説明

小型車両用のVベルト式無段変速機

【課題】 送りネジ機構による送り動作をスムーズに行わせることができ、結果的に変速のための動作に無理な負荷がかからないようにする。
【解決手段】 溝幅可変のプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4間にベルト5を巻回した自動二輪車用のVベルト式無段変速機において、プライマリシーブの可動フランジの位置調節装置8を、可動フランジに軸受23を介して連結された回転スライド部材12と、モータ10の回転を回転スライド部材に伝達する歯車式の回転伝達機構13と、固定側の部材として設けられた送りガイド部材16と、回転スライド部材と送りガイド部材との間に設けられた送りネジ機構17と、回転スライド部材と送りガイド部材との間に送りネジ機構と同軸に且つ送りネジ機構と分離して設けられたスライドガイド機構18と、により構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマリシーブとセカンダリシーブとの間にVベルトを掛け渡した小型車両用のVベルト式無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクータ型の自動二輪車等の小型車両には広くVベルト式無段変速機が使われている。このVベルト式無段変速機は、エンジン等の動力源の出力が入力されるプライマリ軸と駆動輪への出力を取り出すセカンダリ軸とにそれぞれ配された溝幅可変の一対のプライマリシーブ及びセカンダリシーブにVベルトを巻回し、溝幅調節機構により各シーブの溝幅を変えることでVベルトの各シーブに対する巻回径を調節し、それにより両シーブ間での変速比を無段階的に調節するというものである。
【0003】
通常、前記プライマリシーブ及びセカンダリシーブは、相互間にV形溝を形成する固定フランジと可動フランジとから構成され、各可動フランジがプライマリ軸又はセカンダリ軸の軸線方向に移動自在に設けられている。そして、溝幅調節機構により可動フランジを移動することによって、変速比を無段階に調節できるようになっている。
【0004】
従来、この種のVベルト式無段変速機として、溝幅調節のための可動フランジの移動を、モータと送りネジ機構を組み合わせた装置で行うようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図3は特許文献1に記載された従来のVベルト式無段変速機の例を示す構成図である。図において、101はプライマリ軸(入力軸)、102はセカンダリ軸(出力軸)、103はプライマリシーブ、104はセカンダリシーブ、105はVベルトである。プライマリシーブ103、セカンダリシーブ104は、それぞれ固定フランジ103A、104Aと可動フランジ103B、104Bから構成され、プライマリシーブ103の可動フランジ103Bを軸方向に移動して溝幅を調節する手段として、送りネジ機構112及び図示略のモータを中心要素とする可動フランジ位置調節装置110が設けられている。また、プライマリシーブ103の溝幅を狭める方向の補助力を発生する手段として、可動フランジ103Bの背面側にスプリング120が配されている。
【0006】
具体的に説明すると、可動フランジ103Bの背面側には中空筒部107が突設されており、その先端内周部が軸受108を介して回転スライド部材109に結合されることで、可動フランジ103Bと回転スライド部材109が、軸方向には一体に移動するものの相対回転できる関係になっている。回転スライド部材109の内周側には、固定側の部材として配された送りガイド部材114の外周が嵌合されており、その嵌合面に送りネジ機構112の雄ネジと雌ネジが設けられている。そして、回転スライド部材109を図示略のモータで回転させることにより、その回転を、送りネジ機構112により直線動作に変換して、可動フランジ103Bに対する移動推力として付与するようになっている。
【0007】
