説明

導波路型磁気光学デバイスおよび光集積デバイス

【課題】複雑な構造を必要とせずに安価に導波路型磁気光学デバイスが形成できるようにする。
【解決手段】基板101の上に形成され、自発磁化を有する磁気光学材料から構成されたリング型光導波路102と、リング型光導波路102と入出力結合器104で光結合する導波路103とを少なくとも備える。導波路103は、例えば直線導波路である。また、入出力結合器104は、例えば、方向性結合器である。加えて、リング型光導波路102を構成している磁気光学材料は、リング型光導波路102の導波方向に磁化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信,光配線,および光ストレージなどに用いられ、特に磁気光学材料を用いた光導波路を利用した光非相反性による導波路型磁気光学デバイス、および光集積デバイスに関する
【背景技術】
【0002】
磁気光学材料を用いた光導波路を利用した光非相反性による導波路型磁気光学デバイスとして、例えば、光アイソレータおよび光サーキュレータがある。
【0003】
光アイソレータは、一方向のみに光を透過させ、これと反対の方向に伝搬しようとする光を阻止する働きを有する光デバイスである。半導体レーザの出射端に光アイソレータを配置することにより、レーザからの出射光は光アイソレータを透過し、これを光ファイバ通信用の光源として用いることができる。逆に、光アイソレータを通して半導体レーザに入射しようとする光は、光アイソレータによって阻止され、半導体レーザに入射することはできない。半導体レーザに反射戻り光が入射する場合、半導体レーザの発振特性を劣化させるため、光アイソレータは、半導体レーザの特性を劣化させることなく、安定な発振を保つ機能を有している。
【0004】
半導体レーザに限らず、光増幅器などの光能動素子においては、いずれも意図とは逆向きに光が入射することにより、素子の動作特性が劣化する。光アイソレータは、一方向にしか光が透過しないため、光能動素子に意図せずに逆向きに光が入射することを阻止することができ、光通信などで広く使われている。
【0005】
光アイソレータが入射側と出射側の2端子型の光デバイスであるのに対し、光サーキュレータは、少なくとも3個以上の端子があり、例えば3個の端子の場合では、1、2、3の端子番号で順方向の1→2、2→3、3→1の方向に進む光は低損失で、逆方向の1→3、3→2、2→1の方向に進む光は高損失で出力する光デバイスである。波長多重方式を用いた光通信システムにおける信号を重畳された波長の選択的な追加・削除に用いられるデバイスである。
【0006】
現在、実用に供されている光アイソレータ、光サーキュレータなどの全ての磁気光学デバイスは、光が通過する領域において、光の伝搬方向に直行する断面内に光を閉じこめる作用、すなわち導波作用のない構造である。これらバルク型デバイスは、半導体レーザなどの他の導波路形素子と一体集積化することが困難である。バルク型デバイスは、偏光子、磁気光学材料からなる非相反素子、磁気光学材料の磁化方向を制御する磁界発生用磁石、検光子のバルク素子の集積として構成される。
【0007】
一方、他の光学素子との集積化を目的として、いくつかの導波作用のある磁気光学デバイスとして、光アイソレータ、すなわち導波路形光アイソレータが提案されている。これらの導波路形光アイソレータは、GGG(Gadolinium Gallium Garnet:ガドリニウム ガリウム ガーネット)などのざくろ石構造の酸化物から構成された、いわゆるガーネット基板上に、エピタキシャル成長された磁性ガーネットを導波路として用いている。特許文献1では、GGG基板上に液相エピタキシャル成長(LPE)法によりランタン(La)とガリウム(Ga)とイットリウム(Y)とを含有した鉄ガーネットを成長し、コア層とクラッド層の組成を制御することで屈折率を制御して導波層を形成している。さらに、ウエットエッチングによりリッジ部を形成し、導波路を形成している。
【0008】
非特許文献1も同様に、Ca,Mg,Zr添加のGGG基板の上に(111)にCe置換YIGガーネット膜をRFスパッタ法でエピタキシャル成長させ、反応性イオンエッチングによりリッジ型導波路を形成している。非相反性によるアイソレーションを生じさせるためには、光の導波方向と磁化方向がある特定の角度を持つ必要があり、磁石による外部磁界で磁化方向を制御している。このように、磁気光学材料による導波路をアイソレータとして用いるためには、磁化方向を外部磁界により制御する必要がある。導波路型アイソレータの小型化や低コスト化には、外部磁界による磁化方向は、望ましくない。
