説明

導電性ペースト

【課題】 セラミックグリーンシートと同時焼成した場合に、得られる導体のメッキ後の密着強度と導電性が良好である表層導体用導電性ペーストを提供すること。
【解決手段】 Ag粉末に、Ta25粉末またはTl23粉末の少なくとも1種類の粉末を添加している導電成分を有する。Ta25粉末とTl23粉末の合計が0.5〜1重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高密度実装回路基板の製造に用いられるセラミック多層回路基板の表層導体材料として使用される導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
高密度実装回路基板としてセラミック多層回路基板が幅広く用いられている。そのセラミック多層回路基板は一般にセラミックグリーンシート積層法によって次のような手順で製造される。
【0003】
まず、複数枚のセラミックグリーンシートに層間接続用のビアホールをパンチング、レーザー加工などで形成した後、それぞれのセラミックグリーンシートのビアホールに導電性ペーストを穴埋め印刷にて充填してビア導体を形成し、その後、各セラミックグリーンシートに導電性ペーストを用いて配線パターンをスクリーン印刷により形成する。次いで、これら複数枚のセラミックグリーンシートを積層・熱圧着した後、各セラミックグリーンシートと印刷導体とを同時焼成してセラミック多層回路基板が製造されている。
【0004】
現在用いられているセラミック多層回路基板は、1300℃以上で焼成されるアルミナ等の高温焼成セラミック多層回路基板と、約1000℃以下で焼成される低温焼成セラミック多層回路基板に大別される。
【0005】
高温焼成セラミック多層回路基板は、導体材料として、Mo、W等の高融点金属が用いられているが、導体の酸化防止のために還元雰囲気で焼成しなければならず、電気抵抗値も比較的高いという欠点がある。
【0006】
一方、低温焼成セラミック多層回路基板は、電気抵抗値が低くて電気特性に優れたAg、Ag−Pt、Ag−Pd等のAg系導体を使用して、空気中でセラミックグリーンシートと同時焼成できるという利点がある。
【0007】
しかし、Agの融点は約962℃であって、AgまたはAg系合金からなる比較的融点の低いAg系導体とセラミックを同時焼成すると、セラミック基板上の表層導体が過焼結ぎみになって、表層導体がポーラスな組織になることがある。ポーラスな組織となった表層導体にメッキ処理を施すと、ポーラスな組織の隙間からメッキ処理液が浸入し、表層導体内部の組織や表層導体とセラミック基板との界面を浸食し、表層導体の密着強度が大幅に低下するという問題があった。
【0008】
そのため、従来の表層用導電性ペーストでは、Pt、Pd、Rh、W、ガラスフリットなどを添加することにより隙間を塞ぐことでメッキ処理液の浸入を防いだり、耐薬品性のあるPt、Pdなどでメッキ処理液耐性を表層導体に持たせ、表層導体の密着強度の低下を抑制しようとする提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−111052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、表層導体中にPt、Pd、Rh、W、ガラスフリットなどを添加した場合、電気抵抗値の上昇につながり性能が低下することや、高価な元素であるPt、Pd、Rh等を添加することはコストの上昇にもつながる。
【0010】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、セラミックグリーンシートと同時焼成した場合に、得られる導体のメッキ後の密着強度と導電性が良好である表層導体用導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、セラミック多層回路基板の表層に使用する導電性ペーストであって、Ag粉末に、Ta25粉末またはTl23粉末の少なくとも1種類の粉末を添加してなる導電成分を有する導電性ペーストを使用する。
【0012】