【特許文献1】特許第2558522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来の無段変速機において、回転スライド部材109は、回転と共に軸方向に移動するものであるが、軸方向に移動する際の案内が、構造上多少とも遊びのある送りネジ機構112それ自体の案内作用のみによって行われるので、動作が不安定になるおそれがあった。特に回転スライド部材109には通常歯車を設ける関係上、歯車の位置によっては、送りネジ機構112に余計な方向の力(例えば、歯車が倒れる方向の力)がかかることが予想され、結果的に送り動作がスムーズに行われないばかりか、モータの負担が増える可能性があった。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮し、送りネジ機構による送り動作をスムーズに行わせることができ、結果的に変速のための動作に無理な負荷がかからないようにすることのできる小型車両用のVベルト式無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、動力源の出力が入力されるプライマリ軸と、該プライマリ軸に平行に配されて駆動輪への出力を取り出すセカンダリ軸と、前記プライマリ軸及びセカンダリ軸上にそれぞれ配され、相互間にベルト巻回用のV溝を形成する固定フランジ及び可動フランジを有し、且つ前記可動フランジを軸方向に移動することで前記V溝の溝幅を可変とされたプライマリシーブ及びセカンダリシーブと、これらプライマリシーブ及びセカンダリシーブのV溝に巻回され、両シーブ間で回転動力を伝達するVベルトと、前記可動フランジを移動することで前記プライマリシーブ及びセカンダリシーブの溝幅を調節する溝幅調節機構とを備え、前記溝幅調節機構により前記各シーブの溝幅を変えることで前記Vベルトの各シーブに対する巻回径を調節し、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとの間での変速比を無段階に調節する小型車両用のVベルト式無段変速機において、前記溝幅調節機構の主要素として、変速用駆動源の回転を直線動作に変換して前記プライマリシーブの可動フランジに対する移動推力として付与し、それにより当該可動フランジの位置を調節する可動フランジ位置調節装置が設けられており、該可動フランジ位置調節装置が、前記プライマリシーブの可動フランジに対し回転自在且つ軸方向に一体に移動可能に連結された回転スライド部材と、前記変速用駆動源の回転を前記回転スライド部材に伝達する回転伝達機構と、前記回転スライド部材に対し固定側の部材として設けられた送りガイド部材と、前記回転スライド部材と送りガイド部材との間に前記プライマリ軸と同軸の関係で設けられ、回転スライド部材が回転させられたとき、ネジの送り作用により回転スライド部材を軸方向に移動させる送りネジ機構と、前記回転スライド部材と送りガイド部材との間に、前記送りネジ機構と同軸に且つ送りネジ機構と分離して設けられ、回転スライド部材の軸方向の移動を案内するスライドガイド機構と、により構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、前記スライドガイド機構が、前記回転スライド部材及び送りガイド部材にそれぞれ形成されて互いに周方向及び軸方向に移動可能に面接触する一対の円筒摺動面によって構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記送りネジ機構と前記スライドガイド機構が、前記プライマリ軸の中心からの半径方向の位置を異ならせ且つ軸方向に重なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1又は2において、前記送りネジ機構と前記スライドガイド機構が、軸方向に並べて配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項3において、前記送りガイド部材が円筒状の部材として形成されると共に、前記回転スライド部材が、前記円筒状の送りガイド部材の先端に嵌合されることで、送りガイド部材の内周側に位置する内筒壁と送りガイド部材の外周側に位置する外筒壁とを一体に有した断面U字形の二重周壁構造のリング体として構成されており、前記送りガイド部材の内周と回転スライド部材の内筒壁との対向面に、前記送りネジ機構又はスライドガイド機構の一方が設けられ、前記送りガイド部材の外周と回転スライド部材の外筒壁との対向面に、前記送りネジ機構又はスライドガイド機構の他方が設けられ、しかも、前記回転スライド部材の外筒壁上の前記スライドガイド機構の外周側の位置に、前記回転伝達機構の一要素としての歯車が設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5において、前記回転スライド部材に、前記送りガイド部材に対して嵌合された際に前記内筒壁と外筒壁との間に封止される内部空間を回転スライド部材の外部空間へ連通させる連通孔を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、プライマリシーブの可動フランジに連結された回転スライド部材の移動は、従来と同様に送りネジ機構で行うものの、移動の際の回転スライド部材の案内は、送りネジ機構とは別個に設けたスライドガイド機構で行うようにしている。