説明

導電性コーティング剤

【課題】塩素を含まずに、表面抵抗値が極めて低く、難接着性プラスチックとの濡れ密着性、リコート性に優れた導電性コーティング剤、それを硬化させた導電性被膜、及びその形成方法を提供する。
【解決手段】導電性コーティング剤は、フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとの共重合体、(メタ)アクリロイル基を有する単量体の繰返し単位と4級アンモニウム基を有する単量体の繰返し単位とを含有している導電性プレポリマー、及びエチレン基複数含有プレポリマーを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装のプライマーや帯電防止コーティング剤として、オレフィン樹脂等の低極性基材にコーティングを施して導電性を付与するための、硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低極性プラスチックであるオレフィン系基材は、自動車部品、建材、家電製品の部品などで汎用されている。一般的にこれらの製造ラインにおいて、損傷防止のための強度強化、また着色などの目的からオレフィン系基材に塗工による加工が施されている。
【0003】
たとえば、自動車の前後に取り付けられているバンパーは、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)を材料として使用されており、帯電した塗料を利用した静電塗装で加工されたものである。静電塗装は、静電気力によって塗料が引き寄せられるため、対象物に効率よく付着させることが可能な方法である。
【0004】
この方法を用いてPPバンパーやPEバンパーに塗装する際に、表面加工の下処理として、低極性であり難接着性であるプラスチックとの濡れ密着性に優れ、導電性を有するプライマーが必要とされている。
【0005】
特許文献1に未硬化塗面上に上塗り塗料を静電塗装しても仕上がり外観が低下しないプライマー組成物が開示されている。
【0006】
一般的にプライマーは、塩素化ポリプロピレンと導電性酸化金属とを混合したもので、これをPPバンパー上に塗工することで、導電性を付与させるものである。プライマー組成物に塩素を含有すると、製造工程での廃液処理や廃棄工程での燃焼によるダイオキシン発生など、環境に悪影響を及ぼす恐れがあるためこれらの組成物の脱塩素化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−265109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、塩素を含まずに、表面抵抗値が極めて低く、難接着性プラスチックとの濡れ密着性、リコート性に優れた導電性コーティング剤、それを硬化させた導電性被膜、及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された導電性コーティング剤は、フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとの共重合体、(メタ)アクリロイル基を有する単量体の繰返し単位と4級アンモニウム基を有する単量体の繰返し単位とを含有している導電性プレポリマー、及びエチレン基複数含有プレポリマーが含まれていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載された導電性コーティング剤は、請求項1に記載されたものであって、前記導電性プレポリマーが、アミノ基含有不飽和マクロモノマーと(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの共重合体であって、前記(メタ)アクリロイル基を導入していることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された導電性コーティング剤は、請求項1に記載されたものであって、前記導電性プレポリマーにフッ素が含まれていないことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された導電性コーティング剤は、請求項1に記載されたものであって、前記導電性プレポリマーと前記エチレン基複数含有プレポリマーとの配合比が、合計を100重量部として、20〜80:80〜20であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された導電性コーティング剤は、請求項1に記載されたものであって、光重合開始剤、または/および熱重合開始剤が含まれていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載された導電性被膜は、請求項1に記載の導電性コーティング剤の前記(メタ)アクリロイル基と、前記エチレン基複数含有プレポリマーとが架橋硬化されていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された導電性被膜の形成方法は、導電性コーティング剤をプラスチック基材に塗工し、そこに活性エネルギー線を照射することにより、(メタ)アクリロイル基を架橋して硬化させることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載された導電性被膜の形成方法は、請求項7に記載されたものであって、前記プラスチック基材が、ポリプロピレン、ポリエチレンから選ばれるオレフィン樹脂、またはアクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂と、前記オレフィン樹脂とを含有しているポリマーアロイであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性コーティング剤は、フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーを組み込むことで、少量のフッ素含有量であっても、ポリプロピレン等のオレフィンのように低極性な基材に対して濡れ性がよく、高い密着性を示すことができる。また、この導電性コーティング剤を活性エネルギー線によって硬化させることが可能であり、透明な導電性被膜が形成される。硬化させた被膜は、表面抵抗値が10Ωレベル以下であり、導電性に優れている。さらに、この被膜は、導電性コーティング剤の配合比において、導電性プレポリマーの含有量が多くても、導電性プレポリマーに不飽和基である(メタ)アクリロイル基を含有させることにより、その不飽和基とエチレン基複数含有プレポリマーである多官能ウレタン(メタ)アクリレートとが架橋し硬化するため、タックのない被膜となる。