Ta25粉末および/またはTl23粉末の添加量が少なすぎると、密着強度の改善効果が見られず、後記する熱収縮開始温度を高くするという作用が期待できないので、0.5重量%以上添加することが好ましい。しかし、多すぎると、電気抵抗値が増加して電気特性が低下するので、1.0重量%以下とするのが好ましい。このような効果を達成するためには、Ta25粉末またはTl23粉末の平均粒径は、0.5〜2.0μmとするのが好ましい。
【0013】
ところで、Ag系導体と低温焼成セラミックとを同時焼成する際、両者の収縮挙動が大きく異なるという不都合な点がある。Ag系導電性ペーストは、焼成開始後、300〜400℃で有機物(バインダー樹脂等)が熱分解してAgが焼結することにより収縮し始めるが、低温焼成セラミックグリーンシートはガラスを主成分とするため、そのガラス成分が融解し始める650℃付近で収縮を開始するのが一般的である。このため、400℃から650℃付近の温度領域では、Ag系導体と低温焼成セラミックの収縮率の差が温度上昇に伴って拡大する。両者の収縮率の差が大きくなると、両者の接合部に大きな熱応力が発生して焼成基板が反ったり、接合部の接合強度が低下して接合部が剥がれることがある。
【0014】
かかる不都合を回避するためには、Ag粉末の平均粒径は、1〜5μmが好ましい。Ag粉末の平均粒径が1μm未満ではAgの焼結を抑制することが難しく、Ag粉末の平均粒径が5μmを超えると、微細な配線パターンを形成することが難しくなるからである。なお、本明細書において、平均粒径とは、マイクロトラック粒度分析計で測定した累積グラフにおける50容積%での粒径をいう。
【0015】
導電性ペーストにおける導体粉末と有機ビヒクルとの割合は、一般的な配合割合が採用できる。例えば、導体粉末重量部:有機ビヒクル重量部=70:30〜90:10が好ましい。導体粉末が70重量部未満(有機ビヒクルが30重量部超)では、導体の電気抵抗値が高くなり、電気特性が低下するので好ましくない。導体粉末が90重量部超(有機ビヒクルが10重量部未満)では、適正なペースト粘度が得られず、ビアホールへの充填および配線パターン形成の作業効率が低下するので好ましくない。
【0016】
そこで、上記範囲の配合比とすることにより、導体ペーストの粘度がビアホールへの穴埋め充填性と配線パターン印刷性とを両立できる適度な粘度となるとともに、焼成開始から有機物の熱分解開始温度である約400℃近くに昇温するまでの有機物の熱分解による印刷導体の減量が少なく、導体の電気特性を安定化させることができる。
【0017】
有機ビヒクルは、バインダー樹脂(例えば、エチルセルロース系樹脂、アクリル系樹脂など)と、有機溶剤(例えば、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテートなど)を含み、必要に応じて可塑剤を添加することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セラミックグリーンシートと同時焼成した場合に、得られる導体のメッキ後の密着強度と導電性が良好である表層導体用導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本実施形態の製造工程で製造する低温焼成セラミック多層回路基板の一例を示す縦断面図、図2は本実施形態の製造工程の流れを示すフローチャートである。以下、製造工程順に説明する。
【0020】
(1)グリーンシートの成形
まず、低温焼成セラミック多層回路基板用のセラミックグリーンシート1を、低温焼成セラミックのスラリーを用いてドクターブレード法等でテープ成形する。この際、低温焼成セラミックとしては、CaO−SiO2−Al23−B23 系ガラス50〜65重量% とアルミナ35〜50重量%との混合物を用いることができるが、これに限定されるものではない。この他、例えば、PbO−SiO2 −B23系ガラスとアルミナとの混合物、 MgO−Al23−SiO2 −B23系ガラスとアルミナとの混合物、コージェライト系 ガラスとアルミナとの混合物等、800〜1000℃で焼成できる低温焼成セラミック材料であれば、用いることができる。
【0021】
(2)グリーンシートの切断とビアホールの穴あけ加工
この後、テープ成形したセラミックグリーンシート1を所定の寸法に切断した後、所定の位置にビアホール2、3をパンチング加工する。径の大きい方のビアホール3は、搭載電子部品(図示せず)の熱を放散するためのサーマルビアを形成するビアホールであり、径の小さい方のビアホール2は層間の配線パターン4を接続するビア導体を形成するビアホールである。
