説明

希土類磁石の製造方法

【課題】希土類磁石を結晶配向させるための熱間塑性加工を積極的に利用して、磁束密度を高めながら、同時に、保磁力も高めることができる、希土類磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】R−T−B(R:希土類元素、T:FeまたはFe+Co)の組成を有する希土類磁石材料の粉末に、金属または合金のフッ化物を添加混合し、得られた混合粉末を成形加工してバルク体とした後、熱間塑性加工を行なう方法であって、
Rの含有量を28〜33質量%とし、熱間塑性加工を550〜800℃で行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム磁石に代表される希土類磁石の製造方法に関し、詳しくは、高い磁束密度を確保しつつ保磁力を高めた希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(NdFe14B)で代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられている。高い磁束密度を実現するために、熱間塑性加工を行ない磁化容易軸を配向させることが必要である。しかし、熱間塑性加工を行なうと、保磁力が低下してしまうという問題があった。
【0003】
特許文献1には、Nd−Fe−B等の合金粉末と、DyFと、Ca等の単体または水素化物との混合粉末を成形した後、熱間塑性加工を行なう磁石の製造方法が開示されている。熱間塑性加工により、重希土類元素(Dy)が結晶粒界に拡散して、温度上昇による保磁力と残留磁束密度の低下が抑えられるとされている。しかし、実際に磁石を製造した実施例が開示されておらず、具体的に示されていない。
【0004】
特許文献2には、R−T−B(R:希土類元素、T:Fe(またはFe+Co))希土類合金粉末に重希土類元素のフッ化物とアルカリ土類金属の水素化物を混合し、熱間成形した後に熱処理を行なう希土類磁石の製造方法が開示されている。熱間成形と熱処理によってRリッチ粒界相に重希土類元素が拡散して、高保磁力を実現するとされている。しかし、熱による拡散であるため、粒界に十分にいきわたらせることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−103346号公報
【特許文献2】特開2010−027852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、希土類磁石を結晶配向させるための熱間塑性加工を積極的に利用して、磁束密度を高めながら、同時に、保磁力も高めることができる、希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、R−T−B(R:希土類元素、T:FeまたはFe+Co)の組成を有する希土類磁石材料の粉末に、金属または合金のフッ化物の粉末を添加混合し、得られた混合粉末を成形加工してバルク体とした後、熱間塑性加工を行なう方法であって、
希土類磁石材料のRの含有量を28〜33質量%とし、熱間塑性加工を550〜800℃で行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱間塑性加工により金属または合金のフッ化物が結晶粒界および変形すべり面に沿って磁石材料中に深く浸透し、磁気分断作用により磁気的な実効粒径を微細化するため、高い保磁力が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の熱間塑性加工による結晶組織および結晶粒界の変化を模式的に示す。
【図2】図2は、本発明の実施例において、熱間成形プレスおよび熱間塑性加工を行なう状態を模式的に示す。
【図3】図3は、熱間塑性加工温度に対する保磁力の変化を示す。
【図4】図4は、希土類磁石材料のNd量に対する保磁力(バルク化後および熱間塑性加工後)の変化を示す。
【図5】図5は、DyFの添加量に対する保磁力(バルク化後および熱間塑性加工後)の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造プロセスの典型的な構成を説明する。
<希土類磁石合金粉末の準備>
本発明の方法では、R−T−B系希土類磁石合金の粉末を用いる。
【0011】
Rは希土類金属であり、望ましくはNdやPr、あるいはそれらの中間生成物であるDi(ジジム)である。更に、Dy等の重希土類元素が含まれてもよい。磁気特性の評価指標となる保磁力と残留磁束密度の両立という観点から、本発明のR−T−B系希土類合金においてR(希土類元素)の含有量は28〜34質量%であることが望ましい。本明細書中において、特に断らない限り、含有量を表す「%」は「質量%」の意味である。
【0012】
R含有量が28質量%未満では、結晶すべりによるRリッチ相の浸透メカニズムが得られず、保磁力の明瞭な向上が得られない。R含有量が34質量%を超えると主相率が低下し、高い残留磁束密度が得られない。
【0013】
粉末粒径は一般に2mm以下程度でよいが、200μm以下が望ましい。
【0014】
