説明

導電性ローラにおける被覆層の塗工装置及び塗工方法

【課題】本発明の目的は、導電性弾性層に塗工液を塗工して被覆層を形成する際に、塗工液の状態を安定に保つことができる塗工装置及び塗工方法を提供することである。
【解決手段】本発明に係る塗工装置は、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラ2g表面に被覆層を塗工する為の塗工装置であって、前記被覆層となる塗工液を溜める浸漬槽2aと、前記ローラを前記浸漬槽に浸漬する手段2fと、前記浸漬槽にある塗工液を循環経路を通して循環させるポンプ2dと、前記循環経路中に極性吸着剤を有する吸着部2iと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ローラにおける被覆層の材料となる塗工液を塗工する塗工装置及び塗工方法に関する。より好ましくは、プリンタ、ファクシミリ又は複写機等の電子写真方式を採用した画像形成装置における帯電ローラにおける被覆層の材料となる塗工液を塗工する塗工装置及び塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を採用した画像形成装置の帯電装置としてはコロナ帯電器が使用されてきたが、近年、これに代って接触帯電装置が実用化されている。
【0003】
これは、低オゾン、低電力を目的としており、中でも特に帯電部材として導電性ローラを用いたローラ帯電方式の接触帯電装置が、帯電の安定性という点で好ましく、広く用いられている。
【0004】
ローラ帯電方式の接触帯電装置では、導電性を有する弾性ローラ(以下、帯電ローラと称す)を被帯電体に加圧当接させ、これに電圧を印加することによって放電により被帯電体への帯電を行う。
【0005】
ローラ帯電方式の接触帯電装置には、DC電圧を印加することで帯電を行うDC帯電方式と、DC電圧にAC成分を重畳した電圧を印加することで帯電を行うAC帯電方式とがある。
【0006】
AC帯電方式は接触帯電方式として優れた方法であるが、AC帯電方式では直流電圧印加時における放電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧である高圧の交流電圧を重畳させる。そのため、直流電源とは別に交流電源が必要となり、装置自体のコストアップを招き、更には、交流電流を多量に消費することにより、帯電ローラ及び感光体の耐久性が低下し易いという問題点があった。
【0007】
一方、DC帯電方式は直流電圧のみの電圧とするため装置にかかるコストは低減される。しかし、帯電処理された被帯電体表面の帯電電位がムラになりやすいことや、通電劣化により電位低下することもあり、帯電ローラ表面が汚れた場合においては画像濃度ムラ等の問題が生じることがある。特に、帯電ローラに直流電圧のみを印加するDC帯電方式の場合、帯電ローラの汚れの影響が直流電圧に交流電圧を重畳した電圧を印加するAC帯電方式に比べ、画像不良として現れやすい傾向にある。
【0008】
帯電ローラにおける導電性弾性体は、一般に、電子導電剤やイオン導電剤により導電性が付与される。電子導電剤は、熱や湿度による影響が小さく、また外部に移行し難いという長所がある。また、イオン導電剤は、導電性弾性体の導電均一性を得やすいという長所があるので好ましく、特にDC電圧のみを印加する電子写真装置において好適に用いられる。また、イオン導電剤の添加量が少なくてすむため高分子化合物の物性低下が最小限ですむという利点もある。
【0009】
さらに、導電性被覆層の帯電均一性を得る事を目的として、導電性の粒子を用いることにより抵抗の均一性を得るという技術が開示されている(特許文献1)。
【0010】
しかし、粒径の小さい粒子は、表面エネルギーが大きいため、粒子同士の凝集力が強く、ストラクチャー構造などの2次凝集体を形成していることが多い。そのため、粒径の小さな導電性粒子を導電性部材中に均一に分散させることが容易ではなく、抵抗の経時変化を引き起こす。さらにはミクロ的な抵抗ムラを生じやすく、抵抗の均一性が得られ難い場合がある。
【0011】
これに対して、分散機や分散工程を増やして、分散シェア及び分散効率を上げ、高分散性を得るという技術が開示されている(特許文献2)。
【0012】
しかしながら、高分散性を得ようと強いシェアにより分散処理を行うと、分散工程が終了後急激にシェアから開放されるため、反発的に再凝集等が起こる場合がある。このような場合にも、導電性粒子の分散状態が不安定化し、やはり抵抗の経時変化を引き起こす結果となってしまう。
【0013】
また、イオン性不純物に着目し、顔料と結着樹脂と溶剤とを含有する塗工液において塗工液中のイオン導電率を測定することで、塗工液の品質検査が可能となる技術も開示されている。(特許文献3)