つまり、送り移動と案内の役目を各機構で分担したことにより、余分な力が送りネジ機構にかからないようにすることができる。特に、回転スライド部材に通常のように歯車を設けた場合、無理な形で送りネジ機構に余分な力がかかるおそれがあるが、歯車にかかる力は全てスライドガイド機構で受け止めることができるので、送りネジ機構に無理な力が加わるのを防ぐことができる。その結果、どんな状態であっても、送りネジ機構の動きを滑らかにすることができ、回転スライド部材の安定した動作を保証することができると共に、変速用駆動源の負担も減らせる。又、送りネジ機構は、送り移動の働きだけを果たせばよいから、高度な案内機能を持たせる必要がなく、その分、ネジの種類や加工精度を価格の低いものに落とせる。
【0017】
請求項2の発明によれば、スライドガイド機構を、互いに面接触する一対の円筒摺動面によって構成したので、スペースをとることなく、簡単な構造で、回転スライド部材のスムーズな移動を実現することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、送りネジ機構とスライドガイド機構を、径方向の位置を異ならせ且つ軸方向に重なる位置に配置したので、無段変速機の軸方向のコンパクト化を実現する上で効果を発揮することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、送りネジ機構とスライドガイド機構を軸方向に並べて配置したので、無段変速機の径方向のコンパクト化を実現する上で効果を発揮することができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、回転スライド部材を、断面U字形の二重周壁構造を有するリング体として構成し、円筒状の送りガイド部材を内外周から送りネジ機構とスライドガイド機構で挟むようにしたので、回転スライド部材を、回転可能且つ軸方向移動可能に送りガイド部材によって強固に支持することができる。しかも、変速用駆動源からの回転を受ける歯車を、回転スライド部材の外筒壁上のスライドガイド機構の外周側の位置に設けたので、歯車にかかる力を確実にスライドガイド機構で受け止めることができ、送りネジ機構への無理な力の伝達を防止することができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、断面U字形の二重周壁構造を有するリング体として構成した回転スライド部材の内部空間を外部空間に連通させたので、回転スライド部材が軸方向に動くことにより内部空間が膨張収縮した場合にも、内部空間の圧力を外部とバランスさせることができる。従って、回転スライド部材の動作に負担をかけることがなくなる上、送りネジ機構やスライドガイド機構の潤滑状態に悪い影響を与えることもなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る小型車両用のVベルト式無段変速機を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る小型車両用のVベルト式無段変速機を示す水平断面図、図2は図1に示した小型車両用のVベルト式無段変速機のプライマリ側の構成を示す拡大断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る自動二輪車用(小型車両用)のVベルト式無段変速機(以下、無段変速機とも云う)110は、動力源であるエンジン105の出力が入力されるプライマリ軸1と、該プライマリ軸1に平行に配されて駆動輪305への出力を取り出すセカンダリ軸2と、前記プライマリ軸1及びセカンダリ軸2上にそれぞれ配され、相互間にベルト巻回用のV溝を形成する固定フランジ3A,4A及び可動フランジ3B,4Bを有し、且つ前記可動