(19)では樹脂Aの補正係数SAに代わり樹脂Bの補正係数SBが用いられることになる。
【0078】
また、本実施形態のステップS13,15において、樹脂Aにおける粘度とせん断速度との関係を示す近似式をCarreau−Yasudaモデルを用いて導出するとしたが、Crossモデルを用いて導出するとしてもよい。この場合には、上記式(10),(15)に代わって下記式(23)を導出することとなる。
【数23】
式中、ηAは樹脂Aの粘度、γAは樹脂Aのせん断速度を示し、η0,K,Nはそれぞれ定数である。
【0079】
また、本実施形態では、流動特性パラメータとしてMFRを用いるとしたが、流動特性パラメータとしてメルトインデックス又はメルトフローインデックスを用いるとしてもよい。
【0080】
また、本実施形態のステップS23では、Taylor一次近似によりMCF、SCF、MCT、およびSCTを算出しているが、モンテカルロ法やその他のサンプリング方法によりこれらを算出するとしてもよい。
【0081】
また、第1実施形態のステップS25では、設計変数を変更してステップS23,S24を200回反復実行し、この結果に基づいて評価関数Aの最適値を取得するとした。第2実施形態では、評価関数B,Cの値の評価、個体群の新たな生成、各個体の射出成形解析、及び評価関数B,Cの値の算出、といった一連の工程を、1000回(20個体、50世代)反復実行し、この結果に基づいて評価関数B,Cの最適値を取得するとした。しかしながら、反復実行する回数は上記のものに限られない。また、評価関数の値が十分に小さくなった時点で反復実行を終了するとしてもよい。
【0082】
また、本実施形態のステップS10では、4つの樹脂A〜Dの粘度特性データを用意するとしたが、樹脂の数がこれに限られないことはいうまでもない。また、樹脂A〜Dの粘度特性データを8〜10個ずつ用意するとしたが、粘度特性データの数がこれに限られないことはいうまでもない。
【0083】
(成形条件最適化プログラム)
次に、上述した一連の処理を情報処理装置30に実行させるための射出成形条件の決定プログラムについて説明する。図11に示すように、成形条件最適化プログラム(射出成形条件の決定プログラム)71は、情報処理装置により読取可能な、あるいは情報処理装置に備えられる、記録媒体70に形成されたプログラム格納領域70a内に格納される。なお、記録媒体70が情報処理装置により読取可能なものである場合、かかる記録媒体70は図1に示す記録媒体37に相当する。
【0084】
成形条件最適化プログラム71は、射出成形条件の決定方法を統括的に制御するメインモジュール71aと、第1の準備モジュール71bと、第2の準備モジュール71cと、第3の準備モジュール71dと、第4の準備モジュール71eと、解析モジュール71fと、評価モジュール71gと、最適化モジュール71hと、を備えて構成される。
【0085】
第1の準備モジュール71bは、樹脂A〜Dそれぞれについて、粘度とせん断速度との関係を示すデータを用意すると共に、樹脂A〜Dの中から基準となる樹脂を1つ定めるモジュールである。第2の準備モジュール71cは、樹脂A〜Dのうちから基準となる樹脂を除く樹脂における粘度特性データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正した粘度特性データが基準となる樹脂における粘度特性データとフィッティングするときの樹脂A〜Dの補正係数Sを求めるモジュールである。第3の準備モジュール71dは、樹脂A〜Dの補正係数Sと樹脂A〜DのMFRとの相関関係を求めるモジュールである。第4の準備モジュール71eは、第3の準備モジュール71dで得られた相関関係に基づいて、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合について樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、樹脂XのMFRが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、樹脂XのMFRをサンプリングして樹脂Xの粘度とせん断速度との関係を推定するモジュールである。
【0086】
解析モジュール71fは、第4の準備モジュール71eにて推定された、樹脂XのMFRが任意の値を有する場合の粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で部材50を用いた射出成形解析を行うモジュールである。これと共に、解析モジュール71fは、第4の準備モジュール71eにおいて、樹脂XのMFRが任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮し樹脂XのMFRをサンプリングして推定した、粘度とせん断速度との関係に基づいて、任意の成形条件下で部材50を用いた射出成形解析を行うモジュールである。
【0087】
評価モジュール71gは、射出成形解析の複数の結果に基づいて所定の評価関数の値を求めるモジュールである。最適化モジュール71hは、最適化手法に従って射出時間、金型温度、及び樹脂温度を変更し射出成形解析及び評価関数値の算出を反復実行することによって、最適な評価関数の値が得られる射出時間、金型温度、及び樹脂温度を特定し、これらを最適値とするモジュールである。
【0088】
すなわち、第1の準備モジュール71bは上記の実施形態におけるステップS12を実現させ、第2の準備モジュール71cはステップS13を実現させ、第3の準備モジュール71dはステップS14,S15を実現させ、第4の準備モジュール71eはステップS16〜S19を実現させ、解析モジュール71fはステップS23を実現させ、評価モジュール71gはステップS24を実現させ、最適化モジュール71hはステップS25,S26を実現させる。なお、成形条件最適化プログラム71は、その一部若しくは全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施形態に係る射出成形条件の決定方法が実行される情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る射出成形条件の決定方法を示すフローチャートである。
【図3】射出成形解析のための準備ステップを示すフローチャートである。
【図4】第1の形態の解析用形状モデルを示す図である。
【図5】第1の形態の解析用形状モデルにおけるキャビティの厚み分布を示す図である。
【図6】樹脂A〜Dの粘度特性データを示すグラフである。
【図7】補正後の樹脂B〜Dの粘度特性データと、樹脂Aの粘度特性データとを示すグラフである。
【図8】樹脂A〜DのMFRと補正係数Sの樹脂A〜Dの補正係数Sとの組み合わせを点で示し、上記式(14)から求められるMFRと補正係数Sとの関係を線で示したグラフである。
【図9】射出成形解析を行って射出時間、金型温度、及び樹脂温度の最適値を特定するステップを示すフローチャートである。る。
【図10】第2実施形態に係る射出成形条件の決定方法の結果を示すグラフである。
【図11】本実施形態に係る射出成形条件の決定プログラムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
30…情報処理装置、31…中央処理装置、32…ハードディスク装置、33…主メモリ、34…入力装置、35…表示装置、36…読取装置、37…記録媒体、50…部材、51…スプルー、52…ホットランナー、53…ゲート、70…記録媒体、70a…プログラム格納領域、71…成形条件最適化プログラム、71a…メインモジュール、71b…第1の準備モジュール、71c…第2の準備モジュール、71d…第3の準備モジュール、71e…第4の準備モジュール、71f…解析モジュール、71g…評価モジュール、71h…最適化モジュール。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定方法であって、
