説明

希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石

【課題】還元拡散時に希土類元素の組成ずれを抑制でき、優れた磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石を提供する。
【解決手段】希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び希土類酸化物を還元するための還元剤を含有する原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入し、非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金を得た後、窒化処理して、希土類元素の含有量のばらつきが抑制された希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法であって、原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入する際に、その底部に、予め、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物から選ばれる調整用原料を装填してから、次いでその上に原料混合物を装填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石に関し、さらに詳しくは、還元拡散時に希土類元素の組成ずれを抑制でき、優れた磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家電、音響機器、自動車用各種機器などさまざまな機器の小型化や高効率化が要求されている。そして、このような機器にとって必要不可欠な永久磁石にも小型化、高特性化が望まれている。このような状況下、フェライトなどの低特性磁石に比較し、数10倍の磁気特性を有する希土類磁石の需要が伸びている。
【0003】
たとえば、Nd−Fe−B系焼結磁石は、55MGOeを超える(BH)maxを有し、最も需要が高い磁石の一つである。さらに、磁石粉末の磁気特性でNd−Fe−B系磁石に並ぶ磁石として、菱面体晶系、六方晶系、正方晶系、又は単斜晶系の結晶構造を有する金属間化合物に窒素を導入した希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が、特に永久磁石材料として優れた磁気特性を有することから注目されている。
【0004】
このような希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末として、例えば、Fe−R−N(R:Y、Th、及び全てのランタノイド元素からなる群の中から選ばれた一種または二種以上)で表される永久磁石(特許文献1参照)、また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有し、R−Fe−N−H(R:イットリウムを含む希土類元素のうちの少なくとも一種)で表される磁気異方性材料(特許文献2参照)や、R−Fe−M−A(R:Yまたはイットリウムからなる希土類金属、M:V、Ti、Moのうちの少なくとも一種、A:NまたはCからなる元素)で表される希土類磁石材料(特許文献3参照)が提案されている。さらに、菱面体晶系、六方晶系、又は正方晶系の結晶構造を有するThZn17型、TbCu型、又はThMn12型金属間化合物に窒素等を含有させた希土類磁石材料(特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
また、これらの磁石材料の磁気特性等を改善するために、種々の添加物を用いることも検討されている。例えば、この特許文献4には、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも一種;M:Mg、Ti、Zr、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物のうち少なくとも一種)で表される磁性材料が開示されている。
【0006】
これらの希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の多くは、平均粒径1〜10μmの粉末として使用される。平均粒径が10μmを超えると、必要な保磁力が得られなかったり、ボンド磁石の表面が粗くなって磁粉の脱落が起こりやすくなり、一方、平均粒径が1μm未満では、粉末の酸化による発熱やThZn17型結晶構造を有する主相の分解による磁気特性の低下が起こるためである。
【0007】
希土類−遷移金属−窒素系磁性材料は、溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等によって、1〜10μmを超える平均粒径を有する希土類−遷移金属系の母合金粉末を製造されている。そして、母合金粉末を得た後、合金内に窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、上記所定の粒度に微粉化されている。
【0008】
上記母合金粉末を溶解鋳造法で製造するには、希土類金属、遷移金属、必要に応じてその他の金属を所定の比率で調合して、不活性ガス雰囲気中で高周波溶解し、得られた合金インゴットを均一化熱処理した後、ジョークラッシャー等で所定の粒度に粉砕される。また、液体急冷法では、上記合金インゴットから合金薄帯を作製、これを粉砕して製造される。また、還元拡散法では、希土類酸化物粉末、還元剤、遷移金属粉、必要に応じてその他の金属粉及び/又は金属酸化物を出発原料として製造される。