【0018】
この導電性コーティング剤中のフッ素含有量が極めて少量であり、導電性プレポリマーにフルオロカーボン基を含有しないため、導電性被膜は、その被膜上の塗装に対して優れた濡れ性、密着性を維持することが可能であり、高いリコート性を示す。
【0019】
本発明の導電性コーティング剤を硬化させた被膜は、塩素を含有していないため、廃棄処理における燃焼などでダイオキシンのような有害物質を発生しない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の導電性コーティング剤の好ましい一例は、以下のようにして調整される。
【0022】
末端に2−メルカプトエタノールを導入したアミノ基含有(メタ)アクリレートのブロック重合体を得た後、その水酸基に(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物を付加させることにより、末端に不飽和基を導入したアミノ基含有不飽和マクロモノマーを合成する。
【0023】
この末端に不飽和基を導入したアミノ基含有不飽和マクロモノマーと(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとを重合させることで、側鎖に水酸基が導入されたグラフト共重合体を合成する。このグラフト共重合体の水酸基に(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物を付加させ、さらにジエチル硫酸により3級アミンを4級化させることで、(メタ)アクリロイル基を含有する単量体の繰返し単位と4級アンモニウム基を含有する単量体の繰返し単位とを含有している導電性プレポリマーを得る。
【0024】
(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの平均分子量は100〜900であると好ましい。
【0025】
3級アミンを4級化させる方法として、ジエチル硫酸のみに限られず、ジメチル硫酸、ジプロピル硫酸等のアルキル硫酸エステル類、p−トルエンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸メチル等のスルホン酸エステル類、トリメチルホスフェイト、トリエチルホスフェイト等のアルキルリン酸類を用いてもよい。
【0026】
一方、末端に2−メルカプトエタノールを導入したフルオロカーボン基含有(メタ)アクリレートのブロック重合体を得た後、その水酸基に(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物を付加させることにより、末端に不飽和基を導入したフルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーを合成する。
【0027】
この末端に不飽和基を導入したフルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとを、合計を100として、20〜100:80〜0の重量比で反応させ、グラフト共重合体を得る。
【0028】
このグラフト共重合体と、前記(メタ)アクリロイル基を含有する単量体の繰返し単位と4級アンモニウム基を含有する単量体の繰返し単位とを含有している導電性プレポリマーと、ハードコートベースとしてエチレン基複数含有プレポリマーとを、混練することで、導電性コーティング剤が得られる。
【0029】
導電性コーティング剤の導電性プレポリマーとエチレン基複数含有プレポリマーとの配合比は、導電性プレポリマーとエチレン基複数含有プレポリマーとの合計を100重量部として、導電性プレポリマーが20〜80重量部に対して、エチレン基複数含有プレポリマーが80〜20重量部であり、好ましくは、導電性プレポリマーが30〜70重量部に対して、エチレン基複数含有プレポリマーが70〜30重量部である。導電性プレポリマーが30重量部より少ないと、導電性コーティング剤を硬化した被膜の表面抵抗値が高くなり導電性の低下を招き、導電性プレポリマーが70重量部より多いと、導電性コーティング剤を硬化した被膜の外観が悪化する問題を生じ易くなる。
【0030】
導電性コーティング剤において、フルオロカーボン基含有不飽和モノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとのグラフト共重合体は、導電性プレポリマーとエチレン基複数含有プレポリマーとの合計100重量部に対して0.1〜5重量部含まれていると好ましい。
【0031】
本発明の導電性コーティング剤の原料物質は、具体的には以下のとおりである。
【0032】
アミノ基含有不飽和マクロモノマーは、具体的に、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートの末端に不飽和基を含有したマクロモノマーが挙げられる。これらのアミノ基含有不飽和マクロモノマーは、単独で用いてもよく、また複数混合したものであってもよい。
【0033】
(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートは、具体的に、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリロイル基含有イソシアネート化合物は、具体的に2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(2−(メタ)アクリロイルエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、4−(メタ)アクリロイルオキシシクロヘキシルイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
