説明

工事用エレベーターのトップシーブ固定装置

【課題】作業時間をより短縮可能な工事用エレベーターのクライミングにおけるトップシーブ固定装置を提供する。
【解決手段】トップシーブを有するフレームをトップシーブ装置本体の側方へスライドさせて、ガイドポストを躯体に固定しているガイドポスト固定部の通過口を開き、継ぎ足されたガイドポスへのトップシーブ装置本体のクライミングを行う方式において、ガイドポスト11、12とガイドポストに沿って上昇可能なトップシーブ装置本体30とを、クライミング時を除いて、結合状態にする結合手段40を具備し、結合手段はトップシーブ装置本体からガイドポストに向かって突出可能かつトップシーブ装置本体側へ没入可能に、トップシーブ装置本体に装備された出没可能な出没金具41と、出没金具の突出時にその先端部42と係合可能な位置にてガイドポストに設けられた係合部43とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事用エレベーターのクライミング作業に関連して、ガイドポストの上端に配置するトップシーブ装置本体の固定と、その固定解除を円滑に行うためのトップシーブ固定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工事用エレベーターには、搬器の重量とのバランスを取るためにカウンターウエイトを備えたものがあり、このタイプのものでは、搬器とカウンターウエイトとをワイヤーロープで連結し、ワイヤーロープをガイドポストの上端に配置されるトップシーブに掛け回すという構成を有している。ガイドポストは工事の進捗に従って継ぎ足し、建造物の高さに合わせて行く必要があるので、その継ぎ足しの都度、トップシーブを新たなガイドポストの上端に装着し直す必要があった。この継ぎ足し作業をクライミングと称しているが、従来は工事用タワークレーン等を使用してトップシーブを取り外し、一旦、躯体側の適当な箇所に仮置きし、ガイドポスト継ぎ足し後に上端に再装着することを繰り返して行ってきた。壁つなぎを用いて、ガイドポストを躯体に要所で接続する構造を取ることから、壁つなぎを避けなければクライミングができないために、上記の方法を取ることになるものである。
【0003】
これに対して、出願人は先に、タワークレーン等を使用しなくても、壁つなぎとの抵触を回避しつつクライミング作業を実施可能な技術を開発した(特開2006−213489号、特開2007−176643号参照)。これらの発明は、どちらもトップシーブを壁つなぎと抵触しない位置に退避させておいて、ガイドポストの継ぎ足しを行なうタイプである。後者の発明について、図9A、Bを参照して説明すると、aはガイドポスト、bはトップシーブ装置の本体であり、トップシーブ装置本体bはガイドポストaを囲むほぼコの字型の平面形状を有し、ガイドポストaの四隅のレールcを移動する、ガイド輪dを内側四隅に有している。コの字型の開口部分mは、ガイドポストaを躯体eに固定している壁つなぎと呼ばれるポスト支持部材fに向けられており、トップシーブgを有するフレームhがこの開口部分mを開閉可能に取り付けられている。
【0004】
上記発明の固定装置では、搬器を所定位置で固定した後、ワイヤーロープjの尻手kをトップシーブgから取り外し、カウンターウエイトは受け止め装置に預けておく。次いでフレームの要所lに設けられているフレーム固定ピンを引き抜き、フレームhを移動させて開口部分mを開くとともに、固定ピンを用いてフレームhを開いた位置に固定し(図9の状態)、既設のガイドポストaの頂部に次の段階のガイドポストを継ぎ足し、フレームhを元に戻してピンで固定した後、トップシーブ装置本体bを上昇させ、また、ガイドポストaをポスト支持部材fによって躯体eに固定する作業を行う。従って、トップシーブgを有するフレームhを側方へスライドさせることで、クライミング作業の際に壁つなぎfを避けることができ、クライミングスピードを早めて、作業に要する時間を著しく短縮することが可能になった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−213489号