【0009】
しかし、例えば、溶解鋳造法では、溶かした合金が固まる際、温度分布ができ組成ずれを起こしてしまう。また、溶解鋳造法、液体急冷法では、原料として使用する希土類金属が高価であるため経済的ではない。
【0010】
一方、還元拡散法では、炉内の温度分布によって温度の高い箇所の希土類元素が蒸発し組成ずれを起こしてしまう。組成がずれた母合金を用いた磁石粉末は、主相以外の合金相が含まれるので磁気特性は低くなってしまう。このようなことから上記の方法では、母合金組成のばらつきがないものを製造するのは難しいというのが実状である。
【0011】
このため、本出願人は、原料粉末を予め加圧成形しておくことで、還元拡散反応中に生成した溶体の移動を制限し、母合金組成のばらつきを防止することを提案した(特許文献5参照)。
これにより、かかる問題はある程度解消されたが、工程が一層複雑になり、コスト的に不利となることに加えて、還元拡散反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金粉末には凝集・融着部が多く存在し、窒化処理後も合金粉末同士が強く凝集・融着しているため、粉末を磁界中で配向させた際の配向性(粉末配向度)が劣り、磁化が低くなるという問題が残されている。このため、ジェットミル等の粉砕装置を用いて、合金粉末の凝集・融着部を解砕して微粉化する対応が採られるが、解砕の際に生じる結晶の歪みのために保磁力が低下するという新たな問題が発生する。
【0012】
上述のとおり、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の磁気特性を向上させるための試みは種々行われているが、未だ、改善すべき問題が多く残されている。このため、上記従来技術の問題点を解決し、組成ずれの無い、優れた磁気特性を示す希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法を開発することが強く求められていた。
【特許文献1】特開昭60−131949号公報
【特許文献2】特開平2−57663号公報
【特許文献3】特開平6−279915号公報
【特許文献4】特開平3−153852号公報
【特許文献5】特開平10−280002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、上記従来の問題点に鑑み、還元拡散時に希土類元素の組成ずれを抑制でき、優れた磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、希土類酸化物を含む原料を還元剤によって還元し遷移金属中に拡散させ母合金を得た後、該母合金を窒化処理して希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法において、還元拡散時の加熱焼成により還元拡散用の反応容器内の相対的に温度が高くなる箇所に、予め希土類元素又は原料混合物よりも希土類元素の含有量を多くした調整用原料を導入することにより、炉内の温度分布等によって温度が高くなった場所で希土類元素が蒸発しても、希土類元素が不足しないようになり、生成した窒素導入前の合金の組成をより均一にすることができ、窒化後の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の特性を高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び希土類酸化物を還元するための還元剤を含有する原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入し、非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金を得た後、窒化処理して、希土類元素の含有量のばらつきが抑制された希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法であって、原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入する際に、その底部に、予め、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物から選ばれる調整用原料を装填してから、次いでその上に原料混合物を装填することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、原料混合物に含まれる希土類元素の含有量は、7〜11原子%であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0017】
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、調整用原料に含まれる希土類元素の含有量は、原料混合物と調整用原料に含まれる希土類元素の合計量に対して、2〜40%であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0018】
一方、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明の製造方法により得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が提供される。