しかしながら、イオン性不純物の含有量が多すぎると塗工液はイオン性不純物と導電性粒子との相互作用に起因して不安定となり、安定な塗工液を得るためには、イオン導電率の増加を管理しなければならないという煩雑さが伴う。
【特許文献1】特開平06−250494号公報
【特許文献2】特開2004−22158号公報
【特許文献3】特開2005−258079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、導電性弾性層には均一な導電性を得るためイオン導電剤を用いることが好ましい。しかし、イオン導電剤を含む導電性弾性層上に塗工液を塗工して被覆層を形成する場合、導電性弾性層からイオン導電剤が不純物(イオン性不純物)として塗工液中に徐々に溶出する。このため、塗工液はイオン性不純物などと導電性粒子との相互作用に起因するか、あるいはイオン性不純物などのイオン濃度が増加することによって劣化が加速化され、塗工液を繰り返し使用すると一定の導電被覆層を塗工形成することが難しいという問題がある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、導電性弾性層に塗工液を塗工して被覆層を形成する際に、塗工液の状態を安定に保つことができる塗工装置及び塗工方法を提供することである。より具体的には、導電性弾性層から溶出するイオン性不純物などの外部因子の影響を抑制することにより、被覆層の抵抗の経時変化が少なく、安定な被覆層の形成を容易に行うことのできる塗工装置及び塗工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る塗工装置は、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラ表面に被覆層を塗工する為の塗工装置であって、前記ローラを前記被覆層となる塗工液に浸漬する浸漬槽と、前記浸漬槽にある塗工液を循環経路を通して循環させるポンプと、前記循環経路中に極性吸着剤を有する吸着部とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る塗工方法は、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラを浸漬槽にある被覆層となる塗工液中に浸漬し、複数の前記ローラの表面に連続して前記塗工液を塗工する塗工方法であって、前記塗工液を前記浸漬槽と極性吸着剤を有する吸着部との間を循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗工装置によれば、塗工液中に溶出したイオン性不純物を極性吸着剤を用いて吸着することにより、塗工液の状態を安定に保つことができる。したがって、イオン性不純物などの外部因子による被覆層の抵抗変化を抑制しつつ、被覆層を塗工形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る塗工装置は、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラ表面に被覆層を塗工する為の塗工装置であって、前記ローラを前記被覆層となる塗工液に浸漬する浸漬槽と、前記浸漬槽にある塗工液を循環経路を通して循環させるポンプと、前記循環経路中に極性吸着剤を有する吸着部とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る塗工方法は、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラを浸漬槽にある被覆層となる塗工液中に浸漬し、複数の前記ローラの表面に連続して前記塗工液を塗工する塗工方法であって、前記塗工液を前記浸漬槽と極性吸着剤を有する吸着部との間を循環させることを特徴とする。
【0021】
図2は、本発明に係る塗工装置の構成例を示す概略図である。図2において、2aは塗工液を溜める浸漬槽である。この浸漬槽2a中の塗工液2cに基体(導電性弾性層)2gが浸漬手段である昇降機2fの上下操作により浸漬される。一方、塗工液2cは、循環ポンプ2dにより循環経路(配管)2hを通して循環されている。浸漬槽2aから流れ出た塗工液2cは塗工液受け皿2eで集められ、塗工液タンク2bに送られる。この塗工液タンク2bにある塗工液2cは循環ポンプ2dによって再び浸漬槽2aに送られることになるが、浸漬槽2aに送られる間に極性吸着剤を有する吸着部2iにより、塗工液2c中に含まれるイオン性不純物が吸着除去される。このイオン性不純物は主に導電性弾性層中のイオン導電剤が塗工液2cに溶出したものであり、被覆層の導電特性等に影響を与える。これは、イオン性不純物と導電性粒子とが相互作用することによって導電性粒子の機能性が阻害されるためである。したがって、本発明に係る塗工装置では、極性吸着剤を用いて塗工液に溶出したイオン性不純物を吸着除去することができるため、塗工液の状態を安定に保つことができる。したがって、本発明に係る塗工装置を用いることにより、イオン性不純物などの外部因子による被覆層の抵抗変化を抑制しつつ、被覆層を塗工形成することができる。
