説明

布材

【課題】導電線材の長さ方向に温熱感を変化させる調整を行えるようにすることにある。
【解決手段】通電により発熱可能な導電線材11を備える布材10であって、導電線材11は、布材の特定の面方向に向かって配設されており、その抵抗値が長さ方向に部分的に異なる構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布材に関する。詳しくは、通電により発熱可能な導電線材を備える布材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートの着座面を加熱する手段として、織物から成る表皮材(布材)中に、通電により発熱可能な導電糸(導電線材)が織り込まれたものが知られている(下記特許文献1参照)。この導電糸は、表皮材に対し、シート幅方向に織り込まれており、シート前後方向に複数並べて設けられることにより、着座面を広い領域に亘って加熱できるようになっている。詳しくは、上記開示技術では、導電糸をシート前後方向に並べる間隔を適宜変えることにより、温熱感を変化させる調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−227384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術では、導電糸を並べる間隔を変えることにより、その並べる方向に温熱感を変化させる調整をすることはできるが、導電糸の長さ方向に温熱感を変化させる調整をすることができない。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、導電糸(導電線材)の長さ方向に温熱感を変化させる調整を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の布材は次の手段をとる。
第1の発明は、通電により発熱可能な導電線材を備える布材であって、導電線材は、布材の特定の面方向に向かって配設されており、その抵抗値が長さ方向に部分的に異なる構成となっているものである。
【0006】
この第1の発明によれば、布材の特定の面方向に向かって配設された導電線材の抵抗値を、導電線材の長さ方向に部分的に異ならせるように構成することにより、導電線材の長さ方向に温熱感を変化させる調整を行うことができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、導電線材は、その有効断面積が長さ方向に部分的に異なることにより抵抗値が変わる構成となっている。
【0008】
この第2の発明によれば、導電線材の有効断面積を長さ方向に部分的に異ならせて抵抗値を変化させる構成としたことにより、可変抵抗器等の別途の装置を設けることなく、抵抗を変化させる手段を簡便な形で具現化することができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第2の発明において、布材が車両用シートの着座面を構成する表皮材として適用され、導電線材が布材に対してシート幅方向に配設されているものである。
【0010】
この第3の発明によれば、導電線材を布材に対してシート幅方向に配設することにより、着座者に温熱感を与えることのできる領域をシート幅方向に広く確保することができると共に、着座部位毎に好適な温熱感を与えられるようにシート幅方向に温熱感を変化させる調整を行うことができる。
【0011】
第4の発明は、上述した第2又は第3の発明において、導電線材の長さ方向の一部の外周部に導電ペーストを塗付することにより、上記一部の有効断面積を増大させて抵抗値を低下させたものである。
【0012】
この第4の発明によれば、導電線材の長さ方向の一部の外周部に導電ペーストを塗付して同部の抵抗値を低下させる構成としたことにより、導電線材の抵抗値をより簡便な手段によって低下させることができる。
【0013】
第5の発明は、上述した第2又は第3の発明において、導電線材は複数本の導電糸が撚り合わせて構成されており、導電線材の長さ方向の一部の領域において複数本の導電糸の中から一部を切除することにより上記導電線材の一部の抵抗値を増大させたものである。
【0014】
この第5の発明によれば、複数本の導電糸を撚り合わせて構成した導電線材の長さ方向の一部の領域において、複数本の導電糸の中から一部を切除して同部の抵抗値を増大させる構成としたことにより、導電線材の抵抗値をより簡便な手段によって増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の布材が適用された車両用シートの斜視図である。
【図2】布材の一部透視平面図である。
【図3】図2のIII-III線断面図である。
【図4】導電線材の抵抗変化の分布を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