フルオロカーボン基含有不飽和モノマーは、具体的に2,2,2−トリフルオロ(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5Hオクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソプロピルエチル(メタ)アクリレート、p−パーフルオロオクチルオキシベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、パーフルオロオクチルエチルアクリレートなどの末端に不飽和基を含有したマクロモノマーが挙げられる。これらのフルオロカーボン基含有不飽和モノマーは、末端にパーフルオロアルキル基を有するものが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。これらのフルオロカーボン基含有不飽和モノマーは、単独で用いてもよく、また複数混合したものであってもよい。
【0036】
(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリレート、単官能ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、単官能ポリエステル(メタ)アクリレート、単官能ポリカプロラクトン(メタ)アクリレートが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、(メタ)アクリル酸モノエステルモノマー以外の共重合可能な不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸のような不飽和カルボン酸モノマー;t−ブチル−n−ブトキシメチルアクリルアミドのような(メタ)アクリル酸アミドモノマー;スチレン、α−メチルスチレンのようなスチレンモノマー;ラウリルビニルエーテルのようなビニルエーテルモノマー;ビニルブチレートのようなビニルエステルモノマーを挙げることができるが、特にこれに限定されるものではない。これらの不飽和モノマーは1種を単独で使用でき、また2種以上を併用できる。
【0037】
エチレン基複数含有プレポリマーは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート及びこれらのビュレット体、ヌレート化物等のポリイソシアネートと、グリセリンモノメタクリレートモノアクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応物等が挙げられるが、これらを単独で用いてもよく、また複数混合したものであってもよい。また、これら多官能ウレタン(メタ)アクリレートに、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)ヘキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物トリ(メタ)アクリレート、多価アルコールと多塩基酸を縮合して得られる化合物の(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンモノメタクリレートモノアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等に挙げられるエチレン基複数含有モノマーを併用してもよい。
【0038】
この導電性コーティング剤は、塩素を含まない非塩素化合物からなっている。そして導電性コーティング剤は、その組成に、重合開始剤、シリコン系樹脂、シリカ粒子、金属粒子、金属酸化物粒子、有機塩、無機塩のような添加剤等を含んでいてもよい。
【0039】
重合開始剤は、光重合開始剤、たとえば1−ヒロドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド;熱重合開始剤、たとえばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0040】
導電性コーティング剤は、プラスチック基材上に塗工し、活性エネルギー線たとえば紫外線、放射線、赤外線、X線、電子線、可視光または熱を照射することで、硬化して透明な導電性被膜を形成する。
【0041】
プラスチック基材は、具体的に、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂;及びこれらとアクリル樹脂やウレタン樹脂等とのポリマーアロイからなる成形基材が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
本発明の導電性コーティング剤の原料物質、それを硬化させた導電性被膜の試作例を示す。
【0044】
(合成例1)ジメチルアミノエチルメタクリレートのマクロモノマーの合成
4つ口フラスコにジメチルアミノエチルメタクリレートであるライトエステルDM(共栄社化学(株)社製の商品名:DMモノマー)の100重量部、2−メルカプトエタノール5重量部、メチルエチルケトン109.39重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下で、75〜80℃で13時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート9.93重量部、メトキノン0.04重量部、メチルエチルケトン9.98重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、55〜60℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認し、ジメチルアミノエチルメタクリレートのマクロモノマー(DMマクロモノマー)を得た。
【0045】
(合成例2)トリフルオロエチルメタクリレートのマクロモノマーの合成
4つ口フラスコに2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートであるライトエステルM−3F(共栄社化学(株)社製の商品名;M−3Fモノマー)100重量部、2−メルカプトエタノール5重量部、メチルエチルケトン109.39重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下で、75〜80℃で7時間反応させた。その後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート9.93重量部、メトキノン0.04重量部、メチルエチルケトン9.98重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、55〜60℃で6時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認し、トリフルオロエチルメタクリレートのマクロモノマー(M−3Fマクロモノマー)を得た。
