説明

射出成形金型、樹脂成形品、および樹脂成形品の製造方法

【課題】成形品がアンダーカット部を有する場合であっても、成形品の多数個取りが可能であり、成形品に見合った大きさで簡易な構造の射出成形金型、および該金型を用いて製造された樹脂成形品、並びに該金型を用いた樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】射出成形金型1は、固定型と可動型3とスライドコア4とを有し、中空部を有する樹脂成形品を多数個取りするための金型であって、固定型と可動型3とのパーティングラインが1ヶ所であり、該射出成形金型における成形キャビティが、可動型の可動方向に直列にスライドコア4により分けられて複数形成され、成形品の中空部を形成するコアピン5を有し、それぞれの成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲート6が該コアピン5に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数個取りできる合成樹脂製品の射出成形金型、樹脂成形品、および樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂からなる製品を製造する手段として、射出成形による製造方法が一般的に行なわれている。射出成形は複雑な形状の製品を製造する場合にも、射出成形金型によって容易に大量生産が可能である。一般的に、射出成形金型は、固定型(固定側の金型)と、固定型に対して型締め、型開き可能な可動型(可動側の金型)と、から構成される。型締めされた固定型と可動型とによって形成された成形キャビティに溶融樹脂を射出充填して固化させることにより、成形キャビティの形状に対応する成形品を成形する。
【0003】
射出成形金型では、一つの射出成形金型に複数の成形キャビティを設けることによって、一回の成形工程で複数の成形品を同時に製造することが可能である。そのような多数個取りの射出成形金型は、通常、固定型と可動型の合わせ面(パーティングライン(以下、PLと記す))に成形キャビティが並列に並べられている。
【0004】
また、より多くの成形品を同時に製造する射出成形金型として、可動型を複数に重ね、それぞれの可動型に成形キャビティを形成した、スタックモールド金型が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、成形品がアンダーカット部(金型を開くのみでは取り出せない形状部分)を有する場合の多数個取りの射出成形金型として、スライドコアが互いに干渉しないように、スライドコアを成形キャビティの並び方向に対して角度を付けて配置した射出成形金型が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
その他、芯棒状の固定金型の軸方向に直列に配設された複数の円環状の可動金型を備え、上記可動金型が、上記固定金型に対して半径方向に離接可能なように上記固定金型の外周側に配設された、複数のスライドコアとランナ用スライドコアとを備えた射出成形金型が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−129640号公報
【特許文献2】特開2002−234059号公報
【特許文献3】特開2005−225032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された射出成形金型は、成形品の多数個取りが可能であるが、溶融樹脂の流路(スプルー、ランナー)が長くなるために溶融樹脂の冷却速度が速くなる。そのため、ひけ等の不具合が発生しにくい、薄肉成形品での応用に限定され、複雑形状の成形品への適用は困難であった。
【0009】
また、特許文献2に開示された射出成形金型は、成形品の多数個取りが可能であるが、スライドコアが複数セット必要であり、金型構造が全体として複雑になる。このため、金型の製造コストが大きい。また、成形キャビティが並列構造であり、スライドコア構造も複雑であるため、1個取りの射出成形金型と比較して金型自体も大きくなる。
【0010】
また、特許文献3に開示された射出成形金型は、スライドコアにゲートが形成されているため、溶融樹脂の流路が複雑な構造になり、金型自体が大きくなる。
