説明

導電性繊維の製造方法

【課題】本発明は、従来のエッチング処理を施すことなく、高分子繊維又は炭素繊維の表面にメッキ処理により均一な金属皮膜を均一且つ密着性よく形成することができるメッキ前処理方法及び均一な金属皮膜が均一且つ密着性よく形成されている高分子繊維又は炭素繊維の製造方法を提供する
【解決手段】油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元して活性化させる第2工程とを含むことを特徴とする高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の高分子繊維又は炭素繊維の表面に金属をメッキするためのメッキ前処理方法、メッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法及び金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性繊維により構成されたシート材は、携帯電話や電気・電子機器から発生する電磁波を遮蔽する電磁シールド材としての用途展開が図られており、今後益々の需要増大が期待されている。又、今日使用されている電線及び送電線等の導線としては、殆どの場合において銅等の金属線が用いられているが、金属線は一般的に重量が重く強度も弱いことから、軽量で強度に優れた導電性繊維で代替するための研究開発が進められている。
【0003】
特に、導電性繊維の基材として高分子繊維材料を用いると、軽量で高強度である等、用途に合わせて種々の機能を備えた導電性繊維を得られる可能性が大きいことから、高分子繊維材料に導電性を付与するための様々な技術開発が行われている。そのような高分子繊維材料等への導電性付与技術としては、(1)界面活性剤と帯電防止剤をプラスチックの内部に配合し、あるいは表面に塗布する技術(例えば、特許文献1参照)、(2)カーボン粉末や金属粉末等の導電性物質を混合した高分子組成物を用いる技術(例えば、特許文献2参照)、(3)プラスチック成形品表面に酸化スズ等の金属蒸着膜をCVD法等により形成する技術(例えば、特許文献3参照)、(4)高分子繊維材料の表面に無電解メッキ処理により金属皮膜を形成する技術(例えば、特許文献4参照)、(5)高分子材料の化学構造を新規に設計して導電性高分子とするという根本的な方法による技術等が挙げられる。
【0004】
上記(4)高分子繊維材料の表面に無電解メッキ処理により金属皮膜を形成する技術においては、通常、金属皮膜の密着性を向上させる等の目的で高分子繊維材料にメッキ前処理が行われる。
【0005】
例えば、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエステル系繊維等の合成繊維に無電解メッキを行うための前処理として、次に例示するような一連の処理が行われる。即ち、アルカリ脱脂液等によるクリーニング処理又は当該合成繊維に適した精練・漂白処理を行い、次いで、例えば、強酸又は強アルカリのエッチング液等による化学的処理或いは低温プラズマ又は機械的な擦過等による物理的処理を行って繊維表面を粗面化ないし膨潤化し、更に、例えば、塩化第一スズの酸性液による増感処理の後に塩化パラジウムの酸性液による活性化処理を行う等の方法による触媒化処理が行われる。このような無電解メッキの前処理としての一連の処理のうち、繊維表面を粗面化する処理について更に補足すると、プラズマを利用して、プラス及びマイナスのイオンや遊離原子、ラジカルを発生させ、これによりエッチバックをするプラズマエッチングがあり、その他にも、コロナ放電処理、紫外線処理等による改質技術がある。一方、こうした粗面化処理を行わない方法として、メッキ触媒を含有する有機バインダや紫外線硬化樹脂の薄膜をプラスチック表面に形成する方法もある。
【0006】
上記メッキ前処理方法において、例えば、化学的なエッチング処理を行う場合には、クロム溶液やアルカリ金属水酸化物溶液等の薬品を用いるためその廃液処理が問題となる。又、化学的なエッチング処理以外の処理を行う場合でも、一連の前処理を行うための処理時間や設備コストが大きいという問題がある。
【0007】
さらに近年、上記メッキ前処理方法以外に、超臨界流体を用いたメッキ前処理方法が提案されており、プラスチックに超臨界流体を接触させて表面処理を行うこと及びプラスチックにメッキ用触媒を含有する超臨界流体を接触させて表面処理を行うと同時にメッキ用触媒を付着させることが開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2004−253796号公報
【特許文献2】特開2000―212453号公報
【特許文献3】特公昭61−132652号公報
【特許文献4】特開2000―96431号公報
【特許文献5】特開2001−316832号公報
【0009】
上記の超臨界流体を用いたメッキ前処理方法においては、メッキ用触媒として金属単体や金属化合物が挙げられているが、金属単体は超臨界流体に溶解しないためプラスチック表面に付着させることが困難である。一方、超臨界流体に可溶な金属化合物は、プラスチック表面に付着させやすいが、触媒活性が不十分であるために無電解メッキ処理により十分な量の金属皮膜を形成することが難しい。又、超臨界流体を流しながらメッキ前処理を行うため、メッキ用触媒の多くがプラスチックに付着することなく無駄になるおそれがある。
【0010】
そこで、超臨界流体又は亜臨界流体を用いることで、従来の材料表面を粗化するためのエッチング処理が不要になるとともに、簡略化された工程でメッキ用金属触媒を高分子材料に付与することができるメッキ前処理方法およびメッキ方法、並びに超臨界流体又は亜臨界流体を用いることで無電解メッキ処理を行うことなく高分子材料の表面に金属皮膜、金属酸化物皮膜又は金属硫化物皮膜を直接形成することができる皮膜形成方法(例えば、特許文献6参照)が開発されたが、この方法においては、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の高分子繊維や炭素繊維に金属皮膜、金属酸化物皮膜又は金属硫化物皮膜を均一に且つ密着性よく積層して形成することは困難であった。
【特許文献6】特開2007−56287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、従来のエッチング処理を施すことなく、高分子繊維又は炭素繊維の表面にメッキ処理により均一な金属皮膜を均一且つ密着性よく形成することができるメッキ前処理方法、均一な金属皮膜が均一且つ密着性よく形成されている高分子繊維又は炭素繊維の製造方法及び均一な金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜が均一且つ密着性よく形成されている高分子繊維又は炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、
[1]油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元して活性化させる第2工程とを含むことを特徴とする高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[2]超臨界流体又は亜臨界流体は、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタン及びエチレンからなる群より選択される1種以上から主としてなり、その温度が50℃以下であることを特徴とする上記[1]記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[3]超臨界流体又は亜臨界流体は、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類及びシランカップリング剤類からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする上記[2]記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[4]高分子繊維は、アラミド繊維又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[5]高分子繊維又は炭素繊維は、プラズマ処理又は電子線照射処理により極性基が導入された高分子繊維又は炭素繊維であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[6]有機金属錯体は、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム、およびランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選択される1種以上の金属を含有することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[7]高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が布帛を形成していることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法、
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法で処理された高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条をメッキ液に浸漬して無電解メッキ処理を行うことを特徴とするメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[9]無電解メッキ処理を超臨界流体又は亜臨界流体の存在下に行うことを特徴とする上記[8]記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[10]メッキ液は、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト及びインジウムからなる群より選択される1種以上の金属を含んでなることを特徴とする上記[8]又は[9]記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[11]メッキ液に10〜50kHzの振動を付与して無電解メッキ処理することを特徴とする上記[8]〜[10]のいずれか1項記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[12]無電解メッキ処理の後に、更に、電解メッキ処理を行うことを特徴とする上記[8]〜[11]のいずれか1項記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[13]油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