【0009】
今後の展望としては、光とエレクトロニクスの1チップ上の集積を可能とするシリコンフォトニック・デバイスの実現が大きな革新技術として求められている。これを実現するためには、CPU,メモリーなどのLSIと、光スイッチ,レーザなどの能動光学素子とを同一基板上に形成する技術が重要となる。シリコン基板上の光非相反素子は、これまでにハイブリッド形のものが提案されている。
【0010】
光相反素子は、非相反なモード変換器と相反なモード変換器により構成されている。非相反部にのみ、磁性ガーネット導波路を用いており、相反部は半波長板が挿入されている。シリコン基板上に製作されたシリカ系の導波路に対し、個別に製作されたあらゆる部品(偏光子、非相反モード変換器、相反モード変換器)を挿入し、紫外線硬化樹脂で固めることにより製作される。部品を挿入するため、各部で挿入損失が発生する。また、非相反モード変換器とシリカ系導波路の位置合わせが極めて困難であるという欠点を持つ(非特許文献2参照)。
【0011】
また、異種基板上への磁気光学素子を形成する技術として、磁気光学材料をウェハボンディングにより接合技術が特許文献2に開示されている。特許文献2には、磁性ガーネット/シリコン/二酸化珪素構造の磁気光学導波路が開示されている。この磁気光学導波路では、まず、シリコン結晶からなるコア層と、絶縁体であるSiO2からなる第1のクラッド層と、これらを保持する保持材とが、SiO2からなる第1のクラッド層を中間層として3層に積層されたSOI基板が用いられている。また、磁性ガーネットからなる第2のクラッド層が、コア層表面においてウェハボンディングによって貼り合わされている。
【0012】
この場合も、ボンディングした磁性ガーネットの磁化方向は、外部磁界で制御する必要がある。また、単結晶磁性ガーネットを張り合わせるため、小型化が困難であり高価になると欠点がある。
【0013】
また、導波路上に磁気光学材料からなるマイクロディスクを積層した構成が特許文献3に開示されている。この場合は、磁気光学材料としてFe:InPがあげられているが、磁化方向は外部磁界で制御する必要がある。また、Fe:InPを張り合わせるため、小型化が困難であり高価になると欠点がある。さらに特許文献3では、導波路構造の折り返し空洞共振器(folded cavity resonator)の一部上面に磁気光学材料を形成する構造が記載されている。しかしながら、この技術においても、磁化方向は外部磁界で制御する必要があるため、デバイスが大型化し効果になるという欠点がある。
【0014】
特許文献4では、磁気光学材料からなる閉ループ導波路で形成されたアイソレータおよびサーキュレータが開示されている。導波路下部に形成した電極に流す電流により、磁界を磁性体導波路に印加することから、磁界は導波路に直交に作用し、TMモードの導波モードのみに非相反性が作用する。従って、この技術では、TEモードは使うことができないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−56040公報
【特許文献2】特開2004−240003公報
【特許文献3】特開2005−215674公報
【特許文献4】特開平6−51241公報
【特許文献5】特開2001−3180公報
【特許文献6】特開2002−235181公報
【特許文献7】特開2005−181995公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T. Shintaku,"Integrated optical isolator based on efficient nonreciprocal radiation mode conversion", Appl. Phys. Lett. ,Vol. 73, No.14, pp.1946-1948,1998.
【非特許文献2】N.Sugimoto, et al. ,"A Hybrid Integrated Waveguide Isolator on a Silica-Based Planar Lightwave Circuit", J. Lightwave Tech. ,Vol.14, No.11,pp.2537-2546,1996.
