説明

導電塗料用の片状金属微粉末及びその製造方法

【目的】導電塗料に適した特性を備える片状金属微粉末を得る。
【構成】金属化合物をアルコール中に分散させた溶液に還元剤を加え、前記溶液中に一次粒子径100nm以下の金属超微粒子凝集体を析出する第1工程と、前記金属超微粒子凝集体を含むスラリーを対向衝突させる第2工程と、前記対向衝突した金属超微粒子凝集体を機械的に溶液中で片状加工する第3工程とを有する。上記片状銅微粉末を導電塗料に適用すると、ファインピッチで塗布しても塗布膜は高い導電性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ペーストや導電インキなどの導電塗料の材料として好適な特定の形状を有する片状金属微粉末とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷法は、セラミックの厚膜導体やプリント回路基板等に導電パターンを形成するための一般的な方法として知られている。導電ペーストは、スクリーン印刷法で用いられる導電塗料の一つであり、樹脂と溶剤からなるビヒクル中に金属微粒子を均一に分散させることによって導電性を確保している。またその金属は一般的に銀や銅が用いられるが、銀は高価であるため安価な銅の使用量が増えている。
【0003】
銅微粒子は、導電ペーストの材料として知られているが、近年はよりファインピッチすなわち微細な間隔で導電パターンを形成するために粒子径を一層小さくすることが求められている。
【0004】
銅を微粒子化する方法には、溶液還元法、機械粉砕法、プラズマ蒸発法、アーク放電法など既知の方法が種々存在している(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平1−259108号公報(特許第2621915号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したいずれの方法で得られる銅微粒子も、ファインピッチで塗布可能な導電塗料に適用することはできない。なぜなら、導電塗料の用途においては、例えば、微粒子化した銅粒子をビヒクル中に分散させたスラリーの状態で対象基板上に均一に塗布し、その後溶剤を乾燥させて得られる塗膜を使用することが必要となり、かつ、乾燥後の塗膜は銅の高い導電特性が求められるためである。
【0007】
残念なことに、本件発明者らの知る限りでは、溶液の状態では二次凝集を防止して高い分散性を保持つつ、塗布乾燥した状態では塗膜の銅原子の酸化が抑制されており高い導電性を有している導電塗料用の金属微粉末は、現在までのところ報告例を聞かない。
【0008】
すなわち、従来の金属微粉末の製造方法は、いずれもファインピッチで塗布するために微粒子化しようとすればするほど導電性を阻害する原因となる脂肪酸や酸化膜などが被膜として付着したり、粗大粉が混入したりするなど、ファインピッチで塗布可能な導電塗料として好適な特性を備えさせることができなかった。
【0009】
さらに、別の観点では、従来の金属微粉末の製造方法は、一次粒子まで微粒子化した金属微粉末に高い分散性を持たせることに主眼が置かれていたともいえる。しかし実際には、微粒子化すればするほど凝集が起こり、その一方で、分散を抑えるために各種の分散剤を必要としていたが、その分散剤が導電性を低下させる原因となっていた。さらに、ナノ粒子の分散体は分離回収も難しく、それ自体、工業的に取扱いが難しいということも大きな問題となっていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、導電塗料の材料として特に好適な特性を備えた、特定の金属微粉末を得ることを主たる技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る片状金属微粉末は、一次粒子径100nm以下の金属ナノ粒子の凝集体が、溶液中で機械的圧力によって薄片化された、導電塗料用の片状金属微粉末である。
【0012】
一般に、粒子径が例えば100nm以下の金属ナノ粒子は粒子径の減少に伴って表面エネルギーが大きくなるため溶液中で凝集が起こりやすくなることが知られているが、本発明では、溶液中で凝集した後、それを分散剤で化学的に分散させるのではなく、溶液中で機械的圧力によって薄片化することにより、凝集した状態で粒径を小さくすることに成功している。しかも、分散剤は全く含まないか添加する場合でも最小限の量ですむため、導電性を阻害する物質が混入しにくい。従って、導電塗料として用いた場合に高い導電性を示すことができる。
【0013】
一次粒子径の大きさは、透過型電子顕微鏡により撮影した100個の粒子を測定した平均値である。「溶液中で機械的圧力によって薄片化され」とは、導電性を阻害する脂肪酸や酸化膜等が銅粉表面に形成されることなく、一次粒子が凝集した溶液中で機械的圧力によって薄片化されるという意味である。すなわち、本発明の技術的思想は、「一次粒子そのもの」を薄片化して分散させるのではなく、「一次粒子の凝集体」を薄片化してそれを分散させるものであることに特徴があるといえる。
