説明

導電性無端ベルト

【課題】簡易な構造で十分な強度があり、長期安定に使用できる耐久性に優れた導電性無端ベルトを提供する。
【解決手段】導電性の樹脂フィルムを無端状に形成してあるベルト基材10の少なくとも一面側の幅方向Wでの端部に、ベルト周方向CFに沿って補強部材12を配置した導電性無端ベルト1であって、前記ベルト周方向と直交する結晶配向を有している前記ベルト基材に、前記ベルト周方向と平行な結晶配向を有する前記補強部材が接着してある。前記ベルト基材10は、環状ダイスを用いた押出成形により成形されて成形時から継ぎ目のない管状であって、結晶配向がベルト周方向と直交しているものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継ぎ目が無い管状に形成してある導電性無端ベルトに関する。より詳細には、例えば複写機やプリンター、特にはカラーレーザープリンター等の電子写真装置や静電記録装置等において、転写ベルトや転写搬送ベルト等として好適に採用できる導電性無端ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンター等における画像記録プロセスでは、まず、感光体(潜像保持体)の表面を一様に帯電させ、この感光体に光学系から映像を投射して光の当たった部分の帯電を消去することによって静電潜像を形成し、次いで、この静電潜像にトナーを供給してトナーの静電的付着によりトナー像を形成し、これを紙、OHP、印画紙等の記録媒体へと転写することにより、プリントする方法が採られている。
【0003】
かかる画像記録プロセスにおいては、トナー像の転写を行うための転写部材として、樹脂材料やゴムを基材として管状に形成した導電性無端ベルトが使用されている。かかる導電性無端ベルトは、通常、モータなどの駆動源に接続された駆動ローラと従動ローラ間に張架された状態で回転駆動されて、転写プロセスに供される。
【0004】
上記のように使用される導電性無端ベルトは、ローラ間に張架されて回転駆動された際に蛇行して幅方向において位置ズレが生じると鮮明は像を形成できなくなる。特に、複数の画像を重ね合わせて形成されるカラー画像では、位置ズレは致命的となる。そこで、幅方向での位置ズレを防止するため、導電性無端ベルトのベルト本体を成す無端状に形成してある基材部分(以下、本明細書では、ベルト基材と称す)の内周側の周縁部に、ローラ側に設けた溝部と嵌合する、ガイドリブを設けて安定走行させる技術が従来において採用されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2は、ベルト基材を積層して形成することにより高耐久とする技術について開示する。より具体的に説明すると、この特許文献2は押出し成形して得たシート状の樹脂フィルムの両端を接合することによって管状のシームレスベルトとすることを前提にするものである。そして、ローラに張架したときのテンションを考慮して、樹脂フィルムの配向がベルト回転方向と一致するように配置することを想定している。この場合、シームレスベルトは、一方向に強度が大きな構造となるので、「輪切り」状態となり易い点が問題になる。そこで、この特許文献2によるシームレスベルトは、積層構造を採用し、ベルト端部に配置する樹脂については、その配向の方向がベルト中央部の配向方向とは直交するようにしている。これにより、シームレスベルトの端部等に亀裂が生じて破断するのを有効に抑制あるいは防止し、万が一亀裂が生じても一方向への破断の拡大を防止することができるので、高耐久のシームレスベルトを得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−167021号公報
【特許文献2】特開2007−171819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示するベルト基材にガイドリブを設ける導電性無端ベルトは、構造が複雑であり、また製造コストが増加してしまう。
また、特許文献2によるシームレスベルトは、シート状の素材を管状に成形しているだけでなく積層構造としている。しかも、表面側の中央部と端部とは別の樹脂で形成しており、端部に配置する樹脂の配向を直交させている。これにより、高耐久を向上させることができるが、構造が複雑で、製造コストが増加してしまう。そして、この特許文献2の場合、更に上記ガイドリブを配置することが好ましい構造としており、これでは、更に、構造が複雑となり製造コストが増加することが懸念される。
【0008】
