説明

差動式キャスタ

【課題】凹凸に追従することで適正なグリップ力を得ることができ、安定した走行が実現できる差動式キャスタを提供する。
【解決手段】取付け板5と、取付け板5に回転自在に支持された主軸9と、主軸9の一端に主軸9に交差するようにして揺動可能に設けられた副軸10と、副軸10の両端に設けられた一対の電動モータ12,12と、一対の電動モータ12,12の出力軸17,17にそれぞれ連係された一対の車輪35,35とから成るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対の車輪を有する差動式キャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、差動式キャスタを用いて自走可能にした電動車椅子や、倉庫等に保管された部品を搬送する搬送車等が知られている。
この差動式キャスタは、シャーシ部(車体)に回転自在に取付けられた支軸の一端に一対の駆動輪を備えたものである。これら駆動輪には、小型化を図るためにそれぞれ電動モータが内蔵され、各々駆動輪が独立して駆動することができるようになっている。そして、各駆動輪の回転差によって電動車椅子や搬送車の走行方向を変更可能にしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−90903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、支軸に一対の駆動輪がリジットに固定されているので、走行路面(床面)の凹凸が大きい場合にこの凹凸に追従できず、一輪が浮いてしまうことがある。このため、駆動輪は適正なグリップ力が得られず、差動式キャスタの走行に支障をきたしたり、安定した走行ができなくなったりするおそれがあるという課題がある。
【0004】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、凹凸に追従することで適正なグリップ力を得ることができ、安定した走行が実現できる差動式キャスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、取付け板と、前記取付け板に回転自在に支持された主軸と、前記主軸の一端に前記主軸に交差するようにして揺動可能に設けられた副軸と、前記副軸の両端に設けられた一対の電動モータと、前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とから成ることを特徴とする。
このように構成することで、走行路面の凹凸が大きい場合であっても車輪を追随させて確実に走行路面に接地させることができる。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記主軸、又は前記副軸の少なくとも一方に中空部を設け、該中空部に前記電動モータに接続される電力供給線を配索したことを特徴とする。
このように構成することで、支軸、又は副軸の少なくとも一方の外周面に電力供給線を配索させることなく、電動モータに接続させることができる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、走行路面の凹凸が大きい場合であっても車輪を追随させて確実に走行路面に接地させることができるため、車輪が適正なグリップ力を得ることができ、差動式キャスタの安定した走行を実現させることが可能になる。
【0008】
請求項2に記載した発明によれば、支軸、又は副軸の少なくとも一方の外周面に電力供給線を配索させることなく、電動モータに接続させることができるため、支軸に配索される電力供給線の露出を少なくすることができる。このため、電力供給線の車輪への巻き込みを防止することができ、差動式キャスタの良好な駆動状態を確保することができると共に、美観を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、差動式キャスタ1は、電動車椅子や搬送車として用いられる車体2の下面(図1における下側)にフリーキャスタ3,4と共に取付けられている。車体2は、その上面が椅子や部品を載置するスペースになっている。また、車体2には、差動式キャスタ1の設置位置に対応する部位に孔2aが形成されている。この孔2aは、車体2と差動式キャスタ1との干渉を防止するためのものである。
【0010】
図2、図3に示すように、差動式キャスタ1は、これを車体2に取付けるための取付け板5を備えている。取付け板5には、径方向中央に2つの軸受け6,7が設けられ、ここに支軸8が回転自在に支持されている。
支軸8は、鉛直方向(図2における上下方向)に沿って延在し、且つ取付け板5に回転自在に支持されている主軸9と、この主軸9の下端(図2における下側)に支点ピン71を介して揺動可能に軸支されている副軸10とで構成されている。
【0011】
主軸9には、この主軸9の上端(図2における上側)から下端(図2における下側)近傍まで軸方向に沿って延びる第一中空部9aと、この第一中空部9aの下端から第一中空部9aに交差する方向で主軸9を貫通する第二中空部9bとが一連に形成されている。これら第一中空部9aと第二中空部9bは、電動モータ12に電力を供給するための電力供給線30を配索するためのものである。
【0012】
主軸9の上端側には、これの回転角度を検出するための中空軸型エンコーダ11が設けられている。中空軸型エンコーダ11は、この上端側に設けられた中空状のカラー33と下端側に設けられた受け座34とによって支軸8の軸方向への移動が規制されるようになっている。受け座34は、ボルト54で取付け板5に締結固定してある。また、主軸9の下端には、円弧部70が形成されている。この円弧部70の略中心点に、支点ピン71が設けられている。
【0013】
副軸10は、主軸9に交差する方向に延在し、軸方向、及び径方向の略中央で支点ピン71に軸支されるようになっている。この副軸10には、軸方向に貫通する中空部10aが形成されている。この中空部10aも電力供給線30を配索するためのものである。また、副軸10には、主軸9に対応する部位に挿通孔72が形成されており、ここに主軸9が挿通されるようになっている。