【0022】
(3)ビアホールへの導電性ペーストの穴埋め印刷と配線パターン印刷
その後、ビアホール2、3の穴埋め印刷および層間配線パターン4、表層配線パターン5、裏面配線パターン6、部品搭載ランド7の印刷を、例えば、後記する配合のAg系導体ペーストを用いて行う。なお、表層配線パターン5、裏面配線パターン6、部品搭載ランド7など、セラミックグリーンシートを積層したとき表面に表れる導体には、本発明の配合の導電性ペーストを用いるべきであるが、ビアホール2、3の穴埋めや層間配線パターン4の形成には必ずしも本発明の配合の導電性ペーストを用いる必要はなく、本発明とは異なる配合の導電性ペーストを用いることもできる。
【0023】
所定の配合の化合物を、例えば、3本ロールミルのようなミキシング装置を用いて十分に混練・分散することにより、導電性ペーストを作製することができる。
【0024】
本発明の導電性ペーストにガラスフリットやSi、Cu、Mo、Mn等の酸化物や有機化合物を導電性を低下させない程度に添加することは可能で、基板との密着強度の更なる向上や基板とのなじみを改善する上で効果的である。実用上、電気抵抗値の上昇が問題とならない範囲においてPtやPdを添加することも可能で、Agに比べて高融点のPtやPdを適量添加することによりセラミック基板との焼結タイミングを微調整することができる。
【0025】
なお、配線パターン印刷用導体とビアホール穴埋め印刷用導体は、同じ組成とすることも、異なる組成とすることもできる。ビアホールに穴埋め印刷したビア導体とセラミックグリーンシートとの収縮率の差が大きいと、ビア導体と配線パターンとの接合部で断線が発生することがあるので、ビア導体では焼結抑制剤としてのガラスフリットや金属酸化物の配合量を多くすることで、焼成時のビア導体の収縮挙動をセラミックグリーンシートの収縮挙動に近づけてビア導体の断線を防ぐようにし、一方、導体ペースト中のガラスフリットや金属酸化物の配合量を多くすると印刷導体の電気抵抗値が大きくなるため、セラミックグリーンシート上に印刷する配線パターンはガラスフリットや金属酸化物の配合量が少ない導体ペーストを用いて配線抵抗値を小さくすることが好ましい。このような観点から、必要に応じて、配線パターン印刷用導体とビアホール穴埋め印刷用導体を異なる組成にすることができる。
【0026】
(4)積層・圧着
印刷終了後、各層のグリーンシート1を積層し、この積層体を例えば、60〜150℃、0.1〜30MPaの条件で加熱圧着して一体化する。
【0027】
(5)焼成
この後、グリーンシート1の積層体を、昇温速度=約10℃/分、焼成ピーク温度=800〜1000℃(好ましくは900℃前後)、ピーク温度で10〜30分保持の条件により空気雰囲気で焼成し、グリーンシート1の積層体を、層間配線パターン4、表層配線パターン5、裏面配線パターン6、部品搭載ランド7およびビアホール2、3穴埋め導体と同時に焼成して低温焼成セラミック多層回路基板を製造することができる。
【0028】
なお、焼成工程でグリーンシート1の積層体の両面にアルミナグリーンシートを積層し、この状態で積層体を加圧しながら、800〜1000℃で焼成した後、焼成基板の両面からアルミナグリーンシートの残存物を除去して、低温焼成セラミック多層回路基板を製造することもできる。この焼成法によれば、基板の焼成収縮量を小さくして焼成後の基板の寸法精度を向上させることができるという利点が期待できる。
【実施例1】
【0029】
下記の表1に示す配合(重量%)の導電性ペーストを作製し、セラミックグリーンシートとして、CaO−Al23−SiO2−B23 系ガラス60重量%とアルミナ40重量 %を混合した、厚み200μmのものを使用した。有機ビヒクルとしては、エチルセルロースをターピネオールに溶解したものを用いた。
【0030】
このセラミックグリーンシートを5層積層したものの表面に、表1に示す導電性ペーストを用いてアスペクト比220のラインと2mm×2mmのパッドをスクリーン印刷により形成した。スクリーン印刷したセラミックグリーンシートを120℃で10分間乾燥した後、ベルト式焼成炉にて、ピーク温度900℃、ピーク温度保持時間20分の条件で焼成した。得られたセラミック基板の導体シート抵抗値と密着強度を次に説明するような方法で測定した。