【0014】
本発明に係る前記片状金属微粉末は、凝集体の直径と厚さの比が5.0以上の片状形状であることが好ましい。特に、粗大粉を含まず、凝集体の大きさが平均粒径で0.5〜3.0μmが好ましい。粗大粉とは、複数個の凝集体が機械的作用によって圧縮結合された粒径が平均的なものより大きなもの(例えば数μm以上)をいう。粗大粉を含むとファインピッチで塗布することが困難になる。平均粒径とは一般に球状物に対しては直径の平均値や実効平均値等を指すが、本発明に係る片状金属微粉末は機械的に圧縮された結果、直径と厚さの比が5.0以上と扁平した形状を有するため、定義が難しいが、本明細書における片状金属微粉末の平均粒径とは、走査型電子顕微鏡で撮影した片状銅微粉末を円相当径として長径と短径の相加平均の100個の平均値をいう。
【0015】
上記片状銅微粉末を導電塗料に適用すると、ファインピッチで塗布しても塗布膜は高い導電性を示す。このようにファインピッチで塗布可能であるのは、本発明に係る片状銅微粉末が薄片状の凝集体で構成され、かつその粒子径のばらつきが小さいためと考えられる。導電性が高いのは、本発明に係る片状銅微粉末が同種の銅ナノ粒子の物理化学的相互作用による凝集力によって結合されているためと考えられる。
【0016】
本発明に係る片状金属微粉末の製造方法は、金属化合物をアルコール中に分散させた溶液に還元剤を加え、前記溶液中に一次粒子径100nm以下の金属超微粒子凝集体を析出する第1工程と、
前記金属超微粒子凝集体を含むスラリーを対向衝突させる第2工程と、
前記対向衝突した金属超微粒子凝集体を機械的に溶液中で片状加工する第3工程と
を有する。
【0017】
上記構成によれば、安価かつ安全、かつ短時間に導電塗料に適した片状銅微粉末を得ることができる。例えば、銅超微粒子の製造方法として、金属蒸発法が知られるが、第1工程(溶液還元法)と比較すると生産性が著しく悪く、経済的に好ましくない。なお、本発明の製造プロセスでは、還元析出段階で単分散に近い銅超微粒子を得る方法は必要ない。一次粒子径が100nm以下であれば、できるだけ早く還元析出し、銅超微粒子の凝集体にするのが良い。これは、大きな凝集体の方が、反応溶液から分離、回収しやすいため工業的に取扱いが容易でしかも生産性が良いからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る片状金属微粉末はセラミックス厚膜導体やプリント回路基板導体などへのファインパターン印刷用の導電塗料として好ましい特性を有する。しかも、ビヒクルに混練分散するペースト作業時間が短縮でき、超微粒子であるが凝集体なので飛散防止効果で、安全性も向上する。本発明の片状銅微粉末はバルクの金属を機械的に粉砕加工したものでないので、微視的には超微粒子の融点降下など、ナノサイズ効果も期待できる。
【0019】
本発明にかかる金属銅微粒子を含む塗布溶液は、印刷適性と塗布乾燥後の導電性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
−片状金属微粉末の製造方法について−
はじめに、図1(a)〜(c)を参照して本発明に係る片状金属微粉末の製造方法の各工程について説明する。図2に示すように、その製造方法は大きく分けて3工程からなる。ここでは、銅を例にとり、説明する。
【0021】
[第1工程](溶液還元法による凝集体析出工程S1)
水酸化銅を1価のアルコールに分散させた溶液に還元剤を加える。還元剤は、水素化ホウ素ナトリウムや、ホルムアルデヒド、ヒドラジンなどが使用できるが、短時間に銅超微粒子が還元析出できるヒドラジンが好ましい。この工程により、超微粒子化した銅原子の凝集体(以下、この第1工程で得られる凝集体を「銅超微粒子凝集体」という。)が溶液中に析出する。その後、必要によりアルコール等により銅超微粒子凝集体を洗浄する。
【0022】
図1(a)は、第1工程で形成される凝集体の構造を模式的に示したものである。この図は一次粒子径が約100nm以下の超微粒子が無数に凝集した巨大な集合体を示している。一次粒子が濃淡でいくつかのグループごとに区別して示されているが、1つの大きな凝集体が次工程で小さな凝集体に分割されることを示すためのものであり、これらの一次粒子は全て同じ球状の銅のナノ粒子である。
【0023】
銅超微粒子の一次粒子径は100nm以下であることが重要である。これは、一次粒子径は細かいほど片状加工が容易だからであり、100nmよりも大きい粒子径では目的とする片状形状に凝集体を加工するのが難しい。工業的に好ましい一次粒子径は5〜80nmである。本発明で示す一次粒子径の大きさは、透過型電子顕微鏡で100個の粒子を測定した平均値である。
【0024】
一次粒子径が100nm以下であれば、できるだけ早く還元析出し、銅超微粒子凝集体にすることが好ましい。大きな凝集体の方が、反応溶液から分離、回収しやすく、生産効率が良いからである。
【0025】
[第2工程](凝集体の分散工程S2)
