説明

導電性ペースト

【課題】凹版オフセット印刷法等によって精度のよい導電パターンを形成できる上、短時間の焼成で導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる導電性ペーストを提供する。
【解決手段】熱分解性を有するバインダ樹脂100質量部あたり、5〜40質量部の可塑剤、700〜1500質量部の導電性粉末、20〜100質量部の黒色金属酸化物、5〜100質量部のガラスフリット、および溶剤を配合した導電性ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば凹版オフセット印刷法等によって印刷したのちバインダ樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成することによって電磁波シールドの導電パターン等を形成するための導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)用の電磁波シールドは従来、前記PDPの画面と同等の大きさを有するPETフィルム等の基材フィルムの表面に、前記基材フィルムの面積と比較してごく微細な線幅(10〜30μm程度)を有する導電パターンを、いわゆるフォトリソグラフ法を利用した形成方法によって形成した後、前記基材フィルムをガラス基板に貼り付けて製造していた。
【0003】
しかし近時、基材フィルムの貼り付け工程、および基材フィルム自体を省略すると共に、フォトリソグラフ法に代えてできるだけ工程数を少なく、消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして短時間で生産性良く電磁波シールドを製造するために、印刷法、特に凹版オフセット印刷法や反転印刷法等を利用してガラス基板の表面に直接に導電パターンを形成することが普及しつつある(特許文献1、2等参照)。
【0004】
このうち凹版オフセット印刷法では、前記導電パターンに対応した凹部を有する凹版を用意し、前記凹部に導電性粉末やバインダ樹脂等を含む導電性ペーストを充填し、充填した前記導電性ペーストをブランケットの表面に転写したのちガラス基板の表面に再転写してバインダ樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成することにより、前記ガラス基板の表面に凹版の凹部のパターンに対応した導電パターンが形成されて電磁波シールドが製造される。
【0005】
また反転印刷法では、ブランケットの表面のほぼ全面に厚みが均一になるように導電性ペーストを塗布し、次いで前記ブランケットを凹版の表面に接触させて、前記表面の導電性ペーストのうち凹版の凹部以外の表面と接触した導電性ペーストを凹版の表面に転写させて選択的に除去した後、ブランケットの表面に残った導電性ペーストをガラス基板の表面に転写してバインダ樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成することにより、前記ガラス基板の表面に凹版の凹部のパターンに対応した導電パターンが形成されて電磁波シールドが製造される。
【0006】
これら印刷法によれば、例えば凹版の凹部をフォトリソグラフ法によって形成することで、従来の、基材フィルムの表面に直接にフォトリソグラフ法によって形成したのち前記基材フィルムをガラス基板に貼り付ける場合とほぼ同等の、高い精度を有する導電パターンを有する電磁波シールドを構成できる。
また、フォトリソグラフ法では導電パターンを形成するために多数の工程を要する上、マスクパターンを用いたエッチングやプレーティング等を組み合わせて導電パターンを形成しているため、そのもとになる導電材料を実際に形成する導電パターンが必要とする量以上に多量に使用したり、あるいはマスクパターンのもとになり導電パターンの形成後は除去しなければならない感光性樹脂等を多量に使用したりする必要がある。しかもエッチングや除去等によって発生するこれら多量の廃材は、個別に回収して再利用することが困難である。
【0007】
これに対し凹版オフセット印刷法等では、凹版およびブランケットを繰り返し使用できる上、導電性ペーストの使用量はほぼ導電パターンを形成するのに必要な分だけで済み、多量の廃材が発生するおそれもないため資源の節約に繋がる上、前記のように工程数も少なくて済む。そのため前記印刷法によれば、フォトリソグラフ法に比べて消費エネルギーを小さく、使用する材料の無駄を少なく、そして工程数を少なくして電磁波シールドを短時間で生産性良く製造できる。
【0008】
導電ペーストとしては、例えば熱分解性を有するバインダ樹脂に導電性粉末、黒色金属酸化物、ガラスフリット、および溶剤を配合したもの等が用いられる。このうち導電性粉末は導電パターンに導電性を付与するためのもので、例えば銀粉末等が用いられる。