維糸条表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元、酸化又は硫化する第2工程とを含むことを特徴とする金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[14]超臨界流体又は亜臨界流体は、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタンおよびエチレンからなる群より選択される1種以上から主としてなり、その温度が50℃以下であることを特徴とする上記[13]記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[15]超臨界流体又は亜臨界流体は、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類およびシランカップリング剤類からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする上記[13]又は[14]記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[16]高分子繊維は、ポリアミド繊維、アラミド繊維又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする上記[13]〜[15]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[17]高分子繊維又は炭素繊維は、プラズマ処理又は電子線照射処理により極性基が導入された高分子繊維又は炭素繊維であることを特徴とする上記[13]〜[16]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[18]有機金属錯体は、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム及びランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選択される1種以上の金属を含有することを特徴とする上記[13]〜[17]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[19]有機金属錯体は、ベータージケトネート類、ジエン類及びメタロセン類からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする上記[13]〜[18]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法、
[20]高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が布帛を形成していることを特徴とする上記[13]〜[19]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法及び
[21]高分子繊維表面又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元する第2工程の後に、更に、電解メッキ処理を行うことを特徴とする上記[13]〜[20]のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法は、超臨界流体又は亜臨界流体の高拡散性および高浸透性を生かし、しかも油剤を含有しない高分子繊維又は炭素繊維表面が効率良くかつ万遍なく上記流体に接触するように高分子繊維又は炭素繊維材料の形態を工夫して処理に供するので、有機金属錯体を高分子繊維又は炭素繊維表面に効率良くかつ均一に付着させることができると共に、付着した有機金属錯体をメッキ用金属触媒に還元して活性化させることで極めて少ない工程数かつ短時間に均一なメッキ前処理を行うことができる。
【0014】
本発明に係るメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法は、上記メッキ前処理方法により前処理された高分子繊維又は炭素繊維を無電解メッキ処理するので、均一な金属皮膜が密着性良くメッキされた高分子繊維又は炭素繊維を効率良く製造することができる。
【0015】
本発明に係る金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法は、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に、油剤を含有しない高分子繊維又は炭素繊維表面が効率良くかつ万遍なく上記流体に接触するように形態を工夫した高分子繊維又は炭素繊維材料を浸漬した後、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元、酸化又は硫化処理して高分子繊維又は炭素繊維表面に金属、金属酸化物又は金属硫化物皮膜等を直接形成するので、処理工程が簡略されて短時間に製造できるとともに、密着性良く均一な皮膜を有する繊維を製造することができる。しかも、メッキ前処理と無電解メッキ処理とを必要とする方法に比べて、設備を簡略化することもできる。
【0016】
又、上記いずれの製造方法においても、プラズマ処理や電子線照射処理等によって繊維表面に極性基が導入された高分子繊維又は炭素繊維を用いることにより、繊維表面における皮膜の密着性がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
請求項1記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法は、油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元して活性化させる第2工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
上記高分子繊維糸条としては、高分子繊維からなる糸条であれば特に限定されず、高分子繊維としては、例えば、植物繊維、動物繊維等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、合成繊維が挙げられる。
【0019】
上記合成繊維としては、例えば、アラミド、ナイロン(例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66等)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)等のポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ビニロン等のポリアルコール繊維、フッ素系繊維(例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ四フッ化エチレンエチレン(ETFE)、ポリフッ化アルキルビニルエーテル(PFA)等)等が挙げられ、これらの繊維を複数組み合わせてなる複合繊維でもよい。
【0020】
上記合成繊維の中で、アラミド繊維又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維は、高機能繊維であり、従来メッキ処理が困難であったので好ましく用いられる。又、フッ素系繊維も好適に用いられる。
【0021】
上記アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えばデュポン社製、商品名「ノーメックス」)等のメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。又、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)、コポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社、商品名「テクノーラ」)等のパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。これらのアラミド繊維の中では、引っ張り弾性率が高く、しなやかであるパラ系アラミド繊維が好ましく、更に、耐熱性や燃え難さの指標である限界酸素指数が高く、金属メッキが施しやすいポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。尚、合成繊維としては、メッキが施されたときに良好な導電性を具現するうえで繊維長が長い方が有利であるという点から、紡績糸よりもフィラメント(長繊維)が好ましい。
【0022】
上記炭素繊維糸条としては、炭素繊維からなる糸条であれば特に限定されない。炭素繊維としては、従来公知の任意の炭素繊維が使用可能であり、例えば、ポリアクリルニトリル(PAN)系の炭素繊維、ピッチ系の炭素繊維等が挙げられる。
【0023】
上記高分子繊維糸条及び炭素繊維糸条の形状は特に限定されず、単糸繊度、総繊度、繊維の断面形状等は任意である。例えば、繊維の断面形状としては、丸断面、三角断面、偏平断面、その他の異形断面等どのような断面形状でもよい。又、高分子繊維糸条および炭素繊維糸条は、撚りが掛けられた繊維糸条、無撚の繊維糸条のいずれでもよい。
【0024】
上記高分子繊維糸条及び炭素繊維糸条は、布帛を形成していてもよい。布帛としては、織物、編物、直交ネット、直交積層ネット、多軸積層ネット、不織布等を挙げることができる。繊維状のメッキ品は、例えば、電線、信号線の代替品として用いることができ、一方、布帛状のメッキ品は、例えば、耐熱性と導電性を有するため、消防服、スポーツ衣服、作業用防護服、耐熱電磁波遮蔽シート等として使用することができる。
【0025】
高分子繊維及び炭素繊維の表面には、有機金属錯体が容易に付着できるように、親水性の極性基(例えば、アミド基、カルボキシル基、ケトン基等)が導入されているのが好ましい。こうした親水性の極性基を高分子繊維又は炭素繊維の表面に導入する方法は、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、プラズマ処理、電子線照射処理、グラフト化処理、極性基を含有する溶液に浸漬する処理等が挙げられる。従って、例えば、フッ素系繊維としては、プラズマ処理によって親水基が導入されたフッ素系繊維が好ましく、例えば、酸素プラズマ処理したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維を用いることにより、有機金属錯体が繊維表面に付着しやすくなり、後のメッキ処理により良好な金属皮膜(例えば、銅皮膜等)を形成できるので好ましい。又、ポリアミド系繊維にプラズマ処理を施して繊維表面にアミド基等の極性基を導入することにより、より密着性の向上した金属皮膜を形成できる。
【0026】