射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、前記複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備ステップと、
前記複数の樹脂のうち前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが前記基準となる樹脂の前記データとフィッティングするときの前記複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備ステップと、
前記複数の樹脂の補正係数Sと前記複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備ステップと、
前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備ステップと、
前記第4の準備ステップにて推定された、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の前記粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で前記射出成形解析を行うと共に、前記第4の準備ステップにて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、前記任意の成形条件下で前記射出成形解析を行う解析ステップと、
前記射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価ステップと、
最適化手法に従って前記成形条件を変更し前記解析ステップ及び前記評価ステップを反復実行することによって、最適な前記評価関数の値が得られる前記成形条件を特定し、当該特定された成形条件を前記最適な成形条件とする最適化ステップと、
を有することを特徴とする射出成形条件の決定方法。
【請求項2】
前記最適化ステップでは、前記射出成形解析の複数の結果から算出される制約関数の値が所定の制約条件を満たし且つ前記評価関数の値が最適となるような、前記成形条件を特定することを特徴とする請求項1に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項3】
前記第2の準備ステップでは、前記基準となる樹脂の前記データに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(1)を導出し、前記基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(1)に基づく下記式(2)においてTの値が最も小さくなるような前記補正係数Sを求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形条件の決定方法。
【数1】
【数2】
ηa:前記基準となる樹脂の粘度
γa:前記基準となる樹脂のせん断速度
m:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データの数
ηbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
【請求項4】
前記第2の準備ステップでは、前記基準となる樹脂の前記データに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(3)を準備し、前記基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(4)からTを求め、前記基準となる樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(5)からTaを求め、前記基準となる樹脂を除く樹脂のTを総和した値とTaとの和が最も小さくなるよう、前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記補正係数Sと下記式(3)に含まれる定数とをそれぞれ求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形条件の決定方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ηa:前記基準となる樹脂の粘度
γa:前記基準となる樹脂のせん断速度
m:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データの数
ηbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
n:前記基準となる樹脂における前記データの数
ηai:前記基準となる樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γai:前記基準となる樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
【請求項5】
前記第3の準備ステップでは、前記相関関係を求めると共に、前記相関関係と前記複数の樹脂のうち所定の樹脂における前記流動特性パラメータとに基づいて前記所定の樹脂の補正係数Scを求め、更に前記所定の樹脂の前記データに基づき前記所定の樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(6)を導出し、
前記第4の準備ステップは、
前記第3の準備ステップにて取得された前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数Sdを求めるとともに、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する当該成形用樹脂の補正係数Seを求めるステップと、
前記補正係数Sdと、前記補正係数Scと、前記第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(7)に基づいて、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、
前記補正係数Seと、前記補正係数Scと、前記第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(8)に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、
を含むことを特徴とする請求項請求項1〜4のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【数6】
【数7】
【数8】
ηc:前記所定の樹脂の粘度
γc:前記所定の樹脂のせん断速度
ηd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度
γd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂のせん断速度
ηe:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の粘度
γe:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂のせん断速度
Sc:前記所定の樹脂の補正係数
Sd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数
Se:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の補正係数
【請求項6】
上記式(6)は、Crossモデル又はCarreau−Yasudaモデルに基づくことを特徴とする請求項5に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項7】
前記第3の準備ステップでは、前記相関関係を示す下記式(9)を導出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【数9】
p:前記複数の樹脂の流動特性パラメータ
α,β:定数