【非特許文献3】Jun Akedo and Maxim Lebedev, "Microstructure and Electrical Propertys of Lead Zirconate Titanate(Pb(Zr52/Ti48)O3) Thick Films Deposited by Aerosol Deposition Method", Jpn. J. Appl. Phys. , Vol.38, pp.5397-5401,1999.
【非特許文献4】M. Nakada, et al. ,"Optical and electro-optical properties of Pb(Zr,Ti)O3 and (Pb,La)(Zr,Ti)O3 ?lms prepared by aerosol deposition method", Journal of Crystal Growth, 275, (2005), e1275-e1280.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、磁気光学材料を用いた導波路型磁気光学デバイスは、構造が複雑であり、高価になるという問題がある。例えば、磁気光学材料からなる導波路の非相反性による機能である光アイソレーションや光サーキュレーションなどを発現するためには、磁化方向の制御のために磁石による外部磁界のコントロール、偏光子などの部品の集積などが必要となる。このように、上述した導波路型磁気光学デバイスでは、部品の点数が増えて構造が複雑となり、高価になってしまう。
【0018】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、複雑な構造を必要とせずに安価に導波路型磁気光学デバイスが形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る導波路型磁気光学デバイスは、自発磁化を有する磁気光学材料から構成されたリング型光導波路と、このリング型光導波路と入出力結合器で光結合する導波路とを少なくとも備え、リング型光導波路を構成している磁気光学材料は、リング型光導波路の導波方向に磁化されている。
【0020】
また、本発明に係る光集積デバイスは、上述した導波路型磁気光学デバイスと、レーザ、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光スイッチまたは光フィルターの中より選択された光学素子とが、同一の基板の上に集積されている。また、上述した導波路型磁気光学デバイスと、電子回路とが、同一の基板の上に集積されている。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したことより、本発明によれば、複雑な構造を必要とせずに安価に導波路型磁気光学デバイスが形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。
【図2A】実施の形態1における導波路型磁気光学デバイスの製造方法例を示す工程図である。
【図2B】実施の形態1における導波路型磁気光学デバイスの製造方法例を示す工程図である。
【図2C】実施の形態1における導波路型磁気光学デバイスの製造方法例を示す工程図である。
【図2D】実施の形態1における導波路型磁気光学デバイスの製造方法例を示す工程図である。
【図3】AD法による成膜を行うための成膜装置の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態2における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。
【図5】実施の形態2における導波路型磁気光学デバイスの製造方法を説明するための断面図である。
【図6】本発明の実施の形態3における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0024】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。この導波路型磁気光学デバイスは、基板101の上に形成され、自発磁化を有する磁気光学材料から構成されたリング型光導波路102と、リング型光導波路102と入出力結合器104で光結合する導波路103とを少なくとも備える。導波路103は、例えば直線導波路である。また、入出力結合器104は、例えば、方向性結合器である。加えて、リング型光導波路102を構成している磁気光学材料は、リング型光導波路102の導波方向に磁化されている。
【0025】
例えば、図1の紙面左側から右側にかけて、信号光を導波路103に導波させる場合、リング型光導波路102は、右回りの導波方向に着磁されていればよい。このように磁化しておくことで、リング型光導波路102の非相反性により、磁化方向である右回りの導波方向と、これとは逆の左回りの導波方向とでは、屈折率が異なることになる。この結果、リング型光導波路102の共鳴波長は、右回りと左回りとで異なるものとなる。これは、左回りの導波方向に着磁されていても同様である。
