説明

導電材及びその製造方法

【課題】 銅やアルミニウムからなる導電材よりもさらに高い導電性を有し、高い電流密度で通電しても発熱の小さい導電材、及びこの導電材を容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】 高導電性金属中にカーボンナノチューブを分散させてなることを特徴とする導電材、及び高導電性金属の粉末及びカーボンナノチューブを不活性雰囲気中で混合する工程及び得られた混合物を不活性雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする導電材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器内の電線やコイル等に使用され、高い導電性を有する導電材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器内の電線やコイル等に使用される導体(導電材)としては、導電率の高い銅やアルミニウム等が用いられており、絶縁性の高分子からなるエナメルで被覆された導電材が広く用いられている。
【0003】
近年、電気機器の小型化、パワーアップ等のために、電流密度(導電材の単位断面積あたりの電流)の上昇が求められている。しかし、電流密度の上昇により導電材の発熱も大きくなり、より高い耐熱性を有する絶縁材が必要となる。
【0004】
高い耐熱性を有する絶縁材としては、無機系の絶縁被覆が知られているが、これらは脆く、外部よりの衝撃により導電材が変形すると脆い被覆が破れて、絶縁不良が生じる問題がある。そこで、高い導電性(すなわち低い抵抗値)を有し、電流密度が上昇しても発熱の小さい導電材が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、銅やアルミニウムからなる導電材よりもさらに高い導電性を有し、電流密度が上昇しても発熱の小さい導電材を提供することを課題とする(課題1とする。)。本発明は、さらに、この導電材を容易に製造する方法を提供することを課題とする(課題2とする。)。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、カーボンナノチューブの有する高い導電性に着目し、銅等の高導電性金属中への配合について鋭意検討の結果、カーボンナノチューブを、高導電性金属中に分散できること、その結果より高い導電性を有する導電材が得られることを見出し、次に示す構成からなる発明を完成した。
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、高導電性金属中にカーボンナノチューブを分散させてなることを特徴とする導電材を提供するものであり、この構成の発明により、課題1が解決され高い導電性を有する導電材が得られる。
【0008】
本発明は、前記の請求項1の発明の好ましい態様として、カーボンナノチューブの分散量が、導電材中の10体積%以上で90体積%以下であることを特徴とする導電材(請求項2)、及び高導電性金属が、銅、銀、金及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属又はそれらの合金であることを特徴とする導電材(請求項3)を提供する。
【0009】
前記の本発明の導電材は、高導電性金属中にカーボンナノチューブを分散させて得られるが、その分散方法(製造方法)は特に限定されない。例えば、高導電性金属の粉末及びカーボンナノチューブを不活性雰囲気中で混合する工程、及び得られた混合物を不活性雰囲気中で焼結する工程を有する方法により製造することができる。本発明は、この導電材の製造方法(請求項4)も提供するものであり、この方法により課題2が達成される。
【発明の効果】
【0010】
前記本発明の導電材は電線等に用いられ、非常に導電性が高いので電流密度が高い場合でも発熱が少ないとの優れた特徴を有する。従って、絶縁被覆電線に用いた場合でも、絶縁被覆に高い耐熱性の絶縁材、例えば無機絶縁材を要しない。そこで、小型で高出力が求められる電気器具中の配線等、高い電流密度が求められる用途に好適に用いられる。
【0011】
本発明の導電材は、導電性が高いとの特徴の他に、強度が大きく衝撃が加わっても変形しにくい(以下、この性質を、耐衝撃変形性と言う。)、及び、無機物と同程度の熱膨張率を得やすいとの優れた特徴を有する。
【0012】
銅やアルミニウム等からなる従来の導電材は変形しやすく、外部よりの衝撃例えば打痕により大きく変形しやすい。その結果絶縁被覆も変形する。変形により絶縁被覆も剥離し絶縁不良が生じ易く、特に絶縁被覆がSiO2系ガラス等の脆い無機系の層の場合この問題が大きかった。しかし、本発明の導電材は、耐衝撃変形性に優れているので、絶縁被覆の剥離等の問題が生じにくい。又、無機物と同程度の熱膨張率が得られるので、温度変化による無機系の絶縁被覆の剥離も低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための具体的形態を説明する。
【0014】
本発明の導電材に使用されるカーボンナノチューブとは、炭素原子の六方格子がかご型のシート状に配列した高分子からなるファイバー粒子であり、長く伸びた微細な中空の円筒を形成している。カーボンナノチューブの粒子は、長さが最長1mm、直径は0.4nm程度から最大100nm以上であるが、その中でも長いカーボンナノチューブが好ましく用いられる。
【0015】
本発明の導電材において、カーボンナノチューブは、高導電性金属の中に分散されている。分散されているとは、カーボンナノチューブが導電材中に均一に分布していることを意味するが、微視的、すなわちミクロンオーダーでは分布に濃淡があってもよい。
【0016】