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、成形品がアンダーカット部を有する場合であっても、成形品の多数個取りが可能であり、成形品に見合った大きさで簡易な構造の射出成形金型、および該金型を用いて製造された樹脂成形品、並びに該金型を用いた樹脂成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の射出成形金型は、可動型と固定型とスライドコアとを有し、中空部を有する樹脂成形品を多数個取りするための射出成形金型であって、上記固定型と上記可動型とのPLが1ヶ所であり、該射出成形金型における成形キャビティが、上記可動型の可動方向に直列に上記スライドコアにより分けられて複数形成され、上記成形品の中空部を形成するコアピンを有し、それぞれの上記成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲートが該コアピンに形成されていることを特徴とする。
【0013】
上記スライドコアの可動方向内側に設けられた、上記コアピンと接触する凸部によって、上記成形キャビティが上記可動型の可動方向に直列に分けられて複数形成されていることを特徴とする。
【0014】
上記スライドコアが、上記固定型と上記可動型とのPLをキャビティ正面から見たとき、上記成形キャビティを中心にして放射状に可動することを特徴とする。また、上記スライドコアが、1セットであることを特徴とする。
【0015】
上記スライドコアの可動方向内側に、凸部および/または凹部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の樹脂成形品は、上記本発明の射出成形金型を用いて製造されることを特徴とする。また、上記成形品の表面に、穴、窪み、または突起があることを特徴とする。
【0017】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、上記本発明の射出成形金型を用いて中空部を有する樹脂成形品を複数個同時に製造する方法であって、上記固定型と上記可動型とを衝合した状態で上記スライドコアにより分けられた複数の上記成形キャビティに上記サブマリンゲートを介して樹脂を射出充填する工程と、該樹脂が固化後、上記可動型を開き、かつ、上記スライドコアを可動させて、上記コアピン部分が中空部である成形キャビティの形状の複数の樹脂成形品を取り出す工程とを備えてなることを特徴とする。
【0018】
上記取り出す工程は、1つの樹脂成形品の端面を突き出しピンにより突き出すことで、複数の樹脂成形品のすべてを取り出す工程であることを特徴とする。また、上記取り出し後の樹脂成形品について、後加工しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の射出成形金型は、可動型と固定型とスライドコアとを有し、固定型と可動型とのPLが1ヶ所であり、該射出成形金型における成形キャビティが、可動型の可動方向に直列にスライドコアにより分けられて複数形成され、成形品の中空部を形成するコアピンを有し、それぞれの成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲートが該コアピンに形成されているので、多数個取りの金型でありながら、成形キャビティを並列に形成することなく、射出成形金型の大きさ(縦横寸法)を1個取りの射出成形金型と同じにすることができ、成形品に見合った大きさにできる。また、PLが1ヶ所であるので、金型の型開き構造が単純化できる。さらに、ゲートが中空部を形成するコアピンに形成されたサブマリンゲートであるので、溶融樹脂の流路を単純な構造にすることができ、ゲートをスライドコアに形成する場合と比較して、射出成形金型の単純化が可能であり、金型の大型化を避けられる。
【0020】
上記スライドコアの可動方向内側に設けられた、上記コアピンと接触する凸部によって、上記成形キャビティが上記可動型の可動方向に直列に分けられて複数形成されているので、1セットのスライドコアを用いる簡易な構造で複数個の成形品を成形できる。
【0021】
上記成形キャビティが上記可動型の可動方向に直列に分けられて複数形成されているので、上記スライドコアが、上記固定型と上記可動型とのPLをキャビティ正面から見たとき、成形キャビティを中心にして放射状に可動する構造とする場合でも、金型構造が複雑になることが無い。
【0022】
上記スライドコアは、1セットのみ使用するので、金型構造が複雑にならず、複数の成形品が製造可能になる。また、金型の大型化を避けられる。
【0023】
上記スライドコアの可動方向内側に、凸部および/または凹部が設けられているので、該凸部や凹部により、アンダーカット部となる穴、窪み、または突起を有する樹脂成形品の製造が可能となる
【0024】