【0026】
従って、リング型光導波路102の右回りの共鳴波長の光を、導波路103に紙面左側より右側方向に導波させると、この導波光はリング型光導波路102の左回りの共鳴波長とは一致せず、導波路103の入出力結合器104より右側に導波していく。これに対し、リング型光導波路102の右回りの共鳴波長の光を、導波路103に紙面右側より左側方向に導波させると、この導波光はリング型光導波路102の右回りの共鳴波長と一致してリング型光導波路102に共鳴し、入出力結合器104でリング型光導波路102に結合する。この結果、導波光は、リング型光導波路102を周回するようになる。この場合、導波路103に紙面右側より左方向に導波させた光は、導波路103の入出力結合器104より左側に導波していくことがない。
【0027】
このように、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスによれば、導波路103に導波させる光の導波方向により導波光量を変化させることができ、アイソレータとして機能させることができる。また、外部磁界などの複雑な構造を必要としていないので、安価に形成できる。
【0028】
次に、上述した本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの製造方法についてこの1例を簡単に説明する。図2A,2B,2C,2Dは、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの製造方法例を示す工程図であり、図1のAA’線の断面の部分を示している。
【0029】
まず、シリコンからなる基板201の表面を熱酸化することで、相厚3μm程度の酸化シリコン層202を形成する。酸化シリコン層202は、下部のクラッド層となる部分である。次に、図2Bに示すように、酸化シリコン層202に深さ1.5μm・幅1.5μmの溝221を形成する。例えば、公知のリソグラフィー技術で形成した幅1.5μmの溝パターンを有するレジスト層を形成し、次いで、レジスト層をマスクとした公知の反応性イオンエッチングで選択的にエッチング鶴ことで、溝221を形成すればよい。溝221を形成した後に、レジスト層は除去する。溝221は、リング型光導波路102を構成するコアとなる部分に対応している。
【0030】
次に、溝221の内部を含めて酸化シリコン層202の上に、自発磁化を有する磁気光学材料として、例えばBi置換YIGガーネットからなる磁気光学材料膜を形成し、この磁気光学材料膜を公知のCMP法などにより平坦化しながら研磨して一部を除去する。これらのことにより、図2Cに示すように、溝221を充填する磁気光学材料の層より構成されたコア203が形成される。コア203は、リング型光導波路102を構成するものである。この場合、リング型光導波路102は、チャネル型導波路となっている。
【0031】
次に、コア203の部分を含めた酸化シリコン層202の上に、熱CVD法で酸化シリコンを堆積することで、図2Dに示すように、層厚1.5μm程度の酸化シリコン層204を形成する。酸化シリコン層204は、上部クラッド層となる。この後、微小磁石により、コア203よりなるリング型光導波路の、例えば右回り方向に着磁し、リング型光導波路の磁化方向を一方向にそろえる。
【0032】
また、図1に示す導波路103を構成するコアは、酸化シリコン層204を形成する前に、上述同様にして酸化シリコン層202に溝を形成し、この溝をTiO2で充填することで形成する。従って、導波路103は、TiO2よりなるコアと酸化シリコンよりなるクラッドとから構成されていることになる。
【0033】
ここで、上述したBi置換YIGガーネットからなる磁気光学材料膜の形成について説明する。
【0034】
磁気光学材料を用いた導波路型磁気光学デバイスは長く研究されているが、実用化されていない。これは、磁気光学材料として用いられている磁性ガーネットを基板上に形成するためには、GGGなどの単結晶基板上に結晶成長させる、もしくは、高温アニールが必要なため、SiO2,Si,III−V族化合物半導体などを基材とした導波路との集積化が困難であることによる。このような状態では、導波路型にするメリット(小型化、低コスト化など)がなくなってしまう。
【0035】
一方、酸化物の新たな膜形成技術として、常温衝撃固化現象を利用したエアロゾルデポジション(AD法)が開発されている。AD法は、超微粒子材料の衝突付着現象を利用している。従来の薄膜形成法に比べ高い成膜速度と低いプロセス温度の実現が期待されている(非特許文献3)。また、AD法は、膜特性が下地層に依存しないことから、基板を自由に選択することができる。
【0036】