よって、本発明の目的は、簡易な構造で十分な強度があり、長期安定に使用できる耐久性に優れた導電性無端ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、導電性の樹脂フィルムを無端状に形成してあるベルト基材の少なくとも一面側の幅方向での端部に、ベルト周方向に沿って補強部材を配置した導電性無端ベルトであって、前記ベルト周方向と直交する結晶配向を有している前記ベルト基材に、前記ベルト周方向と平行な結晶配向を有する前記補強部材が接着してある、ことを特徴とする導電性無端ベルトにより達成できる。
なお、上記で直交、或いは、平行とあるのは、角度をもって厳密に判断されるべきものではない。より具体的には、ベルト基材や補強部材を製造する工程で発生し得る加工誤差や、ベルト基材に補強部材を接着するときの接着作業に基づいて発生する誤差などを考慮し、若干の角度差を含んだものを許容して、本願明細書では、直交、或いは、平行と称するものである。
すなわち、本願発明では上記の記載から、ベルト基材の結晶配向と、これに接着される補強部材の結晶配向とは直交することになる。そして、このように直交している構造が強度面でも好ましいのであるが、実際の加工技術を考慮すると完全に直交している構造とするのは困難であり、また若干の角度差を許容される。例えば角度6°程度までは許容できる角度誤差であり、角度誤差が6°以下の範囲内であれば後述する効果を同様に期待できる。
【0010】
また、前記ベルト基材は、環状ダイスを用いた押出成形により成形されて成形時から継ぎ目のない管状であって、結晶配向がベルト周方向と直交しているものが用いるのが好ましい。
【0011】
前記補強部材は、ポリアミド系またはポリエステル系の樹脂フィルムとするのが好ましい。
【0012】
前記ベルト基材と前記補強部材とは、熱溶融型接着剤からなる接着層で接着してある構造を採用するのが好ましい。
そして、前記熱溶融型接着剤は、ウレタン系ホットメルト接着剤、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)接着剤、PA(ポリアミド樹脂)接着剤及び変性オレフィン系樹脂接着剤の群から選択されものとするのが好ましい。
【0013】
そして、前記補強部材の表面にバフ加工が施されているのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の導電性無端ベルトは、ベルト基材の端部に補強部材を配置すると共に、ベルト基材の結晶方向と補強部材の結晶方向とを直交させるという簡単な複合構造で、十分な強度があり、長期安定に使用できる耐久性に優れた導電性無端ベルトを提供できる。この導電性無端ベルトは端部に補強部材を備えているのでガイドリブを設けることなく、規制部材に突き当てことで蛇行を防止できる。よって、本願発明の導電性無端ベルトは、低コストで製造できる。
そして、本願発明の導電性無端ベルトに用いるベルト基材は、環状ダイスを用いた押出成形により成形されて成形時から継ぎ目のない管状(チューブ状)であって、結晶配向がベルト周方向に対して直交しているものを用いればよいので、積層型としてある従来の導電性無端ベルトと比較して低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は導電性無端ベルトの使用状況例を模式的に示した図である。(b)はベルト基材の表裏面に設けた補強部材について示した図である。(c)はベルト基材上に補強部材を接着するための構成を示した図である。
【図2】導電性無端ベルトに用いる無端のベルト基材を製造する様子を説明するために示した図である。
【図3】(a)は補強部材を形成する様子を示した図である。(b)は接着層付きの補強部材をベルト基材に接着し導電性無端ベルトを製造するベルト製造装置の概略を示した図である。(c)はベルト基材上の補強部材を拡大して示した図である。
【図4】導電性無端ベルトの耐久性を評価する耐久試験装置について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる一実施形態を、図を参照して詳細に説明する。
図1(a)〜(c)は導電性無端ベルトについて示した図である。図1(a)は導電性無端ベルト1の使用状況例を模式的に示した図であり、この図で示すように、通常、導電性無端ベルト1は電子写真装置などの内部で所定位置に配置されているローラR−1、R−2間に張架されて使用される。
【0017】
導電性無端ベルト1は、導電性の樹脂フィルムを無端状に形成してあるベルト本体となるベルト基材10、このベルト基材10の幅方向Wでの端部においてベルト周方向CF(幅方向Wとは直交)に補強部材12を環状に配備してある構造である。なお、図1(a)は、左端部の片側にだけ補強部材12を設ける場合を示すが、必要に応じて補強部材12を両側に設けた構造としてもよい。図1(a)にあって、補強部材12を設けた端部側は、装置内のベルト位置規制部材(図示を省略)に押し当てられる側とされ、これによりガイドリブを用いない導電性無端ベルトとすることができる。ここで図1(a)例示のように、左側だけに補強部材12を設けた構造では、左側への片当たりにより、蛇行を防止する走行制御が実現される。