本発明の樹脂成形品の製造方法は、上記射出成形金型を用いて中空部を有する樹脂成形品を複数個同時に製造する方法であって、固定型と可動型とを衝合した状態でスライドコアにより分けられた複数の成形キャビティにサブマリンゲートを介して樹脂を射出充填する工程と、該樹脂が固化後、可動型を開き、かつ、スライドコアを可動させて、コアピン部分が中空部である成形キャビティの形状の複数の樹脂成形品を取り出す工程とを備えてなるので、1セットのスライドコアによって同時に複数の成形品が得られ、複雑な構造の射出成形金型を使用することなく、かつ、小さな射出成形金型によって製造でき、製造コストを低く抑えることができる。
【0025】
また、取り出す工程は、1つの樹脂成形品の端面を突き出しピンにより突き出すことで、複数の樹脂成形品のすべてを取り出す工程であるので、成形品の取り出しが容易であり、突き出し構造を単純化できる。
【0026】
また、射出成形でゲートカットおよび成形品の分割が行なわれるので、成形された樹脂成形品の後加工を不要にすることができる。
【0027】
本発明の樹脂成形品は、上記射出成形金型を用いて製造されるので、複数個を同時に得られ、製造コストを低く抑えることができる。また、樹脂成形品の表面に穴、窪み、または突起を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の射出成形金型の一例を示す図であり、成形後にスライドコアが放射状に開いて成形品(軸受保持器)が現れた状態を示す軸方向側面図である。
【図2】本発明の射出成形金型の一例を示す図であり、成形品を突き出しピンにより突き出した状態を示す斜視図である。
【図3】図1および図2におけるスライドコアの単体斜視図である。
【図4】図1におけるコアピン周辺の拡大斜視図である。
【図5】本発明の樹脂成形品の製造方法における各工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の射出成形金型の一実施例を図1および図2に基づいて説明する。図1は、成形後にスライドコアが放射状に開いて成形品が現れた状態を示す軸方向側面図であり、図2は、成形品を突き出しピンにより突き出した状態を示す斜視図である。図1および図2に示すように、本発明の射出成形金型1は、固定型2と可動型3と複数のスライドコア4とを有する。可動型3側にコアピン5を有し、該コアピン5の内部に成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲート6が設けられている。コアピン5は、成形品の中空部を形成するものである。コアピン5は、可動型3の可動方向(図1中矢印)を軸方向とする円柱形状であり、成形キャビティの軸方向の中心に形成されている。可動型3と固定型2との衝合面となるPL8は1ヶ所である。PLが1ヶ所であるので、金型の型開き構造が単純化できる。また、複数の突き出しピン7が、可動型3側でコアピン5の周囲に設けられている。なお、図1における樹脂成形品9は、ラジアル軸受であるニードルベアリングの保持器である。
【0030】
射出成形金型1において、成形キャビティは、可動型3の可動方向に直列に複数(2個)形成される。この複数の成形キャビティは、固定型2と可動型3とが衝合された状態で、スライドコア4により可動型3の可動方向に直列に分けられることで形成されている。また、複数の成形キャビティは、すべて可動型3側に形成されている。この複数の成形キャビティにより、樹脂成形品を同時に複数個成形でき、成形品の多数個取りができる。成形キャビティを可動型3の可動方向に直列に形成することで、射出成形金型の大きさ(キャビティ正面から見た縦横寸法)を1個取りの射出成形金型と同じにできる。
【0031】
スライドコア4は、固定型2と可動型3とのPL8をキャビティ正面(コアピン軸方向)から見たとき、該成形キャビティを中心にして放射状に可動するものである。ここで、スライドコア4が放射状に可動するとは、固定型2と可動型3とのPL8をキャビティ正面から見たとき、複数個で構成されるスライドコア4のそれぞれが、成形キャビティを中心にして任意の円周角方向に可動し、スライドコア4全体として全周(360°)方向に放射状(同心円状)に広がるように可動することをいう。また、図1および図2では、説明のために簡略してスライドコア4は2個のみ表示しているが、実際の態様では、スライドコア4は、可動型3のすべての凹部3aに配置され、型締め時においてはコアピン5に衝合してその全周を隙間なく覆う形状となる。なお、隣り合うスライドコア4の合わせ目が、スライドコアパーティングライン(SPL)となる。
【0032】