また黒色金属酸化物は、導電パターンに外光が反射して画像が不鮮明になるのを防止するべく前記導電パターンを黒色に着色するためのもので、例えばコバルト、鉄、およびクロムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む酸化物等が用いられる。さらにガラスフリットは、バインダ樹脂の熱分解後に溶解し、冷却により固化してガラス基板と導電性粉末等とを結着するバインダとして機能する。
【0009】
また印刷法に用いるブランケットとしては、表面層がシリコーンゴムによって形成されたシリコーンブランケットが好ましい。シリコーンブランケットは表面エネルギーが小さいため、導電性ペーストを前記表面からガラス基板の表面へ転写させる際の転写性に優れている。そのためガラス基板の表面に、凹版の凹部のパターンに対応した導電パターンを再現性よく正確に形成できる。
【0010】
近時、電磁波シールド等の生産性を向上し、製造コストを引き下げること等を考慮して、導電性ペーストを印刷後、焼成する際の焼成温度を高くする代わりに焼成時間をできるだけ短くすることが求められつつある。例えば従来は580℃前後で60分間程度焼成していたものが、650℃前後で3分間程度の焼成に変わりつつある。
しかし従来の導電性ペーストを用いて形成される導電パターンは、焼成時間を短くするほど、たとえその分だけ焼成温度を高くしたとしても面抵抗が大きくなって、電磁波シールドに必要な高い導電性が得られないという問題がある。
【0011】
導電性ペーストをガラス基板上に印刷して焼成すると、まず溶剤、次いでバインダ樹脂が除去されると共にガラスフリットが軟化し、流動して導電性粉末および黒色金属酸化物の粒子間に浸透する。また互いに接触する導電性粉末同士が融着ないしは焼結により導電接続されて導電パス経路が形成される。
そして、浸透したガラスフリットが焼成後の冷却によって固化して多数の導電性粉末、ならびに黒色金属酸化物の粒子を結着して導電パターンの形状を維持し、かつ導電パス経路を維持するバインダとして機能して導電パターンが形成される。そのため、導電性粉末同士の良好な導電接続による導電パス経路が形成される割合が多いほど導電パターンの導電性は向上し、面抵抗は小さくなる。
【0012】
しかし焼成時間を短くするほど、たとえ前記のようにその分だけ焼成温度を高くしたとしても、十分に熱分解されずに導電パターン中に残留するバインダ樹脂や、熱分解しても導電パターン中に残留する熱分解残渣の量が多くなる傾向がある。そして前記バインダ樹脂や熱分解残渣等が多量に残留することによって良好な導電パス経路の形成が妨げられて導電パターンの導電性が低下し、面抵抗が大きくなってしまう。
【0013】
そこで発明者は種々検討した結果、インク組成物中に、バインダ樹脂に対して良好な相溶性を有すると共に前記バインダ樹脂の熱分解温度付近に沸点を有する可塑剤を含有させればよいことを見出した。
すなわち前記可塑剤を含むインク組成物をオフセット印刷法等の印刷法によってガラス基板の表面に印刷して焼成すると、導電パターン中でバインダ樹脂と渾然一体となった可塑剤の蒸発によって前記バインダ樹脂中に多数の細孔が形成され、前記細孔を通してバインダ樹脂の熱分解物が速やかに導電パターン外に除去される。
【0014】
そのため、多孔質構造となって外気との接触面積が増加することと相まって、バインダ樹脂をこれまでより速やかに熱分解させることができる。また、熱分解によって発生する熱分解残渣も速やかに除去できる。さらにバインダ樹脂より分子量の小さい可塑剤自体が焼成後の導電パターン中に多量に残留することもない。
したがって、たとえ焼成時間をこれまでより短くした場合であっても、焼成後の導電パターン中に残留するバインダ樹脂やその熱分解残渣、あるいは可塑剤等の量を少なくして、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することが可能となる。
【0015】
特許文献3には、バインダ樹脂、可塑剤、導電性粉末、黒色金属酸化物、およびガラスフリットを含む非感光性黒色層用組成物が記載されている。しかしこの組成物は、例えばPDPのバス電極等を構成するために他の電極層と積層されて、前記電極層のガラス基板側の面を黒色に着色する黒色層を形成するためのものであって、黒色層それ自体には、前期導電パターンのような高い導電性を有することは本来的に求められていない。また、前記組成物を単独で用いて単層構造のバス電極や電磁波シールドの導電パターン等を形成することは、特許文献3には一切記載されていない。
【0016】
また特許文献3記載の発明では、可塑剤を、フォトリソグラフ法による所定の現像液に可溶なバインダ樹脂の溶解性を調整することで、前記フォトリソグラフ法による黒色層のパターン形成の際の解像度を高めるために用いており、先に説明したように焼成時に、バインダ樹脂の熱分解とその除去とを助けるために機能させることについては一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平11−354978号公報
