説明

差動装置

【課題】ドライブギヤおよびこれと噛み合うリングギヤと、リングギヤと一体に回転するデフケースと、左側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤおよび右側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤと、各サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、デフケースにピニオンギヤを自転可能に支持するスパイダシャフトと、ドライブギヤを回転自在に支持するキャリアケースと、を備える差動装置において、潤滑性能の向上およびデフケースの小型化・軽量化を促進する。
【解決手段】キャリアケース11に各サイドギヤ18a,18bを回転自在に支持すると共に、左側(または右側)のアクスルシャフト20aにデフケース15のスパイダシャフト16を回転自在に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動装置に関する。とくに車両用終減速機における差動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の差動装置は、図3のように構成される。図3において、50はプロペラシャフト(図示せず)により駆動されるドライブギヤであり、ドライブギヤ50は、キャリアケース51にベアリングを介して回転自在に支持される。52はドライブギヤ50の先端部を支持するパイロットベアリングである。53はドライブギヤ50と噛み合うリングギヤである。
【0003】
リングギヤ53はデフケース55に取り付けられる。デフケース55は、中央部が袋状に形成され、その内側に後述のピニオンギヤ56およびサイドギヤ57a,57bが収装される。デフケース55は、キャリアケース51にベアリング58a,58bを介して回転自在に支持される。
【0004】
左側のサイドギヤ57aは、左側のアクスルシャフト(図示せず)と一体に回転する。右側のサイドギヤ57bは、右側のアクスルシャフト(図示せず)と一体に回転する。各サイドギヤ57a,57bに噛み合うのがピニオンギヤ56であり、デフケース55にスパイダシャフト59を介して取り付けられる。スパイダシャフト59は、4つの軸部から十字状に構成され、各軸部のそれぞれにピニオンギヤ56が自転可能に支持される。
【0005】
ドライブギヤ50の回転はリングギヤ53を介してデブケース55に伝えられ、デフケース55の回転に伴ってピニオンギヤ56が公転すると、各サイドギヤ57a,57bと共に左右のアクスルシャフトが回転する。左右のアクスルシャフトの回転抵抗(負荷)に差を生じると、各ピニオン56が自転することにより、低負荷側のアクスルシャフトの回転速度が上がる一方で高負荷側のアクスルシャフトの回転速度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−121641号公報
【特許文献2】特開平08−497558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような差動装置においては、サイドギヤ57a,57bやピニオンギヤ56がデフケース55の袋状部(中央部)の内側に収装され、潤滑油(例えば、ドライブギヤによって掻き上げられる)と接しづらく、各摺動部の潤滑性能を確保するのが難しい。そのため、焼付きを生じる可能性が考えられる。
【0008】
この発明は、このような不具合を想定してなされたものであり、差動装置の潤滑性能を高めるための手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、ドライブギヤおよびこれと噛み合うリングギヤと、リングギヤと一体に回転するデフケースと、同軸上を左右に配置されるアクスルシャフトと、左側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤおよび右側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤと、各サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、デフケースにピニオンギヤを自転可能に支持するスパイダシャフトと、ドライブギヤを回転自在に支持するキャリアケースと、を備える差動装置において、前記キャリアケースに各サイドギヤを回転自在に支持すると共に、右側または左側のアクスルシャフトに前記デフケースのスパイダシャフトを回転自在に支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明においては、各サイドギヤは、デフケースに組み込むのでなく、キャリアケースに支持するので、デフケースは、各サイドギヤを回転自在に支持する部分の構造を省略することができる。その結果、従来のデフケースの袋状部を大きく開放することにより、サイドギヤやピニオンギヤが露出され、潤滑油と接しやすくなり、差動装置の潤滑性能を高められる、という効果が得られる。デフケースは、キャリアケースに支持する構造を失うことになるが、右側または左側のアクスルシャフトにスパイダシャフトを介して回転自在に支持されるので、必要な支持性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施形態を示す装置の断面図である。
【図2】同じく回転の伝達経路を示す説明図である。
【図3】従来装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1,2に基づいて、この発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1,2において、10はプロペラシャフト(図示せず)により駆動されるドライブギヤであり、ドライブギヤ10は、キャリアケース11にベアリング12a,12bを介して回転自在に支持される。12aは、ドライブギヤ10のシャフト(プロペラシャフトに連結するドライブシャフト)を支持するベアリング、12bはドライブギヤ10の先端部を支持するパイロットベアリングである。13はドライブギヤ10と噛み合うリングギヤであり、ドライブギヤ10の歯数とリングギヤ13の歯数とから終減速比が設定される。
【0014】
リングギヤ13はデフケース15に取り付けられる。デフケース15にスパイダシャフト16が設けられる。スパイダシャフト16は、4つの軸部から十字状に構成され、各軸部のそれぞれにピニオンギヤ17が自転可能に支持される。
【0015】
これらピニオンギヤ17と噛み合うのがサイドギヤ18a,18bであり、サイドギヤ18a,18bは同軸上の左右に配置され、キャリアケース11にそれぞれベアリング19a,19bを介して回転自在に支持される。左側のサイドギヤ18aは、左側のアクスルシャフト20aと一体に回転する。右側のサイドギヤ18bは、右側のアクスルシャフト20bと一体に回転する。
【0016】