図3にスライドコア4の単体斜視図を示す。スライドコア4は、可動方向内側の端面に設けられた、コアピンと接触する凸部4aを有する。ここで、可動方向内側とは、それぞれのスライドコア4において、該スライドコア4が可動する円周角方向の反対側をいう。凸部4aは、それぞれのスライドコア4の可動方向内側の端面4bにおいて、該スライドコアの周方向の全幅Wにわたり形成されている。なお、凸部4aの軸方向長さLは任意の長さに設定され、この長さLが成形キャビティ間の距離となる。スライドコア4は、複数個(1セット)で周方向を隙間なく覆う形状であるので、それぞれのスライドコア4の可動方向内側の端面において、凸部4aを該スライドコア4の周方向の全幅Wにわたり形成することで、型締め時において、スライドコア4の該凸部4aが周方向に連結された形で、コアピン5の軸方向の一部の全周を接触して覆う形状となる。この周方向に連結された形の凸部4aにより、成形キャビティが、可動型3の可動方向(コアピン軸方向)に直列に2つに分けて形成される。
【0033】
スライドコア4は、型締め時においてコアピンに衝合してその全周を隙間なく覆う形状であれば、他の部位の形状や個数は任意にすることができる。スライドコア4は、同時に可動、または、連動して可動する複数個で構成される1セットからなる。スライドコア4は、この実施態様で示すように、すべてのスライドコア4を同一形状とする他、各スライドコアを相互に異なる形状としてもよい。本発明の射出成形金型1は、凸部4aを設けること等により、成形キャビティを複数としながら1セットのスライドコア4で樹脂成形品を同時に複数個成形でき、成形キャビティの数のスライドコアセットは不要となる。スライドコア4を1セットとすることで、金型構造が複雑にならない。
【0034】
スライドコア4は、可動方向内側の端面に上記凸部4aの他に、成形品の表面に穴、窪み、または突起を形成するための凸部および/または凹部を設けることができる。図3に示すように、この実施態様では、成形品表面に長穴を複数形成するために、各スライドコア4の可動方向内側の端面4bにおいて、凸部4cが形成されている。この凸部4c1つで、成形品表面に1つ長穴が形成されるので、1つの成形品全体にはスライドコア4の個数分の長穴が形成される。樹脂成形品において、突き出し方向に対して垂直方向等に形成される成形品表面の穴、窪み、突起は、アンダーカット部となるが、本発明の射出成形金型では、この部分を上記のスライドコア4で容易に形成できる。このため、本発明の射出成形金型は、表面に穴、窪み、または突起がある樹脂成形品の製造にも好適に利用できる。
【0035】
図4にコアピン周辺の拡大斜視図を示す。図4では、スライドコアの一部を省略している。図4に示すように、コアピン5は、その内部に成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲート6が形成されている。サブマリンゲート6は、少なくとも成形キャビティの数だけ形成する。この実施態様では、成形キャビティが2つであるので、2つのサブマリンゲート6がコアピン5に形成されている。なお、必要に応じて、1つの成形キャビティに対して複数のゲートを設けてもよい。本発明の射出成形金型では、コアピン5に沿って軸方向に直列に成形キャビティが形成されるので、コアピン5の内部にサブマリンゲート6の形成が可能となる。樹脂成形品の中空部を形成するコアピン5の内部に、サブマリンゲート6を形成することで、溶融樹脂の流路を単純な構造にでき、ゲートをスライドコアに形成する場合と比較して、射出成形金型が単純化でき、金型の大型化を避けられる。
【0036】
各サブマリンゲート6の形状は、特に限定されないが、該ゲートが繋がるそれぞれの成形キャビティにおいて、各成形キャビティで樹脂が同時に充填されるよう充填バランスに優れた形状とすることが好ましい。例えば、溶融樹脂の流路長差(ゲート長さの差)を可能な限り小さくするために、PLから見て遠い成形キャビティに設けるゲートは該成形キャビティのPLに近い位置に形成し、PLから見て近い成形キャビティに設けるゲートは該成形キャビティのPLに遠い位置に形成できる。また、ゲート長さが異なる場合は、その断面積を調整することで充填バランスの改善を図ることができる。サブマリンゲートを成形キャビティ間での樹脂の充填バランスに優れた形状とすることで、各成形キャビティで同時に成形される樹脂成形品間の品質のばらつきをなくすことができる。
【0037】
