説明

巻上機の電動機巻線温度測定方法、電動機制御装置

【課題】インバータが標準的に備える機能を利用して、簡単な構成で安価なコストで、運転中の電動機の巻線温度を精度よく算出できる巻上機の電動機巻線温度測定方法、及び巻上機の電動機制御装置を提供すること。
【解決手段】インバータ4が備える電動機6の運転状態から間接的に電動機6の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段と、インバータ4が有する直流制動機能により電動機6の停止時にその巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧と通電直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する第2巻線温度算出手段と、第1巻線温度算出手段で算出された巻線温度を第2巻線温度算出手段で算出された巻線温度で補正する補正手段と、該補正した巻線温度が所定の値を超えた場合、電動機の駆動電力供給を遮断する遮断手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上下用電動機がインバータからの駆動電力で駆動される電気ロープストや電気チェーンブロック等の巻上機の電動機巻線温度測定方法、電動機制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻上下用電動機をインバータで駆動する巻上機では、低速運転時の電動機の発熱が大きく、過熱を防ぐ対策が必要となる。そのためには電動機の巻線温度を測定する必要がある。従来、電動機の巻線温度を検出できるサーミスターやサーモスタット等の温度センサをステータに組み込む方法があるが、この方法はステータ内の温度を直接検出するという利点はあるが、配線作業が増加すると共に、コストアップになるという問題がある。また、電動機の巻線抵抗を測定して該巻線抵抗値から温度を算出する方法もある。この方法は精度よく巻線温度を算出できるが、電動機の運転中には測定できない上、抵抗測定器が必要となり、リアルタイムで巻線の抵抗値を測定できない。
【0003】
従来この種の電動機の過熱防止対策として、特許文献1に記載の電動機制御装置がある。図1はこの電動機制御装置の構成を示すブロック図である。電動機制御装置100は、制御指令に基づいて電動機112に電力を供給する電動機駆動部114と、電動機112の停止時に電動機巻線に電流を流して抵抗を測定する抵抗測定部126と、この抵抗に基づき始動時温度を算出する温度算出部128と、電動機運転時の電流指令に基づき、電動機温度の上昇値を推定する温度上昇値推定部124と、始動時温度と上昇値に基づき現時点の電動機112の温度である運転時温度を算出する運転時温度算出部130と、運転時温度が予め設定された運転上限値を超えた場合、電動機駆動部114に電動機運転の停止指示を行う停止指示部132を備えたものである。
【特許文献1】特開平8−62825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記引用文献1に記載の電動機制御装置は、始動時のみ電動機の巻線抵抗を測定し、それ以後温度上昇値推定部124で電動機温度の上昇値を推定し、運転時温度算出部130で始動時温度と上昇値に基づき現時点の電動機112の運転時温度を算出しているため、電動機の巻線抵抗を測定するために別途抵抗を測定するための手段を設ける必要がありコスト高となるという問題がある。また、電動機の巻線抵抗を測定するために電動機配線を切り替える手段が必要となる上、切り替え作業等に時間がかかり測定時間も長くかかるという問題がある。また、温度上昇値推定部124で電動機運転時の電流指令に基づき電動機温度の上昇値を推定するので、誤差が累積するという問題がある。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、インバータが標準的に備える機能を利用して、簡単な構成で安価なコストで、運転中の電動機の巻線温度を精度よく算出できる巻上機の電動機巻線温度測定方法、及び巻上機の電動機制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、巻上下用の電動機、該電動機に駆動電力を供給するインバータを備えた巻上機の電動機巻線温度測定方法であって、インバータが備える電動機の運転状態から間接的に電動機の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度を前記インバータが備える直流制動機能により前記電動機の停止時に該電動機の巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧値と直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する第2巻線温度算出手段で算出した巻線温度で補正することを特徴とする。