各サイドギヤ18a,18bは、アクスルシャフト20a,20bのスプライン溝と係合するスプライン溝を持つスプライン穴21a,21bのほか、スプライン穴21a,21bをこれと同軸上に開口する貫通孔22a,22bが備えられる。右側または左側のアクスルシャフト(図示の場合、左側のアクスルシャフト20a)は、同軸上を右側のアクスルシャフト20bへ延長する軸部24(延長軸)が設けられる。延長軸24は、スパイダシャフト16を回転自在に支持すると共に、右側のアクスルシャフト20bと一体に回転するサイドギヤ18bを回転自在に支持する。
【0017】
サイドギヤ18a,18bとアクスルシャフト20a,20bとの間は、軸回りを一体に回転可能かつ互いに軸方向へ変位可能にスプライン嵌合される。スパイダシャフト16およびサイドギヤ18b(図示の場合、18a,18b)は、これらを回転自在に支持する延長軸24上を軸方向へ変位可能に設定される。
【0018】
サイドギヤ18a,18bの外周にベアリング19a,19bのインナレースを係止する段差30が形成される。ベアリング19a,19bのアウタレースは、キャリアケース11に対して軸方向へ変位可能に組み付けられる。31a,31bはアジャストナットであり、ディファレンシャルギヤの両側からベアリング19a,19bのアウタレースを締め付けることにより、ベアリング19a,19bおよびサイドギヤ18a,18bが所定の位置に固定される。
【0019】
このような構成により、ドライブギヤ10の回転はリングギヤ13を介してデブケース15に伝えられ、デフケース15の回転に伴ってピニオンギヤ17が公転すると、各サイドギヤ18a,18bと共に左右のアクスルシャフト20a,20bが回転する(図2、参照)。左右のアクスルシャフト20a、20bの回転抵抗(負荷)に差を生じると、各ピニオン17が自転することにより、低負荷側のアクスルシャフトの回転速度が上がる一方で高負荷側のアクスルシャフトの回転が低下する。図2の矢印は、ピニオンギヤの公転に伴う回転力の伝達経路を示すものである。
【0020】
この実施形態においては、各サイドギヤ18a,18bは、デフケース15に組み込むのでなく、キャリアケース11に支持するので、デフケース15は、各サイドギヤ18a,18bを回転自在に支持する部分の構造を省略することができる。
【0021】
デフケース15は、スパイダシャフト16を支持する中央部15aと、リングギヤ13の取付部を形成する周縁部15bと、からなり、中央部15aの両側が大きく開放される形に作られる。つまり、従来のデフケース55(図3、参照)と較べると、両側のサイドギヤ57a,57bを覆って各サイド57a,57bを回転自在に支持すると共にキャリアケース51にベアリング58a,58bを介して支持される部分が省略される。
【0022】
そのため、サイドギヤ18a,18bやピニオンギヤ17がデフケース15から露出され、潤滑油(例えば、ドライブギヤによって掻き上げられる)と接しやすくなり、ディファレンシャルの潤滑性能を高められる。また、デフケース15の小型化・軽量化が促進されるのである。
【0023】
デフケース15は、これをキャリアケース11に支持する構造を失うことになるが、アクスルシャフト20aの延長軸24にスパイダシャフト16を介して回転自在に支持されるので、必要な支持性能を確保することができる。また、延長部24により、左側のサイドギヤ18aばかりなく、右側のサイドギヤ18bも支持するので、ディファレンシャルギヤ全体の支持性能を十分に高められる。
【0024】
この実施形態においては、デフケース15およびサイドギヤ18a,18bが軸方向へ変位可能のため、終減速比の変更に伴うマウンティングディスタンスmの調整についても、デフケース15を交換することなく、簡単に対応することが可能となる。具体的には、アジャストナット31a,31bを緩め、デフケース15およびサイドギヤ18a,18bを軸方向へ変位させることにより、終減速比の変更に伴うマウンティングディスタンスmの調整が行えるのである。
【0025】
延長軸24については、場合に拠るが、反対側のアクスルシャフト20bに係合するサイドギヤ18bを回転自由に支持する部分を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、車両用の差動装置に限らず、各種機械の差動装置へ適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 ドライブギヤ
11 キャリアケース
13 リングギヤ
15 デフケース
16 スパイダシャフト
17 ピニオンギヤ
18a,18b サイドギヤ
20a,20b アクスルシャフト
21a,20b スプライン穴
22a,22b 貫通孔
24 延長軸
m マウンティングディスタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブギヤおよびこれと噛み合うリングギヤと、リングギヤと一体に回転するデフケースと、同軸上を左右に配置されるアクスルシャフトと、左側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤおよび右側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤと、各サイドギヤと噛み合うピニオンギヤと、デフケースにピニオンギヤを自転可能に支持するスパイダシャフトと、ドライブギヤを回転自在に支持するキャリアケースと、を備える差動装置において、前記キャリアケースに各サイドギヤを回転自在に支持すると共に、右側または左側のアクスルシャフトに前記デフケースのスパイダシャフトを回転自在に支持することを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記デフケースのスパイダシャフトを回転自在に支持する右側または左側のアクスルシャフトは、同軸上を反対側のアクスルシャフトへ延長してスパイダシャフトを回転自在に支持すると共に、反対側のアクスルシャフトと一体に回転するサイドギヤを回転自在に支持する延長軸を備えることを特徴とする請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
右側のアクスルシャフトと右側のサイドギヤとの間および左側のアクスルシャフトと左側のサイドギヤとの間は、軸回りを一体に回転可能かつ軸方向へ変位可能に係合され、スパイダシャフトおよび各サイドギヤと延長軸との間は、軸方向へ変位可能に設定され、各サイドギヤとキャリアケースとの間は、軸方向へ変位可能に構成されることを特徴とする請求項2に記載の差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122597(P2012−122597A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276105(P2010−276105)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】