本発明の射出成形金型を用いて、樹脂組成物を材料として樹脂成形品を成形できる。材料として用いる樹脂組成物の種類は、樹脂成形品の要求特性に応じて任意に決定できる。この樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド6−6(PA66)樹脂、ポリアミド6−10(PA610)樹脂、ポリアミド6−12(PA612)樹脂、ポリアミド4−6(PA46)樹脂、ポリアミド9−T(PA9T)樹脂、ポリアミド6−T(PA6T)樹脂、ポリメタキシレンアジパミド(ポリアミドMXD−6)樹脂などのポリアミド(PA)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)樹脂などの射出成形可能なフッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、射出成形可能なポリイミド(PI)樹脂などが挙げられる。なお、各ポリアミド樹脂において、数字はアミド結合間の炭素数を表し、Tはテレフタル酸残基を表す。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。
【0038】
これらの合成樹脂の中でも、射出成形性に優れ、上記した形状のサブマリンゲートであっても容易に成形可能であることから、ポリアミド(PA)樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂成形品の機械的強度を向上させるため、これらの樹脂組成物に、射出成形性を阻害しない範囲で、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカー)などを配合してもよい。さらに、樹脂成形品の摺動性を向上させるため、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末、黒鉛、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤などを配合してもよい。その他、必要に応じて、公知の他の添加剤を配合してもよい。
【0039】
各図に基づき、成形キャビティを2個とする場合を説明したが、樹脂成形品の形状、樹脂の種類等によっては、より多数に分割することもできる。より多数に分割する場合は、スライドコア4において、可動方向内側の端面に設ける凸部4aの数を増やし、サブマリンゲート6を各成形キャビティに設けることで可能となる。
【0040】
本発明の樹脂成形品の製造方法を図5に基づいて説明する。図5は、本発明の製造方法における工程を示す断面図である。なお、図5における樹脂成形品9は、ラジアル軸受であるニードルベアリングの保持器である。本発明の製造方法は、上記の射出成形金型を用い、中空部を有する樹脂成形品を複数個同時に製造するための製造方法である。
【0041】
まず、固定型2と可動型3とを衝合した状態でスライドコア4により分けられた複数の成形キャビティにサブマリンゲート6を介して樹脂を射出充填する工程を有する(図5(a)(b))。なお、サブマリンゲート6までは、固定型2に図示しない溶融樹脂材料の通路を形成する。
【0042】
次に、保圧工程、冷却工程を経て、成形キャビティ内の樹脂が固化後、可動型3を固定型2との衝合状態から固定型2と反対側に可動させて開き、かつ、スライドコア4を可動させて、成形キャビティに成形された複数の樹脂成形品9を取り出す工程を有する(図5(c)(d))。また、この工程において、スライドコア4は、固定型2と可動型3とのPLをキャビティ正面から見たとき、スライドコア4全体として放射状に広がるように可動して開く(図1、図2等参照)。なお、型、スライドコア、突き出しピンの移動は図示されていない油圧シリンダ等の駆動手段により行なう。
【0043】
樹脂成形品9の取り出しは、可動型3側でコアピン5の周囲に設けられた突き出しピン7で成形キャビティから突き出すことにより行なう(図5(d))。1つの樹脂成形品の端面を突き出しピン7により突き出すことで、この樹脂成形品が他の樹脂成形品を押し出し、複数の樹脂成形品9のすべてを取り出すことができる。このため、突き出しピン7と当接する樹脂成形品以外は、突き出しピン痕が成形品に残らない。また、図示していないが、サブマリンゲート6内の樹脂は突き出しピン7と連動して動作する、コアピン5内部に設けられた突き出しピンによって取り出される。
【0044】
複数の樹脂成形品9は、スライドコア4により分割された成形キャビティで独立に成形されるので、スライドコア4を可動させて型開きすれば、相互に分割された状態で得られる(図5(c))。また、樹脂成形品9の突き出し時において、樹脂成形品9とサブマリンゲート6とがその連結面(コアピン5の表面位置)で切断される。このように、本発明の射出成形金型を用いた製造方法では、射出成形でゲートカットおよび樹脂成形品の分割が行なわれるので、成形品の分割やゲート処理等の樹脂成形品の後加工を不要にすることができる。
【0045】
