説明

導電性銀ペースト、導電性パターンの形成方法及び導電性パターン印刷物

【課題】基材への密着性に優れた導電性パターンを、150℃未満という低温でも10分以内という短時間で得られる導電性銀ペーストを提供する。
【解決手段】メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体であって共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として含有る導電性銀ペースト、基材上に当該導電性銀ペーストで印刷する導電性パターンの形成方法及び当該導電性パターンの形成方法で形成された導電性パターン印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性皮膜を形成するための導電性銀ペースト、導電パターンの印刷方法及び導電パターン印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、電子ペーパー、及び各種電子部品に用いられる導電回路、電極等の導電パターン形成方法としては、印刷法またはエッチング法が知られている。
エッチング法により導電パターンを形成する場合、各種金属膜を蒸着した基板上にフォトリソグラフィーによってパターン化されたレジスト膜を形成した後に、不要な蒸着金属膜を化学的あるいは電気化学的に溶解除去し、最後にレジスト膜を除去する必要がありその工程は非常に煩雑で量産性に乏しい。
一方で印刷法では所望のパターンを低コストで大量生産を行うことが可能であり、さらに印刷塗膜を乾燥又は硬化させることによって容易に導電性を付与できる。
これら印刷方式としては形成したいパターンの線幅、厚さ、生産速度に合わせてフレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット等が提案されている。
【0003】
印刷パターンとしては電子デバイスの小型化、意匠性向上等の観点から線幅50μm以下の高精細な導電パターンの形成が求められている。
また電子デバイスの薄型化、軽量化、フレキシブル化への要求の高まりや、生産性の高いロール・ツー・ロール印刷に対応するために、プラスチックフィルム上に印刷して低温短時間の焼成で高い導電性、基材密着性、膜硬度などが得られる導電性インキが求められている。さらにプラスチックフィルムの中でも、安価で透明性の高いPETフィルムや、PETフィルムの上にITO膜が形成された透明導電フィルム上に印刷した際に、前記した物性が得られる導電性インキが求められている。
【0004】
特許文献1及び2では焼成温度が150℃であり、印刷基材がPETフィルムである場合には基材が変形する問題がある。
特許文献3では、焼成温度は120℃と比較的低温であるものの焼成時間が30分と長く生産性に劣る。また、透明導電フィルムのITO膜への密着性については検討されていない。
特許文献4では、低温短時間の焼成で高い導電性が得られているが、乾燥性の高い有機溶剤を用いているために機上安定性に劣る。また、印刷線幅に関しても3mmと太く、高精細パターニングの検討はされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2009−62523公報
【特許文献2】特開2005−56778公報
【特許文献3】特開2006−302825公報
【特許文献4】WO2006/095611公報
【特許文献5】特開2007−119682公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した通り、従来の技術においては、基材への密着性に優れた導電性パターンを、150℃未満という低温でも10分以内という短時間で得られる導電性銀ペーストは、未だ得られていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究の結果、特定の銀粒子と特定の組成を有した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とを併用することで、上記した欠点が解消されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体であって共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として含有る導電性銀ペーストを提供する。
また本発明は、基材上に、上記記載の導電性銀ペーストでグラビア印刷又はグラビアオフセット印刷する導電性パターンの形成方法を提供する。
さらに本発明は、上記記載の導電性銀ペーストで形成された導電性パターン印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性銀ペーストは、特定の銀粒子と特定の組成を有した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を用いているので、基材への密着性に優れた導電性パターンを低温短時間で得られるという格別顕著な効果を奏する。
本発明の導電性パターンの形成方法は、特定の銀粒子と特定の組成を有した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を用いているので、基材への密着性に優れた導電性パターン及びその印刷物が低温短時間で得られるという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性銀ペーストは、メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体であって共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として含有する導電性銀ペーストである。
【0011】
本発明の導電性銀ペーストに用いる銀粒子(A)としては、平均粒径としてメジアン粒径(D50)が0.2〜0.9μmである球状銀粉末を用いることができる。
この様な銀粒子(A)としては、例えば、AG2−1C(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:0.8μm)、SPQ03S(三井金属鉱山(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、EHD(三井金属鉱山(株)製、平均粒径D50:0.5μm)、シルベストC−34((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:0.35μm)などが挙げられる。
【0012】
メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子(A)は、それ単独で用いることもできるが、メジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子と併用すると、高精細細線の導電性パターン形成と、150℃未満の焼成により十分な導電性付与とを兼備させることができるので好ましい。