かかるプラズマ処理におけるプラズマの種類としては、例えば、酸素プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ等が挙げられ、プラズマ処理の方法としては、通常のプラズマ処理装置を用い、好ましくは出力10〜300W、プラズマ照射時間30秒〜15分間程度の条件で行うことができる。
【0027】
上記高分子繊維及び炭素繊維は油剤を含有しない。高分子繊維及び炭素繊維を製造する際には、一般に植物油等の油剤をフィラメントに被覆するか又は高分子繊維及び炭素繊維に含有させるが、油剤が存在すると、後工程で高分子繊維及び炭素繊維に有機金属錯体を付着させにくくなり、付着したとしても後工程で金属皮膜を形成しても皮膜が容易に剥離脱落しやすくなるので、高分子繊維及び炭素繊維は油剤を含有してはならない。
【0028】
上記第1工程は、油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる工程である。
【0029】
上記高分子繊維又は炭素繊維材料は、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯(無芯ロール)で又は多孔性管を芯としてロール状に捲き回したもの(多孔性管ロール)である。
【0030】
上記無芯ロールは、例えば、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条を適当な芯の周りに捲き回してロールを形成した後、その芯をロールから抜くことによって作製することができる。具体的には、例えば、芯となる円筒の両端に取り外し可能な円盤を装着したボビンを用意し、このボビンにワインダーを利用して高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条を捲きつけて所望のロールとなした後、円盤を取り外して芯の円筒を抜くことにより無芯ロールを作製することができる。このとき、上記円盤はその一方のみが取り外し可能であれば足りる。なお、芯が抜きやすいように、例えば、テフロン(登録商標)のような滑りやすい材料で形成された芯を用いるか、芯の回りに滑りやすいシートを巻いてから高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条を捲きつける方法が採用できる。
【0031】
上記多孔性管ロールとしては、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が多孔性管の周りにロール状に捲き回されてなるものが挙げられる。多孔性管としては、例えば、孔径1〜1000μm程度の孔を多数有する多孔質セラミックスからなる管を用いることができ、又、金属管(例えばステンレス管等)、プラスチック管或いは無孔質セラミックス管等の管肉に多数の貫通孔を穿設して用いることができる。上記の管肉に穿設される貫通孔の形状や数は特に限定されず、超臨界流体又は亜臨界流体の流通を考慮して適宜定めればよい。例えば、孔径を0.1〜5mm程度、隣接する孔との間隔を0.2〜10mm程度とすることが好ましい。更に、超臨界流体又は亜臨界流体を均一に分散させるために、上記の多数の貫通孔を穿設してなる多孔性管の外周に目の細かいネット状材等を巻いてから高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条を捲き回すようにして使用することもできる。
【0032】
上記超臨界流体又は亜臨界流体は、特に限定されず、従来公知の超臨界流体又は亜臨界流体の1種又は2種以上を混用して使用することができる。超臨界流体又は亜臨界流体としては、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタンおよびエチレンからなる群より選択される1種以上から主としてなる超臨界流体又は亜臨界流体が好ましい。超臨界流体又は亜臨界流体の温度は、特に限定されない。温度が50℃以下の超臨界流体又は亜臨界流体を用いることは、省エネルギー、設備設置コストの低減、設備メンテナンスの容易化および低コスト化等の観点で特に好ましい。 より好ましい超臨界流体又は亜臨界流体は、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体である。二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体は、繊維材料への吸着性に優れ、引火性や爆発性がなく安全であり、入手も容易である。
【0033】
超臨界流体は、物質ごとに超臨界条件が異なり、例えば、COは臨界温度304K、臨界圧力7.4MPaで超臨界流体となり、HOは臨界温度647K、22.1MPaで超臨界状態となる。亜臨界流体も、物質ごとに亜臨界条件は異なっているが、一般に超臨界流体よりも約10K程度低い温度、臨界圧力程度の圧力で亜臨界状態となる。従って、フィラメント束を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬する際の圧力及び温度条件は、超臨界状態又は亜臨界状態が実現される温度及び圧力条件の範囲内で適宜設定すればよい。好ましい条件は、高分子繊維又は炭素繊維の種類や、超臨界流体又は亜臨界流体の種類によっても異なるが、一般には温度を超臨界温度以上650K以下、圧力を超臨界圧力以上35MPa以下とすることが好ましい。又、浸漬時間としては、5〜120分間程度が好ましい。二酸化炭素を用いる場合、浸漬温度は423K以下が好ましく、圧力は5.0〜35.0MPaが好ましく、浸漬時間は5〜60分間が好ましい。
【0034】
高分子繊維又は炭素繊維材料の浸漬温度は、エネルギーコスト、設備設置コスト、設備メンテナンスの容易さ及びコスト等を考慮すれば50℃(約323K)以下がより好ましい。かかる低温で行うことのもうひとつの利点として、超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬された状態での耐熱性に乏しい有機繊維を処理する場合でも、繊維の特性を損なわないことが挙げられる。高温で浸漬すると、有機繊維の特性を大きく損なわないまでも、有機繊維からオリゴマー等が溶け出しやすくなり、浸漬後に超臨界流体を排出する際に、装置の排出部等にオリゴマー等の汚れが付着する場合があり、最悪の場合には流路が詰まってしまうおそれがある。
【0035】
上記有機金属錯体としては、例えば、M(OR)、M(OCOR)、M(OSOR)もしくはM(RCOCHCOR)の化学式で示される錯体、あるいは下記(1)の化学式で示されるジエン類の錯体、下記(2)の化学式で示されるメタロセン類の錯体が挙げられる。なお、それらいずれの化学式においても、Mは金属を表わし、Rは水素、炭化水素基又はCFを表わす。
【0036】
【化1】

【0037】
【化2】

【0038】
上記化学式中のRで表わされる炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1〜50である。かかる炭化水素基としては、例えば飽和脂肪族炭化水素基、飽和脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、脂環式−脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族−脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
【0039】
飽和脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、n−へキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、エチルブチル、n−ヘプチル、2−メチルへキシル、n−オクチル、イソオクチル、tert−オクチル、2−エチルへキシル、3−メチルへプチル、n−ノニル、イソノニル、1−メチルオクチル、エチルへプチル、n−デシル、1−メチルノニル、n−ウンデシル、1,1−ジメチルノニル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ヘプタデシルおよびn−オクタデシル基、並びにエチレンやプロピレン、ブチレンの重合物あるいはそれらの共重合物よりなる基等の炭化水素基が挙げられる。
【0040】
不飽和脂肪族炭化水素基の具体例としては、ビニル、アリル、イソプロペニル、2−ブテニル、2−メチルアリル、1,1−ジメチルアリル、3−メチル−2−ブテニル、3−メチル−3−ブテニル、4−ペンテニル、ヘキセニル、2−フェニルビニル、オクテニル、ノネニルおよびデセニル基、並びにアセチレンやブタジエン、イソプロピレンの重合物あるいはそれらの共重合物よりなる基等の炭化水素基が挙げられる。
【0041】
脂環式炭化水素基の具体例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、3−メチルシクロへキシル、4−メチルシクロへキシル、4−エチルシクロへキシル、2−メチルシクロオクチル、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、4−メチルシクロへキセニル、4−エチルシクロへキセニルおよびシクロペンタジエニル基等の炭化水素基が挙げられる。
【0042】
脂環式−脂肪族炭化水素基の具体例としては、シクロプロピルエチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルエチル、シクロへキシルメチル、シクロへキシルエチル、シクロヘプチルメチル、シクロオクチルエチル、3−メチルシクロへキシルプロピル、4−メチルシクロへキシルエチル、4−エチルシクロへキシルエチル、2−メチルシクロオクチルエチル、シクロプロペニルブチル、シクロブテニルエチル、シクロペンテニルエチル、シクロヘキセニルメチル、シクロヘプテニルメチル、シクロオクテニルエチル、4−メチルシクロへキセニルプロピルおよび4−エチルシクロへキセニルペンチル基等の炭化水素基が挙げられる。
【0043】
芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル、ナフチル、4−メチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、2−エチルフェニル、n−ブチルフェニル、t−ブチルフェニル、アミルフェニル、へキシルフェニル、ノニルフェニル、2−tert−ブチル−5−メチルフェニル、シクロへキシルフェニル、クレジル、オキシエチルクレジル、2−メトキシ−4−tert−ブチルフェニルおよびドデシルフェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0044】
芳香族−脂肪族炭化水素基の具体例としては、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシル、1−(4−メチルフェニル)エチル、2−(4−メチルフェニル)エチル、2−メチルベンジルおよび1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基等が挙げられる。