【請求項8】
前記最適化ステップでは、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた最適化手法に従って前記成形条件を変更して前記解析ステップ及び前記評価ステップを反復実行し、前記最適な評価関数の値の集合であるパレート最適解を取得することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項9】
前記流動特性パラメータは、メルトフローレート、メルトインデックス、及びメルトフローインデックスのいずれであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項10】
射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定プログラムであって、
前記情報処理装置に、
射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、前記複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備処理と、
前記複数の樹脂のうち前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが前記基準となる樹脂の前記データとフィッティングするときの前記複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備処理と、
前記複数の樹脂の補正係数Sと前記複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備処理と、
前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備処理と、
前記第4の準備処理にて推定された、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の前記粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で前記射出成形解析を行うと共に、前記第4の準備処理にて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、前記任意の成形条件下で前記射出成形解析を行う解析処理と、
前記射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価処理と、
最適化手法に従って前記成形条件を変更し前記解析処理及び前記評価処理を反復実行することによって、最適な前記評価関数の値が得られる前記成形条件を特定し、当該特定された成形条件を前記最適な成形条件とする最適化処理と、
を実行させることを特徴とする射出成形条件の決定プログラム。
【請求項11】
射出成形機本体と、
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて前記射出成形機本体を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする射出成形機。
【請求項12】
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて製造されたことを特徴とする樹脂製品。
【請求項1】
射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定方法であって、
射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、前記複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備ステップと、
前記複数の樹脂のうち前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが前記基準となる樹脂の前記データとフィッティングするときの前記複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備ステップと、
前記複数の樹脂の補正係数Sと前記複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備ステップと、
前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備ステップと、
前記第4の準備ステップにて推定された、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の前記粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で前記射出成形解析を行うと共に、前記第4の準備ステップにて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、前記任意の成形条件下で前記射出成形解析を行う解析ステップと、
前記射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価ステップと、
最適化手法に従って前記成形条件を変更し前記解析ステップ及び前記評価ステップを反復実行することによって、最適な前記評価関数の値が得られる前記成形条件を特定し、当該特定された成形条件を前記最適な成形条件とする最適化ステップと、
を有することを特徴とする射出成形条件の決定方法。
【請求項2】
前記最適化ステップでは、前記射出成形解析の複数の結果から算出される制約関数の値が所定の制約条件を満たし且つ前記評価関数の値が最適となるような、前記成形条件を特定することを特徴とする請求項1に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項3】
前記第2の準備ステップでは、前記基準となる樹脂の前記データに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(1)を導出し、前記基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(1)に基づく下記式(2)においてTの値が最も小さくなるような前記補正係数Sを求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形条件の決定方法。
【数1】
【数2】
ηa:前記基準となる樹脂の粘度
γa:前記基準となる樹脂のせん断速度
m:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データの数
ηbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
【請求項4】
前記第2の準備ステップでは、前記基準となる樹脂の前記データに基づき、当該樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(3)を準備し、前記基準となる樹脂を除く樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(4)からTを求め、前記基準となる樹脂について、下記式(3)に基づく下記式(5)からTaを求め、前記基準となる樹脂を除く樹脂のTを総和した値とTaとの和が最も小さくなるよう、前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記補正係数Sと下記式(3)に含まれる定数とをそれぞれ求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形条件の決定方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ηa:前記基準となる樹脂の粘度
γa:前記基準となる樹脂のせん断速度
m:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データの数
ηbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γbi:前記基準となる樹脂を除く樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
n:前記基準となる樹脂における前記データの数
ηai:前記基準となる樹脂における前記データのうちi番目のデータに示された粘度
γai:前記基準となる樹脂における前記データのうちi番目のデータに示されたせん断速度
【請求項5】
前記第3の準備ステップでは、前記相関関係を求めると共に、前記相関関係と前記複数の樹脂のうち所定の樹脂における前記流動特性パラメータとに基づいて前記所定の樹脂の補正係数Scを求め、更に前記所定の樹脂の前記データに基づき前記所定の樹脂の粘度とせん断速度との関係を示す近似式として下記式(6)を導出し、
前記第4の準備ステップは、
前記第3の準備ステップにて取得された前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数Sdを求めるとともに、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する当該成形用樹脂の補正係数Seを求めるステップと、
前記補正係数Sdと、前記補正係数Scと、前記第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(7)に基づいて、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、
前記補正係数Seと、前記補正係数Scと、前記第3の準備ステップにて導出された下記式(6)と、から導出される下記式(8)に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定するステップと、
を含むことを特徴とする請求項請求項1〜4のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【数6】
【数7】
【数8】
ηc:前記所定の樹脂の粘度
γc:前記所定の樹脂のせん断速度
ηd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の粘度
γd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂のせん断速度
ηe:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の粘度
γe:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂のせん断速度
Sc:前記所定の樹脂の補正係数
Sd:前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の当該成形用樹脂の補正係数
Se:前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングし、当該サンプリングにより得られた流動特性パラメータを有する前記成形用樹脂の補正係数
【請求項6】
上記式(6)は、Crossモデル又はCarreau−Yasudaモデルに基づくことを特徴とする請求項5に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項7】
前記第3の準備ステップでは、前記相関関係を示す下記式(9)を導出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【数9】
p:前記複数の樹脂の流動特性パラメータ
α,β:定数
【請求項8】
前記最適化ステップでは、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた最適化手法に従って前記成形条件を変更して前記解析ステップ及び前記評価ステップを反復実行し、前記最適な評価関数の値の集合であるパレート最適解を取得することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項9】
前記流動特性パラメータは、メルトフローレート、メルトインデックス、及びメルトフローインデックスのいずれであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法。
【請求項10】
射出成形により樹脂製品を製造するにあたり、最適な成形条件を求める射出成形条件の決定プログラムであって、
前記情報処理装置に、
射出成形に用いる成形用樹脂と同一種類で且つ流動特性パラメータが互いに異なる複数の樹脂それぞれについて、粘度とせん断速度との組み合わせからなる複数のデータを用意すると共に、前記複数の樹脂のうちから基準となる樹脂を1つ定める第1の準備処理と、
前記複数の樹脂のうち前記基準となる樹脂を除く樹脂の前記データを、補正係数Sを用いて粘度を1/S倍し且つせん断速度をS倍することによって補正し、当該補正したデータが前記基準となる樹脂の前記データとフィッティングするときの前記複数の樹脂の補正係数Sをそれぞれ求める第2の準備処理と、
前記複数の樹脂の補正係数Sと前記複数の樹脂の流動特性パラメータとの相関関係を求める第3の準備処理と、
前記相関関係に基づいて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが任意の値を有する場合について当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定すると共に、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して、前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングして、当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係を推定する第4の準備処理と、
前記第4の準備処理にて推定された、前記成形用樹脂が任意の流動特性パラメータを有する場合の前記粘度とせん断速度に基づいて、任意の成形条件下で前記射出成形解析を行うと共に、前記第4の準備処理にて、前記成形用樹脂の流動特性パラメータが前記任意の値から所定のばらつきを有する場合を考慮して前記成形用樹脂の流動特性パラメータをサンプリングすることにより推定された当該成形用樹脂の粘度とせん断速度との関係に基づいて、前記任意の成形条件下で前記射出成形解析を行う解析処理と、
前記射出成形解析の複数の結果に基づいて、所定の評価関数の値を求める評価処理と、
最適化手法に従って前記成形条件を変更し前記解析処理及び前記評価処理を反復実行することによって、最適な前記評価関数の値が得られる前記成形条件を特定し、当該特定された成形条件を前記最適な成形条件とする最適化処理と、
を実行させることを特徴とする射出成形条件の決定プログラム。
【請求項11】
射出成形機本体と、
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて前記射出成形機本体を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする射出成形機。
【請求項12】
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の射出成形条件の決定方法により求められた成形条件に基づいて製造されたことを特徴とする樹脂製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【公開番号】特開2008−290346(P2008−290346A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138357(P2007−138357)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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