そして、仮に、ベルト基材10の両側に補強部材12を設けた場合、両側での位置規制する構造や、片当たり状態による蛇行規制基準を左右意図的に切り替え可能として、一端側のみへの当接負荷を軽減して、ベルト寿命を延命させる構造にすることもできる。
【0018】
なお、補強部材12は、導電性無端ベルトの設計に応じて、図1(b)の上段で示すようにベルト基材10の表面側に設けてもよいし、下段で示すようにベルト基材10の裏面側に設けてもよい。また、補強部材12を樹脂製のシートとした場合、これを単層、或いは複数層として採用してもよい。
【0019】
更に、図1(c)は、ベルト基材10上に、補強部材12を確実に接着して固定するための構成を明示している図である。本願発明による導電性無端ベルト1は、この図で示すように、ベルト基材10と補強部材12とを熱溶融型接着剤(以下、ホットメルト系接着剤)からなる接着層14で接着した構造を採用している点が、特徴の一つである。
ホットメルト系接着剤は、化学結合による強固な接着状態を形成することができるのでベルト基材10と補強部材12とを確実に接着固定し、温度や湿度などの環境変化に十分に耐えて接着部分を安定に保持できる。これにより、走行中にベルトにかかる斜行力や、温度や湿度の変動など外的環境の変化によっても剥離を生じない。これにより耐環境に優れた、高耐久の導電性無端ベルトを実現する。
なお、上記接着層14の接着力をより確実に得るため、ベルト基材10と接着層14との間、もしくは補強部材12と接着層14との間のうちの少なくとも一方に、プライマー層16を設けるのが望ましい(図1(c)は、ベルト基材10と接着層14との間の場合を例示)。プライマー層16を設けて接着することで、化学結合による接着状態をより強固にできる。
【0020】
さて、本願発明による導電性無端ベルト1では、ベルト基材10と補強部材12とした樹脂の結晶配向について1つの特徴があるので、これについて説明する。
ベルト基材10の樹脂の結晶配向は幅方向Wとほぼ平行となっている。すなわち、ベルト基材10の樹脂の結晶配向はベルト周方向CF(ベルト回転方向)と直交する状態となっている。そして、ベルト基材10の樹脂の結晶配向に対して、端部に配される補強部材12の結晶配向が直交するよう設計してある。その背景を説明する。
なお、前述したように、ここでの直交は若干の角度差を許容するものでよく、例えば角度6°程度までは許容できる角度誤差であり、角度誤差が6°以下の範囲内であれば同じ効果を期待できる。
【0021】
前述した、特許文献2におけるベルトはシームレスと称しているものの、実際はシート状のフィルムの端部を付き合わせ接合しており継ぎ目がある。このようなベルト基材を採用すると、製造コストが嵩むだけでなく、構造が複雑、強度の不均一な部分が発生することが避けられない。
そこで、本願発明では、導電性無端ベルト1のベルト基材10を、成形時に管状で強度が均一であるものを採用している。このように管状の樹脂は、例えば図2で示すような環状ダイス211を備えた押出成形装置200により成形される。押出成形装置200は、図示しないホッパーに収納した熱可塑性樹脂材料Pを、加熱して溶融した状態で環状ダイス211に供給する。よって、熱可塑性樹脂材料Pが環状ダイス211から管状(チューブ状)に押出される。環状ダイス211の下流側には同軸にして、マンドレル(中芯)212、引き取りロール213、及び切断装置214が順次に配備してある。切断装置214により所定幅で切断することで上記ベルト基材10とすることができる。
【0022】
このように得られたベルト基材10は、樹脂の結晶配向は押出方向(図2で上下方向)と平行(樹脂を構成する分子の配列が押出方向に沿って配列された状態)となり、全体としてほぼ均質な強度となる。ここで、更にベルトの端部(周縁部)における引裂き耐性などの向上を図ることが望ましい。そこで、本願発明では、ベルト基材10の結晶配向と直交する結晶配向、すなわちベルト周方向CFと平行な結晶配向を有する補強部材12を用いて、最適な補強を実現するようにしたものである。
以下、更に、導電性無端ベルト1を構成している各部材について、順に詳述する。
【0023】
上記ベルト基材10は、基材樹脂に対し導電性材料等の添加剤が適宜配合された樹脂材料からなる。ベルト基材樹脂としては、特に制限されるものではなくが、例えば、ナイロン(ポリアミド(PA))樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリエステル樹脂、またポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)やポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等、ポリカーボネート(PC)樹脂、その他ポリオレフィン系樹脂とその混合系等の各種樹脂を好適に用いることができ、これらのうちいずれか2種以上のポリマーアロイまたはポリマーブレンドなども用いることができる。