粉末の製造方法は特に限定しないが、一般に下記の方法による。
【0015】
R−T−B系希土類磁石合金組成に配合した合金原料をAr等の不活性雰囲気中で溶解する。この溶湯を回転冷却ロール表面に射出して急冷し、合金薄片を得る。得られた合金薄片をAr、N等の不活性雰囲気中でカッターミル等にて粉砕し所望の粒径とする。
<添加する金属または合金のフッ化物>
上記のR−T−B系希土類磁石合金粉末に添加する金属または合金のフッ化物としては、下記(1)〜(3)を用いることができる。
【0016】
(1)希土類金属のフッ化物、特に、DyF、TbF、HoF、NdF、PrFの少なくとも1種が望ましい。
【0017】
(2)遷移金属または典型族の単体または合金のフッ化物、特に、CuF、AlF、CuAlFx、MnFの少なくとも1種が望ましい。
【0018】
(3)希土類金属と、遷移金属または典型族との合金のフッ化物、特に、NdAlF、NdCuF、NdAlFx、NdCuFx、PrCuFx、PrAlFx、NdMnFx、PrMnFxの少なくとも1種が望ましい。
【0019】
上記金属または合金のフッ化物の添加量は、該金属または合金に換算した量で、上記混合粉末の0.4質量%以上であることが望ましい。
<バルク体に成形>
上記のR−T−B系希土類磁石合金粉末に、上記の金属または合金のフッ化物の粉末を添加した混合粉末を成形加工してバルク体とする。この成形加工は、粉末をバルク体化することを目的とし、減圧雰囲気、Ar雰囲気等の非酸化性雰囲気中において、500〜700℃で熱間プレス加工等により行なう。加工量は50%未満とし、実質的に結晶粒の配向が起きない程度とする。
<熱間塑性加工>
成形加工により得られたバルク体を熱間塑性加工する。この塑性加工は、結晶粒をC軸(磁化容易軸)方向に配向させることを目的とし、減圧雰囲気、Ar雰囲気等の非酸化性雰囲気中において、550〜800℃で熱間据え込み加工等により行なう。加工量は、50%以上とし、C軸配向を確保し、同時に、金属Rを含むRリッチ相を結晶粒界および変形すべり面に浸透させて、保磁力を向上させる。
【0020】
図1を参照して、本発明による保磁力向上のメカニズムを説明する。
【0021】
図1(1)は、熱間塑性加工前の結晶粒および結晶粒界の状態を示す。典型例として、結晶相はNd−Fe−B希土類磁石合金であり、添加したフッ化物DyFが粒界相中に存在している。結晶粒の方位は矢印で示したようにランダムな状態である。材料の周囲から誘導加熱等により所定温度に加熱した状態で、上下から圧縮して据え込み加工による熱間塑性加工を行なう。
【0022】
図1(2)は、熱間塑性加工後(据え込み加工後)の結晶粒および結晶粒界の状態を示す。矢印で示したように、結晶粒が圧縮方向にC軸配向している。このC軸配向により、高い残留磁束密度が得られる。
【0023】
図1(3)は、1個の結晶粒について、熱間塑性加工の進行(A)→(B)→(C)に伴う変形の状態を示す。加工の進行に伴い結晶粒がすべり面((A)の破線)に沿って変形し、結晶粒を取り巻くフッ化物がすべり面にも浸透していく。このように結晶粒と変形すべり面とをフッ化物が被覆して、磁気分断作用により磁気的な実効粒径を微細化するため、高い保磁力が達成できる。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
下記の手順および条件にてNd−(Fe、Co)−B希土類磁石を製造した。
【0025】
<Nd−(Fe、Co)−B希土類磁石合金粉末の準備>
27〜34Nd−3.5Co−0.9B−0.6Ga−残部Feの組成を有する希土類磁石合金の原料を所定量配合し、Ar雰囲気中で溶解した。0.6質量%のGaは保磁力確保のため添加した。得られた溶湯を溶解炉のオリフィスから、Crめっきした銅製回転冷却ロールのロール面に射出して急冷し、合金薄片を製造した。
【0026】
この合金薄片をAr雰囲気中でカッターミルで粉砕および篩分けし、粉末粒径2mm以下の希土類合金粉末を得た。この粉末の酸素量は800ppmであった。
【0027】
<フッ化物の添加>
上記の希土類合金粉末9gに、平均粒径が約10μm以下のDyF粉末をDy換算で0〜1.2質量%の種々の量を粉末混合機で30分混ぜ合わせた。
【0028】
<バルク体に成形>
先ず、図2(1)に示すように、得られた混合粉末を、内径φ10mm、高さ17mmの容積の超硬合金製金型内に装入し、上下を超硬合金製ポンチで封止した。
【0029】
次に、図2(2)に示すように、このアセンブリを真空チャンバ内の高周波コイル内にセットし、10−2Paに減圧し、高周波コイルで加熱して600℃に達したらすぐに100MPaでプレスした。加圧した状態で30秒保持した後、真空チャンバ外で金型からバルク体を取り出した。得られたバルク体は直径φ10mm×高さ10mmであった。
【0030】
<熱間塑性加工>
次に、図2(3)(A)に示すように、上記のバルク体を内径φ20mmの超硬合金製金型内に装入し、上下を超硬合金製ポンチで封止した。このアセンブリを、図2(2)の場合と同様に真空チャンバ内の高周波コイル内にセットした。そして、図2(3)(B)に示すように、高周波コイルで550〜850℃の範囲の温度まで加熱し、加工率60%で熱間据え込み加工を行なった。