【0019】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、希土類元素の含有量が、3〜20原子%であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が提供される。
【0020】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第4又は5の発明において、希土類元素の含有量のばらつきが0.3原子%以内であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が提供される。
【0021】
一方、本発明の第7の発明によれば、第4〜6のいずれかの発明に係る希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、樹脂バインダーを混合して得られるボンド磁石用組成物が提供される。
【0022】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明のボンド磁石用組成物を、圧縮成形又は射出成形により成形してなるボンド磁石が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法によれば、還元拡散用の反応容器の中で原料粉末を加熱焼成する際、希土類元素が飛散しても、母合金中で希土類元素の量が局所的に減少することがないことから、より組成が均一な希土類−遷移金属系母合金粉末を製造することができる。こうして得られた母合金粉末を用いて窒化処理を行うことによって、高い磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が得られ、優れたボンド磁石を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とその製造方法、および得られるボンド磁石を詳しく説明する。
【0025】
1.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法は、(1)希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び上記希土類酸化物を還元するための還元剤が配合されている原料混合物と、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物から選ばれる調整用原料とを用意し、還元拡散用の反応容器に調整用原料が底部に位置するように導入し、(2)非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により希土類−遷移金属系母合金を得て、(3)該母合金を窒化処理して希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法である。
【0026】
(1)還元拡散用の反応容器への原料混合物の配置
本発明により希土類−遷移金属−窒素系磁石材料を製造するには、先ず希土類酸化物粉末、還元剤、遷移金属粉、必要に応じてその他の金属粉及び/又は金属酸化物を出発原料とする原料混合物と、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物から選ばれる調整用原料とを用意して、還元拡散用の反応容器へこれら粉末原料を特定の位置関係になるように装填する。
【0027】
(還元拡散用の反応容器)
本発明においては、希土類酸化物を還元し、遷移金属へ拡散させるために図1に示すような反応装置を用いる。この反応装置は、原料混合物を装填した反応容器を収容する密閉型の還元拡散容器と、その内部の雰囲気ガスをアルゴンなどの非酸化性ガスに置換し、非酸化性ガスを流通する手段、還元拡散容器を所定の温度に加熱するヒーター6が煉瓦5の中に組込まれた電気炉などから構成されている。
【0028】
還元拡散容器内に設置される反応容器の構造は、その内部が円筒状、角筒状など様々な形状のものが採用され、材質はステンレスなど耐食性のものが好ましい。反応容器の底部形状は、半球状、角のとれた筒状など、いかなる形状であっても良く特に制限されない。
【0029】
(希土類酸化物粉末)
本発明に用いられる希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、希土類元素として、Yを含むランタノイド元素のいずれか1種または2種以上、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、及びSmの群から選ばれる少なくとも一種以上の元素が挙げられる。これらの少なくとも一種と、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbの群から選ばれる少なくとも一種の元素とからなるものを組合せれば、さらに磁気特性を高めることができる。
希土類元素の中でも、特に、Smは好ましく、希土類元素の50原子%以上占めると高い保磁力を持つ材料が得られる。
【0030】
ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが含まれていても差し支えない。
特に、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、SrまたはBaの少なくとも一種以上の元素は、希土類−遷移金属−窒素系磁石合金粉末の結晶粒界に存在するのではなく、該合金内部に0.001〜0.1wt%含有され、合金内に均一に分散されていると、希土類−遷移金属−窒素系合金粉末をより短い窒化処理時間で製造することができる。