【特許文献2】特開2006−111725号公報
【特許文献3】特開2007−66877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、凹版オフセット印刷法等の印刷法によってパターン形成後、これまでに比べて短時間の焼成で、精度がよく、しかも単層構造であるにも拘らず電磁波シールド等に使用しうる導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の導電性ペーストは、熱分解性を有するバインダ樹脂と、前記バインダ樹脂100質量部あたり、5質量部以上、40質量部以下の可塑剤、700質量部以上、1500質量部以下の導電性粉末、20質量部以上、100質量部以下の黒色金属酸化物、5質量部以上、100質量部以下のガラスフリット、および溶剤とを含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明によれば、熱分解性を有するバインダ樹脂に対して前記所定の割合で可塑剤、導電性粉末、黒色金属酸化物、ガラスフリット、および溶剤を含有させることによって、先に説明したメカニズムにより、凹版オフセット印刷法等の印刷法によってパターン形成後、これまでに比べて短時間の焼成で、精度がよく、しかも単層構造であるにも拘らず電磁波シールド等に使用しうる導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することが可能となる。
【0021】
前記バインダ樹脂および可塑剤の組合せとしては、前記メカニズムにより、短時間での焼成で、バインダ樹脂やその熱分解残渣を可塑剤の蒸発によって形成される細孔を通してできるだけ速やかに除去すること等を考慮すると、バインダ樹脂が熱分解温度150℃以上、350℃以下の樹脂であり、可塑剤が沸点280℃以上、400℃以下のフタル酸エステルであるのが好ましい。
【0022】
また導電性粉末としては、耐酸化性に優れる上、高絶縁性酸化物を生成ににくいことや、焼成により形成される導電パターンの面抵抗をコスト安価にできるだけ小さくすること等を考慮すると銀粉末が好ましい。
また黒色金属酸化物としては、焼成温度での熱安定性に優れ、焼成後の導電パターンを色濃度の高い黒色に着色すること等を考慮するとコバルト、鉄、およびクロムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む酸化物が好ましい。
【0023】
本発明の導電性ペーストは、先に説明したシリコーンブランケットを用いた印刷法によって印刷したのち、バインダ樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成することにより電磁波シールドの導電パターンを形成するために用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、凹版オフセット印刷法等の印刷法によってパターン形成後、これまでに比べて短時間の焼成で、精度がよく、しかも単層構造であるにも拘らず電磁波シールド等に使用しうる導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できる導電性ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の導電性ペーストは、熱分解性を有するバインダ樹脂と、前記バインダ樹脂100質量部あたり、5質量部以上、40質量部以下の可塑剤、700質量部以上、1500質量部以下の導電性粉末、20質量部以上、100質量部以下の黒色金属酸化物、5質量部以上、100質量部以下のガラスフリット、および溶剤とを含むことを特徴とするものである。
【0026】
前記本発明の導電性ペーストにおいて、可塑剤の含有割合が前記範囲に限定されるのは下記の理由による。すなわち、バインダ樹脂100質量部あたりの可塑剤の含有割合が5質量部未満では、前記可塑剤を含有させることによる、先に説明したバインダ樹脂およびその熱分解残渣の除去を促進する効果が得られず、焼成により形成される導電パターンの面抵抗が大きくなってしまう。一方、バインダ樹脂100質量部あたりの可塑剤の含有割合が40質量部を超える場合には導電性ペーストの粘性が増加し、過剰な粘り気を生じて、例えば凹版の凹部からブランケットの表面に転写される際やブランケットの表面からガラス基板の表面に転写される際に糸引きを生じたり、ガラス基板の表面に転写された導電パターンのエッジに前記糸引きにともなうがたつきを生じたり、導電パターンが断線したりしやすくなる。
【0027】