上記で最も好ましい基材樹脂は、ナイロン(ポリアミド樹脂)である。ナイロンは、低コスト、かつ、高い耐屈曲疲労性、ベルトの張架力に対する耐クリープ特性に優れ、耐引き裂き強度についても良い特性を有しているからである。
【0024】
ベルトの導電性を調整するために用いられる導電性材料は、高分子イオン導電剤やカーボンブラックを好適に用いることができる。
高分子イオン導電剤としては、例えば、Irgastat(登録商標)P18およびIrgastat(登録商標)P22(共に、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ・インコーポレーテッド製)、ペレスタット300,303(三洋化成(株)製)、サンコノールTBX−310(三光化学工業(株)製)等が挙げられ、これらは市場で容易に入手可能である。また、カーボンブラックとしては、具体的には例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、SAF,ISAF,HAF,FEF,GPF,SRF,FT,MT等のゴム用カーボンブラック、酸化カーボンブラック等のインク用カーボンブラック,熱分解カーボンブラック等を挙げることができる。高分子イオン導電剤の添加量は、基材樹脂100質量部に対し、通常1〜500質量部、好ましくは10〜400質量部程度であり、カーボンブラックの添加量は、基材樹脂100質量部に対し、5〜30質量部程度とすることができる。
【0025】
また、その他の導電性材料として、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウムの過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、硫酸塩、エトサルフェート塩、ハロゲン化ベンジル塩(臭化ベンジル塩、塩化ベンジル塩等)等の第4級アンモニウムなどの陽イオン界面活性剤;脂肪族スルホン酸、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸塩、高級アルコール燐酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤;各種ベタイン等の両性イオン界面活性剤;高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン性帯電防止剤などの帯電防止剤、LiCFSO、NaClO、LiBF、NaCl等の周期律表第1族の金属塩;Ca(ClO)2等の周期律表第2族の金属塩;天然グラファイト、人造グラファイト等;酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅等の金属および金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーなどを用いることもできる。
【0026】
また、ベルト基材10に用いる樹脂材料には、所望に応じ、他の機能性成分として、例えば、各種充填材、カップリング剤、酸化防止剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、架橋剤等を適宜配合することもでき、着色剤を添加して着色を施してもよい。
【0027】
なお、ベルト基材10の厚さは、導電性無端ベルト1が採用される装置側の要求仕様に応じて適宜選定されるものであるが、好ましくは0.05〜0.2mmの範囲内である。
そして、ベルト基材10は、少なくとも、弾性率が1000Mpa以上で、ベルト幅方向の引裂き強度が2N以上とするのが好ましい。
なお、ベルト基材10の外表面の表面粗さとしては、好適には、JIS10点平均粗さRzで10μm以下、特に6μm以下、更には3μm以下とするのが好ましい。
【0028】
上記補強部材12としては、所定以上の強度を備えた樹脂フィルムを採用するのが好ましい。このような樹脂フィルムとしは、ポリアミド系またはポリエステル系の樹脂フィルムを採用するのが好ましい。例えばポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、変性ポリアミド樹脂などで形成されたもので、少なくとも弾性率が500Mpa以上で、引裂き強度が2N以上であるものを採用するのが好ましい。そして、押出し成形などにより成形された樹脂フィルムを、その押出し方向に沿って(即ち、平行に)切り出して長尺の樹脂フィルムにカットして、補強部材12として使用することができる。これにより、ベルト基材10の強度を確実に補強できる。