【特許文献2】特開2007−176643号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のトップシーブを有するフレームをトップシーブ装置本体の側方へスライドさせて、ガイドポストを躯体に固定しているガイドポスト固定部の通過口を開き、継ぎ足されたガイドポスへのトップシーブ装置本体のクライミングを行う方式において、作業時間をさらに短縮可能な工事用エレベーターのクライミングにおけるトップシーブ固定装置を提供することを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、トップシーブを有するフレームをトップシーブ装置本体の側方へスライドさせて、ガイドポストを躯体に固定しているガイドポスト固定部の通過口を開き、継ぎ足されたガイドポスへのトップシーブ装置本体のクライミングを行う方式において、
ガイドポストとガイドポストに沿って上昇可能なトップシーブ装置本体とを、クライミング時を除いて、結合状態にする結合手段を具備するものとし、かつまた、
上記結合手段として、トップシーブ装置本体からガイドポストに向かって突出可能かつトップシーブ装置本体側へ没入可能に、トップシーブ装置本体に装備された出没可能な出没金具と、出没金具の突出時にその先端部と係合可能な位置にてガイドポストに設けられた係合部とによって構成するという手段を講じたものである。
【0008】
上記の構成を有する本発明の装置では、トップシーブを有するフレームを側方へスライドさせることで、クライミング作業の際に壁つなぎを避け、クライミングスピードを早めることができるものである。従って、前述のクライミング方式の長所を損なうことなく、迅速にクライミングを実行することができる。
【0009】
さらに本発明の装置では、前述のクライミング方式において、ガイドポストとガイドポストに沿って上昇可能なトップシーブ装置本体とを、クライミング時を除いて、結合状態にする結合手段を具備する。この結合手段は、クライミングに関係しない時には、トップシーブ装置本体をガイドポストに確固に固定し、クライミングの際には固定を素早く解除することを可能にする。
【0010】
上記結合手段としては、トップシーブ装置本体からガイドポストに向かって突出可能かつトップシーブ装置本体側へ没入可能に、トップシーブ装置本体に装備された出没可能な出没金具と、出没金具の突出時にその先端部と係合可能な位置のガイドポストに設けられた係合部とが必要である。出没金具と係合部は相互に係合可能であることによって、確固な固定と、固定の素早い解除を可能にする。
【0011】
このような出没金具としては、トップシーブ装置本体に固定された筒状の保持筒と、保持筒内部に摺動可能に挿入された止め金具から成る構成を取ることが望ましい。保持筒とそこに摺動可能に配置された止め金具から成る構成によって、トップシーブ装置本体の荷重を支えるとともに、工事現場において行なわれ勝ちな、粗略な扱いにも耐える構造を持つことになる。
【0012】
また、上記止め金具の突出位置と没入位置の位置決めのために、固定ピン及びその挿入口を、上記保持筒と止め金具に設けることが望ましい。固定ピンによる位置決めは、抜け止めのためにも好ましいことである。この種の固定ピンとしては、前記結合手段に求められるような構造的強度はほとんど必要ではないが、抜き差しをしやすく、かつ確実に差し込めて、外れ難い構造を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、ガイドポストを躯体に固定しているガイドポスト固定部の通過口を開き、継ぎ足されたガイドポストへのトップシーブ装置本体のクライミングを行う方式において、出没金具と係合具とから成る結合手段を具備することによって、作業時間をさらに短縮可能な工事用エレベーターのクライミングにおけるトップシーブ固定装置を提供する装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明に係るトップシーブ固定装置を適用した工事用エレベーターの全容を示すもので、11、12は直立した左右一対のガイドポストであり、両ガイドポスト11、12は夫々の四隅にて上下に延びるガイドレール13、14、13′、14′を有している(図4参照)。両ガイドポスト11、12の間には搬器15が配置されており、その搬器15は、図1において左右両側に位置する昇降車輪16、17を有していて、これらの車輪16、17は上記のガイドレール13、14に沿って昇降する。
【0015】
左右一対のガイドポスト11、12は、内側の対向面に上下方向のラックレール18、19を有しており、搬器15に装備されている昇降モーター21によって駆動される、ピニオン22、23がラックレール18、19と噛み合い、昇降可能な構成になっている。搬器15には操作盤24、落下速度の制御のための電磁ブレーキ25が設けられており、また、ガイドポスト11、12の基部内側には搬器15用の衝撃緩和装置26が設けられている。