始めに、実施例1の布材10の構成について、図1〜図4を用いて説明する。本実施例の布材10は、図1〜図2に示すように、車両用シート1のシートクッション2の着座面を構成する表皮材として構成されている。この布材10は、その内部に、通電により発熱可能な複数本の導電線材11が埋設されており、各導電線材11を通電させて発熱させることにより、ヒータとして機能させられるようになっている。
【0018】
上記導電線材11は、図2に示すように、それぞれ、布材10の内部において、シート幅方向LRに向かって真っ直ぐに延びるように配設されており、このような導電線材11が布材10の内部にシート前後方向FRに複数本並べられて設けられている。これら導電線材11は、炭素繊維のフィラメント(導電糸)を複数本束状に撚り合わせて構成したものである。なお、導電線材11は、この他にも、金属製又は合金製の導電糸やメッキ線材から成るものであってもよく、これら線材を複数本束状に撚り合わせて構成したものであってもよい。
【0019】
布材10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸を織って構成したものである。なお、布材10は、この他にも、各種の絶縁繊維から成る線材によって作製される織物、編物、不織布又は組紐(組物)によって構成したものであってもよい。上記絶縁繊維としては、植物系又は動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維、或いはこれらの混紡繊維から成るものが挙げられる。
【0020】
上記導電線材11は、布材10を織り込んで作製する際に、布材10の線材が織り込まれる所定間隔毎に打ち込まれることで、布材10の内部に埋設されている。なお、導電線材11は、布材10の裏面に貼り付けられて設けられるものであってもよい。上記布材10の裏面には、図示しないパッド材及び裏基布が設けられている。上記布材10は、各導電線材11に電気的につなげられた通電手段12によって、各導電線材11を通電させて発熱させることによりヒータとして機能するが、本実施例では、各導電線材11の抵抗値をその長さ方向に変化させることにより、ヒータの温熱感をシート幅方向LRに部分的に異ならせることのできる構成となっている。
【0021】
以下、上記各導電線材11の抵抗値をその長さ方向に変化させる構成について説明する。ここで、各導電線材11は、図2及び図3に示すように、その両端部11Aが、布材10の各縁部からシート外側に露出した状態とされており、各側の露出した端部11Aに跨るように、導電性の電源ケーブル12Aがそれぞれ電気的に接続された状態となって設けられていると共に、更にこれら接続部に跨るように、導電性を有する帯状の接続テープ12Bが各側の導電線材11の露出した端部11Aにそれぞれ部分部分に溶着されて電気的に接続された状態となって設けられている。これにより、各側の導電線材11の端部11Aと電源ケーブル12Aとが、接続テープ12Bによって良好に接続された状態となっている。詳しくは、上記接続テープ12Bは、図3に示すように、そのシート内側となる図示右方側の縁部が、布材10の縁部に乗り掛かった状態として布材10に一体的に溶着されて固定されている。これにより、接続テープ12Bが、布材10に対しても一体的に固定された状態として、各導電線材11の端部11Aとの電気的な接続状態がより安定した状態に保持されるようになっている。なお、接続テープ12Bと布材10との接着は、上記溶着に限らず、縫合や接着剤を用いた接着等の他の手段を用いての接着であってもよい。
【0022】
上記各側の電源ケーブル12Aは、それぞれ、図示しない電源に接続されており、各導電線材11が電源に対して並列に並ぶ並列回路を構成するように組まれている。これにより、各導電線材11を、比較的低い電圧によって通電させて発熱させられるようになっている。上記各導電線材11は、図4に示すように、それらのシート幅方向LRの両サイド領域SAに延びるサイド部11Bが、その外周部に銀粉を導電粉とする導電ペーストPが塗付されて、その通電可能な有効断面積が増大されており、抵抗値が下げられた構成となっている。なお、導電ペーストPの導電粉としては、その他にも、銅粉、銅合金粉、又は銀合金粉等の他の導電粉を用いることもできるが、導電性が良好な銀粉を用いることが好ましい。
【0023】
また、各導電線材11は、それらのシート幅方向LRの中央領域CAに延びる中央部11Cが、各導電線材11を構成する複数本の束状に撚り合わされた導電糸の中から一部が切除されて、その通電可能な有効断面積が低減されており、抵抗値が上げられた構成となっている。なお、切除された導電糸は、その切除された端部からは、束状に撚り合わされて隣接する他の導電糸へと通電されることとなる。
【0024】