補強部材12の厚さは、補強すべきベルト基材10の素材、形状により適宜調整されるが、例えばベルト基材10の厚みが0.10mm〜0.15mmであるときに、好ましくは0.05mm〜0.3mmの範囲であり、より好ましくは0.1mm〜0.2mmの範囲である。また、補強部材12の厚さを、ベルト基材10の厚みに対して、例えば50%〜100%とするのが好ましい。
【0029】
上記接着層14は、ホットメルト系接着剤により形成されている。ホットメルト系接着剤として、例えばウレタン系ホットメルト接着剤、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)接着剤、PA(ポリアミド樹脂)接着剤、変性オレフィン系樹脂接着剤などを採用できる。特に、強固な接着を形成できると共に、温度や湿度の環境変化に強いとい点からポリウレタン系の樹脂を採用するのが望ましい。なお、接着層14の厚みは50μm〜150μm程度とするのが好適である。
【0030】
上記プライマー層16は、多官能系のポリイソシアネート、モノイソシアネート、ジイソシアネート及びそれらの混合物の群から選択されたものを用いるのが好ましい。プライマー層16は、例えばポリイソシアネートを主成分とし、イソシアネート成分を1%以上含有するプライマーを好適に用いることができ、イソシアネート成分に酢酸エチル、酢酸ビニルなどの合成樹脂を添加したプライマーとして、具体的には(株)バイエル製 デスモジュールREなどを好適に用いることができる。かかるプライマー層16は、上記プライマーを0.0001〜0.005g/cm程度で、ベルト基材10と接着層14との間、もしくは補強部材12と接着層14との間のうちの少なくとも一方の間に塗布することにより形成することができる。
【0031】
上記のように、本発明の導電性無端ベルト1は、具体的にはまず、ベルト基材1の端部で補強部材12を配置する接着面(表面又は裏面、或いは、その両面)にプライマーを塗布し、乾燥させて、プライマー層16を形成すればよい。なお、補強部材12と接着層14との間にもプライマー層16を設ける場合には、補強部材12の接合面にプライマーを塗布しておけばよい。
【0032】
更に、図を参照して、導電性無端ベルト1を製造するプロセスを説明する。図3は導電性無端ベルト1の製造工程について示しており、図3(a)は補強部材12を形成する様子を示した図である。補強部材12となる樹脂シートを準備し、その上にプライマー層16、ホットメルト系接着剤による接着層14を順に積層して、加熱溶着装置を用いて、加熱・加圧の加熱圧着処理をして、これらを熱溶着させる。これにより、接着層14を片面に具える補強部材12の母シート12Aを形成する。この母シート12Aは、実際に仕様する長尺の接着層付きの補強部材12が多数、幅方向に接続された状態である。よって、裁断装置により所定幅の補強部材12とする。このときに補強部材12は、図3(a)で図示するように、結晶方向CRと平行に裁断しておけばよい。
【0033】
図3(b)は、上記のように準備された長尺の接着層付きの補強部材12をベルト基材10に接着して、導電性無端ベルト1を製造するベルト製造装置20の概略を示した図である。
このベルト製造装置20は、無端状に形成されているベルト基材10を張架する2つのローラ21R−1、21R−2が配置されている。一方のローラ11R−1は駆動源となりモータ(図示せず)に接続された駆動ローラであり、他方のローラ11R−2は従動ローラである。よって、ローラ21R−1、21R−2間に張架されたベルト基材10は、矢印AR方向へ回転される。
【0034】
そして、ベルト製造装置20は、ベルト基材10上で補強部材12が接着される予定位置(ベルト基材10の幅方向端部)の周面に対向するようにヒータ22が配備されている。このヒータ22は支持構造体23により保持されており、この支持構造体23に組み込まれた駆動系(図示せず)により対向配置されたローラ21R−2に接触位置と離間位置との2位置への移動が可能に設定されている。ヒータ22として、高周波溶着機、電熱ヒータ溶着機、超音波溶着機などを好適に用いることができる。
【0035】
そして、図3(a)により準備された接着層付きの補強部材12を接着層14を下側にして、ベルト基材10上の接着予定位置に誘導し、ローラ21R−1、21R−2を回転させながら、ヒータ22を押し当てることで接着層14により補強部材12をベルト基材10上の全周部に接着した。