【0014】
副軸10の両端には、一対の車輪35,35が軸受け36,36でそれぞれが回転自在に取付けられている。各車輪35,35は、副軸10に回転自在に支持された有底筒状のホイール37を有し、ホイール37の開口部を蓋部38で覆うと共に、ホイール37の外周部分に走行路面Fなどに接地するタイヤ39がタッピングネジ40で固定されている。ホイール37と蓋部38が形成する内部空間には、電動モータ12が1つずつ内蔵されており、各々車輪35,35を独立して回転駆動できるようになっている。
【0015】
電動モータ12は、支軸8の副軸10に固定されたブラケット15と、ブラケット15に固定された有底筒状のヨーク13とを有し、ブラケット15、及びヨーク13でアーマチュア14を回転自在、且つ水平方向に沿うように支持している。
ブラケット15は、副軸10の中空部10aに内嵌される筒部24と、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)端から径方向外側に延出するフランジ部25とが一体成形されたものである。
【0016】
筒部24の周壁には、主軸9側(図2における上側)に筒部24の軸方向に貫通する貫通孔24aが形成されている。この貫通孔24aは、電力供給線30を挿通するためのものである。また、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)には、径方向中央に軸受け26が設けられ、ここにアーマチュア14の出力軸17の一端が回転自在に支持されている。
【0017】
フランジ部25は、ヨーク13の開口部を覆うように断面略ハット状に形成されたものであって、このエンド部25aには、副軸10側(図3における左側)に段差部47が形成されている。この段差部47により、フランジ部25は、副軸10の両端に設けられた軸受け36の内輪のみに当接するようになっている。
【0018】
一方、フランジ部25のアーマチュア14側(図3における右側)には、ホルダーステー48が取付けられている。このホルダーステー48には、複数のブラシホルダ28が設けられており、このブラシホルダ28に、それぞれブラシ29が出没自在に内装されている。
【0019】
これらブラシ29には、電力供給線30の一端が電気的に接続されている。この電力供給線30の一端は、外部から支軸8の中空部9a,9b,10a、筒部24の貫通孔24aを通ってブラシ29まで配索されている一方、他端は主軸9の上端に設けられたカラー33から引き出され、不図示の外部電源に接続されている。
【0020】
フランジ部25の周縁部には、ヨーク13の開口部が固定されている。ヨーク13の内周面には、複数の永久磁石27が周方向に等間隔で接着剤等により固定されている。
ヨーク13のエンド部(底部)16には、径方向中央にアーマチュア14の出力軸17を挿通するための挿通孔18が形成され、この挿通孔18内に軸受け19が設けられている。この軸受け19は、アーマチュア14の出力軸17の他端側を回転自在に支持するためのものである。
【0021】
アーマチュア14は、出力軸17に外嵌固定されたアーマチュアコア20と、アーマチュアコア20に巻装されたアーマチュアコイル21と、アーマチュアコア20の一端側(図2における中央側)に配置されたコンミテータ(整流子)22とで構成されている。
コンミテータ22の外周面には、導電材で形成されたセグメント23が複数枚取付けられている。
【0022】
セグメント23は軸方向に長い板状の金属片からなり、互いに絶縁された状態で周方向に沿って等間隔に並列に固定されている。各セグメント23には、アーマチュアコイル7の巻き始め端と巻き終わり端とがヒュージングにより接続されている。
また、セグメント23は、ブラシ29の先端部に摺接している。これにより、外部からの電源が電力供給線30,ブラシ29を介してコンミテータ22に供給されるようになっている。
【0023】
出力軸17の他端側は、ヨーク13のエンド部16に形成されている挿通孔18から外側に向かって突出している。この出力軸17の突出した部分には、外周面にギア部41が形成され、減速機構42に噛合されている。
減速機構42は、出力軸17に噛合され歯数の異なる2つの平歯車を同軸上に備えた段付平歯車43と、車輪35の蓋部38に一体に形成され段付平歯車43に噛合される内歯歯車45とで構成されている。段付平歯車43は、ヨーク13のエンド部16に突設されている不図示の支軸に回転自在に支持されている。この不図示の支軸は、段付歯車43を貫通し、車輪35の蓋部38側に突出している。この支軸が突出した部位には、支持部材44が取付けられている。この支持部材44は、軸受け46を介して蓋部38を回転自在に支持している。このように、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている。
【0024】
このように構成された差動式キャスタ1は、両輪(図2における一対の車輪35,35)を同じ回転速度で駆動させたとき、車体2が直進、又は後進(図2における紙面手前側、又は奥側)するようになっている。そして、それぞれ車輪35,35を互いに違う回転速度で駆動させたとき、又は一方の車輪35を駆動し、他方の車輪35を停止させたとき、車体2が右方向、又は左方向に旋回するようになっている。
【0025】
したがって、上述の実施形態によれば、取付け板5に回転自在に支持されている支軸8が鉛直方向(図2における上下方向)に沿って延在し、且つ取付け板5に回転自在に支持されている主軸9と、この主軸9の下端(図2における下側)に支点ピン71を介して揺動可能に軸支されている副軸10とで構成されている。つまり、主軸9は、この周方向に回動可能となっていると共に、副軸10は、支点ピン71の周方向に揺動可能となっている。このため、走行路面F(図2参照)の凹凸形状に応じて車輪35を追随させ、走行路面Fに車輪35を確実に接地させることができる。よって、車輪35は適正なグリップ力を得ることができ、差動式キャスタ1の安定した走行を実現させることが可能になる。