【0022】
イオン性不純物は、主に外部から塗工液に溶出したイオン物質を指す。例えば、導電性弾性層を塗工液に浸漬させたときに、導電性弾性層中に含まれるイオン導電剤が溶出し、それがイオン性不純物となる。同じ塗工液を繰り返し使用すると、塗工液中のイオン性不純物が増加し、塗工形成される被覆層の導電率が変化してしまい、塗工工程において、開始時の被覆層の導電率と終了時の被覆層の導電率との値が異なってしまうこととなる。
【0023】
なお、本発明に係る塗工装置は、イオン導電剤を含む導電性弾性層に塗工液を塗工するのに好ましく使用することができるものであり、この場合に特に限定されるものではない。
【0024】
以下、本発明について、詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明に係る塗工装置は、導電性支持体の上に形成された導電性弾性層に被覆層となる塗工液を塗工する装置である。つまり、導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラを被覆層となる塗工液中に浸漬し、前記ローラの表面に前記塗工液を塗工する装置である。
【0026】
(導電性支持体)
前記導電性支持体とは、導電性を有する材料からなるものであればよく、具体的には、例えば鉄、銅、ステンレス、アルミニウム又はニッケル等の導電性金属材料の丸棒または円筒管を用いることが好ましい。
【0027】
(導電性弾性層)
前記導電性弾性層とは、主にゴム弾性材料からなり、導電性を有する層である。該導電性弾性層は、前記導電性支持体の外周上に形成される。導電性は、ゴム弾性材料中に導電剤を添加することで調整することができる。導電剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト又は導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する電子導電剤、アルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有するイオン導電剤を挙げることができる。
【0028】
導電剤として例えば電子導電性剤(例えばカーボンブラック)を使用した場合、カーボンブラックの添加量とゴムの体積固有抵抗との間に安定した相関関数が見られない場合がある。また、カーボンブラックの凝集や偏りによって電気抵抗値が急激に変化する領域が存在する場合があるため、電気抵抗値の制御が困難になる場合がある。したがって、特に限定するものではないが、導電剤としてはイオン導電剤が好ましく使用される。イオン導電剤は電子導電剤と比較すると電気抵抗のバラツキという問題に対して影響は少ないからである。
【0029】
しかし、イオン性不純物が塗工液に溶け出した場合、塗工液の劣化を加速化するという問題がある。例えば、イオン導電剤となるハロゲン化第四級アンモニウム塩溶液は、一般に溶媒中でアミン、特に第三級アミンをハロゲン化アルキルにて四級化することにより製造することができる。しかし、注意深く製造したにしても、原料や溶媒、製造装置、さらには雰囲気に由来する金属系不純物、例えばNa、K、Ca、Fe、Cuなどの金属イオンをそれぞれ数ppbから数百ppb含んでしまう。これらの金属イオンはイオン性不純物として塗工液中に溶出し、塗工液を不安定にする原因となる。本発明は、このようなイオン性不純物を有効に除去することができる。
【0030】
導電性弾性層を構成するゴム弾性材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム又はクロロプレンゴム等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0031】
導電性弾性層の形成方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて形成することができる。例えば、前記ゴム弾性材料中に前記導電剤やその他添加物を配合して、押出し成形や射出成形又は圧縮成形等の公知の方法で導電性弾性層を前記導電性支持体上に形成することができる。
【0032】
(被覆層)
前記被覆層とは、前記導電性弾性層の上に塗布形成されるものであれば特に限定されない。また、被覆層は導電性弾性層と直接接して形成される場合に限られず、間に何らかの層を隔てても良い。また、被覆層は1層に限られるものではなく、複数の層であってもよい。
【0033】