【0031】
(遷移金属粉末)
母合金を構成する遷移金属は、磁石粉末の強磁性を担う基本元素であり、Fe、Co、Ni、Mnが一般的に用いられるが、特に限定はされない。遷移金属として、特に好ましいのはFeであり、さらに磁気特性を損なうことなく磁石の温度特性を改善する目的で、Feの一部をCoで置換してもよい。
【0032】
また、保磁力の向上、生産性の向上並びに低コスト化を図るために、上記Mnの他に、Ca、Cr、Nb、Mo、Sb、Ge、Zr、V、Si、Al、Ta又はCu等から選ばれた一種以上を添加してもよい。この場合、添加量は、遷移金属全重量に対して7重量%以下とすることが望ましい。また、不可避的不純物としてCあるいはB等が5重量部%以下含有されていてもよい。
【0033】
鉄粉末としては、例えば還元鉄粉、ガスアトマイズ粉、水アトマイズ粉、電解鉄粉などが使用でき、必要に応じて上記粒度になるように分級する。なお、鉄粉末の30重量%までを酸化鉄粉末としてもよい。
また、コバルト粉末としては、金属コバルトの他、たとえば酸化第一コバルトや四三酸化コバルト、これらの混合物など、ニッケル粉末としては、金属ニッケルの他、各種酸化ニッケルなど、さらに、マンガン粉末としては、金属マンガンの他、たとえば酸化マンガンや二酸化マンガン、これらの混合物なども使用できる。
【0034】
(還元剤)
還元剤としては、Li及び/又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Mg、Sr又はBaから選ばれる少なくとも一種からなるアルカリ金属又はアルカリ土類金属元素が使用できる。
なお、上記還元剤の中では、取り扱いの安全性とコストの点から、金属Li又はCaが好ましく、特にCaが好ましい。還元剤として用いたCaは非磁性であり、母合金の結晶粒界に多く残留していると磁気特性を下げるので、できるだけ少ない方が好ましい。上記したように、Caが磁石合金内部に0.001〜0.1wt%含有され、合金内に均一に分散されている場合は、希土類−遷移金属−窒素系合金粉末をより短い窒化処理時間で製造することができるという効果が有り、前記の限りではない。
【0035】
(原料混合物)
本発明において、原料混合物とは、上記の希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、および還元剤を所定量配合したものである。これには、必要に応じてその他の金属粉及び/又は金属酸化物を配合することができる。この混合物は、通常、単に互いに混合した状態で出発原料とされる。ただし、予め混合物を加圧しペレット化しておいても良い。
【0036】
原料混合物中には、希土類元素が7〜11原子%含まれるようにすることが望ましく、このような割合で配合することにより、得られる合金粉の組成は理論上、最も高い特性付近の値となる。上記範囲を外れると、できた合金粉末の組成が理論上好ましい値からずれてしまい、最終的に得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の磁気特性が低下してしまうため好ましくない。
【0037】
粉末は、それぞれの粉体特性差によって分離しないように均一に混合することが重要である。混合方法としては、たとえばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライター、ジェットミルなどが使用できる。
【0038】
(調整用原料)
本発明において、調整用原料とは、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物(以下、過剰希土類混合物とも呼ぶ)である。
希土類酸化物粉末および還元剤は、特別なものを用いる必要はなく、上記原料混合物で使用するものと同様なものでよい。
【0039】
調整用原料は、還元拡散時、還元物の希土類が蒸発し部分的に減少した分を補うためのものであり、希土類金属を用いるか、希土類酸化物粉末と還元剤とを配合し遷移金属粉末を用いないで混合物を調製するか、原料混合物よりも希土類酸化物粉末、および還元剤の量を増加させ、遷移金属粉末の量を相対的に減少させて過剰希土類混合物を調製すればよい。
【0040】
過剰希土類混合物は、原料混合物よりも希土類元素を1〜30原子%多く含んでいることが好ましい。過剰希土類混合物と原料混合物との希土類元素の含有量の差が1原子%未満では、加熱焼成したときに不足する分の希土類を補うのに不十分であり、30原子%を超えると逆に希土類が過剰になり磁気特性を下げてしまう。
【0041】
また、調整用原料は、その希土類元素の含有量が、原料混合物と調整用原料に含まれる希土類元素の合計量に対して、2〜40%であることが好ましい。調整用原料の希土類元素の含有量が2%未満では加熱焼成によって不足する分の希土類を補うのに不十分であり、40%を超えると逆に希土類が過剰になり磁気特性を下げてしまうからである。
【0042】
原料混合物の導入方法は、予め調整用原料を用意し、これを還元拡散用の反応容器の底部に装填し、その上に、希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び還元剤が配合されている原料混合物を装填する。すなわち、調整用原料を還元拡散用の反応容器底部に略均一な厚さの層になるように敷き、その上に原料混合物の層を形成する(図2参照)。
【0043】
ここで、調整用原料の層と原料混合物の層との境界は、通常は明確な二層になるが、還元拡散用の反応容器の構造やその底部形状などによっては、装填する粉末の量を段階的あるいはなだらかに変化させても良い。さらに、希土類の飛散を防止する目的で、原料混合物の上に内蓋を被せたり、落し蓋などをしてもよい。