本発明の樹脂成形品は、上記射出成形金型を用いて製造されるものであり、中空部を有する成形品である。この樹脂成形品は、上記射出成形金型を用いて製造されるので、複数個を同時に得られ、製造コストを低く抑えることができる。また、表面に穴、窪み、または突起がある複雑構造の樹脂成形品も本発明の好適な対象成形品となる。本発明の樹脂成形品としては、ラジアル軸受(ころ軸受や玉軸受)の保持器、ラジアル軸受本体(滑り軸受)、シールリングなどが挙げられる。これらの中でも、表面にアンダーカット部となる穴を有するラジアル軸受(ころ軸受や玉軸受)の保持器が、本発明において好適な成形品である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の射出成形金型は、成形品がアンダーカット部を有する場合であっても、成形品の多数個取りが可能であり、成形品に見合った大きさで簡易な構造であるので、中空部を有する樹脂成形品の製造に好適に利用できる。特に、従来多数個取りが困難であった、表面に穴、窪み、または突起などの凹凸がある複雑構造の樹脂成形品の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 射出成形金型
2 固定型
3 可動型
3a 凹部
4 スライドコア
4a 凸部
4b 端面
4c 凸部
5 コアピン
6 サブマリンゲート
7 突き出しピン
8 パーティングライン(PL)
9 樹脂成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動型と固定型とスライドコアとを有し、中空部を有する樹脂成形品を多数個取りするための射出成形金型であって、
前記固定型と前記可動型とのパーティングラインが1ヶ所であり、該射出成形金型における成形キャビティが、前記可動型の可動方向に直列に前記スライドコアにより分けられて複数形成され、
前記成形品の中空部を形成するコアピンを有し、それぞれの前記成形キャビティに樹脂を充填するためのサブマリンゲートが該コアピンに形成されていることを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
前記スライドコアの可動方向内側に設けられた、前記コアピンと接触する凸部によって、前記成形キャビティが前記可動型の可動方向に直列に分けられて複数形成されていることを特徴とする請求項1記載の射出成形金型。
【請求項3】
前記スライドコアが、前記固定型と前記可動型とのパーティングラインをキャビティ正面から見たとき、前記成形キャビティを中心にして放射状に可動することを特徴とする請求項1または請求項2記載の射出成形金型。
【請求項4】
前記スライドコアが、1セットであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の射出成形金型。
【請求項5】
前記スライドコアの可動方向内側に、凸部および/または凹部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の射出成形金型。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の射出成形金型を用いて製造されることを特徴とする中空部を有する樹脂成形品。
【請求項7】
前記成形品の表面に、穴、窪み、または突起があることを特徴とする請求項6記載の樹脂成形品。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の射出成形金型を用いて中空部を有する樹脂成形品を複数個同時に製造する製造方法であって、
前記固定型と前記可動型とを衝合した状態で前記スライドコアにより分けられた複数の前記成形キャビティに前記サブマリンゲートを介して樹脂を射出充填する工程と、
該樹脂が固化後、前記可動型を開き、かつ、前記スライドコアを可動させて、前記コアピン部分が中空部である前記成形キャビティの形状の複数の樹脂成形品を取り出す工程とを備えてなることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記取り出す工程は、1つの樹脂成形品の端面を突き出しピンにより突き出すことで、複数の樹脂成形品のすべてを取り出す工程であることを特徴とする請求項8記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記取り出し後の樹脂成形品について、後加工しないことを特徴とする請求項8または請求項9記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−210810(P2012−210810A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67905(P2012−67905)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】