【0007】
上記のように第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度を第2巻線温度算出手段で算出した巻線温度で補正するので、第1巻線温度算出手段は電動機の運転状態から間接的に電動機運転中の巻線温度を算出するので誤差が累積するが、第2巻線温度算出手段は電動機の停止時に該電動機の巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧値と通電直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値に基づいて巻線温度を算出する高精度で巻線温度を測定できる。従って、第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度を第2巻線温度算出手段で算出した巻線温度で補正することにより、運転中の巻上下用の電動機の巻線抵抗を高精度で算出することができる。
【0008】
また、本発明は上記電動機巻線温度測定方法において、第1巻線温度算出手段は、少なくとも電動機電流、インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数から該電動機巻線温度を間接的に算出する。
【0009】
電動機電流、インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数は電動機巻線の温度に大きく影響を与える運転状態情報であるから、この情報を基に運転中の電動機の巻線温度をある程度の精度で算出できる。
【0010】
また、本発明は、上記電動機巻線温度測定方法において、第2巻線温度算出手段は、電動機の巻線に直流電流を通電してから所定時間経過後の印加直流電圧値と通電直流電流値を測定し、該測定した直流電圧値と直流電流値から巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する。
【0011】
巻上下用の電動機の巻線に直流電流を通電した初期は電流値は安定しないが、所定時間経過することにより安定するから、そのとき印加直流電圧値と通電直流電流値から巻線の抵抗値を算出することにより、精度の良い抵抗値が得られ、高精度の巻線温度を算出できる。
【0012】
本発明は、巻上下用の電動機、該電動機に駆動電力を供給するインバータを備えた巻上機の電動機制御装置であって、インバータが備える前記電動機の運転状態から間接的に電動機の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段と、インバータが有する直流制動機能により電動機の停止時に該電動機の巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧値と通電直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する第2巻線温度算出手段と、第1巻線温度算出手段で算出された巻線温度を第2巻線温度算出手段で算出された巻線温度で補正する補正手段と、該補正した巻線温度が所定の値を超えた場合、電動機の駆動電力供給を遮断する遮断手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
上記のように補正手段で、第1巻線温度算出手段で算出された巻線温度を第2巻線温度算出手段で算出された巻線温度で補正するので、精度のよい巻線温度が得られるから、遮断手段で該補正した巻線温度が所定の値を超えた場合、電動機の駆動電力供給を遮断するので、電動機巻線の焼損を確実に防止できる。
【0014】
また、本発明は上記巻上機の電動機制御装置において、第1巻線温度算出手段は、少なくとも電動機電流、インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数から該電動機巻線温度を間接的に算出することを特徴とする。
【0015】
電動機電流、インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数は、電動機の回転数は電動機巻線の温度に大きく影響を与える運転状態情報であり、この情報を基に運転中の電動機の巻線温度をある程度の精度で巻線抵抗を算出できるので、運転中の電動機の巻線の焼損を防止できると共に、巻線温度が焼損に至らない低い温度で電動機が停止されることがなく、運転効率も向上する。
【0016】
また、本発明は上記巻上機の電動機制御装置において、第2巻線温度算出手段は、電動機の巻線に直流電流を通電してから所定時間経過後の印加直流電圧値と通電直流電流値を測定し、該測定した直流電圧値と直流電流値から巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出することを特徴とする。