【0044】
(2)原料混合物の還元拡散工程
還元拡散用の反応容器に原料混合物を導入したら、この状態で酸素が実質的に存在しない非酸化性雰囲気下で加熱処理して還元反応を起こさせる。
【0045】
Caは、融点が838℃、沸点が1480℃であるので、処理温度は1000〜1250℃、好ましくは1100〜1200℃に設定する。1000℃未満では鉄粉末に対して、希土類元素の拡散が不均一となり、これを用いて製造される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下する。1250℃を超えると、生成した母合金粉末が粒成長を起こすとともに互いに焼結するため、均一窒化が困難になり磁石粉末の角形性が低下する。
【0046】
上記の温度条件であれば、還元剤は溶解するが、蒸気にはならないので好ましく処理できる。これにより上記希土類酸化物が希土類元素に還元されるとともに、この希土類元素が遷移金属粉中に拡散された希土類−遷移金属母合金が合成される。還元拡散は、温度条件だけでなく、前記還元剤の投入量、還元剤および希土類酸化物の粉体性状、各種粉末の混合状態、還元拡散反応の時間を注意深く制御して行われる。
【0047】
還元拡散を6〜12時間行った後、炉を冷却し、必要により希土類−遷移金属合金を含んだ反応生成物(以下、還元物という場合がある)を水素処理してから、水中に投入しデカンテーションを行った後、酸洗を行い、固液分離して希土類−遷移金属合金粉末を得る。
【0048】
(水素処理)
上記還元物は、非常に硬いため単に機械的に粉砕することは困難である。この粉砕性を改善し、さらには水中での崩壊性を改善するために、還元物に対し水素処理を行い、粉状にすることができる。水素処理では、希土類−遷移金属合金を含んだ還元物をステンレス製還元拡散用の反応容器に入れたまま、あるいは専用の容器に移してからアルゴンガスを封入し、その後、水素に置換し、所定の時間水素ガスを流し続ける。
【0049】
水素処理は、通常500℃以下の温度で実施するが、取り出した崩壊物の粒径が10mm以下、好ましくは1mm以下になるように、反応温度と時間を設定する必要がある。崩壊物が10mmを超える状態では、湿式処理に引き続いて行われる窒化処理工程で均一な窒化が困難になり、磁石粉末の角形性が低下する。
【0050】
(水洗、デカンテーション、酸洗)
その後、得られた還元物1kgあたり約10リットルの水中に投入し、1時間攪拌し還元物を崩壊させる。その後、水中で還元物が崩壊し、得られたスラリーを粗い篩を通し水洗槽に移入する。このときスラリーのpHは11〜12程度であり、崩壊せずに残留する塊はなく、篩上に残ったロスは非常に少なくなる。
【0051】
この後、デカンテーションを5回程度繰り返す。デカンテーション条件は上記スラリーに注水し、例えば、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とする。
その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸等の酸を添加し、酸洗を行い固液分離し、乾燥して希土類−遷移金属合金粉末を得る。
得られた希土類−遷移金属合金粉を窒化して磁石粉にする際に、効率よく窒化を良好にするために、通常100μm程度以下の粒子を用いることが好ましく、必要によっては解砕を行うことが好ましい。
【0052】
得られる希土類−遷移金属合金粉末は、凝集・融着部を実質的に含まない平均粒径10〜100μmの粉末であればよく、粒径の大きな希土類−遷移金属系合金粉末をさらに微粉化(解砕を含む)して製造してもよい。粒径が10μmよりも細かいと、発火し易く取り扱いが難しくなる。また、100μmを超えると均一な窒化が行えず、磁気特性が低くなる場合がある。
【0053】
合金粉末を微粉化する方法としては、特に制限されず、例えば、湿式粉砕法ではボールミル粉砕や媒体攪拌型ミル粉砕等を、乾式粉砕法では不活性ガスによるジェットミル粉砕等を用いることができる。
これらの中でも、粉末の凝集が少ないジェットミル粉砕が特に好ましい。また、粉末の凝集をさらに少なくするため、例えば、ジェットミル粉砕では、不活性ガス中に5vol%以下の酸素を導入して微粉化することが、ボールミル粉砕や媒体攪拌ミル粉砕等では、小径の粉砕ボール、あるいはステンレス鋼等ではなくジルコニア等の低比重のセラミックス粉砕ボールを用いて微粉化することができる。
【0054】
なお、母合金を窒化する前に粉砕する方法を詳述したが、本発明においては、これに限定されず、窒化後に粉砕する手段をとることもできる。
【0055】
(3)母合金の窒化工程
こうして場合により微粉砕された母合金は、公知の方法を用いて窒化することができる。
【0056】
本発明で用いる希土類−遷移金属合金粉末の窒化は、例えば、希土類−遷移金属合金粉をキルンに投入し、窒素ガス、またはアンモニア−水素混合ガスを導入して加熱する。特に、アンモニア−水素混合ガス中での窒化は、窒素ガスに比較し短時間で行えるため好ましく、キルンは静置で窒化する場合に比較すると、回転しながら窒化が行えるため均一な窒化ができる。窒化温度は250〜650℃の範囲が好ましい。250℃より低いと窒化速度が遅く、650℃を超えると希土類元素の窒化物と遷移金属に分解してしまう。
また、アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中に水素含有量が多く残留していると、磁気特性が低下するため、必要により真空加熱などの方法で十分に除去しておく必要がある。