フランジ3B,4Bを軸方向(図中、左右方向)に移動することで前記V溝の溝幅を可変とされたプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4と、これらプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4のV溝に巻回され、両シーブ3,4間で回転動力を伝達するVベルト5と、前記可動フランジ3B,4Bを移動することで前記プライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4の溝幅を調節する溝幅調節機構(特に符号は付さず)とを備えており、この溝幅調節機構によりプライマリシーブ3及びセカンダリシーブ4の溝幅を変えることで、Vベルト5の各シーブ3,4に対する巻回径を調節し、前記プライマリシーブ3と前記セカンダリシーブ4との間での変速比を無段階に調節するものである。
【0024】
この無段変速機110は、前記溝幅調節機構の主たる要素として、変速用駆動源であるモータ10(図2参照)の回転を直線動作に変換して、プライマリシーブ3の可動フランジ3Bに対する移動推力として付与し、それにより当該可動フランジ3Bの位置を調節する可動フランジ位置調節装置8を備えている。
【0025】
又、その他の溝幅調節機構の要素として、前記可動フランジ3Bとプライマリ軸1との間に設けられ、プライマリ軸1の回転トルクと可動フランジ3Bの回転トルクにトルク差が生じた時に、トルク差を解消する方向の移動推力を前記可動フランジ3Bに付与するプライマリ側作動機構(所謂、トルクカム)30と、前記セカンダリシーブ4の可動フランジ4Bに溝幅を狭める方向の推力を付与する手段である圧縮コイルスプリング40と、前記可動フランジ4Bとセカンダリ軸2との間に設けられ、セカンダリ軸2の回転トルクと可動フランジ4Bの回転トルクにトルク差が生じた時に、トルク差を解消する方向の移動推力を前記可動フランジ4Bに付与するセカンダリ側作動機構(所謂、トルクカム)60と、を備えている。
尚、図1において、矢印C,Eはプライマリ軸1及びセカンダリ軸2の各回転方向を示す。また、矢印Dはプライマリ側作動機構30により可動フランジ3Bに発生する推力の方向を示し、矢印Fはセカンダリ側作動機構60により可動フランジ4Bに発生する推力の方向を示す。
【0026】
そして、本実施形態の無段変速機110は、エンジン105のクランクケースに隣接する変速機ケーシング100,101内に収容されており、プライマリ軸1は、エンジン105のクランク軸と一体に構成されている。又、セカンダリ軸2は、減速機302を介して車軸300に接続され、車軸300に駆動輪305が取り付けられる。プライマリシーブ3はプライマリ軸1の外周に配され、セカンダリシーブ4はセカンダリ軸2の外周に遠心クラッチ70を介して取り付けられている。
【0027】
詳細に述べると、図2に示すように、プライマリシーブ3は、プライマリ軸(クランク軸)1の一端に固定される固定フランジ3Aと、プライマリ軸1の軸方向(図中の矢印A方向)に移動可能な可動フランジ3Bとで構成されており、これら固定フランジ3Aと可動フランジ3Bの対向円錐面間に、Vベルト5が巻き掛けられるV溝が形成されている。
プライマリ軸1の一端は、軸受25を介してケーシング101に支持されており、この軸受25の嵌合するスリーブ24と後述するスリーブ21をロックナット26で固定することによって、固定フランジ3Aのボス部が軸方向に移動しないように固定されている。
【0028】
可動フランジ3Bは、プライマリ軸1が貫通する円筒状のボス部を有し、このボス部の一端に円筒状のスライダ22が固定されている。このスライダ22とプライマリ軸1との間には、スリーブ21が介装されており、このスリーブ21は、プライマリ軸1の外周にスプライン20を介して嵌合され、プライマリ軸1と一体に回転するようになっている。そして、このスリーブ21の外周にスライダ22が軸方向に移動可能に装着されている。
【0029】
スライダ22には、軸方向に対して斜めに延びるカム溝31が形成されており、このカム溝31内に、スリーブ21の外周に突設したガイドピン32が摺動可能に挿入されている。これにより、スライダ22と一体の可動フランジ3Bは、プライマリ軸1と一体に回転しつつ、このプライマリ軸1の軸方向に移動可能となっている。
【0030】