なお前記糸引きや断線等が生じるのを極力防止しながら導電パターンの面抵抗をできるだけ小さくすること等を考慮すると、バインダ樹脂100質量部あたりの可塑剤の含有割合は前記範囲内でも7.5質量部以上、30質量部以下であるのが好ましい。
前記可塑剤としては、バインダ樹脂との相溶性や溶剤に対する溶解性等に優れると共に、焼成時にバインダ樹脂の熱分解と前後して、特にバインダ樹脂の熱分解に先立って蒸発して前記バインダ樹脂中に多数の細孔を形成しうる種々の可塑剤が、バインダ樹脂の種類等に応じて適宜選択して使用できる。
【0028】
中でもバインダ樹脂および可塑剤の組合せとしては、先に説明したメカニズムにより、短時間での焼成でバインダ樹脂やその熱分解残渣を可塑剤の蒸発によって形成される細孔を通してできるだけ速やかに除去すること等を考慮すると、バインダ樹脂が熱分解温度150℃以上、350℃以下の樹脂であり、可塑剤が沸点280℃以上、400℃以下のフタル酸エステルであるのが好ましい。
【0029】
前記フタル酸エステルとしては、例えばフタル酸ジブチル(沸点340℃)、フタル酸ジオクチル(沸点384℃)等の少なくとも1種が挙げられる。
またフタル酸エステルと組み合わせて使用できるバインダ樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、ポリエステル−メラミン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ−メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ樹脂等の中から、好ましくは熱分解温度が前記範囲内で、かつフタル酸エステルとの相溶性に優れたものの1種または2種以上が挙げられる。
【0030】
またバインダ樹脂は焼成によって熱分解されて除去されるため強固な耐久性を必要としない上、導電パターンの面抵抗をできるだけ小さくするべく、前記焼成によって熱分解される際に、未分解のバインダ樹脂や熱分解残渣が残存することなくできるだけきれいに除去されるのが望ましい。これらの条件を満足するバインダ樹脂としては、前記の中でもポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロースが挙げられ、とりわけポリエステル系樹脂が好ましい。
【0031】
バインダ樹脂の分子量は、導電性粉末、黒色金属酸化物、およびガラスフリットの分散性や導電性ペーストの印刷特性等に合わせて適宜設定すればよいが、通常は重量平均分子量Mwが1000〜30000、特に2000〜20000程度であるのが好ましい。バインダ樹脂の含有割合は、適用する印刷法に応じて導電性ペーストに求められる粘度等の特性に合わせて適宜設定すればよい。
【0032】
本発明において、導電性粉末の含有割合が前記範囲に限定されるのは下記の理由による。すなわち、バインダ樹脂100質量部あたりの導電性粉末の含有割合が700質量部未満では、焼成後の導電パターンを形成する全成分中に占める導電性粉末の割合が少なくなり、相対的に導電性に寄与しないガラスフリット、黒色金属酸化物の割合が多くなる。そのため、たとえ可塑剤を含有させることによる、先に説明したバインダ樹脂およびその熱分解残渣の除去を促進する効果が得られたとしても、焼成により形成される導電パターンの面抵抗が大きくなってしまう。
【0033】
一方、バインダ樹脂100質量部あたりの導電性粉末の含有割合が1500質量部を超える場合には、相対的にバインダ樹脂および溶剤の割合が少なくなるため導電性ペーストの流動性が低下し、かつ粘り気が低下して分離しやすくなる上、比重が大きくなるため、特に導電性ペーストが凹版の凹部からブランケットの表面に良好に転写されない、いわゆる受理不良の問題が生じやすくなる。
【0034】
なお前記受理不良が生じるのを極力防止しながら導電パターンの面抵抗をできるだけ小さくすること等を考慮すると、バインダ樹脂100質量部あたりの導電性粉末の含有割合は前記範囲内でも900質量部以上、1300質量部以下であるのが好ましい。
導電性粉末としては、例えば銀、銅、金、白金、ニッケル、アルミニウム、鉄、パラジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、コバルト等の金属の粉末や前記金属の2種以上の合金の粉末、銀メッキ銅等のメッキ複合体の粉末、酸化銀、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ルテニウム等の金属酸化物の粉末などの1種または2種以上が挙げられる。中でも高い導電性を有する上、高絶縁性の酸化物を生成しにくい耐酸化性に優れるため導電性に優れた導電パターンを形成できる銀の粉末が好ましい。
【0035】
導電性粉末は、凹版オフセット印刷法等に使用する際の印刷適性に優れる上、微細な導電パターンを細部まで良好に再現できる導電性ペーストを調製すること等を考慮すると、粒度分布の50%累積径D50が0.05μm以上、10μm以下、特に0.1μm以上、2μm以下であるのが好ましい。