【0016】
搬器15はカウンターウエイト27とワイヤーロープ20で連結され、そのワイヤーロープ20はガイドポスト頂部のトップシーブ31に掛け回されており、トップシーブ31はトップシーブ装置本体30に回転可能に設けられている。すなわち、トップシーブ31は軸受32にてフレーム33に取り付けられ、後述するようにトップシーブ31を有するフレーム33をトップシーブ装置本体30の側方へスライドさせて、ガイドポスト11、12を躯体39に固定しているガイドポスト固定部の通過口である開口部分34を開き、その間に既存のガイドポスト11、12への新たなポスト部材の継ぎ足しと、継ぎ足されたガイドポスト部材部分へのトップシーブ装置本体30のクライミングを、トップシーブ31の側方へのスライドで行う構成を有している。
【0017】
図示の例において、トップシーブ装置本体30はコの字型の平面形状を持つ台枠35を有し、コの字の開口部分34は図4、図5及び図6において正面に位置することになる。なお、トップシーブ31は工事用エレベーターの正面と背面に設けられているが(図3参照)壁つなぎによって躯体39に固定されるのは背面側(図3において右側)であるので、本発明の固定装置において側方へスライドさせるものも、背面側のトップシーブ31のみである。このようなトップシーブ装置本体30のコの字型の台枠35の内側には、ガイドポスト11、12、に設けられたガイドレール13、14、13′、14′に接触して回転可能となる複数個の回転車輪28、29が装着されており、回転車輪28、29は各ガイドレール13、14、13′、14′に2方向から直角に接する配置を取る(図4、図6参照)。
【0018】
上記フレーム33はコの字型の台枠35の開口部分34を開閉に設けられており、かつ図8に示したように、トップシーブ装置本体30の背面側に配置されていて、トップシーブ装置本体30の台枠35に装備されている複数個のガイドロール36に、フレーム33の下枠部分が支えられることよって、左右方向へスライド可能に設けられている。トップシーブ装置本体30の台枠35の上面37は作業台として使用されるように床板が張られており、また、立枠38によって囲まれている。
【0019】
このような構成を有するトップシーブ装置本体30において、本発明では、ガイドポスト11、12とガイドポスト11、12に沿って上昇可能なトップシーブ装置本体30とを、クライミング時を除いて、結合状態にする結合手段40を具備する(図5ないし図7参照)。この結合手段40は、トップシーブ装置本体30からガイドポスト11、12の方向へ向かって突出可能かつトップシーブ装置本体側へ没入可能に、トップシーブ装置本体30の台枠35に装備された出没可能な出没金具41と、出没金具41を構成する止め金具45の突出時にその先端部42と係合可能な位置のガイドポスト11、12側に設けられた係合部43とから構成されている。
【0020】
図7に示すように、出没金具41は、トップシーブ装置本体30に固定された筒状の保持筒44と、保持筒内部に摺動可能に挿入された止め金具45から成り、止め金具45の突出位置と没入位置の位置決めのための固定ピン46及び出没時の位置に対応した2箇所の固定ピン挿入口47、48を、上記保持筒44と止め金具45に設けた構成を有し、保持筒44と止め金具45は角型断面による摺動構造として、回転を防止している。また、出没金具41の止め金具45の出没操作のために、ハンドル49が外方の端部に取り付けられている。2箇所の固定ピン挿入口47、48にはそれらを突き通し可能な軸状の固定ピン46が差し込まれ、それによって止め金具45を突出及び没入の各位置にて固定可能とする。
【0021】
上記の構成を有する工事用エレベーターのトップシーブ固定装置では、クライミング作業に先立って、トップシーブ装置本体30をガイドポスト11、12における、所定の高さ位置にて固定した状態とする。図8はこの状態でトップシーブ31を側方へスライドさせた状態を示しており、左側のガイドポスト11を躯体39に固定する壁つなぎ即ちポスト支持部材50の配置された台枠35の開口部分34が開かれている。トップシーブ装置本体30が固定されている状態において、ガイドポスト11の方向へ向かって出没金具41を突出させたものが、止め金具45の先端部42と係合部43が係合している、図7Aに示した状態である。
【0022】