【0017】
巻上下用の電動機の巻線に直流電流を通電した初期は電流値は安定しないが、所定時間経過することにより安定するから、そのとき印加直流電圧値と通電直流電流値から巻線の抵抗値を算出することにより、精度の良い抵抗値が得られ、高精度の巻線温度を算出でき、運転中の電動機の巻線の焼損を防止できると共に、巻線温度が焼損に至らない低い温度で電動機が停止されることがないから、運転効率も向上する。
【0018】
また、本発明は上記巻上機の電動機制御装置において、第2巻線温度算出手段は、第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度が所定の値に到達したら、電動機が停止中であることを条件として巻線温度の算出を行うことを特徴とする。
【0019】
電動機の運転状態から間接的に電動機の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段で算出された巻線温度が所定の温度、例えば上限値温度の1/2又は3/4となると、温度誤差が累積するから、ここで第2巻線温度算出手段が電動機が停止中であることを条件として巻線温度の算出を行うことにより、累積した温度誤差はキャンセルされ、高精度の巻線温度となり、運転中の電動機の巻線の焼損を防止できると共に、巻線温度が焼損に至らない低い温度で電動機が停止されることがないから、運転効率も向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る電動機巻線温度測定方法によれば、運転中の巻線温度を精度良く算出できるから、電動機巻線の焼損の防止対策等を有効に実施することができる。
【0021】
本発明に係る電動機制御装置によれば、精度のよい算出巻線温度により、電動機の駆動電力供給を遮断するので、電動機巻線の焼損を確実に防止できると共に、まだ焼損温度に達しない低い巻線温度で電動機を遮断して可動効率の低下を招くこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図2は本発明に係る巻上機の電動機制御装置の構成例を示すブロック図である。なお、ここでは巻上機として電気チェーンブロックを例に説明するが、巻上機は電気チェーンブロックに限定されるものではなく、例えば電動ロープホイストでもよい。電動機制御装置1は、押釦スイッチ2、制御装置3、インバータ4を備えている。インバータ4には3相(R相、S相、T相)交流電力(例えば、50Hz又は60Hzの200V商用電力)が電力供給線5を介して入力され、制御装置3の制御により、インバータ4から3相(U相、V相、W相)交流駆動電力が巻上下用の電動機6に供給されるようになっている。これにより電動機6は可変速で正回転及び逆回転するようになっている。7は電動機6を制動する電磁ブレーキ、8は電源用の変圧器であり、1次側は電力供給線5のR相とT相間に接続され、2次側から制御装置3等に低電圧(例えば24V)の電力を供給する。
【0023】
押釦スイッチ2は非常用押釦スイッチ21、上昇用押釦スイッチ(低・高速上昇用2段押釦スイッチ)22、下降用押釦スイッチ(低・高速下降用2段押釦スイッチ)23を備えており、その出力信号は制御装置3のインターフェース(IF)回路31に入力されるようになっている。非常用押釦スイッチ21は常時閉じており、電源を投入すると変圧器8の2次側出力が非常用押釦スイッチ21を通ってリレー34に印加され、付勢によりその接点34aが閉じ、インバータ4の端子HI、HCが短絡される。電動機暴走等の異常が発生した場合、非常用押釦スイッチ21を押すとリレー34の付勢は解除され、その接点は開き、インバータ4の端子HI、HCは開放される。
【0024】
上記電動機制御装置1において、上昇用押釦スイッチ22を1段目まで押し込むと、インターフェース回路31はそれを認識し、インバータ4に上昇低速運転指令を出力する。これによりインバータ4から低速上昇用周波数の駆動電力が電動機6に出力され、電動機6は低速で上昇方向(正回転)する。上昇用押釦スイッチ22を2段目まで押し込むと、インターフェース回路31はそれを認識し、インバータ4に上昇高速運転指令を出力する。これにより、インバータ4は電動機6が所定の高速回転速度になるまで所定の加速度で増速させ、その後この高速回転速度で運転させるような周波数の駆動電力を電動機6に出力する。これにより電動機6は高速で上昇方向(正回転)する。荷が目的上昇位置に達したら上昇用押釦スイッチ22を開放することにより、インバータ4から電動機6への駆動電力が遮断され、電動機6は停止する。
【0025】