なお、より確実に、ベルト基材10上に補強部材12を接着するという観点から、補強部材12の表面にバフ加工を施しておくのが望ましい。これにより補強部材12の表面に微細な凹凸が形成され、物理的な投錨効果(アンカー効果)が得られて接着強度を増加させることができる。
以上により、ベルト基材10と補強部材12を、熱溶融型接着剤(ホットメルト系接着剤)からなる接着層14で接着してある本発明の導電性無端ベルト1を製造できる。図3(c)はベルト基材10上の補強部材12を拡大して示した図である。
【0036】
以下、更に本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
ポリアミド樹脂(ナイロン12)100質量部と、導電性材料としてのカーボンブラック20質量部とを、二軸混練機により溶融混練して、得られた混練物を環状ダイスを用いて押出成形することにより、周長600mm、幅240mm、厚み0.1mm、の寸法を有する導電性無端ベルト用のベルト基材10を得た。このように製造されるベルト基材10の結晶配向は、ベルト周方向に直交したものとなる。このベルト基材10の外周面上で補強部材12を接着する予定領域に、プライマーとして多官能性のポリイソシアネートであるバイエル製 デスモジュールREを0.002g/cm程度にて塗布し、乾燥させて、プライマー層16を形成した。
【0037】
その一方で、図3(a)を示して説明したように、接着層付きの補強部材12を準備した。具体的には、補強樹脂シートとして、厚み0.05mm、引張弾性率1300Mpaのポリアミド樹脂(ナイロン12)に上記と同じプライマー(バイエル製 デスモジュールRE)を塗布してプライマー層16とし、ホットメルト系接着剤として日本マタイ(株)製 エルファンUH203(ポリウレタン系ホットメルト接着剤、厚み0.05mm)をその上に接着層14として配置し、この接着層14を熱溶融して接着層付きの補強部材12を作製した。このときの補強部材12は、特に、その結晶配向がベルト基材10の結晶配向と垂直、すなわちベルト周方向と平行なものを採用している。
【0038】
図3(b)で示す製造装置20を用いて、上記ベルト基材10上に接着層14を熱溶融することにより補強部材12を端部に具える実施例1の導電性無端ベルトを得た。なお、ベルト基材10上の補強部材12の幅5.0mm、突合わせ量0〜3.0mmとした。この導電性無端ベルトを、図4に示す耐久試験装置に装着して、耐久性を評価した。
図4に示す耐久試験装置100は、導電性無端ベルト1を張架する一対のローラ101R−1、101R−2を備えている。モータ102により矢印方向(図では、上面側が右方向)へ回転移動する。張架バネ103、103を備えて、導電性無端ベルト1に作用させる張架力を調整できる。図4では手前側の張架力を1kg、奥側の張架力を3kgに設定してある。よって、ここでは導電性無端ベルト1が奥側の位置規制部材104に片当たりすることで、蛇行防止した走行制御が実現されている。なお、ここでは図示していないが補強部材12は奥側の端部に配置されている。また、図中での符号105は、蛇行制御用のセンサである。
走行速度22m/分、試験環境として温度22℃、湿度50%で耐久走行試験を実施して、破損までの走行回数を確認して評価した。破損までの走行回数が10000回以上で合格とした。
【0039】
実施例2〜実施例6は、実施例1に対して、補強部材12の厚みを徐々に増した例である。また、実施例7〜実施例9は、実施例2に対して、ホットメルトの厚みを徐々に増した例である。更に、実施例10〜実施例12は補強部材12の材質をナイロン12以外のPET等などとした場合である。いずれも、破損までの走行回数が10000回以上で合格であるが、特に、補強部材12としてナイロン12を用いた実施例1〜実施例4、実施例7,8などで高い耐久性が確認された(下記、表1、表2、参照)。
【0040】
比較例1から比較例4は、上記実施例1から実施例4に対して、補強部材の配向方向を周方向から幅方向に変更した点だけが異なものである。この結果からベルト周方向と直交する結晶配向を有しているベルト基材に、ベルト周方向と平行な結晶配向を有する補強部材を採用することが極めて有効であることが確認できる。
【0041】
上記の実施例1〜実施例12、また比較例1〜比較例4の結果を下記表1〜表3に示す。
なお、実施例および比較例で同様にプライマーを用いた。プライマーとしては、バイエル製デスモジュールREを採用し、ベルト基材の接着面に対して0.0001g/cm2〜0.005g/cm2の量を塗布した。
【0042】
【表1】

【表2】

【表3】

a)ナイロン12樹脂フィルム:宇部興産製 商品グレード 3030XA
b)ABS樹脂フィルム:宇部興産製 商品グレード UMG ABS(登録商標)
c)PET樹脂フィルム:東レ 商品グレード ルミラS10
d)PPS樹脂フィルム:東レ 商品グレード トレリナ75μ