これらのカム溝31とガイドピン32は、前述したプライマリ側作動機構(所謂、トルクカム)30を構成しており、カム溝31の傾斜の向きは、プライマリ軸1の回転トルクと可動フランジ3Bの回転トルクにトルク差が生じた時に、トルク差を解消する方向の移動推力をプライマリシーブ3の可動フランジ3Bに付与する向き(例えば、プライマリ軸1の回転トルクが可動フランジ3Bの回転トルクより大きいときに、プライマリシーブ3の溝幅を狭める方向(矢印D方向)の移動推力を可動フランジ3Bに付与するような向き)に設定されている。傾斜角度を含めたカム溝31の経路は、与える性能に応じて直線状や曲線状等の任意に設定することができ、加工も容易である。
【0031】
一方、可動フランジ3Bの背面側には、前記可動フランジ位置調節装置8が設けられている。この可動フランジ位置調節装置8は、概略的に述べると、プライマリシーブ3の可動フランジ3Bに対し軸受を介して回転自在且つ軸方向に一体に移動可能に連結された回転スライド部材12と、変速用駆動源であるモータ10の回転を回転スライド部材12に伝達する歯車式の回転伝達機構13と、回転スライド部材12に対し固定側の部材として設けられた送りガイド部材16と、回転スライド部材12と送りガイド部材16との間にプライマリ軸1と同軸の関係で設けられ、回転スライド部材12が回転させられたとき、ネジの送り作用により回転スライド部材12を軸方向に移動させる送りネジ機構17と、回転スライド部材12と送りガイド部材16との間に、送りネジ機構17と同軸に且つ送りネジ機構17と分離して設けられ、回転スライド部材12の軸方向の移動を案内するスライドガイド機構18と、により構成されている。
【0032】
具体的に述べると、プライマリシーブ3の可動フランジ3Bと向かい合うケーシング100の内側面に、可動フランジ3Bに向けて突出する円筒状の送りガイド部材16がネジ止めされている。送りガイド部材16は、プライマリ軸1に対し同軸に設けられており、この送りガイド部材16の内周面に、前記送りネジ機構17の一方のネジである雌ネジ17Aが形成されている。
【0033】
又、回転スライド部材12は、内筒壁12aと外筒壁12bとを有する断面U字形の二重周壁構造のリング体として構成されており、円筒状の送りガイド部材16の先端に嵌合されることで、送りガイド部材16の内周側に内筒壁12aが位置し、送りガイド部材16の外周側に外筒壁12bが位置している。そして、送りガイド部材16の内周と回転スライド部材12の内筒壁12aとの対向面に、前記送りネジ機構17が設けられ、送りガイド部材16の外周と回転スライド部材12の外筒壁12bとの対向面に、前記スライドガイド機構18が設けられている。即ち、内筒壁12aの外周面に送りネジ機構17の他方のネジである雄ネジ17Bが形成され、その雄ネジ17Bが送りガイド部材16の内周の雌ネジ17Aと噛み合うことで、送りネジ機構17が構成されている。なお、雄ネジ17Bと雌ネジ17Aには三角ネジが用いられている。
【0034】
又、スライドガイド機構18は、回転スライド部材12の外筒部12bと送りガイド部材16の外周にそれぞれ形成されて互いに周方向及び軸方向に移動可能に面接触する一対の円筒摺動面18A、18Bによって構成されている。このスライドガイド機構18の端部には、シール用のOリング19が設けられている。尚、シール部材としては、Oリング19に限らず、ロッドシール等の他のシール部材を用いることもできる。
【0035】
上記のように、送りガイド部材16の内周側に送りネジ機構17が設けられ、外周側にスライドガイド機構18が設けられることにより、送りネジ機構17とスライドガイド機構18は、プライマリ軸1の中心からの半径方向位置を異ならせながら、軸方向に重なる位置に配置されている。
【0036】
本実施形態の無段変速機では、回転スライド部材12が最初から一体部品としてではなく、2つの部材、即ち回転リング14と往復歯車15とを結合した合体部品として構成されている。往復歯車15は、リング板状の平歯車15aの内周に円筒状のボス部15bを一体に設けた形状をなしており、この円筒状のボス部15bが、回転スライド部材12として組み立てた場合の外筒壁12bに相当し、送りガイド部材16の外周に嵌合されている。従って、回転スライド部材12の外筒壁12b上のスライドガイド機構18の外周側の位置に、回転伝達機構13の一要素である往復歯車15の歯車部分が位置している。