下降用押釦スイッチ23を1段目まで押し込むと、インターフェース回路31それを認識し、インバータ4に下降低速運転指令を出力する。これによりインバータ4から低速下降用周波数の駆動電力が電動機6に出力され、電動機6は低速で下降方向(逆回転)する。下降用押釦スイッチ23を2段目まで押し込むと、インターフェース回路31はそれを認識し、インバータ4に下降高速運転指令を出力する。これによりインバータ4は電動機6が所定の高速回転速度になるまで所定の加速度で増速させ、その後この高速回転速度で運転させるような周波数の駆動電力を電動機6に出力する。これにより電動機6は高速で下降方向(逆回転)する。荷が目的下降位置に達したら下降用押釦スイッチ23を開放することにより、インバータ4から電動機6への駆動電力が遮断され、電動機6は停止する。
【0026】
51は上限リミットスイッチ(1段目)、52は下限リミットスイッチ(2段目)である。上限リミットスイッチ51と下限リミット52は常時閉じており、図示しない電気チェーンブロックのロードチェーンの一端に取り付けたフックが上昇し続け、上限リミットスイッチ51のレバーを押すとその接点が開放する。また、反対に、フックが下降をし続けると、ロードチェーンの他端に取り付けた端末ストッパーが上昇をし続け、下限リミットスイッチ52のレバーを押すとその接点が開放する。インバータ4はそれらを認識し、電動機6の正回転(上昇方向)又は逆回転(下降方向)をそれぞれ停止する(電動機6の駆動電力の供給を停止する)。
【0027】
上記のようにリレー34は電源が投入されると付勢され、その接点34aが閉じるようになっている。インバータ4のV相にダイオードスタック71が直列に挿入されており、V相に流れる電流を整流した直流が電磁ブレーキ7に流れそのブレーキ動作を拘束する。電磁ブレーキ7のブレーキ力を作動させるときは、インバータ4がその端子MA、MCを短絡するとリレー36に変圧器8の2次側出力が印加され付勢され、その接点36aが閉じるとダイオードスタック71から電磁ブレーキ7に供給されていた直流電流が絶たれブレーキ力が作動する。
【0028】
上記電動機制御装置1において、低速運転時の電動機6の発熱が大きく、過熱を防ぐ対策が必要となる。そのためには電動機6の巻線温度を精度良く測定する必要がある。このようなインバータ駆動の電動機制御装置では、インバータが標準的にもつ機能として、電動機に流れる電流値、インバータの出力周波数(=電動機回転数)、ファン冷却係数、電動機熱時定数、電動機の定格電流値等の運転状態情報から電動機の温度の増減を算出することで間接的に電動機の巻線温度を算出する間接的巻線温度算出機能(電子サーマル方式)を備えている。これによると、電動機の運転中でもその巻線温度を算出できるという利点がある。この間接的巻線温度算出機能を利用し、運転中に巻線温度が所定温度(焼損温度より所定量低い温度)に達したら電動機を停止することにより、電動機の焼損を防止できる。
【0029】
上記間接的巻線温度算出機能は、相対的な温度変化はわかるが絶対温度がわからないという欠点がある。そのため算出温度と実際の巻線温度の間に誤差があり、この誤差が積算(累積)するという問題がある。そのため、電動機の巻線温度が焼損温度になっているのに、算出させた巻線温度がそれ以下である場合、電動機を運転し続けて焼損したり、また実際の巻線温度がいまだ電動機を停止すべき巻線温度に達していないにも係らず算出した巻線温度が電動機を停止すべき所定の巻線温度である場合、電動機を停止し、電動機の稼動効率を低下させる。そこで本実施形態では、電動機停止中に簡単な操作で迅速に巻線抵抗を測定し、この巻線抵抗を基に巻線の絶対温度を算出し、この算出した絶対巻線温度で上記間接的巻線温度算出機能で算出した巻線温度を補正することにより、精度のよい巻線温度を得ようとするものである。
【0030】
電動機(誘導電動機)をインバータで駆動する電動機制御装置1では、電動機の巻線に直流電流を通電し、制動を掛ける直流制動機能を一般的に備えている。そこで本実施形態例では、この直流制動機能を利用して、電動機6の停止中に巻線にインバータ4から直流電流を通電して巻線の抵抗値を測定する。この測定抵抗値を基に巻線の絶対温度を算出し、この算出巻線温度で、上記間接的巻線温度算出機能で算出した巻線温度を補正するのである。このように電動機6の停止中に算出した絶対巻線温度で、間接的巻線温度算出機能で算出した巻線温度を補正することにより、温度誤差を累積させることなく、電動機6の巻線温度を高精度で算出することができる。抵抗値を測定するための巻線への通電は、電動機の停止中に実行しなければならないが、巻上機における巻上下用の電動機は頻繁に運転及び停止を繰り返すから、この停止中を利用して容易に実行できる。
【0031】