【0057】
なお、上記希土類−遷移金属系母合金を粉砕処理して得られた合金粉末には、粉砕により生じた結晶の歪みが残留し、次の窒化工程においてα−Fe等の軟磁性相が発生する原因となる場合がある。α−Fe等の軟磁性相が発生すると保磁力や角型性が低下するため、さらに磁気特性を向上させるためには、得られた合金微粉末を、窒化処理に先立って、アルゴン、ヘリウム、真空等の非酸化性かつ非窒化性雰囲気中、600℃以下で熱処理し、結晶の歪みを除去することが好ましい。特に窒化処理と同時に400〜600℃で熱処理を行うと、処理コストを下げられるためメリットが大きい。窒化処理と同時の場合は、熱処理温度が400℃未満であると、残留する結晶の歪みを除去する効果が十分でなく、一方、600℃を超えると、合金が希土類元素の窒化物と遷移金属に分解するので好ましくない。
【0058】
2.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末
上記の方法によって得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、磁石合金に希土類元素の組成ばらつきがないことから、優れた磁気特性を有するものである。
【0059】
本発明において、磁石合金に希土類元素の組成ばらつきがないとは、還元物(母合金)を高さ方向に3分割して取り分けた上部、中部、下部の還元物を窒化して磁石粉末化した場合、それぞれの試料から希土類元素を分析し、得られた希土類元素量の最大値と最小値の差が0.3原子%以内である状態を言う。
【0060】
希土類元素は、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末において、合金材料に磁気異方性を発現させ、保磁力を発生させる上で本質的な役割を果たす。希土類元素は、磁石粉末中、少なくとも3〜20原子%とすることが必要である。3原子%よりも少なくなると、磁石合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなる。また、20原子%を超えると主相となる磁性相のほかに他相が生成し、主相体積が減少してしまい磁石の飽和磁化が低下するため好ましくない。本発明である高特性の磁石粉末を得るためには希土類元素の含有量を理論上、最も高い特性となる量に近づける必要があり、そのためには希土類元素の含有量を7〜11原子%にすることがさらに好ましい。
【0061】
磁石合金を構成する遷移金属は、磁石粉末の強磁性を担う基本元素であり、Fe、Co、Ni、Mnが一般的であるが、特に限定はされない。遷移金属として、特に好ましいのはFeであり、さらに磁気特性を損なうことなく磁石の温度特性を改善する目的で、Feの一部をCoで置換してもよい。これらの中では、磁石粉末に、少なくとも30〜83原子%含有することが必要である。30原子%より少ないと磁化が低くなり好ましくない。83原子%を超えると希土類元素の割合が少なくなりすぎ、高い保磁力が得られず好ましくない。遷移金属成分の組成範囲が65〜80原子%であれば、保磁力と磁化のバランスのとれた材料となり、本発明の高特性の磁石粉末が得ることが可能になり特に好ましい。
【0062】
窒素は、本磁石粉末において重要な役割を果たす元素であり、例えば、SmFe17母合金を窒化する場合、NはSmFe17単位格子当たり3個までであれば、結晶構造を壊すことなく格子を広げ侵入型として固溶する。この窒素の固溶により、強い一軸磁気異方性が発現するとともに、飽和磁化、キュリ−温度も上昇する。
【0063】
この磁石粉末の表面には、必要によりリン酸系化合物、あるいは各種カップリング剤などの表面処理剤で被膜を形成することができる。これにより、磁石粉末の耐候性が向上するので、ボンド磁石用組成物、およびこれを用いたボンド磁石の性能を一層優れたものとすることができる。
【0064】
3.希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物
本発明のボンド磁石用組成物は、基本的に、上記の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末とバインダー成分とを主成分として含み、必要により滑剤、安定剤などの添加剤を配合してなるものである。
【0065】
(バインダー)
バインダー成分としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型フッ素樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂などの熱硬化性樹脂;4−6ナイロン、12ナイロンなどのポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ふっ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0066】
本発明のボンド磁石用組成物は、上記磁石粉末にバインダーを配合した後、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、およびバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して混合し、混練することによって得ることができる。
【0067】
4.ボンド磁石
本発明のボンド磁石は、上記ボンド磁石用組成物を圧縮成形または射出成形の成形方法によって得ることができる。