e)テラオカ 777 粘着テープ:(株)寺岡製作所 商品グレード 777
f)DIC−PF100H 粘着テープ:DIC(株) 商品グレード PF100H
g)エポキシ/ポリアミド:コニシ(株) 商品グレード ボンドE
h)UV硬化樹脂:アクリル/ウレタン系紫外線硬化樹脂 (株)ブリヂストン製
i)ホットメルト接着剤:日本マタイ(株) エルファン UH203
j)プライマー:バイエル製 デスモジュールRE
【0043】
上記表に示すように、無端に形成したベルト基材10の端部に、ベルト周方向に補強部材12を配置するという簡単な構造で、ベルト周方向と直交する結晶配向を有しているベルト基材とベルト周方向と平行な結晶配向を有する前記補強部材を採用するだけで、耐久性に優れた導電性無端ベルトが得られていることが確かめられた。そして、特に、ベルト基材10と補強部材12との間、ホットメルト系接着剤による接着層14を設けること、好ましくはプライマー層16を設けることで、耐久性に優れた導電性無端ベルトが得られている。
なお、上記実施例1と同じ構造である導電性無端ベルトについて、引き裂き強度(N/mm)を確認した。補強部材12の結晶配向がベルト周方向に対して角度0°をもって平行である場合に2.8(N/mm)という引き裂き強度が得られた。この種の導電性無端ベルトでは、通常、2.0(N/mm)以上が引き裂き強度が必要とされるので、十分な引き裂き剛性であった。
更に、補強部材12の結晶配向を意図的に2°、4°、6°そして8°と傾斜させて、引き裂き強度を測定したところ、それぞれ2.9(N/mm)、2.8(N/mm)、2.3(N/mm)そして2.0(N/mm)であった。
よって、厳密に、補強部材12の結晶配向がベルト周方向に対して角度0°をもって平行である場合を含め、その誤差角度が6°以下であれば同様の効果を得られることが分る。
【0044】
以上で説明したように、本発明によると、簡易な構造であり、端部にも十分な強度があるのでガイドリブを設ける必要がなく、長期安定に使用できる耐久性に優れた導電性無端ベルトを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上の説明から明らかなように、この発明によれば簡易な構造で十分な強度があり、装置内での環境変化にも耐えて長期安定に使用できる耐久性に優れた導電性無端ベルトを提供できる。このような導電性無端ベルトは複写機、プリンター等の電子機器の耐久性向上に寄与する。
【符号の説明】
【0046】
1 導電性無端ベルト
10 ベルト基材
12 補強部材
14 接着層
16 プライマー層
20 ベルト製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の樹脂フィルムを無端状に形成してあるベルト基材の少なくとも一面側の幅方向での端部に、ベルト周方向に沿って補強部材を配置した導電性無端ベルトであって、
前記ベルト周方向と直交する結晶配向を有している前記ベルト基材に、前記ベルト周方向と平行な結晶配向を有する前記補強部材が接着してある、ことを特徴とする導電性無端ベルト。
【請求項2】
前記ベルト基材は、環状ダイスを用いた押出成形により成形されて成形時から継ぎ目のない管状であって、結晶配向がベルト周方向と直交しているものが用いられている、ことを特徴とする請求項1に記載の導電性無端ベルト。
【請求項3】
前記補強部材は、ポリアミド系またはポリエステル系の樹脂フィルムである、ことを特徴とする請求項1または2に記載の導電性無端ベルト。
【請求項4】
前記ベルト基材と前記補強部材とは、熱溶融型接着剤からなる接着層で接着してある、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性無端ベルト。
【請求項5】
前記熱溶融型接着剤が、ウレタン系ホットメルト接着剤、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)接着剤、PA(ポリアミド樹脂)接着剤及び変性オレフィン系樹脂接着剤の群から選択されものである、ことを特徴とする請求項4に記載の導電性無端ベルト。
【請求項6】
前記補強部材の表面にバフ加工が施されている、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導電性無端ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−78514(P2012−78514A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222806(P2010−222806)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】