【0037】
又、回転スライド部材12を構成するもう一つの部品である回転リング14は、周壁が断面U字状に形成されており、回転スライド部材12の内筒壁12aに相当する内周壁部14aと、往復歯車15のボス部15bの外周に嵌合して往復歯車15の平板部にネジ結合される外周壁部14bとを有している。この回転リング14の内周壁部14a(回転スライド部材12の内筒壁12aに相当)は、軸受23を介して、可動フランジ3Bと一体化されたスライダ22に結合されている。従って、回転リング14及び往復歯車15からなる回転スライド部材12と可動フランジ3Bとは、相対回転自在であるものの、軸方向に一体に移動するように結合されている。
【0038】
この構成により、往復歯車15が回転することにより、送りネジ機構17のリード作用により、回転スライド部材12が軸方向に移動し、それによりスライダ22と一体化された可動フランジ3Bが移動して、プライマリシーブ3の溝幅が変化するようになっている。
【0039】
ところで、回転スライド部材12は、上記のように周壁部分がU字状断面の二重構造になっていて、送りガイド部材16に嵌合されている。又、回転スライド部材12と送りガイド部材16との嵌合面には、送りネジ機構17やスライドガイド機構18が設けられている。このように構成されていると、回転スライド部材12の内筒壁12aと外筒壁12bとの間の内部空間12pは封止されることになる。そうなると、回転スライド部材12が軸方向に移動する際に支障が出る可能性がある。
【0040】
そこで、本実施形態では、回転スライド部材12の内筒壁12aの内周と外周との間に、回転スライド部材12の内部空間12pを、回転スライド部材12の外部空間12f(送りガイド部材16の内周側の空間で、クランク室やプライマリシーブ3の存在する空間から遮断された空間が相当する)に連通させる連通孔12sを設けている。
又、プライマリシーブ3の可動フランジ3Bを任意に移動するためのモータ10は、他の部品と干渉しない場所に配置されており、そのモータ出力軸10aと回転スライド部材12との間に、回転伝達機構13を構成する歯車列が設けられている。最終段の歯車は往復歯車15からなるものの、途中の歯車列は多段の平歯車13A〜13の組み合わせよりなる。
そして、モータ10の回転をコントロールユニット200(図2、参照)により制御することで、往復歯車15を介して可動フランジ3Bを軸方向に移動させることができるようになっている。
【0041】
次に、本実施形態に係る自動二輪車のVベルト式無段変速機110の動作について説明する。
コントロールユニット200よりモ−タ10に変速信号が入力されると、モ−タ10の回転により回転スライド部材12(往復歯車15及び回転リング13)が回転し、送りネジ機構17のリード作用により、回転スライド部材12に軸受23を介して固定されたスライダ22が軸方向へ移動し、スライダ22と一体化された可動フランジ3Bが移動して、プライマリシーブ3の溝幅が変化する。
【0042】
例えば、プライマリシーブ3の溝幅が狭まる場合は、ベルト5の巻回径が大きくなり、変速比がTop側に移行する。また、プライマリシーブ3の溝幅が広がる場合は、ベルト5の巻回径が小さくなり、変速比がLow側に移行する。一方、セカンダリシーブ4の溝幅は、プライマリシーブ3の溝幅の変化に伴ってプライマリシーブ3と反対に動作する。
【0043】
このような変速動作の際に、回転スライド部材12の移動は、従来と同様に送りネジ機構17で行われるものの、移動の際の回転スライド部材12の案内は、送りネジ機構17とは別個に設けられたスライドガイド機構によって行われる。つまり、「送り移動」と「案内」の役目が各機構(送りネジ機構17とスライドガイド機構18)によって明確に分担されている。このことにより、余分な力が送りネジ機構17にかからなくなる。即ち、回転スライド部材12には歯車(往復歯車15)が設けられているので、回転トルク伝達の際に無理な形で送りネジ機構17に余分な力がかかるおそれがあるが、歯車にかかる力は全てスライドガイド機構18によって受け止めることができる。これにより、送りネジ機構17に無理な力が加わるのを防ぐことができ、その結果、どんな状態であっても、送りネジ機構17の動きを滑らかにすることができて、回転スライド部材12の安定した動作を保証することができると共に、変速用駆動源であるモータ10の負担も減らせる。