【0045】
超臨界流体又は亜臨界流体には、有機金属錯体の溶解性を高める、超臨界流体又は亜臨界流体と高分子繊維又は炭素繊維との親和性を高める、メッキ金属皮膜密着性を向上させる等の目的で、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類及びシランカップリング剤類からなる群より選択される1種以上の添加剤(以下、「エントレーナ」という。)が添加されることが好ましい。エントレーナの添加量は、特に限定されないが、一般に、超臨界流体又は亜臨界流体の物質量に対して1〜25モル%が好ましい。
【0046】
上記トリアジンチオール類としては、例えば、トリアジンチオール誘導体の6−位の置換基が−SH、−N(C、−NHC及びこれらの金属塩からなる群より選ばれる基であるトリアジンチオール誘導体等が挙げられる。又、アミン類としては、例えば、n−ブチルアブチルアミン、3−アミノ−5−メチルイソオキサゾール等が挙げられる。又、シランカップリング剤類としては、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
上記有機金属錯体を構成する金属(M)としては、例えば、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム、ランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選択される1種以上の金属が挙げられる。ランタノイド族57番〜71番の元素の中では、ネオジム、サマリウム及びジスプロシウムが好ましい。
【0048】
二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体を用いる場合の好ましい有機金属錯体としては、例えば、ベータージケトネート類(例えば、フッ素系パラジウム錯体)、ジエン類(例えば、ジメチルシクロオクタジエン白金)、メタロセン類(例えば、ニッケロセン)が好ましい。中でも、二酸化炭素の超臨界流体又は亜臨界流体に対する溶解度が高いこと、メッキ処理の際に金属皮膜が均一に成長すること、酸化による触媒活性低下が小さいこと及びフィラメントに吸着しやすいこと等の理由で、フッ素系パラジウム錯体が好ましい。
【0049】
高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬する際の有機金属錯体の使用量としては、有機金属錯体の種類によっても変わるが、一般的に高分子繊維又は炭素繊維材料の質量に対して0.1〜50質量%が好ましい。有機金属錯体の使用量が少なすぎると、高分子繊維又は炭素繊維表面への有機金属錯体の付着が不均一になる場合があり、多すぎると、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着するだけでなく高分子繊維又は炭素繊維内部にまで大量に染み込み、必要以上の有機金属錯体が高分子繊維又は炭素繊維表面に付着することになるので、コスト的に好ましくない。従って、高分子繊維又は炭素繊維材料の質量に対して、0.2〜3.0質量%がより好ましい。
【0050】
高分子繊維又糸条は炭素繊維糸条を無芯ロール又は多孔性管ロールとして、超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬すると、各繊維の間を超臨界流体又は亜臨界流体が容易に流通することができ、それら流体と繊維表面との接触を良くなる。即ち、高分子繊維又は炭素繊維材料が無芯ロールである場合にはその無芯の空間に上記超臨界流体又は亜臨界流体が満たされ、無芯ロールの内周部から外周部へ向かう方向に、或いは、その逆方向に上記超臨界流体又は亜臨界流体が移動できることが好ましい。多孔性管ロールの場合には、多孔性管の内側から孔を経由してロールの外周へ向かう方向に、或いはその逆方向に上記超臨界流体又は亜臨界流体が移動できることが好ましい。無芯ロールの内径や、多孔性管の内径の大きさは、かかる超臨界流体又は亜臨界流体の移動が確保される範囲内で適宜設定すればよい。又、ロールの外径、高さ等は、上記超臨界流体又は亜臨界流体の流通や装置の大きさを考慮して適宜設定すればよい。枷を用いて折畳む際の寸法(例えば枷の直径等)もまた、目的に応じて適宜設定すればよく、枷はさらに、装置の都合に合わせて適宜に束ねられたり、折畳まれたり、ねじられたりして処理に供されてもよい。
【0051】
上記繊維間の超臨界流体又は亜臨界流体の流通を良くするために、上記無芯ロール又は多孔性管ロールの密度はあまり高くないほうが好ましい。具体的には、高分子繊維又は炭素繊維内の空隙率を、5〜95%とすることが好ましく、10〜80%とすることがよりに好ましい。但し、高機能の循環ポンプを使用する等して上記超臨界流体又は亜臨界流体の流速を高めることで、空隙率が低くても流通を改善することができる場合がある。
【0052】
尚、上記の空隙率は、次のようにして測定される。先ず、無芯ロール又は多孔性管ロール等の寸法を測定して、その見かけ体積Vaを算出する。例えば、外径R、内径r、高さhの円筒形であれば、V=π×(R−r)/4×h と算出される。次に、当該無芯ロール又は多孔性管ロール等の質量Wを測定し、この測定値と当該無芯ロール又は多孔性管ロール等を構成するフィラメントの真密度ρとから、真の体積Vを、V=W/ρ として算出する。そして、空隙率Pは、
P=[(V−V)/V]×100(%) という式により求められる。
【0053】
高分子繊維又は炭素繊維材料を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させるには、例えば、耐圧容器からなる反応槽内に高分子繊維又は炭素繊維材料を配置し、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体、好ましくは有機金属錯体が溶解した超臨界流体又は亜臨界流体を導入することにより、該超臨界流体又は亜臨界流体に高分子繊維又は炭素繊維を浸漬すればよい。
【0054】
有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体(以下、単に「流体」という。)に高分子繊維又は炭素繊維を浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる方法を図面を参照して説明する。図1は高分子繊維又は炭素繊維を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬するために使用できる装置の一例の概略を示す模式図である。
【0055】
図中10は反応槽であり、反応槽10内の下部に設けられた高分子繊維又は炭素繊維材料用置き台12上に、例えば、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条の無芯ロール11を供給しておく。9は、反応槽10内の上部に設けられた有機金属錯体置き台であり、所定量の例えば粉末状の有機金属錯体を供給しておく。有機金属錯体置き台9は、目の細かいメッシュ状の素材で構成されており、ここを通過した流体が反応槽10内を自由に流通できるようになされている。バルブ4を開いて所定量のエントレーナを反応槽10に予め仕込んだ後、バルブ4を閉鎖し、バルブ3を開いて、導入口7より流体を反応槽10内の有機金属錯体置き台9上に導入する。流体は有機金属錯体置き台9を通過する際に有機金属錯体を含み(好ましくは、有機金属錯体が流体に溶解された状態で、流体が有機金属錯体を含み)、反応槽10内は有機金属錯体を含む流体で満たされ、高分子繊維又は炭素繊維材料用置き台12上に供給されていた無芯ロール11のフィラメントは有機金属錯体を含む流体に浸漬される。
【0056】
反応槽10の下部及び側方の器壁14にはヒーターが内蔵されており、反応槽内温度を所定の温度に保つようになされている。又、反応槽10の下部には攪拌子13が回転可能に設置されており、攪拌子13を回転することにより、反応槽10内の流体を攪拌して有機金属錯体の溶解の促進、反応槽10内の温度の均一化及び有機金属錯体を含む流体のフィラメントへの接触量を増加することができる。攪拌子13で流体を攪拌する代わりに、無芯ロール11を反応槽10内で移動させる、例えば、回転台に無芯ロール11を取り付けて回転させる等の措置を講ずることにより、同様の効果を得ることもできる。必要に応じて、流体を攪拌しつつ、反応槽10内の圧力及び温度を所定の範囲に保った状態で、所望の時間、浸漬処理を行う。
【0057】
尚、バルブ3の上流側には、供給する流体の圧力を測定しる圧力計2が設置され、圧力計2の更に上流側には常用の超臨界流体供給装置としての加圧ポンプ1やボンベ(図示せず)等が接続されている。又、バルブ4の上流には供給するエントレーナやメッキ液等の圧力を測定する圧力計6が設置されており、圧力計6の更に上流にはエントレーナやメッキ液等の供給装置としての加圧ポンプ5やボンベ(図示せず)等が接続されている。
【0058】
又、上記では予め所定量のエントレーナを反応槽10に仕込んでおいた場合を説明したが、エントレーナはそれ以外の方法によって添加されてもよい。例えば、圧力計2、6に表示される圧力を制御しつつ、流体にエントレーナを所望の比率で混合した混合流体を反応槽10に導入してもよいし、或いは流体が反応槽10に導入された後からエントレーナを追加してもよい。更に、エントレーナを予め高分子繊維又は炭素繊維材料に浸漬する等の方法で付着させ、必要に応じて所望の処理を施してから当該高分子繊維又は炭素繊維材料を反応槽内に設置してもよい。
【0059】
所定時間が浸漬処理して高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させた後、排出口8を解放して反応槽10内から流体を排出し、徐々に減圧して、無芯ロール11を取りだすことにより、高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体が付着された高分子繊維又は炭素繊維材料が得られる。尚、排出口8から排出された流体を回収して繰り返し使用することもできる。
【0060】
図2は高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条の多孔性管ロールを有機金属錯体を含む流体に浸漬するために使用できる装置の一例の概略を示す模式図である。図中110は反応槽であり、循環ポンプ114により、反応槽110内の流体を循環させることができる。この循環によって有機金属錯体の流体への溶解を促進することができる。循環ポンプ114の上流はバルブ115を介して、反応槽110の下部に開口された流体循環用出口116に接続されており、下流側は圧力計117を介して、反応槽110の上部に開口された流体導入口107に接続されている。