特許文献5に開示されている技術はAD法の形成方法であり、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃を印加して粉砕し、超微粒子脆性材料同士、超微粒子脆性材料同士、または、超微粒子脆性材料と前板とを接合させることを特徴としている。この形成方法によれば、超微粒子相互の接合を実現し、熱を加えることなく、高密度、高強度の膜が形成される。
【0037】
特許文献6に開示されている技術は、AD法により形成された構造物に関するものであり、構造物は結晶配向性がない多結晶体であり、ガラス層からなる粒界層が実質的にないことを特徴としている。
【0038】
このAD法を用いた透明度の高い電気光学材料の薄膜成形に関する検討がなされている(非特許文献4)。この検討によると、光学素子の基本特性であるAD法により形成した膜の透過損失は、成形体を形成する微粒子および屈折率を異にする非成形体微粒子のレイリー散乱によることが明らかにされている。
【0039】
また、特許文献7に開示されている技術は、AD法による光学素子、光集積デバイス、光情報伝搬システムおよびその製造法に関するものである。この技術では、基板上に供給した超微粒子脆性材料に機械的衝撃力を与え、超微粒子脆性材料を粉砕して接合させる衝撃固化現象により成形体を形成し、光学素子としている。特許文献7の技術では、光学素子に含有されるポア(空孔)、異相などの屈折率が成形体の主たる構成体と異なる部分の平均半径d(nm)と成形体を伝搬する光の波長λ(nm)の間に「d6/λ4<4×10-5nm2」の関係があることが特徴とされている。
【0040】
上述したことからわかるように、磁気光学材料であるBi置換YIGガーネット膜の形成は、AD法により形成すればよい。AD法による成膜では、例えば、図3に示す成膜装置を用いればよい。図3は、AD法による成膜を行うための成膜装置の構成を示す構成図である。
【0041】
この装置は、まず、酸素ガスを収容するガスボンベ301と、ガスボンベ301より供給される酸素ガスを搬送する搬送管302と、搬送管302で搬送される酸素が供給されるガラスボトル303とを備える。ガラスボトル303には、原料の粉末(超微粒子脆性磁気光学材料)304が収容されている。また、ガラスボトル303には、排気管305を介して排気装置(図示せず)が接続され、ガラスボトル303の内部を排気可能としている。また、ガラスボトル303は、排出管306を備える。
【0042】
ガラスボトル303の排出管306には、搬送管307が接続され、搬送管307は、ノズル308に接続している。ノズル308は、成膜を行う成膜チャンバー309の中に配置されている。また、成膜チャンバー309の内部においては、ノズル308の吐出方向に成膜対象の基板Wが配置される。また、成膜チャンバー309には、真空ポンプ310が接続され、成膜チャンバー309の内部を真空排気可能としている。
【0043】
この成膜装置において、まず、原料となる粉末304を収容したガラスボトル303の内部を、排気管305を介して2.7kPa程度の圧力に排気する。排気した後、キャリアガスとして酸素を、ガスボンベ301より流量を制御しながらガラスボトル303に導入する。ガラスボトル303を加振器311により振動させることで、ガラスボトル303内の気体中に粉末304の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させ、導入されているキャリアガスにより、搬送管307を介してノズル308に輸送する。ノズル308が配置されている成膜チャンバー309は、真空ポンプ310により所定の真空度に排気しておく。
【0044】
以上のようにしてノズル308に供給されたエアロゾルを、ノズル308より吐出し、吐出したエアロゾル312を基板Wの表面に吹き付ければ、エアロゾルに含まれている粉末による薄膜が基板Wの表面に形成される。このように、AD法により形成される薄膜は、供給した超微粒子脆性磁気光学材料に機械的衝撃力を与え、供給した超微粒子脆性磁気光学材料を粉砕して基板の表面に接合させて成型した成形体である。
【0045】
上述したAD法による成膜条件は、次のようになる。キャリアガスは酸素とし、ノズル308より吐出されるエアロゾル312の基板Wへの入射角を10度とする。また、キャリアガスのガス流量は12リットル/分とし、加振器311の振動数は200rpmとする。これらの条件によると、成膜速度は0.5μm/分となる。
【0046】
このようなAD法において、Bi置換YIGガーネットの粉末を用いれば、基板の上にBi置換YIGガーネットの膜を形成することができる。Bi置換YIGガーネット(Bi−YIG)の組成は、(Bi0.82.2)Fe512である。また、この場合、原料とする粉末の平均粒径は、0.6μmとすればよい。成膜材料のBi−YIG系粉末は、ガーネット型結晶構造を持つ強磁性体の組成であり、大きな磁気光学効果を持つ導波路型磁気光学デバイスへの適応が可能な組成である。また、AD法により形成するBi−YIG膜は、保磁力を有する磁化曲線を示しており、導波路型磁気光学デバイスへの適応が可能である。なお、導波路103を構成するTiO2のコアについても、AD法により形成することができる。