【0046】
(合成例3)トリフルオロエチル基含有高分子化合物1の合成
4つ口フラスコに、メチルメタクリレート20重量部、合成例2で得られたM−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して80重量部とそれを含むメチルエチルケトン80重量部との混合物、メチルエチルケトン76.59重量部、及びジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部を加え、窒素雰囲気下、75〜80℃で5時間反応させ、トリフルオロエチル基含有高分子化合物を得た。
【0047】
(合成例4)トリフルオロエチル基含有高分子化合物2の合成
合成例3で使用したM−3FマクロモノマーをM−3Fモノマー80重量部にし、メチルエチルケトンを156.59重量部にしたこと以外は、合成例3と同様にして、トリフルオロエチル基含有高分子化合物2を得た。
【0048】
(合成例5)導電性高分子化合物1の合成
4つ口フラスコに、合成例1で得られたDMマクロモノマーを樹脂分に換算して70重量部とそれを含むメチルエチルケトン70重量部との混合物、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)社製の商品名;PE−200モノマー)30重量部、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部、メチルエチルケトン86.59重量部を添加し、窒素雰囲気下、75〜80℃で7時間反応させた。反応混合物に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート14.91重量部、メトキノン0.04重量部、メチルエチルケトン22.44重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、55〜60℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認した。更に反応混合物に、ジエチル硫酸55.28重量部、メチルエチルケトン82.92重量部、エタノール261.94重量部を添加して、60℃で3時間反応させた。滴定法によりアミン価を測定し、3級アミンが全て4級化されているのを確認し、導電性高分子化合物1を得た。
【0049】
(合成例6)導電性高分子化合物2の合成
4つ口フラスコに、合成例1で得られたDMマクロモノマーを樹脂分に換算して50重量部とそれを含むメチルエチルケトン50重量部との混合物、合成例2で得られたM−3Fマクロモノマーを樹脂分に換算して10重量部とそれを含むメチルエチルケトン10重量部との混合物、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)社製の商品名;PE−200モノマー)40重量部、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)5重量部、メチルエチルケトン96.59重量部を添加し、窒素雰囲気下、75〜80℃で7時間反応させた。反応混合物に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート19.88重量部、メトキノン0.04重量部、メチルエチルケトン29.89重量部、ジブチル錫ジラウレート0.01重量部を添加して、55〜60℃で3時間反応させた。赤外吸収スペクトルにて2250cm−1のイソシアネート基のピークが消失していることを確認した。更に反応混合物に、ジエチル硫酸39.48重量部、メチルエチルケトン59.22重量部、エタノール245.70重量部を添加して、60℃で3時間反応させた。滴定法によりアミン価を測定し、3級アミンが全て4級化されているのを確認し、導電性高分子化合物2を得た。
【0050】
【表1】

【0051】
以下に、本発明を適用する導電性コーティング剤及びそれを硬化させた導電性被膜の試作例を実施例1〜3に示す。また本発明の適用外のコーティング剤及びそれを硬化させた被膜の試作例を比較例1〜6に示す。
【0052】
(実施例1〜3、及び比較例1〜6)
合成例3〜6で得た高分子化合物、ハードコートベースレジンとしてペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学(株)社製の商品名:ウレタンアクリレートUA−306I)、溶媒としてメチルエチルケトン、エタノール、及び光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル社製の商品名:イルガキュア184)を、表2に記載の通りに配合して均一に混練し、組成物を調製した。得られた組成物を、バーコーター(No.14)にてポリプロピレン基材に厚さ約10μmで塗工して塗膜とし、90℃で5分間乾燥した。それを5m/分のスピードのコンベアに載せ、そこから上へ10cm離した80W/cm高圧水銀灯で紫外線を照射して塗膜を硬化させ、膜厚3μmの被膜を有する試験片を得た。
【0053】
得られた試験片の物性について、以下のようにして、濡れ性評価試験、密着性評価試験、外観観察、表面抵抗値測定試験を行ない、評価した。
【0054】
(濡れ性評価試験)
硬化被膜の塗膜状態を目視にて観察し、ハジキがなく均一な塗膜であるものを○、若干ハジキがあるものを△、ハジキがあり塗膜を形成しないものを×として3段階で評価した。
【0055】
(密着性評価試験)
JIS K 5400に従い、試験片の被膜表面に1mm間隔で縦、横11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作った。セロハンテープをその表面に密着させた後、一気に剥がしたときに剥離せず残ったマス目の個数を数えた。
【0056】
(外観観察)
硬化被膜の塗膜状態を目視で観察した。透明であるものを○、少し白化が見られるものを△、被膜全体が白化しているものを×として3段階で評価した。
【0057】
(表面抵抗値測定試験)
20℃で相対湿度60%下での試験片の被膜の表面抵抗値について、抵抗率計DSM−8103及びSME−8311(いずれも東亜ディーケーケー社製:商品名)を用い、測定した。