【0061】
111は、ステンレス製多孔性管112を芯としてその周囲に高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が捲き回された多孔性管ロールであり、ステンレス製多孔性管112が上方を向くように、反応槽110内に設置する。多孔性管112の上部には、その上に有機金属錯体を供給した有機金属錯体置き台109を設置する。金属錯体置き台109の側面は流体不通過性材料で形成され、下面は目の細かいメッシュ状の素材で構成されており、且つその下面形状は多孔性管112の断面形状と略同一になされており、導入された流体は全て多孔性管112内に供給されるようになされている。
【0062】
バルブ106を開いて所定量のエントレーナを予め反応槽110に仕込んだ後、バルブ106を閉鎖し、次いで、バルブ103を開き、流体導入口107より多孔性管112を経由させて、流体を反応槽110に導入する。即ち、この装置例では、流体が導入口107から有機金属錯体置き台109を経由して多孔性管112の内側の空間に入り、多孔性管112の小孔から出た流体(有機金属錯体を含有する)が、高分子繊維又は炭素繊維と接触しつつ反応槽110内に導入される。反応槽110内に満たされた流体は、流体循環用出口116から出て循環ポンプ114により再び流体導入口107に送られ、装置内を循環する。反応槽110の下部及び側方の器壁113にはヒーターが内蔵されており、反応槽内の温度を所定の温度に保つようになされている。
【0063】
尚、バルブ103の上流側には、供給する流体の圧力を測定しる圧力計102が設置され、圧力計102の更に上流側には常用の超臨界流体供給装置としての加圧ポンプ101やボンベ(図示せず)等が接続されている。又、バルブ106の上流には供給するエントレーナやメッキ液等の圧力を測定する圧力計105が設置されており、圧力計105の更に上流にはエントレーナやメッキ液等の供給装置としての加圧ポンプ104やボンベ(図示せず)等が接続されている。
【0064】
所定時間浸漬処理して高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させた後、流体排出口108を解放して反応槽110内から流体を排出し、徐々に減圧して、多孔性管ロール111を取りだすことにより、高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体が付着された高分子繊維又は炭素繊維材料が得られる。尚、流体排出口108から排出された流体を回収して繰り返し使用することもできる。
【0065】
上記第2工程は、フィラメント表面に付着した有機金属錯体を還元して活性化する工程である。
【0066】
有機金属錯体を還元する方法は、特に限定されないが、熱還元法が好ましい。具体的には、有機金属錯体を付着させた高分子繊維又は炭素繊維材料を、該有機金属錯体の熱還元温度以上に設定された温度雰囲気下に置くことで熱還元させることができる。かかる熱還元処理は、浸漬処理装置から取り出した高分子繊維又は炭素繊維材料をオーブン等に投入して行うことができるが、浸漬処理装置に適宜加熱装置を備えさせれば、浸漬処理と同時、浸漬処理後流体を排出する前又は排出した後浸漬処理装置内で熱還元処理を行うこともできる。すなわち、浸漬処理装置と熱還元処理装置を兼ねることのできる装置を用いることができる。
【0067】
又、高分子繊維又は炭素繊維材料が熱に弱く、熱還元処理温度まで上昇させることが適当でない場合には、還元剤を用いるとよい。該還元剤としては、例えば、水素、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、ヒドロキノン等が挙げられ、これらのうちから1種を選択して用いることができ、2種以上を選択して混用することもできる。
【0068】
上記還元剤を使用する場合には、例えば、0.1〜15M程度の濃度のトラヒドロホウ酸ナトリウム等の還元剤を使用して、2〜15分間処理すればよい。還元処理によって有機金属錯体構造内のリガンドが外され、金属になる。
【0069】
又、水素等の気体還元剤として用いる場合には、浸漬処理後の高分子繊維又は炭素繊維材料を気密性の容器内に設置してから気体還元剤を導入し、該容器内の空間に気体還元剤を満たすという方法が好ましく採用される。或いは、浸漬処理に引き続いて、超臨界流体又は亜臨界流体を排出する前に、即ち、該流体中に高分子繊維又は炭素繊維材料が浸漬されている状態で、該流体中に気体還元剤、例えば、0.01〜15%の濃度の水素気体を吹き込むことで有機金属錯体を還元させてもよい。
【0070】
請求項8記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法は、請求項1〜7のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法で処理された高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条をメッキ液に浸漬して無電解メッキ処理を行うことを特徴とする。
【0071】
請求項1〜7のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法で処理された高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条は、繊維表面が超臨界流体又は亜臨界流体に接触することによって、繊維が膨潤し、超臨界流体又は亜臨界流体に含まれる有機金属錯体が膨潤で生じた隙間に埋め込まれるようになると考えられ、その後還元されると、繊維表面に活性化された触媒活性点が露出するので、繊維表面にアンカー効果のある活性化された金属が形成される。従って、その後に無電解メッキ処理を施すことで繊維表面に密着したメッキ(金属)皮膜を形成することが可能となる。
【0072】
上記無電解メッキ処理は、大気圧下で行ってもよいし、超臨界流体又は亜臨界流体の存在下で行ってもよい。無電解メッキ処理により繊維表面に形成されるメッキ皮膜としては、金属単体からなる皮膜、合金からなる皮膜或いはそれらの混合物からなる皮膜であれば特に限定されない。
【0073】
上記無電解メッキ処理のためのメッキ液としては、特に限定されず、一般的に常用されるメッキ液を使用することができ、例えば、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト又はインジウムの中から選択される少なくとも一種の金属を含有するメッキ液が好ましい。
【0074】
メッキ皮膜の厚さは、通常0.02μm以上であり、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.07μm以上であり、特に好ましくは0.1〜5.0μmである。厚さが0.02μm未満では、導電性が十分に発現できない場合がある。また、5.0μmより厚くしても、皮膜厚さの増加率に対する導電性の向上率は小さくなってくるので導電性向上のメリットは少なく、その一方で皮膜の柔軟性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0075】
無電解メッキ処理の方法は、特に限定されず、例えば、大気圧下で行う場合は、前述のメッキ前処理された高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条を上記メッキ液が貯蔵されたに無電解メッキ槽に供給し浸漬して無電解メッキ処理すればよい。又、超臨界流体又は亜臨界流体の存在下で無電解メッキ処理を行う場合は、上記反応槽内で高分子繊維又は炭素繊維材料に有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体により有機金属錯体をさせ、次いで、有機金属錯体を還元した後、反応槽内に無電解メッキ液を供給して無電解メッキ処理すればよい。
【0076】
又、無電解メッキ処理をする際には、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条全体にメッキ液が十分に浸透するよう、無電解メッキ槽の底面に超音波振動子を固定する等して、メッキ液に振動を与えながら処理することが好ましい。振動を与えて処理することにより、処理対象である高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条の内部にメッキ液を迅速に浸透させることができ、又、無電解メッキ処理において発生する気泡が高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条に付着してもメッキ液の振動によりただちに除去できるので、高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条表面にメッキ液が万遍なく作用して均一な金属皮膜が形成されるようになるので好ましい。
【0077】
上記振動の振動周波数としては、10〜50kHzが好ましい。かかる振動周波数でメッキ液を振動させることにより、金属の析出速度が大きくなり、所定の厚さの金属皮膜が得られるまでの時間が短縮され、又、析出反応に伴って発生する気泡が除去され、均一な金属皮膜をより速く、安定して析出させることができる。振動周波数が10kHz未満では、メッキ液を振動させることによる効果が不十分となる傾向にあり、一方、50kHzを超えると、メッキ液が不安定になり濁りが生じたりする場合があるので好ましくない。
【0078】
電解メッキ処理は無電解メッキ処理と比べてメッキ皮膜の厚さをコントロールしやすいので、かかる電解メッキ処理を行うことにより、使用目的に応じてメッキ皮膜の厚さを適宜調整し、ひいてはメッキフィラメントの機械的特性(硬さ等)や電気的特性(導電性、導電安定性、耐電圧性等)等を調整することができるので、無電解メッキ処理の後、更に電解メッキ処理を行うのが好ましい。尚、無電解メッキ処理と電解メッキ処理を併用する場合には両方のメッキによるメッキ皮膜の厚さが前述の範囲内になるように調整するのが好ましい。
【0079】
請求項13記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法は、油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維糸条表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元、酸化又は硫化する第2工程とを含むことを特徴とする。
【0080】
上記第1工程は、請求項1における第1工程と同一であるが、第1工程で油剤を含有しない高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を第2工程において還元、酸化又は硫化することにより金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を、高分子繊維又は炭素繊維表面に形成するのであるから、有機金属錯体が高分子繊維又は炭素繊維表面に皮膜を形成するように添加されるのが好ましく、有機金属錯体の使用量は高分子繊維又は炭素繊維の質量に対して5〜50質量%が好ましい。