湿式分散装置を用いて第1工程で得られた銅超微粒子凝集体を含むスラリー同士を溶液中で対向衝突させる。この工程により、大きな凝集体を目的の大きさの凝集体まで分散させる。凝集体の大きさの調整は処理時間を制御して行う。その後、必要によりスラリー濃度を調整する。
【0026】
図1(b)は、第2工程で形成される凝集体の構造を模式的に示したものである。これは、第1工程で得られた凝集体よりも小さくかつ平均的な大きさの多数の凝集体が得られることを示している。
【0027】
ただし、この状態では、凝集体の形状は球形に近いもので、ファインピッチで塗布可能な導電塗料の用途を考えると、塗膜の平滑性や印刷適性の面で、好ましい特性とは言えない。
【0028】
[第3工程](片状加工工程S3)
そこで、第2工程で得られた凝集体に溶液中で機械的外力を加え、片状に加工する。これを行う加工機は小さなビーズが溶液中で高速回転する、「ビーズミル」を使用することが好ましい。
【0029】
ビーズミルとして、ビーズ径が数mmのスチールボールを使用すると衝撃力が強すぎるため、凝集体数個が強く圧縮されて片状の粗大粉が発生する。粗大粉が含まれていると、ファインパターン印刷用の導電塗料に用いることができない。このような粗大粉が一度できると分級機でも除去することが難しい。従って、ビーズ径は小さい方が良く、例えばビーズ径15〜100μmのアルミナ、ジルコニアなどが好ましい。この小さいビーズが銅超微粒子凝集体を圧縮加工し、目的の形状である片状銅超微粒子が得られる。
【0030】
図1(c)は、第3工程で形成される片状銅微粉末の構造を模式的に表したものである。第3工程では、必要により、加工中に分散安定剤を必要最小限添加してもよい。これにより再凝集を防止することができる。分散剤としては高分子型顔料分散剤を挙げることができる。脂肪酸などの粉砕助剤は添加すべきではない。脂肪酸を添加すると銅の表面が脂肪酸や金属と脂肪酸との化合物である金属せっけん膜などの不導体でコーティングされることで導電性を低下させることになり、目的とする導電塗料の電気的特性を大幅に劣化させてしまうからである。
【0031】
図3(a)乃至(c)は、本発明に係る片状銅微粉末をそれぞれ倍率を変えて撮影した電子顕微鏡写真を示している。第3工程終了後に得られる最終的な片状銅微粉末の平均粒径は0.5〜3.0μmが好ましい。というのも、平均粒径が0.5μmより細かいと、再凝集の発生や、取り扱いが難しくなり、逆に、平均粒径が3.0μmより大きいと、ファインピッチ化に対応できないからである。片状形状として、直径と厚さの比が5.0以上であることも重要である。直径と厚さの比は「アスペクト比(縦横比)」とも呼ばれ、扁平度の尺度を示している。アスペクト比が5.0以下の場合、粒状粉と同程度の印刷適性しか得られず、塗膜の平滑性の向上効果が少ない。銅微粉末を多く充填する必要があるセラミック厚膜導体の用途では、扁平度の少ない5.0〜10が良い。このように、アスペクト比を調節することで印刷適性と塗膜平滑性を調節することが可能となる。
【0032】
ポリマー型ペーストの用途にはアスペクト比がさらに大きい10〜50が好ましい。扁平度が50以上だと、銅微粉末の嵩密度が高くなりポリマーに高充填できない場合がある。アスペクト比は得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で撮影して実測した平均値である。
【0033】
ところで、第3工程で行っている機械的加工は、いわゆる「機械粉砕法」と呼ばれるバルク状の銅を機械的に粉砕して片状加工する方法と似ている。しかし、機械粉砕法は、銅の展延性を利用して片状に加工する方法であり、粉砕中に脂肪酸を添加することが不可欠となる。このため、得られる片状銅超微粒子の特性も、本発明に係るものとは全く異質のものとなる。すなわち、機械粉砕法で得られる銅微粒子では、本発明のような高い導電性を得ることは不可能である。
図4(a)及び(b)は、従来の機械粉砕法で製造した片状銅微粉末をそれぞれ倍率を変えて撮影した電子顕微鏡写真を示している。
【0034】
本発明に係る片状銅微粉末は一次粒子径が100nm以下の銅超微粒子の凝集体であるため、粗大粉を一切含有していない。ゆえに、極めて微細なファインパターンを形成できる導電塗料として使用することが可能となる。
【0035】
なお、金属微粉末は銅の場合を説明したが印刷用の導電塗料に用いられる好適な代替材料が発見されれば本発明を他の材料に転用することは容易であろう。
【0036】
(第1の実施形態)−導電性ペースト(導電塗膜)−
以下、本発明に係る片状銅微粉末を適用した導電ペーストの実施態様について、複数の実施例と、比較例とを用いてより具体的に説明するが、本発明の技術的思想の範囲と解される限りにおいて、いかなる意味においても下記の実施例により制限的に解釈されるものではない。
【0037】
以下に示す各実施例では、いずれも第1工程の初期条件として、ビーカーに水酸化銅50gと20℃の1価のアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール又はプロピルアルコール)500mlを混ぜ合わせた溶液を使用すると共に、第1工程終了時に得られるスラリー濃度が30%となるようにメチルアルコールを加えてスラリー濃度を調整し、第2工程の湿式分散装置として、(株)スギノマシン製、「スターバースト(商品名)」を用い、スラリーの対向衝突圧力は全て140MPaとした。