【0013】
このようなメジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子としては、例えば、AG2−1(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径D50:1.3μm)、シルベストAgS−050((株)徳力化学研究所製、平均粒径D50:1.4μm)などが挙げられる。
【0014】
質量換算で、メジアン径(D50)1.0〜10.0μmの銀粒子100部当たり、銀粒子(A)50〜200部を併用することで、導電性銀ペーストの流動性を更に良好とすることができ、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、又はグラビアオフセット印刷といった特定印刷方法において、これら印刷機上での連続的に印刷した場合においても、トラブルが起こり難く安定的に良好な導電性パターン印刷物を得やすくなるので、特に好ましい。
【0015】
本発明の導電性銀ペーストでは、銀粒子を必須成分として用いるが、必要であれば、その他の単体金属や合金の粒子を併用しても良い。
【0016】
導電性パターンを形成する基材としては、狭い筐体内に高密度に電子部品を充填可能となるよう、近年、可とう性の高い(フレキシブルな)プラスチックフィルム素材の使用が求められている。このような需要の下では、反りがある状態で長期間保持されても、導電性パターンが基材から剥離しないような高い密着性が求められる。導電性銀ペーストの導電性パターンを形成する基材が、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)である場合には、この25℃において固体である樹脂として、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が使用されている。
【0017】
そこで本発明では、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体として、ビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)が選択的に用いるようにした。種種の化学組成の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が導電性銀ペーストの調製に用いられてきているが、本発明者らは、その組成に依存して基材への密着性に顕著な差異が生じること、前記した特定の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体だけが、基材への密着性に著しく優れることを知見した。これにより、水酸基のような親水性基の存在によりそれを有さない場合に比べ、銀粒子の分散性を促進できると共に、特にPETへの密着性より高めることが可能である。
【0018】
本発明で用いる塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)において、共重合体中にビニルアルコールの重合単位を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を必要な量のビニルアルコール重合単位を含むよう部分鹸化することで容易に得ることができるし、共重合体中に(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、塩化ビニル、酢酸ビニルに加えて必要な量のヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの様な(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルを共単量体として用い共重合させることで容易に得ることができる。
【0019】
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体としては、日新化学工業株式会社製、ユニオンカーバイド社製、ワッカーポリマー社製が知られており、ストレートな(変性されていない)塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体と、ビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体がある。ビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)としては、例えば、ソルバインAL、ソルバインTAO(以上、日新化学工業株式会社製)、VAGD、VAGH(以上、ユニオンカーバイド社製)、LL4310(以上、ワッカーポリマー社製)が挙げられる。
【0020】
当該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)は、それ単独でタックフリーの樹脂皮膜を形成可能なものであるが、それ自体25℃において固体であるため、通常は、液媒体に溶解等した上で、基材上に細線パターンを塗布したり印刷したりすることが必要となる。そのため、同共重合体(B)の選択に当たっては、液媒体への溶解性を考慮することが必要である。
【0021】
この様な観点から、本発明の導電性銀ペーストでは、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)が、この共重合体(B)に併用される。
【0022】
このような有機化合物(C)はいわゆる有機溶剤であり、その種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系、エーテルエステル系などが挙げられる。具体的には、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、n−ブタノール、iso−ブタノール、イソホロン、γ−ブチロラクトン、DBE(インビスタジャパン製)、N−メチル−2−ピロリドン、エチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテートなどを挙げることができる。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を併用しても良い。中でも、後記する印刷方法の種類にかかわらず、導電性パターンを容易に得るためには、この有機化合物(C)としては、沸点100〜250℃のものを用いることが、乾燥速度の点で好ましい。
【0023】
後記するように、グラビア印刷法またはグラビアオフセット印刷法を採用する場合には、このような有機化合物(C)が、シリコーンブランケット膨潤率が5〜20%であることが好ましく、特に好ましくは、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートやジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル系有機溶剤である。