【0081】
上記第2工程では、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元、酸化又は硫化することにより、金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維を製造する。
【0082】
上記有機金属錯体を還元する方法は前述の通りであり、高分子繊維又は炭素繊維表面に金属皮膜が直接形成される。又、上記有機金属錯体を酸化する方法は、特に限定されないが、例えば、高分子繊維又は炭素繊維を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる工程に引き続き、高分子繊維又は炭素繊維を流体中に浸漬した状態下で、該流体中に例えば酸素や亜酸化窒素等の気体酸化剤を、例えば、0.1〜15%の濃度で吹き込む方法が挙げられる。かかる方法等により有機金属錯体の酸化反応が進み、高分子繊維又は炭素繊維表面に金属酸化物皮膜が直接形成される。
【0083】
又、有機金属錯体を硫化する方法としては、特に限定されないが、例えば、高分子繊維又は炭素繊維を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる工程に引き続き、高分子繊維又は炭素繊維を流体中に浸漬した状態下で、該流体中に例えば硫化水素等の気体硫化剤を、例えば、0.1〜15%の濃度で吹き込む方法が挙げられる。かかる方法等により有機金属錯体の硫化反応が進み、フィラメント表面に金属硫化物皮膜が直接形成される。
【0084】
上記高分子繊維又は炭素繊維表面に金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜が形成された高分子繊維又は炭素繊維は軽量で導電性が優れているが、更に導電性を向上させるために、前述のとおり、得られた高分子繊維又は炭素繊維をメッキ液に浸漬して電解メッキ処理を行ってもよい。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されない。
【0086】
(実施例1)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)」総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex)に、窒素プラズマ装置(ヤマト精密株式会社製、商品名「Plasma Reactor PR300」)内で70W、5分間のプラズマ処理をした。直径1.3cm、長さ2.35cmのテフロン棒(テフロンは登録商標である)の両端に直径3.3cmの円盤を取り外し可能に取り付けてなるボビンを用意し、このボビンにワインダーを用いて上記プラズマ処理したアラミド繊維糸条を捲き回してゆき、巻糸体の外径が円盤の直径と同じになった段階で糸条を切断してその端を留め、円盤を外してテフロン棒を抜き取ることにより無芯ロール状繊維材料(内径1.3cm、外径3.3cm、高さ2.35cm、空隙率60%、アラミド繊維糸条の総延長22m)を得た。
【0087】
図1に示した装置にて、以下に記載する操作により、無芯ロール状繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体に浸漬させる浸漬処理を行った。超臨界流体としては二酸化炭素を用い、エントレーナとしてエタノールを添加し、有機金属錯体としてはPd錯体であるヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムを用いた。内容積50mlの反応層10内に、エントレーナであるエタノール2.5mlを事前に添加すると同時に、上記無芯ロール状繊維材料の質量の1質量%相当量の粉末状のヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムも添加した。上記の無芯ロール状繊維材料を置き台12に載せた。その後、超臨界二酸化炭素流体を、バルブ3にて、導入口7より反応槽10に導入した。超臨界流体の注入圧力を示す圧力計2の圧力は15MPa、反応槽10の内部温度は45℃に保ち、攪拌子13の回転数は500〜1200rpmに維持した。
【0088】
このようにして超臨界二酸化炭素流体注入後から30分間の浸漬処理を行った後、超臨界二酸化炭素流体を排出口8から大気圧に放出し、無芯ロール状繊維材料を反応槽10から取り出した。
【0089】
次いで、上記の反応槽10から取り出した無芯ロール状繊維材料を、140℃に温度設定したオーブン内に10分間置くことにより、繊維表面に付着した有機金属錯体の活性化処理を行った。
【0090】
上記活性化処理後の無芯ロール状繊維材料を解除して取り出したアラミド繊維糸条にて、直径10cmの枷を作り、この枷を吊り状に無電解メッキ液に20分間浸漬するという無電解メッキ処理を行って、メッキされたアラミド繊維を得た。このとき、無電解メッキ液には42kHzの超音波振動を付与し、無電解メッキ液の温度は42±2℃に設定した。なお、無電解メッキ液の処方は次の通りである。
<無電解メッキ液の処方>
430mlの純水に、「ATS−ADDCOPPER IW−A(奥野製薬工業株式会社製)」25mlを添加し、更に、「ATS−ADDCOPPER IW−M(奥野製薬工業株式会社製)」40ml及び「ATS−ADDCOPPER C(奥野製薬工業株式会社製)」5mlを添加して、無電解銅メッキ液を調製した。
【0091】
上記で得られたメッキされたアラミド繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、銅皮膜が形成されていることを確認できた。又、得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0092】
(実施例2)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条の代わりに油剤を含有しない炭素繊維糸条(PAN系、総繊度1980dtex、単糸繊度0.7dtex、フィラメント数3000、導体抵抗率1.62Ω/cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、無芯ロール状繊維材料(内径1.3cm、外径3.3cm、高さ2.35cm、空隙率50%、炭素繊維糸条の総延長20m)を作製した。次いで、実施例1と同様の処理を行って、炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させ、活性化させた。さらに、実施例1と同様に無電解メッキ処理を行って、メッキされた炭素繊維を得た。
得られたメッキされた炭素繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0093】
(実施例3)
油剤を含有しないPTFE繊維糸条(総繊度1400dtex、単糸繊度2.7dtex)からなる直径3cmの枷(総延長60cm)を用い、有機金属錯体としてヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムの代わりにPt錯体であるジメチル−シクロオクタジエン白金を用いること以外は、実施例1と同様の処理を行って、PTFE繊維表面に有機金属錯体を付着させ、活性化させた。更に、活性化処理後の枷に実施例1と同様の無電解メッキ処理を行って、メッキされたPTFE繊維を得た。得られたメッキされたPTFE繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」))を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0094】
(実施例4)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条の代わりに油剤を含有しないポリエチレンテレフタレート繊維糸条(総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex、フィラメント数1000)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、無芯ロール状繊維材料(内径1.3cm、外径3.3cm、高さ2.35cm、空隙率50%、ポリエチレンテレフタレート繊維糸条の総延長20m)を作製した。次いで実施例1と同様の処理を行って、ポリエチレンテレフタレート繊維表面に有機金属錯体を付着させ、活性化させた。さらに、実施例1と同様に無電解メッキ処理を行って、メッキされたポリエチレンテレフタレート繊維を得た。得られたメッキされたポリエチレンテレフタレート繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」))を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0095】
(実施例5)
先ず、油剤を含有しないアラミド繊維糸条が多孔性管を芯として捲き回されてなるロール状繊維材料(以下、「多孔芯ロール状繊維材料」と略記する)を作製した。すなわち、外径3cmのステンレス製丸管の表面に直径3mmの円形貫通孔が各貫通孔の中心間距離8mmで多数穿設されてなる多孔性管を芯として、ワインダーを用いて油剤を含有しないアラミド繊維糸条(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)」総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex)を捲き回し、空隙率65%、外径6.5cm、ロールの高さ15cmの多孔芯ロール状繊維材料(アラミド繊維糸条の総延長580m)を得た。
【0096】
図2に示した装置にて、以下に記載する操作により、多孔芯ロール状繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体に浸漬させる浸漬処理を行った。超臨界流体としては二酸化炭素を用い、エントレーナとしてエタノールを添加し、有機金属錯体としてはPd錯体であるヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムを用いた。
【0097】