【0038】
<実施例1>
[第1工程]
1.ビーカーに水酸化銅50gと20℃のメチルアルコール500mlを入れる。
2.水酸化銅の分散溶液を撹拌しながら50%ヒドラジン水溶液100mlを添加する。
3.ヒドラジン水溶液添加直後から銅超微粒子が析出し、2分後に反応を終了した。
(結果) 一次粒子径10nmの銅超微粒子凝集体がビーカー底に沈澱した。アスピレータで銅超微粒子凝集体をろ過し、メチルアルコールで洗浄した凝集体の平均粒径は20μmであった。
【0039】
[第2工程]
1.回収した銅超微粒子凝集体にメチルアルコールを加え30%銅微粒子含有スラリーとする。
2.湿式分散装置でスラリーを対向衝突させ、凝集体を平均粒径1.8μmに分散処理した。
【0040】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで30分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0041】
<実施例1の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径10nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が9で、平均粒径が1.8μmの片状銅微粉末が得られた。
【0042】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率3.2×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0043】
<実施例2>
第1、第2工程の条件は、実施例1と同様とした。
【0044】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで60分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0045】
<実施例2の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径10nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が18で、平均粒径が2.0μmの片状銅微粉末が得られた。
【0046】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率1.8×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0047】
<実施例3>
第1、第2工程の条件は、実施例1と同様とした。
【0048】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで60分間片状加工した後に、分散剤としてポリエチレンイミンを溶液に対して100ppm添加し、その後周速12m/sで30分間継続して片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0049】
<実施例3の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径10nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が35で、平均粒径が2.2μmの片状銅微粉末が得られた。
【0050】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散した結果、抵抗率1.7×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0051】
<実施例4>
第1、第2工程の条件は、実施例1と同様とした。
【0052】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで60分間片状加工した後に、分散剤としてポリエチレンイミンを溶液に対して100ppm添加し、その後周速12m/sで60分間継続して片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0053】
<実施例4の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径10nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が50で、平均粒径が2.5μmの片状銅微粉末が得られた。
【0054】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に80質量%混練分散した結果、抵抗率3.5×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。なお、フェノール樹脂の濃度を80質量%としたのは、アスペクト比が50以上になると粉末の嵩が高くなり導電ペーストのような高粘度ビヒクルには高充填できなくなるか、又はたとえ高充填できたとしても流動性が低下して印刷性が悪くなるからである。