【0044】
又、送りネジ機構17は、送り移動の働きだけを果たせばよいのであるから、高度な案内機能を持たせる必要がなく、その分、ネジの種類や加工精度を価格の低いものに落とせる。つまり、本実施形態のように三角ネジを用いることができ、必ずしも台形ネジを使用しなくてもよくなる。
【0045】
又、スライドガイド機構18は、スライドベアリング等を用いて構成することもできるが、最も単純な滑り軸受の構造を採用しているので、スペースをとることもなく、回転スライド部材12のスムーズな移動を実現することができる。
【0046】
又、送りネジ機構17とスライドガイド機構18を、径方向の位置を異ならせ且つ軸方向に重なる位置に配置しているので、無段変速機の軸方向のコンパクト化に寄与することができる。
【0047】
又、回転スライド部材12を、断面U字形の二重周壁構造を有するリング体として構成しており、円筒状の送りガイド部材16を内外周から送りネジ機構17とスライドガイド機構18で挟むように構成しているので、回転スライド部材12を、回転可能且つ軸方向移動可能に送りガイド部材16によって強固に支持することができる。
【0048】
又、連通孔12sを設けることによって、回転スライド部材12の内部空間12pを外部空間12fに連通させたので、回転スライド部材12が軸方向に動くことにより内部空間12pが膨張収縮した場合にも、内部空間12pの圧力を外部とバランスさせることができる。従って、回転スライド部材12の動作に余計な負担をかけることがなくなる上、送りネジ機構17やスライドガイド機構18の潤滑状態に悪い影響を与えることもなくなる。
【0049】
尚、上記実施形態では、送りガイド部材16の内周と回転スライド部材12の内筒壁12aとの対向面に送りネジ機構17を設け、送りガイド部材16の外周と回転スライド部材12の外筒壁12bとの対向面にスライドガイド機構18を設けていたが、その逆に、送りガイド部材16の内周と回転スライド部材12の内筒壁12aとの対向面にスライドガイド機構18を設け、送りガイド部材16の外周と回転スライド部材12の外筒壁12bとの対向面に送りネジ機構17を設けてもよい。
【0050】
又、上記実施形態では、送りネジ機構17とスライドガイド機構18を、軸方向の位置を重ねて径方向の位置をずらして配置した場合を示したが、送りネジ機構17とスライドガイド機構18をプライマリ軸1の軸方向に並べて配置することもできる。その場合は、無段変速機の軸方向の寸法は大きくなるが、径方向のコンパクト化を実現することができる。
【0051】
更に、上記実施形態においては、自動二輪車用のVベルト式無段変速機110について説明したが、本発明のVベルト式無段変速機は自動二輪車に限らず、比較的軽量な小型車両である三輪又は四輪バギー等にも適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る小型車両用のVベルト式無段変速機を示す水平断面図である。
【図2】図1に示した小型車両用のVベルト式無段変速機のプライマリ側の構成を示す拡大断面図である。
【図3】従来のVベルト式無段変速機の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 プライマリ軸
2 セカンダリ軸
3 プライマリシーブ
3A 固定フランジ
3B 可動フランジ
4 セカンダリシーブ
4A 固定フランジ
4B 可動フランジ
5 ベルト
8 可動フランジ位置調節装置
10 モータ(変速用駆動源)
12 回転スライド部材
12a 内筒壁
12b 外筒壁
12f 外部空間
12p 内部空間
12s 連通孔
13 回転伝達機構
15 往復歯車
16 送りガイド部材
17 送りネジ機構
18 スライドガイド機構
105 エンジン(動力源)
110 Vベルト式無段変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の出力が入力されるプライマリ軸と、
該プライマリ軸に平行に配されて駆動輪への出力を取り出すセカンダリ軸と、
前記プライマリ軸及びセカンダリ軸上にそれぞれ配され、相互間にベルト巻回用のV溝を形成する固定フランジ及び可動フランジを有し、且つ前記可動フランジを軸方向に移動することで前記V溝の溝幅を可変とされたプライマリシーブ及びセカンダリシーブと、