内容積2.6Lの反応槽110にエントレーナであるエタノール130mlをバルブ106を開いて事前に添加すると同時に、上記多孔芯ロール状繊維材料の質量(多孔管の質量は除く)の1質量%相当量の粉末状のヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムを錯体置き台109に置くことで添加した。上記の多孔芯ロール状繊維材料を反応槽110内に設置後、バルブ103を開き、液体導入口107より多孔管112を経由させて、超臨界二酸化炭素を反応槽110に導入した。反応槽110の温度は45℃に保ち、圧力計102の指示値が15MPaとなった後にバルブ103を閉じ、バルブ115を開き、循環ポンプ114にて、圧力計117の指示値が15MPaとなるようにして超臨界二酸化炭素流体を循環させた。このようにして超臨界二酸化炭素流体を循環させつつ30分間の浸漬処理を行った後、超臨界二酸化炭素流体を液体排出口108から大気圧に放出した。
【0098】
次いで、反応槽110から取り出した多孔芯ロール状繊維材料を、140℃に温度設定
したオーブン内に10分間置くことにより、繊維表面に付着した有機金属錯体の活性化処
理を行った。
【0099】
上記活性化処理後の多孔芯ロール状繊維材料を解除して、総延長の中央付近から取り出
したアラミド繊維糸条1mにて、直径15cmの枷を作り、この枷を吊り状に無電解メッ
キ液に20分間浸漬するという無電解メッキ処理を行って、メッキされたアラミド繊維を
得た。なお、無電解メッキ液は実施例1と同様のものを使用した。
得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナ
イスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に
示した。
【0100】
(実施例6)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条を使用した布帛として油剤を含有しないアラミド繊維平織物「(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)T740」、原糸繊度220dtex、密度:40×40本/インチ、目付:71g/m2 、厚さ:0.13mm)を用いて、空隙率40%、外径5.0cm、ロールの高さ15cmの多孔芯ロール状布帛材料(総長1.0m)を作製し、次いで、実施例5と同様の処理を行って、布帛表面に有機金属錯体を付着させ、活性化させた。更に、実施例5と同様に無電解メッキ処理を行って、メッキされた布帛を得た。得られたメッキされたアラミド布帛を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0101】
(実施例7)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)」総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex)を用いて無電解メッキ処理を超臨界流体の存在下で行った以外は、実施例1と同様にして、メッキされたアラミド繊維を得た。
即ち、まず、実施例1と同様にして、無芯ロール状繊維材料を得た。次に、図1に示した装置にて、実施例1と同様にして、無芯ロール状繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体(二酸化炭素)に浸漬し活性化させる処理を行った。次いで、圧力を15MPaに保持し、槽温度を40℃まで下げ、アラミド繊維表面に活性化による目的とした触媒が付着した無芯ロール状繊維材料を反応槽10に配置した状態で(反応槽10から取り出さず)、バルブ4から無電解液を槽内に流し込み、超臨界二酸化炭素雰囲気中で30分間無電解銅メッキを行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0102】
(実施例8)
油剤を含有しないアラミド繊維糸条(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)」総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex)を用いて、実施例1と同様にして得た、無電解メッキされたアラミド繊維に、更に、以下の通り、電解メッキ処理を行った。
即ち、実施例1と同様にして、無芯ロール状繊維材料を得た後、図1に示した装置にて、有機金属錯体を含む超臨界流体(二酸化炭素)に浸漬させる浸漬処理を行い、繊維表面に付着した有機金属錯体の活性化処理を行い、活性化処理後の無芯ロール状繊維材料に無電解メッキ処理を行った。次いで、得られた無電解銅メッキアラミド繊維を電解銅メッキ液中に走行させ、電流2Aで5分間電解メッキ処理を行い電解メッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0103】
(実施例9)
油剤を含有しないポリアミド繊維糸条(ナイロン66、総繊度1400dtex、単糸繊度2.2dtex)を用いて、直径3cmの枷(総延長60cm)を作製した。図1に示した装置にて、超臨界流体としては二酸化炭素を用い、エントレーナは添加せず、有機金属錯体としてはPd錯体であるヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムを繊維質量に対して25.0質量%相当量投入し、反応槽内を温度150℃、圧力15MPaに設定し、その条件下で流体中に上記繊維材料(枷)を240分間浸漬することにより、繊維表面へ有機金属錯体を付着させるとともに付着した該錯体を熱還元した。還元処理後の繊維表面には、光沢のあるパラジウム皮膜が形成されており、パラジウムメッキされたポリアミド繊維を得ることができた。
得られたパラジウムメッキされたポリアミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0104】
(実施例10)
油剤を含有しないポリアミド繊維糸条の代わりに油剤を含有しない炭素繊維糸条を用いた以外は、実施例9と同様にして、図1に示す装置にて、パラジウムからなる皮膜を有する炭素繊維を得た。
即ち、油剤を含有しない炭素繊維糸条として、PAN系繊維糸条(総繊度1980dtex、単糸繊度0.7dtex、フィラメント数3000、導体抵抗率1.62Ω/cm)を用いて、直径5cmの枷(総延長50cm)を作製したこと以外は、実施例10と同様にして、流体中に上記繊維材料(枷)を240分間浸漬することにより、繊維表面へ有機金属錯体を付着させるとともに付着した該錯体を熱還元した。還元処理後の繊維表面には、光沢のあるパラジウム皮膜が形成されており、パラジウムメッキされた炭素繊維を得ることができた。
得られたメッキされた炭素繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0105】
(実施例11)
実施例9と同様にして、図1に示す装置にて、油剤を含有しないポリアミド繊維材料(枷)を浸漬することにより、繊維表面へ有機金属錯体を付着させるとともに付着した該錯体を熱還元し、パラジウムからなる皮膜を有するポリアミド繊維を得た。得られたパラジウムメッキポリアミド繊維を電解銅メッキ液中に走行させ、電流2Aで5分間電解メッキ処理を行った。
得られたメッキされたポリアミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0106】
(実施例12)
有機金属錯体としてヘキサフロロ(アセチルアセトネート)パラジウムの代わりにトリフルオロ酢酸鉛を用いた以外は、油剤を含有しないアラミド繊維糸条(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー(登録商標)」総繊度1670dtex、単糸繊度1.7dtex)に実施例1と同様の処理を行って、繊維表面に有機金属錯体を付着させた。その後、アラミド繊維表面に錯体が付着した無芯ロール状繊維材料を反応槽に配置した状態で(反応槽から取り出さず)、バルブ4から硫化水素ガスを槽内に流し込み、超臨界二酸化炭素雰囲気中で60分間硫化処理を行ったところ、黒い皮膜が形成されたアラミド繊維を得た。得られたメッキアラミド繊維についてラマン分析をしたところ、273cm-1においてPdSの特性ピークが確認され、アラミド繊維表面に硫化パラジウム皮膜が形成されていることが確認された。
得られたメッキされたポリアミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0107】
(比較例1)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例1と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたポリアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0108】
(比較例2)
油剤を含有する炭素繊維糸条を使用した以外は、実施例2と同様の処理を行いメッキされた炭素繊維を得た。得られたメッキされた炭素繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0109】
(比較例3)
油剤を含有するPTFE繊維糸条を使用した以外は、実施例3と同様の処理を行いメッキされたPTFE繊維を得た。得られたメッキされたPTFE繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0110】
(比較例4)
油剤を含有するポリエチレンテレフタレート繊維糸条を使用した以外は、実施例4と同様の処理を行いメッキされたポリエチレンテレフタレート繊維を得た。得られたメッキされたポリエチレンテレフタレート繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0111】
(比較例5)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例5と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0112】
(比較例6)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例6と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維布帛を得た。得られたメッキされたアラミド繊維布帛を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0113】
(比較例7)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例7と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0114】
(比較例8)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例8と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0115】