【0055】
<実施例5>
[第1工程]
1.ビーカーに水酸化銅50gと20℃のエチルアルコール500mlを入れる。
2.水酸化銅の分散溶液を撹拌しながら60%ヒドラジン水溶液100mlを添加する。
3.ヒドラジン水溶液添加直後から銅超微粒子が析出し、2分後に反応を終了した。
(結果) 一次粒子径6nmの銅超微粒子凝集体がビーカー底に沈澱した。アスピレータで銅超微粒子凝集体をろ過し、メチルアルコールで洗浄した凝集体の平均粒径は20μmであった。
【0056】
[第2工程]
1.回収した銅超微粒子凝集体にメチルアルコールを加え30%銅微粒子含有スラリーとする。
2.湿式分散装置でスラリーを対向衝突させ、凝集体を平均粒径0.5μmに分散処理した。
【0057】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径15μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速10m/sで60分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0058】
<実施例5の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径6nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が10で、平均粒径が0.5μmの片状銅微粉末が得られた。
【0059】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率3.5×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0060】
<実施例6>
第1、第2工程の条件は、実施例5と同様とした。
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径15μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速10m/sで60分間片状加工し、その後、周速12m/sで30分間継続して片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0061】
<実施例6の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径6nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が15で、平均粒径が0.6μmの片状銅微粉末が得られた。
【0062】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率1.4×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0063】
<実施例7>
第1、第2工程の条件は、実施例5と同様とした。
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径15μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで60分間、周速10m/sで運転し、その後、周速12m/sで60分間継続して片状加工した。運転開始90分後に分散剤としてポリエチレンイミンを溶剤に対して200ppm添加した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0064】
<実施例7の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径6nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が25で、平均粒径が0.7μmの片状銅微粉末が得られた。
【0065】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率1.9×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0066】
<実施例8>
[第1工程]
1.ビーカーに水酸化銅50gと20℃のプロピルアルコール500mlを入れる。
2.水酸化銅の分散溶液を撹拌しながら50%ヒドラジン水溶液100mlを添加する。
3.ヒドラジン水溶液添加直後から銅超微粒子が析出し、2分後に反応を終了した。
(結果) 一次粒子径30nmの銅超微粒子凝集体がビーカー底に沈澱した。アスピレータで銅超微粒子凝集体をろ過し、メチルアルコールで洗浄した凝集体の平均粒径は15μmであった。
【0067】
[第2工程]
1.回収した銅超微粒子凝集体にメチルアルコールを加え30%銅微粒子含有スラリーとする。