これらプライマリシーブ及びセカンダリシーブのV溝に巻回され、両シーブ間で回転動力を伝達するVベルトと、
前記可動フランジを移動することで前記プライマリシーブ及びセカンダリシーブの溝幅を調節する溝幅調節機構とを備え、
前記溝幅調節機構により前記各シーブの溝幅を変えることで前記Vベルトの各シーブに対する巻回径を調節し、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとの間での変速比を無段階に調節する小型車両用のVベルト式無段変速機において、
前記溝幅調節機構の主要素として、変速用駆動源の回転を直線動作に変換して前記プライマリシーブの可動フランジに対する移動推力として付与し、それにより当該可動フランジの位置を調節する可動フランジ位置調節装置が設けられており、
該可動フランジ位置調節装置が、
前記プライマリシーブの可動フランジに対し回転自在且つ軸方向に一体に移動可能に連結された回転スライド部材と、
前記変速用駆動源の回転を前記回転スライド部材に伝達する回転伝達機構と、
前記回転スライド部材に対し固定側の部材として設けられた送りガイド部材と、
前記回転スライド部材と送りガイド部材との間に前記プライマリ軸と同軸の関係で設けられ、回転スライド部材が回転させられたとき、ネジの送り作用により回転スライド部材を軸方向に移動させる送りネジ機構と、
前記回転スライド部材と送りガイド部材との間に、前記送りネジ機構と同軸に且つ送りネジ機構と分離して設けられ、回転スライド部材の軸方向の移動を案内するスライドガイド機構と、
により構成されていることを特徴とする小型車両用のVベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記スライドガイド機構が、前記回転スライド部材及び送りガイド部材にそれぞれ形成されて互いに周方向及び軸方向に移動可能に面接触する一対の円筒摺動面によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の小型車両用のVベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記送りネジ機構と前記スライドガイド機構が、前記プライマリ軸の中心からの半径方向の位置を異ならせ且つ軸方向に重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小型車両用のVベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記送りネジ機構と前記スライドガイド機構が、軸方向に並べて配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小型車両用のVベルト式無段変速機。
【請求項5】
前記送りガイド部材が円筒状の部材として形成されると共に、
前記回転スライド部材が、前記円筒状の送りガイド部材の先端に嵌合されることで、送りガイド部材の内周側に位置する内筒壁と送りガイド部材の外周側に位置する外筒壁とを一体に有した断面U字形の二重周壁構造のリング体として構成されており、
前記送りガイド部材の内周と回転スライド部材の内筒壁との対向面に、前記送りネジ機構又はスライドガイド機構の一方が設けられ、前記送りガイド部材の外周と回転スライド部材の外筒壁との対向面に、前記送りネジ機構又はスライドガイド機構の他方が設けられ、
しかも、前記回転スライド部材の外筒壁上の前記スライドガイド機構の外周側の位置に、前記回転伝達機構の一要素としての歯車が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の小型車両用のVベルト式無段変速機。
【請求項6】
前記回転スライド部材に、前記送りガイド部材に対して嵌合された際に前記内筒壁と外筒壁との間に封止される内部空間を回転スライド部材の外部空間へ連通させる連通孔を設けたことを特徴とする請求項5に記載の小型車両用のVベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−29504(P2006−29504A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211673(P2004−211673)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】