このように、各導電線材11の抵抗値を各導電線材11の長さ方向に部分的に異ならせる構成とすることにより、各導電線材11の長さ方向に温熱感を変化させる調整を行うことができる。したがって、例えば、布材10の着座者の尻部や大腿部が当たる部位の発熱量を部分的に高めたり、当たらない部位の発熱量を下げたりして、消費電力を極力抑えられるように設計することができる。また、布材10の着座者の尻部や大腿部と強く当たる部位では、温熱感が高くなりすぎないように発熱量を下げたり、着座者の尻部の側部や大腿部の側部など、布材10との間に隙間ができやすい部位では、寒さを感じやすくならないように発熱量を上げたりして、快適性を向上させるように設計することができる。また、布材10をシートバック3の表皮材として用いる場合には、伝熱対象を着座者の背部や腰部にして、上記のように消費電力を抑えたり快適性を向上させたりする設計を行うことができる。なお、各導電線材11において、抵抗値を増大させたり低減させたりする部位は、使用目的に応じて適宜設定すればよいものであり、各導電線材11毎に異なるように設定されていてもよく、例えば、両サイド部11Bの抵抗値を高くして発熱量を高くし、中央部11Cの抵抗値を低くして発熱量を低くしたりしてもよい。
【0025】
このように、本実施例の布材10によれば、布材10の特定の面方向(シート幅方向LR)に向かって配設された各導電線材11の抵抗値を、各導電線材11の長さ方向に部分的に異ならせるように構成することにより、各導電線材11の長さ方向に温熱感を変化させる調整を行うことができる。また、各導電線材11の有効断面積を長さ方向に部分的に異ならせて抵抗値を変化させる構成としたことにより、可変抵抗器等の別途の装置を設けることなく、抵抗を変化させる手段を簡便な形で具現化することができる。
【0026】
また、導電線材11を布材10に対してシート幅方向LRに配設することにより、着座者に温熱感を与えることのできる領域をシート幅方向LRに広く確保することができると共に、着座部位毎に好適な温熱感を与えられるようにシート幅方向LRに温熱感を変化させる調整を行うことができる。また、各導電線材11の長さ方向の一部(両サイド部11B)の外周部に導電ペーストPを塗付して同部の抵抗値を低下させる構成としたことにより、導電線材11の抵抗値をより簡便な手段によって低下させることができる。また、複数本の導電糸を撚り合わせて構成した各導電線材11の長さ方向の一部(中央部11C)において、複数本の導電糸の中から一部を切除して同部の抵抗値を増大させる構成としたことにより、各導電線材11の抵抗値をより簡便な手段によって増大させることができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。上記実施例では、布材10を車両用シート1のシートクッション2の表皮材として用いたものを例示したが、シートバックやヘッドレストやオットマン等の着座者が接触する部位の表皮材を構成するものとして用いてもよい。また、本発明の布材は、車両用シートの表皮材への適用に限定されず、使用者に温熱感を与えるために使用される種々の布材に適用することができるものである。また、布材に設けられる導電線材は、少なくとも1本あれば良く、その配される本数は特に限定されない。また、導電線材を配する方向も、布材の特定の面方向に向かって配されていれば良く、例えば、上記実施例において、導電線材が布材のシート前後方向に延びるように配されていてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 シートバック
10 布材
11 導電線材
11A 端部
11B サイド部
11C 中央部
12 通電手段
12A 電源ケーブル
12B 接続テープ
P 導電ペースト
LR シート幅方向
FR シート前後方向
SA サイド領域
CA 中央領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱可能な導電線材を備える布材であって、
前記導電線材は前記布材の特定の面方向に向かって配設されており、その抵抗値が長さ方向に部分的に異なる構成となっていることを特徴とする布材。
【請求項2】
請求項1に記載の布材であって、
前記導電線材はその有効断面積が長さ方向に部分的に異なることにより抵抗値が変わる構成となっていることを特徴とする布材。
【請求項3】
請求項2に記載の布材であって、
前記布材が車両用シートの着座面を構成する表皮材として適用され、前記導電線材が前記布材に対してシート幅方向に配設されていることを特徴とする布材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−238389(P2011−238389A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107018(P2010−107018)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】