【0024】
本発明の導電性銀ペーストは、前記銀粒子(A)と、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として含有していれば良いが、必要であれば、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)に加えて、その他の、25℃において固体であり、それ単独でタックフリーの樹脂皮膜を形成可能な樹脂を併用することもできる。この様な、その他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0025】
本発明の導電性銀ペーストは、前記銀粒子(A)と、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として混合することで調製することができる。導電銀ペーストは、上記の原料を必須成分として混練し、均一化することで製造することができる。
【0026】
本発明の導電性銀ペーストの調製に当たっては、質量換算で、銀粒子100部当たり、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)は不揮発分として1〜10部、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)は20〜35部を用いる様にすることが、最終的に得られる導電性パターンの性能を高められる点及び導電性パターン形成条件を緩和できる点から好ましい。
【0027】
銀粒子の導電性銀ペースト中の含有率は、60〜95質量%が好ましく、70〜90質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、皮膜中の銀粒子の密度が十分であり良好な導電性を得ることができ、流動性のある、ペースト状に調製することが容易となる。
【0028】
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)の導電性銀ペースト中の含有率は、1〜10質量%が好ましく、2〜7質量%であればさらに好ましい。この範囲が、導電性パターンを設ける基材への密着性をより大きくできる点で好ましい。
【0029】
前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)の導電性銀ペースト中の含有率は、10〜40質量%が好ましく、15〜25質量%であればさらに好ましい。この範囲であると、ペースト粘度がより適正になり、特に、グラビア印刷又はグラビアオフセット印刷において、画線のコーナー部分やマトリックスの交差点にピンホール欠陥を起こすことなく、より高精細な導電性パターンを形成することができる。
【0030】
本発明の導電性銀ペーストには、上述の成分以外にも、必要に応じて、硬化剤、分散剤、消泡剤、可塑剤などの各種添加剤を適宜適量配合することができる。
【0031】
本発明の導電性銀ペーストには、上記したような、ビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位に基づく、水酸基を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体が用いられていることから、同共重合体(B)の水酸基と反応しうる官能基を含有する硬化剤を併用することで、両者を架橋させることができ、得られる導電性パターンの耐溶剤性をより高めることができる。
【0032】
このような硬化剤としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂、酸無水物、イミダゾール類、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
しかしながら、常温において、水酸基を含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基と反応しうる官能基を含有する硬化剤を用いたのでは、経時的に硬化反応が徐々に進行し、ペーストが増粘することで、基材への安定的な塗布や印刷が難しくなるので、導電性銀ペーストを調製したら、できるだけ早期に基材へ塗布や印刷を行う必要が出てくる。一方で、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基との反応が、高い温度でないと進行しない硬化剤を用いた場合には、用いる基材の種類、形状或いは大きさによっては、反りや変形が発生したり、硬化のための加熱を行う際に多量のエネルギー消費を伴うという不都合が生じやすい。
【0034】
このような観点から、例えば、プラスチックフィルムを基材として、その上に導電性パターンを形成する場合には、例えば、50〜140℃で塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)の水酸基との反応が開始される硬化剤を用いることが好ましい。この様な硬化剤としては、取り扱いがより容易な点で、ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物(D)が好ましい。
【0035】
特に、プラスチックフィルムとして、PETフィルムを基材に用いる場合には、イソシアネート基が生成する際の温度が70〜125℃となる様なブロック剤を用いたブロックポリイソシアネート化合物(D)を導電性銀ペーストに含有させるようにすれば、PETフィルムに反り等を発生させることなく、その上に導電性パターンを形成させることができる。
【0036】
用いる前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)中の水酸基量及びブロックポリイソシアネート化合物(D)を構成するブロック剤やポリイソシアネート化合物の組み合わせにより多少異なるが、本発明の導電性銀ペーストの調製に当たって、ブロックポリイソシアネート化合物(D)は、質量換算で、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)の不揮発分100部当たり、20〜30部を用いる様にすることが、最終的に得られる導電性、強靭性、耐溶剤性などの導電性パターンの性能を高められる点から好ましい。
【0037】
本発明に用いる、ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物(D)は、ブロック剤とポリイソシアネート化合物とから構成されたものである。
【0038】