(比較例9)
油剤を含有するポリアミド繊維糸条を使用した以外は、実施例9と同様の処理を行いメッキされたポリアミド繊維を得た。得られたメッキされたポリアミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0116】
(比較例10)
油剤を含有する炭素繊維糸条を使用した以外は、実施例10と同様の処理を行いメッキされた炭素繊維を得た。得られたメッキされた炭素繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0117】
(比較例11)
油剤を含有するポリアミド繊維糸条を使用した以外は、実施例11と同様の処理を行いメッキされたポリアミド繊維を得た。得られたメッキされたポリアミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0118】
(比較例12)
油剤を含有するアラミド繊維糸条を使用した以外は、実施例12と同様の処理を行いメッキされたアラミド繊維を得た。得られたメッキされたアラミド繊維を、粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名「ナイスタック(登録商標)NW−K15SF」)を用いて密着性試験を行った結果を表1に示した。
【0119】
【表1】

(判定:◎及び○は合格、△及び×は不合格)
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】高分子繊維又は炭素繊維を有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬するために使用できる装置の一例の概略を示す模式図である。
【図2】高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条の多孔性管ロールを有機金属錯体を含む流体に浸漬するために使用できる装置の一例の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0121】
2 圧力計
3 バルブ
4 バルブ
6 圧力計
7 導入口
8 排出口
9 有機金属錯体置き台
10 反応槽
11 高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条の無芯ロール
12 高分子繊維又は炭素繊維材料の置き台
13 攪拌子
14 器壁
102 圧力計
103 バルブ
106 バルブ
107 流体導入口
108 流体排出口
109 有機金属錯体置き台
110 反応槽
111 多孔性管ロール
112 多孔性管
113 器壁
114 循環ポンプ
115 バルブ
116 流体循環用出口
117 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維又は炭素繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元して活性化させる第2工程とを含むことを特徴とする高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項2】
超臨界流体又は亜臨界流体は、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタン及びエチレンからなる群より選択される1種以上から主としてなり、その温度が50℃以下であることを特徴とする請求項1記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項3】
超臨界流体又は亜臨界流体は、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類及びシランカップリング剤類からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする請求項2記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項4】
高分子繊維は、アラミド繊維又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項5】
高分子繊維又は炭素繊維は、プラズマ処理又は電子線照射処理により極性基が導入された高分子繊維又は炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項6】
有機金属錯体は、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム、およびランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選択される1種以上の金属を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項7】
高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が布帛を形成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の高分子繊維又は炭素繊維のメッキ前処理方法で処理された高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条をメッキ液に浸漬して無電解メッキ処理を行うことを特徴とするメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項9】
無電解メッキ処理を超臨界流体又は亜臨界流体の存在下に行うことを特徴とする請求項8記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項10】
メッキ液は、銅、銀、金、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト及びインジウムからなる群より選択される1種以上の金属を含んでなることを特徴とする請求項8又は9記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項11】
メッキ液に10〜50kHzの振動を付与して無電解メッキ処理することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項12】
無電解メッキ処理の後に、更に、電解メッキ処理を行うことを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項記載のメッキされた高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
油剤を含有しない高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が無芯で又は多孔性管を芯として捲き回されてなる高分子繊維材料を、有機金属錯体を含む超臨界流体又は亜臨界流体に浸漬することにより高分子繊維又は炭素繊維糸条表面に有機金属錯体を付着させる第1工程と、高分子繊維又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元、酸化又は硫化する第2工程とを含むことを特徴とする金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
超臨界流体又は亜臨界流体は、二酸化炭素、一酸化二窒素、トリフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、メタン、エタンおよびエチレンからなる群より選択される1種以上から主としてなり、その温度が50℃以下であることを特徴とする請求項13記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項15】
超臨界流体又は亜臨界流体は、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジベンジルエーテル、トリアジンチオール類、アミン類およびシランカップリング剤類からなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする請求項13又は14記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項16】
高分子繊維は、ポリアミド繊維、アラミド繊維又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項17】
高分子繊維又は炭素繊維は、プラズマ処理又は電子線照射処理により極性基が導入された高分子繊維又は炭素繊維であることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項18】
有機金属錯体は、金、白金、パラジウム、ニッケル、銀、銅、鉄、チタン、亜鉛、アルミニウム、スズ、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウム、コバルト、インジウム、イットリウム、バリウム、ガリウム、スカンジウム、ジルコニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、オスミウム、イリジウム、タリウム、ルビジウム、セシウム、バナジウム、鉛、ニオブ、クロム、リチウム、カリウム及びランタノイド族57番〜71番の元素からなる群より選択される1種以上の金属を含有することを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項19】
有機金属錯体は、ベータージケトネート類、ジエン類及びメタロセン類からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項13〜18のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項20】
高分子繊維糸条又は炭素繊維糸条が布帛を形成していることを特徴とする請求項13〜19のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。
【請求項21】
高分子繊維表面又は炭素繊維表面に付着した有機金属錯体を還元する第2工程の後に、更に、電解メッキ処理を行うことを特徴とする請求項13〜20のいずれか1項記載の金属、金属酸化物又は金属硫化物からなる皮膜を有する高分子繊維又は炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70826(P2010−70826A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241639(P2008−241639)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】