【0058】
得られた導電性被膜について、下記に示すリコート性試験を行った。
【0059】
(リコート性試験)
ハードコートベースとしてペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー(共栄社化学(株)社製の商品名:ウレタンアクリレートUA−306I)100重量部、溶媒としてメチルエチルケトン122重量部、エタノール122重量部、及び光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティケミカル社製の商品名:イルガキュア184)5重量部を均一に混練し、組成物を調製した。得られた組成物を、バーコーター(No.14)にて導電性被膜上に厚さ約10μmで塗工して塗膜とし、90℃で5分間乾燥した。それを5m/分のスピードのコンベアに載せ、そこから上へ10cm離した80W/cm高圧水銀灯で紫外線を照射して塗膜を硬化させ、膜厚3μmの被膜を有する試験片を作製した。
【0060】
得られた試験片の物性について、上記同様、濡れ性評価試験、密着性評価試験、外観観察を行い、併せて下記に示す耐擦傷性試験も行った。
【0061】
(耐擦傷性評価試験)
200g/cmの荷重をかけた0000番スチールウールで、試験片の被膜を10往復擦り、傷の有無を目視にて観察した。傷が付かない、またはほとんど傷が付かないものを◎、若干傷が付いたものを○、傷が無数に付いたものを△、白化するほど傷がついたものを×とする4段階で評価した。
【0062】
これらの結果を、まとめて表2、3に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
表2、3から明らかなとおり、本発明の導電性コーティング剤から得た被膜は、ポリプロピレン基材への濡れ性、密着性、透明性、導電性、リコート性に優れていた。
【0066】
表2中、実施例1と比較例1、2との比較から明らかなように、トリフルオロエチル基含有高分子化合物中のトリフルオロエチル基含有部分をマクロモノマーにしたことで、トリフルオロエチル基含有高分子化合物の添加量が少量でも濡れ性が良好に発現した。
【0067】
実施例1と比較例3、4との比較から明らかなように、導電性高分子化合物中にトリフルオロエチル基含有部分を組み込んでも、濡れ性及び外観が不十分であり、更にリコート性が損なわれるが、導電性高分子化合物中にトリフルオロエチル基を組み入れずに、別途ポリマーブレンドとして処方することにより、優れた濡れ性発現機能、密着性機能を維持したまま、表面抵抗値を効果的に低下させ、更に優れたリコート性を付与することができた。
【0068】
また表3中、実施例1〜4と比較例5の比較から明らかなように、導電性コーティング剤中の導電性高分子化合物とウレタンアクリレートUA−306Iとの配合比を変えることにより、導電性高分子化合物の比率を上げると、被膜の外観が悪化し、逆に導電性高分子化合物の比率を下げると、導電性が低下しやすくなった。よって、導電性及び被膜の透明性を満たす導電性コーティング剤中の導電性高分子化合物とウレタンアクリレートUA−306Iの最適な配合比の範囲は、導電性高分子化合物(重量部)/ウレタンアクリレートUA−306I(重量部)で、70/30から30/70である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の導電性コーティング剤は、オレフィン系基材などの低極性樹脂を基材とするバンパーやインストルメントパネルなどの車両内外装、建材、衣装ケースや各種ボトルなどの日用品、炊飯器や洗濯機などの家電製品、食品包装やアルバムなどに使用されるフィルム、それらの製造ラインに用いられる静電塗装プライマーや帯電防止コーティング剤として利用することができ、あらゆる分野において幅広く適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロカーボン基含有不飽和マクロモノマーと(メタ)アクリル酸モノエステルモノマーとの共重合体、
(メタ)アクリロイル基を有する単量体の繰返し単位と4級アンモニウム基を有する単量体の繰返し単位とを含有している導電性プレポリマー、及び
エチレン基複数含有プレポリマーが含まれていることを特徴とする導電性コーティング剤。
【請求項2】
前記導電性プレポリマーが、アミノ基含有不飽和マクロモノマーと(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとの共重合体であって、前記(メタ)アクリロイル基を導入していることを特徴とする請求項1に記載の導電性コーティング剤。
【請求項3】
前記導電性プレポリマーにフッ素が含まれていないことを特徴とする請求項1に記載の導電性コーティング剤。
【請求項4】
前記導電性プレポリマーと前記エチレン基複数含有プレポリマーとの配合比が、合計を100重量部として、20〜80:80〜20であることを特徴とする請求項1に記載の導電性コーティング剤。
【請求項5】
光重合開始剤、または/および熱重合開始剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の導電性コーティング剤。
【請求項6】
請求項1に記載の導電性コーティング剤の前記(メタ)アクリロイル基と、前記エチレン基複数含有プレポリマーとが架橋硬化されていることを特徴とする導電性被膜。
【請求項7】
導電性コーティング剤をプラスチック基材に塗工し、そこに活性エネルギー線を照射することにより、(メタ)アクリロイル基を架橋して硬化させることを特徴とする導電性被膜の形成方法。
【請求項8】
前記プラスチック基材が、ポリプロピレン、ポリエチレンから選ばれるオレフィン樹脂、またはアクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂と前記オレフィン樹脂とを含有しているポリマーアロイであることを特徴とする請求項7に記載の導電性被膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−241927(P2010−241927A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91155(P2009−91155)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】