しかも、主軸9の下端に円弧部70が形成されているため、副軸10が大きく傾いたとしても主軸9と副軸10との干渉をある程度許容することができる。このため、走行路面Fの凹凸が大きい場合であっても確実に車輪35を走行路面Fに接地させることができる。
【0026】
また、支軸8の主軸9に第一中空部9a、及び第二中空部9bが形成されていると共に、副軸10に中空部10aが形成されている。このため、支軸8の外周面に電力供給線30を配索させることなく、外部電源と電動モータ12とを電気的に接続させることができる。よって、電力供給線30の車輪35への巻き込みを防止することができ、差動式キャスタ1の良好な駆動状態を確保することができる。また、支軸8の内部に電力供給線30を配索することで、美観を向上させることができる。
【0027】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、上述の実施形態では、主軸9の上端側に中空状のカラー33を設け、ここから電力供給線30が引き出されている場合について説明したが、図4に示すように、主軸9の上端にスリップリング50を設けてもよい。
【0028】
ここで、スリップリング50は、固定側から回転側に電力を供給する所謂ロータリーコネクタであって、車体2に取付けられている外部電源(不図示、固定側)から車輪35の電動モータ12(回転側)に電力を供給するために用いられる。
このように、スリップリング50を設けた場合にあっては、スリップリング50を構成する固定部51をカラー33にボルト53によって締結固定する。
【0029】
そして、可動部52に、不図示の外部電源に一端が接続されている第一電力供給線30aの他端を電気的に接続する一方、固定部51に、第二電力供給線30bの一端を電気的に接続すると共に、他端を電動モータ12のブラシ29に電気的に接続する。
こうすることによって、例えば、差動式キャスタ1を同一方向に連続回転させた場合であっても、第一電力供給線30a、及び第二電力供給線30bの捩れを防止することができる。このため、第一電力供給線30a、及び第二電力供給線30bの捩れによる断線を防止することができ、より信頼性の高い差動式キャスタ1を提供することが可能になる。
【0030】
また、上述の実施形態では、支軸8の主軸9に第一中空部9a、及び第二中空部9bを形成すると共に、副軸10に中空部10aを形成した場合について説明したが、これに限られるものではなく、少なくとも主軸9、又は副軸10の何れか一方に中空部が形成されていればよい。
【0031】
さらに、上述の実施形態では、支軸8の中空部9a,9b,10aに電力供給線30を配索した場合について説明した場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、電動モータ12に、これの作動状態を認識するためのセンサ(出力軸17の回転角度や、出力軸17の回転速度を検出するセンサ)を取付けた場合にあっては、別途、作動状態信号線を配索してもよい。
そして、上述の実施形態では、差動式キャスタ1は、電動車椅子や搬送車の車体2の下面にフリーキャスタ3,4と共に取付けられている場合について説明したが、これに限られるものではなく、車体2の下面に差動式キャスタ1のみ取付けてもよい。
【0032】
また、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている場合について説明したが、これに限られるものではなく、減速機構42に代えて遊星減速機構としてもよい。この場合、段付歯車43を出力軸17に噛合って自転すると共に、出力軸17を中心に公転可能な遊星歯車に代えればよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態における差動式キャスタの取付け状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における差動式キャスタの縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態における差動式キャスタの一部拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態における差動式キャスタの縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 差動式キャスタ
5 取付け板
9 主軸
9a 第一中空部(中空部)
9b 第二中空部(中空部)
10 副軸
10a 中空部
12 電動モータ
17 出力軸
30 電力供給線
30a 第一電力供給線(電力供給線)
30b 第二電力供給線(電力供給線)
35 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け板と、
前記取付け板に回転自在に支持された主軸と、
前記主軸の一端に前記主軸に交差するようにして揺動可能に設けられた副軸と、
前記副軸の両端に設けられた一対の電動モータと、
前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とから成ることを特徴とする差動式キャスタ。
【請求項2】
前記主軸、又は前記副軸の少なくとも一方に中空部を設け、
該中空部に前記電動モータに接続される電力供給線を配索したことを特徴とする請求項1に記載の差動式キャスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−213571(P2008−213571A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51284(P2007−51284)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】