上記引用文献1に記載の方法では、制御開始時のみ電動機の配線を抵抗測定部に切り替え、巻線に直流電圧を印加し直流電流を通電し、この電圧値と電流値から抵抗値を測定し、該測定された抵抗値を基に巻線温度算出する。そのため巻線温度を算出するために電動機の配線切り替えが必要があり、切り替えに時間が掛かると共に、抵抗測定にも時間が掛かるという問題がある。更に、制御開始時に温度算出するのみで、その後は、間接的巻線温度算出機能で巻線温度を算出するので、累積誤差が問題となる。本実施形態例ではインバータ駆動の巻上機のインバータ4が備えている直流制動機能を利用して、電動機6の停止中に巻線抵抗を測定するので、インバータ4の制御部が備える制御用コンピュータのソフトウエアを変更することで、電動機6の停止中に抵抗測定のための巻線への直流電圧印加、直流電流の通電、電圧及び電流測定、抵抗値の算出、温度算出を瞬時に実行することができる。
【0032】
図3は上記電動機の巻線温度の算出処理フローを示す図である。先ず電源を投入する(ステップST1)、電動機6の巻線に直流電圧を印加して直流電流を通電し、電圧値測定、電流値測定、測定電圧値及び電流値より巻線抵抗値の算出し、該算出した巻線抵抗値から巻線温度(絶対温度)を算出する(ステップST2)。この算出した巻線温度(絶対温度)値で、上記間接的巻線温度算出機能で算出した巻線温度を補正する(ステップST3)。間接的巻線温度算出機能(電子サーマル機能)で巻線温度を算出(相対温度算出)する(ステップST4)。巻線温度が上限温度値(TU)以上かを判断し(ステップST5)、上限温度値(TU)以上であったら電動機6の運転を停止する(ステップST6)。
【0033】
巻線温度が上限温度値TUの1/2又は3/4に到達したか否かを判断し(ステップST7)、達していなかったら前記ステップST4に戻り、間接的巻線温度算出機能(電子サーマル機能)で巻線温度を算出(相対温度算出)する。巻線温度が上限温度値が1/2(TU)、3/4(TU)に到達していたら、電動機6か巻上・巻下の運転中か否かを判断し(ステップST8)、運転中であったら、前記ステップST4に戻り、間接的巻線温度算出機能(電子サーマル機能)で巻線温度を算出(相対温度算出)し、停止中であったら前記ステップST2に戻り、電動機6の巻線への直流電圧の印加、直流電流の通電、電圧及び抵抗の測定、抵抗値算出し、該算出抵抗値から巻線温度を算出する処理を行う。
【0034】
上記のように間接的巻線温度算出機能で巻線の相対温度を算出し、該相対温度が上限温度値Tuの1/2又は3/4に達する毎に、電動機6が停止中であることを条件に、巻線に直流電圧を印加して直流電流を通電し、電圧値及び電流値の測定、測定電圧値及び電流値により抵抗値を算出し、該算出した抵抗値から巻線温度を算出する(絶対温度算出)し、該算出した絶対温度値で間接的巻線温度算出機能で算出された巻線温度を補正するので、巻線温度を高精度で算出できる。
【0035】
なお、上記例では、巻線温度が上限温度値TUの所定値、ここでは1/2又は3/4に到達したか否かを判断し、到達した場合、電動機6が停止中であることを条件に絶対温度算出のための作業処理を行っているが、この絶対温度算出のための作業処理は相対温度に関係なく電動機6の停止毎に行ってもよいし、巻線温度が上限温度値TUを超えないであろうと予測できる所定の停止回数毎に行ってもよい。上限温度値TUの4/5以上の巻線温度では、電動機6が停止する毎に毎回行っても良い。
【0036】
図4(a)は電動機6のV相巻線、W相巻線、U相巻線に図4(b)に示すように直流電流IV、IW、IUを流した場合の直流電流IV、IW、IUの変化状態を示す図である。図示するように、直流電流IV、IW、IUは時刻T1で通電を開始してから、200msec程度でその大きさが安定する。従って、巻線抵抗値を高精度で得るためには、通電開始後200msec経過してから、印加直流電圧と通電直流電流を測定し、その測定値からV相巻線、W相巻線、U相巻線の抵抗値を算出するのが良い。このようにすることにより、通電開始時の電流の過渡変化を回避して電圧値及び電流値を測定することにより、高精度で巻線温度が算出できる。
【0037】
上記のように電動機6のV相巻線、W相巻線、U相巻線に直流電流を通電し、その測定電圧値と測定電流値から巻線抵抗を測定する操作は、電動機6の停止中でなければ実行できないが、上記のように巻上機では巻上下用の電動機を停止する時間は必ずあるので、この時間を利用すれば、巻線抵抗値の測定が実行でき、この抵抗値から巻線温度を精度良く算出できる。
【0038】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】特許文献1に記載の電動機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る巻上機の電動機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る巻上機の電動機制御装置の電動機の巻線温度の算出処理フローを示す図である。