【0047】
次に、上述したようにすることで作製した本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの導波路103の一端に、先球ファイバーを用いて波長1.550μmの光を結合した結果について説明する。導波路103の他端より出射される光を先球ファイバーで結合し、先球ファイバーに結合した光の光量をフォトディテクタで測定する。導波路103の一方より結合させた場合、導波損失が3dBであるが、他方より結合させると、導波損失が15dBとなる。従って、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスでは、光アイソレーションとして12dBの値が得られたことを示している。
【0048】
以上に説明したように、AD法を用いた磁気光学材料膜の形成は、磁気光学材料より構成される導波路を容易に形成できるようになる。また、AD法による磁気光学材料膜の形成は、他の光素子との一体集積化が容易なリング型磁気光学デバイスに適用することができる。AD法により形成する磁気光学材料膜は、上述したことからわかるように、下地層の結晶性に本質的に依存しない。この利点により、例えば、レーザ、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光導波路、光フィルターなどの別種の光学素子を予め形成した基板、あるいは、CPU、メモリーなどの電子素子で構成される集積回路が予め形成されている基板に対し、さらに、これらの基板上に本発明にかかる光学素子を作製して、全体として、本発明の光学素子で構成される光デバイスと、他のデバイスを集積した光集積バイスの作製に応用することができる。
【0049】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図4は、本発明の実施の形態2における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。この導波路型磁気光学デバイスは、基板401の上に形成され、磁気光学材料から構成されたリング型光導波路402と、リング型光導波路402と入出力結合器404で光結合する導波路403と、リング型光導波路402と入出力結合器406で光結合する導波路405とを少なくとも備える。入出力結合器404および入出力結合器406は、例えば、方向性結合器である。加えて、リング型光導波路402を構成している磁気光学材料は、リング型光導波路402の導波方向に磁化されている。
【0050】
例えば、図4の紙面左側から右側にかけて、信号光を導波路403に導波させる場合、リング型光導波路402は、右回りの導波方向に着磁されていればよい。このように磁化しておくことで、リング型光導波路402の非相反性により、磁化方向である右回りの導波方向と、これとは逆の左回りの導波方向とでは、屈折率が異なることになる。この結果、リング型光導波路402の共鳴波長は、右回りと左回りとで異なるものとなる。これは、左回りの導波方向に着磁されていても同様である。
【0051】
従って、リング型光導波路402の右回りの共鳴波長の光を、導波路403に紙面左側より右側方向に導波させると、この導波光はリング型光導波路402の左回りの共鳴波長とは一致せず、導波路403の入出力結合器404より右側に導波していく。これに対し、リング型光導波路402の右回りの共鳴波長の光を、導波路403に紙面右側より左側方向に導波させると、この導波光は、リング型光導波路402の右回りの共鳴波長と一致してリング型光導波路402に共鳴し、入出力結合器404でリング型光導波路402に結合する。
【0052】
このようにしてリング型光導波路402に結合した導波光は、リング型光導波路402を周回する中で、入出力結合器406で導波路405に結合し、導波路405を、図4の紙面右方向に導波していく。
【0053】
このように、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスによれば、導波路403に導波させる光の導波方向により、導波光の出力先を変化するサーキュレータとして機能させることができる。
【0054】
次に、上述した本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの製造方法について、図5を用いて簡単に説明する。まず、よく知られたSOI基板を用意し、SOI基板の表面シリコン層を公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術によりパターニングすることで、下部クラッド層となる埋め込み絶縁層502の上にシリコンからなるコア503を形成する。なお、SOI基板においては、シリコンよりなる基部501の上に、埋め込み絶縁層502を介して表面シリコン層が形成されている。コア503は、例えば、断面の寸法が、幅0.6μm,高さ0.5μmとすればよい。コア503は、リング型光導波路402を構成するものである。この場合、リング型光導波路402、チャネル型導波路となっている。