被覆層は、通常、例えば、導電性弾性層中に含有される軟化油や可塑剤等のイオン性不純物が表面へブリードアウトするのを防止する目的、またはローラ全体の電気抵抗を調整する目的で設けられる。
【0034】
被覆層は、特に限定されるものではないが、導電性または半導電性を有することができる。導電性または半導電性の発現のために、導電剤として、例えば各種電子伝導機構を有する電子導電剤(導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)を使用することが好ましい。
【0035】
被覆層を構成する結着樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)又はオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBC)等が挙げられる。
【0036】
また、被覆層における適宜目的に応じた表面粗さを確保するために、絶縁性粒子を用いることができる。絶縁性粒子としては、例えば、ウレタン、ポリメタクリル酸メチル等からなる絶縁性樹脂粒子を用いることができる。
【0037】
(導電性ローラ)
本発明に係る塗工装置によって、導電性ローラを作製することができる。つまり、導電性支持体上の導電性弾性層に、本発明に係る塗工装置を用いて塗工液を塗工し、被覆層を形成して導電性ローラを作製することができる。また、被覆層は1層に限られるものではなく、複数の層であってもよい。
【0038】
また、本発明に係る塗工装置は、導電性弾性層中にイオン導電剤を含む場合に有効に利用することができる。導電性弾性層中のイオン導電剤由来のイオン性不純物を極性吸着剤により吸着除去し、塗工液の状態を安定に保つことができるためである。
【0039】
本発明に係る塗工装置によって作製される導電性ローラとしては、特に限定されるものではないが、例えば帯電ローラを挙げることができる。また、その他にも、現像剤担持体等が挙げられる。とくに、帯電ローラの導電性弾性層には通常イオン導電剤を含有させるため、本発明に係る塗工装置は帯電ローラを好ましく作製することができる。
【0040】
<極性吸着剤、吸着部>
浸漬槽では、前記導電性弾性層を有する導電性支持体が浸漬される。この浸漬の際、導電性弾性層からイオン導電剤が塗工液中にイオン性不純物として溶出し、浸漬のたびに塗工液中のイオン性不純物の濃度が増加することとなる。したがって、従来の装置では、塗工工程において、始めの方と最後の方では被覆層の導電性が異なってしまい、均一な塗工を行うことが難しかった。
【0041】
そこで、本発明に係る塗工装置は、塗工液を溜める浸漬槽と、塗工液を循環経路を通して循環させるポンプと、前記循環経路中に極性吸着剤を有する吸着部とを有する構成とし、塗工液中のイオン性不純物を極性吸着剤により吸着除去する構成とした。
【0042】
前記極性吸着剤として、極性を有し、イオンを吸着する材料を用いることができる。特に制限されるものではないが、例えばゼオライト、シリカゲル、アルミナゲルを用いることができる。また、他にも、例えば、シリカアルミナ、活性アルミナ又は活性白土を用いることができる。また、これら材料の少なくとも2種を混合したものも用いることができる。また、他にも例えば、表面に酸性基や塩基性基を有するものを用いることができる。酸性基としては、酸性水酸基、カルボキシル基、スルホ基などが挙げられる。塩基性基としては、アミノ基、イミノ基、アンモニウム基などが挙げられる。本発明に用いられる塗工液に導電性弾性層からイオン性不純物(例えば四級アンモニウム塩由来の金属イオン)が溶出してきた場合、ゼオライトなどの吸着剤の表面にイオン結合する等の状態で、化学結合することによって塗工液中のイオン濃度を低減させることができる。例えば、鉄イオンが溶出してきた場合、マイナスにチャージしている極性吸着剤の表面にプラスイオンの鉄イオンがイオン結合される。またイオン導電剤成分のフタル酸エステル系化合物においても、表面に極性を有する吸着剤を用いることで静電的な相互作用により塗工液中から除去することが可能となる。このように極性吸着剤を用いることでイオン性不純物による抵抗の経時変化を抑制し、帯電ローラを製造することができる。
【0043】
前記極性吸着剤の材料のうち、ゼオライトを好ましく用いることができる。より好ましくはゼオライトの有効細孔径が0.3nmのものが挙げられる。極性吸着剤としては例えばゼライト、シリカゲル、アルミナゲル等が挙げられるが、ゼオライトは他の吸着剤と比較して吸水性が優れているため、塗工液中に混在する水分も除去できる。さらに有効細孔径が0.3〜0.7nm(細孔入り口が酸素12員環以下と実質的に同義)のものが好ましく、より好ましくは0.3nm(細孔入り口が酸素8員環と実質的に同義)のものである。このような有効細孔径のゼオライトを用いれば効率よく水分を除去することができるためである。ゼオライトの有効細孔径を適宜選択(例えば0.3nm)することで、極性吸着剤の表面でイオン性不純物と相互作用することによって塗工液中のイオン濃度を低減させることができる。また、細孔径内に水分が入り込み効率よく水素結合等でトラップされるため、塗工液中に混在する水分量を最も低減させることも可能となる。