本発明で、好ましく用いられるカーボンナノチューブは、金属的性質を有するものである。又、カーボンナノチューブには、直径0.4nmから5nm程度の単層のものと、同心円状に多数の菅が形成されている多層のものがあるが、多層のカーボンナノチューブの方が、高い導電率を得られるので好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブを分散することにより、高導電性金属(導電材)の強度、特に耐衝撃変形性が著しく向上する。又、カーボンナノチューブは、非常に電気抵抗が低い。又、カーボンナノチューブと高導電性金属とを混合しても、合金化による抵抗上昇もない。そこで、カーボンナノチューブを高導電性金属に分散することにより、非常に導電率の高い(すなわち非常に電気抵抗が低い)、高強度の導電材が得られる。
【0018】
高導電性金属中のカーボンナノチューブ分散量は、導電材の全体積中に占めるカーボンナノチューブの体積が、10〜90%となる範囲が好ましい。請求項2は、この好ましい態様に該当する。分散量が高い程、導電率も高くなり、又強度が増し高い耐衝撃変形性が得られる。分散量が10体積%未満では、この優れた効果が充分でない場合がある。一方カーボンナノチューブの形状から、90体積%を越える分散量は困難である。
【0019】
高導電性金属として銅を用いた場合は、カーボンナノチューブの分散量が50〜70体積%となる範囲が、特に好ましい。銅とカーボンナノチューブの混合量に応じて熱膨張率が変化する。カーボンナノチューブの分散量が、前記の範囲内の場合、無機物と同程度の熱膨張率が得られるので、無機絶縁層で被覆された絶縁被覆電線へ本発明の導電材を適用する場合、温度変化による絶縁被覆の剥離等が生じにくく、絶縁不良の発生を少なくすることができる。
【0020】
高導電性金属とは、高い導電率を有する金属であり、銅、銀、金及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属又はそれらの合金が例示される。請求項3は、この態様に該当する。価格や、加工のしやすさ、特に伸線のしやすさ等から、銅もしくはアルミニウム又はそれらの合金が好ましい。
【0021】
前記の請求項4の製造方法では、先ず高導電性金属の粉末が製造され、カーボンナノチューブと混合される。混合方法は、特に限定されず通常の粉末冶金において用いられる混合方法が採用できる。カーボンナノチューブは、空気中の酸素と反応して燃焼するので、この混合は、酸素を遮断した不活性雰囲気中で行う必要がある。例えば、不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0022】
混合後、得られた混合物は焼結され、本発明の導電材が得られる。混合と同様に焼結も、酸素を遮断した不活性雰囲気中で行う必要がある。この製造方法は、高導電性金属がアルミニウム等の比重の比較的小さい金属の場合に、特に好ましく採用される。
【0023】
高導電性金属を、板状、線状又は粒状に鍛造し、その表面上にカーボンナノチューブを塗布し、この鍛造と塗布を繰り返す方法によっても本発明の導電材が得られる。例えば、板状の場合は、表面にカーボンナノチューブが塗布された複数枚の板を積層し、その積層品を、鍛造により再度薄板状への引伸ばし、その薄板の表面にカーボンナノチューブを塗布し、この積層、鍛造(薄板状への引伸ばし)、塗布の工程を繰り返すことにより、高導電性金属内に細かくカーボンナノチューブが分散された導電材が得られる。
【0024】
高導電性金属の鍛造は、加熱下で行われることが多い。この場合、カーボンナノチューブは、空気中の酸素と反応して燃焼するので、鍛造は、酸素を遮断した不活性雰囲気、例えば不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0025】
本発明の導電材からなる電線は、高導電性金属中にカーボンナノチューブを分散させてなる導電材を伸線することにより製造することができる。このようにして得られた電線上に、有機系、無機系の絶縁被覆を施すことにより、絶縁被覆電線が得られる。
【0026】
本発明の導電材からなる電線がコイルとして用いられた場合は、その優れた導電性より高い電流密度を得ることができ、高磁場を発生することができる。従って、高い電流密度を得ることができるコイルとして、小型で高出力のモータ等に好適に用いられる。又、高磁場を発生することができるとの特徴により、医療用磁石等にも適用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高導電性金属中にカーボンナノチューブを分散させてなることを特徴とする導電材。
【請求項2】
カーボンナノチューブの分散量が、導電材中の10体積%以上で90体積%以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電材。
【請求項3】
高導電性金属が、銅、銀、金及びアルミニウムから選ばれる1種以上の金属又はその合金であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電材。
【請求項4】
高導電性金属の粉末及びカーボンナノチューブを不活性雰囲気中で混合する工程、及び得られた混合物を不活性雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする導電材の製造方法。


【公開番号】特開2006−147170(P2006−147170A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331760(P2004−331760)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】