【図4】電動機巻線に直流電流を通電した場合の変化状態を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電動機制御装置
2 押釦スイッチ
3 制御装置
4 インバータ
5 電力供給線
6 電動機
7 機械式ブレーキ
8 変圧器
21 非常用押釦スイッチ
22 非常用上昇用押釦スイッチ
23 下降用押釦スイッチ
31 インターフェース回路
34 リレー
36 リレー
41 抵抗器
51 上限リミットスイッチ
52 下限リミットスイッチ
71 ダイオードスタック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上下用の電動機、該電動機に駆動電力を供給するインバータを備えた巻上機の電動機巻線温度測定方法であって、
前記インバータが備える前記電動機の運転状態から間接的に前記電動機の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度を前記インバータが備える直流制動機能により前記電動機の停止時に該電動機の巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧値と直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する第2巻線温度算出手段で算出した巻線温度で補正することを特徴とする巻上機の電動機巻線温度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機巻線温度測定方法において、
第1巻線温度算出手段は、少なくとも前記電動機電流、前記インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数から該電動機巻線温度を間接的に算出することを特徴とする巻上機の電動機巻線温度測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動機巻線温度測定方法において、
前記第2巻線温度算出手段は、前記電動機の巻線に直流電流を通電してから所定時間経過後の前記印加直流電圧値と通電直流電流値を測定し、該測定した直流電圧値と直流電流値から前記巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出することを特徴とする巻上機の電動機巻線温度測定方法。
【請求項4】
巻上下用の電動機、該電動機に駆動電力を供給するインバータを備えた巻上機の電動機制御装置であって、
前記インバータが備える前記電動機の運転状態から間接的に前記電動機の運転中の巻線温度を算出する第1巻線温度算出手段と、前記インバータが有する直流制動機能により前記電動機の停止時に該電動機の巻線に直流電流を通電しその印加直流電圧値と通電直流電流値から該巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出する第2巻線温度算出手段と、前記第1巻線温度算出手段で算出された巻線温度を前記第2巻線温度算出手段で算出された巻線温度で補正する補正手段と、該補正した巻線温度が所定の値を超えた場合、前記電動機の駆動電力供給を遮断する遮断手段を備えたことを特徴とする巻上機の電動機制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の巻上機の電動機制御装置において、
第1巻線温度算出手段は、少なくとも前記電動機電流、前記インバータの出力周波数、出力電流値、電動機定格電流値、電動機熱時定数、ファン冷却係数から該電動機巻線温度を間接的に算出することを特徴とする巻上機の電動機制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の巻上機の電動機制御装置において、
前記第2巻線温度算出手段は、前記電動機の巻線に直流電流を通電してから所定時間経過後の前記印加直流電圧値と通電直流電流値を測定し、該測定した直流電圧値と直流電流値から前記巻線の抵抗値を算出し該抵抗値から巻線温度を算出することを特徴とする巻上機の電動機制御装置。
【請求項7】
請求項4又は5又は6に記載の巻上機の電動機制御装置において、
前記第2巻線温度算出手段は、前記第1巻線温度算出手段で算出した巻線温度が所定の値に到達したら、前記電動機が停止中であることを条件として前記巻線温度の算出を行うことを特徴とする巻上機の電動機制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−33895(P2009−33895A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196429(P2007−196429)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】