2.湿式分散装置でスラリーを対向衝突させ、凝集体を平均粒径1.0μmに分散処理した。
【0068】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで45分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0069】
<実施例8の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径30nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が10で、平均粒径が1.0μmの片状銅微粉末が得られた。
【0070】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率2.9×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0071】
<実施例9>
第1、第2工程の条件は、実施例8と同様とした。
【0072】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで45分間片状加工し、その後、周速10m/sで15分間継続して片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0073】
<実施例9の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径30nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が15で、平均粒径が1.1μmの片状銅微粉末が得られた。
【0074】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率1.6×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0075】
<実施例10>
第1、第2工程の条件は、実施例8と同様とした。
【0076】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで45分間片状加工し、その後、周速10m/sで45分間継続して片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0077】
<実施例10の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径30nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が20で、平均粒径が1.1μmの片状銅微粉末が得られた。
【0078】
上記片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散し、四探針法で抵抗率を測定した結果、抵抗率1.7×10−4 Ω・cmの導電塗膜が得られた。
【0079】
<比較例>
1.平均粒径10μmのアトマイズ銅粉末1kgにステアリン酸10g添加し、媒体撹拌ミルで粉砕した。このとき、粉砕媒体には1/8インチスチールボール10kgを用い、ミルの周速5m/sで粉砕助剤としてステアリン酸を毎時間5g添加しながら、空気中で300分間運転した。
2.粉砕した銅粉末の片状粗大粉を除去した後、精密サイクロン分級機で、平均粒径3μmの片状銅微粉末を回収した。
【0080】
<比較例の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、直径と厚さの比(アスペクト比)は35であった。
【0081】
上記片状微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散した結果、抵抗率8×10Ω・cmの塗膜が得られた。しかし、得られた結果物に導電性はなく、導電塗料としては使用できなかった。
【0082】
(第1の実施形態の変形例)
上述した実施例1〜10では、得られた片状銅微粉末をフェノール樹脂に85質量%混練分散することによりスクリーン印刷用の導電塗膜(導電ペースト)としたが、これよりも粘度を低くして特性を調節することでインクジェット方式の導電塗料としても使用することができる。
【0083】
(第2の実施形態)−銅導体膜−
以下に示す各実施例では、いずれも第1工程の初期条件として、ビーカーに水酸化銅50gと20℃のメチルアルコール500mlを混ぜ合わせた溶液を使用すると共に、第1工程終了時に得られるスラリー濃度が30%となるようにメチルアルコールを加えてスラリー濃度を調整し、第2工程の湿式分散装置として、(株)スギノマシン製、「スターバースト(商品名)」を用い、スラリーの対向衝突圧力は全て140MPaとした。
<実施例11>
[第1工程]
1.ビーカーに水酸化銅50gと20℃のメチルアルコール500mlを入れる。
2.水酸化銅の分散溶液を撹拌しながら25%ヒドラジン水溶液100mlを添加する。