ポリイソシアネート化合物の原料として使用されるジイソシアネートは特に限定されないが、芳香族、脂肪族、脂環族ジイソシアネートなどである。単独で使用しても併用しても良い。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トリエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネートなどが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HMDI)、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(以下IPDI)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0039】
一方、ブロック剤としては例えば、フェノール系、活性メチレン、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、イミド系、重亜硫酸系化合物等があり、これらを単独あるいは、混合して使用してもよい。具体的には、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、スチレン化フェノール、オキシ安息香酸エステル等のフェノール系、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等の酸アミド系、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール系、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素系、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール等のアミン系、エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のイミン系、重亜硫酸ソーダ等の重亜硫酸塩系があるが、ブロック剤としての安定性と解離性のバランスが優れる点で、スチレン化フェノール、オキシ安息香酸エステル、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ε−カプロラクタムが好ましい。
【0040】
このような、ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物(D)は、遊離イソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に対して、赤外線吸収スペクトルを監視しながら、イソシアナート基に基づく固有吸収スペクトルが消失するまで、ブロック剤を反応させていくことで、容易に得ることができる。
【0041】
本発明の導電性銀ペーストは、ブロックポリイソシアネート化合物(D)を含有させるか否かを問わず、各種印刷方法に適用可能な粘度となる様に調製することが好ましいが、25℃における粘度3〜30Pa・Sとすることが、グラビア印刷又はグラビアオフセット印刷といった印刷方法への適用を可能とするためには好ましい。本発明における導電性銀ペーストの粘度は、レオメーターにより測定した値とする。
【0042】
本発明の導電性銀ペーストは、任意の方法で、例えば、プラスチックフィルム、セラミックフィルム、ガラス又は金属プレートの何れかの基材上に、塗布または印刷することで導電性パターンを形成することができる。
【0043】
本発明の導電性銀ペーストは、任意の基材に、例えば、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、又はグラビアオフセット印刷の印刷方法にて印刷することで、導電性パターンを形成することができる。
【0044】
本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターンの形成方法としては、少なくとも、導電性パターンを有する凹版印刷版に導電性インキを供給する工程、シリコーンブランケットを押圧し、導電性インキを該ブランケット上に転移する工程、該ブランケット上の導電性インキを基材に転写する工程を有するグラビアオフセット印刷方法を、好適に採用できる。
【0045】
この際の凹版印刷版としては、通常のグラビア版、ガラス板上の感光性樹脂を露光、現像、洗浄により形成した凹版、ガラス板をケミカルエッチングおよびレーザーエッチングにより形成した凹版が使用できる。
【0046】
また、シリコーンブランケットとしては、シリコーンゴム層、PET層、スポンジ層の様な層構造を有するシートである。通常、ブランケット胴と称される剛性のある円筒に巻きつけた状態で使用できる。
【0047】
本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターン形成方法において、上記グラビアオフセット印刷方法を採用した場合、シリコーンブランケットには、凹版からの転写性、及び、基材への転写性が求められる。基材への十分な転写性を得るためには、ブランケット表面で、導電性銀ペースト中の液体成分を一定割合で吸収することが必要である。吸収が不十分であると基材への転写時に導電性銀ペースト層が層間剥離を起こし易く、逆に、一定割合を超えて吸収するとブランケット表面で導電性銀ペーストが乾燥し、基材への転写不良を起こし易いという問題があった。
【0048】
導電性銀ペーストの25℃に於ける粘度を3〜30Pa・sとすることで、グラビアオフセット印刷法を採用して連続的に導電性パターンの印刷を行う場合においては、画線のコーナー部分やマトリックスの交差点にピンホール欠陥を起こし易く、良好な導電性細線パターンを形成することができ、かつ、凹版へのインキング性、凹版からブランケットへの転移性の問題も生じ難くなる。
【0049】
本発明の導電性銀ペーストから形成させる導電性パターンは、ベタのような太い線幅の画線であっても良いが、本発明の導電性銀ペーストを用いた場合の特徴は、上記した様な従来よりも細い線幅画線を基材上に設ける際に、特に顕著に発揮される。
【0050】
また、本発明の導電性銀ペーストからの導電性パターンは、従来より低温かつ短時間で形成できることから、本発明の導電性銀ペーストの特徴は、セラミックフィルム、ガラス又は金属プレートの様な耐熱性の高い基材よりも、耐熱性がより低く熱変形しやすい、PETのような汎用プラスチックフィルム上に導電性パターンを形成する際に、特に顕著に発揮される。
【0051】
こうして本発明の導電性銀ペーストを用いて、各種基材上に各種印刷方法にて印刷することで導電性パターンが設けられた基材は、導電性パターン印刷物として、必要に応じて配線等を行うことで、各種の電気部品、電子部品とすることができる。具体的に本発明の導電性銀ペーストは、透明ITO電極の様な透明導電フィルムへの密着性に優れている。
【0052】
最終製品としては、例えばタッチパネルの取り出し電極やディスプレイの取り出し電極、電子ペーパー、太陽電池、その他の配線品等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。ここで「%」は、特に断らない限り「質量%」である。
【0054】