また導電性粉末の形状は、前記導電性粉末同士の接触面積を大きくして導電パターンの導電性を高めること等を考慮すると球状よりも鱗片状であるのが好ましい。また、導電性粉末を細密充填して導電パターンの導電性をさらに高めること等を考慮すると、前記鱗片状の導電性粉末と球状の導電性粉末とを併用するのも好ましい。
【0036】
黒色金属酸化物の含有割合が、先に説明した範囲に限定されるのは下記の理由による。すなわちバインダ樹脂100質量部あたりの黒色金属酸化物の含有割合が20質量部未満では、当該黒色金属酸化物を含有させることによる、導電パターンを色濃度の高い黒色に着色して、前記導電パターンに外光が反射して画像が不鮮明になるのを防止する効果が得られない。
【0037】
一方、バインダ樹脂100質量部あたりの黒色金属酸化物の含有割合が100質量部を超える場合には、前記黒色金属酸化物が基本的に導電性を有しないため、たとえ可塑剤を含有させることによる、先に説明したバインダ樹脂およびその熱分解残渣の除去を促進する効果が得られたとしても、焼成により形成される導電パターンの面抵抗が大きくなってしまう。
【0038】
なお導電パターンをできるだけ色濃度の高い黒色に着色しながらその面抵抗をできるだけ小さくすること等を考慮すると、バインダ樹脂100質量部あたりの黒色金属酸化物の含有割合は前記範囲内でも30質量部以上、80質量部以下であるのが好ましい。
黒色金属酸化物としては、例えばルテニウム、マンガン、ニッケル、クロム、鉄、コバルト、銅、錫等の酸化物、もしくは複合酸化物であって黒色を呈するものの1種または2種以上が挙げられる。中でもコバルト、鉄、およびクロムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む酸化物が、焼成温度での熱安定性に優れ、焼成によって熱分解したりせずに焼成後の導電パターンを色濃度の高い黒色に着色できるため好ましい。
【0039】
黒色金属酸化物の粒径は、凹版オフセット印刷法等に使用する際の印刷適性に優れた導電性ペーストを調製することや、導電パターンをできるだけ色濃度の高い黒色に着色すること等を考慮すると、粒度分布の50%累積径D50が0.1μm以上、1.4μm以下、特に0.3μm以上、0.6μm以下であるのが好ましい。
ガラスフリットの含有割合が、先に説明した範囲に限定されるのは下記の理由による。すなわちバインダ樹脂100質量部あたりのガラスフリットの含有割合が5質量部未満では、前記ガラスフリットによる、焼成後の導電パターン中で多数の導電性粉末、ならびに黒色金属酸化物の粒子を結着して導電パターンの形状を維持し、かつガラス基板との接着性を維持するバインダとしての機能が得られない。
【0040】
一方、バインダ樹脂100質量部あたりのガラスフリットの含有割合が100質量部を超える場合には、前記ガラスフリットが基本的に導電性を有しないため、たとえ可塑剤を含有させることによる、先に説明したバインダ樹脂およびその熱分解残渣の除去を促進する効果が得られたとしても、焼成により形成される導電パターンの面抵抗が大きくなってしまう。
【0041】
なお導電パターンの形状をできるだけ強固に維持すると共に良好な導電パス経路を維持しながらその面抵抗をできるだけ小さくすること等を考慮すると、バインダ樹脂100質量部あたりのガラスフリットの含有割合は前記範囲内でも7質量部以上、80質量部以下、特に10質量部以上、50質量部以下であるのが好ましい。
ガラスフリットとしては例えばホウケイ酸ガラスや、あるいは酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化ビスマス等の金属酸化物を含有するガラス等の1種または2種以上のガラスからなり、バインダとして機能しうる粉末状等の粒子が挙げられる。
【0042】
またガラスフリットは、特に導電パターンの導電性やガラス基板に対する接着性を向上すること等を考慮すると、バインダ樹脂の熱分解温度で溶融せず、かつ銀等の融点以下の温度で溶融するように溶融温度が設定されているのが好ましい。
ガラスフリットの溶融温度がバインダ樹脂の熱分解温度より低い場合には、焼成によってバインダ樹脂が熱分解して除去される前にガラスフリットの溶融が始まるため、前記溶融後の熱分解によってバインダ樹脂が除去された跡が焼成後の導電パターン中に空隙として残って、前記導電パターンの面抵抗が上昇したり機械的強度が低下したりするおそれがある。またガラスフリットの溶融温度が銀等の融点よりも高いときは、焼成温度を高くする必要を生じるため、ガラス基板の熱変形等を生じたりするおそれがある。
【0043】