3.ヒドラジン水溶液添加後しばらくしてから銅超微粒子が析出し、10分後に反応を終了した。
(結果) 一次粒子径80nmの銅超微粒子凝集体がビーカー底に沈澱した。アスピレータで銅超微粒子凝集体をろ過し、メチルアルコールで洗浄した凝集体の平均粒径は10μmであった。
【0084】
[第2工程]
1.回収した銅超微粒子凝集体にメチルアルコールを加え30%銅微粒子含有スラリーとする。
2.湿式分散装置でスラリーを対向衝突させ、凝集体を平均粒径1.0μmに分散処理した。
【0085】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで30分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0086】
<実施例11の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径80nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が5で、平均粒径が1.0μmの片状銅微粉末が得られた。
【0087】
上記片状銅微粉末で焼成ペーストを作成し600℃で焼成した結果、緻密な銅導体膜が得られた。
【0088】
<実施例12>
第1、第2工程の条件は実施例11と同様とした。
【0089】
[第3工程]
1.分散処理したスラリーを直径50μmのジルコニアビーズを用いた三井鉱山(株)製ビーズミルで周速12m/sで60分間片状加工した。
2.その後アスピレータで片状銅微粉末を回収し、室温で乾燥した。
【0090】
<実施例12の結果>
得られた片状銅微粉末を電子顕微鏡で観察すると、一次粒子径80nmの銅超微粒子の片状凝集体で、直径と厚さの比(アスペクト比)が8で、平均粒径が1.1μmの片状銅微粉末が得られた。
【0091】
上記片状銅微粉末で焼成ペーストを作成し600℃で焼成した結果、緻密な銅導体膜が得られた。
【0092】
上記実施例1乃至12の実験条件及び実験結果をまとめたものを表1に示す。
【0093】
[表1]実験条件及び実験結果の一覧

【0094】
(まとめ)
実施例1乃至10の結果によると、得られた導電塗料は抵抗率がいずれも10のマイナス4乗台のオーダーであり、極めて導電性が高いことが確認された。また、実施例11及び12の結果、焼成ペーストを作成すると緻密な導体膜が得られることも確認された。そして、実施例1乃至12の結果得られた導電膜は、アスペクト比が最も小さいもので5であり、平均粒径は2.5μm以下であって、ファインピッチの導電塗料として優れた特性を備えているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る片状銅微粉末はファインパターン印刷用の導電塗料として使用できるほか、インクジェット法による印刷回路にも使用できるなど、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】銅超微粒子の凝集体が片状加工される現象を説明するための模式的図。図1(a)は、第1工程で形成される凝集体の構造を模式的に示したものである。図1(b)は、第2工程で形成される凝集体の構造を模式的に示したものである。図1(c)は、第3工程で形成される凝集体の構造を模式的に示したものである。
【図2】本発明に係る片状銅微粉末の製造方法の各工程を示す図。
【図3】本発明に係る片状銅微粉末の走査型電子顕微鏡写真。
【図4】機械粉砕法の片状銅微粉末の走査型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0097】
S1 溶液還元法による凝集体析出工程(第1工程)
S2 凝集体の分散工程(第2工程)
S3 片状加工工程(第3工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径100nm以下の金属ナノ粒子の凝集体が、溶液中で機械的圧力によって薄片化された、導電塗料用の片状金属微粉末。
【請求項2】
前記片状金属微粉末は、凝集体の直径と厚さの比が5.0以上の片状形状である請求項1記載の片状金属微粉末。
【請求項3】
請求項1記載の前記片状金属微粉末を樹脂と溶剤を含む溶液中で混練分散してなる導電塗料。
【請求項4】
金属化合物をアルコール中に分散させた溶液に還元剤を加え、前記溶液中に一次粒子径100nm以下の金属超微粒子凝集体を析出する第1工程と、
前記金属超微粒子凝集体を含むスラリーを対向衝突させる第2工程と、
前記対向衝突した金属超微粒子凝集体を機械的に溶液中で片状加工する第3工程と
を有する導電塗料用片状金属微粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−135140(P2010−135140A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308500(P2008−308500)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】