【0068】
(成形方法)
成形方法としては、熱硬化性樹脂を用いる場合は圧縮成形または射出成形を用いることが好ましい。圧縮成形の場合はボンド磁石全重量に対する樹脂量としては1〜5重量%、射出成形では樹脂粘度の調整や金型の温度等の最適条件を選択する必要があるが、7〜15重量%が好ましい。また、熱可塑性樹脂を用いる場合は射出成形を用いることが好ましく、樹脂量としては5〜20重量%が好ましい。
【0069】
圧縮成形の場合は、例えば前記混合比で加圧ニーダー装置を用いて混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用い、金型に800kA/m(10kOe)以上の磁界を印加しながら4ton/cmの圧力でプレス成形する。
【0070】
また、射出成形では、例えば前記混合比で加熱加圧ニーダー装置を用いて混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用い、混合物を210℃以上に加温したシリンダー中で溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形する。
【実施例】
【0071】
次に、実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0072】
<磁気特性>
得られた磁石粉末試料の磁気特性は、次のように測定した。まず、磁石粉末をパラフィンと混ぜてサンプルケースに詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業製)を用い、ヒステリシスループを描かせた(最大印加磁場1190kA/m(15kOe))。
射出成形ボンド磁石に関しては、cioffi型自記磁束計(東英工業(株)製)を用いて磁気特性を測定した。
【0073】
(実施例1)
原料として、純度99.4%のSm((株)トーメン製)、純度99.5%の電解鉄(Hoganas製)、純度99.3 %(ミンテックジャパン(株)製)のCaをSmFe17合金が得られる割合で混合機を用いて混合し、これを原料混合物とした。次に、この原料混合物よりもSmの使用量を増やして、Sm量が5原子%多い過剰希土類混合物(調整用原料)を調製した。そして、図2のように、この過剰希土類混合物を還元拡散用の反応容器の底に均一に入れ、続いて上記Sm、Fe、Caの原料混合物を入れた。なお、過剰希土類混合物は、Sm量が原料混合物を含めた全体の20%になる量を入れた。
この反応容器を還元拡散容器に入れた後、図1のように電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換し、アルゴン流量0.5〜1L/分、1200℃で8時間保持し、希土類酸化物を還元しFe中に拡散させSm−Fe母合金(還元物)を製造した。
その後、この還元物を上部、中部、下部の3つになるように略等間隔で切断し、取り分けた後に水素処理を行った。そして各還元物1kgを10Lの水とともに水槽に入れ、10分攪拌後、上澄みを抜き、この作業を10回繰り返してCaを除去した。その後、アルコールでデカンテーションし、真空中100℃で5時間乾燥し、Sm−Fe合金粉末を得た。上部、中部、下部のそれぞれの還元物で同様にSm−Fe合金粉末を製造した。
次に、上記3種類の合金を篩目開き104μm(150メッシュ)で篩い、アンモニア−水素混合ガス中、480℃で8時間、窒化処理を行い、Sm−Fe−N合金を製造した。さらに、この合金1kgをアトライター(三井鉱山(株)製)に入れ、アルコールを溶媒として用い、200rpmで2時間粉砕を行った。その後ろ過し、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)で攪拌しながら真空加熱乾燥を行い、Sm−Fe−N微粉末を製造した。取り分けたそれぞれ上部の還元物、中部の還元物、下部の還元物を試料として、それらの磁石合金の組成を調べるとともに、その磁気特性を振動試料型磁力計で測定した。その結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
調整用原料を還元拡散用の反応容器の底に入れずに、他の条件は実施例1と同様の方法で合金を製造した。取り分けたそれぞれ上部の還元物、中部の還元物、下部の還元物を試料として、それらの磁石合金の組成を調べるとともに、その磁気特性を振動試料型磁力計で測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
Sm量を30原子%多くした過剰希土類混合物を用意し、これを還元拡散用の反応容器の底に入れ、他の条件は実施例1と同様の方法で合金を製造した。取り分けたそれぞれ上部の還元物、中部の還元物、下部の還元物を試料として、それらの磁石合金の組成を調べるとともに、その磁気特性を振動試料型磁力計で測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
「評価」
実施例1は、Sm量のばらつきが小さく磁気特性が高いことが分かる。特に、下部の還元物で製造した試料(1−C)は、実施例と同様に下部の還元物で製造した比較例1、比較例2の試料(1−c、2−c)の場合と比較して、Sm量が実施例1の上部、中部(1−A、1−B)とほぼ同じ値となっており、磁気特性も非常に高い値を示していることがわかる。
【0078】
(実施例2、3)