これに対し、ガラスフリットの溶融温度がバインダ樹脂の熱分解温度より高く、かつ銀等の融点以下である場合には、これらの問題が生じるのを防止して、導電性や機械的強度に優れた導電パターンを形成できる。
ガラスフリットの溶融温度の具体的な範囲は、組み合わせるバインダ樹脂等の種類に応じて適宜調整できるが、通常は400℃以上、600℃以下程度であるのが好ましい。
【0044】
またガラスフリットの粒径は、凹版オフセット印刷法等に使用する際の印刷適性に優れた導電性ペーストを調製することや、導電パターンのガラス基板に対する接着性を向上すること等を考慮すると、粒度分布の50%累積径D50が0.1μm以上、5μm以下、特に0.2μm以上、3μm以下であるのが好ましい。
溶剤としては、バインダ樹脂および可塑剤を良好に溶解して導電性ペーストを形成しうる種々の溶剤が使用可能であり、特に沸点が150℃以上である溶剤が好ましい。溶剤の沸点が150℃未満では印刷時に乾燥しやすくなって、良好な印刷を続けることができないおそれがある。
【0045】
前記溶剤としては、例えばヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ステアリルアルコール、セリルアルコール、シクロヘキサノール、α−テルピネオール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(セロソルブアセタート)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルセロソルブアセタート)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート(カルビトールアセタート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルカルビトールアセタート)等のアルキルエーテル類の1種または2種以上が挙げられる。
【0046】
溶剤の含有割合は、適用する印刷法に応じて導電性ペーストに求められる粘度等の特性に合わせて適宜設定すればよい。
本発明の導電性ペーストには、前記各成分に加えて、例えばレベリング剤、分散剤、揺変性付与剤(チキソトロピック粘性付与剤)、消泡剤、充填剤、硬化触媒等の種々の配合剤を任意の割合で添加することもできる。本発明の導電性ペーストは、前記各成分を所定の割合で配合後、3本ロール、ボールミル、アトライター、サンドミル等を用いて攪拌し、混合して調製される。処理条件は特に限定されず、常法に従って処理すればよい。
【0047】
本発明の導電性ペーストは、ガラス基板の表面に印刷して、バインダ樹脂の熱分解温度以上で、かつガラスフリットが軟化または溶融する温度で焼成することにより、PDPの電磁波シールドの導電パターンや、前面板の電極等を形成するために用いることができる。印刷方法としては、先に説明した凹版オフセット印刷法等の、シリコーンブランケットを用いた印刷法が好適に採用される。
【0048】
凹版オフセット印刷法においては、前記導電性ペーストを凹版の凹部に充填し、次いでブランケットの表面に転写させた後、前記ブランケットの表面からガラス基板の表面に転写させる。ブランケットとしては、前記ブランケットの表面からガラス基板の表面への導電性ペーストの転写率を高めるために、表面層がシリコーンゴムで形成されたものを用いるのが好ましく、前記シリコーンゴムとしては、例えば未硬化時に液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムが好ましい。
【0049】
前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを下地上に塗布し、硬化させて表面層を形成すると、前記表面層の表面を、硬化時に液またはペーストのセルフレベリング効果によって平滑化できる。そのため高精度の導電パターンを形成するために好適な、表面粗さが極めて小さいブランケットを得ることができる。また前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴムを金型内に注入し、表面層の形状に成形しながら硬化させることによってブランケットを製造してもよい。
【0050】
凹版としては、その表面に所望の導電パターンの平面形状と高さに対応する平面形状と深さとを有する凹部を形成しうる種々の材料からなるものを用いることができる。前記材料としては、例えば42アロイ、ステンレス鋼等の金属や、ソーダライムガラス、ノンアルカリガラス等のガラス等が挙げられる。
特に、凹版に優れた耐久性が要求される場合には金属製の凹版が好適であり、凹部について極めて高度な寸法精度が要求される場合には加工性が良好なガラス製の凹版が好ましい。また、特に優れた耐久性を求められる場合には、金属製の凹版の表面にさらに硬質クロムメッキ処理等を施してもよい。
【0051】