銀粒子と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体と、共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)と、ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物(D)を、以下の表1に記載の質量部数となるよう用いて、これら原料を充分に混合して、実施例である本発明の各導電性銀ペースト及び比較例である従来の各導電性銀ペーストを調製した。実施例及び比較例の各導電性銀ペーストは、いずれも、25℃における粘度3〜30Pa・Sの範囲にあった。
これらの各導電性銀ペーストについて、以下の測定項目にて、導電性銀ペースト自体の特性及びそれから得られる導電性パターンの特性を評価した。その評価結果も以下の表1にまとめて示した。
【0055】
(比抵抗)
比抵抗は、体積抵抗率を意味する。アプリケーターを用いて透明導電フィルム上(ITO膜面)に導電性銀ペーストを乾燥後の膜厚が6μmになるように塗布し120℃10分乾燥させた。該乾燥塗膜を用いて、ロレスタGP MCP−T610(三菱化学(株)製)で四端子法にて測定した。この値が小さいほど、導電性に優れている。
【0056】
(基材密着性)
前記の比抵抗の評価と同様にして作製した、ペーストからの乾燥塗膜を用いて、ISO2409(Paints and varnishes−Cross-cut test)の手順で試験を実施し、以下の基準に従って評価をした。
合格: 分類0または分類1(塗膜の剥がれが5%以内)
不合格: 分類2〜5(塗膜の剥がれが5%を超える)
【0057】
(耐溶剤性)
前記の比抵抗の評価と同様にして作製したインキ塗膜を、メチルエチルケトンを含浸させた綿棒で往復30回ラビングした後のインキ塗膜の状態を観察し、以下の基準に従って評価をした。
合格: 塗膜の剥がれなし
不合格: 塗膜の剥がれあり
【0058】
【表1】

【0059】
尚、表1中、導電性銀ペーストの調製に用いた各原料の詳細は以下の通りである。
・シルベスト AGS−050:
メジアン径(D50)が1.4μmの銀粒子乾燥粉体(徳力化学研究所社製)
・シルベスト C−34:
メジアン径(D50)が0.35μmの銀粒子乾燥粉体(徳力化学研究所社製)
・ソルバインAL:
塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコールの共重合質量比が93/2/5の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・ソルバインTAO:
塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコールの共重合質量比が91/2/7の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・ソルバインC:
塩化ビニル/酢酸ビニルの共重合質量比が87/13の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・ソルバインTA5R:
塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコールの共重合質量比が88/1/11の塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(日信化学工業社製)
・デスモジュール BL−3475:
HMDIとIPDIがベースとなった、70〜120℃で熱解離するブロック剤でマスクしたブロックジイソシアネート(住化バイエルウレタン社製)
・BDGAc:
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
【0060】
表1の評価結果からわかる通り、ビニルアルコールの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を用いた実施例1〜2の導電性銀ペーストは、比抵抗及び基材密着性のいずれも満足できる水準にあるのに対して、ビニルアルコールの重合単位を含まない或いは11重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を用いた比較例1〜2の導電性銀ペーストは、基材密着性が不満足の水準にあることが明白である。
また、実施例1と実施例3との対比から、ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物を用いたものは、それを有さない場合に比べ、耐溶剤性により優れていることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の導電性銀ペーストは、各種の電気部品・電子部品の導電性パターン形成用の導電性銀ペーストとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メジアン径(D50)0.2〜0.9μmの銀粒子(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体であって共重合体中にビニルアルコール及び/又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエスエルの重合単位を3〜9重量%含有する塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(B)と、前記共重合体(B)を溶解し共重合体(B)との反応性を有さない25℃において液体の有機化合物(C)とを必須成分として含有る導電性銀ペースト。
【請求項2】
共重合体(B)を溶解する25℃において液体の有機化合物(C)が、エーテルエステル系有機溶剤である請求項1記載の導電性銀ペースト。
【請求項3】
ブロック剤が熱解離して遊離イソシアネート基を発生するブロックポリイソシアネート化合物(D)を更に含有する、請求項1または請求項2に記載の導電性銀ペースト。
【請求項4】
25℃における粘度3〜30Pa・Sである請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性銀ペースト。
【請求項5】
基材上に、請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性銀ペーストでグラビア印刷又はグラビアオフセット印刷する導電性パターンの形成方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性銀ペーストで形成された導電性パターン印刷物。

【公開番号】特開2012−38614(P2012−38614A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178538(P2010−178538)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】