【0031】
バルク化後および熱間塑性加工後に保磁力および残留磁束密度を測定した。
【0032】
表1に、製造条件として、希土類合金粉末のNd量、DyFの添加量、バルク化温度、熱間塑性加工温度を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表2に、バルク化後および熱間塑性加工後の保磁力および残留磁束密度を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
図3に熱間塑性加工温度と保磁力の関係を、図4に希土類磁石材料のNd量に対する保磁力(バルク化後および熱間塑性加工後)の変化を、図5にDyFの添加量に対する保磁力(バルク化後および熱間塑性加工後)の変化を、それぞれ示す。
【0037】
これらの結果から、バルク化後に比べて熱間塑性加工後の方が、保磁力が向上していることが分かる。
【0038】
更に図3から、熱間塑性加工温度Tは550℃<T≦800℃が適当であることが分かる。
【0039】
図4から、希土類磁石材料のNd量を28質量%以上とすることにより、バルク化後に比べて熱間塑性加工後の保磁力が特に顕著に向上することが分かる。
【0040】
図5から、DyFの添加により、バルク化後に対する熱間塑性加工後の保磁力の優位性が顕著になり、添加量が多いほどその傾向は大きくなることが分かる。特に、DyFの添加量が0.4%以上になると、熱間塑性加工の作用効果が明瞭になる。
【0041】
〔実施例2〕
添加フッ化物としてCuF+AlFを用いた場合をDyFの場合と比較した。
【0042】
31Nd−3Co−1B−0.4Ga−残部Feの組成(一定)を有する希土類磁石合金の原料を所定量配合し、Ar雰囲気中で溶解した。0.4質量%のGaは保磁力確保のため添加した。フッ化物の添加量は金属量換算で0.8質量%(一定)とし、熱間塑性加工温度は680℃(一定)とした以外は、実施例1と同様の手順および条件とした。
【0043】
表3に製造条件を、表4に保磁力および残留磁束密度を、それぞれ示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
本発明はフッ化物の添加量が少ないにもかかわらず、大きな効果が得られている。これは適正なNdリッチ相の量と、熱間塑性加工の適正な温度による結晶すべりを有効に利用したことによる。結晶すべりによって、すべり面に重希土類のような結晶磁気異方性を大きくする元素やNdCuのように結晶粒間の磁気分断を促進する元素を浸透させることができたためである。すべり時にこれら元素の供給源となる適正なNdリッチ相が無いとこの作用効果は得られない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、希土類磁石を結晶配向させるための熱間塑性加工を積極的に利用して、磁束密度を高めながら、同時に、保磁力も高めることができる、希土類磁石の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B(R:希土類元素、T:FeまたはFe+Co)の組成を有する希土類磁石材料の粉末に、金属または合金のフッ化物を添加混合し、得られた混合粉末を成形加工してバルク体とした後、熱間塑性加工を行なう方法であって、
Rの含有量を28〜33質量%とし、熱間塑性加工を550〜800℃で行なうことを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記金属または合金のフッ化物が、(1)希土類金属のフッ化物、(2)遷移金属または典型族の単体または合金のフッ化物、(3)希土類金属と、遷移金属または典型族との合金のフッ化物のいずれかであることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
(1)希土類金属のフッ化物が、DyF、TbF、HoF、NdF、PrFの少なくとも1種、
(2)遷移金属または典型族の単体または合金のフッ化物が、CuF、AlF、CuAlFx、MnFの少なくとも1種、
(3)希土類金属と、遷移金属または典型族との合金のフッ化物が、NdAlF、NdCuF、NdAlFx、NdCuFx、PrCuFx、PrAlFx、NdMnFx、PrMnFxの少なくとも1種
のいずれかであることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記金属または合金のフッ化物の添加量が、該金属または合金に換算して上記混合粉末の0.4質量%以上であることを特徴とする希土類磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−142388(P2012−142388A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293431(P2010−293431)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】