原料として純度99.4%のSm((株)トーメン製)、純度99.5%の電解鉄(Hoganas製)、純度99.3%(ミンテックジャパン(株)製)のCaをSmFe17合金が得られる割合で混合機で混合した。同様にSmとCaの調整用原料を準備し、還元拡散用の反応容器の底にSmとCaの調整用原料を入れた。調整用原料の希土類元素の含有量は、原料混合物と調整用原料との合計量の5原子%とした。続いて、Sm、Fe、Caの原料混合物を入れた。この反応容器を電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換し、アルゴン流量0.5〜1L/分、1200℃で8時間保持し、希土類酸化物を還元しFe中に拡散させ、Sm−Fe合金の還元物(実施例2)を作製した。
その後、この還元物を上部、中部、下部の3つに取り分け、実施例1と同様の方法で上、中、下のそれぞれの還元物でSm−Fe−N微粉末を製造した。これら試料の磁石合金の組成を調べ、磁気特性を振動試料型磁力計で測定した。その結果を表2に示す。
一方、反応容器の底にSmとCaの調整用原料に代えて、Smメタルを入れ、他の条件は実施例2と同様の方法で合金を製造し、実施例3の合金を得た。
【0079】
【表2】

【0080】
「評価」
実施例2、3は、比較例1と比べ、Sm量のばらつきが小さく特性が高いことが分かる。特に、下部の還元物で製造した試料(2−C、3−C)が、同様に下部の還元物で製造した比較例1の試料(1−c)よりSm量が上部、中部とほぼ同じ値で特性も非常に高い値を示している。
【0081】
(実施例4〜6)(比較例3、4)
実施例1〜3、及び比較例1、2で作製した磁石粉末(91.3重量%)と、熱可塑性樹脂(PA12(宇部興産(株)製))を8.7重量%の割合で混合し、ナカタニ混練機(ナカタニ製)を用いて190℃で1パス混練し、その後、シリンダー温度210℃、成形圧力1tonでφ20×13mmの形状に射出成形した。得られた射出成形ボンド磁石の磁気特性を表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
「評価」
比較例3、4に対し、実施例4〜6は、容器の上下位置によるばらつきが小さく磁気特性が高いことが分かる。下部の試料である実施例4〜6の(1−C、2−C、3−C)は、同様に下部の試料である比較例3、4の(1−c、2−c)に比較し、特性が上部、中部と変わらず高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】還元拡散容器を電気炉内に設置した反応装置の全体図である。
【図2】原料混合物を導入した還元拡散用の反応容器の断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 反応容器
2 蓋
3 希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び希土類酸化物を還元するための還元剤を含有する原料混合物
4 調整用原料
5 煉瓦
6 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び希土類酸化物を還元するための還元剤を含有する原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入し、非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金を得た後、窒化処理して、希土類元素の含有量のばらつきが抑制された希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する方法であって、
原料混合物を還元拡散用の反応容器に導入する際に、その底部に、予め、(a)希土類金属、(b)希土類酸化物粉末と還元剤との混合物、又は(c)希土類元素の含有量が原料混合物よりも1〜30原子%多い希土類酸化物粉末、遷移金属粉末および還元剤の混合物から選ばれる調整用原料を装填してから、次いでその上に原料混合物を装填することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
原料混合物に含まれる希土類元素の含有量は、7〜11原子%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
調整用原料に含まれる希土類元素の含有量は、原料混合物と調整用原料に含まれる希土類元素の合計量に対して、2〜40%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
【請求項5】
希土類元素の含有量が、3〜20原子%であることを特徴とする請求項4に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
【請求項6】
希土類元素の含有量のばらつきが0.3原子%以内であることを特徴とする請求項4又は5に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、樹脂バインダーを混合して得られるボンド磁石用組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形により成形してなるボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−9074(P2006−9074A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185962(P2004−185962)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】