凹版オフセット印刷法の具体的な印刷条件は特に限定されず、常法に従って適宜設定できる。例えば凹版の凹部への導電性ペーストの充填は、ドクターブレードやスキージ等を用いたドクタリング等の常法に従って行えばよい。また1回目の転写工程での、凹版の凹部からブランケットの表面への転写速度や、2回目の転写工程での、ブランケットの表面からガラス基板の表面への転写速度は、例えば凹版の凹部の幅および深さ、凹版やガラス基板の種類、導電性ペーストの物性、導電パターンに要求される線幅や三次元形状の精度等の諸条件を考慮しつつ、常法に従って適宜設定することができる。
【0052】
印刷後の焼成条件は、バインダ樹脂を速やかに熱分解させて除去すると共にガラスフリットを溶融させ、流動させて導電性粉末を結着させ、さらには良好に導電接続させることができる任意の温度に設定できる。
ただし本発明の導電性ペーストは、先に説明したように高温、短時間での焼成に特に適したものであり、その好適な焼成条件としては、焼成温度が580℃以上、700℃以下、中でも600℃以上、680℃以下、特に650℃前後であるのが好ましい。また焼成時間は1分間以上、60分間以下、中でも2分間以上、10分間以下、特に3分間前後であるのが好ましい。
【0053】
本発明によれば、先に説明したように可塑剤を含有させることの効果として、かかる高温、短時間での焼成によって、できるだけ導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成することができる。
焼成によって得られる導電パターンの厚みは1.0μm以上、10μm以下、特に1.5μm以上、8μm以下であるのが好ましい。導電パターンの厚みが前記範囲未満では断線とそれに伴うシールド不良が発生しやすくなるおそれがある。逆に厚みが前記範囲を超える場合には、導電パターンの表面の平坦性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0054】
〈実施例1〉
バインダ樹脂としてのポリエステル樹脂(熱分解温度300℃、重量平均分子量Mw:10000)100質量部と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(DOP、沸点384℃)5質量部と、導電性粉末としての銀粉末(粒度分布の50%累積径D50:0.5μm)900質量部と、黒色金属酸化物としてのコバルトの酸化物の粉末(粒度分布の50%累積径D50:0.4μm)50質量部と、ガラスフリット(溶融温度:520℃、粒度分布の50%累積径D50:1.0μm)10質量部と、溶剤としてのブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、BCA)90質量部とを配合し、3本ロールを用いて混合して導電性ペーストを調製した。
【0055】
〈実施例2〉
DOPの配合量を10質量部、BCAの配合量を85質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
〈実施例3〉
DOPの配合量を30質量部、BCAの配合量を65質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
【0056】
〈実施例4〉
DOPの配合量を40質量部、BCAの配合量を55質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
〈比較例1〉
DOPを配合せず、BCAの配合量を95質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
【0057】
〈比較例2〉
DOPの配合量を1質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
〈比較例3〉
DOPの配合量を50質量部、BCAの配合量を45質量部としたこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
【0058】
〈比較例4〉
特許文献3の実施例1の組成物を導電性ペーストとして単独で導電パターンの形成に転用した場合を再現するため、前記ポリエステル樹脂100質量部と、DOP49質量部と、銀粉末24質量部と、コバルトの酸化物の粉末133質量部と、ガラスフリット315質量部と、BCA179質量部とを配合し、3本ロールを用いて混合して導電性ペーストを調製した。
【0059】
〈比較例5〉
DOPの含有割合が特許文献3の請求項1の範囲内で、かつ本願発明の範囲内でもあるが、前記特許文献3において実施例をもって効果が検証されていない組成物を導電性ペーストとして単独で導電パターンの形成に転用した場合を再現するため、前記ポリエステル樹脂100質量部と、DOP30質量部と、銀粉末40質量部と、コバルトの酸化物の粉末200質量部と、ガラスフリット400質量部と、BCA65質量部とを配合し、3本ロールを用いて混合して導電性ペーストを調製した。