【0031】
(導体シート抵抗)
一般的な2端子法に基づいて各基板の印刷ラインを形成する導体の抵抗値(Ω)を測定し、シート抵抗値(mΩ/□/10μm)は下式により算出した。結果を表1に示す。次式によるシート抵抗値は、3mΩ/□/10μm未満であることが好ましい。
【0032】
シート抵抗(mΩ/□/10μm)
=((測定抵抗値(Ω)×導体幅(mm))/導体長さ(mm))×(導体厚み(μm)/10μm)×1000
【0033】
(密着強度)
シート抵抗値の測定後、各セラミック基板を脱脂し、希硫酸で洗浄後、触媒化処理し、各セラミック基板の導体上に無電解Niメッキに次いで無電解Auメッキを施した。そして、図3に示すように、セラミックグリーンシート11上のNi−Auメッキを施した導体パッド12に対して、直径0.65mmの軟銅線13を半田14(Sn/Pb=60/40重量比)により固定した。その軟銅線付きセラミックグリーンシートを引張試験機のチャックで把持して軟銅線を20mm/分の速度で引っ張ったときの強度(軟銅線が剥がれるときの引張り強さ)を測定し、下式により密着強度(N/2mm□)を算出した。結果を表2に示す。次式による密着強度は、10N/2mm□以上であることが好ましい。
【0034】
密着強度(N/2mm□)=引張り強さ(N)/2mm□
【0035】
【表1】

【0036】
表1に明らかなように、本発明の実施例1〜9に係るものは、密着強度およびシート抵抗ともに良好である。
【0037】
しかし、比較例1に係るものは、Ta25の添加量が少ないので、密着強度が低い。また、比較例2に係るものは、Ta25の添加量が多いので、シート抵抗が大きく電気特性が悪い。
【0038】
また、比較例3に係るものは、Tl23の添加量が少ないので、密着強度が低い。さらに、比較例4に係るものは、Tl23の添加量が多いので、シート抵抗が大きく電気特性が悪い。
【0039】
本発明の導電性ペーストを用いた導体のメッキ後の密着強度が高いのは、Ta25およびTl23がセラミックグリーンシートと同時焼成の過程でグリーンシートのガラス成分と反応し、導体とグリーンシート界面にガラスの結晶化したもの(図5の引出線15で例示する棒状の結晶化物参照)を生成し、この結晶化物は細長い形状をしているので、アンカー効果を果たして導体とグリーンシートの密着力を向上させたものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態の製造工程で製造した低温焼成セラミック多層回路基板の一例の断面を模式的に示す図である。
【図2】低温焼成セラミック多層回路基板の製造工程の一例のフローチャートである。
【図3】密着強度の測定方法を説明するための図である。
【図4】表1の実施例2の配合の導電性ペーストを印刷した低温焼成セラミック基板の焼成後の表面SEM(走査電子顕微鏡)写真(×2000倍)である。
【図5】表1の実施例2の導電性ペーストとセラミックグリーンシートを同時焼成後、導体のAgを硝酸で溶かした後の導体とセラミックグリーンシートの界面のSEM写真(×2000倍)である。
【符号の説明】
【0041】
1 セラミックグリーンシート
2 ビアホール
3 ビアホール
4 層間配線パターン
5 表層配線パターン
6 裏面配線パターン
7 部品搭載ランド
11 セラミックグリーンシート
12 導体パッド
13 軟銅線
14 半田

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック多層回路基板の表層に使用する導電性ペーストであって、Ag粉末に、Ta25粉末またはTl23粉末の少なくとも1種類の粉末を添加してなる導電成分を有する導電性ペースト。
【請求項2】
Ta25粉末とTl23粉末の合計が0.5〜1重量%である請求項1記載の導電性ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−80363(P2006−80363A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263966(P2004−263966)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】