【0044】
また、図2に示すように、吸着部は極性吸着剤を収めたタンクとすることが好ましい。また、循環ポンプと浸漬槽とを循環経路(配管等)で繋げ、極性吸着剤を収納したタンクを循環経路中に配置し、塗工液がタンク内で極性吸着剤と接触する構成とする。例えば図2に示すような循環装置のように、浸漬槽2aから塗工液が塗工液タンク2bに戻る間に吸着部2iを設け、そのタンク内に極性吸着剤を敷き詰めて極性吸着剤と塗工液が接触する構造とすることができる。
【0045】
極性吸着剤の量は、特に制限されるものではないが、塗工液100部に対して4〜8部程度とすることが好ましい。
【0046】
また、塗工液の導電率値が塗工液投入初期時よりも所定の値上昇したら、極性吸着剤を交換することもできる。例えば、塗工液の導電率が投入初期時よりも、200好ましくは100nScm-1以上上昇したら、交換することもできる。塗工液の導電率は、例えば導電率計のプローブを浸漬槽内に入れ、モニタリングすることもできる。
【0047】
(実施形態1)
以下に、図面を参照して、本発明に係る塗工装置を用いて帯電ローラを形成する場合について特に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0048】
<帯電ローラの構成>
本発明に係る塗工装置により、例えば帯電ローラにおける被覆層を塗工形成することができる。図1に、帯電ローラの代表的な構成例を示す概略断面図を示す。図1に示したように、帯電ローラは、導電性支持体1a、該導電性支持体1aの外周面上に形成された導電性弾性層1b、該導電性弾性層1bの外周面上に形成された被覆層1cからなる構成とすることができる。
【0049】
<導電性支持体>
導電性支持体1aは、導電性を有する材料からなるものであればよく、具体的には、例えば鉄、銅、ステンレス、アルミニウム又はニッケル等の導電性金属材料の丸棒または円筒管を用いることが好ましい。更に、これらの金属材料の丸棒または円筒管の表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わないが、導電性を損なわないことが必要である。
【0050】
<導電性弾性層>
帯電ローラにおいては、導電性弾性層1bは、被帯電体としての電子写真感光体に対する給電や、電子写真感光体に対する良好な均一密着性を確保するために、適当な導電性と弾性を持たせる。また、帯電ローラと電子写真感光体との均一密着性を確保するために、導電性弾性層1bは、研磨によって、中央部を太く、両端部に行くほど細くなる形状、いわゆるクラウン形状に形成することが好ましい。一般に、帯電ローラは、導電性支持体1aの両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されているので、中央部の押圧力が小さく、両端部ほど大きくなっている。導電性支持体の真直度が十分であれば問題ないが、十分でない場合には中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じてしまう場合がある。一般に使用されている帯電ローラの形状がクラウン形状であるのは、これを防止するためである。
【0051】
上述のように、導電性弾性層1bは、導電性を有する。導電性弾性層1bの導電性は、ゴム等の弾性材料中に導電剤を添加することによって調整することができる。使用することのできる導電剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト又は導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する電子導電剤、アルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有するイオン導電剤を挙げることができる。導電性弾性層1bの導電性は、これら導電剤を適宜添加することにより、体積抵抗率1010Ωcm未満に調整されるのがよい。なお、本発明に係る塗工装置は、導電性弾性層中にイオン導電剤を含む場合に有効に利用することができる。導電性弾性層中のイオン導電剤由来のイオン性不純物を極性吸着剤により吸着除去し、塗工液の状態を安定に保つことができるためである。
【0052】
導電性弾性層1bを構成する弾性材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム又はクロロプレンゴム等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂等も挙げられる。