【0060】
〈印刷試験〉
実施例、比較例で調製した導電性ペーストを、凹版オフセット印刷法によってガラス基板上に印刷し、焼成して導電パターンを形成した。導電ペーストは、印刷に先立ち、必要に応じて適量のBCAを加えて粘度が10Pa・sとなるように調整した。
凹版オフセット印刷法には、精密印刷用の凹版オフセット印刷機(OPM社製)を用いた。また凹版としては、ソーダライムガラスの片面に線幅20μm、ピッチ300μm、深さ10μmの、電磁波シールド用メッシュパターンに対応した凹部が形成されたものを用いた。
【0061】
ブランケットとしては、液状の常温硬化型(付加型)シリコーンゴムを硬化させて形成した表面層を有するシリコーンブランケットを用いた。ガラス基板としては、厚み2.8mm、対角寸法22インチの、高歪点ガラス製のガラス基板〔旭硝子(株)製のPD200〕を用いた。焼成には焼成炉〔光洋サーモシステム(株)製のベルト炉〕を使用し、焼成条件は焼成温度650℃、焼成時間3分間とした。
【0062】
形成した導電パターンの面抵抗(Ω/□)を、低抵抗率計〔三菱化学(株)製のロレスタ(登録商標)GP MCP−T600型〕を用いて測定して導電性を評価した。面抵抗0.4Ω/□以下であれば導電性良好と評価した。
また形成した導電パターンを、実体顕微鏡を用いて観察して、糸引きによるエッジのがたつきや断線等が見られたものを形状不良(×)、これらの問題が見られなかったものを形状良好(○)として評価した。
【0063】
以上の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表の比較例1、2の結果より、可塑剤としてのDOPを配合しなかった場合(比較例1)や、前記DOPの配合割合を、バインダ樹脂100質量部あたり5質量部未満とした場合(比較例2)には、高温、短時間での焼成によって、導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを形成できないことが判った。
また比較例3の結果より、DOPの配合割合を、バインダ樹脂100質量部あたり40質量部を超える範囲とした場合には、糸引きによるエッジのがたつきや断線等が生じて形状の良好な導電パターンを形成できないことが判った。
【0066】
また比較例4、5の結果より、特許文献3の組成物を導電性ペーストとして単独で導電パターンの形成に転用した場合には、いずれも面抵抗が高すぎてオーバーロード状態となり、電磁波シールドの導電パターンとして必要な導電性を有する導電パターンを形成できないことが判った。また、それとともに糸引きによるエッジのがたつきや断線等が生じて形状の良好な導電パターンを形成できないことも判った。
【0067】
これに対し、実施例1〜4の結果より、DOPの配合割合を、バインダ樹脂100質量部あたり5質量部以上、40質量部以下とした場合には、糸引きによるエッジのがたつきや断線等がなく形状が良好で、しかも導電性に優れた面抵抗の小さい導電パターンを、高温、短時間での焼成によって効率よく形成できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解性を有するバインダ樹脂と、
前記バインダ樹脂100質量部あたり、5質量部以上、40質量部以下の可塑剤、700質量部以上、1500質量部以下の導電性粉末、20質量部以上、100質量部以下の黒色金属酸化物、5質量部以上、100質量部以下のガラスフリット、および溶剤と、
を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
バインダ樹脂が熱分解温度150℃以上、350℃以下の樹脂であり、可塑剤が沸点280℃以上、400℃以下のフタル酸エステルである請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
導電性粉末が銀粉末であり、黒色金属酸化物が、コバルト、鉄、およびクロムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む酸化物である請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
シリコーンブランケットを用いた印刷法によって印刷したのち、バインダ樹脂の熱分解温度以上の温度で焼成することにより電磁波シールドの導電パターンを形成するために用いる1ないし3のいずれかに記載の導電性ペースト。

【公開番号】特開2010−251057(P2010−251057A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98099(P2009−98099)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】