【0055】
次に、コア503を含めた埋め込み絶縁層502の上に、上述したAD法により、例えばBi置換YIGガーネットからなる上部クラッド層504を形成する。形成した上部クラッド層504は、表面研磨を行って平坦化しておく。この後、微小磁石により、コア503を形成してある箇所のリング型光導波路における上部クラッド層504を、例えば右回り方向に着磁し、リング型光導波路の磁化方向を一方向にそろえればよい。
【0056】
なお、本実施の形態では、図4に示す導波路403および導波路405を構成するコアは、上述したコア503と同時に、SOI基板の表面シリコン層をパターニングすることで形成しておくことができる。また、導波路403および導波路405においては、酸化シリコン層を上部クラッド層として形成する。本実施の形態では、リング型光導波路402,入出力結合器404,および導波路405が、いずれもシリコンコアより構成されていることになる。
【0057】
つぎに、上述した本実施の形態におけるリング型磁気光学デバイスの導波路404の一端(図4左側)に、先球ファイバーを用いて波長1.550μmの光を結合した結果について説明する。導波路403の他端(図4右側)より出射される光、および導波路405の先端(図4右側)より出射される光を、各々先球ファイバーで結合し、各々の先球ファイバーに結合した光の光量をフォトディテクタで測定する。導波路404の他端における導波損失は5dBとなるが、導波路405の先端における導波損失は19dBとなる。
【0058】
以上のことに対し、導波路404の他端に、波長1.550μmの光を結合すると、導波路404の一端における導波損失は20dBとなるが、導波路405の先端における導波損失は7dBとなる。これらのことは、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスが、サーキュレーション機能を有していることを示している。
【0059】
また、本実施の形態においても、磁気光学材料膜をAD法により形成することで、例えば、レーザ、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光導波路、光フィルターなどの別種の光学素子を予め形成した基板、あるいは、CPU、メモリーなどの電子素子で構成される集積回路(電子回路)が予め形成されている基板に対し、さらに、これらの基板上に本発明にかかる光学素子を作製して、全体として、本発明の光学素子で構成される光デバイスと、他のデバイスを集積した光集積バイスの作製に応用することができる。
【0060】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。上述では、リング型光導波路の全体を磁気光学材料で形成したが、これに限るものではない。リング型光導波路の一部を磁気光学材料で形成しても、この領域においては、磁化方向により屈折率が異なることになるので、同様の効果が得られる。
【0061】
図6は、本発明の実施の形態3における導波路型磁気光学デバイスの構成を示す平面図である。この導波路型磁気光学デバイスは、基板601の上に形成され、一部が自発磁化を有する磁気光学材料から構成されたリング型光導波路602と、リング型光導波路602と入出力結合器604で光結合する導波路603とを少なくとも備える。入出力結合器604は、例えば、方向性結合器である。
【0062】
ここで、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスは、リング型光導波路602が、導波路603と同様に構成された導波路部分602aと、自発磁化を有する磁気光学材料から構成された導波路部分602bとを備え、導波路部分602bを構成している磁気光学材料が、リング型光導波路602の導波方向に磁化されている。
【0063】
例えば、図6の紙面左側から右側にかけて、信号光を導波路603に導波させる場合、導波路部分602bは、リング型光導波路602の右回りの導波方向に着磁されていればよい。このように磁化しておくことで、導波路部分602bの非相反性により、磁化方向である右回りの導波方向と、これとは逆の左回りの導波方向とでは、屈折率が異なることになる。この結果、リング型光導波路602の導波路部分602bにおける共鳴波長は、右回りと左回りとで異なるものとなる。これは、左回りの導波方向に着磁されていても同様である。
【0064】
従って、リング型光導波路602の導波路部分602bにおける右回りの共鳴波長の光を、導波路603に紙面左側より右側方向に導波させると、導波路603の入出力結合器604より左回りに導波路部分602aに結合した光は、導波路部分602bには共鳴せず、導波路部分602bを導波することはない。この結果、この場合は、導波路603に紙面左側より右側方向に導波させた光は、導波路603の入出力結合器604より右側に導波していく。