【0053】
導電性弾性層1bの形成方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて形成することができる。例えば、上記の弾性材料、導電剤等の原材料を配合して、押出し成形や射出成形、圧縮成形等の公知の方法で導電性弾性層1bを形成することができる。また、導電性弾性層1bは、導電性支持体の外周面上に直接形成してもよいし、導電性弾性層1bをチューブ形状に成形しこれに導電性支持体を圧入して被覆形成させてもよい。導電性支持体上に導電性弾性層1bを形成して作製した弾性ローラは、作製後に弾性層1b表面を研磨して形状を整えてもよい。
【0054】
<被覆層>
被覆層1cは、通常、導電性弾性層1bに接した位置に形成される。被覆層1cは、通常、導電性弾性層1b中に含有される軟化油や可塑剤等が帯電ローラ表面へブリードアウトするのを防止する目的で、または帯電ローラ全体の電気抵抗を調整する目的で設けられる。また、被覆層1cは、帯電ローラの表面を構成してもよく、その場合は被帯電体である電子写真感光体と接触するため電子写真感光体を汚染してしまう材料構成であってはならない。
【0055】
被覆層1cは、導電性または半導電性を有することが好ましい。導電性または半導電性の発現のために、導電材として、各種電子伝導機構を有する導電剤(導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)を使用することができる。
【0056】
被覆層1cを構成する結着樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)又はオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBC)等が挙げられる。
【0057】
また、被覆層1cにおける適宜目的に応じた表面粗さを確保するために、絶縁性粒子を用いることができる。絶縁性粒子としては、例えば、ウレタン、ポリメタクリル酸メチル等からなる絶縁性樹脂粒子を用いることができる。被覆層1cの体積抵抗率は、通常、104〜1015Ωcmであることが好ましい。また、被覆層1cの厚さは通常10〜100μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0058】
被覆層を形成するための塗工液は、上記結着樹脂、導電剤、絶縁性粒子等の原材料を用いて調製する。この他、塗工液には必要に応じて、レベリング剤や消泡剤等を添加することも可能である。また、塗工液の濃度、粘度、粘弾性等を調整するため等の目的で溶剤やその他の添加剤を用いてもよい。
【0059】
塗工液の調製方法については、サンドミル、ペイントシェーカ、ダイノミル又はパールミル等のビーズを利用した分散装置で、上記原材料を混合し分散して調整することが好ましい。すなわち、結着樹脂、導電剤、絶縁性粒子、その他の添加剤を溶剤に添加して、上記分散装置で混合し、調製すればよい。
【0060】
<塗工方法>
前記塗工液を塗布する方法についても、ディッピング法を用いる。従来法として、弾性体であるローラ本体の表面に導電性塗料による塗工膜を形成するためには、浸漬塗工法いわゆるディッピング法が最も一般的である。また、前記のように均一な高画質を得るためには、浸漬塗工法による塗料の均一な塗布がおこなわれることが重要である。一方で、前記浸漬塗工する際にイオン導電剤などがブリードアウトすることで、塗工液を劣化させる外部因子のひとつになる。本発明に係る塗工装置は、このイオン導電剤のブリードアウトによる塗工液中のイオン性不純物を極性吸着剤により吸着除去し、塗工液の状態を安定にする。
【0061】
<極性吸着剤>)
本発明によれば、この塗工液の劣化要因とされるイオン性不純物等の外部因子を極性吸着剤を用いることで、塗工液中から除去することができる。また、イオン性不純物がトラップされると考えられる極性吸着剤として、例えばゼオライト、シリカゲル、アルミナゲルを用いる。また、好ましくはゼオライトの有効細孔径が0.3nmの条件が挙げられる。このように極性吸着剤を用いることでイオン性不純物による被覆層の抵抗の経時変化を抑制し、塗工工程に渡って導電率を均一に被覆層を塗工形成することができる。また、図2に示すように、極性吸着剤を収めたタンクは循環ポンプと塗工液タンクとを配管で繋げることが好ましい。また、極性吸着剤の量は、塗工液100部に対して4〜8部程度とすることが好ましい。極性吸着剤は交換することもできる。例えば、導電率計のプローブを塗工液タンク内に浸漬させ、塗工液の導電率をモニタリングし、導電率値が200好ましくは100nScm-1以上塗工液投入初期時よりも導電率値が上昇したら、交換することが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