トップシーブ装置本体30のクライミングを行うには、図7Aの状態から固定ピン46を外して止め金具45をフリーの状態とし、ハンドル49を握って止め金具45を外方へ引き抜いて、図7Bに示されるように、係合部43から止め金具45の先端部42が退避した位置へ移動させる。これによって、ガイドポスト11と、ガイドポスト11に沿って上昇可能なトップシーブ装置本体30とを結合している結合手段40は解除状態となり、トップシーブ装置本体30をガイドポスト11に沿って上方へ移動可能となる。そこで、既存のガイドポスト11、12への新たなガイドポスト11、12の継ぎ足しと、継ぎ足されたガイドポスト11、12へのトップシーブ装置本体30のクライミングをさせることができる。
【0023】
上記クライミングを終えた後、トップシーブ装置本体30が固定されている状態において、ガイドポスト11の方向へ向かって再び出没金具41を突出させ、止め金具45の先端部42を係合部43と係合した状態とする。これによって、トップシーブ装置本体30がガイドポスト11、12に支えられ、安全に搬機15の運行を実施することができる状態になる。このように、本発明によれば、出没金具41と係合具43とから成る結合手段40を具備することによって、止め金具45の抜き差しだけでトップシーブ装置本体30の固定と固定解除が可能となり、工事用エレベーターのクライミングにおける作業時間をさらに短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る工事用エレベーターのトップシーブ固定装置の例を示すもので、Aは正面図、Bは側面図である。
【図2】同上の装置を拡大して示す正面図である。
【図3】同じく拡大して示した側面図である。
【図4】同じく拡大して示した平面図である。
【図5】同上の装置における結合手段の部分側面図である。
【図6】同じく結合手段を示すもので、Aは部分平面図、Bは部分正面図である。
【図7】同じく結合手段を示すもので、Aは突出時の平面図、Bは没入時の平面図である。
【図8】同上の装置を搭載したトップシーブ装置本体のクライミング時の状態を示す平面図。
【図9】本発明の対象となる工事用エレベーターのトップシーブ固定装置において従来見られた工事用エレベーターのトップシーブ装置を示すもので、Aは平面図、Bは正面図である。
【符号の説明】
【0025】
11、12 ガイドポスト
13、14、13′、14′ ガイドレール
15 搬器
16、17 昇降車輪
18、19 ラックレール
20 ワイヤーロープ
21 昇降モーター
22、23 ピニオン
24 操作盤
25 電磁ブレーキ
26 衝撃緩和装置
27 カウンターウエイト
28、29 回転車輪
30 トップシーブ装置本体
31 トップシーブ
32 軸受
33 フレーム
34 開口部分
35 台枠
36 ガイドレール
37 上面
38 立枠
39 躯体
40 結合手段
41 出没金具
42 先端部
43 係合部
44 保持筒
45 止め金具
46 固定ピン
47、48 固定ピン挿入孔
49 ハンドル
50 壁つなぎ即ちポスト支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップシーブを有するフレームをトップシーブ装置本体の側方へスライドさせて、ガイドポストを躯体に固定しているガイドポスト固定部の通過口を開き、継ぎ足されたガイドポスへのトップシーブ装置本体のクライミングを行う方式において、
ガイドポストとガイドポストに沿って上昇可能なトップシーブ装置本体とを、クライミング時を除いて、結合状態にする結合手段を具備しており、
結合手段は、トップシーブ装置本体からガイドポストに向かって突出可能かつトップシーブ装置本体側へ没入可能に、トップシーブ装置本体に装備された出没可能な出没金具と、出没金具の突出時にその先端部と係合可能な位置にてガイドポストに設けられた係合部とから構成された工事用エレベーターのトップシーブ固定装置。
【請求項2】
出没金具は、トップシーブ装置本体に固定された筒状の保持筒と、保持筒内部に摺動可能に挿入された止め金具から成り、止め金具の突出位置と没入位置の位置決めのための固定ピン及び固定ピン挿入口を、上記保持筒と止め金具に設けた請求項1記載の工事用エレベーターのトップシーブ固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−47371(P2010−47371A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213245(P2008−213245)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(391028889)三成研機株式会社 (17)
【Fターム(参考)】