【0065】
これに対し、リング型光導波路602の右回りの共鳴波長の光を、導波路603に紙面右側より左側方向に導波させると、導波路603の入出力結合器604より導波路部分602aに結合した光は、右回りに導波し、導波路部分602bに共鳴して導波路部分602bを導波する。この結果、導波光は、リング型光導波路602を周回するようになる。この場合、導波路603に紙面右側より左方向に導波させた光は、導波路603の入出力結合器604より左側に導波していくことがない。
【0066】
このように、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスによれば、導波路603に導波させる光の導波方向により導波光量を変化させることができ、アイソレータとして機能させることができる。
【0067】
本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスは、導波路部分602bの部分を、前述した実施の形態1のリング型光導波路102と同様に作製すればよい。また、導波路部分602aおよび導波路603は、前述した実施の形態1の導波路103と同様に作製すればよい。
【0068】
このようにして作製した本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスの導波路603の一端に、先球ファイバーを用いて波長1.550μmの光を結合した結果について説明する。導波路603の他端より出射される光を先球ファイバーで結合し、先球ファイバーに結合した光の光量をフォトディテクタで測定する。導波路603の一方より結合させた場合、導波損失が3.5dBであるが、他方より結合させると、導波損失が12dBとなる。従って、本実施の形態における導波路型磁気光学デバイスでは、光アイソレーションとして9.5dBの値が得られたことを示している。
【符号の説明】
【0069】
101…基板、102…リング型光導波路、103…導波路、104…入出力結合器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自発磁化を有する磁気光学材料から構成されたリング型光導波路と、このリング型光導波路と入出力結合器で光結合する導波路とを少なくとも備え、
前記リング型光導波路を構成している磁気光学材料は、前記リング型光導波路の導波方向に磁化されている
ことを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の導波路型磁気光学デバイスにおいて、
少なくとも2つの前記導波路を備えることを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項3】
請求項1または2記載の導波路型磁気光学デバイスにおいて、
前記リング型光導波路を構成するコアもしくはクラッドの一方が、磁気光学材料から構成されている
ことを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項4】
請求項3記載の導波路型磁気光学デバイスにおいて、
前記リング型光導波路は、コアがシリコンから構成され、クラッドが磁気光学材料から構成されていることを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の導波路型磁気光学デバイスにおいて、
前記リング型光導波路は、チャネル型導波路で構成されていることを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導波路型磁気光学デバイスにおいて、
前記リング型光導波路の磁気光学材料から構成された部分は、
供給した超微粒子脆性磁気光学材料に機械的衝撃力を与えて前記超微粒子脆性磁気光学材料を粉砕して接合させて成型した成形体より形成されたものである
ことを特徴とする導波路型磁気光学デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1基に記載の導波路型磁気光学デバイスと、レーザ、電気光変換器、光電気変換器、光増幅器、光スイッチまたは光フィルターの中より選択された光学素子とが、同一の基板の上に集積されていることを特徴とする光集積デバイス。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1基に記載の導波路型磁気光学デバイスと、電子回路とが、同一の基板の上に集積されていることを特徴とする光集積デバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−17956(P2011−17956A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163500(P2009−163500)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】