<帯電ローラの作製>
下記の要領で、本発明に係る塗工装置及び塗工方法により、帯電部材としての帯電ローラを作製した。なお、塗工装置としては、図2に示した構成を有する塗工装置を用いた。
【0064】
エピクロルヒドリンゴム100質量部、四級アンモニウム塩(アデカ社製:アデカサイザーLV70)2質量部、炭酸カルシウム45質量部、酸化亜鉛5質量部、脂肪族ポリエステル系可塑剤(大日本インキ社製:ポリサイザーP202)8質量部、ステアリン酸亜鉛1質量部及びカーボンブラック5質量部を、50℃に調節した密閉型ミキサーで10分間混練して、原料コンパウンドを調製した。このコンパウンドに原料ゴムである上述のエピクロルヒドリンゴム100質量部に対し加硫剤として硫黄1質量部、加硫促進剤としてノクセラーDM1質量部、及びノクセラーTS0.5質量部を加え、20℃に冷却した2本ロール機で10分間混練した。得た混合物をφ6mm、長さ252.5mmのステンレス製支持体の周囲にローラ状になるように押出成型機にて成形し、加熱加硫処理した後、その両端部を突っ切り、外径φ8.5mmになるように研磨処理して長さ230.0mmの導電性弾性層(下地層)1bを得た。このときのクラウン量(中央部と中央部から90mmはなれた位置の外径の差)は110μmとした。上述の導電性弾性層1bの上に、以下に示すような被覆層(導電性樹脂層)1cを被覆形成した。
【0065】
被覆層1cの材料として、アクリルポリオール溶液(ダイセル化学社製:プラクセルDC2016)100質量部、イソシアネートA(IPDI)(デグサ社製:VESTANAT B1370有効成分)40質量部、イソシアネートB(HDI)(旭化成ケミカルズ社製:DURANATE TPA−B80E)30質量部、導電性粒子(戸田工業社製 CS−BK100Y)45質量部、表面処理酸化チタン(テイカ社製:SMT−150IB)30質量部、メチルイソブチルケトン(主溶剤)400質量部及び変性ジメチルシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 SH28PA)0.08質量部をミキサーを用いて撹拌し、混合溶液を作製した。ついで、その混合溶液を循環式のビーズミル分散機を用いて分散処理(処理速度500ml/min)を行い、塗工液を作製した。
【0066】
得られた塗工液を、有効細孔径を0.3nmサイズのゼオライト(東ソー社製 A−3 CGS 柱状品 3.0mmφ)が塗工液100部に対して4部設置された塗料循環塗工機(図2参照)に投入した。そして、ディッピング方式によって塗工し、熱風乾燥機にて160℃で1時間乾燥させて、被覆層を被覆形成したローラ形状の帯電ローラを得た。
【0067】
<塗工液のイオン導電率測定>
塗工液中のイオン導電率σ(Scm-1)値(塗工液投入初期から10000本塗工後の導電率測定)、さらには初期塗工品から経時塗工品(10000本塗工後の経時品)の電流値測定を行った。表1に示す初期電流値は、塗工液を循環装置に投入し、初めに塗工した1〜10本目の平均値を示す。また、初期イオン導電率は、10本塗工後の塗工液に導電率計(商品名:Model645 日本ルフト株式会社製)プローブを浸漬させ測定した導電率値を示している。また、経時電流値は9991〜10000本目の平均値を示し、経時イオン導電率は10000本塗工後の塗工液の導電率値を示す。
【0068】
<帯電ローラの電気抵抗測定>
上述の通り得た帯電ローラを用いて、温度23℃、湿度55%雰囲気下において、電気抵抗を測定した。電気抵抗は以下の方法で測定できる。まず、図3(α)の様に、帯電ローラの両端の軸3aを荷重のかかった軸受け3cと3dとにより感光体と同じ曲率の円柱形金属3bに対して帯電ローラ3eが平行になるように当接させる。次に図3(β)の様に、図示しないモータにより円柱形金属3bを回転させ、ローラを円柱形金属に当接させたまま従動回転させながら安定化電源3fから直流電圧−200Vを印加する。その際に帯電ローラに流れる電流を電流計4gで測定して帯電ローラの抵抗を計算した(本発明では軸の両端にそれぞれ5Nの力を加えて、直径φ30mmの金属円柱に当接させ、該金属円柱の周速45mm/secで回転させた)。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、極性吸着剤としてシリカゲル(富士シリシア化学社製 フジシリカゲル)を用い、それ以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。結果を纏めて表1に示した。
【0070】
(実施例3)
実施例1において、極性吸着剤としてアルミナゲル(品川化成社製 セカードOW)を用い、それ以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。結果を纏めて表1に示した。
【0071】
(実施例4)
実施例1において、極性吸着剤として有効細孔径が0.4nmサイズのゼオライト(東ソー社製 A−4 柱状品 1.5mmφ)を用い、それ以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。結果を纏めて表1に示した。
【0072】
(実施例5)
実施例1において、極性吸着剤として有効細孔径が0.5nmサイズのゼオライト(東ソー社製 A−5 SA−500A 柱状品 1.5mmφ)を用い、それ以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。結果を纏めて表1に示した。
【0073】
(比較例1)
実施例1において、極性吸着剤を用いない系とし、それ以外は実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。結果を纏めて表1に示した。
【0074】
なお、これらの実施例では、帯電ローラとして評価したが、電子写真装置に使用する他の導電性ローラをベースとする被覆層塗工のローラ部材であっても同様に処理する事は可能である事は言うまでも無い。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】一般的な帯電ローラの構成の概念図である。
【図2】本発明に係る塗工装置の構成例の概略図である。
【図3】帯電ローラの電気抵抗測定器である。
【符号の説明】
【0077】
1 帯電ローラ
1a 導電性支持体
1b 導電性弾性層
1c 被覆層
2a 浸漬槽
2b 塗工液タンク
2c 塗工液
2d 循環ポンプ
2e 塗工液受け皿
2f 昇降機
2g 基体(導電性弾性層)
2h 配管(循環経路)
2i 吸着部
3a 帯電ローラの両端の軸
3b 荷重のかかった軸受け
3e 感光体と同じ曲率の円柱形金属
3f 電源
3g 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラ表面に被覆層を塗工する為の塗工装置であって、前記ローラを前記被覆層となる塗工液に浸漬する浸漬槽と、前記浸漬槽にある塗工液を循環経路を通して循環させるポンプと、前記循環経路中に極性吸着剤を有する吸着部とを備えることを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
前記導電性弾性層はイオン導電剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記極性吸着剤は前記イオン導電剤由来のイオン性不純物を吸着する材料であることを特徴とする請求項2に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記極性吸着剤は、ゼオライト、シリカアルミナ、シリカゲル、アルミナゲル、活性アルミナ及び活性白土のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項5】
前記極性吸着剤は、有効細孔径が0.3nmのゼオライトであることを特徴とする請求項4に記載の塗工装置。
【請求項6】
導電性支持体上に少なくとも導電性弾性層を有するローラを浸漬槽にある被覆層となる塗工液中に浸漬し、複数の前記ローラ表面に連続して前記塗工液を塗工する塗工方法であって、前記塗工液を前記浸漬槽と極性吸着剤を有する吸着部との間を循環させることを特徴とする塗工方法。
【請求項7】
前記導電性弾性層中にイオン導電剤を含み、前記極性吸着剤は前記イオン導電剤由来のイオン性不純物を吸着する材料であることを特徴する請求項6に記載の塗工方法。
【請求項8】
前記極性吸着剤は、ゼオライト、シリカアルミナ、シリカゲル、アルミナゲル、活性アルミナ及び活性白土のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の塗工方法。
【請求項9】
前記極性吸着剤は、有効細孔径が0.3nmのゼオライトであることを特徴とする請求項8に記載の塗工方法。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかの請求項に記載の塗工方法により前記被覆層を形成したことを特徴とする導電性ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−12424(P2010−12424A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175468(P2008−175468)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】